GetBackers -奪還屋- Parallel Universe   作:世紀末ドクター

10 / 12
第十話『幽霊の少女』

 ―――彼女、相坂さよは幽霊である。

 

 自分の死因も思い出せないが、すでに60年も麻帆良学園の教室で地縛霊を続けている。

 だが、どうやら自分には幽霊としての才能はあまり無いらしい。全く人に気付いてもらえないのだ。

 誰かに気付いて貰いたい。お友達が欲しい。お話がしたい。普通の人間にとって当然のそれが、彼女にとっては余りにも遠い。

 おまけに幽霊のくせに怖がりで、夜の教室にいるのが怖いからコンビニやファミレスに通う始末である。

 そして、その日もコンビニで夜を明かし、そろそろ教室に戻ろうとした時のことだった。

 

 

(―――えっ!?)

 

 

 一瞬、何かの間違いかと思った。

 その時、コンビニに入って来た三人組。

 その三人の中の一人。ツンツンしたウニのような髪型をした男の人。その人と明らかに目が合った。

 彼女の止まっていた時間は、この瞬間から動き出したのであった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 蛮たちが立ち寄ったコンビニ。

 そこで彼女の存在に真っ先に気付いたのは蛮だった。

 彼の両目は『邪眼』と呼ばれる特別製であり、だからこそ気付くことが出来た。

 

 

(なんつー影の薄い…)

 

 

 蛮の目に映るのはセーラー服を着た白い少女。

 それがこの世のものではないことは、蛮には一目見て分かった。

 別に嫌な気配は全く感じないし、悪霊などといったものではなさそうだ。

 しかしながら、その隠密性たるや尋常ではない。蛮の『邪眼』だからこそ何とか認識することが出来るが、普通の人間には絶対に見えないだろう。

 立ち止まったまま、しばらく少女のことを観察していた蛮。しかし、蛮の視線の先にマリーアと銀次は怪訝な顔をする。

 

 

「どうしたの、蛮ちゃん?」

 

「さっきから何も無いところを見てるけど…」

 

 

 どうやら銀次とマリーアにも見えないらしい。

 二人に訊かれた蛮は、一体どうしたものかと少しだけ思案する。

 

 

(別にわざわざ関わる義理もねえんだがな…)

 

 

 正直、これ以上の面倒事に関わるのは遠慮したいところだ。

 このまま無視してしまおうかと蛮が考えた時、どうやら向こうがこちら側に気付いたらしい。

 

 

『あ、あの! 私のことが見えるんですか!?』

 

 

 蛮の元へと駆け寄ってくる白い少女。

 最初は無視してしまおうと考えていた蛮だったが、その気は失せた。

 何故ならその少女が、まるで助けを求めるかのような悲愴な顔をしていたから。

 

 

(仕方ねえな…)

 

 

 蛮は頭の後ろをガシガシと掻く。

 正直、今回も面倒事の臭いがプンプンする。

 だが、こんな悲愴な顔をした女の子を無視することは流石の蛮にも出来なかった。

 蛮は仕方なさげに白い少女の幽霊に応じる。

 

 

「ああ、見えてるぜ」

 

『!!』

 

 

 初めて自分という存在に気付いてくれた男の人。

 そんな存在が突然現れてくれたことに幽霊の少女は信じられないという顔をする。

 

 

「それで、テメェは何者だ? 仮に俺らに取り憑こうとしてる悪霊だってなら遠慮なくあの世に送り返すぞ?」

 

『あ、悪霊なんてとんでもないです! 私はただのしがない地縛霊です!』

 

 

 蛮の質問に、彼女は慌てて否定する。

 幽霊の少女と言葉を交わす蛮だったが、問題は蛮以外の者には彼女の姿が見えていないということである。

 

 

「蛮ちゃんが、おかしくなった!?」

 

 

