ホテルに備えられた目覚まし時計が5:00AMを通知してくれる。ボタンを押し起き上がり、突然の起床に驚きエンジンが掛かっていない脳を起こすために水を喉に流し込む。こんな時間に起きたのは、元担当ウマ娘の6人から逃げるためというは言うまでもない。
ホテルの受付が開いてるか心配だったが、必ず一人は常駐しているようだったので早朝でもチェックアウトできた。乗るべき電車は5:30発なので、5:20頃にホテルを出た。人っ子一人いない姫路の街を走り、3分で駅に着いた。僕の青春18きっぷには《姫路駅 入場》と書かれた印が増えた。
僕が7番線についてしばらくした後、末期(真っ黄)色の113系電車がやってきた。やはりJR西、京阪神を一歩でも出ようものなら古いものを大切にする精神をこれでもかと見せてくる。
まだまだ起きていない姫路の街の中心、姫路駅を出発する。網干までは市街地が続いていたが、そこを過ぎると田畑や立派とは言えないが緑あふれる山が見えてくる…はずだった。早朝なので見えるのはまとまっている民家と道路の明かりだけだ。
なぜか新幹線駅がある相生、三セク鉄道の優等生-智頭急行線が分岐する上郡を通過していく。山陽本線は山の合間の僅かな谷を申し訳無さそうに通るのでこれと言った美しい車窓はない。駅の間隔も長いため少し苦行の側面もある気がする。東海道本線を耐え抜いた18きっぱーも相生~岡山では新幹線を使ってしまうのも分かる気がする。
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アナウンス「まもなく終点 岡山 岡山です。山陽新幹線、宇野線、吉備線、津山線、山陽本線の倉敷・福山方面はお乗り換えです。」
出発してから1時間半、大都会岡山に到着。Twitterでは大都会(笑)のような扱いを受けている岡山だが、実際四国中国では広島に次ぐ規模の都市であり、全国でも19位に入る人口を持っている市である。メロブはないが。
ここからの行動でウマ娘たちから逃げられるか否かが大きく左右されるため慎重に行動を考える必要がある。カレンが僕のことを探すようにフォロワーに呼びかける投稿をウマッタ―にしていたので、あまり目立つような真似はせずに人気が少ないところに行くのがベターと言ったところか。岡山周辺で人が少ないところといえば中国山地の辺りだろうか。しかし、あそこには中国道が通っているため車を使用されたら詰みだ。線形が悪く速度が出せないローカル線が高速道路に勝てるわけがない。
やはり空港だろうか。運転免許を持っていない以上、鉄道の本数が少ない四国では速さの面で他を全く寄せ付けない飛行機を使って行くのが安定した方法だろう。
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ウマ娘達に新幹線を使われていると、そろそろ岡山につくのではないかというところなので悠長に過ごしている暇はない。7:10発のマリンライナーに乗り込み、四国への道を走る。念には念ということで指定席券を購入し、2階席に座った。流石に指定券が必要なところに堂々とそれを持たずに入ってくる人間はいないだろう。
アナウンス「今日も JR西日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は 快速 マリンライナー 高松行きです。停車駅は 大元、妹尾、早島、茶屋町…」
途中までは、岡山って政令指定都市だからやっぱ都会だな~なんて考えていたが、笹ヶ瀬川を過ぎたあたりからガラッと景色が変わった。水田ばかりが目に入り、さっきまでの街9:田1から、街3:田7になった。
妹尾、早島を経由していき、山と街と田が混ざった場所を快い速さで駅を通過していく。正に「快速」だ。実はマリンライナーの停車駅パターンは12もあり、複雑怪奇で理解しようなものならば海馬が焼き切れることが約束されたようなものある。その中には5つしか駅を通過しないものもあり、こちらは快い速さではなさそうだ。色々と考えているとトンネルを抜けた。
両手に瀬戸内海が一面に広がる。
トラス構造越しとはいえ海、島が鮮やかな色彩を持って僕をもてなしてくれる。
島を何個か踏み、四国への道を順調に進む。途中…たしか2つ目の島だっただろうか、そこで螺旋階段のような構造になった道路を見かけた。おそらく面積が広くない島に無理やりICを詰め込んだ結果、あのような構造になったのだろう。
