お久しぶりです。刀鍛冶の里の情報が出たので溜まっていた一話を投稿しました。兄上のビジュアルがでましたね。やはり縁壱とのミスマッチを狙っていてほくそ笑みました。
私の話をしよう。私が両親と同じ体になるまでの話を。
世界は満ち足り得た。行きたいところ。やりたいこと。山ほどあった。だけどどこか心の奥で満足している私がいた。思えばそれは境界だったんだなと思う。絶対に他人に踏み荒らされてはいけないもの。踏み荒らされていないからこその我儘。それは私の家族であり、何気ない日常だ。
だから私は誓った。
もう二度と奪わせない。
目から血が零れるほど激情に駆られた父。命の水が零れて、白くなっていく母。
両親は鬼と人の関係をどうにかしようと色々考えているけれど、そんなことなんて
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まず初めに私は鬼の娘。勘違いしないで欲しいけど、それを嫌だとかなんて思ったことは一度だってない。ないったらない。鬼と言っても両親は人だった時に私を産んだから私の体は人間だ。
母様は昼の間絶対に屋敷の外に出ない。なんでかと聞くと母様は申し訳なさそうに頭を撫でてくれる。小さい頃は疑問には思っていたけれど深くは聞かなかった。今ならわかる。母様はこれっぽっちも悪くない。そうさせてしまった人達が悪い。
父様は本を読んだり、たまに村の行事を手伝ったりしている。誰が見ても大男だから力仕事でよく借り出される。棍棒でも振り回した方が合っているんじゃないかって当時の私は思ってた。だって父様と同じくらい背の高い人なんて叔父様以外に見たことないし、忙しい日でも汗ひとつかかない。でも母様程じゃないけど日光に弱くて、数分事に日陰に入らないといけないらしい。そして時々旅に連れていってくれる。父が母様と紡いだ旅路を綴った日記を見せてくれて、私が行きたいと思った所へ連れていってくれる。厳かな山の頂上から、活気溢れる町まで何処へでも。
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次に痣の話。私はいつも通り座敷で本を読んでいる父様を訳もなく眺めていた。文字をおって絶え間なく上下する眼。母様ほどでは無いものの血の通っていないように白い肌。正座姿で片手で本を挟み持ち、もう片方の手で膝の上に座る私が落ちないように支えてくれている。頭の後ろで結い上げられた畳に届くほど長い黒髪……いや長いな。生活していく上で邪魔になる気がする。
そして痣。
揺らめく焔をそのまま焼き付けたかのように、前額を覆っている。それだけじゃない。
「とーさま」
「なんだ?」
「なんでとーさまは首の下からもあざが出てるの? おじさまはおでこにしかないよ」
「……」
その時の父様は諦めたような顔をしたのを覚えている。どこか悲しそうだったから、とりあえずごめんなさいって言おうとしたけれど、それよりもそんな顔をした理由を知りたいという好奇心が勝った。
「そうだな……それは父様が兄だからだ」
「あにだから?」
「そうだ。兄となった者は心を賭して弟を守らねばならなかったのだ。なればこそこれは証だ。弟を守った証。誇りこそすれど、疎ましいと思ったことなどない」
父様は笑って指で首筋の痣を撫でた。私はだんだんと不思議に思っていた痣の存在がなんだか嬉しくなってきた。何せ知る限りだと私の他に父様と母様と叔父様ぐらいしかいない。これは証なんだ。最高にかっこいい私の家族と同じ証なんだとそう思えるようになった。
「じゃあいつかしあもとーさまとおそろいになる! そしたらこんどはしあがとーさまをまもってあげる!」
「……そうか、父様は嬉しいぞ」
「えへへ」
そう言ってくしゃりと頭を撫でてくれる。お日様みたいに温かい父の手が大好きだ。
★
そして私が鬼という存在を初めて認識した話。
鬼という生き物について知ったのは、なにも父と母が鬼だからでは無い。二人とも上手く隠してた。時折来る叔父様と叔母様が楽しそうに話しているのを見て、自分の親が人間か否かなんて考えもしなかった。
私は遊んでいた。山の登山道。その途中にある開けた場所。紅葉の赤と夕焼け色の空が綺麗なところ。父様も母様も知らない。私が一人になれる場所。秘密基地を作っていた。遊び道具を沢山持ち込んで、なんなら寝泊まりしてもいいかなと思って興奮していた。
