神楽舞   作:天海つづみ

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あれから2日、

どうやら撃退は成功した様で里は無事

 

しかし砦はバリスタ3、速射砲1、

それらの建屋を残し全壊

 

修復したくても里はケガ人だらけになり、

2日かけて何とか全員を里まで運び終えた

 

「影!持って来たぞ!」

「ありがとうセキエン!助かる!」

 

 セキエンが米俵をガルクから降ろす

「早く砦再建しなきゃな」

 

「ハモンさんのケガが治らないとなぁ」

 ナカゴも武器防具の修復だけで手一杯だし

 

「影ー!」

「おう!風月!」

「よぉ!風月!」

 

 魚の干物や山菜を担いでいる

「里から持って来たぞ!」

「助かるよ」

「ウツシ先生達はどうしている?」

「ウツシさんなら屋根の上だし、里長は…ホラ」

屋根の上に全身包帯で見張りをするウツシ、

そしてタタラ場の横、左奥で全身包帯

だらけで素振りする里長

 

どうやら回復力も並外れてるらしい

 

「うむ、凄いな…あのケガで素振りとは…」

 しかもあの重い太刀、冷や汗の風月

 

「鍛え直すって言ってた」

 

 

三人でタタラ場に入ると多くの人が

寝かされている

「ちょうど良かった、三人で包帯作って、

終わったらゴハン炊いてね」

普段着で看護をしている天音に言われ布を裂く

 

うん、普段着の地味な着物姿も悪くない

「天音、一応二人は客だぞ?」

 

「良いんだ影、ココ広いな」

「うむ、手伝わせてくれ」

 

カムラの女衆の雰囲気が変わる

 

あの時の二人の行動を聞いたからだ

 

二人ともカムラの人間ではないのに

カムラを助けた

 

風月は怪我人を助け、防具を捨ててまで

影の為に太刀を届けた、

しかもカッコイイ

 

セキエンはバリスタを守る為に盾となり、

イブシマキヒコと戦った(実際は逃げ回ったが)

しかもトガシの里の跡取り

 

現在二人の株は爆上がり中で女達は

チラチラ盗み見る、と

 

 

「だから治ったって言ってんだろ!」

「骨折が2日で治る訳ないでしょ!!」

立ち上がろうとするヤクシをヨモギが止める

 

「へっ、情けねぇ、俺が春香に

運ばれるとはなぁ」

「フドウ、どうでもいいけど少し痩せろよ、

重てぇよ」

 フドウの頭の包帯を巻き直す春香

「中年の脂肪は落ちねぇんだよ」

 

「俺としたことが、情けない…」

 全身包帯で寝ているゲンジ

「アンタだってミスする事はあるんだよ」

 奥さんに言われている

 

奇跡的に死人は出なかったが、骨折、脱臼、

裂傷、瓦礫に埋まったり破片が刺さった人

 

 まるで野戦病院

 だが悲壮感どころか活気がある

 

「セキエン、風月、食料持って来て

大丈夫なのか?」

 

「ん、まぁ少しゴタゴタしたけどな」

「うむ、説得したぞ」

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

「なるほど、カムラに貸しを作る良い機会だな」

座敷の奥に座るトガシの里長 カイエン

大柄な体に着物、キセルを咥え、

顎を擦りながら考える

 

そして里の役職が並ぶ

 

「父上、今ならカムラを我がモノに

できそうですが?」

意見する少年、セキエンの弟で切れ者

同調する役職も居る

 

「セキエンよ、お前の目から見て今のトガシと

手負いのカムラ、どちらに軍配が上がる?」

 間髪入れず

「カムラの圧勝です」

連れの二人も頷くと役職達が眉をひそめる

 

「兄上、それほどまでに差があると?」

 弟に同調する役職も頷く

 

「親父殿、トガシでの俺の強さは

知っていますよね?」

 

「うむ、若手では中の上…と言った所だったな」

 そして調子に乗った

 

「その俺がカムラでは駆け出し以下です」

 その言葉に役職達も動揺する

「しかもカムラの若手は全員無傷、若手最強

と言われる者はラージャンにソロで挑める

レベルです」

 

「あぁ、確かそいつの名は…」

 

 

 

 

 

 

 

 ニシノの里

 

「ラージャンだと?!」

 ニシノの長老で里長 慈海

 白髪の長髪で痩せた老人

 

