黒死の刃   作:みくりあ

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廿話 兄弟で共闘

 巌勝と薫は日柱である縁壱が担当している地域の町へと足を踏み入れ、その中でも縁壱達が住む屋敷へと歩みを進める。そこかしこに藤の花を植え、隠と鬼殺隊ですら何人か常駐しているという徹底ぶり。里の真ん中を通る道には街路樹のように藤が植えられており景色を彩る。

 

(来たことは無いのになんだ……どこか懐かしい気配だ。やはり近くに鬼殺の里があるのだろう……そんなことよりも)

 

「……薫。本当に大丈夫なのか? たかが二週間程度で治る怪我ではないと思うのだが」

「大丈夫! なんだか不思議な感覚なの、体が微熱みたいに熱いのに、だるくもないし息苦しくもないの」

「それは、痣が発現した証拠だろう。特に日の呼吸の使用者に顕著なのだが……薫の派生した呼吸は日の呼吸に関連しているのか?」

「うん! 日の呼吸の繋ぐ戦い方に炎の呼吸の爆発力を重ねた型でね、暁の呼吸って呼んでる」

「……………………そうか」

 

 巌勝は天上の華のようにはにかむ薫から目線を外し、遠方を見る。薫が原作にすらない呼吸を派生させたのも興味深い。そして死中に活を得て痣が発現したのは巌勝にとって喜ばしいことだろう。だが、彼はどこか腑に落ちなかった。

 それは焦りでも、蟠りでもなくただ、

 

「もしかして嫉妬してるの?」

「…………………………いや、どのような呼吸か想像していただけだ……それだけだ」

「そう、ふふ。そういうことにしておくね」

「む……揶揄っているな」

 

(可愛いなぁ……でも戦闘になると雰囲気が一気に変わるんだよね。惚れない方が無理っていうか。隠や鬼殺隊にも極少数だけど熱をあげている羽虫もいるし……邪魔だなぁホント)

 

 因みに巌勝は柱でありながら担当する区域を持たず、他の隊士のように任務を経てから動く遊撃部隊のようなものであった。それというのも柊哉が気を利かせたから……と巌勝は思っているが実際は薫が柊哉を半ば強引に説得させたからであった。

 

「縁壱に会ったらまた日の呼吸を見せてもらえ。暁の呼吸の型が思い付くかもしれん」

「うん! さっき言い忘れたけど、巌勝君の月の呼吸も込みの«暁»だからね。巌勝君にも見せてもらうよ」

「……役立つのか?」

「もちろん。日の呼吸とは指向が真逆に近いけど体捌きや空間把握は月の呼吸の立ち回りが群を抜いているからね。それにただみたいっていう気持ちもあるよ」

「そうか」

 

 巌勝は薫の方に目線を戻して少しうわずいた声で返答する。先程とは違い、表情は喜色満面であった。

 

(簡単に上機嫌になった……やっぱり二人の旅は楽しいな)

 

 

 

 二人はそうやって話しているうちに縁壱の屋敷へとたどり着く。道中に見かけた日の呼吸の道場とは別に生活感の溢れる佇まいであった。それでも十分広いのだが。

 巌勝達が門の戸の前で身だしなみを互いに整えていると気配を察知したのか足音と共に縁壱がうたをつれて戸を開けてきた。

 

「兄上!」

「縁壱。急にすまないな。お前の日輪刀、取ってきたぞ」

「お邪魔します。縁壱君、うた」

「……態々ここまで御足労いただきありがとうございます! 薫さんもお久しぶりです!」

「おー! 薫と縁壱の兄上か! よくぞ来た。ちょうど飯ができたところじゃ、無駄に広い屋敷じゃから布団も沢山あるぞ! 今日は泊まっていくがよい」

「ああ、世話になる」

「ありがとうございます。うた」

 

 巌勝達は勢いで泊まりを勧められた。少し気圧されながらも二人は承諾する。丁度いいことに任務はまだ入っていない。

 うたが薫の痣に気づく。薫の右頬には小さいながらも丸を中心に三日月のような紋様が幾つかその丸を囲むようにして痣が出ていた。

 

「? ……薫。その痣は」

「ああ、これですか? 巌勝君や縁壱君と同じ性質のものですから悪いものではありませんよ」

「むぅ……儂だけないのか……仲間外れにされた気分じゃ」

「うた。俺が墨で描いてやろうか?」

「縁壱、それは無理がある……うたも本気にするでない………………竈から炭を持ってくるな。手が汚れるだろう」

 

