黒死の刃   作:みくりあ

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拾話 柱の実力

 柱合会議当日。

 巌勝は薫に見送られ、朝早く宿を出て行った。朝のおはようから巌勝が出ていく行ってらっしゃいまでほぼ無言であった。目が合えば必ずどちらか一方が目を逸らした。未だ二人とも昨日の出来事が痼となっていたのだ。

 

(四百年前の柱。楽しみだ。炎、岩、水、雷、風がいることは承知の上……個性もとんでもないのだろうな)

 

 巌勝は期待と僅かな不安を抱えて、隠の案内で産屋敷邸に向かう。客間で待っていると柊哉が護衛と共に出迎えてくれた。巌勝は両手をついて頭を下げる。

 

「継国巌勝。只今参りました。そして日輪刀を支給していただき感謝します」

「うむ。今日は宜しく頼むぞ。庭が無駄に広いのでな、そこで披露してもらおう。柱はもう集まっているから、柱合会議の後に報告にあった飛ぶ斬撃とやらも見せてもらうつもりだ。それと昨日、弔替が血相を変えてやってきたが、何やら日輪刀の色も変わるらしいではないか。それも合わせて見せてもらおう」

「御意」

 

 柊哉は庭に移動する。巌勝は奥の部屋で待機を命じられた。少し隙間から覗いてみると、原作のように白い砂利が美しい、あらゆる植物も植えられた、整った庭であった。巌勝はどう説明するか考えながら気長に待つことにした。何となく腰に差している日輪刀の柄を押し上げると、昨日と変わらぬ紫紺の仄暗い燐光を放っていた。

 

 

 

 ★

 

 

 

 巌勝の耳に柊哉が柱達に軽い説明をする声が聞こえる。そろそろ巌勝の出番のようだ。気配は五つ。その全てが並々ならぬ強者の雰囲気。

 

 

「────という訳だ。巌勝、来なさい」

 

 襖をあけ、少し歩いて、縁側に座り直す。片膝を着いて顔を上げている柱達の視線を集める。

 

「只今紹介にあずかりました。継国巌勝と申します」

 

 一礼して顔を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

(おおお……)

 

 錚々たる顔ぶれ。射抜くような視線は品定めのそれに近い。巌勝が想像よりも遥かに若かったのが理由である。体格、服装、髪色も様々。共通点なんてほぼないに等しい。

 

 炎柱である正寿郎。やはり一番の巨漢である。

 水色の下地に雲が描かれている着物を纏う黒髪の男剣士。恐らく水柱。

 黒髪に黒い着物、白い袴。風の型を使う房綱の親族、おそらく父に当たるであろう風柱。

 輝く金髪を持ち、興味津々で巌勝を見ている女剣士。黄色い着物を着ている。恐らくは鳴柱。

 目付きが鋭く、身長も女性にしては高め、茶髪を後ろで一纏めにし、緑色の着物を纏う気の強そうな女剣士。消去法で岩柱。

 

 原作のように個性が質量を持って押し寄せてくる。

 

「巌勝については今言った通りだ。まず日輪刀を見てもらおう。巌勝、抜刀を許す」

「はっ……それでは失礼仕る」

 

 巌勝は柊哉の許可をもらって日輪刀を抜く。抜き放たれた刀身は紫紺が吸い込まれそうな輝きを放っている。柱達の中には感嘆の声を洩らす者もいたが、大半は無言である。巌勝は言外に呼吸を早く見せろと言われている気がした。

 

「……ほう。それが其方の呼吸の傾向とやらで色が変わった後か」

 

 柊哉が目を輝かせる。

 

「はい。ある程度の剣術と呼吸の適正により色が変わるのです。呼吸を身につけていけば、柱の皆様方の日輪刀も色が変わるでしょう」

「……素晴らしい……! とりあえず呼吸を見たい。……持ってまいれ」

「……し、失礼します!!」

 

 

 

 隠達が数体の藁人形を持ってくる。彼らも柱全員の目線を貰っており顔が蒼白くなっている。四百年前髪でも柱の威光は健在である。隠たちによって庭に並べられた藁人形。それらは稽古用にしてはかなり太い。人では無い鬼の強度を模している。

 

「巌勝、これを的にして良い。呼吸と型を合わせた技で切ってみせい」

 

 柊哉の許可が下りる。巌勝は庭に下りて、藁人形に向き直る。

 

「わかりました」

 

 

 

 

 ────ホォォォオオオオオ

 

 

 

 

 

 巌勝は藁人形からあからさまに5メートル離れて刀を構え、呼吸を始める。身体の筋肉を意識し、血管を膨らませる。柱たちは巌勝の雰囲気の変化に目を見張る。

 

(既に肉体以外は剣豪の域か……)

(聞いたことの無い独特の呼吸音だ)

(……ん? どう見ても間合いの外やけど……)

(初めて見た時もそうだったが、……巌勝はやはり天稟だな、娘が執着するのも頷ける)

(額の痣はなにか関係があるのか?)

