神楽舞   作:天海つづみ

35 / 59
ニシノの里

 

「着いたぞ、ここがニシノだ」

広い川幅で満潮の時は海水が遡上する

気水域、常に多くの魚が捕れ川辺には漁師

の家があり桟橋から舟で入る、

だから漁師町かと思っていたら奥は商家が

並びカムラよりも大都会

 

 貿易?とやらで裕福らしい

 

「これ干物の匂いだな」

「独特の匂いだね」

 キョロキョロする影と天音

 カムラよりも色彩豊かで活気がある、

 多くの商人が商談しているし露天も多い

 

「兄さん!食べてきな!」

 干物を串に刺して焼きながら売る店や

「お嬢ちゃんにどうだい!?」

 風車などオモチャを見せてくる

 

「うむ、俺はカムラに行った時は焦げ臭く

感じたぞ?」

タタラ場の匂いか

 

 

 何か俺達って…田舎者じゃね?

 

 

「…………」

 そして緊張しっぱなしの花梨

 

 

 

 …………

 

 

「ニシノへ?」

「うむ」

ギルドの二階の座敷、話すゴコクと里長、

そして影と天音

 

「俺が行っても良いんですか?」

「うむ、ゴコク殿はまだ遠出は無理だ、

それにワシも病み上がり、何より夜行が

起これば指揮する者が居なくなる」

 

「でも自信ありませんよ?」

交渉なんて出来るわけ無い、大体交渉とは

同格の人間がやること、

若手の狩人と里長では…

 

「そこは影だから可能なのだ」

 ニヤリとする里長

 

「!、そうか、照さんの貸しですね?」

 

「察しが良いのぉ天音、その通りゲコ」

「照の身内である影には話す可能性が高い、

ナルハタタヒメの情報を少しでも

集めたいのだ」

 

「でも他の里…自信無いです」

 

「風月はお前に恩義を感じておるし

悪くはならないゲコ」

「うむ、それと花梨も連れて行け」

 

「何で花梨ちゃん?!」

 

「まぁその方が色々と都合が良いかも

知れんゲコ」

 

 

 

 ………

 

 

 

「ここが集会所、あれが里長の家だ」

 風月に付いて歩くと

「風月あんちゃん!この人達だれ?」

「うわぁ!キレイ!」

「可愛い!!」

 子供達が寄って来る

 

「うむ、カムラからの客人だ、

失礼の無いようにな」

「分かったー!」

風月は子供達に好かれるようだ…

 

精神年齢が近いだけかも知れないが

 

大きな家に入る、太い柱、梁、高い天井、

土間から上がりズラリと並んだ襖の前へ

「風月です、客人をお連れしました!」

「うむ、入れ!」

 

襖が開くと30畳程の座敷に並んで座る10人

程の老人達、中央に白く長い髭に白い長髪、

良く日焼けした細身の老人が発する

「ニシノの里長、慈海じゃ」

シワだらけの顔でニンマリ笑うが、

他の老人達は無表情

 

三人は並んで一礼すると

「カムラから参りました影、天音、花梨です」

落ち着け、落ち着け俺、呑まれるな、

ナルガより恐くない

 

 内心ガクガクである

 

「まぁ座られよ」

 影を前に、後ろに二人が正座する

 

「ゴコク殿から手紙が来てな、

忌み島の事を聞きたいそうじゃな?」

 

「イミジマ?」

 

「カムラでは竜宮砦だったな、

して何が聞きたい?」

 

影は話す、イブシマキヒコの襲来、

別の個体の存在、そしてイブシマキヒコ

が今竜宮砦に居る事

 

「うむ、こちらとしてもイブシマキヒコ…

だったか、あれが今居るのは知っている」

 

「何かの記録がニシノに残っているなら

教えていただきたく」

 頭を下げる

 

「…他ならぬ照殿の弟の頼みであるしなぁ」

「照殿の!」

「おぉ!そうでしたか!」

 明らかに反応が良くなった老人達

 

 兄貴の名前でこうなるのか…

 でも死んだらなぁ…

 

「命を助けて頂いた恩義を返せなくては

義理を欠くと言うもの」

慈海は話す、数十年に一度竜宮砦の周辺の

海が大荒れになり漁が出来なくなる事、

最後は50年前になる事

 

