GetBackers -奪還屋- Parallel Universe   作:世紀末ドクター

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第十二話『桜通りの吸血鬼』

 

 

 新年度の始まりとなる4月となった。

 蛮たちがこちらに飛ばされてから、そろそろ2~3か月くらいが経つ。

 そもそも彼らがこちらの世界に残った最大の理由は、一緒に飛ばされたと思われる『神の記述』のカードの捜索のためだった。

 しかし、現実の話として、彼らは未だに手掛かりすら掴めないでいた。

 

 

「いまだに全く手掛かりは無しか…」

 

「私の魔術でも全く見つけられないなんて…」

 

 

 余りの進展の無さに蛮とマリーアの二人がぼやいている。

 はっきり言って、すぐに見つかると舐めていたと言わざるを得ない。

 …というか、ここまで探しても見つからないとなると、探し方を根本的に考え直した方が良いかもしれない。

 あるいは学園の魔法教師・魔法生徒の連中に事情を説明して本格的に協力してもらうことも視野に検討するべきなのかもしれないが、今の時点では結論は下せなかった。

 

 

(ホント、どうすっかねえ…?)

 

 

 一体どうしたものかと頭を悩ませる蛮とマリーア。

 そして、そんな蛮とマリーアとは対照的に、お気楽極楽にTVゲームに興じている相坂さよと銀次の二人。

 しかし、TV画面の中で繰り広げられている光景がさっきから明らかにおかしい。

 

 ジョインジョインジョインジャギィデデデデザタイムオブレトビューションバトーワンデッサイダデステニーヒャッハーペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッヒャッハー ヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒ ヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒK.O. カテバイイ

 バトートゥーデッサイダデステニー ペシッヒャッハーバカメ ペシッホクトセンジュサツコイツハドウダァホクトセンジュサツコノオレノカオヨリミニククヤケタダレロ ヘェッヘヘドウダクヤシイカ ハハハハハ

 FATAL K.O. マダマダヒヨッコダァ ウィーンジャギィ (パーフェクト) 

 

 それは赤いジャギがトキに何もさせずに圧勝する光景であった。

 とてもジャギとは思えない圧倒的な動きと強さを見せつけられた対戦相手である銀次は持っていたコントローラーを床に叩き付けて叫ぶ。

 

 

「このジャギ絶対おかしいよ!?」

 

 

 世紀末スポーツアクションゲーム『AC北斗の拳』におけるジャギとトキ。

 実はこのキャラ同士の対戦は、ダイヤグラムでは8:2でジャギが不利と言われている。

 そんな凄まじい不利をひっくり返して圧勝を決めてのけるとは、この少女、一体どれだけこのゲームをやり込んだのだろうか。

 出会って以来、蛮達が拠点にしているこの家に入り浸るようになった幽霊の少女。銀次に圧勝した彼女は「ドヤッ!」と得意気な表情を浮かべている。

 とりあえず考え事を中断した蛮は、少し呆れ気味に銀次に声を掛けることにした。

 

 

「…ったく、ジャギ相手にトキで負けてんじゃねえよ」

 

「いや、蛮ちゃん! さよちゃんのジャギはジャギじゃないから! 蛮ちゃんだって、こないだユダで負けてたじゃん!!」

 

「あーあー聞こえねー! 一体何のことだか分からねえな!?」

 

 

 わざと大げさに聞こえない振りをする蛮。

 蛮の中でもユダでジャギに負けたことは、ある意味、忘れ去りたい過去だった。

 本来、ユダとジャギの対戦は9:1でユダ有利と言われており、普通なら対戦自体が成立しないレベルの差があるはずなのだ。

 そんな並み居る強キャラ達を相手に最弱キャラであるジャギでほぼ互角に渡り合い、勝率4~5割をキープする。どう控えめに言っても、異常である。

 

 

『ふっふっふ、私のジャギは一味違いますよ?』

 

 

 そう言って彼女はニヤリと悪そうな顔を浮かべる。

 コロコロと色々な表情を見せる彼女は、蛮達の妹分あるいはマスコット的な立場に収まっていた。

 ほのぼのとするやり取りを続ける三人をマリーアは一歩引いた位置から微笑ましく見守っている。

 そして、そんな彼女の視線にふと気付いたさよがマリーアへ声を掛ける。

 

 

『…? どうかしたんですか、マリーアさん』

 

「ああ、何でもないわ。アナタ達があんまり楽しそうに見えたものだから、つい見入ってただけ」

 

 

