黒死の刃   作:みくりあ

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感想、誤字報告ありがとうございます!!
私情で少し遅れました。四月は色々とあります故……


肆話 素流道場の日常・下 (狛治視点)

「さてと」

 

 

 恋雪さんは春夏さんが見てくれているので、用済みになった俺は師範と巌勝さんの様子を見に行くことにした。朝二人と話してから、もう日が登りきるというのに姿を見せないのは、酒好きな師範のことだから飲んでいるのだろう。

 あの医者兼侍が恋雪さんの様子を見に来たという目的を見失っていないか不安だ。恐らくだが師範に言い寄られて二人揃って飲んでいるんだろう。

 

(医者がゆっくり出来るほど恋雪さんの容態が良くなっていっているということでいいんだな……? そう思いた……)

 

 

 

「む……狛治か」

「うえっ……!?」

 

 廊下の角を曲がってきた巌勝さんとかち合った。

 なんで気配がないんだよ。いざ真正面に立ってみると存在感はある。まるで植物みたいな男だ。

 驚きすぎて蛙が潰されたみたいな声を出してしまった。恋雪さんの部屋まで聞こえていたら恥ずかしい。

 

「…………今春夏さんが恋雪さんの様子を見ておりますので、しばしお待ち下されば…………師範は?」

「酔って草臥れている……頑丈な奴のことだ。直ぐに回復するだろう」

「ありがとうございます」

「礼には及ばん。勿論……私は飲んでいない。()()()()()()()()()()故な、酒が無駄になろう」

「え? ……あ、はい」

 

 なんだそれは。というか師範は相変わらず気ままだ。春夏さんに怒られるまでがいつもの流れ。客人がいる分そこまで怒りはしないだろうが俺にまで飛び火したら面倒だな。

 

「天気がいい……しばしここで風に吹かれるとしよう」

「……」

 

 ここでか……しかも曇り空だが? この人にとってのいい天気とは曇り空のことなのか? 

 

 

 ……

 

 

 

 …………

 

 

 

 ………………気まずい。

 

 

 というかなんだこの構図。

 縁側の廊下に男二人。行儀よく揃って座っている。

 まだ寒いこの時期だ。俺は兎も角、客人なら空いた部屋にでも招いて暖を取らせるのが正解だろう。正解なのだが……全く寒そうにしてないならいいか。女なら兎も角男だし大丈夫だろ。さすがに客人を放っておくわけにはいかないから俺が見ていないといけない。

 一瞬だけ目を向けたが、こいつは庭を凝視しながら眉一つ動かさないでいる。どういう感情の顔なんだ。黙想でもしているのか? 

 

「……狛治、また私の顔になにかついているのか?」

「は……いえ! なんでもありません」

「そうか……ならばよい」

 

 また沈黙。このやり取りさっきもしたぞ。

 

 待てよ。

 俺は師範としか手合わせしたことがない。だから師範に合った立ち回りや技だけが伸びている。このままでは駄目だ。悪い癖がついてしまう。だが目の前には師範以外の猛者がいる。絶好の機会だ。俺は今暇だし、確実にこの侍も暇だ。

 この侍の強さも見てみたいしな。

 

「巌勝さん」

「なんだ」

「無礼を承知でお願いしたいのですが、俺と手合わせしてくれませんか?」

「……手合わせか」

 

 ああ、()()だ。初めて会った時もされた。毎回会った時にされるこれ。

 肌が泡立つようなこの感覚。

 見られている。ただそれだけなのに慣れない。

 漆黒に染め上げられているようでどこか赫色を想起させる眼光が俺を塗り潰そうとしてくる。心の奥底まで見透かされているような目。

 

 だが怖気付いてはいられない。

 

 腰帯をきつく締め、身体中の力を入れる。昂らせるは心。見せつけるは戦うという意思。

 

 

 

 

 

 〝闘気〟を見せる!!! 

