黒死の刃   作:みくりあ

32 / 56
感想、評価ありがとうございます!
映画見ましたか!?自分としては上弦のビジュアルが少し見られただけで満足ですね。しっかり兄上刀差してたし。待ってろ猗窩座、お前の嫁を救ってやるからな。
それはそれとして
遊郭編前の10月に煉獄兄貴の話とか、CV沢城さんとか、OPEDAimerさんとか、遊郭の一話目は一時間するとか……ファンを殺しに来てますねこれは、間違いない。


丗話 誰がために振るう刃

 ────ホォォォオオオオオ

 

 一匹の鬼が今、家族を守るために牙を剥く。

 

(身体中が滾る。通常よりも何倍もの握力で刀を握ることが出来、透き通る世界もより澄んで見える)

 

 柱は何とかして立ち直った。刀を構えて戦いに備える。月光の侍から目を離すことが出来なかった。力の威容に飲み込まれかけていたのだ。他の鬼殺隊は巌勝の放つ圧倒的存在感に平伏しそうになるのを精神力で抑え込む。

 

「だめや……こんなのってないやろ……」

「どうして……ははっ、僕達のせいか……」

「……巌勝……いや、黒死牟。覚悟しろ。鬼は滅ぼ……」

 

 

「……」

 

 

 ────ゾワリ

 

 

 巌勝が刀に触れた途端、柱達の体に怖気が走る。世界が震えていると勘違いするほどに体の震えが収まらない。

 彼が腰を深く落として構える。途端、空気が重石のようにのしかかる。柱達は取り返しのつかないことをしてしまったのだと今更ながら自覚した。巌勝と稽古をした事のある房綱達ですら感じたことの無い程の威圧感は、稽古において、彼が本気を出さず手加減してくれていたことを暗に示していた。

 気づいていた。彼と自分たちとでは天と地程の差があることに。でも手を伸ばさずには居られなかった。彼のあり方は鬼殺隊抜きにして侍としての理想像そのものであり、弱きを救け強きを挫く姿は堪らなく尊かったから。

 

(対峙してみるとわかるなァ……こんなに遠くにいたのかァ)

(あれは駄目だ。真っ向から戦ってはならない)

(駄目駄目駄目無理無理ぃ!?)

(落ち着け……落ち着け)

 

 

 

 ────刀が振るわれ

 

 

 

 «月の呼吸 壱の型 闇月・宵の宮»

 

 

 

 居合の構えから放たれるは災厄の月輪。

 最早技術で補う必要はない。自らの血肉と血鬼術と呼吸。全てを組み合わせた斬撃は必死である。

 

「全員っ! ……! 避けやがれぇええ!!」

 

 柱達は身を翻して腰が抜けている者を数人、襟を引っ掴んで無理矢理避難させた。巌勝から振るわれる攻撃は受け切れないという判断の元の行動。それは正しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ────世界が切り裂かれる

 

 

 

 

 

 

 

 月の煌めきが轟音を伴って周囲の家屋を巻き込む。瞬く間に辺り一帯を更地へと変える。宙を舞う瓦礫は瞬く間に刃によって塵芥へと変わり、数々の裂傷が大地に刻まれる。

 

 鬼殺隊は巌勝に相対するように扇状に広がっていた。屋根の上にも隊士が刀を構えて待ち構えていた。巌勝を逃がさないための布陣である。だがそれがいけなかった。無理もない。巌勝は四年間、殆ど一人で任務を遂行していた。

 故に月の柱に間合いは存在しないなんて、信じられなくて当然である。剣士にとって、斬撃が飛ぶなど悪夢でしかないのだ。

 

 一太刀でこの有様。

 一太刀で町の四分の一が消滅。

 一太刀で鬼殺隊が壊滅。

 

 砂煙が晴れた後には、凄惨な光景が広がっていた。

 

 

 ★

 

 

 やがて、土埃の中から房綱が顔を出す。柱達は重傷を負ったものもいるが基本的に戦闘続行可能。しかし周りを見渡しても柱以外に起き上がっている者がいないということは……生き残りがほぼ皆無ということにほかならない。

 