 何気に酷い言い草の銀次である。

 しかしながら、虚空を見ながら会話する蛮は、客観的には危ない人にしか見えない。それを考えれば、銀次のこういう反応も無理はない。

 もっとも魔術というオカルトの世界の住人であるマリーアの反応は、銀次とは違っていた。

 

 

「私の目には見えないけど、やっぱりそこに居るの?」

 

「ああ、別に悪霊って訳じゃなさそうだがな」

 

 

 これが悪霊だったなら『蛇遣い座(アスクレピオス)』の力を使ってでも、あの世に送り返すつもりだった。

 さすがこの男、相手が女であっても敵ならば一切容赦しない。この辺りは銀次とは明確に違う所だろう。

 

 

「ふぅん…?」

 

 

 マリーアはバッグから古めかしい丸眼鏡を取り出す。

 霊視の術を仕込んだその眼鏡を通して見てみると、なるほど、確かにそこには白い少女の姿が映っていた。

 

 

「あら本当、女の子だったのね」

 

 

 そして、当然と言うべきか、マリーアが口にした「女の子」という単語に銀次が反応する。

 マリーアから眼鏡を借りて覗いてみる銀次。

 

 

「あ、本当だ。しかも、かなり可愛いし!」

 

 

 少女の姿をみた銀次は率直な感想をもらす。

 実際、容姿的なことを言うなら世間一般で言うところの美少女の範疇には十分入る。

 

 

『あ、あの…?』

 

 

 おずおずと遠慮がちに蛮に話し掛ける幽霊の少女。

 しかし、その声が聞こえているのは蛮だけで、マリーアと銀次には彼女の声は聞こえていないようだ。

 

 

(声が聞こえてるのは俺だけか…)

 

 

 これは所謂、霊感が強いという奴なのだろうか。

 あるいは単純に個人の波長や相性の問題なのかもしれないが。

 

 

「あー…、とりあえず名前を教えてくれるか?」

 

 

 蛮は心底面倒くさいという風に幽霊の少女に問い掛ける。

 問われた少女は、まるで縋るような表情で自分の名前を名乗った。

 

 

『さ、さよです! 相坂さよ!』

 

「相坂さよ、ね…。とりあえずは俺らについて来な。力になれるかは分からねえが、話くらいは聞いてやるぜ」

 

 

 少女の名前を確認した蛮は、ひとまず場所を移動することにする。

 早朝で人通りが少ないとはいえ、何もない虚空に向かって会話するという絵面を誰かに見られるのは少々気まずい。

 とりあえずコンビニで朝食を確保した一行は、世界樹前広場の公園へと移動した。公園へと移動する途中、彼女の事情を軽く聞いたが、何でも彼女は60年も麻帆良学園で地縛霊として存在しているらしい。

 

 

(つまり、60年もコイツは一人だったわけか…)

 

 

 誰にも気付いてもらえず、誰とも触れ合うこともなく、ただそこに存在するだけの少女。

 一体それはどれだけの孤独だったのか。蛮を通して彼女の事情を聞いた銀次とマリーアも、彼女の境遇には同情的である。

 

 

「60年もかぁ…」

 

「よくも気が狂わなかったものね…」

 

 

 流石に60年という歳月はいかにも長い。

 マリーアは100歳という年月を重ねた魔女であるが、彼女もそんな孤独は経験したことが無い。

 普通の人間なら発狂してもおかしくない境遇である。あるいは幽霊という死後不変の存在だからこそ狂うことなく耐えられたのかもしれないが。

 

 

『60年間どんな霊能者さんでも私が見えなかったんですけど、美堂さんには私が見えたんですね!』

 

「ああ、俺の『眼』はちょっとした特別製でな。だから、お前のことも視えたのかもな」

 

 

 そう言って蛮は自分の『邪眼』のことを説明する。

 もっとも説明したのは蛮の両眼がいわゆる『魔眼』の一種に分類される特別なものであるということだけだ。

 邪眼の真の能力とも言うべき、相手に1分間の幻影を見せるという力については話してはいない。

 しかし、それでも話を聞いたさよは蛮を期待に満ちた目で見る。

 