瀬戸内海が朝日を反射する光景をこれでもかと言うほど見せられた。10分という長い間この景色を楽しめたのは、流石世界最大級の橋と言ったところだろうか。
神戸以来に見た立派な港湾の工業地帯。今日も浄化されたガスが煙突から空に向かって発射されている。列車が左側に傾きしばらくすると、人生で2回目の四国上陸である。
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「ご乗車ありがとうございました。間もなく 坂出、坂出 です。お出口は…」
瀬戸大橋の四国側には宇多津という街があるが、分岐の構造上スルーせざるを得ない。なので、少し山を越えた後の坂出が四国最初の停車駅となる。マリンライナーの指定席には初めて座ったが、かなり快適だった。また落ち着いたときに使ってみたいものだ。
坂出に到着。小規模都市にありがちな駅前イオンが見える。その奥に向上や発電所が見えるあたり、坂出市は工業都市なのかもしれない。瀬戸内は、赤穂をはじめとした多くの地域で塩田での塩の生産が盛んであった。おそらくこの街も例に漏れず塩田があり、その跡地に工業地を造成したのだろう。
電車の中で時刻表を繰っていてわかったことだが、どうやら高松方面に向かうと電車の本数が少なくて詰むようだ。となると、松山方面に向かうのが賢明だろう。8:11に観音寺行きの普通があるようなのでホームを変え、乗り継ぎを行う。
朝ラッシュの後半の時間ということもあって人はかなりいる。僕の後ろには電車を待つ人が列をなしていた。
電車が来た。高松から乗っていた人で席は埋まっていたので、しばらくは立つことになりそうだ。車内はクロスシートとロングシートを組み合わせたセミクロスシートだったので、ドア付近にはスペースの余裕があった。
さっきスルーした宇多津、丸亀製麺が1店舗もない丸亀、土讃線と分岐する多度津を経由していく。ちなみに丸亀製麺の第一号店は兵庫県加古川市にあるそうだ。それはさておきこの3駅で大半の人が電車内から消え去った。現在時刻は8:30。高校の始業は8:30、会社も遅くても9:30であるため、大抵の社会人と高校生がここに乗っていたら遅刻していることになる。遅刻と聞くと少しばかり高1の1学期を思い出す。なぜかは触れないでおくが。
クロスシートが空いていたので北側の方に座り、眼前に広がる瀬戸内海を堪能する。地図を見た様子だと海岸寺~詫間では海岸スレスレを走るようなので、数分はこの景色を楽しめそうだ。
日高本線を彷彿とさせるくらいの至近距離から海を眺めていると、隣に芦毛のウマ娘が座ってきた。ん?芦毛のウマ娘…!?
???「よっ、トレピッピ」
思わず「はぁ」というテンプレのようなため息が出る。
『ゴルシ…お前ってやつはな…』
〘黙れば美人、喋ると奇人、走る姿は不沈艦〙でお馴染みのゴールドシップ、香川県は多度津で待望のお出ましである。
『どうしてここに来たんだよ』
ゴルシ「いやー愛しのトレーナーが辞めるって話しをマックちゃんから聞いたモンでさあ?飛行機使って追いかけてきちまったわ」
『その行動力は素直に尊敬するわ、それ以外にツッコミどころが多いけど』
ゴルシ「できるだけ安上がりになるようにしたんだけと、これでも飛行機代と宿代で結構高くついたんだぞ。アタシの財布の中身を補填してくれよ〜」
『勝手に来て交通費を補填しろって横柄にも程があるって』
ゴルシ「アタシが来たのがそこまで気に食わねえかぁ!?」
『落ち着いてって。まずどうやってここまで来たのか教えてほしいんだけど』
ゴルシ「あー、それは太古の昭和96年3月24日、東京都は北多摩郡府中町のトレセン学園で…」
『市町村構成だけ戦前に戻すなよ、あと今は令和だ』
※北多摩郡府中町は現在の府中市の一部です
ゴルシの回想
今日は季節が外れているがうな重うなぎ抜きをたらふく食べたもんであたしゃそりゃあ満足している。今度トレーナーも誘って専門店に連れて行ってやるか。と、ふとマックちゃんとグラスちゃんが話しているのが目に入る。盗み聞きしてやるか。
マックイーン「トレーナーさんが京都大学に進学するということですか?」
トレーナーの奴、京大に行くなんて結構頭切れるんだな。確かにアイツ、トレセン学園内でも安定してテストの上位だったし不思議ではないな。なんだかちと誇らしくなっちまうなぁ。
ん?待てよ、最強のゴルシちゃんなら東京から京都なんて地上に出たセミの余命くらい短く感じるが、トレーナーはただの人間だからそうは行かねぇんじゃねえのか?