だから浮かれていた。
だから気が付かなかった。
「やぁ、お嬢ちゃん。ひとりかい? 」
私はその日、吐き気を催す邪悪に出会った。
鬼じゃない。その男は紛れもなく人だった。目も赤くなかったし、何より太陽にあたっていた。それでも下衆びた瞳や厭らしく笑う口。漂う悪臭。頭の上を蝿が飛んでいる。とても同じ人とは思えない。身体中の全細胞が『逃げろ』と叫ぶ。
それは私の下腹部を見て笑った。私はまだ一桁の年齢だ。
「い、嫌」
汚れ塗れの手が伸びてきた瞬間、私は笛を吹いた。
「──────ッッ!!!!」
「な…………んだよ笛かよ。驚いたじゃねぇか!!! なァ!!!」
「ひっ……」
「……怖がらせたね。怖くないからこっちにおいで」
気がついたら体は動いて逃げていた。大丈夫。私はこの山を知っている。男は私が逃げたことで、興奮し追いかけてきた。駄目だ追いつかれる。何されるのかな。痛いに決まっている。怖いに決まっている。苦しいに決まっている。
これからが死? 私が死ぬ?
嫌。嫌。嫌。無くなりたくない。消えたくない。帰りたい。父様と母様ともっと過ごしたい。なのになんで。
「嫌!!!! 」
「姫!!! 」
誰かに持ち上げられる感覚。不思議と体は強ばらなかった。地面が離れていく。後ろを見ると私ぐらいに大きいカラスが腰布を掴んで飛んでいる。
八咫だ。父様の飼っている烏。何故か喋る。きっと新種の烏。
「姫。我輩の一時の無礼を平に御容赦くだされ。面目次第もござらぬ」
「やた。あれはなに? こわいよ。あのめこわい。
「姫……まさかそんな、思い出されたか」
引き金となって私は思い出してしまった。あの忌まわしい記憶。血塗れの母様を嬲り頃そうとする刀を持った人達。自分たちのしていることは正しいという曇りなき目で母様を斬りつける。正気だからこその狂気。耳元で唸る金属音。息切れで苦しそうな声。
心の底から恐怖したあの夜。私は間近で母親の死を誰よりも感じ取った。その時の恐怖が頭を叩いた。
鬼は誰?
鬼は……父様でもない。母様でもない。いまさっき私を襲おうとした獣。あれが鬼だ。人じゃない。おおよそ人としての感性を持ち合わせていない鬼畜。色つきの刀を持っているあれらもそうだ。例え父様と母様が鬼だとしても、あれらが鬼でなくてなんなのか。
「やた。おろして」
「……姫様」
「しあがやっつける。ぜんぶぜんぶしあがまもる。しあがころすの」
殺さなくてはならない。繰り返すわけにはいかない。もう二度と。
私が暴れると八咫はふらつき出した。地面を走って追いかけてきている鬼が笑みを深めたのが見えた。私が落ちれば好きにできると思っているのだろう。上等だ。殺してやる。
«月の呼吸 拾ノ型 穿面斬・ 蘿月»
私は鎹鴉の八咫に着物の帯を掴まれて飛んでいた。空からだと下の景色がよく見える。だから、自分の父親がただの人間なんて枠組みには収まりきらない存在だともわかった。
その光景は、今でも瞼を閉じれば鮮明に思い出せる。
月が降っていた。空に浮かんで辺りを優しく照らしていた月が、今は殺戮の鋸となって辺りを抉りとっていく。中心には刀を携えた父様がいた。月に阻まれて後ろ姿しか見えなかったが、長い後ろ髪を振り乱して佇む様に私は殺意も恐怖もなにもかも忘れて見蕩れていた。
この時私は魅せられたのだ。そうやって届かないものに憧れてしまうのは、悪だったのだろうか。子供の心は熱しやすく冷め易い。一晩寝たらこの熱もいつかは冷める。そうだとしたらどんなに良かったか。
次の日から私は刀を振るってみたくなった。怖い体験をしたあとなんだからと父様は困った顔をしたが、怖い体験をしたからこそだと母様が許してくれた。
まずは木刀から始めた。片手では持てないほど重かったけれど鍛えていくうちに両手なら易々と扱えるようになった。そうしていつかあの日の父様みたいな剣技が私にもできるようになる。一振で地を裂き、天を穿つような剛力。葉っぱから水が滴り落ちるぐらいに自然な動き。私の心に焼き付いて離れない、最高の動き。
木刀の持ち手が指の形に凹んだ。
血豆が潰れて黒くなった。
けれど木刀を振るった。
そうやってしてきた十五のある日。私はひとつの結論を得た。
「ああ、そうか。私にはこれっぽっちも刀の才能がないんだ。父様のようには絶対になれないんだ」
★
だからなんだって言う話!!!
