黒死の刃   作:みくりあ

30 / 56
感想、評価ありがとうございます!
2日前くらいに日間5位になったの驚きました。
皆さんアニメ見ましたか?鬼滅は何回見返しても飽きないですね。


おしながき

風柱・房綱。不死川口調
水柱・正助。ノーマル口調
炎柱・暢寿郎。だいたい杏寿郎
鳴柱・愛染。関西弁
岩柱・琴音 寡黙


廿捌話 絶対的正義・上 (房綱視点)

 俺達は大きな町の通りの小さな宿屋に来ていた。因みに俺以外の柱も全員来ている。大所帯だ。柱全員集合なんて、こんなことできるのはもう二度とないだろう。流石は御館様だ。

 

「……ここなんだなァ?」

「ああ、ここで薫が休んでいるらしい」

「一人か?」

「? そうだが……」

「そうか…………んで、誰が行くんだよォ」

「「「「……」」」」

 

 こいつらそっぽ向きやがる。特に正助、お前口笛吹けてねぇぞ。

 

「どうした? 薫を説得して、抵抗するなら無力化して巌勝の奴を誘き寄せる餌にするんだろ?」

「…………房綱、言い方」

「琴音。俺は何も間違えたことを言ってねェ。俺は元々この計画に反対だ。俺はあの巌勝が鬼になるなんて思えねェからなァ」

「それを今から確かめるんだよ」

「正助は……疑ってるんだな」

「ああ」

 

 こいつらはある名付きの鬼の討伐に向かった。面子は水柱の正助、炎柱の暢寿郎、岩柱の琴音。その鬼の最後の言葉は、巌勝が鬼になるのを示唆するものだったらしい。たかだか一匹の鬼の言葉を真に受けるなんてどうかしてる。

 その鬼・痎瘧は、なんでも切ったそばから再生して、尚且つ再生したところは斬られる前よりさらに硬化したらしい。その上、首を切っても死ななかったそうだ。最終的に日光で焼き殺したらしい。とんでもない鬼だ。

 

「んで、まだ傷は痛むのか?」

「いや、もう大丈夫だよ。あの鬼に片目で済んだのが奇跡だ」

「そうか……」

 

 正助はその鬼に右目を抉られていた。良くもまぁ片目で勝てたもんだな。暢寿郎と琴音は五体満足だし、()()()()()()()()()()()らしいしなぁ。俺もさっさと出さねェと。

 

()()()()()()()はよ決めよ!」

「えぇ……」

「頑張りやがったのに、ひでぇな」

「…………愛染が行けば?」

「いやや! 巌勝君と引き離してまで呼び出して、その上巌勝君を倒すために協力してなんて言ったら、私が薫に殺されてまう!」

「…………それには激しく同意」

 

 じゃあどう済んだよ。まさか俺に年頃の女の部屋に入れとでも言うんじゃねぇだろうなァ? 

 そうこうしているうちに、暢寿郎が近づいてきやがった。

 

「愛染。冗談を吐けるようなら、問題ないな」

「暢寿郎。てめぇの妹だろうが、お前が行けやァ」

「正直に言おう! 俺は昔から薫に勝てないし、なんなら滅茶苦茶怖い! 絶対に行きたくない! 以上!」

「以上じゃねぇんだわ」

「ウチらん中で一番強いの房綱やし……ね?」

「………………賛成」

「俺、片目負傷中」

「どいつもこいつも……」

 

 結局、俺が行くことになるんだよな……

 

 

 

 

 ★

 

 

 

「薫様」

「っ……! 誰ですか!?」

 

 時は既に夕暮れ。

 俺は隠を連れて薫の休む部屋の前にいる。

 流石に俺だけで女の部屋に入るのははばかられた。その上薫ならもっとだ。部屋の外で待機し、女の隠に説得は任せた。もちろん帯刀もしている。準備するにこしたことは無い。

 

「私は鬼殺隊の隠でございます。薫様に伝言を伝えに参りました」

「そこにもう一人いらっしゃいますね?」

 

 薫は厳戒態勢だ。気配と音からして日輪刀を抜刀の構えで持ち、いつでも斬りかかれるようにしているようだな。呼吸までつかっていやがる。こいつの呼吸音はどこかあの兄弟を思い出させる音をしているからわかりやすい。

 

(……だが、なんでそんなに警戒する? なんか大事なものでも隠してんのか?)

