黒死の刃   作:みくりあ

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感想、誤字報告ありがとうございます!
サブタイトル付け足しました!元々サブタイトル的なのは考えていたので余り内容から外れてはないと思います。


廿弐話 水面下(ヒロイン+縁壱視点)

 巌勝君が弁当を忘れていることに気づいた私は、日柱である縁壱君の道場へと向かっている。

 

「♪ 〜♪♪ 〜♪」

 

 弁当を忘れた恋人に弁当を届けに行くなんてまるで夫婦みたい。今の私はとても機嫌がいいから町にいる鬼殺隊の有象無象が私のことを不躾な目線で見ても流してあげる。私って優しいな。

 

 道場に着くと、何やら騒がしい音がする。いつもの稽古を見ていないから分からないけど、縁壱君の稽古ってかなり厳しいのかな。とりあえず無骨な広間の戸を少し開けて……

 

 

 

 

 

「お邪魔しまー……」

 

 

 

 

 

「うわぁぁあああ!?」

 

「ひゃっ!?」

 

 開けた瞬間なんと人が飛んできた。何を言っているのか分からないと思うけど、私も何が起きたのか分からない。

 視界に人の背中がめいいっぱいに広がるが、間一髪でなんとか避けれた。日柱の弟子らしき人は屋外に飛び出したあと、受け身に失敗して何回か転がって動く気配がない。息はしているみたいだから気絶したと思う。

 

 

 

 ────そんなことよりも

 

(巌勝君はどこに……)

 

 

 

 結果的に巌勝君はいとも簡単に見つかった。だって道場のど真ん中で木刀を持った弟子を相手に素手で応戦してたから。

 差し出された木刀の突きを刀の側面を手の甲で打つことで払い、足を狙った低い水平切りを跳躍して避け、背後に着地して後ろ回し蹴りを繰り出す。弟子君が刀で防御しても刀ごと吹き飛ばされた。

 動きをある程度見極めてから最小限の動きで全てを叩き壊す流れはまるで鬼神。

 

「……かっこいあ」

 

 動く度に揺れる長髪、振り回される靱やかで力強い脚、腕捲りして血管が浮き上がっている腕。表情が変化しない顔。

 

 

 ────その全てが私を狂わせる

 

 

 そして稽古が終わったら一人一人に助言を施している様子……その優しさも気遣うような顔も私だけに向けて欲しいけど巌勝君がそうしたいのなら仕方ない。家に帰ったらその分まで沢山構ってもらおう。

 私が見蕩れていると道場の雰囲気が変わった。どよめき、どこか浮いている。

 

 

 

「……お前と再会する度に戦ってばかりだな」

「私は兄上と戦えて嬉しい限りですがね!」

 

 

 

 ……なんと縁壱君が巌勝君に斬りかかっていた。

 道場の荘厳な雰囲気が一気に様変わり。木刀とはいえ二人の柱が繰り広げる剣戟の応酬は大層心踊り、特に巌勝君は普段よりも表情が豊かになっている。そして決着の瞬間はさらに心が昂った。最終的に縁壱君の木刀が折れて、縁壱君は不本意そうな表情を浮かべていた、仕方ないけど得物が使えなければ戦えないから決着は決着だ。

 周囲に混ざって私のできる精一杯の拍手をする。剣士として、いいものを見せてもらいました。

 さて、私も弁当を届けるという役目を果たし……

 

「月柱様! 今の飛ぶ斬撃はどうやったのですか!?」

「あれはだな……少し説明に困るが……」

「巌勝様、お時間があればもう一戦よろしいですか?」

「まずは……飯を取りに行かせろ……それからだ」

「日柱様とは本当に兄弟でいらっしゃるんですね!」

「ああ」

 

(弟子たちが寄ってきた……女も巌勝君の着物をべたべたと……)

 

 嗚呼──煩い、五月蝿い、苛立たしい、煩わしい、忌々しい、腹立たしい、厭わしい、鬱陶しい……

 

 巌勝君が受け入れられて嬉しそうだから良かったものの、対応に困っているみたいだ。彼の為にも私が行って邪魔な虫は排除してあげないと

 

