鏡のようにゆったりと流れる夜の川、
河原の砂利、ススキの穂
でっかい犬…
朝日が入る部屋の明るさに目が覚める影、
恐い夢だった
親子四人で住んでいた頃はこんな朝を
当然のように迎えていた
「トントントント…」
この朝御飯の香りと包丁の音の中で
起きると母親が…
は?…包丁の音?!
「………なにっ!」
影は飛び起きる!
「おぅ起きたか影ィ」
時雨がまな板の何かをポチャポチャと
鍋に入れている
隣の部屋の囲炉裏、その自在鍵に掛けた
鍋からは湯気が上がっている
その鍋の中身は夕べ影が作った雑炊、
朝も食べようと残しておいた
「何してんだお前?」
殺意って言葉の意味が良く解る気分の影
勝手に入り込んだだけでも腹立つのに
俺の朝飯に何か…
「見て解るだろぉ?朝飯つくってんだぃ」
鍋の中は米ばかりの雑炊だったはず、
今は刻んだ野菜が色々と入っている、
しかも全体の量も多い、時雨は食材を
足してくれたようだ
レベルアップした雑炊に
「お?おぅん?あ、ありがとうな」
良い匂い
殺意?何それ?美味しいの?
煮えたようなので食ってみると美味い、
が、時雨は手を付けない
「何で時雨は食わねぇの?」
ヤバい、箸が止まらん!
「ん、あのなぁ、味どうだ?」
じーっと影の顔を見る時雨
「美味く出来てるぞ……っ!!」
「どうしたぃ?」
「お前…肉入れたか?」
細かい肉の感触が…
「入れたよぉ」
ニヘラと笑う
「何の肉だ?」
殺意…
「フクズクだぜぇ?」
「冗談だろがぃ!!」
時雨は頭を撫でながら歩く、
思いっきり影に叩かれた
「何かありましたの?」
ヒノエ様に呼び止められる
さっきの話をする、肉の正体はファンゴ
だったが、焼き鳥事件を知ってると冗談
には聞こえない
「あらあら、そんな冗談言うなんて…時雨は
影君に構って欲しくてしょうがないのね」
「それはちがうぜぇ?お互い独り身で刺激が
無いだろぃ、俺がイジってやらないと
影は暗くなるんだぜぃ」
なぜか威張る
「俺は暗く無い、真面目なだけだ」
ムスッとする
いや暗いのか?
「それでは時雨は朝御飯を作ってあげたのに、
食べられなかったのでは?」
ヒノエ様に言われてドキッとする
「材料も持って行ったんですよね?」
見つめられる…
え?俺が悪い感じか?
時雨がニヤニヤと見てくる
ムカつく、ムカつくが…
「う、うさ団子奢ってやる…」
ヨモギの団子屋の名物
「うをい!五本な!」
両手を上げる
「分かったよ…」
「あら、じゃ私も五本」
ヒノエ様が片手を広げる
「…冗談ですよね?」
「…冗談ですよ?」
この間はなんだ?
…………
子供の頃の寝物語、
絵本にも出てきたヒーロー
笑顔を絶やさず文句も言わず、見知らぬ
人のために命を掛けて悪人やモンスターと
戦う完全無欠な人
「現実味がない」
時雨の言葉…そうなんだ、
そんなヤツは存在しない
…いや…存在してはいけない
子供の頃なら何も考えなかった
ハンターは報酬、守人は里を守り、
どちらも明日も生活出来るよう戦う、
それは『安定』という報酬がある
この里の人々は自分と家族の明日
のために戦う
結局は自分と自分の家族、
自分の周囲のために戦うものだ
そうでないなら命を掛けるに値する
報酬があって然るべきだ
ではヒーローとは何か
世界の平和?
そんなもの…単に自己満足だ…
だから…
だから俺は兄貴が…
何だか分からない存在…
…そう
薄気味悪い人間に思える様になっていた
だから
強くなりたくない訳じゃない
兄貴になりたくなかった
俺は兄貴が好きだった…
と思い込むようにしてた
「影ィ」
「ん、あぁ?」
「ぼーっとしてんなぁ」
「あぁ、悪い」
ヨツワミドウの横で座り込む二人、
大社跡の廃墟で話す
「何かコイツは楽だったなぁ」
背中の甲羅を叩く時雨
「百竜夜行で見たまんまの動きしたからな」
攻撃するときイチイチ溜める様な動きをする
「体力も少なかったみたいだぜぇ?」
時雨は指笛で丸目に合図を送ると
「んー?」
「どうした?」
「いや、メインキャンプの方に
何か居るみたいだぜぇ?」
「帰り道にかよ?」
ガバッと立ち上がる
二人で飛んでいくと
「何でコイツが!!」
「あれって確かよぅ」
森の中から見ると川原のエリア、
石で出来た大きな鳥居の横に…大きな岩?