トレーナーはここから引っ越しちまうんだ。
まず、トレーナーのコートの胸ポケットに発信機を仕掛ける。これであいつの位置が分かって、あとはゴルシちゃん自慢の足で追いかければイチコロってわけよ☆
あと関係ありそうなチームメンバー全員の財布なりなんなりに発信機を追加してやった。これでチーム全員がどのように動いたているか丸わかりってわけだ。ヒュー、ゴルシちゃん頭いい!
果報は寝て待てって言うしな、普通に過ごして様子を伺っておくか。
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6:00に起床。このぐらいの時間に起きておけばトレーナーとマックちゃんたちの動きを見て動けそうだな。
トレーナーは…新宿か。マックちゃんたちはまだ動いていないみてえだな。まあそのうちチェイスが始まるだろうし、そこを横取りしてやればいっか。
1日中アイツらの位置情報に夢中になっていたら日が沈んちまった。トレーナーが姫路にいるってことが分かったから、早速飛行機で神戸までひとっ飛びしてやんぜ!準備は済んだし羽田空港まで行くぜぇ!
──そこからはテキトーに乗り継いで姫路で泊まって、オメーを追いかけてたって訳だ。」
『最後の方説明雑すぎない?』
ゴルシ「まーまー、米粒みたいな細かいことは気にすんなって!アタシとの仲だろ?」
『法律に若干触れているようなことしてよくそんなこと言えるな』
話しているといつの間にか電車は海岸から離れ、内陸部に入っていた。視界の横を流れるのは田と家と雑木林。牧歌的…という言葉は不適切だろうか。正に程よい「田舎」の空気が漂っている。山に挟まれた景色から左側が開けると、観音寺に到着した。
ゴルシ「ここで降りねーといけねーみていだな」
『次の電車まで5分だからね、少し急ぐよ』
ゴルシ「おうよ!」
乗り換え時間が5分だったため乗り遅れないか心配したが、同じホームで対面乗り換えが出来たので、楽々と行けた。乗る車両はまたまた四国7000系。予讃線ではこの種類がかなりの割合を占めているようだ。
乗客が減って来たおかげでゴルシと転換クロスシートを確保できた。
颯爽と流れていく外の景色をぼんやりと眺めていると、ゴルシが突拍子もない事を言ってきた。
ゴルシ「なあ、情報、欲しくねえか?」
『情報?物にもよるけどあったほうがいいのは確かだな』
ゴルシ「聞いて驚けよ、チーム全員の位置情報を提供してやる」
『…』ゴクッ
なんと有用な情報であろうか。都合が良すぎて怪しいくらいだ。
『どうせギブアンドテイクでしょ?』
ゴルシ「さっすが~、よく分かってんじゃん」
『こっちから何をギブしたらいいんだ』
いくら情報が有用とはいえ、こちらが与えるものとその対価が見合っていなければ意味がない。ゴルシのことだから条件は早食い競争をしろだとか飯をおごれだとかの日常的なものだと思うが。
ゴルシ「アタシと一日付き合え」
『はぇ?』
ゴルシ「今日一日アタシと一緒に行動しろ」
『えらく唐突だな』
ゴルシ「いーだろ、この超絶美少女のゴルシちゃんと一緒にいられるだけ嬉しく思えよ」
『…何か企んでない?』
ゴルシ「んな訳ねーだろ!!ゴルシちゃんはいつも純真無垢だぞ~?」
『分かった、分かったから落ち着いて』
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列車はまた瀬戸内海ギリギリを進んで行く。消波ブロックが海岸の侵食を防ぐために置かれている。これらは「テトラポッド」とよく呼ばれるが、実はそれは商標登録されているらしく、勝手に楽曲やテレビ放映で使用すると怒られるらしい。
山を避けていると日本一の紙の街、四国中央市に入る。一部の高い煙突と、紙が生産されていることを示す白い煙が出ている。伊予三島で観音寺方面への特急を躱し、その後も駅に到着すれば50%くらいの確率で離合をしていた。やはり単線の列車本数の限界に迫っているのだろうか。
ゴルシ「ほらよっ、マックイーンは今岡山と姫路の間辺りにいるみてーだぞ」
ゴルシが見せてきた地図には、3つのマーカーが備前市の東側に立っていた。直線距離はざっと100km強と言ったところだろう。早めに出発したおかげでかなりの距離の差を作ることが出来たようで、内心ホッとしている。
