お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、目次に薫の見た目(作者想像)が追加されております。あくまで作者が想像を元にそういうサイトを探して作ったので作中の表現や、読者さんの想像とはかけ離れてるかもしれません。
作中の表現は兎も角、読者さんの想像とは違っていても自分はそれでいいと思います。なにせキャラクターの捉え方は人それぞれなので。
あわよくば二次創作もっと増えて(小声)
「そうだったかぁ。もう既に知っていたとは……春夏も俺に言ってくれれば良かったのになぁ」
「い、いや……まさかこんなお侍様があんたの知り合いだなんて私どころかだれも想像なんてできやしないよ」
「ひっでぇなぁ」
客間に巌勝は通され、座布団の上に座した。
巌勝は歓迎されていた。といっても歓迎の空気は最初だけ。途中からは夫婦二人の軽い言い合いに置いていかれていた。
やれどこへ行ってただの、やれお前こそなんで探しに来なかっただの。言葉の一つ一つには冗談交じりだが、そこには確かな信頼がある。慶蔵は本気で春夏を心配していたし、春夏は自分だけ逃げようとしていたことを申し訳なく思っていた。
暗黙の了解のうちに二人は和解した。それゆえの軽口の叩き合い。二人とも荘厳な空気はきらう性なのだ。揃って正座を崩していた。
「だいたい、あんたは拳法に夢見すぎなんだよ! こんなだだっ広い道場を頂いたというのに門下生も一人もいない! そこの侍に譲って下働きとして雇ってもらった方がよかったとおもうけどねぇ!?」
「道場貰ったとき、一番喜んでたのは誰だろうなぁ……貰った時はおんぼろだったここを『二人でこの国一の道場にしよう』って掃除しながらも笑ってたのはどこの誰だろうなぁ?」
「ッ!? ……あんたはっ!」
(いつの時代も夫婦が作る空気は心地よい)
今にも掴みかかりそうな二人の姿に縁壱とうたを懐かしんだ巌勝は、茶を一飲みし、懐から小包を取り出す。そして二人の前に置いた。一触即発……もう始まってるかもしれないが、そんな空気だった慶蔵と春夏が揃って小包に目を向けた。
「私も……慶蔵の妻など夢にも思わなかった。……これが、恋雪の薬だ。食後に少しずつ飲ませろ。それと後ででいいから恋雪の容態も診る」
診る……と言っても巌勝はそこまで医学に明るくない。しかし彼には「透き通る世界」がある。これだけで下手な医者よりも正確に容態を診ることが可能なのだ。本職泣かせである。
尚、表面上だが素山夫妻は落ち着いた。表面上は。
「本当に助かるなぁ」
「恋雪の調子がいいのはこれのおかげかい? 高価な薬だろう。どこでもらってくんのさ」
怪訝な顔をして薬の入った小包を春夏が手に取る。中には小粒の玉がいくつか入っており、軽く振れば小気味のいい音を鳴らした。
「娘が医学を修めている。私はその運び屋という訳だ」
「娘の小間使いかい。体力だけは有りそうだね。てか結婚してたのかい。いくつだよあんた。娘が成人してるなら普通四十手前なんだろうけど、見たところ二十そこらにしか見えないねぇ」
「いつもなら夜中に届けてくれてくれてるんだが、やっぱしお礼がしたくてなぁ。ついでにちょいと手合わせしてみたくてなぁ」
「ばか言え。ついでどころかそっちが本命のくせに。娘の恩人に何させようとしてんのさ。全く、恋雪はあんたに似なくてよかったよ」
「じゃあ誰に似たんだろうなぁ」
「ふふん。そんなの私に決まって…………怪訝な顔をするんじゃないよ!」
春夏が慶蔵を小突く。そこで慶蔵がけらけらと笑うものだから春夏も顳顬に青筋を浮かべた。第二回戦が始まりそうである。
「……構わん。体術なら心得ている」
巌勝の一言に春夏が動きを止める。慶蔵は笑みを深くした。
「やめときなって。怪我したらどうすんのさ」
「……春夏は誰に言ってるんだぁ?」
「そりゃお侍様だけど?」
「だったら驚くぞぉ」
「?」
……
「参った、って言ったら終わりだからね」
「おうとも」
「承知した」
片や柔和な表情で片腕を回す道着姿の男。片や二本の刀を丁寧に隅におき、自然体で佇む侍。身長差では巌勝が圧倒。
綺麗かつだだっ広い道場に春夏を含めた三人がいた。木造のそれは道場として申し分ないくらいの雰囲気を醸し出している。天井も高く、剣道場の者たちが喉から手が出るほど欲しいのも納得だった。
(なんだかんだ決着はすぐにつきそうだ)
