黒死の刃   作:みくりあ

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時系列ごっちゃですが、まとめます。

縁壱が炭吉の家が鬼に襲われているのを助ける。(家は既に存在済み)
縁壱が兄上に場所を教える。
行くとめっちゃもてなされる。その礼とばかりに舞う。炭吉とすやこが感動して、ぜひまた来てくださいと言う。
継国兄弟は二人して押しに弱い性格なので、たまに行く。
※繰り返し


廿陸話 竈門家

「……! 巌勝さん!!」

 

 巌勝は任務の前に炭吉の家へと赴いた。

 炭吉の家は、先の見えないほど鬱蒼とした森林を抜けた先にある一軒家。山奥ということもあり、小鳥が鳴いて、獣の息遣ですら聞こえてきそうなほど自然豊かな所である。

 しかし、巌勝が戸を開けようとしたところ、中に居た誰かの手で戸が勢いよく開かれた。

 現れたのは竈門家の大黒柱、炭吉である。

 

「炭吉、久し…………どうした。何があった」

 

 巌勝の目からして炭吉は明らかに普通では無い。息は絶え絶えで酷く焦っているのがわかる。

 

「すやこがっ! ……すやこが!」

「落ち着け……ゆっくり話せ……私に何をして欲しいか言え……」

「すやこが……産気づいたんです!!」

「産婆は?」

「山の麓の人里です!」

「私が呼びにいく……暫し待っていろ……すやこについていてやれ」

「はいっ!」

 

 ☆

 

 巌勝は人里へと降りて、産婆を探した。勘によって一発で産婆の住む家を当て、戸を開ける。中には老婆と若い男がいた。二人ともぎょっとした顔で固まっている。無理もない。戸を開けたら身長190の男が刀を携えているのだ。この時代の平均身長はかなり低い。継国兄弟と同じくらい背が高い人間はそうそういない。

 

「なんと、お侍様がいらっしゃるとは! 一体どうなされましたか」

「一大事だ。竈門の妻が産気付いた」

 

 老婆は顔色を変えた。

 

「まぁ大変! 急いで向かわねば!」

「婆ちゃん、無理だよ! 竈門の一家はこの里よりもっと山奥に住んでるんだ。行きだけでも婆ちゃんの足じゃ日が暮れちまうよ!」

 

 今にも出ていこうとする産婆を息子らしき人物が止める。正しい行いだ。険しい道のりを母に歩かせたくないらしい。親思いの少年である。

 

「兎や角言っている暇などない……お前の母を借りてゆくぞ……数刻で戻ると約束しよう」

 

 しかし巌勝は家に押し入り、産婆を抱き抱える。息子が何やら叫んでいるが、四の五の言っている状況ではない。巌勝の人生が掛かっているのだ。もし竈門家の血が途絶えた場合、自分にどんな結末が待っているのか想像できない。出来なくなるからこそ怖い。

 

「言っておくが……叫ぶな……舌を噛みたくなはいだろう」

「は──────!?!???!」

「婆ちゃああああん!?!?」

 

 是認の意志を確認した瞬間、巌勝は烈風の如く走り出す。息子が騒いでいるが竈門家存続の危機だ、かまってはいられない。

 一歩で家を出て、二歩で踏み込みながら髪をたなびかせて走り出す。急加速すると産婆が吐いてしまうのでゆっくりと加速する。

 

 

「──────!?!!!!?!?」

 

 

 老婆は景色が飛ぶようにすぎているのに自分の体にそれほど負担はかかっていないことが不思議であった。

 巌勝は一挙一動に気を配り、振動すら感じさせない歩法で走っている。山道を無視して一直線に炭吉の家に向かうため道無き道を進んでいるが、木を足場に、枝をくぐり抜け、ほぼ垂直の崖を駆け上がる時も速度は落とさないが、産婆に負担もかけない。そうしているうちに竈門家へと到着する。息切れひとつしていない。対して産婆は顔が青白くなっていた。肉体的な負担は減ったものの、精神的な負担は逆に増していた。

 

「巌勝さん!」

 

 風と木の葉を纏いながら森から飛び出してきた巌勝を見つけた炭吉が駆け寄ってくる。産婆の血の気は失われているが、気は失っていなかった。

 

