黒死の刃   作:みくりあ

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感想ありがとうございます!お気に入りが1000件を超えてびっくりしております……!
少し遅れましたが、やはりSSは気分的に書くのが1番ってことですね。


拾伍話 秀才が天才に届くために

「改めて……久しぶりだな縁壱」

「はい! お久しぶりです兄上!」

「私の名前は薫と申します。よく見ると雰囲気は全然違いますね」

「おぉ! 縁壱の兄上とその嫁か! わしはうた! 縁壱の家族じゃ!」

 

 武者崩れは処理し終わった。そこで村人に一軒家を借りて四人で近況報告といく。原作を知っているからといって巌勝はうたの性格を奥底まで知っている訳では無いし、薫に至っては巌勝以外とはほぼ初対面である。巌勝の横に薫。縁壱の横にうたがおり、向かい合っていた。

 巌勝はまず原作通りに縁壱がうたをつれていることに安心する。

 

「うーん。縁壱の兄上と縁壱とではどっちが強いのじゃ?」

「兄上です!」「縁壱だ」

 

(兄上には勝てませんが、兄上以外になら……)

(どう考えても縁壱だろう。公式チートだぞ)

 

「……前言撤回です……やっぱり二人はそっくりです」

 

 一通り話した後、薫とうたは巌勝達が久々の再会ということもあって、空気を読んで二人だけにしてくれていた。薫とうたの二人は家の外へと出ていった。

 

「兄上は今どこかの国に仕えていらっしゃるんですか? その刀も仕えている主から授かったものなのでしょうか?」

「いや、今は薫と共に鬼狩りをして暮らしている。この刀は日輪刀と言ってな。鬼を斬るための刀だ。鬼殺隊に入隊したら刀鍛冶に打ってもらえる。因みに縁壱、鬼殺隊に入ったのはお前を探すためでもあったのだぞ」

「? どうしてですか?」

「あー…………最近鬼の被害が拡大しているからな、戦も頻発している。人はどうとでもなるだろうが、鬼は別だ。日輪刀のない縁壱達が心配だったのだ」

 

 巌勝は心の隅で縁壱なら日輪刀がなくとも鬼を滅せるという気がした。頑張ったらビームとか出せそうである。根拠はない。巌勝の苦し紛れの言い訳を縁壱はもちろん好意的に捉えた。

 

「俺は大丈夫です。特に鬼に会うことは少なかったので」

「それは僥倖。ああ、縁壱の呼吸は鬼殺隊に広めさせてもらった。お陰で鬼と互角以上に戦えることが増えたと隊士達から聞いている。感謝するぞ縁壱」

「普通の人には覚えるのですら難しいのですが……とりあえず兄上のお役に立てて良かったです。兄上は鬼殺隊の中ではどれくらい偉いんですか?」

 

 当然の質問。縁壱は鬼殺隊の仕組みをまだ知らない。

 この時代、鬼殺隊には癸、壬、辛、庚、己、戊、丁、丙、乙、甲の十段階階級制度がなかったので巌勝は少し言い渋る。

 

「……縁壱の言う階級制度はなかったが、柱という最高階級はある。しかしそれだけだ。私の地位は普通の隊士とそう変わらないぞ?」

「ええ!? 兄上が並の剣士と同じだなんておかしいです! 階級制度を新たに作った方がいいと思います! もちろん兄上は最高位の柱で!」

「柱は難しいと思うが、階級制度は素晴らしい案だ。こちらから提案しておこう」

 

(なるほど、この提案が後の鬼殺隊階級制度の起源か。縁壱が作ったということでいいのか?)

 

「兄上! それでは本題です!」

「……本題?」

「はい。兄上! 俺と二年ぶりに稽古しましょう!」

「お前は変わらんな」

「兄上もお変わりなく!」

 

(勝てるのかこれ)

 

 二年の空きがあるとはいえ、巌勝のこれまで苦戦した戦いのトップスリーは全員縁壱が相手である。

 

 ★

 

 

 薫とうたは継国兄弟が久々の再会話に花を咲かせている間、村の近くの森で話し込んでいた。当然のように恋愛話。互いは互いの想い人を雰囲気でわかっていた。うたはありありと好意を剥き出しにしているし、うたから見た薫は巌勝に向ける目線が色を持っていたからである。

 