春夏も伊達に慶蔵の妻をやっていない。夫の強さは熟知している。加えて相手は侍とはいえ刀は使えない。決着はすぐに着くと考えている。ただ心残りなのは慶蔵が放った一言。
(『だったら驚くぞぉ』だなんて、なにさ。……いやありえない。多少心得があろうが、こいつは生涯を拳に捧げたんだ。刀ばっか振ってるようなやつとはものが違う。ただ…………)
違和感。
春夏の心の下に微かだが存在するそれ。ふと、侍の置いた刀が目に入る。なぜあの夜、侍が近づくまで自分は気が付かなかったのか。なぜ人も斬れないような侍があれほど血を匂わせる刀をもっているのか。
(ありえないんだよ)
慶蔵は強い。盗賊が数人集まったところで軽くあしらう。道場を開けるほどの実力もある。そして何よりも、彼のその強さに一目惚れしたのが彼女なのだ。
悪漢に襲われ、尊厳を諦めそうになったところを助けてもらった。よくある話だと言われようが、彼女にとっては慶蔵こそが俗に言う運命の人なのだった。故に欠片も興味の湧かなかった拳法道場に男装して入り込み、めきめきと力を上げ、道場の中で一番強かった慶蔵の次に強くなった。一番近くで慶蔵を見続けてきた春夏は夫の勝利を疑わない。少しも。
「始めッ!!」
しかし仄暗い不安を拭いきるように力を入れた一言は……
「慶蔵さん! 子供が殺される! 大勢の大人に囲まれてる!」
「む」
「なんだ?」
「あら」
突如、切羽詰まった様子で道場の中に男が飛び込んできた。見るからに善人そうな顔を苦悶に染めて助けを乞うている。呆然としたのは一瞬。事の重大さを理解した慶蔵達が男に駆け寄った。
「……どこだ?」
「すぐそこの通りだ! 早く!」
「旦那。ちょいと手合わせは待ってくれねぇか。んでもって、妻と娘を頼んじゃくれねぇか」
「任せろ。侍ゆえ守るのには慣れている」
「悪ぃな」
慶蔵は男と共に出ていった。嵐のような一連の流れに春夏は置いていかれていた。切羽詰まった空気が霧散していく。春夏はなんだか疲れて、大きく息を吸って吐いた。
「はぁぁ……なんだが変な汗かいたぁ。そういえばあんた医者の親だったね。怪我人の介抱だとか、そういうのには詳しいだろ。私になんでもいいつけな。とりあえず私は布団を敷くよ。あいつが怪我人を運んでくるだろうから看病しないと」
「いや、そこまでする必要は無い。軽い布ぐらいでいい」
「……そうなのかい? でもまぁ、あんたが言うならそうなんだろうね。えーっと布、布……どこに詰め込んでたっけな」
春夏は布を探しに出ていった。がらんとした道場で巌勝は息を吐いた。そして転生者として原作の重要人物に出会えることに歓喜する。無言で軽く拳をあげたほどだ。
巌勝は知っている。誰が運び込まれてくるのかを知っている。鬼子と呼ばれた少年は気絶されても半刻で起き上がる。故に大した準備は不要。
「猗窩座……いや、狛治。誰しも幸せになる権利がある。お前にもだ………………そして、来たか外道共」
……
「こっちだよ慶蔵さん!」
「おうさ」
慶蔵が友人に先導されて道場を出ていった。その後ろ姿を影から見つめる者が四人。終ぞ慶蔵は気が付かなかった。
「なんでかわからんが、どうやら出ていったようだぞ」
「運がいい。あいつさえいなくなれば、今いるのは恋雪とババァしかいない。仕掛けるには絶好の機会だ」
「前は蝮を放ったから……」
「じゃあ次は……くひひ。なににしようかぁ」
招かれざる客達。
着物に袴。剣士の卵である彼らの小綺麗な見た目とは反して話す内容は悪人のそれ。
皆が慶蔵の近くにある剣道場の門下生である。剣道場を物理的に大きくしたい彼らにとって慶蔵の道場は喉から手が出る程欲しいものだった。しかもこちらは侍。侍中心の世の中で拳法の道場があれほど大きいのは腑に落ちないのだ。
「落ち着けお前たち」
鶴の一声に三人は黙りこくる。
(いつになったら恋雪は俺のものになるんだ? 恋雪も望んでいるだろうし、何よりも剣道場の後継である俺が望んでいる。なんにも憂いなどないはずだ。反対しているのはあの慶蔵だけ。あいつさえ何とかすれば)
彼らをまとめ上げるのはそこの師範の息子。彼は慶蔵の娘である恋雪に恋慕している。彼もまた、恋に狂った男である。薫とは違って本人の意思等完全無視しているが。彼の父親はこの事実を知らない。
「前門から堂々と入ればいい。女衆は家の中だ。恋雪達にもてなしてもらおう。それがいい。どうやら最近調子がいいらしいからな。恋雪も喜ぶだろう」