「……ゴホッゴホッ……無事か、お前ら」

「よいしょっ!」

 

 瓦礫の中から人一人抱えた愛染が顔を出す。愛染は頭から血を流しているが、止血済み。

 

「房綱! うちは大丈夫やで! ……ほら、怪我とかあらへん?」

「は、はい! ……………………ごふっ……」

「え! …………う、嘘や!?」

 

 ここで初めて、愛染は避難させようと抱え込んだ隊士が逆に自分を庇ってくれたことに気がつく。鋭すぎる斬撃故に斬られたことに気が付かなかったのだ。死の刃は脇腹を抉りとって貫通している。もう助からない。それでも諦めはしない。仲間の命を易々と諦めていては柱は務まらない。

 

「大丈夫や、大丈夫やから! 眠ったらあかん!」

「死にたくない……まだ……鬼を斬ってない……」

「分かったから! もう喋らんとき! 分かったから……」

「……」

「ぁ……」

 

 

「クソがァ……!」

 

 

 房綱は激情に任せて日輪刀を再び構える。そこには既に巌勝の姿はなかった。闘気も気配もない巌勝を見失ってしまったのは痛手であった。再び見つけるのは至難の業である。

 

(薫が会話を長引かせたのは、夜まで待たせるためか!? いや考えすぎか。そもそも薫は知っていたのかすら定かじゃねェ。だが巌勝は家族を助けた。……わからんが、そんなことは本人が近くに居るんだし本人に聞けばいいよなぁ!)

 

 房綱は単純な男であった。恐怖に歯を鳴らしながらも本能が分かっていたのだ。鬼は滅さなくてはならないと。

 

「待てよ……俺たち以外の隊士共は。どこいきやがった」

「房綱……後ろ……全部……なくなってもた」

「はァ!? ………………マジかよ」

 

 房綱は堪らず振り返る。

 見ると数十メートル先まで家々が塵と化していた。中に避難していたもの、喧騒に気づかず眠っていたもの、運悪く巌勝の攻撃の射線上に向かって逃げていたもの。

 全滅である。

 

「一撃……一撃でこれかァ」

 

 黒死牟に斬られたものは、ズタボロに切り裂かれる。死体を残すことすら許されない。

 房綱は気配を探る。巌勝はまだ近くにいると確信していた。凡そ生命が醸し出してはいけない圧がまだ残っているのだ。

 

「っ!」

 

(そこかァ!)

 

 «風の呼吸 弐ノ型 爪爪・科戸風»

 

「死ねぇぇ! 関係ェねェモンまで巻き込むんじゃねぇ!」

「お前達がそれを言うのか……」

「薫達は該当者だろうがァ!」

「お前達の計画においてだろう……そんなくだらない計画の為に……薫は腹を裂かれ……紫明は凡そ幼子が経験してはいけない体験を……経験してしまった……何もお前たちだけが悪いのではない……私の力が及ばなかったのもある……」

 

 

 

 

 ────銷魂する。

 

 

 «月の呼吸 伍ノ型 月魄災禍»

 

(避けたか……だが腹に一筋入れたぞ)

 

 

 一人目

 

 

 «雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・迅»

 

 裂破の勢いで肉薄した愛染と鍔迫り合う。巌勝は一条の閃光が如き抜刀技を見切った。

 

「巌勝君! もうやめて! これ以上は……」

「……お前は薫が……紫明に危害を加えるなと言った時……やめたのか……?」

「仕方なかったんや! あんたが鬼になったんなら……なってもたんなら!」

「その通りだ……仕方なかった……だからこそ私は許せない……剣の道を極めても……最強と互角に立ち会えても……超常の力を手に入れても……大切な人の危機に駆けつけられなかった己自身が」

 

 ────絶望する。

 

 «月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月»

 

(足は潰した。雷の呼吸もろくに使えんだろう)

 

 

 

 二人目

 

 

 

 気配が二つ。瓦礫を突き破って突進してくる。琴音と正助だ。

 

「おらっ!」

「…………っ!」

 

 巌勝は受け止める。琴音は左手、正助は右肩を損傷していた。加えて所々木の破片が痛々しく突き刺さっている。

 