 

(幽霊のくせに全然怖くねえし、やたらとコロコロ表情を変えやがるな、コイツ…)

 

 

 蛮は内心でそう思った。

 別にそれが悪いとは言わないが、幽霊としては何かが間違っているような気がしないでもない。

 そんなこんなで会話が進むうちに蛮は彼女にこれからどうしたいかと訊ねてみた。

 

 

『私、お友達が欲しいんです!!』

 

 

 どうやら彼女は60年間誰にも気づいてもらえず、かなり寂しい思いをしたらしい。

 正直、蛮としては余計なモノを背負い込むようなことは余りしたくないのだが、銀次の方は別である。

 案の定、蛮を通して彼女の事情を聞いた銀次が真っ先に反応する。

 

 

「オレなら全然良いよ!」

 

「私も良いわよー」

 

 

 銀次とマリーアならこう言うことは蛮には分かっていた。

 だから、蛮は二人の反応に少しだけ「やれやれ」と思いながらも、さよに向けて言葉を返す。

 

 

「…って、わけだ。テメェと友達になってくれる奴がここに二人…いや、三人は居るらしいぜ?」

 

『え…? 三人ってことは…』

 

 

 二人ではなく、三人。

 少し遠回しな言い方だったが、さよにも蛮の言葉の意味は分かった。

 そして、そんな蛮の遠回しの言い方に、マリーアの方はニヤニヤと口元を笑わせている。

 

 

「クスッ、随分と遠回しな言い方ね。蛮」

 

「まあ、蛮ちゃんは素直じゃないからね!」

 

「うるせーよ」

 

 

 そう言って、蛮はゴツンと銀次の頭を軽く小突いた。

 三人とも幽霊なんて得体の知れないものを相手にしているというのに、無理をしているような様子もなく全くの自然体。

 そんな風に『当たり前』に受け入れてくれたことが、さよにとっては涙が出そうになるほど嬉しかった。

 

 

『う、嬉しいです…』

 

 

 さよは感激のあまり涙ぐむ。

 だが、現状、素の状態だと彼女のことを認識できるのは、この中では蛮だけである。

 マリーアも銀次も彼女の友人となることを快諾してはくれたが、いちいち蛮を通してでないと会話もままならない。

 その上、彼女自身は、麻帆良学園という場所に括られた地縛霊であるため、学園の外には出られないのだという。

 それらの問題をどうに出来ないだろうか。とりあえず蛮はそういうのが一番得意そうなマリーアに訊ねてみる。

 

 

「マリーア、とりあえずコイツの姿と声を俺以外にも認識できるように出来ねえ?」

 

「そうねえ。特殊な結界でも作って、その範囲内だけで良いなら出来ると思うわよ?」

 

 

 マリーアはタロットカードを取り出すと、それらをまるで手裏剣か何かのように四方に向けて投げる。

 投げられたカードが地面に突き刺さり、それらのカードを起点に何かの術を発動させるマリーア。すると―――

 

 

「うわっ!」

 

 

 突如としてその場に現れる少女の姿に一瞬驚いた反応を見せる銀次。

 その反応から自分の姿が蛮だけでなく、銀次とマリーアたちにも見えるようになっていることに気付く。

 

 

『も、もしかして見えてます?』

 

「ばっちり見えてるよ!」

 

 

 さすがは無限城世界において最高レベルの魔術師だけのことはある。

 蛮自身、戦闘力という面においてはマリーアの遥か上を行っている自信はある。

 しかし、こういった器用さ・技能の多彩さにかけては、蛮や銀次ではマリーアには到底敵わないだろう。

 

 

「こういうのは流石だな、マリーア」

 

「フフッ、まあね」

 

 