 

「……」

「隠のあなた、どうして私の居場所がわかったのでしょうか?」

「……恐れながら、私にお答えする権限はございません」

「なら、そちらの方に問いましょう」

 

(障子越しに視線を感じる……)

 

 とりあえず俺は隠に目配せして強引にも障子を開けるよう隠に示す。

 隠は頷きゆっくりと障子を開け……ようとし、手を障子にかけた瞬間。

 

 

 

(ッ!)

 

「ひっ……!?」

 

 

 俺は無意識に刀に手を伸ばした。それほどまでに深い濃密な殺気。隠の奴が完全にビビってやがる。泣きそうな顔をして俺を見やがる。いやどう済んだよ。お前は貴重な交渉役だろうが。

 薫も薫だ。障子に手を掛けただけでこれだと相当ヤベぇモン匿ってるな。……まさか巌勝本人じゃねぇだろうな。

 

「……か、かっ……風柱様……助けて」

「風柱?」

 

 根性無しめ。位の呼称でバレるが、仕方ねぇか。

 

「ああ、房綱ですか。何故柱である貴方がこんなところにいるのか疑問ですが、隠諸共に去りなさい。私はこれから里に戻り」

「そのための馬を外に用意してある。なぜお前が姿を見られることに嫌悪感があるのかわかんねぇが……とりあえず出てこい」

「虚言ですね。軽口を叩く暇があったら訳のひとつくらい話したらどうですか?」

「……禅問答だ。とりあえず開けるぞ」

「意味がわかりません。私にそこまで固執する理由を言ってくださ」

 

 

 

 

 

 

「……ふぁぁ……んぅ? ()()()()? もうおてんとさまがのぼったの?」

 

 

 

 

 

 あ? 

 

 

 

(かーさまだぁ!?)

 

 

 俺は咄嗟に障子を全開にする。

 口を半開きにして驚いている俺を他所に、薫が渋々と刀を納める。子供の前だからか……んで、誰の子かって話になるが。現実逃避してぇくれぇだ。滅茶苦茶似てやがる。目元がそっくりだ。

 

「そいつは……」

「私の子供です」

「養子……かもしれねぇだろ」

「失礼ですね……しっかり私が腹を痛めて産んだ子供ですよ」

「……」

 

(嘘だろ……本当に、嘘だといってくれ)

 

 落ち着け……絶叫したい気持ちを抑えろ……

 

「かーさま……この人……なんかこわい」

「だ、そうですよ房綱。紫明の目に毒なので少し失せてくれませんか?」

「ああ……っておい。いや、その言い方は無いだろう。

 それにだ。これでも俺は鬼殺隊の頂点である柱だし、面も結構男前……」

「とーさまのほうがずぅ──っとかっこいいもん!!」

 

「……ァ?」

 

(この餓鬼の親父ってことは…………)

 

 子供……餓鬼でいいか。餓鬼の射干玉を塗りこんだような艶やかな黒髪と、形は薫寄りだが心の深淵まで覗き込んできそうな目は……完全にあいつしかしねぇ。その上この、ああ。餓鬼の癖してもう父親に似てきてやがる。

 

「とーさまっつーことは、巌勝の野郎か」

「おじさん、とーさまをしってるの?」

「ん? ……ああ、知ってるぞ。苦い程なァ」

「!」

 

 即座に餓鬼が距離を詰めてくる。

 なんで怖がらねぇ、なんで臆さねぇ。継子ですら怖がる。俺は目つきも悪いし、ガタイがいいのも自負してる。少なくとも片手でこの餓鬼は殺せる。なのになんで遥か格上の存在に対してこうもあっさり距離を詰められる? 

 

「おしえてください! しあのしらないとーさまのことぜんぶ!」

「……」

 

(全部かぁ……親に向ける執着にしては強すぎねぇか?)

