黒死の刃   作:みくりあ

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本日二話目


壱話 継国縁壱

「よっしゃぁあああああ!!!!!」

 

 眩いほどの晴天に、年齢にしては少し低い叫び声が響き渡る。声色は喜色に満ち満ちていた。

 

 転生してから少しして頭の混乱が落ち着いた頃、状況を把握した陸斗は叫んだ。それはもう声の続く限り。何せ大好きな漫画の大好きなキャラに転生したのである。オタクなら誰しも夢見るシチュエーション。これが喜ばずにいられるか。

 

「……はぁ……はぁ…………ふぅぅぅ……まずは落ち着いて整理しよう」

 

 時間を忘れるほどさけんで尚、陸斗、いや巌勝は冷静だった。これが前世で転生小説を読んでいた恩恵なのか、はたまたこの体に本来から備わっている精神力なのか。

 巌勝は前者だと推測した。とりあえず落ち着いて原作の流れを確認する。不思議なことに記憶は混ざりあって安定しており、混乱は少なかった。

 

「……今は戦国時代初期、これから戦乱の世が始まる。この程度で焦っているようじゃ私のような現代人は生き残れないだろう、原作通りならば元々の肉体は弟の才能に嫉妬していた……どうやら色々コンプレックスを抱え込んでいるようだ……その人間らしさも魅力の一つだが」

 

 推しを褒める行為が、自画自賛となる。

 

「……思考が逸れた、とりあえず今わかることを整理しよう

 私の名前は継国巌勝。年齢は十くらい……。公式チートの弟を持つまぁまぁ位の高い武家の子である。剣の才が開花した弟に加え跡継ぎ問題や母上の病気が精神を蝕みながらも暮らし、弟が家を出て行ったが、何年か経って、弟と再会した後2人で鬼狩りとして生きる。……そして鬼となり、弟が無惨と対決してる間に当代の産屋敷を殺し、十二鬼月の上弦の壱として400年間君臨し、大正時代あたりで原作が始まり、最期は風柱と岩柱達によって殺される……

 ……なんとまぁ……」

 

 巌勝は空を仰いだ。これから我が身に降りかかる災難を鑑みるとどうしようもないと思ってしまう。命が紙よりも軽く争いの絶えない世の中。街道から逸れれば、野盗に襲われる確率が格段に上昇するレベルの治安。

 

 そんなことせずとも武家である継国家の跡取りなのだから戦場に駆り出されるだろう。さらに鬼とも戦わなければならないのだ。鬼の力の前に人は無力である。人を超える身体能力はもちろんのこと、人が一番無防備な夜間に活動し、戦ったところで普通の刃では太刀打ち出来ない。

 

 死亡フラグが乱立している今。巌勝の人生はかなりハードモードである。

 

「しかし、どの道強くならねば生きられない世の中。強くなるのだ。話し合いで解決できる時代ではない。強くなる為には……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄上……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巌勝はハッとした。

「継国巌勝」を兄上と呼ぶ人物なぞ一人しかいない。まだあどけなさの残る顔と声で物陰から兄の顔色を伺う巌勝の実の弟。継国縁壱である。

 

(気が付かなかった。集中していたからか?)

 

 気の弱そうな見た目とは裏腹に中身は剣の道において天賦の才能を持つ化け物。生まれながらにして、呼吸を極めたものしか発現出来ない痣をその身に宿す。始まりの呼吸「日の呼吸」と赫刀を用いて、無惨を単騎で瀕死に追い詰めることの出来る唯一無二の存在。

 

 原作「鬼滅の刃」において、紛うことなき最強キャラ。出る作品を間違えたぶっ壊れ。それが巌勝の弟、継国縁壱だ。そして彼が鬼になる理由でもある。

 

「……縁壱か、ここで何をしている、父上に見つかれば叱られるだけでは済まないぞ」

「申し訳ありません。……しかしそれは承知の上。絶望と失望を滲ませながら空を見上げる兄上の姿を見かけたので思わず」

 

 図星。原作で巌勝が気持ち悪がったのも納得。気配もないのに気づけばそこにいる。当たり前のように心を読んでくる。タチの悪いことに縁壱はそれを異常だと自覚していない。

 

「…………」

「……?」

 

 縁壱の額には炎のような赤い跡。痣者の証である。肉体の記憶を探る。原作通り、親に虐待紛いのことをされているようだ。至極当然の事として受け入れているからさらに気味が悪い。そして明らかに呼吸の音も違う。

 ブラコンオーラを隠しきれていないどころか余すところなく漏れだしているのも原作通りである。

 

 

 

 

(ん? 待てよ強くなれる簡単な方法がある! 縁壱に教えてもらえば良い! 既に最強に近い縁壱に呼吸法や赫刀のやり方を教えて貰って! 