「……産婆を連れてきた」

「……ふぅ……はぁ……よし! さっさと見せな、炭吉ぃ!」

「はいっ! こちらです。巌勝さん……本当にありがとうございます!」

「礼はいい……兎に角……お前はすやこに付いていてやれ」

 

 巌勝は手を振って、炭吉にすやこの傍にいるよう催促する。炭吉は何度も頭を下げながら家の中へと消えていった。程なくしてすやこのくもぐった声が家の中から聞こえてきた。

 

(炭吉の子供……ああ、すみれという名前だったか)

 

 二人の子供と言えば、原作で縁壱が抱き上げた子供がいたと巌勝は思い出す。ここにいてもすやこの声が聞こえてきた。なんだか申し訳なく思った巌勝は、猪でも狩って来ることにした。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 血抜きした猪を担いで家に戻ると、程なくして産声が聞こえて来た。どうやら出産に成功したらしい。かと言って巌勝がやることはない。餅は餅屋。出産は産婆である。

 

「……ついでに皮も剥いでおくか」

 

 一通り処理をした後、巌勝は日光浴ついでに縁側に座っていた。すると、人の近づく気配と共に戸が開き産婆が顔を出した。

 

「終わったよ、お侍さん。元気な女の子さ。さぁ……とっとと儂を家に返しとくれ。倅が心配しとるんだわ」

「承知した……突然誘拐してすまなかったな」

「誘拐した自覚はあったのかい。っていうか全然済まないと思ってないね。まぁあんなに早く連れてきてくれたから母子ともに支障はないね。そこは感謝してるよ」

「……」

「……何とかいったらどっっ!?」

 

 巌勝は心做しかムスッとした顔で産婆を抱き上げる。私怨など入っていない。断じて入っていない。だから勢いよく抱き上げようが巌勝は悪くないのだ。何せ私怨は入っていないから。

 二人して騒いでいる(主に老婆)と、家の中から炭吉とすやこの嬉し泣きが聞こえてきた。巌勝と巌勝に抱えられている産婆は顔を見合わせる。

 

「邪魔者はお暇するよ……ほれ今度は道を歩きな」

「…………………………善処する」

 

 巌勝は早く炭吉の子供の顔が見たかった。故に産婆をさっさと行きと同じく最短距離で届けようとしていたのが、案の定、巌勝は頭を引っぱたかれた。

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 結局、整備された山道をゆっくりと走って産婆を届けた。

 途中、心配から重装備で山を登っていた息子も担ぎ、親子二人に左右から小言を言われながらも家へと返した。精神的に疲れつつ炭吉の家へと戻ってくる。すると家の縁側で炭吉が座っていた。障子は風通しを良くするために開かれており、奥の部屋からは赤子を抱き抱えながらすやこが布団から上体を起こして座っている。

 炭吉は巌勝を見つけると嬉しそうに手を振って招いてくれた。その健気さに少し心が安らいだ。そして巌勝は流れるように縁側に座らせられる。

 

「巌勝さん……本当に……なんてお礼を言ったらいいか」

「礼など不要だ」

「いやしかし、あと、それでですね……その」

 

 巌勝の目には炭吉がどこか緊張しているように見えた。炭吉が意を決したように巌勝の両手を取って口を開く。

 

 

 

 

 

「あの子の名付け親になってください!」

 

 

 

 

 

(……え)

 

 産婆を届けたあと、感謝の言葉が来ると思っていた巌勝は斜め上の展開に困惑する。巌勝の目はなぜ自分なのだと、自分より遥かに相応しい者がいるだろう。と、訴えていた。

 

「…………私は縁壱では無いぞ?」

「俺は知っています。貴方は俺達がこの山に住んでいると知り、帰り際に藤の花の木を植えてくださったでしょう……! たった今も俺たちの為に産婆を連れてきてくださいました! 他人の為ならばいくら労力が掛かろうと惜しまない。そんな貴方だからこそこの子の名付け親になっていただきたいのです!」

 

 もちろん藤の花を植えたのは打算まみれである。

 

(炭吉の家に立ち寄ったのは縁壱の情報からであった。初めはこんな山奥に人が住んでいるのかと思ったが、あばら家から出てきた人影を見た瞬間身体中に電撃が走ったのをよく覚えている)

 

