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天才は追いつくためには努力するしかない。だがその者が天才に加えて秀才だったのなら……誰も追いつけないのは自明の理。天才は努力の天才でもあるのだ。
(狙いは首か!)
巌勝は察知し、日輪刀を首まで持ってくる。
瞬間、縁壱の姿が消え失せ、首の刀に金属が弾かれる音とともに尋常ではない衝撃が加わる。そして背後に縁壱の気配を感じた。
(全く見えなかった……!)
縁壱は踏み込みと同時に走り出しすれ違いざまに抜刀し、切りつけたのだろう。だとしても見えなかった。
抜刀攻撃は鞘滑りがあるから威力が増す。だが一撃で痣者である巌勝の体幹を崩す程とは化け物じみている。
「踏み込みで地面がひび割れるとは俄には信じがたいな」
縁壱の肉体は全盛期にほぼ近い。しかし圧倒的力量差にもかかわらず、巌勝は高揚していた。見えずとも防げたということは裏を返せば見切ることができたということ。今の一撃で体が完全に起きた。勝負はまだまだこれからである。
(原作のように一撃では首を捕えさせなかった。私は戦えている……この天才を目標に積んだ修練は間違っていなかった)
縁壱が振り向き、その刀身を露わにする。
刀が赫く染まっているという生半可な表現では表せない。巌勝の赫刀が蜃気楼のように見えるほどの熱量。赫刀の発動条件は三十九度以上の体温であるが、縁壱はそれを超える体温を常に保っておきながら顔色ひとつ変えずに技を繰り出す。
────これが最強
「今の一撃に全霊を込めて倒すはずでしたが……」
(なぜ兄上に悟られたのでしょう? ……まぁ兄上ですから!)
«日の呼吸 壱ノ型 円舞»
«日の呼吸 肆ノ型 灼骨炎陽»
«日の呼吸 漆ノ型 斜陽転身»
«月の呼吸 弐ノ型 朱華ノ弄月»
円舞の威力、灼骨炎陽の薙ぎ払い、斜陽転身の反転跳躍。
巌勝の朱華ノ弄月は三連撃中、胴と首を狙った二撃が灼骨炎陽に薙ぎ払われ、足は斜陽転身で回避された。縁壱は空中で回転しながら水平切りを叩き込んでくる。
«月の呼吸 陸ノ型 常世孤月・無間»
巌勝は本来飛ぶはずの飛月を全て日輪刀に纏わせて、迎撃する。ただでさえ一撃一撃が必殺の斬撃に威力がさらに上乗せされ、縁壱の刀を弾く……否、受け流される。
縁壱は既に他の型を振るう目処が立っていた。
«日の呼吸 陸ノ型 日暈の龍・頭舞い»
«日の呼吸 弐ノ型 碧羅の天»
«日の呼吸 伍ノ型 陽華突»
«日の呼吸 拾弐ノ型 炎舞»
(……ふざけるな!?)
太陽が如き輝を放つ龍、それが三体。
それぞれ碧羅の天、陽華突、炎舞の性質を持ち、顎を開いて巌勝に差し迫る。
────爪牙を用いて薙ぎ払う碧羅の龍。
────角を振り上げて突いてくる陽華の龍。
────顎を開いて噛み砕こうとしてくる炎舞の龍。
それらがほぼ同時。
«月の呼吸 拾陸ノ型 月虹・片割れ月»
本能的に一番威力の高い型を繰り出す。三つの頭蓋を上から降り注ぐ巨大な三日月によって刺し貫く。桁違いの威力によって地割れが起き、土煙が巻き上がる。
«日の呼吸 拾壱ノ型 幻日虹»
(使い勝手のいい技だな)
しかしそこには縁壱はいない。太陽の龍は縁壱が闘気によって創り出した囮であったのだ。最後の型を繰り出した巌勝。その隙を逃がす縁壱では無い。
«日の呼吸 玖ノ型 輝輝恩光»
«日の呼吸拾ノ型 火車»
立ち込める砂煙の中から縁壱が巌勝に向けて突貫してくる。そして直前で跳躍し、背後から一撃を入れてくる。
巌勝は闘気を出したり抑えたりして揺らぎを作り、間合いをとる。縁壱の攻撃が当たらず、巌勝の斬撃は通る程度に。原理は霞柱・時透無一郎の霞の呼吸と同じ。背後から迫った火車は巌勝の煙のような存在感によって避ける。
«月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満繊月»
そうやって至近距離まで近づかせてからの広範囲に渡る斬撃の嵐。すると巌勝は縁壱の足の筋肉に血が集中しているのを透き通る世界で視る。
(この流れは……跳躍で避けてからの碧羅の天か?)