 穏やかな表情で答えるマリーア。

 正直なことを言うと、最初は自分達の用事を片付けたらさっさと元の世界に帰るつもりだった。

 だが、こちらの世界で暮らすうちに出来た他者との繋がり。たとえ、いつか自分達が元の世界に戻ったとしても、それらの繋がりを無駄にはしたくはなかった。

 だから、自分達が元の世界に戻るまでに自分達が残せるモノがあるなら、残せるだけ残しておきたいとマリーアは思う。この幽霊の少女のこともそうだが、この学園には傍から見ていて危なっかしい者がやたら多くて、ついつい手を差し伸べたくなってしまう。

 そんな少しばかり危なっかしい面々―――その中でも最も幼い少年のことを思い出して、マリーアは少しだけ軽い溜め息を吐いた。

 

 

(あの年齢で、あの子の将来を縛り付けるのもどうかと思うけどね…)

 

 

 かつての大戦の英雄の息子である少年。

 学園側もあの子の将来に期待しているのは良く分かるし、あの子自身にも才能は十分ある。

 マリーアにしてみれば、ネギという少年は最初から英雄になるべくして育てられている。学園で起こる出来事の殆どが、あの少年のために仕組まれているように見えるのだ。

 そして、おそらくは現在、噂になっている吸血鬼事件についてもそうだろう。

 

 

 ――桜通りの吸血鬼――

 

 

 数ヶ月前から囁かれ始めた噂の一つ。

 満月の夜、麻帆良学園学生寮の近くにある桜並木に『吸血鬼』が出るという噂だ。

 実際にその吸血鬼に襲われたのか、満月の日の翌朝に桜並木の近くで倒れていた生徒がいるらしく、ほんの少しだが真実味を帯びている。

 …というか、主だった魔法教師や魔法生徒にとっては事件の犯人などもはや公然の秘密状態だ。

 

 

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 

 

 数百年の時を生きる真祖の吸血鬼であり、蛮たちがこのセカイに飛ばされたときに最初に出会った人物。

 登校地獄というふざけた呪いにより、永遠に魔帆良学園に通わなくてはならず、しかも現在はネギの担任するクラスに在籍しているという。

 学園長からは「目立った実害が無いなら放置で問題ない」とは言われてはいるが、彼女がネギを狙って何かを企んでいるのは間違いない。

 もっとも―――

 

 

(おそらく、彼女自身はネギ君に対してはそれほど酷いことはしないはず…)

 

 

 以前に彼女自身と少し話してみた印象からの判断だが、おそらくそれは間違いない。

 だが、何故かマリーアは今回の事件に関して、妙な胸騒ぎを感じている。そして、それを感じているのはマリーアだけでなく、蛮と銀次の方もそうだった。

 正直、彼らが一番気にしているのは、図書館島の地下に一度だけ現れたという人物のことだ。実際に彼らが見たわけではないが、その場に残されたドラゴンの死体の状況を見ただけで、その人物の圧倒的な実力の程が分かる。

 そして、その人物についての情報は、あれ以来プッツリと途切れたままだ。

 しかし、それでも彼らには確信にも似た予感がある。

 

 

 ―――その人物は必ずもう一度、現れる。

 

 

 それが一体いつなのかは分からないが、そう遠くない未来ではない。

 その未来が今回のエヴァンジェリンが起こす事件を切っ掛けにするのかどうかは分からないが、もしも本当に現れるのなら蛮たちも関わらない訳にはいかないだろう。

 

 

(けど、本当に『雷帝』だったらどうなることやら…)

 

 

 最悪、真っ向から戦うことも視野に入れなければならない。

 こちらも、それを想定した上でそれなりの準備はしたつもりだが、どこまで想定通りに進むかは誰にも分らない。

 そして、結果的には、彼ら3人が感じていた胸騒ぎは見事に的中することになるのだった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 月光に照らし出された桜通り。

 そこには空中から見下ろす少女の視線があった。

 

 

「27番、宮崎のどか、か……。悪いけど少しだけその血を分けてもらうよ」

 

 

 黒マントを纏った何者かに夜空から襲われる宮崎のどか。

 そして、月夜に彼女の悲鳴が響くのと、魔力の気配を感じたネギが駆けつけたのは、ほぼ同時だった。

 

 

「僕の生徒に何をするんですかーっ!」

 

 

 ネギは今まさに自分の生徒を襲わんとしている影に向かって飛んでいった。

 そして、彼はネギは現場に到着すると同時に呪文を完成させ、のどかを襲った黒マントの人物へと魔法を放つ。

 

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル。風の精霊11人、縛鎖となって敵を捕らえろ(ウンデキム・スピリトゥス・アエリアーレス・ウィンクルム・ファクティ・イニミクム・カプテント)。魔法の射手・戒めの風矢(サギタ・マギカ・アエール・カプトゥーラエ)!!」

 

 

 ネギが魔法で放ったのは捕縛属性を持つ風の矢。

 

