感想、誤字報告、そして評価ぁぁあ!なんと初星10が着きました!
感謝感激感動感嘆感無量!
お気に入りも少し前に1500を超えましたし……!これからもマイペースに続けて参ります!
炭吉とすやこは魅了されていた。
威風堂々たる迫力に飲まれ、八面玲瓏の動きに瞠目し、軌跡すら見える秋霜三振の太刀筋は息が詰まるほど流麗で美しい。日も昇りきって、既に真昼間だと言うのに竈門家の周囲だけは夜の帳が降りたように静かである。中心にいる巌勝はまるで月読命のように落ち着きを纏っていた。
月は昼であろうと佇む。炭吉達は息を忘れていた。
「……ぁ……すご……い」
「……」
純粋な賞賛の声が聞こえ、巌勝は少し照れくさそうに口角を上げた。
締めに刀を下から上へと昇るように振り上げ、月輪を空へと飛ばす。散った三日月は日光を反射して消えた。
一通り舞い終える。
パチンと軽い音を立てて納刀した瞬間、再び鳥が囀り出し、風が吹き始める。止まっていた時が動き出すようにして、先程までの厳かな雰囲気は嘘のように霧散した。
いつの間にか夕日が山の端に差しており、全員が全員時間を忘れていた。
「さて、世話になったな……私はここで失礼させてもらう」
「ええ!? そんな……せめて……せめて晩御飯でも食べていきませんか? すやこもほら……」
「…………すぅ……」
すやこは眠っていた。月の呼吸を子守唄代わりとは豪胆なものである。満足そうにすみれと共に眠っている姿を見て炭吉と巌勝は口角が緩む。言葉を交わさずとも、互いに互いが言わんとすることは分かった。二人して小声で話す。
「貴方は命の恩人だ。貴方がいなければすやこどころか、この子も産まれていなかった。せめて俺になにか貴方の為にさせてください……」
「……お前たちを助けられた……それだけで私は満足だ……」
「……わかりました。ならばせめて貴方のことを後世に伝えます」
「気持ちはありがたく思うが……必要ない」
「しかし、後を継ぐ者がいないのでしょう?」
「…………誰から聞いた」
「縁壱さんです」
(あいつは私の事となると口が特別軽くなるな……)
「たとえ炭焼きの俺には無理でもいつか
炭吉がそう言いかけた時、初めて巌勝は炭吉に目線を合わせる。黒曜石のような瞳が炭吉の姿を映す。
「炭吉、道を極めた者が辿り着く場所はいつも
才能だけが全てではないし、道半ばで倒れる人もいるのだ。
巌勝は知っている。
太陽に手を伸ばして燃え堕ちた、至極人間らしい鬼を。
全員が全員縁壱が辿り着いた場所と同じ所に辿り着けるとは限らないのだ。
「なにも道を辿るのは全員では無い……辿らずとも生きていける。
人の一生は短いのだ……だからお前はお前の道を行け……たかだか私の呼吸を残すために炭吉が時間を浪費することを……私は望まない……この世界は美しい……生まれ落ちることが出来ただけでも幸運なのだ……」
巌勝は自然と自分の口からその台詞がでてきたことに内心、少し驚いた。魂が、人格の残滓が、散々な前世を過ごしたからこそ声に出た、心の底からの本心。
「それでも私の呼吸を学びたいと言うのなら……まずは縁壱の日の呼吸を学べ……兄でありながら……私の道は……転がる小石から立ち塞がる壁に至るまで全て……縁壱の模倣だからな」
そう言って、巌勝は自嘲気味に笑う。
炭吉は何か言わなければならないと思っていたが、なぜか声が出なかった。巌勝の言葉には経験を感じさせる重みがあったのだ。半端な言葉ではかえって無礼となる。
(ああ、そんなふうに……そんなふうに言わないで欲しい……どうか……頼むから自分のことをそんなふうに……)
「……少し説教臭くなってしまった……晩御飯に誘ってくれて感謝する……気持ちはとても嬉しいが……待たせている人がいてな……失礼させてもらう」
「……い……え」
「ああそうだ……ここに来るのは下手したら最後だな」
(……え?)
あっさりとそう告げると巌勝は縁側から立ち上がり、すごすごと去っていく。唐突すぎて炭吉は呆気に取られていたが、我に返って巌勝の後を追う。
炭吉は走っていて、巌勝は歩いているのに何故か距離が縮まらない。
少しでも気を抜くと巌勝がどこか遠くへ行ってしまいそうで、炭吉は必死に山道を駆ける。
★
炭吉はなんとか巌勝が藤の木の囲いを出ようとしているところで追いつく。巌勝は藤の花の木を見上げていた。
「……この美しい木に近づくことが出来るのも……最後か……竈門家を頼んだぞ…………ん?」
巌勝は炭吉の存在に気が付く。荒げた息を整えようと必死だった。それでも叫ぶ。
「約束です巌勝さん!」
「……?」
(ここで言わなきゃ……絶対後悔する!)
