なんかめっちゃ評価増えてて驚きました。投票してくれた皆様方、本当にありがとうございます!!
「縁壱、そういえばお前はうたに夫婦になってくれと告白しないのか?」
「…………そのうち……」
立ち会いは縁壱の勝利で終わった。巌勝は縁壱に目的を告白した後互いに全力で戦った疲れを癒すために、男同士水入らずで恋愛話に花を咲かせることにした。
縁壱は無表情を貫き通していると思っているようだが、悩みに悩んでいるのがありありと顔に書いてあった。ここは兄として、原作を知る転生者として背中を押してやらねばと、湧き出す謎の使命感に溢れた巌勝は口を開く。
「鬼殺隊の柱は優秀な子を残すよう直接ではないが言われている。子を成せとは言わずとも結婚ぐらいはしておけば良いのではないか?」
「……ないですか」
「……?」
その時の縁壱の顔を巌勝は一生忘れないだろう。無表情が顰められたと思いきや混乱から羞恥一色へと移り変わっていき……
「恥ずかしいでは無いですか! うたは私を家族と言ってくれますが……それが……それが兄や弟としての意味であった場合、うたとどう接していけばいいかわからなくなります! ええ、確かに……道場によく顔を出してくれはしますが、道場の弟子の誰かに思いを寄せていたらその弟子を私怨で破門にしてしてしまうかもしれません……というか確実にします。うたの両親を抜けば私が一番うたとすごしてきた時間は長いのです。だからこそこの関係も続けて行きたいと思いながら……もう少し進みたいと思う私は……」
(恋心に気づき出した幼馴染か!)
巌勝は堪らず破顔した。縁壱だって人である。それも十四歳、現代で言えば中学二年生。故に人並みに女性に対する感情も持ち合わせている。あれほど化け物じみた強さの癖に女一人に告白するとなるとただの青年へと変化する様は巌勝を破顔させるに十分であった。巌勝は顔を手で押えて笑いを堪えようにも抑えきれない。
「ふっ……はっ! はっはっ……くっ……」
「兄上!? 笑い事では……それに! うたは純粋で、天真爛漫で、誰にも明るく接するのに……! 稀に私にだけ妙にあたふたとしている時があるのです……ああ、兄上。これは他の者よりも特別強く生まれてきたものの運命なのでしょうか」
見ての通り縁壱は至極真面目に、実の兄に自分では理解できないことを相談している。繰り返し言うが縁壱は至極真面目なのだ。それ故に十四歳にして気付いた身近な者への恋心に思い悩むのは仕方ないと言える。それでも巌勝は面白すぎて笑いが止まらなかった。
(無惨を……鬼の始祖をバラバラに切り刻んで一生消えない傷を残すような剣豪が……)
「っ……! くっ……」
「兄上」
「……んんっ……すまない。あー、私から見るとうたは十中八九お前に惚れているぞ……だから大丈……」
「……十中八九ですか」
「いや確実に惚れている。間違いない。胸を張れ縁壱。私の弟であるお前なら受け入れてもらえると信じているぞ」
原作では無表情からの天然思考で夫婦まで持っていったのだろうが、いまの縁壱は良くも悪くも感情豊かである。つまり熱しやすく冷めやすい。縁壱は落ち着いたあと、深呼吸をした。
「兄上がそうおっしゃるのなら……何とかうたに……想いを伝えます」
「ああ、応援しているぞ」
巌勝は心の中で拳を高く挙げる。これで縁壱とうたは晴れて結ばれる。原作の惨劇を回避するために、うたの臨月が近づいたら巌勝が決死の覚悟で守ればいい。巌勝はその時ぐらい任務を全て蹴ろうと思っている。
巌勝は岩から腰を上げて徐に立とうとすると、縁壱が裾を掴んでいた。指三本であるがしっかりと掴んでおり、離さないという意思を巌勝は強く感じた。加えて悪寒も感じた。
縁壱は微笑みながら台詞を顔に貼り付けていた。
────兄上の番です
★
「さて、何から聞きましょうか」
「……縁壱……無理して聞く必要は……」
「兄上と薫さんはいつから互いを想いあっていたのですか?」
縁壱はずいっと体を乗り出し、目を輝かせて問いかける。少し圧倒されながら巌勝は口を開く。
(当分話し込むことになりそうだな)
