神楽舞   作:天海つづみ

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ブランド

 

「お早う」

「お早う」

布団に座りお互いに正座で挨拶する、

そしてようやく気付く、明らかに緊張が

解けて居なかった

 

同棲前はイジられてギャーギャー

言いながら起きていた、それに比べたら

他人行儀になっている

 

「……何か変だよな」

テレる

「…ん…おかしいよね?」

こっちもテレる

 

 距離…離れてた

 

「これ変えた方が良いよな」

「『そっち』説まで流れたしねw」

「じゃあ…」

 

 

 ………

 

 

 

 

「ちょっと…良い?」

家を出ると同時に影の腕を掴み…引き寄せる天音

真っ赤になる

 

「あ、あぁ」

緊張する、正式に同棲前は自然に出来た

ハズの事が

 

 浴衣の時なんて…なぁ

 こっちも赤い

 

そうだよ、『今日から全OK!』になって

正直戸惑ってたんだよ

 

 

「じゃあこの際…」

二人で深呼吸して歩き出す

 

 

 

「あれ?お前ら雰囲気違うな」

 ミハバに呼び止められた

 

「そお?」

影の腕にくっついた天音、

もうこの際、思い切りベタベタして影の

疑惑を晴らす事にした

 

「歩きにくいんだけどなw」

浴衣ならともかく装備着てては

 

「なら軽い装備造るか?今度は有料だぜ?」

「普通友達価格で安くしないかw」

「バカ言うな!寂しい一人者だぜw

逆に何かくれよw」

三人で笑い合う

 

この空気、そうだよ、いつもこうだったんだよ

 

「あらぁwうふふふw」

ニコニコしているヒノエ

 

「何?姉さん?」

「んー、…なんでもwうふふふw」

何か勘違いしてないか?

 

 

ギルドに入ると…

 

 

誰?

 

「あ、よろしくー」

入り口でいきなり声を掛けられた

健康的に日焼けした細身、背が高く

モデル体型、割りと美人かも

 …胸が…

 

「おお影、天音、良いところ」

「アタシさ、ニシノから来たんだ、よろしくー」

ゴコクの声に被せて遠慮なく喋る

 

「あの?誰で」

「アタシ七海ー(ナナミ)」

また被せる、遠慮とか緊張とかが無い、

他の人にも挨拶して廻る

 

初めて来るだろう場所なのに遠慮も

緊張も感じられない

 

「ニシノの里長、慈海殿の孫の一人でな…

なんと言うか…見た通りゲコ」

 

「大雑把…みたいな感じが…」

 

「と言うかなぁ」

手紙をヒラヒラさせる、

ニシノの慈海の手紙だそうだが、内容は

孫娘に勉強させるため、近い内にそちらへ

行かせるとの文章

 

「近い内に?」

天音は耳を疑う、本人がソコに居るが?

 

「この手紙を持って本人が来たゲコ」

疲れた顔のゴコク、

どうやらマイペースな女性らしい

 

「七海ではないか!」

「お、風月、久しぶりー」

 手をヒラヒラさせる

 

「なぜお前がここに居るのだ?」

「何よ?ダメだっての?」

「長老がよく許したな?箱入りだろう?」

「何よ?文句あんのー?」

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

「困ったヤツなのだ、

誰にでも偉そうに喋るのだ」

 お前が言うな

「長老の直系だからあまり強く言えないのだ、

セキエンのようにな」

 お前は関係無くしゃべるのな

 

今日はイズチ狩り、里の周辺で増えている

メンバーは影、天音、風月、そして

 

「何でアタシが雑魚狩りー?」

七海がいる

 

理由はゴコクから

「影、一緒に行って様子を見るゲコ」

と言われてしまった

 

「ねーつまんない、他にやることないのー?」

「あの、七海…さんの事…」

天音が言い掛けると、また途中で

「アンタ可愛いよねー、

ジジイ達の言った通りだー」

 

「えっ?」

突然天音の手を捕ると

 

「ニシノにファン多いよ?あんたら

夫婦なんだって?」

ニコニコよく笑う

 

「いや…夫婦って言うか…」

テレる影

「そうです、夫婦です!」

これ見よがしに腕を掴む天音

これ以上『そっち』だと思われてたまるか

 

「ふーん…」

その様子を不思議そうに見る

 

「大体なぜカムラに来たのだ?」

「ジイチャンが行けって言うからさ」

二人で並んで歩くと、二人とも背が

高くてお似合いだが

 

「男探しに来たんだー」

ニッと笑う

 

「男?!」

影と天音がハモると

 

「ニシノってさ、ろくな男居ないんだー、

コイツみたいに」

親指で指す

 

「お前の性格が災いしているのだ」

いや、お前が言うなよ

 

 

素早く最後の一頭を斬り伏せる、

と、手早く剥ぎ取る

 

間違いなく狩りの腕は良いようだ

片手剣がキチンと型通りに出来ている

 

「凄いですね、返り血がぜ」

天音に被せて

「アタシ返り血嫌いなんだー」

天音の双剣、風月の片手剣はリーチが短い

ためどうしても装備についてしまう

 しかし

七海のレイアシリーズにはあまり付いていない

 

これだけでも解る、手練れだ

 

「…強いですね」

装備を見ながら影が言うと

 

「えー?わかるぅー?」

ニヤリと笑う、

今までの軽い笑いと違い含みがある

 

「風月、お前より七海さん強いだろ?」

 

「む?半年位でレイアを狩った強者

なのだがな、その時の歳は確か…」

 

「14、そのあとジイチャンが強いクエスト

行かせるなって言ってさー、ドスフロギィ

とかアオアシラばっかりで、ほとんど

引退状態だったんだー」

 ニヘラと笑う

 

「なのにそれだけの腕を?」

天音には鈍っているようには見えなかった

数年もハンターから離れていて鈍らないのか?