「それで、うたさんは縁壱君のどこに惹かれたんですか?」

「うたでいいぞ薫! 縁壱に惹かれた訳か……うーん。わしはいつの間にかだな。気がつけば……というやつじゃ。薫は縁壱の兄の何処を好ましく思ったんじゃ?」

「私は……えっとその、言葉にすると難しいです。ただ一緒にいると気分が楽になるというか。決してなんとも思っていないとかでは無いんです。楽しいのはそうなんですけど。ふふ。まあそんな感じです。私を私のままで見てくれて、屈託なく話せたのは家族以外に彼だけで、そうしている内に…………こほん。うたは縁壱君とどんな風に会ったんですか?」

 

 薫は話しているうちに、うたの顔が微笑ましくなっているのに気づいて赤面し、話すのを止める。うたはありありと好意を表面に出して裏表もそんなにない人物だが、薫は好意を表に出さない分、心の奥底で昂らせている人物である。

 

「うむ。初めに会った時はわしが父上と母上を流行病で亡くした日でな」

「それは……」

「別にもう悲しんではおらん。今は縁壱がいてくれるからな。その日に縁壱はふと現れてな、家に帰る理由を無くしたわしを見て、一緒に家に帰ろうと言ってくれたのじゃ」

「……かなり大胆ですね」

「それからは一緒に暮らしていくうちに、縁壱とは家族になったのじゃ」

「えっ! 家族って事はその、えっと、そういう事もしたんですか……?」

「ん? よくわからんが、まぁとりあえず一緒に暮らしているのじゃから縁壱とわしは家族じゃ!」

「そうなんですか。ふふっ。うたは縁壱君が本当に大好きなんですね。……あら?」

 

 薫は空気が変わるのを察知する。

 

「……巌勝君達が移動するようですよ」

「な、なぜわかるのじゃ?」

「女の勘ですね」

 

 薫は少し照れくさそうに答えた。少なくない色香を纏った仕草にうたは目を輝かせた。

 

「おお! 女の勘か、なんだかかっこいいぞ! わしにもつかえるか?」

「ええ、そんなに縁壱君が好きなら、すぐにつかえるようになりますよ。好きな人と一緒に居ていれば、もし彼が何処かへ行こうものならその場所に私がいる意味が無い気がしてくるんです。

 そうしていくうちに彼の居場所は私の居場所。私の居場所も彼の居場所…………ふふっ。うたにもいつか分かる時がきますよ」

 

 そう言って、うたの髪を梳く薫。実際薫の方がうたよりも身長が高い。髪の色さえ違わなければ姉妹にも見えただろう。

 

(姉……みたいじゃ。ならば縁壱の兄上も兄と呼べる日が来るのか?)

(かわいい。妹ができたみたい)

 

「うたの髪は綺麗ですね。漆黒ながら艶やかなのが美しいです。将来が楽しみですね」

「えへへ。そうであろう? 縁壱もよく褒めてくれるのじゃ! 薫こそ、光を受ければ金色に輝いておる!」

「ありがとうございます。褒めてもらえて嬉しいです……さぁ、行きましょうか」

 

 薫は腰を上げて伸びをする。振り向くと、うたがきょとんとしていた。

 

「? ……どこへじゃ?」

「巌勝君達の所にきまってるじゃないですか。……そうですね、一緒に女の勘を鍛えましょう」

「わかったのじゃ!」

 

 振り向いて手を差し伸べる薫。その手を掴んで勢い良く起立するうた。薫とうたは二人を追う。薫だけは何をするのか大体予想は着いていた。

 

 

 ★

 

 

「兄上、その刀は使わないのですか?」

「この刀、日輪刀は鬼を切るための刀だからな。人に向けるのは些か気が引ける」

 

 巌勝は腰の刀の柄をなぞった。家の中から二人は竹の生えた林へ移動していた。村人からは村には関係ないところだと聞いている。つまり人は全く居ない。明るく日の差し込む竹林。剣豪が立ち会うにはかなりお誂え向きであった。

 縁壱は巌勝よりは短いが、普通よりは長めの髪を後で縛り、蘇芳色の着物に黒い袴を身につけ、腰には無銘の刀を差していた。

 対して巌勝は縁壱より長い髪をこれまた後で縛り、紫の着物と黒い袴を着ている。腰には一目見ただけで業物とわかる刀。蛟落天津が差してある。

 

「では兄上、胸をお借りします」

「ぬかせ、技はおまえの方が上を行くだろう」

「力はそうではないと?」

「……さてな」

 

 会話はそこで途切れた。空気が一変する。

 両者は柄に手を置き、抜刀の構えをとる。手練の強者は構えただけで相手の力量が見て取れる。

 

(……! 化け物め! まだ届かないか!)