 

 

 

 

「手加減不要です!」

「ほう…………いいだろう」

 

 どうやらお眼鏡にはかなったらしい。

 庭に出て向かい合う。広い庭だからかなり動けそうだ。

 巌勝さんは腰に差した刀を丁寧に縁側に置いて、どこからともなく取り出した木刀を腰に差した。

 

 準備万端。

 

 

「参ります」

「来い」

 

 まずは正面から殴る。様子見したところで付け入る隙なんてない。だからこその正面突破。拳に込めた力は最低限。その代わりに足腰に力を入れ、出方を伺う。

 

「ふっ……!」

 

 だが、俺の拳は侍の着物を打って止まった。滑らかな感触が肌を打つ。

 本体じゃない。着物が異常に硬いんじゃない。ほんの僅かだけ届いていないんだ。完全に見切られた。

 

「……ちっ」

 

 伸びきった俺の腕、伸びきればそこに破壊力は皆無。無理やり体全体を動かしてさらに伸ばそうとすれば体幹が崩れてしまう。

 幸いにも入れた力は最小限。簡単に拳を引き戻せる。拳を引き戻しつう、続け様にもう片方の拳を打ち出す。次は真っ直ぐではなく、横から相手の側面を叩くようにして振り切る。

 

 

 これも避けられる。

 ……が、本命は拳じゃない。足だ。

 

 二回目の拳を左から右に振り切った時に生じた回転。それを活かした右足での後ろ回し蹴り。

 

 

 

 ガコン!! 

 

 

 

 音が鈍い。

 見れば奴はいつの間にか抜刀し木刀で防いでいた。

 

「刀を使わなくても勝てると思ったか!!」

「ああ、非礼を詫びよう……少々侮っていたようだ。今度は此方から往くぞ」

 

 木刀がうねりを伴って袈裟懸けに振り下ろされてくる。まだいける。余裕を持って避けられた。

 突き。逆袈裟。真一文字。

 半身で避ける。拳で流す。飛び込んで躱す。

 止まない斬撃の嵐。だとしても刀にさえ注視していればどうってことない。側面に拳を軽く当てるだけで刀の軌道は簡単に逸れる。

 

「慣れているな」

「……」

「ならば下からならどうだ」

「は」

 

 一瞬見失う。あいつの声が自分の下から聞こえる。

 何が起こったのかなど単純明快だ。

 こいつ、潜り込みやがった!? 

 圧倒的に体格差で劣る相手に対して下を選ぶのか!? しゃがむなんてもんじゃない。地面すら舐めることが出来る程に体勢を変え、股の下を潜ったんだ。どういう思考回路してやがる。侍とは思えない。

 目で追おうにもはらりと浮いた赤交じりの黒髪が一瞬見えただけ。完全に虚をつかれたから何をされるか分からない。

 

 

 直後、浮遊感。

 

 

 手加減不要と言っておきながら手加減された。下からなら足を叩きおるなり股を切るなり致命傷をいくらでも与えられた。だと言うのに投げるだけ。

 

 

 いや────投げるだけじゃない。

 

 

「……さて」

 

 

 クソが。着地地点に堂々と待ち構えてやがる。空中だから回避は不可能。精々体勢を治す程度。

 こうなったらどうしようもない。着地隙を狩られるか、空中で叩き落とされるかの二択だ。攻撃を受けることが確定している以上……

 

 防御を捨てる……!! 

 

 

「しゃらくせぇぇえええ!!」

「いい判断だ」

 

 俺は全体重を乗せたまま指を組んで両手を合わせ、体を大槌に見立てた一撃を繰り出した。

 

「……」

 

 

 

 メリメリメリ!! 

 

 

 

 木刀で正直に受けやがった。馬鹿が、木刀如きで受け止められるかよ! もう罅が入ってやがる。こいつをぶち抜けば顔面に俺の拳が直言するぜ! 

 

 

 

 直後、また浮遊感。

 

「あ?」

 

 あっさりと木刀を手放した。わかったのはそれだけだし、こいつがしたのもそれだけなんだろう。だとしても思い切りが過ぎる。

 支えを失った俺の体はひどいもんだった。

 大胆に隙を晒した俺をこいつが追撃するまでもない。最後の一撃に全てを賭けたせいで俺の体勢は粗末も粗末。受け身を取るので精一杯。反動で筋肉も幾つかちぎれた。

 

「……はぁ! ……はぁっ……はぁ……くそっ……」

「慶蔵と動きが酷似している……同じ人間と戦い続けた故にな。刀ばかりに気を取られていては虚を突かれる」

 