「…………腕を上げたな琴音、正助」

 

 «岩の呼吸 参ノ型 岩軀の膚・双槍»

 «水の呼吸 捌ノ型 滝壺»

 

 互いに片腕を失っているとはいえ、二人がかりで隙を潰す。上から且つ重い型を選んだ。

 

「…………悪鬼滅殺」

「ほう……『悪』鬼か」

「鬼は悪だ! 鬼がいるから人は夜を脅えて過ごさなければいけない!」

「見ていたぞ……指文字で……『再び薫と紫明を捕らえて人質にしろ』などと……隊士や隠に命令していたな……」

「………………薫やあの子供が巌勝にとっての大切なら…………もう一度人質にするまで」

「最早……悪びれもしない……か」

 

 ────絶望する。

 

 巌勝はあっさりと二人の得物を弾く。そして琴音の槍を正助の腹に、正助の日輪刀を琴音の肩に突き刺す。

 

「…………あぐっ」

「いっ……!」

「下手に動けば……臓物がまろび出るぞ」

 

 

 

 三人目、四人目

 

 

(最後は……)

 

 «炎の呼吸 壱ノ型 不知火»

 

「薫を何処へやった……!」

「義兄上……」

「鬼に兄と言われるのは些か腹立たしいな! 俺はお前の兄でもなんでも無い!」

 

 暢寿郎を弾き飛ばす。両者距離が空く。暢寿郎は刀を後ろ手に構え、独特の構えで闘気を高める。寸分の隙もない構え。暢寿郎の頬に痣が浮き出る。

 

(威力を高めた一撃で決める!)

 

 

 

 «炎の呼吸 奥義 玖ノ型 煉獄»

 

 

 踏み込んだ地面から炎が吹き出す。煉獄の龍が大口を開けて、敵を屠らんと巌勝に差し迫る。

 数寸まで肉薄されても巌勝は眉ひとつ動かさなかった。

 

(ああ、やはり五人の柱といえど、縁壱より遥かに弱い──)

 

 ────失望する。

 

「なんと遅い……なんと弱い……そしてなんと脆い」

「!?」

 

 刀を上へと放り投げる。刀に注視していた暢寿郎が意識を持っていかれる。

 巌勝は必殺の刃を白刃取りの容量で挟む。

 

 ──パキン

 

 そして刀をへし折った。

 驚く暢寿郎の無防備な脇腹へと横殴りを叩き込む。暢寿郎は大地に数回体を当てた後、瓦礫の山に突っ込んだ。

 

(咄嗟に横へ飛んだか……手応えが軽かった)

 

 «月の呼吸 陸ノ型 常夜孤月・無間»

 

 ダメ押しの一撃を瓦礫の山に叩き込む。

 

 

「こっちだぁぁ! 巌勝!」

 

 «風の呼……»

 «月の呼吸 拾ノ型 穿面斬・羅月»

 

「ちっ……暢寿郎、下がれ! そこらの剣士の刀を拾ってこい! バキバキに砕けてるかもしれねぇがなァ!」

 

(なんでこいつはこうも速いんだ。こいつには……何が見えている?)

 

「一人で立ち向かうな! 必ず複数で切りかかれ! でないと押し切られるぞ! ……正助ェ! いるんだろ!? 合わせろォ!」

 

 «水の呼吸 弐ノ型 水車»

 

「言っちゃ意味無いでしょ……っ!」

「……む」

 

 渾身の一撃が刀に叩きつけられる。火花が散り、正助の日輪刀が赤みを帯びる。

 

(……刀の焼けるような匂い? ……)

 

「正助ぇ! その調子でお前の刀を鬼の刀に叩きつけろぉ!」

「そうはさせ──」

 

 

 «雷の呼吸 陸ノ型 電轟雷轟»

 «岩の呼吸 伍ノ型 瓦輪刑部»

 «炎の呼吸 伍ノ型 炎虎»

 «風の呼吸 漆ノ型 初烈風切り»

 

 瓦礫から柱達が再び飛び出してくる。各々着物を止血帯にして出血箇所を縛ったり、紐で刀と腕を縛り付けたりと痛々しい傷が目立つが、目から闘気は消えていない。

 