巌勝はそう結論付けて上に向けて刀を振るうが縁壱は真っ向から巌勝の斬撃を掻い潜り肉薄する。
(想定と違う!? ……血流操作か!)
岩柱・悲鳴嶼行冥が黒死牟戦においてやってのけた技術。ならば始まりの呼吸の剣士である縁壱ができて当然。透き通る世界持ちに対しては初見時に裏をかくことが出来る切り札とも言える技。
巌勝が気づいた時には斬撃を掻い潜った縁壱の赫刀がすぐそこまで迫ってきていた。
«日の呼吸 参ノ型 烈日紅鏡»
«日の呼吸 捌ノ型 飛輪陽炎»
«月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾»
呼吸の型を無理矢理変える。型をいきなり変えるのは体の負担が大きいが、痣者の肺活量を持つ巌勝にとっては余り苦ではない。
縁壱の必殺の一撃を真っ向から叩き潰す。何とか着物を裂かれる程度に抑えた。
寸でのところで防がれた縁壱は不満顔。
「……そこまでして聞かれたくない隠し事なのですか」
「……」
「ですが、約束は守ってもらいます」
「分かっている。さぁ続きだ」
縁壱が再度斬りかかってくる。手の甲を狙った一撃を巌勝は日輪刀から手を離すことで回避し、無手による拳の乱打と蹴りで縁壱を吹き飛ばした。
「……兄上、もろに私が食らっていれば私の腹に兄上の手が貫通していましたよ」
「お前なら避けれると思ったからな、それにお前の斬撃も、避けなければ私の手首は体と泣き別れだ」
「……長引けば朝になります……故に終いとしましょう」
縁壱は刀を鞘に収める。困惑する巌勝を置いて縁壱は〝溜め〟を作る。あらゆる点において力を溜めなくても最高の力を振るう縁壱が溜めることの驚異性。
「っ!」
鞘滑りからの────
円舞、碧羅の天、烈日紅鏡、灼骨炎陽、陽華突、日暈の龍・頭舞い、斜陽転身、飛輪陽炎、輝輝恩光、火車、幻日虹、炎舞。
────総数……十九連撃が一呼吸でほぼ同時に迫り来る
(これが本当の拾参ノ型……! 繋ぐ速度をひたすらに早めたら型と型の時間差は減っていくが、拾弐ある型がほぼ同時に放たれるとは!)
巌勝はあっさりと刀を弾かれて無様に腰から倒れ、縁壱がその首に日輪刀を突きつける。
「見事。お前がこの国で一番強い侍だ」
────勝負あり
(おまけ)
「……縁壱、お前の勝ちだな」
「はい」
「変なことを言うようだが……この体勢のまま……〝命をなんだと思っている〟と言ってみてくれ」
「……?」
「いいから……威圧するように」
「人の命をなんだと思っている?」
「……鬼の始祖の気持ちがよくわかった気がするぞ」
「……兄上、一体どうされた?」
★
巌勝は深呼吸をする。
この事実を今の縁壱に伝えることが原作にどれほど影響するのか分からないが、こうまでして慕ってくれている弟に対して、事実を調弄すのは人として間違っていると思ったのだ。巌勝も毒されているのだろう。
縁壱は真剣にこちらを向きながら巌勝の言葉を待っている。
「縁壱、私は鬼になる所存だ」
「……は」
「嘘や妄言ではない」
「な……ん…………で! 兄上が!?」
縁壱が驚きのあまり立ち上がる。
巌勝は「とりあえず、座れ」と縁壱を宥める。言われるがままに座る縁壱だが心の内は困惑と驚きで埋め尽くされていた。目は見開かれて、虚空を見つめている。かなり重症のようだ。当たり前の反応である。尊敬し、敬愛する人物が突然人を喰らう化け物になると言い出せば誰でさえも混乱するだろう。嘘と断定するかもしれない。しかし聞こえてくる声色に嘘の香りは含まれていなかった。
「鬼の始祖とも話した。そして薫も鬼にする……本人も承知している」
最早縁壱は空いた口が塞がらなかった。頭が真っ白になっている縁壱は話の流れに置いていかれそうである。ここで巌勝を斬り伏せるという発想が出てこない当たり、ブラコンは健在のようであるが。
少し待って縁壱を落ち着かせてから巌勝は話し始める。
「その視覚を持つお前なら薄々気づいているのだろう……自分の体が二十五を過ぎても……痣の代償を払わなくても良く、八十程まで生きていられることに……」
「……ええ、恐らくそうだろうとは思っています……
しかし! それは兄上も同じ事では!? 私と同じ、もしくはそれ以上の視覚を持ちそこまで鍛えられた肉体であるならばっ! 私のように数十年先まで生きていられる筈! 故に鬼になってまで寿命を伸ばす必要はっ……」