 ……そうすれば鬼にならなくても……! ならなくても────)

 

 巌勝はそこで単純な思考を止める。冒頭からわかる通り、彼の好きなキャラは「黒死牟」であり、もちろんそうなるためには継国巌勝である自分が鬼にならなくてはならない。鬼になるにはラスボスである鬼舞辻無惨から血を貰わなければならない。もちろん鬼になれば主人公達の所属する鬼殺隊から目の敵にされること間違いないだろう。

 

(俺は縁壱と違って選ばれし者ではない。痣に体が耐えきれないからすぐ死ぬ)

 

 鬼にならなければ痣者であるがために二十五を迎える前に死亡してしまう。痣は寿命の前借りなのだ。これは第二の生を得た彼の心を揺らす。会社の奴隷として命を削る日々。やっと解放されたというのに。

 そう易々と生を諦めることは出来なかった。

 

(そして、月の呼吸の漆の型までしか振れなくなる……)

 

 月の呼吸は作中で最も型の多い呼吸法である。黒死牟のみが使える呼吸であり、独自に生み出したものである。人間であった時も使用していた。

 

 壱ノ型 闇月・宵の宮

 

 弐ノ型 朱華ノ弄月

 

 参ノ型 厭忌月・鎖り

 

 肆ノ型 (原作にないから分からない)

 

 伍ノ型 月魄災禍

 

 陸ノ型 常世孤月・無間

 

 漆ノ型 厄鏡・月映え

 

 原作通りならば自らの血と肉でできた三又に枝分かれした刀「虚哭神去」がなければ捌の型以降は出せないかもしれないのだ。しかも原作で描写すらされてない型もある。そこは自分で考えなければならない。

 捌ノ型以降は、

 

 捌ノ型 月龍輪尾

 

 玖ノ型 降り月・連面

 

 拾ノ型 穿面斬・羅月

 

 拾肆ノ型 兇変・天満繊月

 

 拾陸ノ型 月虹・片割れ月

 

 である。

 

 血鬼術と月の呼吸を合わせた拾陸までの型すべてを使いたいのならば、鬼になるのが最低条件となってしまう。せっかくの転生、鬼化を拒否してあと十年程度で死ぬのは御免であった。

 

(──決めた。私は鬼になる。そして生き延びる。そのためには……少なくとも〝これ〟を超えなければ)

 

 巌勝は縁壱を見つめた。縁壱は表情一つ変えない。だが彼には分かる。目の前の弟は今己が感じているもの以上の情報を得ている。人離れした感覚とはそういうものだ。

 生き残るためにその感覚が必要だった。

 

「……兄上……? ……どうなさいましたか? 私はなにか兄上の気に障ることでも?」

「いや気にするな。……時に縁壱、お前には私を凌ぐほどの剣の才がある……と思う。そしてその特異な呼吸法。これらを私に教えて欲しい」

 

 単刀直入。プライドなどない。生死が懸かっている。少し言い方が丁寧なのは前世のサラリーマンの自分に引っ張られているからであろうか。

 縁壱は狼狽えた。

 

「そんな! 兄上より才能があるなどと……!」

「……紛うことなき事実だ。私も受け入れている。侍として常に鍛錬は欠かせぬ。……故にお前の助けを借りたいのだ」

「兄上が……私の……助けを」

「……ああ構わないか?」

「もちろん! もちろんです! 兄上!」

 

 その瞳には欠片も傲慢や優越感は感じられず、ただ兄の役にたてるという幸福に輝いていた。善意百パーセントである。

 

(ちょろい。いや純情といえばいいのか)

 

 不安だったが無事に了承してもらい、巌勝は全力で喜びたい衝動を抑えて問いかける。

 

「早速だが、お前のこきゅ……」

 

 

 

「縁壱、何をしている!? 」

 

 

 

(…………なんだ、今私は死亡フラグ回避に忙しいというのに)

 

 響く怒鳴り声が青空に嫌という程ひびきわたる。なまじ()()()()()であるだけに、威厳の籠った声だった。ただ嫌悪感に染め上がっている。

 継国巌勝と継国縁壱の実の父である。

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