炭吉は声を張り上げた。
「絶対に! 必ず! 何がなんでも、また俺の家を尋ねてください! それまでに縁壱さんの呼吸も全て覚えます! だから……貴方の進む道を俺にも歩ませてください!
俺が、
だから……また……俺の家に……!」
「……」
巌勝は炭吉に近寄り、腰に差してあった日輪刀では無いもう一振の刀を胸に押し付けるようにして渡す。赤鞘を持つ、漆黒の日輪刀とは真逆の華美な刀。
継国家の宝刀・螭落天津である。
何度も鍛え直され、日輪刀の素材によって鍛え上げられた名刀は鬼だけではなく、人すらも斬ってきた妖刀である。
炭吉がそれを少し抜くと巌勝の日輪刀と同じ紫紺の煌めきが刃紋を形造り、夕日を反射して輝いた。鍛えたものの高い技量が伺える。
無論、弔替が打ち直し、かつ巌勝が握って色を変えたものである。
「これは……?」
「見ての通り刀だ……私の刀と同じ素材で出来ているから……朽ちにくく、頑丈で、扱いやすい……月の呼吸に適している」
「……!」
「その刀をお前に預けた……別に振るっても構わない……物干し竿でもよいぞ……特別頑丈だ……今度尋ねた時には返してもらおう……では……
呆然としている炭吉を置いて、巌勝は身を翻す。数秒経って、炭吉がはっとした時にはもう侍の姿はそこになかった。
刀を抱えながら帰ったところ、丁寧に血抜きされ、部位ごとに分けられた猪が家の玄関に置かれていた。
★
日も既に暮れた夜。
巌勝が山を降り行きと同じような彼岸花地帯を眺めながら歩いていると、彼岸花畑の中に人影を見つけた。辺り一面に咲いている彼岸花地帯に花を踏み付けるように歩いている。少し注意でもしてやろうかと思った瞬間……顔を見て怖気が走った。
(なっ!?)
闇を溶かしこんだような黒い髪に血のように赤い目、鬼の始祖・鬼舞辻無惨である。
無惨も巌勝を見つけた。赤い双眸が巌勝をしげしげと見つめる。彼はすぐさま近づいて跪いた。
「久しいな巌勝よ。ふむ……順調に体を仕上げてきているな」
「はい……四年前は……私の下らない我儘を耳を傾けて下さり……恐悦至極に存じます」
無惨の機嫌の低下がそのまま計画の破綻に直結する。もし殺し合いになった時には逃げの一択だろうが、原作のように薬で弱体化すらされていない以上戦闘力は不明瞭な為、極力戦闘は避けたかった。
(なぜか機嫌はかなり良いようだ)
「構わん。お前が目指す侍の道を私は全力で応援しよう。……それで、お前はいつ鬼となり私のために刀を振るってくれるのだ?」
「お望みとあらば……すぐにでも」
「そうか……! 私は嬉しいぞ。お前が鬼になれば私としても優秀な仲間が増えて喜ばしいことだからな」
「勿体なきお言葉」
(優秀な仲間……どう考えても道具としか見てないな)
無惨の機嫌は最高潮に達する。鬼狩りについての有力な情報を持つ巌勝が鬼になれば鬼殺の里が分かり、邪魔な鬼狩りを一掃できるからである。結局は自己中の塊のような人物である。
「……巌勝よ。お前だけに伝えるが」
「はい」
「私は青い彼岸花を探している」
「……青い……彼岸花でございましょうか……?」
もちろん巌勝は知らないふりをする。
「それさえあれば……! 私は太陽を克服でき、無敵の存在となるのだ! もちろんお前達も私が太陽を克服出来れば、共に不滅の存在となる」
無惨はいつの間にか巌勝を既にお気に入りに入れていた。青い彼岸花を求めていることを示すのもその一環。
もちろん『共に不滅の〜』の下りは真っ赤な嘘である。巌勝も気がついている。無惨自らが太陽を克服すれば、全ての鬼は用済みということで消されるだろう。例え鬼の一人が太陽を克服しようが、そいつを呼び出して喰ってあとはおなじだ。
「そのような崇高な思想がお在りだとは……! この巌勝。感服致しました」
「そうだろう」
さらに無惨は機嫌を良くした。巌勝は内心ほくそ笑む。無惨は頭を垂れているいる巌勝に近づいて来た。
「今夜は数百年ぶりに気持ちが昂る……巌勝よ、これを受け取れ」
「……頂戴致します」
巌勝は皮でできた袋を渡される。恐らく獣の皮だろう。それ以外だとは思いたくない。受け取った感触から、中身は液体のようであった。
「私の血だ。お前ほどの強さを持つ人間はそうそういない。故に血も大量に必要であり、尚且つ小分けにして血を渡すべきだと珠世が言っていた。私が他の者に手間をかけるなどそうそうない事だ。お前は特別に用意した。有難く思え」
渡されたのは普通の人間であれば細胞が壊れ、即死するような量の血である。
「光栄の極み」
「……もうすぐ期日だ。必ずそれまでに血を飲んで私の元へ馳せ参じろ、いいな……?」