 フフン、と得意げな笑みを浮かべるマリーア。

 姿が見えるようになったさよの周りではしゃいでいる銀次。

 とんでもなく気軽な様子のマリーア達だが、さよ本人からしたらまるで天地がひっくり返ったかのような衝撃だった。

 まるでヒーローのように突然に現れて、ずっと悲しんでいたことをあっという間に解決してくれたのだから。

 正直、突然の事態に感情の動きが追い付いていない。

 

 

『み、皆さんは一体…? こんなことが出来るなんて…』

 

 

 さよにとっては当然の疑問と混乱。

 そんな彼女の混乱を楽しむように、マリーアはしなやかな指をさよの唇にすべらせる。

 見えるだけでなく、触れることすら出来ている。その状況に幽霊の少女は、またしても言葉を失う。

 

 

『(え…?)』

 

 

 少女の唇に触れていた指をスッと離すマリーア。

 

 

「ちょっとお節介な『魔法使い』と『奪還屋』よ。他言無用、約束ね?」

 

 

 そう言って、マリーアは微笑んだ。

 いかにも冗談めかした言い方で、唇に指をあてて他言無用の仕草をしながら。

 唇に押し当てられた指の感触、冗談めかしたイタズラっ子みたいなその表情。それらの全てがいちいちさよを魅了する。

 秘密を着飾った大人な女性。さよがこれまでに出会ったことが無いタイプの女性で、その魅力にはどうしようもないほど強く惹きつけられた。

 

 

『わ、わかりました! 約束ですね!』

 

 

 感激のあまり、思わずさよは最敬礼の姿勢で返答してしまう。

 そんな彼女らの様子を、銀次は微笑ましげに見つめている。

 蛮はそんな彼らを見てふっと小さく笑ってみせたあと、マリーア達に向けて言った。

 

 

「つーか、ひとまずは帰ろうぜ。俺もいい加減に少し眠いんでな」

 

 

 ひとまず自分たちの拠点に戻ることを提案する蛮。

 

 

「え~? せっかく友達になったんだから、オレとしてはもっと色々おしゃべりしたいんだけどな~?」

 

 

 蛮の言葉に不平を漏らす銀次。

 だが、実際問題として、これ以上この公園に長居してさよのことが人目につくと少しまずい。

 今は早朝で人通りも居ないから良いが、時間が経てば人目に触れる可能性は飛躍的に高まるだろう。

 しかし、そんな蛮の懸念に対して、銀次は気軽に言う。

 

 

「だったら、さよちゃんがオレらと一緒に来たらいいんじゃん? オレらが住んでるところなら、人目なんて気にする必要ないし!」

 

「アホか。コイツは学園に括られた地縛霊って言ってただろうが? 俺らが住んでるところはギリギリ学園の範囲外―――いや、範囲内だったか?」

 

 

 よくよく考えてみると、蛮達が現在暮らしている住居は学園内外の境界の微妙なラインに立地している。

 先程の話では地縛霊であるさよは学園から離れられないということだったが、もしかしたらギリギリ連れて行けるかもしれない。

 実際に試してみないと何とも言えないが―――

 

 

「っつーわけだが、試しに俺らと一緒に来てみるか?」

 

 

 蛮は少し考えた後、さよに訊ねてみた。

 要するに、自分達の住んでいるところに遊びに来ないか、というお誘いである。

 蛮の言葉の意味するところを理解したさよは、顔をぱあっと明るくさせる。

 

 

『は、はい! 是非!』

 

「言っとくが、駄目だったとしてもガッカリするなよ?」

 

 

 さよに一応の釘を刺して置く蛮。

 期待させるだけ期待させて、それが叶えられないという期待外れになる可能性もゼロではないからだ。

 蛮に釘を刺されたことでさよの表情が少し曇る。

 

 

『そ、そうですよね…』

 

「まあ、そんな心配すんな。仮に今回が無理でも、そのうちになんとかしてやるさ」

 