 

 

 

 

 

 

 そして……

 

 

 

 «月の呼吸 陸ノ型 常世孤月・無間»

 

 

 

 

 紫紺の刀身が縦に一振される。その一閃には斬撃に蒼い三日月が付随していた。超速で藁人形に到達し、完膚なきまでに蹂躙し尽くす。

 

「なっ……!」

「……これは凄まじい」

「……っ」

「流石だ。巌勝」

「……まるで鬼だ」

 

 柱がそれぞれ声を漏らす。中には日輪刀に手を伸ばした者もいた。特に水柱は畏怖と嫌悪が隠しきれていない。彼の同期の命を奪った鬼の血鬼術に酷似していたのだ。

 

「由重、巌勝は鬼ではない。私が保証しよう」

「……わかりました」

 

 産屋敷が聞きかねて戒める。水柱はまだ不服なようだが産屋敷への忠誠が納得させた。感情も闘気もない幽鬼のような人間が、血鬼術のような芸当をして見せたのだ。まあ無理もないと巌勝は同情した。一撃で藁人形を全て切ったので刀を収め、柱達に向き直る。

 

「……以上です。ちなみに刃が飛ぶのは私の呼吸ならではです。柱の皆様も身につけていただければ日輪刀の色が変わり、鬼にも遅れを取りにくくなります」

「奇っ怪な話だが、人の身かつ我らより年下の者がその一閃を放てるのであれば信じるに値しよう。では早速……」

「……待てよ!? 人ならば斬撃が飛ぶのはおかしい! それに額のあの痣、不吉の象徴ではないか! 御館様、俺はこいつの言うことはあまり信用できません!」

 

 柱達は強さを求めるのに手段を選ばない。血反吐を吐くような努力も、骨が軋むような鍛錬も当たり前。呼吸法を変えることで鬼のような力を振るえるのであれば飛びつくのは道理であった。勿論異議を唱えるものもいる。

 

(……だが気持ちはわかる。他の柱達も訝しげだ。正寿郎殿は信用してくれているが、共闘した補正もあっての事。彼も初見ではしっかり鬼だと疑われたしな……)

 

「ならば由重。巌勝と稽古してみろ」

「!」

 

 柱達に緊張が走る。百戦錬磨の柱と鬼殺隊になりたての巌勝。そこには体格差や経験といった埋められない壁があるのだ。確実に巌勝が負ける。そう考えたのだろう。

 

「……構いませんが、斬撃を飛ばされては素の実力が測り切れません」

 

(……正論だ)

 

「では巌勝。申し訳ないが其方の使う月の呼吸以外で稽古してくれぬか? 其方は昨日、呼吸は弟殿の呼吸が起源と申していた。弟殿の型で稽古してみてはくれぬか?」

「……わかりました」

 

なんでもないように言われたが、それは継国厳勝という人物の根幹を揺るがす言葉である。同様を隠すように縁壱の動きを思い出す。

 

(一度も使っていない訳じゃない。そりゃ原作最強の型だから試しに使ってみはしたが、相性が悪すぎて、私の体が拒否してしまう。短期決戦だな)

 

 そう考えながらも、稽古とはいえ実戦で日の呼吸を使うことに巌勝は高揚感を覚えていた。円環を成す太陽は巌勝を魅了して見せたように、柱達もを魅了するのだろう。

 それが満足に使えない体なのは知っている。それでも少し苦味が残る。縁壱が入隊すれば、巌勝はきっとお役御免だろう。

 

(分かっている。そうだ。分かりきっていたことだろう)

 

 水柱・新見由重が刀を構える。

 巌勝と対称的に色は着いていないが、気迫は十分。体格差は呼吸を使って無理やり埋める。それで漸く互角以上。巌勝も抜刀する。日輪刀ではなく二本目の刀、「蛟落天津」を右手で抜き、左手は鞘を握る。双方、自然体で構える。

 由重は流れ落ちる滝のような怒涛の闘気。巌勝はただそこに〝在る〟植物のように闘気を発さない。

 