「御意……必ずや参りましょう」
「鬼となった身では……私の名を呼ぶことは禁止しているが、お前は特別に許そう」
無惨が立ち去ろうとする。巌勝は跪いたまま、主人が立ち去るのを待つが。
「ああ、そうだ」
ふと、無惨は立ち止まる。
「十二鬼月という鬼の幹部を作った。下弦が六体、上弦が六体で十二体分。入れ替わりの血戦で上に成り上がる。上に上がれば上がるほど私の血を大量に分けてやるつもりだ。
……私からお前に名を授ける。謹んで受け取れ、継国巌勝よ。
お前はこれより十二鬼月の頂点。最強の鬼、〝上弦の壱〟……
『黒死牟』だ」
告げられた名は果たして諱となるか、それとも……
★
「黒死牟……か」
無惨との会話の後、巌勝は野営をしていた。ふと、八咫が舞い降りてくる気配を感じ目を開く。彼はいつ休んでいるのだろうかと、柄にもないことを思った。
「巌勝殿、薫殿達が狙われています」
「は」
開口一番に八咫から告げられた言葉に、ほんの一瞬だけ思考が停止する。すぐに元に戻るが、聞き間違いではないかと現実逃避をしたかった。まるで意味がわからないのだ。
「……どういうことだ……いや待て……誰にだ……理由はなんだ?」
「順を追って説明致す。
首謀者は鬼殺隊の柱。なんでも巌勝殿が鬼になるという疑いがあり、薫殿を人質にとって月柱に本当に鬼になる意志があるかどうか試させる腹積もりらしい……因みに紫明殿の存在は知られておりませんが、恐らくは……薫殿と共に人質にするでしょう」
巌勝は動揺する。眠気が吹き飛び、無意識に刀に手が届く。なぜ今。なぜ今日。浮かぶ疑問に答えは出ない。ただ自分の中で鬼殺隊の何かが崩れ落ちる。鬼殺隊は正義である。原作において主人公の所属する機関であり、皆が皆優しく強いのだ。
そんな鬼殺隊がまして幼子とその親を人質にとるとは到底信じられなかった。
「……何を……馬鹿げたことを……鬼殺隊は鬼を殺すための組織だろう……幼子を巻き込むなど……
それに意志を示すだけならば人質を取ってまでする必要は無いだろう……そんなことをするのなら余程確信が」
巌勝は冷汗が身体中から吹き出す。彼が勘違いしていただけ。鬼殺隊は弱きを助け強きをくじくのでは無い。
人を助けることは鬼殺隊の根幹にある。だが、家族を鬼に殺された者が、人命と鬼の首のどちらを選ぶかは想像に難くない。鬼を殺す為ならば法律にすら臆せず刀を所持するような者達である。そして今、巌勝は鬼になろうとしている。余りにも辻褄が合いすぎた。
(待て、無惨との会話を聞かれていたら? 四年前、刀鍛冶の里であの場に透き通る世界ですら勘づけないほどに死にかけていた人間が偶然その話を聞き、偶然四年後に目を覚ましたのなら……? ありえん。他にあるはずだ)
「…………本当に……情報は確かか?」
巌勝はまだ信じきれていなかった。この四年間、何回も任務を共にしていた彼らが女性と子供を人質にとるなど考えたくなかった。
しかし────
「はい。柱達の密会を盗聴しました故」
真実は残酷であった。巌勝は目の色を変えた。鬼を殺すときの目である。
「決行は……何時だ」
「明日の夜です」
「……すぐに向かう。おまえは縁壱に知らせろ」
「委細承知……………………巌勝殿」
「なんだ? …………八咫?」
「…………いえ、なんでもございません」
「……? ……そうか」
歯車は狂い始めた……しかしそれは巌勝や薫にとっての歯車であり、原作に向かっていつも正しい方向へと回転している。
鬼滅の刃における始まりの呼吸、その開祖達の物語は収束しようとしていた。
炭吉
大見得を切ったけど、日の呼吸を学ぶことですら不安。月の呼吸の方が型が多い……
すやこ
私が月の呼吸を舞うー!
巌勝
また来ようかな。藤の花なんて飛び超えればいいし
八咫
鎹鴉の中では御館様の鎹鴉を抑えて頂点にたっている。巌勝への伝令は全て請負い、音もなく飛ぶ。呼吸法による長時間の滞空を可能とする。戦闘力も高く、たまに獲物だと思って襲ってきた猛禽類を肉塊へと変えて主への土産としている。ぼくのかんがえたさいきょうのかすがいがらす。
巌勝が鬼になることを知りながら口には出さない。
主が自分に言わないのならば、言及することは間違いなのだ。
無惨
巌勝を基準に十二鬼月を作ったが、下弦は愚か巌勝に並ぶ上弦すら一体もいない。故に巌勝が裏切らずにしっかりと自分に忠誠を誓っていることを知って、頗る上機嫌。
もうあいつ一人でいいんじゃないか?
作者
次の話は難産です。相対的に文字数は少し多くなります。暫し待たれよ