黒死の刃   作:みくりあ

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感想、誤字報告、評価ありがとうございます!前回なぜかここすきが多かったです

タイトル通りです。


廿伍話 四年後

「巌勝君! 紫明を見なかった!? 起きたら隣にいない……の…………」

「薫、紫明ならここにいる」

「よ、良かったぁ……」

「とーさま、もっかい」

 

 薫はがっくりと安堵のために座り込んだ。特筆すべき点などない。本当に何気ない日常の一コマである。

 

 

 ★

 

 早朝。妻より早く起きた巌勝は家の庭で朝稽古をしていた所を偶然起きて来た紫明の目に止まってしまい、興味津々の紫明を観客に月の型を披露していた。紫明は漆黒の艶やかな髪を持ち、煉獄家特有の朱がまじった瞳をしている。

 所謂、黒髪赤目であった。

 

(子供は成長が早いな……まだ二歳だぞ)

 

 

 

 ────縁壱との戦いから四年後

 

 

 

 巌勝は十七、薫は二十歳となっていた。

 

 鬼殺隊では柱達の殉死により房綱が風柱、愛染が鳴柱、正助は水柱へと昇格。今のところ痣の発現はないようである。これで完全に始まりの呼吸の世代へと世代交代は完了した。

 縁壱達と言えば、うたが妊娠した。その際に巌勝は文字通り付きっきりで守護した。縁壱が数時間家を開ける時ですら、うたの隣室に刀を装備して座り込んでいる程であった。薫も同じ女同士、身篭って自由の効かないうたの支えとして、働いた。

 巌勝曰く、「万が一があってはならぬ」との事。縁壱の家は藤の花に囲まれた鬼殺隊が常駐する町の中の中心であるが、万が一原作の修正力が働き、母子共々殺されてしまわないように守りきった。その後、うたは兄弟を出産した。

 一方、それから少しして薫は女児を授かった。

 四年前の縁壱との語らいの後、自分たちが子を残し、万が一両親が鬼とバレて、身を隠すことになったりした時は、柱である縁壱が権力を使って援助してくれることを薫に報告した。薫は涙が溢れるほど喜んだ。

 縁壱は二人から半ば強引に名付け親に任命され、うたと二人で考えたという名前を産まれてくる巌勝と薫の子供に与えた。

 

 

 ──名は、『紫明(しあ)』

 

 

 巌勝の日輪刀の色、高貴を示す色、魔除けの意味を持つ藤の花の色から『紫』、薫の暁の呼吸から明時の『明』。

 薫が妊娠したと透き通る世界で確認した時、巌勝は柄にもなく滂沱の涙を流して喜び、薫もそんな巌勝を抱きしめて涙を流した。それからというもの二人は任務先のかなり大きな村の領主を鬼から助けた恩を逆手にその村に居座った。巌勝は任務どころか挙句の果てに柱合会議も蹴って付きっきりで村の老婆達と共に甲斐甲斐しく世話をした。

 結果、生まれた女児に『紫明』と名付け、二人は二年間幸せな生活を送っている。巌勝にとって満ち足りた理想がそのまま実現したような日々であった。

 

 紫明は巌勝の裾を掴みながら言った。

 

「とーさま、おねがい。もっかい」

「分かったが……これが終わったら朝ご飯にするぞ」

「ん」

 

 そういうと巌勝は大地を草履で踏みしめ、一から拾陸の型までを順番に披露していく。手首の角度の違い、足の運び方、呼吸の間隔。無駄を削ぎ落とした人の身を超える体術の極地。

 

(とーさま……かっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいい!)

 

 日の呼吸を使うものはその姿形が精霊に見えるという。月の呼吸はそれと似て非なるもの、巌勝の舞う姿は荒々しい力の威容を見るものに連想させた。

 巌勝は九歳で呼吸を学び、成長期に極めることで縁壱のような強さを実現した。今、紫明は二歳。尚且つ呼吸を教えているのは天才ではなく秀才。天才が道を駆け抜けていくのに対して、ゆっくりとしかし頭で理解しながら道を進んだ者。教えるのに関しては縁壱より数段上である。

 

(とはいえまだ幼子。刀を握るのはまだまだ先の話。欲を言えば一生握ることの無い人生を送ってほしいが……戦国の世でこの考えは甘すぎるな。せめていざと言う時に暴力によって侵害されないよう最低限の力はつけてもらおう)

 

「ふぅ……よし、父様達は朝ごはんを作るから紫明は少し待ってなさい」

「しあもする」

「二歳の紫明にはまだ早いから……いや、そうだな……体力増強だ。家の周りを三周してきなさい」

「うん! しあ、しょうちした!」

 

 紫明は父の言うとうりに家の外周を走り始める。元より体を動かすのが好き……というかこの年齢の子供は体力増強だとか訓練とが最もらしいことを言うと目を輝かせながら嬉々としてやろうとする。

 紫明は二歳児。なのに屋敷と言っても差し支えない程の大きさを誇るこの家の周りを走っているのはもはや二歳児の体力でない。

 ただ、父親は遠くの山から藤の大木を引っこ抜き、それを数本担いで来て家の周りに植えるといったことを当たり前のようにやってのけ、母親は熊や猪を素手で殴り殺し、申し訳程度の包丁で血抜き・解体をする等周りが異次元すぎるために霞んでいた。