「……おそらく、会って数日だ」
「なんと! そんなに早くからですか」
巌勝は言えない。数日どころか会って一日も経たずして薫の魅力に飲み込まれていたことに。所謂一目惚れである。その後の旅が楽しかったのもあるが、初対面で惹かれていたのは事実。言ってしまえば縁壱はさらに問いかけてくるだろう。それは巌勝にとって……兄としては気恥しかった。
「薫さんの両親も賛成の上で婚約……というか結婚と……」
「ああ、薫の両親が理解してくれて助かった」
「私と大違いですね……因みに婚礼の儀などは……」
「出来るわけなかろう……私も炎柱殿も多忙を極めている……そして……最早結婚しているようなものだしな」
薫の両親もそういう鬼殺隊特有の事情も織り込んで巌勝を認めたに違いない。義父の方は殉死しているが、義母はまだ生きている。義兄の現炎柱は合理的で熱血漢な煉獄家らしい人である。母と息子、二人揃って薫に孫を見せろ、従兄弟を見せろと意味深に催促している。
藪から棒に縁壱は問いをやめない。
「兄上は薫さんと子を成そうとは思ませんか?」
「なにを…………今更……私と薫は鬼になるのだぞ。子を残したところで会うこと、況て育てることすら叶わないだろう」
縁壱は核心を突く。巌勝も薫も子孫を残すのかについては暗黙の了解で保留であった。鬼子と言われ殺されるかもしれないし、原作が狂ってくるかもしれない。それに鬼殺隊から迫害を受けて当たり前だ。もし鬼に殺されたと聞いたら巌勝は心を失う自信があった。薫とはこのことについて話してはいないため分からないが。
「いや、言い訳であったな。縁壱、本音を言えば私は……」
「? ……育てるも何も……兄上達が育てられなかった場合、私が養子として育てれば良いのではありませんか?」
縁壱はまるで当然のことのように言った。巌勝はきょとんとする。
「父親が兄弟ならばある程度は似つく筈です。私は三十を超えたら後継を本格的に育てようと思っているので兄上の子であるならば半生を掛けて守りきると誓いましょう。兄上も偶に私に血をもらいに来た時に会えば良いでしょう?」
「……縁壱はいいのか?」
「はい! 兄上と薫さんの子供であれば喜んで!」
縁壱の提案は巌勝の懸念していること全てを解決する天啓のようなものであった。ただ子供が親に定期的にしか会えないというのも残酷。
「……薫と相談する。返事は待ってくれ」
尚この後、薫は二つ返事で了承した。だが食人衝動については後々考えることとした。
「当たり前だが……産むだけ産んであとは全てお前に任せるなどと無責任も甚だしいことなどやらん……育てるのならほぼ私たちのみで育てる……お前は万が一の保険だな」
「!? しかし兄上、赤子は人間。鬼である兄上なら……その……」
「……別に間違えて喰うなどとそんな間違いは起こさない……中身は鬼であっても目の色以外は寸分違わず人間に似せるつもりだ」
(六つ目が一番の問題だがな、まぁ擬態くらいできるだろう)
「……楽しみだ。是非とも好きな道へ進んで欲しいものだな」
「……鬼殺隊に入隊するといえばどうしますか?」
「全力で止める…………と言いたいところだが鬼の蔓延る世の中だ。自衛として呼吸を身につけさせるのは確定している……故にそれが理由で鬼殺隊に採用されても文句は言えまい……それでも全力で阻止するがな」
巌勝は未来への妄想へと夢を膨らませる。瞳は生き生きと見開かれ、口元は分かりやすく綻んでいた。
「もし……もしですよ? もし仮に私とうたの子供と兄上と薫さんの子供の性別が違っていたら……許嫁として……」
「ならぬ」
「……即答ですか」
巌勝には巌勝なりの考えがあった。許嫁等。恐らくこれは現代人ならば誰もが理解できない風習である。
「最近では親の決めた相手と婚姻するのが風習らしいではないか……悪習だ、恥ずべき習慣だ。私ならば将来を添い遂げる相手くらい子供に選ばせる。子供なぞ親を振り回して、周りに迷惑をかけて、好きなように人生を楽しめばいいのだ」