(暢寿郎は死んだと思っていたが……やむを得んな)

 

 仕方なく、計五本の刀を受け止める。受け止めてしまう。

 

「っ!」

 

(不味いか……)

 

 今、巌勝の振るっている刀は日輪刀である。さらには痣を出した柱五人を合わせた力と互角以上の力を巌勝は持っている。故に赫刀の熱が程よく柱達の日輪刀に伝わり、熱量が摩擦とともに底上げされる。

 生まれるは五振りの赫刀。

 

「どうだァ巌勝! お前や日柱と同じ色だぞ! はっはっは! これで鬼ということ以外お前と互角だァ!!」

「房綱! 血! 血吐いてるから、叫ばんとき!」

 

(これらの刀で斬られる……いや体を貫かれるのが一番まずい)

 

 原作の岩柱と互角、もしくはそれ以上に強い柱が五人。加えて一撃だけでも受ければ確実に動きが鈍る赫刀。更には……

 

(柱稽古もしているな。それも五人全てが思い思いに。私への対策か)

 

 隙の無い連携で攻めて来る柱達には、次に互いのだす技が何かなのかを把握して、着実に巌勝を追い詰めている。

 しかし────

 

「五人合わせたところで……遠く及ばぬぞ……!」

 

 «月の呼吸 拾陸ノ型 月虹・片割れ月»

 

 相手は五人。地を這う斬撃も五連撃。柱達を牽制する。巌勝は少しずつ自分の力がどのようなものか分かり始めてきていた。

 柱達が発現した赫刀。縁壱の写し身かのようなそれは本物に比べ酷く劣っていた。巌勝はその柱達の姿が、縁壱に手を伸ばして結局模倣しか出来無かった自分を見せられているようで耐えられなかった。

 

(そうではないだろう巌勝。薫が、紫明が、そして炭吉が肯定してくれたでは無いか……それに、鬼になった私だからこそできることがある)

 

「試してみるか」

 

 巌勝は日輪刀を収める。

 

 «雷の呼吸 参ノ型 聚蚊成雷»

 «風の呼吸 仇ノ型 韋駄天台風»

 

 今が好機と捉えたのか赫雷と赫風が巌勝の着物を削ぐ。

 巌勝は目を閉じて集中する。怒涛の猛攻は全て体が避けてくれる。

 手のひらを軽く開く。イメージはアニメ。鬼の力は想像を具現化してくれる。

 

 刀を血肉で創る。

 

 鉄は血潮で、芯は堅骨。

 

 幾多の命を吸い取って煌々と輝く。

 

 誰ひとり逃れること能わず。

 

 何ひとつ残すこと叶わず。

 

 鬼は常に独り 満たされた世界を掴み取る。

 

 故に、立ち塞がるものは昏き死へと誘われる。

 

 その体は、きっと血の一滴に至るまで黒死の刃でできていた。

 

 

 光がはじけるといったかっこよさなど皆無。手の平から文字通り生えてくるような形で刀が生成される。瞳が一列に並んでいる不気味な刀であった。

 創れたはいいものの、材料は鬼と化した自らの血肉。

 

(やはり赫刀相手では相性が悪すぎるか……だがまだ冷たい……私や縁壱の赫刀には遠く及ばない。特に縁壱の赫刀はあんなものではなかった)

 

 «岩の呼吸 壱ノ型 蛇紋岩・刺突»

 «風の呼吸 参ノ型 晴嵐風樹»

 

 一本目・旋風と石龕によってバラバラに刻まれる。

 

 «水の呼吸 壱ノ型 水面切り»

 «炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天»

 

 二本目・劫火と濁流によって砕かれる。

 三本目、四本目、五本目……掴めてきてはいるものの、密度や強度といった無惨の血が関係する所が致命的であった。

 

(無惨からもらった血の量が圧倒的に足りなかったか)

 

 巌勝は方向性を変える。

 研ぎ澄まされた一本が効かないのなら、質より量。

 

 

 «月の呼吸 肆ノ型 虧月突»

 

 

「っ!?」

「なんでもありかよ!」

 

 片っ端から長刀を創り出す。その刀を今度は拳で打ち出したり投げたりして使う。云わば消耗品としての刀。

 かくして凶刀が四方八方に撒き散らされた。柱達の頬の数寸近くを死が通り過ぎる。そうやってギリギリで避けたとしても皮膚が着物ごと持っていかれる。

 

(不味い!)