 腹の立つ構図だ。

 此奴は俺の横で天に聳え、対して俺は地を舐めている。

 強者と弱者。

 大柄と小柄

 刀と拳。

 侍と罪人。

 俺が駆けつけられなかった親父の危篤にも、こいつなら駆けつけるんだろう。

 

 

 まるで正反対。

 

 

 決して楽観視していたわけではなかったが、ここまで差があるのか。

 逆に此奴は何を持ちえない。息も切らしていないし、一撃すら入れられなかった。弱いやつからこうやって死んでいく。こんなんじゃまた失う。誰も守れないまま終わってしまう。

 まだ足りない。もっと強くなりたい。こんなのが敵対されたとしても守りたいものを守りきれるくらいに。

 

 

 思い出す。

 

 

 家に帰る。人集り。泣く人。諦観する人。近づく。肩に手を置かれる。同情されている。何故かと聞く。家の中を見る。父親がいる。首に縄を巻いて吊られている。何かが壊れる。疑問が次から次へと浮かんでは消える。駄目だ。

 

 負けては駄目だ。また失ってしまう。こいつが恋雪さんを殺そうとしたらどうする。親父が大事な時に俺はいなかった。俺が居れば止めてれたかもしれない。

 だが俺がいたとしても、こいつが恋雪さんを殺そうとすれば俺に止められるのか? 

 

「重心は命と同等……相手の視界も重要だ。死角を探し……そこに決定打を繰り出すがよい。

 さて……やめにするか」

「やめ?」

 

 

 

 類稀なる強者との戦いは、自分をさらに上へと押し上げてくれる。

 こんな闘いは久しぶりだ。師範に初めて会った時は一発でやられたから違う。

 俺がまだ六つの頃、近所の破落戸に売られた喧嘩を買った時と同じ。相手の一挙一動に視覚を研ぎ澄ませ、

 血の混じった汗と唾液に噎せ返りながら、

 自分の心音しか聞こえなくて使い物にならなくなった耳を捨て、

 骨が見える程に磨り減った拳。その痛みを忘れるくらい人を殴ることに集中していたあの日。

 自分が他の人間よりも強いことを理解したあの日と同じ。

 体温も闘気も最高潮。この感覚だ。苦しさも、息苦しさもぶっちぎった。その先にある、頭が澄み切った感覚。

 

「……」

 

 此奴も地味に高揚してやがる。微妙に口角が上がっているなぁ。やっぱり礼儀なんだの綺麗好きな侍じゃなくて、確実に戦場にその身を置いてきたんだ。

 これはいい。

 全身の力で食らいつけ。俺は諦めの悪い男だ。

 笑う膝を叩いて直し、立ち上がる。そうやって笑って見せれば、あっちも笑みを深くした。ははっ。随分と余裕そうだなぁ! 

 

 

「まだまだこれからだぁ!!」

「……面白い」

 

 

 ───────────────────────────────

 

 

 

 

「なんだ? いつもより技のキレがいいなぁ」

「ちょっと刺激をうけましたのでっ!」

 

 翌日の稽古。

 疲れなんて一日寝れば全部吹っ飛ぶ。昨日ちぎれた筋肉も元通りだ。

 あの人との模擬戦闘が終わったあと、早く拳を振るいたい一心だった。寝る前も起きた後もずっとだ。ここに来る前は毎日のように拳を振るっていた。衣食住が与えられたからといって怠けていては世界の速さに追いつけない。あの人みたいな天才に追い抜かれる。

 

 

「……ふっ……!」

 

 

 地に顔を近づけたくないだなんて安っぽい誇りは捨ててしまえ。折角身軽なんだ。手を地面につけて全身を捻れ。下段も下段。剣術に大上段があるなら、大下段だ。初見で下段を見切れる筈はない。

 

「おっ?」

 

 手だけで体を支え、より柔軟な蹴りを生み出す。

 体を丸め、溜めをつくる。そして師範の顎を狙った大下段から直上への脚撃。蹴り上げた足は受け流されたが、意表はつけたようだ。師範の顔が驚きで染っているし、何よりも今の受け流しは手加減されていなかった。師範が本気で止めるに値したのだ。