原作では散々嫌がらせをされてきた慶蔵の道場。慶蔵はよく言えば温厚で、悪くいえば鈍感だった。
だが仕方ない。相手は卵とはいえ侍。口を出せば世間からの当たりが強くなり、何をされるかわかったものでは無い。自分だけならいいが、今では道場と家族を持つ慶蔵。妻と娘に迷惑がかかるのは避けたかった。
「なんで道場の持ち主はあんな奴に道場なんて譲ったんだか」
「脅して無理やり奪ったに違いない」
「その通りだ。でなければ俺たち侍ではなく、たかが拳法家なんかに譲るわけがねぇ」
相手が侍故に反抗出来ぬのなら────
「何者だ。名乗れ……でなければここで斬り捨てる」
────日本最強の侍が御相手いたす。
門は目と鼻の先。小憎らしいほどに立派な門の下で侍が一人、腕を組んで佇んでいる。彼らにはその男が巨人に見えた。見たところ自分達の頭の位置にちょうど男の二の腕があるのだ。
余談だが、江戸時代の平均身長は百五十五センチから百五十六センチ。だと言うのに巌勝は百九十センチ。彼らは見上げ、見下ろされる関係である。
(斬る? 侍だ。強……いのか? 分からない。不気味だ)
侍と分かったのなら、次に目を引くのは刀である。巌勝はほぼ同じ長さの刀を二本差していた。一本は継国家に代々伝わる神刀『蛟落天津』。もう一本は言うまでもなく日輪刀である。
意匠の施された鞘は素人目でも業物と分かるほど精巧。侍達に殺してでもあの名刀を奪いたいという仄暗い欲望が鎌首を擡げた。それほどに素晴らしかったのだ。
「私はこの道場の留守を任されている。継国巌勝という者だ……して何用だ。名を名乗れ」
「あ……い、いや、慶蔵とかいう腑抜けが……」
「名乗り返さないとは侍ではないのか? ……それにしても……腑抜けか……」
「ひっ……」
(ちっ……怖気付きやがって。背高のっぽに何を怖がることがある)
慶蔵の道場は門をくぐれば目と鼻の先。そして自分を待っているであろうはずの恋雪もすぐそこにいる。跡取り息子はもどかしかった。あと少しで望むものが手に入るというのに、目の前に巨大な壁が現れた。故に手段は選んでいられない。
リーダー格である彼が目配せすると、一番体格のいい一人が前に出た。とは言っても頭のてっぺんが巌勝の首元に届くかどうかである。恵まれた体格のおかげで所業が許された彼も、今はどうすることも出来なかった。
(こ、怖ぇ)
巌勝の視線を一身に受ける。何を考えているか分からないのだ。いつもなら睨めば誰もが怯えて逃げていった。つまり怯えた目しか知らない。対して目の前の男は怯えてすらいない。一挙一動一投足全てを見られている。何か動きを見せれば即斬られる。抜き身の刀がその鋒をこちらに向けている。そんな感覚だった。
「どうした……名も無き者。力で示すのなら抜けばいいだろう。その腰に差してあるのは飾りか? 腑抜けはどちらか……明瞭だな」
巌勝が近づき、煽る。完全に刀の間合いの中。一足一刀よりも近い間合い。
逃げ道は絶たれた。ねじ伏せなければプライドが許さない。逃げてもこれまたプライドが許さない。弱者にはなりたくなかった。
「う、うおおぉぉああああああああああ!!」
抜刀。からの振り下ろし。大上段からの一撃。性根は腐っても剣士。速さと気迫は一級である。速さと気迫のみだが。
それだけで上弦の壱を相手にするには圧倒的力不足。鬼が人に道理を説き、人が鬼に屁理屈を掲げて暴力を振るう。なんと皮肉なことか。
(恐怖で刃先がブレている。右手に力が入りすぎている。少し挑発するだけで激昂する精神力。弱いな。やはり戦国よりも剣士の質は落ちている。鬼殺隊もそうだろう……嘆かわしい)
「ふっ」
巌勝は最小限の動きで避けた。彼の頬の傍を刀が通過する。風圧で髪がはらりと揺れた。瞬きひとつせず、そして眼前を通り過ぎる刃に目もくれず、刀を振った男の体を見ている。
(肉体も、普通より秀でているのは認めるが使い方がなってない。本来の力の半分すら引き出せていない。呼吸を使わない者などその程度だろう)
避けられたことに気づいたところで振りは変えれない。避けられると思っていなかったし、振りを変える程の筋力がなかった。それどころか標的を見失った刀は下段まで勢いよく振り下ろされていく。
「軟弱千万……」
巌勝は振り下ろされた刀の背に片足を乗せ、体重をかけて地面を斬らせる。土埃と共に大きな音が鳴り、地面に刀がめり込んだ。
「ぐっ……」
(動かせない!?)