 

 打ち出された刀にも飛月が付随していた。持ち前の勘で房綱は避けるが、体を薄く割かれた。各々も何とかして避けてはいたが、巌勝と柱との距離が離れる。柱達はまた死の月を潜り抜けて接近せねばならない。

 愛染は足、正助は内臓と右肩、琴音は左手と右肩、暢寿郎は内臓を損傷若しくは欠損している。

 対して巌勝は無傷。

 

「正助、短期決戦だ」

「夜明けまで待つことは?」

「いや、こうしている間にも、あいつは探っている。鬼となった自分は何ができて何ができないのか……控えめに言って絶望的だなァ」

「でもほら房綱君、刀が継国兄弟みたいに赫くなったで。……これで巌勝君を斬れば……」

「愛染、『黒死牟』だよ。それに……」

「私から目を離さなければ……対応できるとでも思っていたのか?」

「「「「「!?」」」」」

 

(いつの間に!?)

 

 

 

 

 «月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満繊月»

 

 

 

 

 

 

 至近距離での広範囲技。巌勝から近づいてきてくれたはいいものの、また防戦一方の戦いに持ち込まれる。

 

 

「うぉぉぉおおお!!」

 

 

 暢寿郎が斬撃の嵐を掻い潜って巌勝に迫る。拾肆ノ型を掻い潜れるということは、透き通る世界が見えているということに他ならない。

 

「視えているのか……この世界が……だが遅いと言っている」

 

 巌勝は再び刀を生成し、柄頭を殴って一直線に飛ばす。

 投げた刀は暢寿郎の胸に突き刺さるが筋肉で無理やり軌道を変えて肺に到達するのを防ぐ。しかし勢いを削ぐことは出来ずに、彼の体を地面に縫い止めた。

 透き通る世界が見えたからといって体が追いつけるはずがない。慣れていないものは透き通る世界の維持に意識を割かれる為、必然的に動きが鈍くなるのだ。

 倒れた暢寿郎に巌勝が歩み寄る。

 

「鬼の力を測るため手加減していたとはいえ……お前への殺意は本物だった……薫の傷は一生残るだろう……ただし鬼にならない限りは……な」

「っ……! 貴様ぁ!」

 

 巌勝は刀を構える。暢寿郎は肩に刺さっている刀を抜くことができない。刀が形状を変えて、地面に根を張っているのだ。

 

「煉獄っ!」

「やめろ! 巌勝!」

「……」

 

 刀を振り下ろそうとして、巌勝は少し躊躇う。暢寿郎の苦痛に歪んだ口元が、少し、ほんの少しだけ薫を想像させたのだ。だが、それも一瞬。だが躊躇った。

 鬼が人を殺すのを躊躇い、人が鬼を殺すのを躊躇わない。

 何故なら鬼は悪なのだから。

 

 «月の呼吸 拾漆ノ型……»

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────!! ──!!! 

 

 

 

 

 

 

 甲高く、抑揚が特徴的な笛の音が鳴り響く。それは紫明の持っていた笛の音。紫明と紫明を抱えている薫に危機が迫っていることを残酷にも示していた。

 巌勝は技を出す手を止めてしまう。目を見開き、聞き間違いではないかと疑ってしまい、堪らず視線を向けた。

 

(避難できていない……だと? 新手の鬼殺隊か? 薫が、紫明が……向かわなければ)

 

 

 

 

 «水の呼吸 肆ノ型 雫波紋突き»

 

 

 

 

「……がっ」

 

 真上から正助が刀を逆手に持って落下してくる。

 完全な無防備。正助は暢寿郎を囮にして好機を伺っていたのだ。それも透き通る世界を発現して。

 無慈悲に、巌勝の首に赫刀が突き刺さる。焼け付くような痛みが巌勝を駆け巡る。

 

 傾くことのなかった戦局が、一気に傾く。

 

 

「……ぐ……がぁぁぁああああ!?」

「よくやった! 正助ァ!」

 

(首を熱した鋸の刃で絶えず引き切られ……痛い痛い痛いいいたいいい!!)