 

 巌勝が台所に着くと薫が割烹着を着て料理に勤しんでいた。巌勝にとって見慣れた光景であるが何度見ても妻が料理する風景を眺めるのは男として感慨深いものがあった。

 

「薫。何か手伝えることはあるか?」

「あっ巌勝君! 紫明は?」

「外周を走っている」

「いつも通りね、わかった。それじゃあ串焼でも作ってくれない? 最近紫明が沢山食べるようになったから量そのものを増やしたいんだ」

「串焼か……任せろ」

 

 薫は既に鬼殺隊を辞める旨を伝え、これから一度里に戻って兄に子供の顔を見せたあと、最後の任務で死亡する手筈になっている。

 巌勝もそうしたいのは山々だが、上弦の壱として君臨する以上どの道顔バレは免れないため死を偽装する必要はない。紫明は一時的に縁壱の家で過ごして、すぐに回収する手筈になっている。

 二人台所に並んでいると、格子窓に一羽の鎹鴉が止まった。首には日輪の首飾りを掛けている。

 

「主の兄上よ」

「む、その声は……朝日か」

「はい。炭吉様の家までの道のりが書かれた地図を持って来た」

「ああ、助かる」

 

 朝日は縁壱の鎹鴉である。生涯の忠誠を縁壱に誓っており、縁壱以外には基本的に敬語を使わず無愛想だが、兄である巌勝については敬語こそ使わないものの縁壱と同じように接していた。

 朝日が炭吉の家の地図を取り出そうとしている時、一羽の鎹鴉が巌勝の肩に止まる。遅れてもう一匹、薫の肩に止まった。

 

「八咫と……天外か」

 

「如何にも。巌勝殿、御館様より受けた命を伝えに参った」

「アタシが来たわよー! んで、アタシからは伝言よ! 同期である柱の皆と兄様からね」

「…………手短に話せ。紫明が戻ってくるまえにな……まずは八咫から頼む」

 

 巌勝はまだ鬼殺隊の存在を紫明に知らせたくなかった。

 

「承知。『月柱は武蔵国へ赴き、周辺の山に潜む鬼を退治せよ』との事だ」

「あれ、私は?」

「それがアタシからの報告の肝になるわね……要約すると……

『岩・水・風・雷の柱より……

 鬼殺隊辞めるって聞いたけど、最後の任務おわったらもう里でゆっくりしたら? 

 薫の兄様より……

 煉獄家当主として命じる、帰ってこい薫。余生を里で過ごせ。お前は十分鬼殺隊として活躍した』

 だ、そうよ巌勝君。八咫から聞いたけど任務の場所は珍しく彼岸花がとても綺麗なところらしいわ、薫も着いてく?」

「私は……一度里に戻ろうかな」

 

 

 薫はそこで天外に里に帰る意思があると説明する。天外は『あら、珍しいわね』と言って薫の伝言を里に伝えるべく飛び立って行った。

 巌勝は八咫の報告に次の目的地と炭吉の家、どちらを優先するか思案する。

 

 

「あ、そのちかくだ。主の兄よ」

「ん?」

「炭吉様の家は武蔵国の近くに位置している。天外様の言ってた通り、彼岸花が美しいところだ。場所的に一日で両方向かえる距離だな」

「わかった。今日発つぞ。紫明は薫と共に里に、私は武蔵国へ行く」

「ああ、それと主が近い夜に会いたいと言っていたぞ。息子である兄弟にも会って欲しいそうだ」

「承知した」

 

 

 ★

 

 

 

「計画を確認するぞ」

「うん」

 

 場所は変わって家の玄関。朝ご飯を食べた後、親戚に逢いに行くという理由で巌勝達は旅支度をしていた。紫明は旅の途中で退屈しないように、家の奥で巌勝の作った玩具を厳選している。巌勝は手先が器用な為、前世の知識から作った様々な玩具を紫明に与えていた。

 夢中な紫明なら聞かれることは無いだろう。

 巌勝は計画を薫に説明する。これが成功しなければ後腐れなく鬼にはなれない。鬼殺隊を上手く脱退し、尚且つ紫明を匿わなければならないのだ。そうすればまた幸せな生活が待っている。

 

「まずは別行動だ。

 私は炭吉の家に行き、血を貰いに行く。薫と紫明は、薫が次の任務で殉死したという情報に信憑性を持たせるために里へ行き、里に到着した縁壱に紫明を預ける」

 

 原作お墨付きである竈門家の血。無惨よりも鬼への適合力が強いその血は始祖の支配を克服するためには必須条件の一つになるだろう。

 まず巌勝がそれを貰いに行く。原作では縁壱の妻・うたが斬殺された時に残った家がそのまま竈門家の家になっていたが、この時空でも同じような場所に家を作り生活している。縁壱と何回か尋ねたことがあるため、地図をみれば余り難易度は高くない。

 血についても、握手の際などに神経の間を通して剃刀の刃で薄く傷つけて採取すればいい話である。

 薫の場合は……

 