 

「あれ?wなにー?アタシ誉められてんの?w」

 

 

 

 …………

 

 

 

 

「なるほど、男と…自由と言った所かのぉ?」

考えるゴコク

 

「慈海殿は春香とセキエンの婚姻に

危機感…といった所か…やはり密命を帯びて

来ているとしか…」

同じく里長

 

「でもそれなら『男』とハッキリ

言ってしまいますか?」

政略結婚狙うなら普通隠すよな?

 

タタラ場前で報告する二人

 

「あの自由な性格が演技かどうか

解ると良いが…」

「風月の反応で解るゲコ?」

 

「風月は特に何も」

「いつもと違うとか言わなかったよね?」

 

「うむぅ、風月は当てにならんゲコ」

 

「まぁ報告待ちだな」

 

 

その頃カムラから下流、少し離れた山の中

「ピイィィー!」

「大人しくしろ!」

木の天辺から飛び一羽のフクズクを

捕まえるトウジとアヤメ、このフクズクは

狩りの最中に七海が飛ばした

 

実はトウジとアヤメが七海を監視していた

「ちょっ!暴れるな!」

「ハイハイ、ちょっと見せてねー」

脚から文を取る、封もせずに縛ってあるだけ

 

「まったくセコいマネしやがって」

優しくフクズクを抱くが、しかめっ面のトウジ、

見え透いたスパイ行為だ

 

「どれどれ」

どうせギルドで調べた事が…

 

手紙を開くとそこには

 

 

 『着いた、イイ男居ない』

 

 

二人ともヘナヘナと力が抜け樹から

滑り落ちそうになる

「ね、ねぇ、炙り出しとかじゃないのコレ?」

「たて読みもできないしな…」

 

「なにか、なにかないのコレ?」

 裏返したり色々やってみるが

 

「まさか本当に気まぐれで来たのか?」

 首を傾げるトウジ

 

 

 

 …………

 

 

 

「へー、やっぱりアンタ凄いんだー」

ギルドのテラス席、影と天音から

百竜夜行の話を聞く七海

 

「影は出世も早くてな、中堅と認められたぞ?」

 

「風月さー、悔しいとか無いワケ?

年下なのに凄いじゃん影ってー」

 

「む?仲間が強くなるのがなぜ悔しいのだ?」

 

「アンタ見てると色々不安になるわー、

イケメンなのに勿体ない…」

 首を振る

 

内心同意の二人

 

そこにギルドの男ハンター達が寄って来る

 

「なぁ、七海さんの事教えてくれよ」

ハネナガ達が輪を作る

 

質問に答える七海

歳は19

慈海の数多くの孫の一人

直系の中でも女が少なかったために

可愛がられた

「だからってさー、恋愛禁止とか

ウザイじゃん?だから逃げて来たんだー」

確かに箱入りらしい

 

「どんな男がタイプ?」

「とりあえず団子喰いな」

「スタイル良いよなw」

「ありがとー!」

悪意や裏は無いようだが…

セクハラまがいな質問も笑いながら答えている

組織や集団に入り込む典型ではあるが…

 

「やぁ、君は確か…えーと…」

「あーウツシさんだー、ジイチャンの

家で見た事あるー」

 

「そうそう、確か七海ちゃんだね!」

「ねぇねぇ、ウツシさんて何歳なのー?」

 

 

「永遠の17歳だよ!」

 キメ顔

「うけるーw!!」

 手を叩いて笑う

 

 

もはやヤリ過ぎてだれもリアクション

しないウツシの答えに反応する

 

そんな人最近見た事無かったから新鮮に見える

ウツシも嬉しそうだ

 

「まーウツシさんは無いかなー」

「何の事だい?」

「付き合う男としてw」

「僕にはヒノエちゃんとミノトちゃんが

居るからね!」

 

「ミノトちゃんて…あの人?」

ミノトを見るとカウンターへ歩いて行く

 

「何でしょうか?」

無表情で首を傾げるミノト

 

「んー、噂の双子の人だよね?

ウツシさんと付き合ってんの?」

 

「ナンノコトデショウカ?」

無表情が更に能面になった気がする

 

爆笑するギルド!

 

「ふーん、ウツシさんの片思いじゃん

カワイソーwww」

ケラケラ笑う

 

「なぁ!男探しに来たんだろ?

俺とかはどうよ?!」

ハネナガ達男性陣がワイワイ聞くが

 

「うーん…やっぱり男は付加価値がねー…

要するに…ブランド?」

首を傾げる

 

「ブランド?」

同じように傾げる一同

 

「顔はイマイチだし背もアタシより低いけどさ」

振り返ると

「出世早いし強いし、

指揮まで出来るんでしょ?」

ツカツカと影の前へ来て止まる

 

「え?」

固まる影

 

「鈍いなー、

合格ラインはアンタだって言ってんの」

指を指す

 

「はあああっ??!」

ハネナガ達

 

「ちょっと!どういう事よ!」

天音が立ち塞がる

「そのまんまの意味だけど?」

見せ付けるように胸を張る、

確かに天音より大きいが…

 

大きいが…

 

「私達は正式に!」

「実質夫婦なんでしょー?知ってるよ?」

「だったら!」

「だって気に入ったんだもーん!」

 

 

 またメンドクサイ事になった

 

 

 

 

 


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