「間違いないのか?」

役職達も風月の言葉では信じられずに連れに聞く

 

「は!間違いありません!」

「速さは風月以上、その上力も並外れて…」

「体格、そして何より気迫が並みではなく…」

 

 

ラージャンといえばニシノならトップの

ベテランが『パーティー』で対応するレベル

 

「その者の歳と名は?」

 

「うむ、歳は22、名は春香殿です」

 風月は平然と答えるが

 

「にっ…22だと?!」

「まさか…女かっ?!」

「一人で戦えるだと?!」

 

「やはりな…行商人から聞いた事がある、

その他の若手も無傷なのだな?」

 慈海は思案する

 

 役職の一人が意見する

「一つ可能性があるなら…」

「あるなら?」

 

「トガシと同盟を組んで…」

 

 

 

 

 

 

 

「ニシノと同盟をしたところで無意味です」

「…なるほど、兄上の言う通りですね…」

 

「うむ、カムラに手出しは無用だな」

カイエンの言葉で全員黙る

戦争となれば双方に多大な損害が出る、

そこまでしてカムラの支配を望んだ所で…

 

 

 

 

 

 

 

「我々では百竜夜行に対応出来ん」

慈海の言葉に納得するニシノの者達

「今やるべきはカムラへの援助か…しかし

正式に援助の連絡があった訳ではないからな」

 

「ふむ、ではどうします?」

 

「風月、お前が仲間の為に持って行くなら

面目が立つ」

 

 

 

 

 

 

 

「つまり自分で用意出来る範囲…

って事ですね?親父殿」

 

「そうだ、『トガシから』ではなくお前

個人で持って行け」

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

「それってカムラに貸し作りたいのか?」

 

「分からないか影?俺達が持って来たモノ

は結局『呼び水』だ」

「うむ、正式に物資援助の依頼をカムラの

里長に出させたいのだ」

 

そして正式に『貸し』を作りたい、

少しでも優位に立ちたい

 

弱味につけこむ、これも里同士の政治か…

 

「で?お前らはカムラ支配したいか?w」

そんな気は無いことを分かっているが、

冗談混じりで聞く

 

「確かに鉄が取れる土地だけどなw

俺はココに移住する勇気無いぞw」

「禍群の名は伊達ではないなw」

「大体この前のイブシ…マキヒコ?の話したらな」

「うむ、カムラの支配どころではなくなった」

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

「ゴコク様、お粥です」

「すまん…ミノト…」

 ギルドの二階の座敷

 

「まったく情けない…こんな生き恥を晒すとは」

寝たまま動けないゴコク、背骨まで

ダメージを負ってしまった

 

「また元気になって貰わないとギルドの

運営と里の運営が滞りますよ?」

 ニコっと笑う

 

「イブシマキヒコの方はどうゲコ?」

 

「今は何も…ウツシ隊の軽傷だった

トウジさんが砦に残って見張りをしています」

 

「…あれからヒノエはどうしておる?」

 

「何だかウキウキしてましたが

落ち着きました…今は…」

 顔が暗くなる

 

「どうした?」

 

「あの一大事に役に立てなかった事を

悔やんでます」

 

「うむ、いつもならヒノエの明るさで皆の

やる気を取り戻すところゲコ」

 

「カムラが立ち直るきっかけが

あると良いですが…」

 

「皆どこかで分かっているゲコ

…実質は『惨敗』ゲコ」

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

「実質的にはカムラが一番矢面に立って、

俺の里守ってるようなもんだ」

「うむ、ニシノにとってもな、あの砦は

この一帯の守りでもありそうだ」

 今回それを痛感した

 

 影の家で米を炊く

 

「誉めても俺からは何も返せないぞ?」

 馴れた手付きで米を研ぐ影

 

 

 

 

 ………

 

 

 

 

「影!ゴハン炊けた?!」

「あぁ!良い頃だ」

 釜を開けると

「あー、ゴハン硬いじゃん!