 巌勝達は久々の会話に花を咲かせながら客間へと向かう……と言っても形だけの客間である。そこに着くと継国兄弟は対面に正座で座るが、薫はうたを自身の膝に寝転ばせて土産話に花を咲かせている。

 縁側から差し込む暖かな陽の光と、涼しくて体を透き通るようなそよ風が客間を流れていく。軽快で趣のある風鈴の音が既に夏であることを示していた。

 

(平和だな、途轍もなく……とりあえず日輪刀か)

 

「さぁ、抜いてみろ」

「はい。兄上」

 

 刀袋から日輪刀を取り出して縁壱に渡す。金糸で織られた紐を使った黒の下地が見える柄に、これまた職人技が光る黄金の鍔。鞘は光沢のある漆塗りの黒一色で染め上げられていた。

 縁壱がその日輪刀を握りしめて一気に抜刀する。天を向いた鋒から鍔に向けて燃えるような刃紋が煌めいている。そして焼けるような音とともに、刀の色が漆黒へと変わる。

 薫達も視線だけを巌勝達に向け、刀の色に興味を示してていた。

 

「……兄上の日輪刀は紫色でしたよね」

「? そうだが……なんだ久しぶりに見てみるか?」

「はい!」

 

 すると縁壱は巌勝の抜いた紫紺の日輪刀を見て目を輝かせ、自分の漆黒の日輪刀を見て真顔に戻る。二振りの日輪刀を交互に見た結果、眉尻を下げてなんとも言えない顔をする。

 

「……縁壱、そう気を落とすでない。私も黒は好きだぞ。それにだな……うたの目と同じ輝きではないか」

「……!」

「そうだぞ縁壱……ひょっとするとあんまり嬉しく……ない……のか?」

「!? そんなことはない! 俺は自分の刀がうたの目と同じ色で嬉しい!」

 

 うたの悲しい顔をこれ以上見ていられなくなった縁壱は万能薬を投じる。刀を瞬時に納刀し、うたに向かって両手を広げ、微笑みを浮かべた。

 

「うた、俺は嬉しいぞ。お前と同じ刀の色だからな」

「! 縁壱!!」

 

 

 

 要するにただの抱擁である。しかし家族らしいこの行動がうたは大好きであった。太陽のように温かい体温で優しく包まれると心の底から嬉しくなって頬が緩むのだ。

 そして行動そのものではなく、縁壱だからこそ大好きであることにうたが気づくまでまだ少し時間がかかる。

 

「ごめんなうた。お前の気持ちを俺は分かっていなかった」

「うむ! 許す! 故に暫しこのまま続けろ!」

「ああ」

 

(……大胆だな。だが、劣情は一切ないのだろう)

 

 互いに幸せそうに戯れ合う姿はまるで兄妹のようであった。縁壱とうたが幸せそうにしているのを微笑ましく思っていると薫が四足になって近寄り、巌勝に撓垂れかかるように座った。不満そうな表情を浮かべている。

 

「……あまり男女の戯れは見ない方がいいんじゃないですか。特にうたさんは女性ですよ」

「ああそうだな……っ!」

「外じゃなくてほら、私だけを見なさい」

 

 薫が巌勝のかいた胡座の中心に両膝を着く。すると、ちょうど縁壱達が見えないように巌勝の視界は薫で埋まる。巌勝の両頬には薫の手が添えられた。

 独占欲を見せた薫がいつもより魅力的に見えた巌勝は無意識に片手を薫の頬に添える。すると薫は嬉しそうに目を細めて顔を傾け、巌勝の手を肩に押し付ける。

 

「何処か懐かしいな」

「巌勝君に初めて会った日の次の日。朝日を見に行く巌勝君を追って稽古をつけてもらった時ですよ。その時は────」

 

 薫が屈み込むことで二人は至近距離で見つめ合う。長い睫毛に縁どられた琥珀色の目が巌勝を写し、深淵の様に全てを飲み込むような漆黒の瞳が薫を包み込む。

 

「これぐらい近かったですね」

「あ、ああ……」

 

 巌勝はその色香に頭が思考を放棄する。女性として成熟が近づいていることがわかる凹凸があり、丸みを帯びた健康的な体つき。白紙のような肌に、細く女性らしい指先。汗ばんだうなじから微かに漂う薫の香りが脳を揺らす。

 外からみても筋肉質な体躯。ひんやりとしている男らしい手が刀を握る時と違って壊れ物を扱うように優しく添えられ、どこまでも黒い目が最愛を写して優しく垂れる。戦場とは打って変わって溢れ出る男の色気に薫はときめいた。