「どぉりゃああああ!!!!」
走る。走る。走る。両肩に巨木を担いで山を昇り降り。身体中が沸騰するように熱いけれど、汗一つ流さない。せっかくあっためた体温を下げたくないからだ。
今が成長期!!!!!!
「死ぬっ! 死んでしまうぞ紫明ぁあああ! でもっ! 死なないっ! なぜかって!?!? なぜだろうなぁぁぁああああ!!!」
目をひん剥いて、歯を食いしばって、眉をひそめて、多分えげつない表情してる。心臓の音しか聞こえない。血管が隆起する感覚が全身を覆っている。
ずっと脳死で喋ってる。辛さを紛らわさなければぶっ倒れる。前に倒れた時は、勘づいた父様によって一命を取り留めた。次倒れたら朝がとても弱い両親の監視付きになる。そうなると必然的に稽古は昼からになってしまう。
なんだかんだあって私は十六になった。冒頭の天真爛漫で純粋で清楚に育ちそうな美幼女を返せという声が聞こえてきそうだが、清楚なんて男が作り上げた妄想でしかないんだよ。女はだいたい自由気まま。お淑やかで優美な女性も裏では毛虫に名前をつけて育てているかもしれない。いつも愛想を振りまいていて誰にでも好かれるような女性も裏では呪詛を振りまいているかもしれない。あと清楚が不足しているのなら母様に集れ。あれはすごい。本当に三十を超えているのか疑わしいぐらいに綺麗だ。
「水ぅぅ…………ぷはー…………かわいい」
水を飲むために小川を覗き込めば、父親譲りの艶やかな黒髪に、凛々しい瞳。そして母親譲りの顔立ちが映っている。面胞ひとつ、くすみひとつない血の通った白い肌に玉のような汗が滴っている。風が吹けば結われた髪が重力に逆らって靡く。
なんて可愛いのか。とてもさっきまで狂気の形相を浮かべながら走っていた人物とは思えない。
もう人生勝ち組ってくらいに整っていると自負してる。黙ってそこらの城下町を歩けば三十歩に一回は声をかけられるし、縁談も腐るほど申し込まれる。我が父上がそういった手紙を箱詰めにして持ってきたけど全部突っぱねた。『適当に目を通しておけ』だなんて父様もやる気のなさを隠す気概がない。いるかもしれないじゃん。私の言うことを大体叶えてくれる人がいるかもしれないじゃん。いないと思うけど。たまに勘違い野郎が押しかけてくるけど父様が追っ払ってくれる。ありがとう父様。
料理作ってる時に私が脅かしたら包丁で家を真っ二つに仕掛けたこと、母様に内緒にしてあげる。だから私の悪戯も内緒にして。
でも、あの寡黙な父と、おっとりとした母に育てられた私がどうしてこんな破天荒で奇天烈な性格になったのか私にも分からない。見た目と中身が不一致極まりない。なんでだろう。教えてくれ師匠。でもこんなにきつい訓練を年頃の乙女に言いつけてくる師匠も師匠でかなり奇天烈な気がする。おのれ師匠。
「ふっ……! ……せぃっ……!」
地獄の走り込みが終われば今度は方天戟を振り回す。私は刀よりも方天戟が最強だと思っている。斬れる、突ける、殴れる、そして長い。剣が槍に勝つには三倍の技量が必要だと言われているくらいだから、これがちょうどいい。
これで朝の稽古は終了。これだけ頑張っても腕と足は折れそうなくらいに細い。でもしっかり筋肉はついている。なんて素敵な体。母譲りに違いない。父譲りだったら、まもなく顔の整った長身の筋肉女ができていた。
ありがとう母様。父様の着物を洗濯する時に必ず匂いを嗅いでいるのは内緒にしてあげる。
「ただいまー」
「おかえり紫明。もちろん白いほうの服で運動してないわよね?」
「……え? あー。うん。そんなことは無いよ」