「……始め!」

 

 柊哉が合図を送る。先に動いたのは由重だった。

 

「はぁっ!」

 

(動きからして、参ノ型 流流舞い だろう。速攻で決めに来るとは警戒されたものだ。これを圧倒せねば印象を刻むまでにはならないか)

 

 

 

 ────ゴォオオオオ

 

 

 今度は巌勝の口から、燃え盛る豪炎のような呼吸音が漏れる。

 

 

 «日の呼吸 陸ノ型 日暈の龍・頭舞い»

 

 

 

「なっ……!」

 

 流れる水は、太陽の前では全て無力。

 透き通る世界で予知した由重の動きの上から、被せるように踏み込む。そしてそのまま太陽の如き輝きをもって、切り続けた。

 

「いきなりか……! それに由重が押されているだと!?」

「巌勝……まるで精霊のようだ」

 

 柱も関心を寄せる。経験ではない。一片の曇、僅かな癖が何一つとしてない巌勝の動き。正しい天才。だが本当は努力の塊であることを知るのは本人のみ。巌勝にとっての天才は弟のみ。だが不思議と悪い気はしなかった。むしろ自分が褒められているように嬉しい。

 いま日の呼吸を使っているのは巌勝であることに変わりは無いのだから。彼らはまだ本物を知らない。

 

「っ! ならば……」

 

 由重は型を変えて対抗する。

 

(次は拾ノ型 生生流転か、回転を重ねる前に止めるのが得策か。……分かってはいたがやはり体力の消耗が激しいな)

 

 鬼殺隊と戦うとすれば、事前に知識としてほぼ全ての型の順と名を知っているのはかなり強い力になる。型が増えることはそうそうない。呼吸も然り。

 

 «日の呼吸 肆ノ型 灼骨炎陽»

 

 巌勝は刀を合わせて、回転を止めようとした。二刀が一瞬鍔迫り合う。

 

「くっ、おらァ!」

 

 しかし由重に力技で突破される。体格差は歴然。流れが抑えきれなくなる。現在進行形で由重の力は回転を重ね続け、増す一方。拾ノ型は回転を重ねる毎に威力が上がる型。止めないと手がつけられなくなる。

 

「……!」

 

(まずいな、つらいが仕方ない。繋ぐか)

 

 «日の呼吸 拾壱ノ型 幻日虹»

 

(消えた!?)

 

 手応えがあると確信した一撃。巌勝は体を捻り、独特の歩法で消えたと相手に錯覚させる。刀を振ってもそこには何も無い。まるで虹のように。

 

「上か!」

 

 «日の呼吸 弐ノ型 碧羅の天»

 

 かつての縁壱のように、体格差を上からの体重を乗せた一振で潰そうとする。腰を支点とした半円切り。互いに鍔迫り合うが、巌勝は止まらない。

 

 «日の呼吸 参ノ型 烈日紅鏡»

 

 刀を両手で握り、左右から水平に合計二回、首を狙って振り下ろす。由重は体を後ろへ逸らすことにより首への攻撃をギリギリで回避するが、体勢が崩れる。

 その隙を巌勝は逃さない。

 

(まず……いな。天罰を……食らっているかのようだ。やはり……根本的に……合っていない)

 

 慣れない呼吸を使ったことによる激しい消耗が、巌勝を苛む。

 

 «日の呼吸! 壱ノ型! 円舞! »

 

 由重の体勢が崩れたところにすかさず横からの一撃を叩き込む。由重は刀で受け止めたが、体ごと横に倒れてしまう。

 手を地面につけ、それでも立ち上がろうとする。その前に喉元に刀が突きつけられた。

 決着。

 

「……ハァ……ハァ……勝負ありましたね」

 

 勝利したというのに自分より疲れている巌勝。それを疑問に思いながらも由重は立ち上がり、一礼する。

 

「……その力は本当に呼吸によるものなのか?」

「……はい。このように……ある程度の体格差は……埋めることができます」

「そうか」

 

 巌勝は呼吸を落ち着かせる。体が悲鳴をあげている。兄弟でこうも違うものなのか。

 

(やはり体に合っていない。黒死牟の斬撃は即死級。近づかれても一撃一撃振るうだけで広範囲かつ遠距離までカバーできる剣技。小細工は寧ろ邪魔となる。

 対して、縁壱は広範囲の攻撃手段が少ないから、避けたり、防いだりして一撃一撃を正確に切り抜き続け、仕留める。似ているようで方向性が違う)

 