(っ! やはり強い! 前よりも格段に!)

 

 先手を取ったのはもちろん、間合いに優れる巌勝であった。

 

 «月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮»

 

 巌勝から放たれた一閃が縁壱に接近するも、縁壱は高く飛んで回避する。

 

(避けれたが、遥か彼方まで竹が切り倒される音がした。範囲も威力も格段に上がっている。間合いと言う概念は兄上の前では通用しない。加えて、受けでもすれば瞬時に纏われた斬撃は俺の体を一瞬で塵にするだろう)

 

 巌勝の太刀筋は避けでもしなければ掻い潜るのは不可能。縁壱は今の一瞬でそう判断した。さらに視界が開けた竹林で巌勝は絶えず刃を振るう。

 

 «月の呼吸 肆ノ型 虧月突»

 

 突きですら投擲された槍のように飛び、縁壱を狙う。この男、無法が過ぎる。時代は遠距離など火縄銃の特権である。もしその力を継国のために使っていれば歴史は変わっていた。

 偏差斬りをしながら縁壱を狙っていると異変に気がつく。

 

(……なぜ接近してこない? 接近しなければ縁壱は攻撃できないはず……先程から周りをうろちょろと────まさか!?)

 

 巌勝は攻撃をやめ、刀を鍔迫り合えるように、月魄災禍の構えを取る。瞬間、遠くを走っていた縁壱が一瞬で巌勝に肉薄する。

 

 «日の呼吸 陸ノ型 日暈の龍 頭舞い! »

 

(やはりな)

(これを防ぎますか)

 

 巌勝の予想通り、死角から刃が叩きつけられる。円を描くように人外の力で何度も攻撃される。距離を取って回避しようとするが、攻守一転。巌勝は防御にまわりきってしまう。

 先程から縁壱は幻日虹の歩法で巌勝の目を眩ませながら少しずつ近づいていた。呼吸と型の応用。常人ならば数歩でも足に尋常ではない量の意識を向けなければならないが、縁壱は平然とやってのける。天才はいつも上を行く。凡人は驚くのみ。

 

(っ!)

 

 «月の呼吸 伍ノ型 月魄災禍»

 

 巌勝が苦し紛れに技を放つ。攻撃は中断されるが、斬撃が通らず、縁壱の体が陽炎のように揺れる。

 

(……飛輪陽炎か? いや、まさか! これも歩法の応用か!)

 

 縁壱は全方向に放たれる刃を後ろに周り、回避する。歩法が巌勝を混乱させ、攻撃するのに十分な隙を与える。

 歩法は盲点。只管刀を振るうだけでは剣技は向上したがそれだけ。その剣技すら、縁壱とほぼ互角。剣技において努力の方向性が間違っていないだけマシ。

 

 «日の呼吸 伍ノ型 陽華突»

 

(勝てる! 兄上に! これで……!)

 

 縁壱も初見殺しの為に鍛えてきた歩法だが消耗が激しく、数回しか使えないことはわかっていた。故の速攻。巌勝の無防備な背中へと縁壱の突きが放たれる。

 

(駄目だ、背後からの攻撃。単純だが出遅れた。

 私はこんなにも弱かったのか? 兄の癖にこうもあっさりと弟に負けるのか? 刃を飛ばせるからなんだ。接近されれば終わりではないか! 小細工を弄しているだけでは勝てん。この体たらくで十年後、縁壱と対峙するかもしれない時に薫を守り切れるのか? 否。

 ────ならば! 命を削るまで!)

 

「──────ッ!!」

 

 巌勝は叫び、縁壱に対して背を向けたまま刀を握りしめる。尋常ではない握力で握られた刀の柄が指の形に陥没する。血管が隆起し、首元の痣が胸と背中まで広がり、黒死牟のそれよりも拡大する。

 巌勝の纏う空気の急激な変化に縁壱は攻撃をやめ、後退する。

 

(痣が!? 兄上! それは体の負担が大きすぎる……! ────────なっ! うた、薫さん!? そして村人もか!)