「私は里から任務に行って殉死に見せ掛ける。その後縁壱君の家に紫明を迎えに行く。その間に巌勝君は鬼になる。巌勝君は炭吉の血を飲んだりとか何とかして始祖の支配を克服した後にこの家で集合。うん、分かった」

 

 薫は頷く。巌勝はその頬へと手を伸ばし、顔を近づけて口付けをする。大丈夫だ、全て上手くいくという意味を込めて。鬼になれと勧誘されているのは巌勝だけなので薫は寿命が来るまでに鬼になれさえすればいい。まずは巌勝が鬼になるのだ。

 

「紫明は鬼になった私達をどう思うかな」

「まずは鬼だとバレないようにする。そのためのこの目だ」

 

 巌勝は自分の目を指さす。そこには少し朱が混じっていた。もちろん透き通る世界による目の活性化である。原作では花の呼吸の集大成として使われた技術であるが、透き通る世界を持つ巌勝にとっては血流操作など造作もなかった。そのかいもあって紫明は赤い目が元来の父親の目であると信じきっていた。これで鬼になっても多少はごまかせる。

 

「頑張ってね。私も遅れてだけど鬼になるから」

「ああ、俺が鬼になって始祖の支配を免れれば薫に渡す血も支配を受けないだろうからな」

 

 巌勝が人であることが出来るのはもう数日。そう思うと最後の朝日は絶対に見逃すまいとした。

 

 紫明がありったけの玩具をもって玄関に着いた。何がなんでもこれらは離さないという表情を浮かべている。どの道巌勝が前世の知識から作った大容量旅行鞄的なものがあるので物の数ではない。

 

「それでは炭吉の家に行ってくる。紫明、母様の言うことをしっかり聞くんだぞ」

 

 紫明はこの世の終わりみたいな顔をして絶望を漂わせた。背中に背負われている可愛らしいリュックサックが単調な音を立ててずり落ちる。

 

「え…………とーさまは……? しあとかーさまといっしょに……こないの?」

 

 そんな紫明に二人は苦笑する。巌勝は笑みを浮かべ、しゃがみ込んで紫明の頭を撫でた。

 

「父様はちょっと行く所があるんだ。ごめんな、少しの辛抱だ。耐えてくれ」

「やだ! しあ、とーさまとずっといっしょがいい!」

 

 紫明は誰に似たのかいつでも巌勝と共に里に行きたいと駄々をこねる。頭に置かれている巌勝の手を両手で自分の頬へと持っていき、ありったけの力を込めて握りしめる。紫明は太陽みたいに暖かい父の手が大好きであった。親離れなんて二歳児なのだから仕方ない。それを見た薫も微笑みながら巌勝の隣に座り込む。

 

「あら、じゃあ母様のことは嫌い?」

「ううん! すごくだいすき! でもとーさまも……みんないっしょじゃなきゃやだ!」

「……じゃあそんな優しい子にはこれを渡そう」

 

 巌勝は懐から一本の笛を取り出す。竹を材料にして、本体には幾つか穴が空いており、藤の花の装飾がなされている。縁壱のみならず自分の子供にも御守りとして笛を与えられるのは嬉しかった。

 

「お守りだ。きっと紫明を守ってくれる」

「…………とーさまのほうがいい」

「大丈夫。それを思いっきり吹いたら何処にいても父様が駆けつけると約束する。だからいざと言う時にありったけの力を込めて吹くんだ」

「……ほんとに?」

「ああ、その笛があればいつでも会える。安心しておじさんに会ってきなさい」

「……うん、わかった。ぜーったいきてね、やくそくだよ」

「ああ、約束だ」

 

 紫明はそういうと家の中に戻り持ってきた玩具を玄関に置いて来た。曰く、この笛があれば何もいらないらしい。貰ったばかりというのにとても大事そうに抱き抱えている。

 

「あの笛って巌勝君の手作り?」

「? ……そうだが薫にも作ろうか?」

「いらない。だって私には本物がいるもの」

「……ふははっ。それでは……な」

 

 巌勝は再び薫と口付けを交わす。四年間で更に磨きのかかった美貌は男であれば誰でも振り返り、そして息を飲むだろう。艶やかな髪も白磁のような肌も血色のいい唇も、歳を重ねて大人の妖艶さが増しており、この世でただ一人だけに向けられる彼女の蕩けた表情は絶世のものであった。

 因みに今前述したものと同じような、容姿に対する感想を薫も巌勝に抱いている。二人は典型的なおしどり夫婦であった。

 互いに名残惜しそうに唇を離す。

 

「紫明は任せて」

「ああ、頼んだぞ」




巌勝
親バカその一


親バカその二 最近自分が無手でも十分強いことに気がついた。

紫明
おおきくなったらお父さんと結婚する……を地で行く子


作者
一週間更新でいいかな
紫明か朝日かでまよいました。直前に完成したので誤字多めかもしれませぬ。
一応言っておきますが、たまに前の話を修正して居ます……と言っても言い方とか句読点の位置を変えて読みやすいようしているだけなので物語の進行には一切関係ありません。
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