刀から手を離さずに力づくで巌勝の足から逃れようとする剣士。大胆に隙を晒した。それを月光は見逃さない。
続け様に刀を押さえつけているのと反対の足で無防備な男の脇腹を蹴り飛ばした。
「ぐわっ!?」
骨が折れるとまではいかずとも微かに軋み、男の体が虫のように吹き飛ぶ。一秒ほど滞空した後、二、三回不時着して、動かなくなった。
「受け身ともらぬとは……」
「「「……」」」
暫しの静寂。
(な、何が……起こった!? あいつの体が揺らいで……分からない! どういうことだ!?)
「お、お前ら! 刀を抜け! 全員で同時にかかるぞ!」
たった今武器を破壊された一人を除く三人全員が抜刀した。
心底不快な表情を浮かべながらも、巌勝は刀に手をかける。今なら人目もある。このまま侍同士の立ち会いに持っていけば、合法且つまとめて外道を消せると思ったのだ。
「次々と……騒々しい。まとめて相手をしてやろう……」
その光景を一心不乱に見つめる春夏。
「……は?」
春夏は目の前の光景が信じられなかった。
なにやら外が騒がしいと思って顔を出してみれば侍が数人相手とやり合っていた。刀を握るしか脳のない侍だと思っていた。刀を握っても人に向けられない侍だと思っていた。殺気も皆無だった。
根底から覆る。多勢に対して刀を向け、体のこなし方も夫より頭一つ抜けている。否、凌駕している。殺気が皆無なのは常日頃から消しているから。戦闘において、相手に殺気がないのなら此方の勘が効かないのは当たり前。勘は害意や殺気の類を知らせるのだから。この領域に至るまでにどれ程の修練を積んだのか。
よもやすると先程の手合わせ。結果は……
(……。この国は広いねぇ……あんなのがごろごろいるんだろうさ。ますます惜しい。結婚さえしていなければ、恋雪を任せられたのに……っていうかお侍は徹夜じゃないか?)
「……はっ! ……何してんだいお前たち! とっとと失せな! 奉行様を呼ぶよ!」
「ちっ……ババァがきやがった。お前ら帰るぞ! そいつを担げ!」
……
招かれざる客が帰って数分後、駆け足の草鞋の音が道場に入ってきた。
「今帰ったぞー。春夏ー。湯を沸かしてくんねぇか?」
慶蔵が帰ってきたのだ。顔が腫れ物にまみれた少年を抱き抱えて。慶蔵には傷一つなかった。その事に春夏はほっと息をつく。
「もうとっくに沸かしてあるよ。あら、これまた随分な拾い物をしたね。いい体してるじゃないか」
「そうだろう。しかも筋がいい。もう決めた。こいつは俺の弟子にする」
「また急に……。門下生が増えるね、やっと一人目だけど」
「何言ってんだ。これからどんどん増えていくんだよ……ああ侍、そこの地面に刺さった刀抜いといてくれ。質が良ければ質屋に入れるから」
「……承知した」
巌勝は出ていった。程なくして刃先がボロボロになった刀を引っ提げて帰ってくるだろう。不満げだったが仕方ない。
「またアイツらかぁ……どうしたものか」
「このご時世だ。侍が上。拳法なんかより剣術の方が聞こえがいいのさ。私たちが声を上げたって、誰も味方しちゃくれないよ………………ねぇ、ちょっと」
「ん?」
「あんた。この男刺青があるよ。ひょっとしなくても罪人じゃねぇのかこれ」
「困ったなぁ。起きた時に暴れられても……と言いたいところだが俺に加えて旦那もいる。しかもこいつは大の大人に対して拳ひとつで立ち向かっていた気持ちのいいやつだ。暴れたりなんてしないさ」
慶蔵
狛治を拾う。侍達を敵に回すと、奉行所が敵に回るかもしれないし、家族もいる。なんだかんだ今の状態が最善。それでも道場を捨てて引越しとか考えてる。
春夏
行動力のかたまり。大人になってちょっと大人しくなった。男装して慶蔵のいる道場に入り込んで以来、男達を薙ぎ倒しながらめちゃくちゃ成り上がってくるので、若き日の慶蔵にライバル視されていた。ある時、慶蔵を呼び出し勝負を挑み、勝負の最中に女だと告白した。勿論慶蔵は気絶した。
作者
鬼滅ロスがひどい……
童磨編は紫明が中心の予定なのですが、とっつきやすくするなために紫明の日常とかを書いた閑話を童磨編より先に入れた方がいいですね。なのでもう少し先ですがまた閑話をねじ込みます。