────縁壱、薫は痣を発現しているのだ……
「……っ!」
縁壱はつい巌勝の方に顔を向けてしまう。
月を見上げる巌勝の瞳は子供のような羨望と歪み切った絶望が混在していた。その混沌とした中に『継国巌勝』という人格は形成されている。
これが薫以外に見せた巌勝の素であった。その希望は薫の存在そのものであり、彼の心を人につなぎ止める役割を果たしていた。
(これが兄上の本質……)
「私は……置いていかれたく……ないのだ……お前にはうたがおり、うたにもお前がいる。五十年以上先もな……たとえ我らが鬼を殺し尽くして真っ暗な夜が終わったとしても……私は……
薫のいない夜明けなど……見る価値を欠片も感じられない……!」
(兄上はなんでも出来るし、悩みなどないほど満ち足りていると思っていたが……そう思っていた自分が恥ずかしくて堪らない……兄上だって等身大の人間だ。しかもその生きる目的はただ、想い人と添い遂げたいだけなのだ……その思いだけはどこまでも純粋で美しく……そしてどこまでも人間らしい。鬼になるとは思えない)
「お前たちは子を成し御館様の保護の元、後継を育成しながら余生を過ごすのだろう……もし鬼殺隊を辞めたとしても、私に残された時間は恐らく五年もない……このまま私が柱を引退して自由になった時、薫は既に他界している」
「それは……」
「そうやって……生きた屍を晒すのは御免だ」
紛れもない本心。
月が影になって縁壱は巌勝の顔が分からない。しかし縁壱の五感全てが耐え難い悲しみを巌勝から感じ取っていた。
「兄上は……人を喰らうおつもりですか……?」
「鬼が人を喰らうのは仕方ないことだろうが……抗ってみせる。人の肉ではなく血ならば半永久的に人を殺めず、口にできるはずだ」
「……」
(兄上は、本気だ。本気で想い人と添い遂げるために鬼になると言っておられるのだ……その覚悟は決して生半可なものでは無い。
止めるべきなのだろう。それが紛れもない正解なのだろう。兄上が鬼になってしまわれたらどれほど強くなられるかは想像に難くない)
縁壱は立ち上がる。巌勝からすると何か吹っ切れた様子である。
その感情を写していない澄み切った空のような目は優しい心を孕んでおり、世界の美しさに輝かんばかりの青陵を湛えている。
「何が正しいかなど、この際はどうでも良いでしょう」
「……」
「鬼になる意志のある者は鬼同様に処罰の対象です。そして見逃した者すら同罪です」
縁壱は抜刀し、その刃を月に翳した。刀はただ静かに月光を返している。縁壱が抜刀したのを見て巌勝は身構えるが、彼はそのまま刀を収めた。
「これで私と兄上は共犯です。もし人を襲うようなことがあれば責任を持って兄上と薫さんの首を斬り、私も腹を斬ります。ですから私に兄弟殺しと自刃をさせないでください。
ああ、私の血くらいならいくらでも差し上げますので鬼になっても気軽に私とうたを尋ねてください。うたも二つ返事で了承するでしょう。あれはそういう女です」
「────っ」
少年期、縁壱が原作で持っていなかったものを巌勝は満遍なく与えた。覇気も闘気も感情もない……人形のような子供に、自尊心を培わせ、対抗心を育ませ、世界の美しさを教え、その全てに家族愛を込めた。
皮肉なことにその行いによって縁壱は巌勝を……最強の鬼を……見逃した。全ての鬼狩りが縁壱の選択を否と断じるだろう。
しかし正解はない。
巌勝が居なければ縁壱はうたを失い、心が伽藍堂のまま生きていたかもしれなかった。巌勝は怨嗟と嫉妬の中、生きる目的を見失っていたかもしれなかった。巌勝が縁壱を救ったように、縁壱も巌勝を救って見せた。縁壱は微笑む。それは変わらぬ親愛の証。
相も変わらず不気味な微笑みだな、と場違いな感想を巌勝は抱いた。
「私は鬼程永くは生きられません。兄上と同じ時間は過ごせないでしょう……故に全霊を以て兄上を人を喰わない鬼にします。いいですね?」
「ふははっ……あぁ……ありがとう縁壱」
────お前のような弟を持って、私は幸せ者だ
縁壱
兄上が予想以上に追い詰められてて戦慄している。
巌勝
竈門家の鬼適合力は原作お墨付きだから、次の目標は炭吉の血を貰うために、家に案内してもらうこと。
作者
オリ主のタグは消しました。バー君が染まってくれてウレシイ……ウレシイ
因みに縁壱の十九連撃は太陽のタロットカードから