 

「……いや、悪ぃ。俺も流石に全部は知らねぇんだ」

「ふーん」

 

(こいつ……! 興味を無くしやがった!)

 

「はーいそこまで。父様のことは後で教えてあげるから、紫明はこっちにおいで?」

「わかった!」

 

 紫明と言われた餓鬼が薫の着物の裾にしがみつく。落ち着け、流れに呑まれるな。餓鬼相手に何を本気になってんだ。

 そうか、この餓鬼は薫という存在が守ってくれると信じていやがるのか。それにしても、

 

(本当に煉獄の血が混じってんのか?)

 

 俺にとって煉獄姓といえば薫の実兄である、炎柱・煉獄暢寿郎だ。

 薫にされるがままの紫明の面には、あの暢寿郎みてぇな鷹のような目もない。唯一面影があるとしたら赤い目だが、これは薫の色だ。薫は薫でえらい別嬪になってやがるし。

 

 俺達ってフツーに邪魔者じゃねぇか? 

 俺達が里に呼ばなかったらこいつらはこいつらで真っ当な人生をすごしてたんじゃねぇか? 

 

「この人はね。柱、と言って父様と同じお仕事なんですよ」

「んー? でもとーさまより……」

「紫明、本当のことを言っちゃいけません」

「オォイ」

「かーさま、あのおじさんにらんでくる。しあこわいよ」

「怖いねぇー。それじゃあ、母様が今からやっつけちゃうから少し待っててね」

 

 薫は紫明に見えないように自然と手を刀にかける。もうそろそろ限界らしい。薫の機嫌的にもさっさと話を進めた方がいいな。

 

(餓鬼、お前が母と呼んで今しがみついてんのは、戦闘集団である鬼殺隊の中でも、特別化け物じみた強さを持つ剣士なんだぜ……怖ぇのは俺なんだよなァ)

 

「……話を戻しましょう。私達に外に出て欲しいんですね? 」

「そうだ」

「にしても貴方のような柱を寄越すとは。これは御館様のご意向ですか?」

「いや、柱の皆の独断だ。ほら……いるだろ?」

 

 薫は目を閉じた。そしてすぐに目を見開いた。

 

「あら、結構居ますね。私としたことが気づかないなんて」

 

 この街には柱が五人、鬼殺隊十八人、隠が三十人。揃い踏みだ。

 なのになんだその反応は。もう少し驚けよ。まさかお前とはいえこれを一人でどうにかできるわけないよな。

 とりあえず、だ。

 今の御館様はもう長くない。あと一年もせずに次に交代だ。それ迄には片付けるモン片付けねぇと。次代の御館様もまだ幼い。柱の一人に鬼の疑いがあるから拘束しろだなんて突拍子もない命令できるかもわかんねぇしな。

 

「理由はなんですか?」

「……言えねぇ。とりあえず外に出ろ」

「言えない。というのは理由を聞けば私が抵抗するからですね?」

 

 薫が等々殺気立ち、左手の親指で日輪刀の柄を押し上げた。最早斬り掛かる気満々かよ。随分とおっかなくなったな。子供がいるんならしゃーねぇか。

 まずはこいつに人質になってもらわねェと巌勝の疑いを晴らすことすら出来ねェからなァ。俺の頭を下げるだけであいつへの疑いが晴れるならいくらでも下げるさ。

 俺は刀を収めて、薫に頭を下げる。

 

「頼む。この通りだ」

「そこまでして、私達に外へ出て欲しいんですか」

「あァ」

 

 静かになった。

 

「……はぁ……紫明に危害を加えないと断言できますか?」

「もちろんだ」

「わかりました。しかし帯刀はさせてもらいます」

「……構わねェ」

 

 とりあえず薫に紫明を連れて宿の外に出させる。ここは鬼殺の里への中継地点。町は鬼殺隊専用と言ってもいい。大体の家には鬼殺隊にゆかりがある人物が住んでいる。故に……有事に対応しやすい。

 

(刀もってこさせちまったけど、どうしようもなかったしなァ)

 