 

(妾も側室も許さない。誰にも渡さないし希望すら抱かせない)

 

 互いに愛し、愛されていることを確認した。ならばあとは────

 

 

 

 

 

 二人は縁壱達に目線を向けられているのに気がつく。薫も気がついたようで顔が引き攣り、さらに朱に染まっていく。薫の影から顔を出すと、縁壱達が唖然としていた。うたに至っては顔を真っ赤にして言葉を失っている。

 

「……兄上、お、俺は退出しますのでどうぞ続きを」

「………………ぉ」

 

 巌勝はいたたまれぬ顔をする。薫は再起不能になっていたため、どうしたものかとため息をついた。

 余談であるがこの時、縁壱達は薫が影になってわからなかったが二人が接吻したと思っていた。薫もそう見えていたことに気がついた。そして、室町時代における接吻は性行為と同じ扱いをされていた為、巌勝はどこか楽観視しているのに対し、薫は頭から火が出そうであった。

 

 

 ★

 

 

 未明、まだ朝日は昇っていない。巌勝は立て掛けてあった木刀を構えて月の呼吸を広い庭で振り続ける。

 

(血液の濁流、細胞の蠢動、筋肉の圧力、腱の伸縮、骨の硬化、関節の可動域、心臓の鼓動)

 

 聴いた者が生来的恐怖を感じるような呼吸音と共に木刀を振る。今までで何千何万回と繰り返している型。繰り返す事に重心の移動や痣の発動段階を見極める。鬼になれば、こういった肉体の疲労に気を使う必要もなくなる。しかし無惨が最終決戦で能力を使用しすぎて疲れていたところを見ると鬼でも体の使い方は心得ていた方がいいらしい。

 

「こんなものか」

 

 巌勝は汗一つかいていない。もちろん態とである。そうすることで熱は身体を駆け巡り、皮膚の表面も体温が高まる。一日中この状態を維持することで身体を高体温に慣らす。

 風に当たっていると気配が近づいてくる。縁壱であった。日輪刀を腰に差している。

 

「おはようございます兄上。精がでますね」

「おはよう縁壱。お前も朝から鍛錬か?」

「いえ、どうやらこの町から出ようとする者を鬼が待ち伏せして襲っているいるらしく、討伐しに行きます」

「なら私も行こう。朝日が昇っては遅いからな」

「なっ!? 兄上も赴かれるのですか!」

「……何を。そこまで驚くことは無いだろう。あまり大声を出すな。皆が起きてしまうぞ」

「申し訳ありません。俺は嬉しいです。ただ……今の兄上が刀を振るうと山のひとつやふたつなくなりそうだなと」

「ふっ。そんな馬鹿げたことはない……はず…………だ」

 

 巌勝は回想する。まず十歳の縁壱との稽古で既に大木を何本もなぎ倒し、ほぼ一年後の最終選別で鬼を全滅。序に所々森や地表を禿げさせ、縁壱と再会後の稽古では林を更地へと変え、最近では、どの道引っ越すのだからと刀鍛冶の里で鬼よりも家屋を倒壊させている。

 

「……兄上。そこで詰まらないで頂きたい。俺はなんだか怖くなってきました」

「安心しろ。大丈夫だ縁壱」

「……! 兄上!」

「お前や里は巻き込まないように善処する」

「!?」

 

 なんだかんだあって最強の鬼。黒死牟(未)の巌勝と、原作最強である縁壱の兄弟がたかが数匹の鬼へと牙を剥いた。

 

 

 

 ★

 

 

「縁壱、継子の育成に力を入れすぎて腕が鈍っているのではないか? 私はもう五体目だぞ」

「兄上の飛ぶ斬撃は反則です……」

「それもそうだな」

 

 会話しながらも息一つ切らさずに鬼の首を刈り取り続ける二人。縁壱は当たり前のように刃を赫くしていた。巌勝は赫刀を発現するととんでもないことになるので握力は抑えている。紫紺と赫の斬撃が未明の山を駆け巡る。

 

「兄上。これが終わったら俺の道場に顔を出してくれませんか? もちろんお忙しくなければですが」

「今日は任務も入っていない。別に構わないが何故だ」

「兄上には、俺の継子達に稽古をつけてもらいたいのです」

「益々分からん。お前が継子だと認めた者だ。私が口を出す必要はないだろう。それに日の呼吸と月の呼吸はほぼ真逆の立ち回りだぞ」

「それは大丈夫です。実を言うと、あの者らは最近天狗になってましてね……憖才能はあるだけにいざ勝てない敵に遭遇した時が心配なのです」

「ああ、そういうことなら了承した。任せておけ」

「ありがとうございます兄上! ではさっさと終わらせましょう」

 