「あらそう? じゃあどこにあるの。さっきまで洗って干してあったはずなのにね」
「えー。おかしいな。母様の気の所為じゃない?」
「ところで紫明。運動用の服がまだここにあるのだけれど、何着て運動したの?」
「……運動してないよ」
「飾ってある方天戟が一本ないのだけれど?」
「………………」
「もう、白い服は汚れが目立つからやめてって言ってるのに」
母様が居間から顔を出した。眉が不機嫌に顰められている。金色が揺れて、煌めく。きっと私があの髪色になって、目付きを少し柔らかくしたら母様に瓜二つなんだろうな。
「紫明、あまり母様を困らせるな」
父様が姿を現す。見上げると首が痛いと村で話題の父様。
「あ、おはよう父様、母様も、お願いがあります」
「……?」
「どうしたの紫明」
改まった態度をとれば、引き締まった態度で返してくれる。緊張している身体にはその気遣いが途方もなく嬉しい。そう空気を呼んでくれる態度にどれだけ救われたか。
普段とは大違いなのを指摘して冷やかしてもいいのに。
「今二人は幸せ?」
「ああ。もちろんだとも」
「うん、そうよ。巌勝君がいて、紫明がいる。本当に幸せよ」
「……………………然して、今度は何が欲しい?」
「八咫と天外で空を飛ぶのは駄目よ?」
「指の間に刀を挟んで八刀流はやめておくといい」
前言撤回。わたしの真剣さは伝わっていなかった。というか今の感じ父様絶対六刀流やったことあるでしょ。今度師匠に聞いてみよう。っていうか足の指も合わせたら十六刀流じゃん。十六刀流してる父様を見てみたい気持ちと見たくない気持ちがある。
んー。まぁ、ここははぐらかしながら言うか。
「私、鬼殺隊に入りたい…………なんて……へへ」
「「…………」」
空気が凍った。凍っちゃった。
「どこで……それを」
「師匠から聞いた。父様のことを聞いたら機嫌よくぜーんぶ話してくれたよ。どんなことをして、なんでやめたのか」
「そうか。あいつが犯人か」
父様が歯噛みする。
父様の弟。師匠から聞いた話を要約するとこう。
鬼殺隊は鬼のように強すぎる父様を御しきれなかった。あろうことか父様に鬼の疑いをかけ、父様がいない隙に私と母様を人質にして真意を聞き出そうとした。
それに怒った父様と鬼殺隊は死闘を繰り広げ、当時まだ非力な赤子だった私と私を抱えて戦う母様を助けるために無理やり鬼になった。
母様は重症を治癒する為に不完全な形で鬼になってしまった。
鬼殺隊は父様が壊滅させたものの、鬼になってしまった以上は鬼殺隊に追われ、家族が危険に晒される。そこで父様は鬼の始祖の情報を渡し続けるのと引き換えに鬼殺隊の首魁に家族の恩赦を頼んだ。
けれど首魁──産屋敷はそれを受け入れるふりをして騙した。
私の朧気な記憶と照らし合わせると、父様と母様を狙った鬼殺隊の猛攻は一歩間違えたら父様か母様、若しくはその両方が死んでいたかもしれなかったぐらいだ。背景を知った今、さらに鬼殺隊への怒りがわいて出た。
実は追い詰められていたのは父様ではなく鬼殺隊で、父様は当時の柱達をボコボコにしてたりして……してないよね? 柱って鬼殺隊最強の称号らしい。そんなのが何人も斬りかかってくるんでしょ? 悪夢以外の何物でもないじゃん。よく父様は生き延びたなぁ。きっと逃げに逃げたんだろう。人間より何倍も強い鬼を倒すえぐい人達と正面衝突なんてありえない。
「こればっかりは頷けない。お前に私達と同じ道を歩んで欲しくない」
「むぅ」
沢山我儘を聞いてもらった。沢山教えてもらった。