「おおっ!? うたさんと同じくらいの美人さんじゃないですか」

 

 ああ、軽い男だ。以前、鬼殺隊にもこんな男が寄ってきた時があった。名前は忘れたけど。私の顔はあなたに見せるためにあるんじゃない。

 

「もしかして鬼殺隊だけど弟子入り志望? じゃあ……あちらの日柱様に……」

「その容貌……なんなら拙者たちが推薦して差し上げるで御座る。その代わり……」

「お気遣いありがとうございます。弟子入りではありませんので……」

「あ、じゃあその弁当をどなたかに届けるおつもりだな、俺が渡しておいてあげようか?」

 

 有象無象達が私の前に立ち塞がってきた。かなり困った。無理言って道場に入ろうとしても今縁壱君は一人一人に指導中だし、巌勝君はこの人達が壁になって気づいていない。かと言って無理矢理入ってしまえば、この男達に不審者として取り押さえられそうだ。避けるのは容易い。けれど巌勝君のためにうたに教えて貰いながら頑張って作った弁当だ。

 崩れてしまえば巌勝君が食べにくなってしまう。斬っちゃおうかな。

 

 

「ん? ……なんとか言えよ女。聞こえてないのか? ……しかし本当に別嬪だな」

「さっきからずっと微笑んで固まっていますし……もしかして其方に惚れたのでござろうか?」

「勝手に決めつけるな! それに……俺にはうたさんが……いやこの女も負けず劣らず……」

「あれは日柱様の御家族でござろう。日柱様に目をつけられても知らぬぞ」

「わかっている! ……わかっているが……」

 

 

 ああ、私としたことが……そういえばこの方達は縁壱君の弟子達だったなぁ────仕方ない。

 四肢のどれか一本で手打ちにしてあげよう。それがいい。

 これでも私と巌勝君の逢瀬を憚る屑にしては安い方だったけど。確か以前の方は、巌勝君は鬼の手先だから一緒に行動しない方がいいと言ってたから、態と煽って名付きの任務に行かせたっけ。その上うたにすら劣情を抱くとは、救いようのない屑。

 腕にしてあげよう。足だと鬼殺隊に入った時に不利だろうからね。

 

 

 

 

「おい……貴様ら……薫に詰め寄って……何をしている?」

 

 

 

 嗚呼、私の旦那様が来た。私のためだけに。

 彼のいつも変わらない表情が今回ばかりは不快を全面に表している。あれだけ動いていたというのに汗ひとつかかないのはどういう体の構造が気になるなぁ。

 

「なんだ、月柱様の奥さんか。薫って言うのか。勘違いして悪かった」

 

 そう言って手を差し出してくる。この人は頭に脳みそが詰まってないのかな? もうさっさとどこかへ行って欲しい。つい手が出そうになるのを抑えるために巌勝君の顔を見て気を紛らわせよう。

 

「……行くぞ薫。弁当を態々持ってきてくれたのだな。助かった……感謝する」

 

 感謝の言葉を求めているように捕らえられたけど、まぁいいや。褒められて悪い気はしないからね。

 

「はい!」

 

 しかも巌勝君が独占欲を……満足満足。もう全部許してあげる。屑を斬るよりも巌勝君と過ごす方が断然良いに決まっている。不機嫌に屑達を睨みつけている横顔さえも愛おしい……

 

「えぇー……名前く……ら……」

 

 執拗かったので振り返って男の顔を見つめる。今私はとてもいい気分だから。邪魔しないでっていう気持ちを込めて。屑さんは顔を青白いを通り越して真っ白にして震え出してしまった。可哀想に。

 すると、誰か近づいて来る気配がしたけどこれは……

 

 

「ほぅ……兄上とその奥方に対して斯様な物言いとは……偉くなったものだな」

「ひっ……日柱様……!?」

「た、助け……ぐえっ……」

 

 

 縁壱君が屑達を小脇に抱えて申し訳なさそうに一礼して去っていった。

 あちらはもう大丈夫そう。ああ、女性がこちらに駆け寄ってきてる。最終選別の時は阿茶さんとか言ってたっけ……後回しにしてね。私がいるから愛人や妾志望とか許さないけど渋々去って行ったから十中八九継子になりたいのかな? 