 

 縁壱はこちらへと近づいてくる家族達の気配を察知する。村人も侍が竹林で二人で斬り合うとあっては興味が湧いたのであろう。まさか刀が火縄銃並の射程を持つことも知らず大勢で寄ってくる。余り近づかないように言っていたが、縁壱は今の巌勝では易々と村人の場所まで届くと確信する。

 これでは稽古どころではない。

 

「皆危ない! 下がって!」

「! 皆さん伏せて! うた! ごめんなさい!」

「……なんじゃ? うおっ!」

 

 村人達は薫の剣幕に気圧され、言う通りに思い思いに地面に伏せる。うたは薫が抱いて地面に伏せさせる。

 巌勝は何も聞こえていなかった。体が耐えられず心臓の音が聴覚を侵害していた。只只、自分の体が燃えるように熱い。そして一つの極地へとたどり着く。縁壱に負けるのはこの体が許さなかった。負ければ己は原作通り、縁壱への憎悪と嫉妬に飲み込まれるかもしれない。そうして自らに課した縛りは、寿命と引替えに巌勝をさらに上の段階へと昇華させた。

 

 

 

 

 

 

 

 «月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満繊月»

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界が悲鳴を上げる。

 周囲の空気を巻き上げるようにして刀が振るわれる。月の呼吸の中では最大範囲を誇る型。絶望の嵐が竹林を全て切り飛ばし、地面を抉りとり、切り飛ばされて宙に舞った竹ですら瞬時に塵へと還す。

 伏せている薫達のすぐ上を死が音を立てて通り過ぎる。村人はその異常なまでに唸る風切り音に怯え、薫は全身から冷や汗が吹き出した。頭のすぐ上で竹が切り落とされる音が幾重にも重なる。

 縁壱は透き通る世界を発動したまま、地獄の綱を渡るように接近する。そして、

 

「──────!!」

 

 懐から笛を取り出し、思い切り吹く。ただでさえよく響く笛が縁壱の肺活量によってさらに響き渡る。

 

「兄上! お鎮まりください!」

「──────私は、ぐっ」

 

 巌勝が少しずつだが落ち着いてくる。彼は人の身では不可能な技を出した反動により体が思うように動かなくなる。恐らく寿命が一年ほど縮んだだろう。

 縁壱は巌勝に肩を貸す。見回すと竹林が遥か彼方まで根元のみを残して消えている。

 

(これは……全部私がやったのか。……もうこれ鬼だろ)

 

 巌勝は自分の力にドン引きしていた。

 

「大丈夫です兄上。大丈夫ですから、とりあえず休みましょう」

 

 憔悴している兄を見て、酷く疲れていると思った縁壱は、巌勝に休むよう促した。竹林が開けた事により、薫達の存在が明らかになる。巌勝は余りにも近くにいたことに気づき、瞠目する。

 薫とうたが駆け寄ってくる。

 

「巌勝君! 大丈夫!? 怪我は……」

「縁壱! 何があった!? 鬼でも現れたのか?」

 

 薫達の心配が巌勝の心に沁みる。しかし、危険だったので少し考えものである。

 

「どうしてここにいる。近づくなと村人達にも言っていたはずだ」

「……ごめん。でもあんなに届くとは思わなくて」

「む……」

 

 巌勝は竹林の方に向き直る。明らかに巌勝が普段飛ばす刃の範囲では無いところまで竹林が無くなっている。

 

「……化け物」

「まるで鬼じゃ」

「お侍様の戦い方じゃない」

 

 村人が恐怖の形相でこちらを見ている。刃を飛ばせる時点で既に人外の力なのだ。今更恐れられた所で巌勝にとっては何の思いもなかった。縁壱と薫は言い返しそうにしていたが巌勝が止めておいた。ちなみに薫は刀までも抜こうとしていた。目が笑っていなかった。

 とりあえず鬼殺の里に縁壱とうたを案内するために鎌倉付近まで戻ることにした。

 

「……兄上は、これからどうするんですか?」

「お前を鬼殺隊へと推薦する。うたも保護してもらう。拒否権はない。黙って従え」

「かなり過保護では!?」

「縁壱の兄の仲間と会えるのか! 何だかやたらめったら強そうだな。斬撃を飛ばすの次は……口から火を吐くのか?」

「……うた、この御二方が逸脱してるだけですよ」

「縁壱よ、仕方ないことだ。呼吸の起源なぞ、鬼の始祖からしたら排除したいだろうからな」

 

 巌勝はとりあえず目標の一つを達成したことに安心する。

 

(次は、無惨との邂逅までひたすらに強くなることだな。縁壱には自由行動をさせて原作通りに炭吉と会ってもらわねば、だが人の身で鬼呼ばわりとは……仕方ない。元より呼吸そのものの特性。今更よ)




竹林
劇場版るろ剣の師匠と対峙している場面とか想像してくだされ。
巌勝のこの強さの理由としては、成長期に呼吸を習得してる時点で原作よりははるかに強いだろうっていう作者の幻覚です。
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