 彼らは鬼滅の刃の主人公・竈門炭治郎の先祖。良くも悪くも巌勝は物語の流れを壊し続けている。

 そのため今の縁壱は、もしまた彼らが鬼に襲われている時に運良くここを立ち寄るとは思えない。藤の花の木を植えたのは何年か後に鬼に襲われた時の保険。竈門家が全滅してしまうと四百年後に主人公が生まれないからだ。

 

「私は……そう大したものでは無い……木を植えたのも……なんでもないただの気まぐれだ……お前たちのためを思ってでは無いのだ」

「俺には分かります! 貴方は心の底から人にやさしくできる人だ」

「人より強く生を受けたのなら……それは必然のこと」

「だからこそです! そんな貴方だからこそ俺は……貴方にこそ! あの可愛い娘の名付け親になっていただきたい!」

 

 身振り手振りで自分の娘がどれだけ可愛いか、巌勝はすごい人だから名付け親になって欲しいなどと示す。その様子はまるで誰かに似ていた。

 

「……ふっ」

 

 声も背丈も違うが、炭吉の雰囲気はどこからどう見ても完全に炭治郎であった。純白な精神はこれから四百年先でも受け継がれていくのだろう。

 

「まぁ……いいだろう」

「! ……本当ですか!?」

「産まれたばかりの、神聖な赤子の名付けをこれ以上断るのも……無作法というもの」

 

 そう言って、巌勝は考え始める。原作では淡い瞳の活発な女の子であった。当たり障りのない名前、長寿を願う名前、壮健な子に育って欲しいの言う願いを込めた名前、未来が明るくなる名前。

 それでもやはり……

 

 

 

「………………すみれだ」

 

 

 

「すみれ……」

「……すみれの花言葉は『小さな幸せ』『誠実』『謙虚』。自分なりの幸せを掴んで……まっすぐと……親のように曇りなき心を持ちそして…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……願いを込めた」

 

 巌勝は結局原作と同じ名前にする。名付けた人物は定かではないが、承ったのなら悩みに悩んでしっかりと意味も込めて『すみれ』と名付けたのであった。

 

「っ……巌勝さんっ……本当に……ほんとうに……ありがどぅございまず……ほんと……今日は泣いてばかりです」

「ありがとうねぇ巌勝さん。炭さん、私のお腹がおっきくなってきたときから、巌勝さんに名付け親になってもらうんだとそれはもう鼻息を荒くして、ふん! ふん! って意気込んでたからねぇ」

 

 炭吉の目に涙が溢れ続ける。巌勝はそんな炭吉の背中をさする。すやこはすみれを抱きながら縁側の部屋の奥より微笑ましそうに見つめていた。

 

「そう泣くな……ほら……お前の背中を妻と娘がみておるぞ……もうお前は立派な父親なのだ……胸を張れ炭吉」

「はいぃ……」

 

 巌勝は心がじんわりと暖かくなるのを感じた。真っ直ぐで素直に感動のできる家族がそこにはあったからだ。すみれはこれから太陽の下で大人になっていく。

 

「巌勝さーん」

 

 後ろから声がかかる。

 

「炭さんのお願いを聞いてくれたから、次は私ねぇ」

「……いや……願いを聞いたと言うわけでは」

「私、巌勝さんの月の呼吸がみたいなぁ」

 

(夫婦揃って話聞かないな……)

 

「私の……呼吸をか?」

 

 まだ『日の呼吸を見せてください! 同じ鬼殺隊で兄弟ならできますよね?』とか言われたのなら分かる。因みに彼は日の呼吸を既に体の相性抜きにして舞えるようになっている。やはり体に合っておらず継戦能力は無いに等しいが。

 すやこは出産したばかりだと言うのに芯のこもった声で恩人へと語りかける。

 

「縁壱さんの日の呼吸はねぇ……精霊のようでねぇ……胸がどんどんって高鳴るの……でも巌勝さんの月の呼吸はねぇ…………なんだか心が安らぐの。子守唄みたいに。

 だから今は巌勝さんの舞いを見たいんだぁ……」

 

 巌勝の月の呼吸は見るものを恐怖させる程荒々しく、無駄が削ぎ落とされている。故に舞というより荒御魂だと本人は思っているが、そんな激しい型をなぜかすやこは望んでいた。