 兎に角────

 

 

 

 

 

 

 ────早く鬼になりたいな

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

 夜。私は兄上の傍に座り込んで、体を揺すり起こす。最近私呼びが板に付いてきた。兄上と同じと考えるとつい微笑んでしまう。

 

(そんな私の微笑みを兄上はどこか不気味だと言っていらっしゃった。いくら兄上とは言え心外だ)

 

 兄上はすぐに起きて下さった。眠そうな目を擦っていらっしゃるのを見て少し……いやかなり罪悪感を感じた。瞳には困惑が浮かんでおり、訳を説明しなければならないのはわかっているが今訳をいえば朝でいいだろうと言ってしまわれるだろう。そして朝になると兄上が任務に行かれるかもしれない。

 

「……む……どうした縁壱……もしかして厩か?」

「お願いします兄上、着替えて日輪刀を持って一つ山を超えた薄原まで来てください」

 

 兄上は夜の暗闇に目が慣れてきたようだ。寝ぼけていらっしゃるようだがここは聞かない振りをする。ただ少し魅力的な考えだと思った。

 私は白、黒、黄土の着物に黒い袴を白い紐で縛り、暗い赤の羽織。漆黒の日輪刀を腰に差して髪も結っている。これぞ私の鬼狩りの装いであった。そして私なりの誠意の表れでもある。

 兄上は上体をゆっくりと起こす。

 

「……鬼でも出たか?」

「……そんな感じの……ものです」

「…………なんだ……歯切れが悪いな……とりあえず了承した……先に向かっていろ……すぐに追いつく」

「ありがとうございます」

 

 了承してくれたのでは私は屋敷を出ていく。

 兄上を見たところ余り疲れていないようだ。日中あれほど戦って教えてを繰り返していたのに加え、午後は月の呼吸を披露してくださっていたのにだ。

 その型が余りに不可解すぎて漏れなく全員お手上げに近い状態であった。刃を飛ばす必要はなくても、太刀筋とは違う斬撃を繰り出さなければならず、その上必要以上に相手を傷つける剣技であった。実際に鬼を肉片にしていた。

 私の呼吸から派生した五つの呼吸はどこか日の呼吸の面影を見せるものがあるが、兄上の月の呼吸は態とと言っていいくらい真逆。真逆であるが故に日の呼吸を知る者は月の呼吸を見た時、日の呼吸を連想するだろう。日の呼吸が一番上手で、かつ兄上の継子希望の阿茶ですら一度も成功していなかった。

 それでも疲れの兆候すら見せないのは私と同じ体質のようで少し嬉しい。

 枝や木や岩を足場にして山を登り、跳躍と受け身を交互に行いながら山を下る。一山超えると広大な薄原が広がっていた。

 

 

 

 

 

 先に薄原に到着し、少し待っていると兄上が近づく気配がした。

 

「……待たせたな縁壱」

 

 兄上は白の着物に腕を通し、黒と紫の水玉(っぽい)色の羽織を羽織り、黒袴に白い帯を巻いている。夜空に浮かぶ三日月が薄野と兄上を照らし、幻想的なまでに荘厳であった。

 

「よくお似合いです兄上」

「ああ……縁壱もよく似合っている……本当に……それで、なんのために私を呼び出したのだ」

「まずは謝罪を。兄上を夜分遅くに呼び出して申し訳ありませんでした」

 

 私は頭を下げる。

 当たり前だ。ゆっくり寝ている兄上を起して、鬼狩りの装束まで着込ませたのだ。それに早く準備しようと思ったのか、いつも差している二本目の刀ですらお持ちでない。要らぬ心配をかけさせてしまった。もう少しいい言い訳があったであろうに。

 

「……謝罪を受け取ろう縁壱。怒らないからとりあえず訳を話してくれ」

 