その先、新居浜を経由し列車は終点伊予西条に到着した。さっきからやたらと「伊予〇〇」という駅名が多い気がする。「西条」「三島」という名前の駅はそれぞれ広島県、静岡県にあるため、被らないようにつけたのだろう。伊予西条までは散居村と集村のブレンドのようになっていて、田と住宅が交互に来る風景だった。しかし、出発後は田の割合が随分増えた気がする。
ゴルシ「なあ、しりとりしようぜ」
『ん、まあ良いけど』
ゴルシ「じゃ、ゴルシちゃんのシから」
『シアン化アンモニウム』
ゴルシ「むっつり」
『リバモリウム』
ゴルシ「虫」
『硝酸カリウム』
ゴルシ「無視」
『シーボーギウム』
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15分後…
ゴルシ「無」
『ムスリム』
ゴルシ「オメー何回「ム」を回してきやがんだよ!!」
『知らない、というか同じ文字を何回も回しちゃいけないっていうルールはないでしょ』
ゴルシ「そんなんだから彼女できないんだぞ~?」
『別にできなくて良い』
ゴルシ「まあまあ強がんなって、アタシがなってやるからよ」
『はいはい』
ゴルシ「なんだよその白湯みてーな薄い反応」
『別にいいだろ』
ゴルシ「もっと反応してくれても良いじゃねえか」
『はいはい』
ゴルシ「はいは1回でいいぞ」
『はーい』
ゴルシ「子供かよ」
『そうかもな』
ゴルシ「へっ、意外とかわいいんだな、お前」
『お褒めに与りまして』
しばらくすると山をくぐり抜けタオルで有名な今治に到着した。今治は愛媛県内では松江に次ぐ人口11万の都市。車内にいた多くもない数の人間の半分ほどが入れ替わった。坂出からここまで乗り通している人間は僕を除くとほぼいないということは間違いないだろう。
今治を発つと電車はすぐに高架から地上に降りた。しばらくは市街地が続いていたが〇〇を発つと山と海がこれでもかというほど投げ売られるようになった。三豊~〇〇間は中央構造線断層帯が作り上げた海と少ない平野と目前まで迫る1000mを有に越える高さの山々が同時に見られる神戸もびっくりな光景だった。しかし、今は山は低くなったがその分平野が削られ、国道とともに僅かに残された平たい海岸を走っている。
心なしか離合する頻度も減っている気がする。
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視界が開け、人が電車の中に溜まってくると松山に到着。前に松山に住んでいた友人が「松山駅はまだ自動改札機が導入されていないんだぞ」となぜだか少し自慢気に語っていたのを、ふと思い出した。松山は小さくない…というかむしろ人口51万で、高松と並ぶ四国最大級の都市だ。まさかと思ったが本当らしい。愛媛県はモータリゼーションで1歩先に進んでいて、鉄道が冷遇されているのだろうか。
松山で降り、改札を出ると同時にゴルシの分の運賃を精算することにした。その額なんと6130円。トレーナー時代に理事長から中学生の頃よりこっそり給与をもらっていたが、流石に財布に亀裂が入る。というか入った。
ゴルシ「ワリィな、ここまでの運賃払ってもらって」
『思わぬ出費にも程がある』
ゴルシ「アタシがレースで稼いだ賞金で補填してやるからよ!まあ心配すんなって」
『二言はないな?』
ゴルシ「おぅよ!」
■□■□■
松山駅に入っているコンビニでパンを購入し、食べた。わざわざ家から300km離れた松山に来ているのにコンビニ飯というのは味気ないとは思うが、追われているという状況上豪華な食事を楽しんでいると捕まってしまう。今度来たときは瀬戸内の魚介を味わってみたいものだ。
松山13:02発の普通に乗り、松山を離れる。側線が剥がされて高架化のための準備が行われている現場を通り過ぎると線路が2本に、2本が1本とまとまっていった。市坪までは松山までの市街地が続いていたが、重信川を渡ると途切れた。途中、新入りのバラストと枕木が使われた留置線を見かけた。おそらく松山駅近くから設備を移転したものがここに来ているのだろう。高架化の準備は着々と進んでいるようだ。