その時二匹の巨大な影が島の上空に現れた事

 

3ヶ月程前に一匹現れたために

漁師は近付かない事

 

ついでにカムラの舟が通行、上陸する事に

口出ししないのは魚を取らない事を条件と

していること

「ニシノで記録されているのはこんな

所じゃな…して影殿」

 

「?、なんでしょう?」

 

「後ろの方は…嫁御かな?」

 ニンマリと笑う慈海

 

「は、はい!」

反射的に言う影、そして真っ赤になる二人

 

「そうであったか、では里を見て回られよ、

夕食の仕度をさせようw」

 

 影達は出て行くと

 

 

 

「あんな美人とはなぁ…」

「やられましたな…」

「あれでは目移りするかどうか…」

 老人達は話し込む

 

本当のところは影自身をニシノへ引き抜く

ために里の娘を何人か見繕っていた、

風月の報告で美人の婚約者が居ることは

知っていたが、まさか山奥の田舎のカムラ

にあんな美人が居るとは

「女を使えないとなれば…」

「金か地位じゃの…」

 

「ところで風月よ、もう一人の子供は

嫁御の妹か何かか?」

 

「花梨ですが?」

 正座で首を傾げるイケメン

 

「だからその花梨とは何者だ?」

 

「ですから花梨ですが?」

「ええい!だから誰だと聞いとるんじゃ!」

 

 一通り説明すると

 

「…………っ!!!」

「まさか!」

「何だと?!」

「あの花梨じゃと?!」

「あの孤児のか?!」

「全然違うではないか!!」

 

「しまった……やられた…」

 目頭を摘まむ慈海

 

「どうされた里長?」

「慈海殿?」

「そういう事か…」

 

ニシノが支配していた里、つまり税を

取っていた里、税を取るならば守るのは

当然でありニシノにはギルドまである

 

にも関わらず花梨の里を守れなかった

 

そこまでは仕方ないにしても、生き残りを

保護するどころか除け者に

 

ついさっき『恩義』や『義理を欠く』など

と言っておきながらだ

 

 カムラは

『ニシノが『義』を欠いた証人がカムラの

手の内にある』と言って来たのだ

周辺の里に知られればニシノの体制が揺らぐ

 

「手土産一つ無く来た理由はこれか…」

「いや、今からでも遅くはあるまい!」

「花梨を迎え入れるならば汚点には

なりますまい」

 

「風月!なぜこんな大事な事を報告せなんだ!」

 

「大事?なのですか?」

 不思議そうにするイケメン

 

そうなのだ、風月は複雑な事など考えない、

だからバカに見られる

だからこそ他の里に入っても皆油断し

平然と過ごせる、次期里長と見られる

ウツシから直接手ほどきまで受けている

 その風月の個性が裏目に出た

 

 

 …………

 

 

 露店で焼き魚を食べる影と天音

「へぇ、サバってこうやって喰うと旨いな」

「ちょっと!一口頂戴よ!」

 サンマを齧る天音

「自分の喰えよw」

 

 しかし花梨はうつ向いたまま

 

「どしたい!お嬢ちゃん!サバが嫌なら

サンマはどうだ?!鮎もヤマメも

何でも良いぜ?!」

焼き魚を売っているオジサンに話し掛けられた

 

花梨は天音の手を握ると歩き出す

「ちょっと、何……!」

「どうした?」

三人で歩くが天音は気付いた、花梨が

震えているのだ

 

 川沿いまで来ると

「…怖かったのね」

 天音が言うと無言で抱き付く花梨

 

しまった、珍しいニシノに気を取られた、

普通の子供ならハシャいで走り回るだろう、

だけど花梨にとっては逃げ回った里だった

 

さっきのオジサンとかにも

追い回されたんだろう

 

 ギュッと天音にしがみつく

「大丈夫、怖くないからね」

 頭を撫でる天音

 私こんな子供に嫉妬したのか

 

なぜゴコク様は花梨も一緒に来させたんだ?