だから今の季節は水の…」

 

((おぉ!もう尻に敷かれてるw))

 ニヤケる二人

 

「手伝いに来たよっ!」

「へぇ、結構広いんだねぇ」

「天音と二人でも余りそうだね」

「家より広いじゃないか!」

「ホラ!男衆!邪魔だよ!」

「ここなら炊事場に良いわ!」

 

「え?何で?あの…」

 戸惑う

「影、外に出てて」

 天音に押し出される

 

ヨモギや春香を始め女達に追い出された、

なぜか影の家が食事を作る場所になったからだ

 

タタラ場の隣で炊事場に丁度良いらしい

 

 外に出る

「何で自分の家から追い出されるんだよ…」

 

「何でってそりゃあお前w」

「うむ、既に実権は天音に有るようだなw」

 ニヤニヤする二人

 

「おい!」

 春香さんが何か持って出てきた

 

 ムカついてる様な顔で…

 

 なぜかセキエンの前で止まる

「……………」

 

 

 

 

 

 え?なに?なにこの間

 

 

 

 

 

 

「お、お前腹減ったら食え…帰るんだろ…」

 横を向きながら差し出す…

 

 

 照れている…のか…

 

 横を向いて…

 

 

 あの春香さんが恥ずかしそうに…

 

 

セキエンに大きくて歪な…

オニギリらしきモノの包み

 

固まる三人、家からはヨモギとワカナさん

がニヤニヤと見ている

 

 

 これは…まさか…

 

 

 みなぎる緊張感…

 

 

 春香さん…まさか…まさかセキエンを…

 

 

セキエンはカタカタ震えながら影に

アイコンタクトで

 

(え?…コレナニ?…ナニコレ?…マサカ?)

 

 影は

(し、知らない、俺知らない!)

 

 

 

「おい!いらねぇのかよ?!」

 恐い顔で

 

 

 (ヒィッ!…タスケテ……タスケテ)

 

 (無理無理無理無理!!)

 

「貰っておけば良かろう」

((風月!お前は黙れ!!))

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

「ではまたな」

 そう言うと船に飛び乗る風月

 

「干物ありがとうな」

「助かったよ風月さん!」

「また来る!」

 舟を漕ぐと早い、やはり本職は漁師

 

 

「じゃ…俺も帰るわ…」

肩を落とし青い顔でトボトボ歩く

セキエン、ガルクに乗る

 

結局受け取ってしまったのだ

 

「セキエン、その…あの…なぁ!」

本来なら冷やかす所だろう、イジる所だろう、

しかし…

 

「………またね!(汗)」

かける言葉が見付からない天音

本来なら祝福するべきだろう、

しかし相手があの春香

 

 走って行くのを見送りながら

「ねぇ、セキエンさんどうするのかな?」

「まさか春香さんがセキエンになぁ」

「明日には里中のウワサになるよね…」

「セキエン…もう来なくなったりしないよな?」

「そうなったら…それに…」

「どうした?」

 

「ヒノエ姉さん、こういうの大好物なのに

出て来なかったね」

「……顔出してみよう」

 

 

タタラ場の前まで来ると扉に手を掛けた

ままのヒノエがいる

「あ、ヒノエ様、入り辛いのか?」

「姉さん!」

 二人で駆け寄る

 

「天音、影君…」

影は初めて見る、ヒノエの暗い顔を

 

「…みんな待ってるよ姉さん」

 天音がヒノエの腕を引っ張る

 

「天音、私は…」

「そういうのいいから」

 前とは立場が逆転して天音が引っ張り込む

 

 と、タタラ場の中で歓声が上がる

「おぉ?!ヒノエ様!」

「今まで寝てたのか?!」

「ヒノエ様!俺のキズ診てくれ!」

「ヒノエ様!お粥喰わせて!」

「春香が巻いた包帯キツくてよ!

巻き直してくれ!」

「ヒノエ様!膝枕!」

「誰だ!?ドサクサに紛れて!」

 

 誰もヒノエを責めたりしない

「…っ!」

 涙を浮かべ顔を抑える

 

「ほら姉さん、仕事あるよ?」

 

 顔を拭くと

「そうね、皆しょうがないわね!」

 世話を始めるヒノエ

 

 

 

 

「やはりヒノエは笑っていないとな」

「里長」

 後ろに立っていた

 

「ヒノエ様ってやっぱり太陽みたいな

存在だな…」

「ちょっと!影ィ?」

ジト目

「あ、う?え?何でもない」

 

「ハッハッハァ!もう尻に敷かれてるのか!」

 

 

 

 

 

 

 




皆が暗い時
皆が黙った時
話題が途切れた時
間が持たない時
何か喋らないと落ち着かない時

引っくり返せる存在って憧れる
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