実はこの先、予讃線は2手に分かれる。別の路線になるとかそういうわけではない。予讃線そのものが線形の良い新線と線形の悪い旧線の2つに分岐する。現在マックイーンたちは松山駅にいる。しおかぜ7号で追いかけてきたのだろう。この列車には乗っていないため順当に行けば僕を追いかけるために松山13:24発の宇和海15号を使うはずだ。そちら側は直線的な線形をしている新線を経由するが、僕らが乗っている電車は海岸を走る旧線を走る。愛ある伊予灘線とかいう蔑称もとい別称がついているが、電光掲示板では「伊予長浜経由」と書かれるだけで大半の人は気付かない。鉄道に興味のない人間ならなおさらだろう。そしてマックイーン達が新線の方を通っている間に旧線沿いの国道をバスで戻れば、彼女らをかなり突き放すことができる。
そこからは特急なり飛行機なりを使って大阪方面へ戻れば差を広げることができるだろう。作戦実行開始だ。
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平原を走っていた向井原までとは変わり、山と海に囲まれたえらいところに来てしまったようだ。高野川というところみたいだ。聞こえるのは海が岩を擦る音と、鳥のさえずり。そして時たま車が通る音だけだ。時刻表を見た様子、次の汽車は2時間以上ない。まあ知ってて来たのだが。
ゴルシ「緑に囲まれたとこに来たみたいだな」
『乗る予定のバスが来るまであと8分位あるな』
ゴルシ「おう!宝探ししようぜ」
『ここは私有地だからやめとけ』
ゴルシ「わかったよ」
「愛のある伊予灘線」だっけか、の線路より10m程度低いところには国道が通っている。その先は断崖で、その先には波がぶつかり合う海が果ての霞むほど広がっている。マックイーンたちは見事に内子方面へと輸送されている。作戦は順調なようだ。
横断歩道が全く無いためタイミングを見計らって向かいの歩道に渡った。そろそろ朽ちて風に吹き飛ばされそうなコミュニティバスの停まり場の時刻表を見ると、1日3往復しかない。
その貴重なバスがいま来た。地域のコミュニティバスというだけあって小さく、ホテルの送迎で使われていてもおかしくないサイズだった。
ゴルシ「これに乗るのか?スゲー小せえけど」
『まあそんなに乗客は多くないからね』
海岸の市街地の少ないところを走っているだけあって乗客は僕ら2人しかいなかった。左手には海、右手には山。勾配を抑えるためにヘアピンカーブを通らされ、川の作った谷を走っていると伊予市の市街地についた。
■□■□■
伊予市駅に到着。マックイーンたちはまだ内子にいるため、無事成功である。しかし、油断している場合ではない。ここでは特急、各停問わず列車そのものが貴重な存在だ。1本逃しても大丈夫などと悠長なことは言ってられない。宇和海16号の自由席特急券と乗車券を購入し、改札を通る。
やってきた宇和海は自分のような自由席を使うケチな人間に優しいようで、2両中1.5両は自由席だった。
適当な席を選んで座る。さっき通って来た道を100km/hで飛ばし、あっという間に松山についた。
松山に戻ってきた。「空港行き」ときれいなゴシック体の文字が印刷してあるバス停のベンチに座っていると、修学旅行で見かけるようなバスがやってきた。丹の色で鮮やかに塗装されていて、IYOTETUと白く印字してある。
ゴルシ「トレーナー、空港に行くのか?」
『まあ取り敢えずついてこい』
ゴルシ「お、おう。オメーにしては結構男気あるじゃねえか」
空港というのは周辺住民の睡眠妨害をしかねない施設なので、大抵は市街地から遠くに配置される。広島空港は他にも事情はあるがかなり分かりやすい例だろう。しかし、松山空港は市街地に食い込むように配置されていてそこそこ便利である。流石に福岡空港には負けるが。近いのでバスで5分程度でついた。地方都市の空港なのであまり大きくはない、松山空港に到着である。
『これがチケットだ』
ゴルシ「おっ、東京に行くんだな?」
『うん、手荷物検査とかを考慮すると2時間先の便ぐらいが妥当だから。』
海外旅行・遠征の際に飛行機は何回も利用したことがあるが、手荷物検査や手続きというのは面倒くさい。安全のためというのは十条承知で、面倒臭さには理由があるというのは当然なのだが。やっぱり時間がかかって面倒である。