 巌勝が分析していると、由重が頭を下げる。

 

「そうか、認めよう。正々堂々、俺は負けた。都合のいいことだろうが、呼吸を教えてくれ。この通りだ」

「私は大丈夫です。頭を上げてください」

 

 すぐに巌勝は頭を上げるように促した。由重が言っていたことは至極真っ当なことであり、当然の成り行きだったと思っていた。

 柊哉が満足そうに微笑む。

 

「柱達よ。呼吸の効果もわかった事だ。巌勝に教えてもらうがいい。特別だ。今日は一日中この庭を使っても構わん。明日でも良い」

「「「「「はっ!」」」」」

 

 柱が次々に巌勝に近寄ってきて、自己紹介を始めた。

 

「紹介が遅れたが、水柱の新見由重だ。改めてすまなかったな」

「一応だが。炎柱の煉獄正寿郎だ。任命したのは私だが、娘が世話になっているな。危なっかしいが支えてやってくれ」

「俺は風柱の御門主膳。房綱が迷惑をかけたらしいなァ。煉獄ンとこに修行に出させたンだが、今は薫ちゃんにご執心でなァ。まぁ何かあったらぶん殴って貰っても構わねェ。今は恋の病ってのにかかっちまって盲目だが、次期柱として育ててる分には物分りはいい方だからなァ」

「主膳は少し息子に厳しいと思うが……私は岩柱を御館様より請け負っている。明道院早百合だ。何かあったら私を頼れ。……因みにこいつを頼るのはやめておいた方がいいがな」

「早百合はんは酷いなぁ……ウチは鳴柱の緋咲鳴。それにしても巌勝君ほんまかわいらしいなぁ。ウチの娘の許嫁になってくれへんか? そしたら、巌勝の望むとおりに柱の権限を行使して何でもしてあげたるでぇ」

「貴様、趣旨がズレてきているぞ、とりあえずだ。やり方を教えてくれ、こう見えて私たちは柱だ。鬼殺隊の中でも能力は高い方だから案外すぐに習得するかもしれないぞ?」

「…………呼吸なので肺を使います。皆様方まずは…………」

 

 巌勝はおくびにも出さないが、怒涛の個性に圧倒されかけていた。口調も三者三様。柱の見た目や雰囲気と呼吸の属性が似通っている部分があるのが救いであった。

 

 巌勝は縁壱から教えてもらったことをそのまま伝えるのでは無く噛み砕いて教えた。巌勝は努力した天才である。適性は月の呼吸に振り切っているが、縁壱とは違って一歩ずつ飛ばすことなく階段を登ってきた。故に教えることは上手だった。柱達は飲み込みが異常に速く、巌勝を驚かせた。巌勝の教え方もそれに一役買っているだろう。

 天才は常人がつまづくところを理解できないが、秀才はある程度理解出来る。それが証明されて、巌勝は少し嬉しかった。

 

 

 

 ★

 

 

 

 一年後。

 

 巌勝は呼吸の習得方法を任務の合間を縫いながら柱に教え続けた。柱達の上達速度は想像以上に速く、ものの半年で全集中の呼吸が使えるようになっていた。日輪刀も開始数日で色が変わった。

 

 炭治郎が2年を費やしたことを考えると、破格の習得速度。地の体が出来上がっているのなら後は比較的簡単に習得できたのだ。それぞれが継子にも広めるらしい。その際には自分の呼吸を強制させるだけでなく、それぞれの型にあった呼吸を身につけるよう促した。

 因みに薫や房綱、途中からは煉獄家の長男である暢寿郎、

 水柱・由重の継子である鱗滝正助。

 鳴柱・鳴の娘である愛染。

 早百合の継子である琴音が参加し、彼らは次期柱として育てられた。

 

(まんまこれ合同強化訓練・柱稽古だよな……てか本当に縁壱どこ行ったんだ。一年も見つからないとか相当だぞ)

 

 これより巌勝は、受ける必要性が全く感じられない最終選別へと向かう。因みに身長も少し伸びている。もちろん薫も着いてくるようだ。ここ一年で印象が可愛いから綺麗に変わり始めていた。巌勝への執着っぷりは増したが、それは全く表に出さない。それでも着実に距離を縮めている。

 もちろん巌勝は気が付かなかった。

 一年で変わるものもあれば変わらないものもあった。

 

「最終選別の山はここから近いな、すぐ着きそうだ」

「ええ、参りましょう」




一段落っぽいですが一段落しません。柱は総じて25歳を超えてます。

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