 そう言うと縁壱はさらに速度をあげて走り出す。ここからは巌勝と別行動をするという暗示でもあるのだろう。剣の才に加え、序とばかりに備わった研ぎ澄まされている五感によって捉えられた鬼はすぐさま赫刀の餌食となった。

 接近から鞘を握りつつの、抜刀一閃。

 

「グエッ!」

 

 その勢いのまま日輪刀を両手持ちに変え、袈裟懸けに振り下ろす。

 

「た、助けェッ……!?」

「……ゲゲッ! 鬼狩りか!」

「数が多いな。近々里に侵攻でもしようとしていたのか? 不幸な事だ。ここには兄上が滞在して…………いや何を言っている。不幸なものか。兄上がいらっしゃるのだ、幸せに決まっているだろう」

「な、何を言っている! よせ! 近寄るな!」

 

 怖気付いて混乱している鬼も、焔のような熱を纏った水平斬りで首を落とす。そこに慈悲は無い。

 

「ギッ……!」

 

 今切った数匹の鬼の中に親玉であるそこそこ強い名付きの鬼が居ることにすら気付かず、縁壱は次の目標へと狙いを定める。いつも浮かべている感情の抜け落ちたような表情ではなく、その目は兄と鬼狩りができる幸せに輝き、口角は少し上がっていた。

 

 

 

 

 縁壱と別れた巌勝はとりあえず鬼の匂いのする方向へと向かう縁壱とは違って、直感の示すままに方向を変えながら鬼へと向かう。

 

「……この辺りか?」

「!? なんでここ……ガッ!」

「当たりだ」

 

 鬼たちがいくら血鬼術で気配を消していようと巌勝によってあっさりと暴かれ首を切られる。悪夢以外の何者でもない。違和感のある茂みを漁ると案の定鬼が潜んでいたので首を切る。また、移動中に何となく空を見上げると透明になっている鬼と目が合う。どうやら木の枝につかまっているようだ。

 

「そこだな」

「クソ! 見つかったか! だが、ここまでは追ってこれま…………え?」

 

 この鬼も不幸であった。縁壱であればもしかすると気づかない。若しくは枝を足場に追ってきた為、短時間寿命が伸びただろう。

 巌勝は天空に向けて刀を切り払う。飛月によって容易く頚椎をぶつ切りにされた鬼はまさか切られるとは思っていなかったのか素っ頓狂な表情を浮かべながら胴体とともに落下していく。

 朝日が昇る直前には二人によって里を取り巻く鬼は全滅していた。折角なので二人で朝日を拝むことにした。

 

「兄上は継子を取らないんですか?」

「……今更何を。私の悪評が広まっている中、型を習いたいものなぞ逆に正気を疑うぞ」

「そんなことはありません! 兄上の型は美しいです! なんなら私の道場で教えましょう! それがいいです!」

「…………分かったが……斬撃を飛ばせそうな剣士はいるか?」

「………………」

「縁壱、おい縁壱、目をそらすな」




縁壱
日柱の道場を建てて後継育成に務める。原作より早い段階で柱になったため育成は順調で長目に見ている。最近うたが道場の弟子達の人気を集めているのを知り、うたが受け入れられているのを家族として喜ぶと同時に少し胸が痛んでいる。
うたは俺のこと、どう思っているんだろうか

うた
日の呼吸を舞い始めた。縁壱が一日の大半を道場での育成で過ごすため、差し入れのご飯などを持って道場へと何度か赴いている。道場には縁壱と同い年の女性もおり、手取り足取り教えているのを見てなんだか泣きだしそうになり、何度か家に帰った。縁壱は最近笑顔に影が射しているうたを心配してできるだけ早く帰ってくれるようになった。うれしい。
縁壱は家族じゃが……兄か?父か?弟か?それとも……


最近巌勝が今までよりもかっこよくみえて仕方がない。道場に行く?ええ、帰りをお待ちしております。それとは別に敵情視察に行っても構いませんよね?

巌勝
最近薫が今までよりも可愛く見えて仕方がない。道場に着いてくる?ああ、構わないとも。別に大輪の花に集る虫は駆除しても構わんのだろう?

作者

薫ちゃんの痣を考えるために「痣 タトゥー」で検索したら鳥肌たちすぎて鳥になった。痣は一から考えた。鬼滅キャラの痣を見たい人はしっかりと「痣 鬼滅」で検索しよう!
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