 俺たちが宿から出てくると、薫は鬼殺隊の多さにたじろいだ。

 呼び出した理由をいつ言うべきか迷っているうちに、薫に気がついた暢寿郎が寄ってきやがる。

 

「結構集めましたね。柱の皆さんも揃い踏みで。兄様も」

「久しいな薫。……その子は……まさか……」

「兄様の望んだ姪ですよ。紫明と言うんです。可愛いでしょう? ほら紫明、あなたのおじさんです。挨拶しなさい」

「しあといいます。よろしくおねがいしますおじさん!」

「……あ、ああ、よろしく」

 

(分かるぞ暢寿郎。紫明の雰囲気には俺も驚いた)

 

「……! そうか、紫明と言うのか!」

「えぇ、縁壱君が付けてくれたんです」

「…………姓は煉獄……」

「『継国』です。継国紫明。煉獄姓にしなかった理由はしっかりあります。これから万が一私や夫、若しくはその両方が欠けた場合、縁壱君に任せられるからです。強いんですよ私の義弟」

「……」

 

 ああ、見てられねぇ。

 薫、知らねぇだろうがお前の兄はな、縁壱にな、模擬戦であっさりと、それも()()()()()()()()()()()やられたんだぞ。以来、縁壱の名前が出されると、暢寿郎は自信をなくすんだが……あぁ駄目だ。見てられねぇ。

 ほら、暢寿郎の野郎が肩を落として呆然とふらつき出しやがった。どんだけ気を落としてんだよ。

 

「ねぇ、かーさま」

「なぁに紫明」

「しあ、おじさんにあいさつしたよね?」

「ええ、よく出来ました」

 

 薫が紫明の頭を撫でる。紫明は嬉しそうに目を細めている。褒めてもらいたかったのか、随分と餓鬼らしいお願いじゃ────

 

「じゃあ! もう帰ろう! しあ、とーさまにはやくはやくはやくはやくはやくはやくあいたいの!」

 

(誰だろうなァ…………ホント……誰に似たんだろうなァ……俺は知らねぇなァ……)

 

 薫も実の兄そっちのけで紫明と会話してるし、揃っておっかねぇ。

 ていうか継国姓なのか。てっきり巌勝が婿入りしたんだから煉獄姓かと思ったが。理由も当てつけだろ。どちらが欠けるもなにもお前らを屠れる鬼がいたらこの国は滅んでるぞ。もっとなにか別の理由がある気がするが……まぁ俺が口を出すことじゃねぇか。

 そうやって話してると、愛染・正助・琴音が集まってきた。

 

「おぉっ! 久しぶりやね薫はん。何時ぶりやろ」

「…………久しぶり」

 

 愛染と琴音が薫と紫明に寄ってくる。だがこいつら、紫明の存在に気づいていねぇな。

 

「おい愛染、それに琴音もだァ。大勢で来ると紫明がびっくりしちまうだろうがァ」

「え? ……しあ? どなたはん? 新しい鬼殺隊?」

「…………誰?」

 

 きょとんとした愛染と琴音に目配せしてやる。

 すると、紫明がひょっこりと薫の足元から顔を出した。

 

「えぇー!? か、可愛いぃ! 誰!? 誰や!?」

「……………………」

「ふふっ、可愛いでしょう? 私と巌勝君の子供です。紫明、挨拶なさい」

「よろしくおねがいします」

「わぁーっ! おめでとう薫! えらいかわいらしい子やな」

「…………はっ! ……天女」

 

 暢寿郎は……っと……こいつ地面にのの字書いてやがる。どんよりとした雰囲気を纏ってやがるし、軽く印象崩壊してんな。炎柱だろお前。いつも通りうむうむ言っとけ。

 

「俺は縁壱の兄である巌勝にも負けたのか。ふっ……笑え! 房綱。俺はあの兄弟に完敗したのだ! 

 紫明に至っては、あの目だ、あの目はなんだ! 