 動きに見合った最適解を繰り出して隙を作り、攻める時は苛烈に攻める。守るための拳も、大切な人を守るためなら殺すための拳になる。

 

「あぁ、あの侍に教えてもらったのか? よく奪ったなぁ」

 

 掌底を放てば綺麗に躱されて捻りあげられる。その回転を活かして師範の肩を蹴って抜け出し、空中からかかと落としを繰り出すも、難なく受け止められる。

 

「今のはいい判断だ。だが俺が受け止めていなければ道場の床が抜けていた威力だなぁ。単純な力も上がっているなぁ」

「やはりっ! 強者との戦いは自分を数段上へと伸ばしてくれるっ! …………ので!」

「はっはっは。いいやつだろう。侍がみんなあいつみたいに気持ちのいいやつばかりだったら良かったんだけどなぁ」

「得体の知れない点は置いておいてっ! ……剣道場の奴らよりはマシです!!」

 

 じれったい。正当な理由さえあれば俺が奴らの道場を叩き潰すというのに。あの人みたいに強者ばかりじゃないだろう。だったら俺でも勝てる。

 

 

 

 

「得体の知れないときたかぁ。それは仕方ないぞ、あいつは()だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は」

 

 

 

 

 

 

 

 空いた思考。遠慮なく拳が顔面を捉える。全く痛くない。多分手加減された。手加減されてばかりだな俺は。

 いやいや、そんなことは今はどうでもいい。今師範、鬼って言わなかったか? 鬼ってあれか二本角が生えていて、金棒を振り回して、虎の毛皮を腰巻にして、赤い体をしているあの鬼か? あの侍が鬼だと? 

 俺は鬼子だなんて呼ばれていたからあれだが、あの人も鬼子ということなのか? 

 

「この程度で動揺しているんじゃ、狛治もまだまだだなぁ。言った俺が言うのもなんだが、このことは言わないでくれよ。俺が旦那に怒られちまう。あまりに狛治の動きが良くなっているから嬉しくてつい口が滑っちまった」

 

 じゃあなんで言った……。だが間が悪いように頭をがしがしと搔いているということは嘘じゃない……のか……? からかわれているわけでもないし……

 

「鬼って……なんでしょうか」

「おっと、知らなかったか」

「知らないわけではありません。耳にしたことはあります。しかしあれは架空の存在では?」

「いんや。鬼はこの世に存在する。神様や、仏様だっている。

 鳥居に腰かけるお稲荷さん。動く狛犬。手水舎を泳ぐ龍神とかな。

 もっとも、今の時代になって数そのものはへったらしいがなぁ。

 俺も最初は信じられなかったが、あいつの嫁さんを見て、ああ、人間じゃないのかぁ……って思えるようになったなぁ」

 

 そういってガハハと豪快に笑う師範だが、俺はまだ理解しきれていない。誰だってそうじゃないか? ある日突然『お前の知っているあの人は人間じゃない』なんて言われて、はいそうですかなんてならないだろう。というか結婚していたのか。相手も鬼らしいな。

 きっと嫁こそ化け物みたいな顔してるんだろう。

 

「……鬼だということは、何か悪事を働いたりするのでしょうか。人を食べたりとかするのですか?」

「人にも悪い人や良い人がいるだろう? 鬼にも良い鬼、悪い鬼がいるんだ。旦那はそうじゃないって言いきれる」

「………………あー…………だとすればあの強さも納得がいきます」

「ははっ。まだ信じていないなぁ。まぁそのうち分かるさ。あと旦那は鬼だから強いんじゃない。強いから鬼なんだ」

 

 意味がわからない。俺が馬鹿だから理解出来ていないのか? 稽古の疲れも全部吹っ飛んでしまった。俺はどういう反応をすればいいんだ。あの人が来てからここ数日が濃すぎる。もうたくさんだ。

 

「……とりあえず俺には一生かかっても勝てそうにないってことだけはわかりました」

「どこにだって上には上がいるもんだ。身体能力を強さでくくるんじゃなくて、それ以外の面で勝てればいいんだ。狛治が旦那に勝っている所なんて探せばいくらでもあるぞ?」

「……」

「納得してない顔だなぁ。少し休憩にしよう。戻っていつもの薬を恋雪に持って行ってくれ。頼んだぞ狛治」

「……わかりました」

 

 

 

 ────────────────────────────────

 

 

 ギシギシと音を立てる廊下を歩く。

 わからない。鬼云々の話は一先ず置いておく。考えたところでどうしようもないことは考えないようにしている。

 強さとは身体能力だけの話じゃないか? 