 

 そう言って、蛮は不敵に笑う。

 見た者に、自信と頼もしさを感じさせるその笑みは、彼女の不安を払拭するのに十分なものだった。

 これまで誰にも見つけてくれなかった自分を見つけてくれて、受け入れてくれた男の人。だから、蛮の「なんとかしてやる」という言葉を信じられた。

 

 

『はい!』

 

 

 期待に満ちたさよの眼差し。

 さっき、期待し過ぎるなと釘を刺したばかりだというのにこれである。

 蛮としてはその期待に満ちた眼差しに内心で少し苦笑いしてしまうが、決して悪い気分ではない。むしろ微笑ましさを感じるくらいだった。

 蛮はさよ達に見えないように小さく笑った後、他のメンバーに声を掛けた。

 

 

「さて、そんじゃ帰ろうぜ」

 

 

 そうして、彼らはさよを引き連れて自分達の拠点への帰路についたのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 さよを引き連れて帰宅した一行。

 そして、結論から言えば、さよにとっても今回は別に期待外れにならずに済んだ。

 蛮達が拠点にしている住居にさよがあっさり入ることが出来た時は拍子抜けしてしまったくらいである。

 現在、マリーアが拠点に展開した術によって、この家の中に限ってはさよは実体化した姿を保っていられるようになっていた。

 そして、帰宅した彼らが何をやっているかと言えば、全員揃ってTVゲームに興じていた。

 

 

『あっ!じゃあ今度はこれで遊んでみたいです!』

 

 

 適当なゲームをいくつか遊んだ後に彼女が選んだゲーム。

 よりによって、そのゲームは『AC北斗の拳』。そのゲームを見た瞬間、銀次とマリーアの二人の顔が引き攣った。

 ただ一人、蛮だけが野獣のごとき眼光を湛えている。

 

 

「―――良いのか? 全力でやるぞ?」

 

『え?』

 

 

 さよの戸惑いを余所に、蛮はコントローラーを操作しカーソルを移動させる。

 カーソルの移動に合わせて、『ジョイン! ジョイン!』という音がする。

 そして、決定ボタンが押された時、さよの耳には外国人のようなイントネーションでこう聞こえた。

 

 ―――『トキィ!』

 

 事情を知っている者はこの時点で、蛮の容赦のなさにドン引きしているだろう。

 よりによって蛮が選択したキャラは、北斗4兄弟の次兄トキ。白い長髪に無精髭、痩せこけた頬。かのキリストを思わせるかのような外見。

 原作漫画においては、屈指の人格者として知られ、放射能汚染により余命幾許もないという設定のキャラであるが、このゲームにおいては事情が異なる。

 このゲームにおいての彼は格闘ゲーム史上トップクラスといっても良いほど理不尽な強さを誇るプレイヤーキャラとして知られている。一応病人であるはずだが、どう見ても病人とは思えない動きと強さから、「剛の拳よりもストロングな柔の拳」「あれはトキじゃないアミバだ」「放射線じゃなくてガンマ線を浴びた」「放射能を浴びる前のトキ」等と言われているのだ。

 余りにも大人げない蛮のキャラ選択に内心ドン引きの銀次とマリーア。

 かくして対戦が始まったのだが―――

 

 デデデデザタイムオブレトビューションバトーワンデッサイダデステニーナギッペシペシナギッペシペシハァーンナギッハァーン

 テンショーヒャクレツナギッカクゴォナギッナギッナギッフゥハァナギッゲキリュウニゲキリュウニミヲマカセドウカナギッカクゴーハァーテンショウヒャクレツケン

 ナギッハアアアアキィーンホクトウジョウダンジンケンK.O. イノチハナゲステルモノ

 バトートゥーデッサイダデステニー セッカッコーハアアアアキィーン テーレッテーホクトウジョーハガンケンハァーン

 FATAL K.O. セメテイタミヲシラズニヤスラカニシヌガヨイ ウィーントキィ (パーフェクト) 