松山空港で待機するというのは大きなロスだが、マックイーン達から距離を取れているため問題ない。今内子から行動しても行けるのは松山駅までだろう。
■□■□■
ゴルシ「トレーナー!!ミカン20kgおごってくれよ」
『人の財布の中身をどれだけ抉れば気が済むんだ』
ゴルシ「良いじゃねえか、細かいこと気にしていると生え際が後退しちゃうぞ」
父は禿げていないが、自分がいざ40,50になって禿げないかは不安である。隔世遺伝とか劣性遺伝子が偶然出会って禿げてしまうとかあるかもしれないから洒落にならない。
時刻を確認すると、15:15である。そろそろ行かないと手荷物検査場が閉鎖されゴルシとともに四国から東京送りになってトレセンに戻されてしまうため、話を切り出そう。
『ん、ちょっとトイレ』
「おう」という掛け声が聞こえたと同時に、2階への階段を登り手荷物検査場へと猛ダッシュ。係の人にギリギリになって申し訳ないが、状況ゆえ仕方がない。リュック1つしかないためあっさりと検査は終わり、搭乗待合室へと通された。
正直に言うとゴルシはマックイーン達と繋がっているのではないかと思ってしまう。チーム全員の位置情報を持っているというのは流石に都合が良すぎるし、ゴルシのことだからなにか企んでいても全く違和感はない。ゴルシに寝返られてしまっては全く抵抗はできないし、辛うじて逃げられても厄介なことになるのは間違いなしだ。
「ANAよりご案内いたします。ANA 大阪伊丹行き 15:40発 1644便は只今、ご利用のお客様皆様を機内へとご案内しております。」
よし、これに乗れば取り敢えず四国から脱出することが出来る。ゴルシが来ていないかを確認し、チケットをかざして搭乗口を突破する。彼女にはちゃんと東京行きのチケットを渡してあるので、女性を一人置いてどっかに言ってしまう薄情な男という図にはならないだろう。
この前見た旅行動画だと松山~大阪間の便はQ4Aとかいうプロペラ機だった気がするが、どうやら当便は通常サイズのものらしい。通路を通り飛行機の中に入っていく。乗客は座席の半分弱を埋める程度いるといったところだろうか。僕が入った直後に扉が閉められ、電子機器は電波が使えなくなった。この飛行機に乗っている間はGPSによる追跡から逃れられるだろう。
優雅な空の旅の始まりである。
■□■□■
なーにが優雅な旅だ、疲れ果てた上に5時起きだったから寝た。起きたら大阪平野の市街地が目に入ったもので驚いた。新大阪駅の真上を通過し、恐怖を感じるような高度で住宅地の上を飛んだ後にすぐさま着陸した。大阪国際空港は利用者が多いがそこまで広いわけではない。なのでエプロンに到達するまでは大して時間はかからなかった。
持ち物はリュックだけなので荷物受け取りスペースはスルーし、出口へ向かう…がトラブル発生。なんだか雰囲気がよろしくない黒服の方がいる。しかも複数。右腕には緑と白で安定のメジロ家の腕章を付けている人ばかりだ。メジロ家の力を見誤っていたようだ。確かにマックイーン以外にもメジロ家には強いウマ娘がたくさんるが、ここまで黒服を雇えるとは。驚いた。
空港内と空港外では境界が敷かれていて、あっちは待ち構えることしかできない能無しである。言い換えるとこちらが空港内に閉じ込められているということだが。空港から出ることができないため、別の空港に行くことにする。
「ANAよりご案内いたします。ANA 福岡行き 17:10発 737便は只今よりご搭乗のご案内を開始いたします。」
乗り継ぎで福岡に行く。交通機関が充実している都市かつ、大阪から飛行機が飛んでいるのは福岡と東京くらいだろう。東京はトレセン学園に近く、待ち伏せのリスクが非常に大きいためナシである。よって、自動的に福岡に行くのが最適となる…はずである。自分でもよくわからない。
松山から大阪に行って福岡に行くという飛行機で東西に反復横とびをするというなかなか頭のネジが融けてなくなったようなことをしているが、逃げるためにはこれしかなかったから致し方なし。
大変おまたせしました。四国のことが全くと言っていい程分からないのでペンが進まずこんなに遅くなってしまいました。次は早く投稿できるよう努めます