 紫明は俺達が怖いから刺激しないように平然を装っているんじゃない! 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()失望の色なんだ!」

「落ち着けェ。あの兄弟が頭おかしいだけだァ。お前は弱くねェ」

「いや分かってたけど……え? 早やない? いや、世間一般で言うと普通……もしかして鬼殺隊って恋人作りにくい? それも柱ならもっと? え? え?」

「…………今更…………全然…………つらくない」

「愛染も琴音も落ち込まないでよ。縁談くらい御館様に頼めば斡旋してくださるよ」

「「!?」」

「二人とも知らなかったんだ…………うおっ!」

「正助君、それについて」

「詳しく」

「……」

 

 俺が暢寿郎を慰めて、愛染と琴音が正助を問い詰めてて、紫明と薫は和気藹々と遊んでて……なんだこれ。ここに集まっているのは鬼殺隊の最高戦力のはずなんだがなァ。

 それにしてもこいつら……顔はいいのになんで恋人居ねぇんだよ。恋人がいないことに関しては俺が言えた台詞じゃねぇけどな。

 とりあえず薫の対応は正助にでも任せるか。俺はこいつらの相手と…………どんより落ち込んでる暢寿郎は……ほっとくか。

 揃いも揃ってよォ……! 

 

「さてと、本当にごめん薫、巌勝が来るまでの辛抱だから……」

「? ……正助、夫がこの事態と何か関係あるんですか?」

「夫ね……ってあれ? 房綱から聞いてない?」

「へ?」

 

(……きたか)

 

 出来ればこの()()()()()()()時間が一生続いてほしかったがなァ……ほんと……なんでこんなことになったんだろうなァ。俺達はどこで道を違えたんだろうなァ。

 

「薫」

 

 暢寿郎を阿呆二人に任せて、もとい押し付けて鬼殺隊に目配せする。本意ではないが混沌としていながらも和やかな雰囲気を消し飛ばした。

 これから話すのは外道みたいな、それも反吐が出そうになるほどの作戦だ。

 

「……なんですか改まって」

「先日柱三人がかりで倒したとされる名付きの鬼……痎瘧と名乗った鬼が最後にこう言い残した。

 

『カカカッ……! あの剣士が……あの化け物が鬼になればお前ら鬼殺隊は終わりだぞ! ()()は……生まれついでの鬼だ! 我らの時代が来る……! 』

 

 となァ。痎瘧は出鱈目に強いらしくてなァ、そいつにここまで言わせる存在かつ剣士となると月柱かお前しかいない……っつーことだ。……この意味がわかるな?」

 

 薫は黙り込む。

 

(ああ、薫。その反応が……表情が……真実を証明しちまってるんだァ……)

 

「……理解不能です。それに言いがかりです。夫や私が鬼になるという確証なんてないでしょう?」

「その通りだ。全くと言っていいほどない。だが、なんとしてでも柱が鬼になるのだけは避けねばならねぇ。特に御館様がご存命のうちに可能性は潰す。これは……俺たち柱の総意だ」

 

 月柱という存在は恐怖の対象であると共に一部の隊士、主に日の呼吸使用者にとっては尊敬の対象だ。

 強いからって柱合会議すら蹴るのはさすがに柱としてどうかとは思っていたが……納得した。薫が身篭っていたんだろう。それなら仕方ねぇな、まぁ、それでも俺に理由くらい言って欲しかったがァ。それにあいつの鎹鴉……八咫と言ったか、あの烏、鎹鴉にしてはやけに強ぇんだよな。ダミ声で叫ばないし、なんなら流暢に喋るし、柱合会議の真っ最中に月柱欠席の連絡だけ言い残して去ってくし、俺が後を追わされるし、何故か追いつけないし。

 そんなことはどうでもいい。現実逃避なんてしてる場合じゃねぇ。

 

 お、暢寿郎が自力で復活した。頼むぜ兄様、ここは兄の威厳ってやつを見せてもらわねぇと……

 

「……薫。従え」

「……」

「……」

 

(一言で精一杯かよ)

 

「……ですが」

「言っておくが本当に強かったよ。俺なんてほら、目を持ってかれたし」

 

(正助が帰ってきた。じゃあ俺は鬼殺隊に人払いの命令でも……)

 