そうではない
バサルモス、まるで全身が岩で出来た飛竜
百竜夜行でも滅多に来ない
火山地帯のモンスター
体力は少ないが硬くて刃物が通じにくい、
その上毒ガスや熱風を体から吹き出す
明らかにここに居るべきではない
辺りの匂いを嗅ぐように鼻を
鳴らしながら歩いている
「なんかよぅ」
「どうした?」
「やな感じだぜぇ?」
「…よし、全力で走るぞ!!」
………………
夕方、里に帰ると誰も居ない
「おい…これって」
キョロキョロする、猫族も居ないし
タタラ場の音もしない
…これは
「夜行だぜぃ」
ヨモギもヒノエも里長も居ない、
タタラ場の前で篝火だけが燃えている
タイミング悪く出遅れた!
「時雨さん!影さん!」
イオリがガルクに乗って大門から
タタラ場前に走って来る
「ズザザザッ!!」
ドリフトしながら止まると
「良かった!お二人で最後です!
皆砦へ集まってます!」
二人の前に付いてきた二頭のガルクが
止まる、とイオリを乗せたガルクは疾走!
大門をあっという間に抜けて行った
ガルクは人より大きい犬で、群れを里の
外れの島、時雨も住んでる場所で飼っている
ハンターとしてある程度認められると
所有することも可能で、狩りの相棒と
する事も出来る
「ど、どうやって乗るんだ?」
もたもたする影、いつもは自分で砦に走る、
それに…そもそもガルク自体が恐い
「こうすんだぜぃ」
簡単にヒョイッと跨がる時雨
「ま、待ってくれ!」
どうすんだよ!
恐いんだよガルクが!
「伏せ」
時雨が言うと素直に聞くガルク、
恐る恐る跨がる…簡単に乗れたが
…コワイ…
「影ィ!付いてきなぁ!」
時雨のガルクが走る!
が、影のガルクは…動かない
大門の所で止まる時雨、
振り向くと
「おいで!」
「は?」
時雨のやつ、どっから声出してんだ?
ヒノエ様の声マネ…
突然疾走!!
「うわああああ!!!」
首に掴まり情けない声を上げる影
そうか!時雨のねぐらはガルクの所!
あいつ普段から遊んでんのか!
「いくぞぉ!」
二頭は一緒に疾走!大門を抜け走る!
大門から2キロ程先の峠道、
左右を崖に挟まれた場所に砦はある
「つっ…着いたか…」
ヨロケる影
「間に合って良かったぜぇ」
ケロッとしている時雨
「おぉ!愛弟子よ、君たちで最後だ」
ウツシ教官に迎えられる
キャンプから覗くと、既に多くの
バリスタが見える
「お前ら!!
気合い入れろ!!腹ぁ決めろ!!」
春香パーティーの前には若いハンター達
一番前の柵の所で号令を出している
「うわぁ姉御、おっかねぇ」
「行かなきゃ…な」
行きたくねぇなぁ、文句言われて怒られる
二人がそこへ走ると
「遅い!!」
睨む春香
「お前ら二人はまだ狩人になって日が浅い!
しっかり付いてこい!!」
「は!はい!」
「ひゃい!!」
直立する二人
「ゴコク殿」
「何かね里長」
大きなレバーの前で話す、
これは必殺の大型設備、撃龍槍のスイッチ
「物見の報告では、どうやらいつもの
夜行程度のモンスターばかりのようだ」
「おかしいでゲコ、あの鱗があったからには
ヤツは近くに…いや、幸いと思うべきか」
「50年前のヤツが居た百竜夜行は、他の
モンスターも大型ばかりだったと記憶します」
「ううむ、とにかくこの夜行に集中しよう、
途中で何が出てきてもワシらは
焦らず対応するでゲコ」
「では全体指揮を、私は
駒の一つとなりましょう」
里長は振り返ると
「全員聞けぃ!!」
守人、狩人、運搬担当、全員が撃龍槍の
上の二人に注目する
「全体指揮はゴコク殿!」
「先陣は春香隊!」
「いよぉし!やってやるぜ!」
「見てろよ!」
「ぶちかますぜぇ!」
春香のパーティーが笑う
豪快な戦いを好む
「遊撃!ウツシ隊!」
「了解です!」
「成功させましょう」
「まぁお手並み拝見」
「愛弟子達よ、いつも通りだ」
冷静で一撃離脱を得意とするパーティー
「設備は里守り部隊!ハモン!頼んだ!!」
「やるか…」
「師匠、任せて下さい!」
「バリスタなら任せろ!」
「臨機応変を心掛けよ!先達に習い守り抜け!」
里長が大太刀を抜き振り上げ叫ぶ
「気焔万丈!!」
砦に響くカムラの魂
「「「「気焔万丈!!」」」」