 

「あああああああああああぁぁぁ!!!!」

 

 最早それは人の声帯から出される声ではない。獣混じりの濁った咆哮である。

 

(巌勝君……本当に鬼に……)

 

「今だ! お前ら! 攻撃の手を緩めるなぁぁああ! 首を切り落とせええ! 正助! もっと強く握り締めろ!」

「……! はぁぁぁああ!!」

 

 刀を突き刺している正助に痣が浮き出る。水色の泡のような痣である。同時に赫刀の温度もさらに上がった。巌勝は痛みに悶える。生成した刀も形を成さずに灰となる。暢寿郎は助け出された。

 降って湧いた好機、悪鬼は今しか倒せない。

 

「……! 今だ! たたみかけろ! 愛染は薫共の所へ……」

「行かせるものか……!」

 

 «月の呼吸 漆ノ型 厄鏡・月映え»

 

(こいつら……土壇場で力が増したのか!? )

 

 巌勝の体が脈打つ。

 これ以上突き刺していれば、自分の身が危ういことに気がついた正助は刀をさらに握りしめて刃の向きに切り飛ばして離脱する。

 

「がっ!」

 

(……比較的柔らかい頸……鬼になって日が経っていない……? いや、完全に鬼にすらなっていない! 半人半鬼のようなものか! それでこの強さ……)

 

 今の巌勝の首の皮と少しの筋繊維が数枚繋がっているようなものであった。鬼の肉体改造で無理矢理神経だけを繋いでいるに過ぎない。

 それでも巌勝は身を返して笛の音の源に向かおうとするが、柱達が回り込む。

 

「逃がすな! 挟むように戦え!」

「隠! いるやろ! 炎柱を頼んだで……!」

「どけ……屑共がっ! 私の邪魔をするな!」

 

(技が出せん……!)

(体に力が入っていない。今なら首を切れる!)

 

 柱達は欠片も、少しも、微塵も躊躇わない。心の底から恐怖しているのだ。今ここで黒死牟を倒さなくては後々もって手がつけられなくなることに。恐怖は時に手足を動かすための揺るぎない原動力となる。

 

 «岩の呼吸 弐ノ型 天面砕き»

 «水の呼吸 拾ノ型 生生流転»

 

 巌勝の刀を持った腕が切り飛ばされる。首の再生に全ての力を注ぎ、赫刀で斬られている以上、再生する術はない。今度は琴音が薫達の方向へと足を早める。巌勝は体が動かない。五臓六腑が焼き着れるような痛みに視界が明暗する。

 刀が迫ってくる。

 

「薫……紫明……」

 

(強くならねば……強く、強く……!)

 

 巌勝は負けられない。

 今ここで死ねば、紫明は鬼の子として忌み子の扱いを受けるだろうし、薫は切腹を命じられるだろう。

 

 駄目だ。あってはならないのだ。そんなこと。

 

 対等にならなければただ搾取されるだけ。前世は権力により搾取された。今世は力がある。

 巌勝の頬に線が刻まれる。否、瞳である。

 獣は瀕死の状態が一番強い。

 人ならば既に死んでいるような傷。火事場、土壇場、修羅場。死の淵を垣間みた生物はより強靭になる。死を回避する為に通常生きていく上では不必要だった感覚や力の扉が開かれる。扉を開けなかった者は死に、扉を開いたものは────

 

 

 巌勝は項垂れる。

 無惨の細胞すら物の数ではない。

 巌勝の細胞全てが戦えと、死ぬのなら全てを壊してから死ねと叫んでいる。

 

(黒死牟の動きが止まった!?)

 

「今だ! 首を落とせぇ!」

「もらっ───」

 

 

 

 

 

 

 ガ────ッッ──!!!! 