「房綱、あんたも知っとったんならなんで言ってくれへんかったん!? 言ってくれれば……ウチは今頃、それはもう勇ましい殿方と一緒に……!」

「…………女に取って婚期は生命線……故に房綱。貴方は万死に値する」

「次はお前らかァ……」

 

 すぐに阿呆二人がまた詰め寄ってくる。話が全く進まねぇぞオイ。

 

 ★

 

「もしそうだとしても……そこまで追い詰めたのは貴方たち鬼殺隊ではありませんか?」

「許せ薫。月柱は強すぎる。こうでもしないと対等な立場になれないほどに……本来ならば日柱にも加勢してもらうはずであったが兄弟という面から特別に内密にしておいた。

 何度も言うが、我ら鬼殺隊は鬼を殺す為にある。手を汚してでも鬼の可能性は断ち切らねばならん」

 

(まだ兄弟で話し合っていやがるのか……もう夜だぞ。だが、このくらいの時間、安いもんだ)

 

 あの日柱に並んで最強の一角と謳われる月柱が、鬼になるという可能性がほぼ確定。そして月柱に対抗できる存在が完全に皆無。建前としては確認のために、薫と紫明を人質にとるということだ。……気持ちのいいもんでは無ぇ。寧ろ反吐が出る。

 月柱を目指して鬼殺隊に入るやつは腐るほどいる。だがすぐに実力差に気づいて絶望し、鬼殺隊を去る。()()()()()()()()()。侍は主への忠誠心と共に強さを求められるから最強を目指す侍は少なくねぇ。才能が中途半端にある奴はあいつを目指し、絶望の獄炎と失望の劇毒に身を包み込まれて死ぬ。

 

 本人は気づいていない。いや、気がつけない。あいつの物差しは入りたてのヒヨっ子も歴戦の柱も等しい。

 縁壱のように強者も弱者も等しく照らすのでは無く。

 見上げてはその差に絶望し、焦がれることしか出来ないような得体の知れない化け物。それが月柱・継国巌勝。

 

 俺も柱の皆も薄々気付いている。巌勝は鬼になるということに。気がついている。どこか納得させるなにかがある。理解できないからこそ予想しやすい。

 ならば妻子を人質にとってでも月柱が鬼になるのは防がにゃならねぇ。

 

 

 

 

 

 

 ────これだと……どっちが鬼かわかんねェなァ

 

 

 

 

 

 

 

「やはり協力できません。巌勝君と話し合いたいのならば、私は兎も角、紫明を巻き込まないでください」

「そうか……時間も押している。薫、すまない」

「……っ!」

「……クソが。胸糞悪ぃな」

 

 薫の口に後ろから布が当てられる。確か強い昏睡の作用がある薬の一種だった気がする。鬼殺隊にとっては痛み止めに使われることの多い薬だが、生身の人間が服用するには極小量でいい。薫に投与されたのは比較的多量な筈なんだが……まだ意識があるようだ。

 

「かーさま!?」

 

 薫の足元にいる紫明が心配そうに自分の母を見つめている。当たり前だ。母親が薬を飲まされて苦しんでんだからなァ。生まれて数年の幼子が驚愕するのも無理はねェ。

 薫は少しのあいだふらついたあと、紫明を抱え込みながら膝を着いてガックリと項垂れる。俺は薫に薬が周り切ったと判断し、隠を呼ぶ。

 とうとう紫明が母が動き出さないのを見てしゃくり始めた。

 

(……わざと力を抜いたな。薬の分解に力を入れるつもりか……とりあえず黙っておくか、柱に並ぶ実力者だ。下手に見破って追い詰めたら月柱との戦闘の前に深手を負うかもしれねぇからな)

 

 そういえば巌勝の月の呼吸の道場や、薫の暁の呼吸の道場なんて一度も見たことがない。下手したら作っていないかもしれないがそんなことは全くもって有り得無ぇ。技術を受け継ぐことは武人の本懐だ。あいつに限ってそれは有り得ねぇ。巧妙に隠していやがるんだ。

 