 兄上が私を見つめて真剣に聞いてくださる。

 この目だ。向けられた者の深淵まで見通されそうなほど覗き込んでくる目。私の視界とは違う見え方なのだろうか……

 私は深呼吸をして答える。

 

「もちろんです兄上。単刀直入に言うと……兄上には俺と斬り合ってもらいたいのです」

 

 沈黙が流れる。兄上は困惑しているようだ。本気で斬り合うのはいいとして、何故このような場所で夜に呼んだのか不思議に思っていらっしゃる。そう、私は兄上と一度、本気でいいので斬りあってみたかった。それには理由がある。

 

「兄上。私と兄上がまともに斬りあったことは一度もありません」

「……そうか?」

「そうです。最初は木刀かつ兄上の初見殺しによって一瞬で終わり……」

「……ああそうだな。……懐かしい」

「再会したあとは村の林で勝てそうだったのに兄上が暴走して仕方なく終わり……」

「…………ああそうだな、あれは……すまなかった」

「今日とて木刀かつ弟子の前だから日本一優しい兄上は手加減してくれました」

「………………ああ」

「私たちは一度もまともに斬りあっていません」

 

 精一杯、兄上に理由を説明する。これで了承してくれなければ引き下がるしかない……これはただの我儘なのだから。

 

「ふっ……」

 

 すると、兄上が不気味な笑みを浮かべながら柄に手を乗せる。私は少し身震いとしてしまった。透き通る世界でも感情がわからず、なんで笑っているのかも分からなかった。

 

(……私の笑みもこんなに不気味なのだろうか……そしてこれを見る兄上もこんな気持ちなのだろうか)

 

 一つ懸念すべき事案が出たがそれは後回しでいい。こうなったときの兄上は手加減を一切しない。

 大気が震えると錯覚するような剣気────殺気や威圧感等を複合したそれは今まで感じたことの無い、桁違いの迫力であった。

 

「いいぞ縁壱。兄弟水入らずで斬り合おうでは無いか」

「それでは……最後に。私は一つ兄上に聞きたいことがあります。勝負に勝てば答えて下さらないでしょうか?」

「………………申してみよ」

 

 

「兄上は私に隠し事をしていらっしゃいますよね? 私が勝ったら、それを話してもらいます」

 

 

 兄上の威圧が嘘のように霧散する。

 困惑、理解不能、焦燥。何か心当たりがおありなのだろう。ついでにとは思ったがここまで心を乱されるとは思わなかった。

 

(やはり兄上は隠し事をしておられる。弟としては聴きたい気持ちがはやる)

 

 兄上は本心を明かさぬ人だ。それはこれまでのやり取りからよくわかる。さらに月の呼吸の継承者がいないと言うのに弟子を作ろうともしない。ある程度の道を極めた者はそれを後世に残そうと必死になるものであるが、兄上からはそういう気持ちは全くと言っていいほど感じ取れない。

 まるで自分の技術が残してはいけないもののように。

 恐らく薫さんは兄上の秘密について知っているのだろう。あの人と接する時の兄上は素をさらけ出しているように感じるからだ。尊敬する兄上のことだ。何か訳があるのだろうが。

 

(そこで引き下がれるほど弟は捨てていない)

 

「……いいだろう。私に勝利すれば答えてやろう」

「……本当ですか!?」

「ああ……男に二言はない」

「ありがとうございます。それでは早速────」

 

 日輪刀を握りしめて鞘の中で赫く変える。

 さぁ、ご覧下さい私の全てを。

 呼吸をして技を繰り出す準備をする。

 

 

 

 ────ゴォォォオオ

 

 

 ────ホオオオオオ

 

 

 

 あの日、私が出ていく一年前。兄上は私に言いましたよね。

「私はその孤独を、痛みを知っている」と。ならば私にも兄上の孤独を背負わせてください。それが私なりの兄孝行です。

 兄上を下した上でその腹の中を全て聞かせていただきます。




兄上と縁壱の服装ですが、原作通りを想像していただければ。なんなら体格ももう原作と同じくらいです。
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