それでも私は鬼殺隊に入りたい。母を殺そうとし、父を裏切った組織がどうなっているのかこの目で確かめたい。もっと知りたい。父様や母様のことを知りたい。
きっとそれらは私の運命に絡みついているから。
「呼吸と色変わりの刀を広め、階級制度を創り、鬼殺隊最強の称号を受けた痣の剣士、月の柱。
栄えある煉獄家の中でも歴代最強と名高く、見ただけで剣技を模倣し初めて呼吸を混ぜ合わせた鬼才の女剣士」
「どこでそれを」
「師匠じゃないよ? この天上天下唯一無二の美貌でお話すれば、そこらのお堅い鬼殺隊士の口も羽毛よりも軽くできちゃう。あ、しっかりと変装したから安心して」
「……」
「あんな下っ端の鬼殺隊ですら知ってた。父様達って普通じゃないと思ってたけど、鬼殺隊の中枢だったんじゃん。だったら私にも鬼狩りの才能があるとは思わない?」
「駄目だ。危険すぎる。縁壱から父様の話を聞いたのなら、鬼殺隊はお前を追っていることも知っているはずだ。父様がしくじってしまったから」
駄目だよ父様。優しすぎるのも考えものだよ。私は記憶力が優れているから、うっすらとあの日起きたことを覚えていた。そしてその記憶は叔父様の証言で全て繋がっている。
「違う! 父様は守ってくれた! 私は鮮明に覚えてる! あの夜、私は父様達の名前を呼ぶことしか出来なかった!」
「……ありがとう。紫明がそう思ってくれているのはとても嬉しい。紫明の声が私達に力を与えてくれた。だが座りなさい。それとこれとは──
(こうなったら……)
この屋敷は父様の趣味か分からないけど至る所に隠し通路とか隠し棚がある。子供の頃のかくれんぼの時にからくりは全部見つけた筈だけど、たまに父様は私の知らないからくりを知っている時がある。
色の薄い畳は大抵手を突っ込めば刀が出てくる。わたしの隣にその畳がある。
「ちょっと紫明!?」
父様の肩を狙って袈裟斬りを放つ。正座のまま上体を逸らして回避される。
踏み込んで手首を狙う。片足で立ち上がった父様に片手で逸らされる。
腹に向けて突きを放つ。あっさりと持ち手を掴まれて遠くに投げられる。木刀は私の手を離れて父様の手に収まっている。
やり直しとまでに投げ返された木刀を掴みながら肉薄し、最後に足首を狙った下段の一撃────宙返りで回避される。
ここまで一秒。
……化け物か? 私に刀の才能がないとはいえ、私今座ってる父様に斬り掛かったよね? 落ち着け。余裕余裕。それどころか楽しくなってきた。今度はまけない。私の得物は方天戟。今は大きすぎて家の外にある。戦場を家の外へと移さなければ……
「二人とも? 」
「……すまない」
「ごめんなさい」
怖い。普段怒らない人が怒るととても怖い。
「と、とりあえず、私は強いよ? 父様が思ってるよりずぅーっと」
「……だが」
「名前も変えるし、鬘もかぶる! 背中の痣は服で隠す。だからお願い!」
「……」
珍しく父様の感情が揺らぐ。普段家族といる時には剥き出しの感情は真剣な時に引っ込んでしまう。でも目に見えて揺らいだ。
もう一押し。
ここで取っておいた殺し文句を言い放つ。
私はもう、あの日父と母のことを呼ぶしか無かった無力な子供じゃない。
「じゃあ……私が師匠をこてんぱんに叩きのめしたら許可してね」
巌勝
娘が凶器を持ちたいとか言い出すものだから、止めようか迷った。
薫
好きなようにさせてやりたい。でも鬼殺隊に絡んだことは一切教えないでいたかった。
紫明
たった2歳の頃に目の前で親が殺されかけているので、倫理観は普通の人よりも逸脱している。
縁壱
ブラコン。以上。