(自分が欲しいと思って授かった子供だ。できる限りの我儘は聞いて当たり前。甘やかすのと優しくするのは分けるがな)
前世で捧げる対象すらいなかった子供への愛情は底なしであった。現代における幼児虐待や車内放置による死亡。栄養失調や運動不足による発育不全。ニュースが流れる度にその子供が紡ぐ筈の未来や大人になって微笑む姿を想像して、胸を痛めていた。巌勝は我が子にそのような経験すらさせまいと思っていた。
「……もし兄上の子供が力を持たない普通の人間を伴侶として連れて来たらどうしますか?」
「……………………私と戦って」
「はい。兄上、不可能です」
縁壱に一蹴され、渋い顔をするが巌勝に勝てるものなど縁壱か無惨でも引っ張ってこないと無理であろう。
少し時間が流れる。夜の秋風が吹く。平熱四十度を超える二人の体にはそれが沁みるように気持ち良かった。
縁壱が口を開く。
「鬼となった後でも子供ってできるんですかね」
「……分からんが……太陽を克服したのならあるいは……」
「……え? それだと日中でも活動できるじゃないですか!?」
「ああ、因みに首を切っても死なない鬼もいるぞ」
「……」
「案ずるな……赫刀で切れば傷も再生しない……首を切っても動くのなら……より細かく刻めばいい……日中動き、切っても死なないのなら富士の火口にでも投げ入れれば良い」
「それもそうですね」
原作の鬼殺隊がこの会話を聞けば鼻で笑うか、呆然かの二択だろう。赫刀を発現できるのは今のところこの兄弟のみであるし、その状態で岩より固い鬼の躰をバラバラにできるのもこの二人だけであろう。
(禰豆子や炭治郎は……薬で人に返ったから関係ない。鬼の素体となると愈史郎か……珠世一筋だから分からなかったが。無限城での猗窩座も怪しいな……首の弱点を克服した後に日光の順だから普通に考えていた日光を克服する方が難しいのだろう。珠世に会ってみなければわからんか)
原作において素の実力で首の弱点を克服した鬼は黒死牟と猗窩座だけであった。無惨は身体中に重要器官を複製することで首の弱点を克服していたが、あれは違う。あれはただのゴリ押しである。
★
「話は変わりますが……兄上はその技術を本当に次の世代に残さないおつもりですか?」
「ああ、とは言っても残さないのでは無い。残せないのだ。縁壱も道場で見たであろう……誰一人として斬撃を飛ばせなかった……」
「鬼となってからでも遅くはないです。国中探してみれば一人くらいいるのでは?」
「……人喰い鬼に剣を教えてもらいたいものがいるか?」
「……」
「まぁ……そういうことだ」
「ですがやはり……儘ならないですね」
少し不満そうな縁壱に巌勝は苦笑する。技術の継承への憂い。本来ならば巌勝が感じていたもの。ならば返す台詞は決まっている。縁壱ならば嫉妬に狂ったりはしないだろう。
巌勝は岩から立ち上がる。
「縁壱、我らはそれ程大層なものでは無い。長い長い歴史のほんの一欠片。我らの才覚を凌ぐものが今この瞬間にも産声を上げている。彼らがまた同じ場所へとたどり着くだろう」
「……」
「浮き立つような気持ちにならないか? これから産まれてくる子供達が我らを超えて、更なる高みへと……登りつめていくのは」
縁壱は瞠目していた。まるで巌勝らしからぬ言動。誰かが憑依したような雰囲気。刀に片手を乗せて月下に佇む様は紛うことなき武人。けれど少し。ほんの少しなにかが混ざったような。
「……兄上、いつもより微笑みが不気味さを増しております」
「……む……微笑みに関しては縁壱の方が不気味だと思うが」
「……」
「……」
両者押し黙る。互いが互いの微笑みを不気味と思っていることを今さらながら知り、揃ってショックを受けていた。先程の感動的(?)な雰囲気はどこかへ去っていったようだ。
「……帰るか」
「そうですね」
縁壱
齢十四にして、後継や子供のことを考え出す。戦国時代は成人年齢も早かったし精神はもう成熟してる。
巌勝
完全に子煩悩。精神年齢は三十越えている。
作者
タイトルかっこよくしてるけど、内容は完全に子供談義のような恋バナ。巌勝時代にやる事は書けたと思っている。