 

「すやこ、お願いだから無理をしてないでくれ。すやこは今子供を産んだばかりだから寝ておかないと……」

「えー、いいでしょ炭さん。あの綺麗な舞いをすみれにも見せてあげた……」

「わかった……わかったからもう喋るな……出産直後の身なら……少しは安静にしていろ」

「ふふっ……炭さんと同じこと言ってる……それではお願いします」

「……任された」

「すいません ……本当にありがとうございます巌勝さん」

 

 炭吉は眉を下げて申し訳なさそうにしている。なんだかんだ彼も巌勝の月の呼吸が見たい。炭吉はすやこが少しでも見やすいように布団ごと引っ張って縁側に寄せる。布団ごと移動している時、すやこはなんだか楽しそうだった。

 そうしている間に巌勝は庭へと歩みを進める。

 長い髪と高い身長を持つ巌勝の後ろ姿は炭吉達にとても勇ましく映った。

 

「上体を起こす必要は無い……子供を産んで疲れているのだろう…………気にしないから楽な姿勢で見てくれると嬉しい」

「はい。本当にありがとうねえ……」

「……構わん」

 

 

 

 

 ────空気が変わる

 

 

 

 

 巌勝が刀を握った瞬間──意気揚々と囀っていた小鳥達が鳴きやみ、栗鼠が巣穴に籠り、静観を決め込んでいた猪や熊が逃げ出した。

 巌勝の周りだけが静寂に包まれる。展開されるは社のさらに奥、神域のような雰囲気。

 

 巌勝は舞い始める。

 

 一呼吸、一振り、一歩、一回転。微細で些細で緻密な動きでさえ叩いて、磨いて、研いで、重ねて、極めた、剣技の極地。相手に薄皮一枚斬らせて命を絶つ。間違えれば命を落とす。間違えなければ生きる。

 月輪は敵への最期の光景としてではなく、三人家族の健やかな生活を願ってその身に纏われる。

 荒々しき月は過去のもの。あれは巌勝が縁壱に──天才に──太陽に手を伸ばすために荒削りで叩き上げた、云わば不完全な型。

 縁壱より強くなることよりも別の生きる意味を見つけた彼は、今まで即席でなんとか叩き上げてきた型を極めきるくらいの心の余裕と時間ができた。

 月の呼吸はそうやってさらに昇華されていった。

 

(縁壱の日の呼吸がヒノカミ神楽なら……ツクヨミ神楽とでも言ったところか)

 

 集中している中、少し思考が逸れる。新たな命の誕生を祝い舞うのは、そう遠くない未来鬼になる化け物。その皮肉に、巌勝は苦笑する。

 

「今の俺は……房綱に、暢寿郎に、正助に、琴音に、愛染にどう映るのだろうな」

 

 この四年間、何回か任務を共にした風柱、炎柱、水柱、岩柱、鳴柱。

 彼らに痣が出るのも時間の問題だろう。技量的にいつ発現してもおかしくはないのだ。彼らは始まりの呼吸の剣士。呼吸と共に育ってきた。大体の鬼は体温を上げずとも討伐可能なのだ。

 

「だからこそ……私が鬼となっても、斬りかかるのだろうな……躊躇なく」

 

(少しくらいは躊躇って欲しいと思うのは……贅沢な願いか)

 

 巌勝は甘い考えを切り捨てる。

 だが彼は知らない。柱の中で月柱の存在は良くも悪くも大きすぎることに。




炭吉
家も建て直してくれたし、藤の花も植えてくれたし、産婆も呼んできてくれたし、愛娘の名付け親になってくれたしで最早返しきれないほどの恩が巌勝にある。鬼殺隊とか放り出して薫達と過ごすから養えって言っても快くOKしてくれるレベル。引きこもりENDルート

すやこ
よく寝る。最近ようやく縁壱と巌勝の見分けがつくようになった。

巌勝
首を突っ込みすぎて後戻り出来ない。

犯人
炭吉との会話が弾んで家族の話題になった時、無意識に兄上のことを話しすぎて炭吉に興味を持たれた。結果、是非連れてきてほしいとせがまれて、連れてきた。兄上的には炭吉の家が知れたので良し。

作者
とりあえず400年前編(適当命名)の話の流れは作った。あと数話かな。
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