影にはまだ駆け引きなど分からない

 

 

 

 …………

 

 

 

「さぁさぁ、ニシノは海の幸に

恵まれてますぞ!」

さっきの座敷で夕食が振る舞われた

 

お膳が並べられ金細銀細の食器や漆器が並ぶ

知識があるものならそれだけで

ニシノの力が解るが

 

「天音、コレって」

「うん、生海苔だよ、良い香り」

カムラでは魚は行商人から手に入るが、

刺し身や生海苔、海藻類など生のものは

滅多に食べられない、

だから食器は目に入っていない

 

「ほう、海苔が気に入られたかな?」

「はい、生海苔は行商人も余り持って来て

くれません」

「こっちはいつものパリパリしたやつだ」

 喜ぶ影と天音

 

 老人達は内心笑う

 『ぬるい』

 ただの子供と油断し酒を飲み始める

 

 しかし慈海だけは

『本当に子供の使いではないか、

コイツらは自分が脅していることさえ

解らんだろうな』

 

 

里の若い娘が次々に料理を持って来る、

本来ならこの娘達で影を籠絡する算段だった

 

「おや?花梨殿は食が進みませんな?」

 一切料理に手を付けず下を向いている

 

「!、………ですか…」

 

「?」

「花梨ちゃん?」

 

「なぜ里を…助けてくれなかったのですかっ!」

 泣きながら慈海を睨む花梨

 

 !!!

二人とも今更気付く、最初からその話に

なっていないとおかしい、

花梨が変わったからニシノは

気付かなかったのか?

 

「…」

慈海は箸を置く、落ち着いて花梨を見据える

 

慈海は花梨の正体を知った、

 

そしてその態度から花梨は自分が誰なのか

知られたのを感じた

 

 暫し見合うと

 

「あの時 間に合わなかった事は…」

 

「花梨は…人が噂していたのを…聞いてます」

 グシャグシャの顔で

 

明らかに老人達の顔色が変わる

 

その空気に少し身構える二人、

ニシノは何かを隠している

 

「外国の…大きな商船が来るから…

儲かるから…」

「!」

「!」

影と天音の空気も変わる

これだけ聞けば十分、ニシノは支配下の

里の守りよりも金儲けに走ったのだ

 

「本当なの?」

 慈海を睨む天音

 

「それは理由が」

「本当なのかって聞いてんのよ!!」

 立ち上がる天音!

「天音っ!!」

 

「まぁ座られよ…」

慈海は話す、それは事実ではあるが

続きがある

 

その商船が近くに来た時、忌み島の周辺

に落雷が頻発、しかも漁師から忌み島の

辺りで大きなモンスターの影を見たと

多数の報告があり、ハンター全員を警戒、

護衛のため川下や河口に配置、川上に

あった花梨の里まで手が回らなかった

 

「それで?」

 天音は睨んだまま

 

「天音、おちつ」

「影は黙ってて、今の話は分かった、けど

花梨ちゃんを保護しなかったのは何故よ?」

 

 老人達が

「こんなに可愛らしくなるとは思って

おらんかった!」

「そうそう!これなら貰い手も

見付かるじゃろう!」

「我々ニシノの里で喜んで引き取ろう!」

 笑いながら言うが

 

 

 貰い手?

 

 貰い手だと?

 

「花梨は…モノじゃない」

 立ち上がる影

「花梨はカムラの花梨だ!」

 

「見た目が良くなったから引き取ろう

なんて図々しいわよ!」

 立ち上がると

「花梨ちゃん!『帰る』よ!」

 天音は花梨の手を取る

 

 

「竜宮砦の話、ありがとうございました、

では失礼します」

影は一礼すると出て行く、天音と花梨も続く

 

 

 

 …………

 

 

 

帰りの舟を漕ぐ影、月と星が写る穏やか

な流れを遡上する

 

「怒らせちゃったか?」

今更影は怖じ気付く

やべぇよなぁ、里長とゴコク様にも怒られる

 

「怒らせとけば良いのよ!!」

花梨を抱いている天音

「可愛くなったから寄越せなんて冗談じゃない!」

私達と同じ四年、花梨はどれだけ悔しい

思いをしたのか、

なのに今更貰うなんて侮辱だ

 

 

 

「あの…」

 花梨が顔を上げて

 

「花梨はお腹が空きました」

 

 !!!

 

そういえば花梨だけ朝から何も食べていない

 

 爆笑!

 

「そ!そうだな!速く帰って

何か食べような!!」

 

「アハハハハハッ!!な!何食べたい?!」

 

「ウサ団子!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




交渉とか、せめぎ合いとか大好き

自分じゃまだまだ書けないけど
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。