 

 

 

 

 

 

 濁音から始まったこの世のものとは思えないほどの咆哮。同時に巌勝の体から鈍色の衝撃波と共に無数の飛月が凡百方向へと放たれる。

 黒死の刃は、いとも容易く世界を蹂躙した。

 

「ぐはぁっ!?」

 

(体が動かない……! 毒か!?)

 

 柱達は自分の体が思うように動かなくなる。悲劇はそれでは終わらない。畳み掛けるように街の周囲から囲うように夥しい数の鬼の気配が発生した。

 

「………………今確かに……!」

「鬼の声やんな!? なんで!?」

 

(鬼が増えているだと!? 何が起こっている!?)

 

 

 

 

 

 

 

 混乱を隠せない柱達の視界に一人の男が映る。黒い着物を着た男である。

 

 

 

 

 

 

 

「ほう……私が折角作った右腕の家族を人質にとるとは……やはり鬼狩りは異常者の集まりだな……」

 

 中肉中背。だが漏れいずる威圧感は巌勝に次ぐ。柱達は動けない。威圧されてでは無い。この男に威圧感で勝る存在に先程まで嬲られていた所である。動けない理由は単純に巌勝の放った最後の攻撃が直撃したから。

 先程の戦闘が嘘のように静まり返る。柱達はとりあえず傷を呼吸で癒すことにした。

 

「なんだ? お前の支配が解けているな……まぁいい、虫どもの住処を暴いた褒美だ、受け取れ」

 

 男の触腕が巌勝に突き刺さる。巌勝はそれを避けようともせずに受け入れた。その男から尋常ではない量の血を輸血されて、巌勝は痙攣しながら崩れ落ちた。

 圧倒的存在感。

 生物という範疇の頂点。

 

「呼吸を使う剣士にはもう興味はない。こいつがいれば十分だ。鬼狩りは今夜潰す。私がこれから皆殺しにする」

 

 鬼の始祖・鬼舞辻無惨が戦闘に介入する。巌勝は動けない。支配に抵抗するので精一杯。柱の全滅は鬼殺隊の全滅。

 

「さぁ。死ね」

 

 無惨の触腕が振るわれる。柱達は既に瀕死の状態。距離をとり、回避に専念するので精一杯。それどころか搦手や未来でも視えているかのような攻撃をしてくる巌勝に比べると力任せな攻撃をしてくる分、断然避けやすかった。

 

「ちょこざいな……!」

 

 腿から八本の管が柱達に迫り来る。愛染は片足を潰されているため、咄嗟の事態には対応が遅れた。

 

(あかん! 避けきれへん!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 «日の呼吸 玖ノ型 輝輝恩光»

 

 無惨の触腕が全て切り落とされる。現れた救世主は巌勝を一瞥した後、怒りを顕にする。斬られた本人は激痛に加えて再生しないことに困惑していた。

 

「遅れてしまい、申し訳ない……兄上」

 

 今此処に太陽が降臨した。




柱達
痣は出ても自力では赫刀は発現できない。
今度は薫を瀕死にさせてでも捕まえて人質にするつもりだった。死にかけの仲間を囮にするのは基本スキル。
柱達「優しいお前のまま、夢を諦めて死んでくれ!」
無惨「人の心とかないんか?」

鬼殺隊
主に集まっているのは月柱が鬼と最初から信じ込んでいた、いわば過激派。鬼に対する恨みも強いので必然的に月柱を恨むものは精鋭に限ってくる。
全員死亡。


隠の中でも柱の任務についていけるような精鋭達。
全員死亡。

巌勝
六眼開眼。
体に赫刀ぶっ刺されて滅多切りにされるのは原作と同じ。体も首もまだそこまで硬くない。土壇場で道を開いた。


無惨
ヒーロー的登場。珠世と援軍(鬼)付き。こんなにかっこいい無惨見たことない。
柱達を巌勝がボコボコにして、挙句の果てに覚醒し、神経すら狂わせたというところに颯爽登場。こいつが巌勝に輸血して動けなくさせてなかったら柱達は死んでた。


縁壱
ヒーロー的登場。一気に無惨が噛ませ犬へ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。