「なァ、暢寿郎」

「なんだ?」

「……最初からこうしておけば良くねぇか? これではあまりにも薫と紫明が可哀想じゃねぇか」

「……房綱。良くも悪くも薫には鬼を狩るより大切なものができたらしい。鬼殺隊の身としては考えものだが、兄としては嬉しい限りだな」

「話を聞けや。その薫を強制的に鬼殺隊の都合で連れていくんだろ? それもこいつの夫を嵌めるために……もう俺には何が正しいのかわかんねぇよ」

「………………でも鬼は皆殺しにする。これは曲げられない。例え……彼が鬼殺隊全ての恩人であっても」

「……琴音もかよ」

「なぁ正助……なんか紫明ちゃんめっちゃこっち睨んで来るんやけど……」

「まさか。愛染、紫明はまだ子供だぞ。ただただ混乱しているだけだよ」

 

 浮かんだ疑問に蓋をする。そうだ。大丈夫。まだ餓鬼だ。……待て、俺は何に言い訳をしている? そんなに……この餓鬼が、紫明が怖いのか? 

 隠を待っていると、紫明は途端に懐から笛を取り出して思い切り吹いた。

 

 

 

 

 

 

 ────!! ────! 

 

 

 

 

 

「うわっ! なんや!? ……なんや、笛かいな」

「落ち着いてみんな。子供の玩具だよ。なにか聞いたことの無い音色だね。何か特殊な製法で作ったのかな?」

 

 

 

 ヤベェ……

 

 

 

 

 よくわからんがあの笛は()()()。音の響きから音色に至るまで()()()()()()()()。俺の勘が今までにないくらい警鐘を鳴らしてやがる。

 咄嗟に笛を取り上げる。

 

(ほら、なんも抵抗しねぇ。寧ろ吹いた途端、安心しきりやがったッ……!)

 

「房綱!?」

「あの二人の子供だぞ!? 嫌な予感しかしねぇよ!」

「にしてもやりすぎじゃない? まだ子供だ。ほら、笛を返してあげなきゃ」

 

 そうなんだよ。()()()()なんだよ。その子供が母親を害されてもなお泣きもしない時点でおかしいんだ。

 

「お前達、何を騒いでいる。

 おいそこの隠、紫明を抱えろ。そしてそこの女の隠は薫をおぶれ。薫を極力紫明の目が届くようにするんだ。呉々も丁重に運べ」

 

 俺があいつらを引き止めていたら……何か変わったか? 




房綱
先代風柱が不死川口調のため、憧れて自分なりに再現した。たまにボロがでる。他の隊士からすれば面倒見のいい兄貴分であるが、昔の彼を知っている者からすれば微笑ましいものである。
巌勝が鬼だなんてありえないと思っていたが、薫の反応を見て絶望している。
苦労人


正助
垂れ目イケメン。痣発現済み。
側頭部に狐のお面を下げている。けっこう器用。
どんだけ傷ついても鬼に立ち向かっていくため、鬼からも隊士からもドン引きされている。
薫が自分たちより強いことを知っている。

暢寿郎
縁壱の名前は効果抜群だ!
痣発現済み。
今作では縁壱だけでなく、巌勝によっても心を折られている。杏寿郎パパがさらに病むことになる。なんだよ刃を飛ばすって。
煉獄杏寿郎のような明るさと頼もしさがあるので隊士達に人気。

愛染
薫の一番の親友であり、房綱と同じく巌勝鬼説を全然信じていない。
天真爛漫な性格と、愛嬌のある顔立ちにより、ガチ恋勢が後を絶たない。

琴音
槍を用いて戦うスタイル。痣発現済み。
寡黙口調は巌勝の真似。
毒舌と無表情が目立つが、それも巌勝の真似である。実際は感情豊かな少女であり、所謂ツンデレ。
刺さる言葉で責めたてられもするが、片々に心配と激励が篭っており数回任務を共にするだけで一生着いていきたくなること間違いなし。

痎瘧
おぼえてる?


巌勝と同じく鬼殺隊を信じていた一人。故に薬などの直接的な手段を用いるとはおもっていなかった。

紫明
とーさまのふえをふいた。おまえはもうしんでいる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。