 強さとは暴力だ。それ以外の何物でもない。

 いくら気が強くて口が上手くても体が弱ければ意味が無い。そういったやつを沢山見てきた。理屈や御託を並べた所で、それが通るのは奉行所だけ。強ければ生き、弱ければ死ぬだけだ。

 

 

『……ごめんなさい……ごめんなさい』

 

 

「……」

 

 

 恋雪さんの言葉が頭を過る。

 彼女は弱者だ。だから強者である俺達が守らなければならない。気がかりなのはあの剣道場の奴らだ。恋雪さんを見るあいつらの目はどうしても好きになれない。あの目は蔑む目だ。醜いものは自分が好きに弄んでいいとそう信じて疑わない目。病弱の親父をないがしろにした隣近所の屑どもを思い出す。

 そうこう考えている間に恋雪さんの部屋の前についた。怒気を孕んだ声になりそうだったので邪念を振り払い、部屋の外で正座をして服装を正す。

 

「恋雪さん。狛治です。昼食を届けに来ました」

 

 

 ……

 

 

 例えばの話だが、恋雪さんが治ったら俺は出ていかなければならないのか? そうだとしたらそれはいつだろう。それでもきっと、師範達は俺がここにいることを許してくれるはずだ。

 

「恋雪さん?」

 

 ……おかしい。いつもなら間髪入れずに許可が出る。声がか細くて聞こえなかったか? 寝ていて返事ができないのなら説明はつく。説明はつくのだ。

 だというのに何だこの感じは。横隔膜が痙攣して苦しい。いや大丈夫だ。この障子を開ければいつもみたいに恋雪さんがいて……

 

 

 

 

 

 

「恋雪さん? ……狛治です。入りますよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いない。どうしてだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 顔から血が引いていくのを感じる。

 

 

 

「っ……恋雪さん!?」

 

 

 

 

 

 いない。

 

 

 

 落ち着け。

 大丈夫だ。

 散乱した布団や枕。一人でどこかへ行ったのか? いや、雪の結晶の髪飾りが置きっぱなしだ。いつも身につけているはずなのに。それに良くなってきたとはいえど、恋雪さんは一人で出歩けない。髪飾りは拾ってみると春夏さんのよりも小さかった。部屋の外には雪が降っている。恋雪さんも春や夏は庭先で歩けるぐらいには良くなったが、冬は別だ。俺と師範は今の今まで稽古をしていた。あの人は市場に出かけた。春夏さんはあの人とは別の場所で買い物だ。恋雪さんは良くなっていたから声を出せばすぐ近くの道場にいる俺たちまで届いたはずだ。だがこえをだせなかった。

 

 

 

 連れ出されたのだ。

 

 

 誰に? 

 

 

 決まっている。剣道場の奴らだ。あいつらならやりかねないとは思っていたがまさかここまでするとは。俺と師範が稽古している間に侵入されたのだ。くそっ……! あの侍は街に出ているし、春夏さんは買い物だ。完全にしてやられた。

 

 

 また失うのか? 

 

 

「違う」

 

 

 また俺のいない所で大切な人が死ぬのか? 

 

 

「違う!!」

 

 

 必ず……駆けつける。何がなんでも。




狛治
拳を振るいながら人生の半分以上過ごしてきたから、戦いになると多少言葉遣いが荒くなる。
透き通る世界を一瞬誤魔化した。無意識下とはいえその直感と才能は天賦。

巌勝
何とか狛治と恋雪をくっつけようと模索中。

次回は恋雪視点です。
猗窩座編だけで後数話あるのでこの章は長くなりそうですね。
少し言いますと、過去がかなり割れている猗窩座、童磨、妓夫太郎と梅、獪岳は比較的長くします。
逆にあまり割れていない、半天狗、走馬灯すら見てない玉壺と鳴女は上の人たちよりも一話か二話くらい短くなります。
あくまで予想です。私が書くの楽しくなると、ころころ変わります……
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