 

 ―――この間わずか40秒。

 

 さよのジャギが何も出来ずに蛮のトキに屠られた。

 AC北斗の拳ではよくある光景だが、知らない者が見ればカルチャーショックだろう。

 

 

『わ、私の。私のジャギが………何も出来ずに……』

 

 

 何が起こったのかすら分からず、呆然とするさよ。

 それから何回か対戦が続けられたが、いずれも格闘ゲームの常識を超えた光景を見せつけられることになる。

 

 

『(いつまで続くんだろう、このコンボ…)』

 

 

 無論、死ぬまでである。

 延々と地面を跳ね続ける『バスケ』と呼ばれるコンボ。ガーキャンから即死。投げから即死。小足から即死。ムテキング。

 ストリートファイターなどといったメジャーな格闘ゲームの常識を遥かに逸脱した光景を見たさよは恐る恐るという風に訊ねてみた。

 

 

『これは格闘ゲームとしてはどうなんですか…?』

 

「世紀末だから仕方ねえんじゃねえの?」

 

 

 世紀末だから、の一言であっさりとスルーされるさよの疑問。

 そこでメンバーの中で唯一の良心ともいえる銀次が慌てて止めに入る。

 

 

「ちちちち、ちょっと待って! 主役のさよちゃんが呆然としてるから他のゲームにしよう! 格闘ゲーム禁止!!」

 

「何言ってんだ、銀次? 北斗は格ゲーじゃなくて、『世紀末スポーツアクションゲーム』だろ?」

 

「蛮ちゃん、そういう問題じゃないから!!」

 

「仕方ねえなぁ。じゃあ『戦国BASARA X』を―――」

 

「やめて! そっちも似たり寄ったりの『戦国陸上』じゃん!?」

 

 

 漫才のような蛮と銀次の掛け合いが始まる。

 マリーアはそんな二人の掛け合いを一歩引いた位置で見守っていたが、ふとさよの方を見た。

 しかし、彼女の方を見たとき、思わずマリーアはギョッとしてしまった。

 

 

『―――グスッ』

 

 

 さよがボロボロに涙を流しながら泣いていたのだから。

 さっきの『北斗の拳』の対戦で、蛮のトキにボコボコに作業されたことが原因かと思ったが、そうではないらしい。

 

 

『ううん、ごめんなさい、マリーアさん。嫌な訳じゃないんです。むしろ逆で…』

 

 

 涙を拭いながらさよは言葉を続ける。

 悲しくはない。悲しくなんてないのに涙が止まらない。

 

 

『友だちと一緒に、皆でワイワイやるのって―――やっぱり、楽しいなぁって。本気で遊んで、時々喧嘩もして。そういうの、ずっと憧れてましたから…』

 

 

 そして、絞り出すような小さな声で、夢みたい、と告げられる。

 一瞬、マリーアは彼女に何と声を掛けて良いのか分からなかった。

 60年の孤独が彼女にとってどのようなものだったのかは、きっと彼女自身にしか分からない。

 この子のために自分が出来る限りのことをしてやりたい。彼女の涙を見て、マリーアはそう思ったし、それは蛮と銀次も同じだろう。

 

 

「だったら、気が向いたらここに遊びにいらっしゃい。貴女ならいつでも歓迎するわ」

 

「そうだな。手が空いてる時なら、俺らが遊び相手になってやるさ。特に銀次の奴はそうだろうぜ」

 

「オレとしては、ずっと居てもらっても構わないくらいだけどね~。我が家のマスコットみたいな感じでさ!」

 

 

 蛮と銀次の二人もマリーアの言葉に付け加える。

 それらはさよにとって、一番欲しかった言葉であったに違いない。

 そして、この日以来、彼女が夜に通う場所はコンビニやファミレスではなくなったのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。