 

「氷盾(レフレクシオー)」

 

 

 とんがり帽子と黒マントを纏った謎の人物はなにやら液体が入ったフラスコを投げつけた。

 すると、その人物の前に大きな氷の盾が現れ、ネギの放った攻撃魔法はすべて弾き飛ばされた。

 氷の盾と風の矢は激突し、お互いを打ち消し、爆発のような衝撃と煙を残して消え去った。

 

 

「ぼ、僕の魔法を全部はね返すなんて!?」

 

 

 ネギは驚愕した。

 この事件は魔法使いによるものだったのだ。

 

 

「驚いたぞ、すさまじい魔力だな」

 

 

 謎の人物はネギを賞賛する。

 魔法の余波でその人物の帽子が吹き飛び素顔が現れた。

 

 

「えっ!? き、君はウチのクラスの…、エヴァンジェリンさん!?」

 

「新学期に入ったことだし、改めてご挨拶と行こうか。ネギ・スプリングフィールド先生。10歳にしてこの力…。流石に奴の息子なだけはある」

 

 

 ネギは自分の父のことを言われて動揺したが、なんとか目の前の人物に意識を集中した。

 気になるキーワードではあったが、それを問いただすのは後回しだ。

 

 

「どうして……どうしてこんなことをするんですか!? 魔法使いは人の幸せのために働くものでしょう!?」

 

「甘いね、ぼーや。世の中には良い魔法使いと悪い魔法使いがいるんだよ!」

 

 

 エヴァンジェリンはフラスコと試験管を構えた。

 

 

「氷結・武装解除(フリーゲランス・エクサルマティオー)!!」

 

 

 彼女は呪文を唱え、フラスコと試験管を投げつけた

 月光に煌き、夜空に放物線を描きながら落ちてくる魔法薬のビンの数はおよそ10以上。

 しかし、すべてを凍らせ砕く氷の波動は、突然の乱入者の放った『雷』によって全て阻まれた。

 

 

「「なっ!?」」

 

 

 驚愕したのはエヴァンジェリンとネギの両方だ。

 その人物は瞬間的にネギを守るように間に割って入り、放った雷撃が氷の全てを一瞬で蒸発させていた。

 

 

「これで貰った名前の借りは返したぞ? ネギ・スプリングフィールド」

 

 

 そう言って、振り返った少女にネギは覚えがあった。

 眼鏡こそ外しているが麻帆良の制服に身を包んだ姿形は、確かにネギのクラスの生徒である長谷川千雨のものだ。

 だが、普段の彼女とはまるで違う、その険しく射るような眼光を帯びた金色の瞳は―――

 

 

「…長谷川、千雨か? いや、違うな。何者だ、貴様は?」

 

 

 エヴァンジェリンも眼前の人物が普段の彼女とは別人だということを見抜いた。

 そして、千雨の姿をした少女は、エヴァンジェリンへ改めて向き直ると、言った。

 

 

「お察しの通り、俺と千雨は別人だ。はじめましてと言っておこうか、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。本来はこんなお子様先生を助ける義務なんて無いんだがな。一度だけ助けると言った手前、今回だけは手を出させてもらう」

 

 

 どう聞いてもネギの代わりにエヴァと戦うつもりの台詞。

 しかし、その次に彼女は、ネギとエヴァが全く予想していなかった行動に出た。

 

 

「ぶふぉッ!?」

 

 

 なんと彼女は後ろに居たネギを蹴り飛ばしたのだ。

 恐ろしく美しいフォームで繰り出された右の後ろ廻し蹴り。

 その蹴りは綺麗にネギの顎を直撃し、脳を揺らされたネギは意識を失ってその場に倒れた。

 

 

「味方じゃなかったのか!?」

 

 

 困惑するようなエヴァの表情。

 ちょうどその時、近衛木乃香と神楽坂明日菜が駆け寄ってくる。

 

 

「何や、今の音!?」

 

「あっ、ネギ! それに本屋ちゃんも!」

 

「くっ…、人が集まってきたな」

 

 

 人が集まってきたことで、ハッと我に返ったエヴァンジェリンは人目を避けるために霧の中へ逃げていった。

 千雨の姿をした少女は、気を失ったのどかとネギを木乃香と明日菜に預けた。

 

 

「近衛木乃香と神楽坂明日菜、そこの二人を任せるぞ」

 

「え? だ、誰や…?」

 

「長谷川、さん、なの? で、でも瞳の色が…」

 

 

 木乃香も明日菜も、彼女が誰なのか確信が持てないようだ。

 そんな二人を大して気にも留めずに、彼女は踵を返す。

 

 

「俺はさっきの吸血鬼事件の犯人にまだ用がある。お前たちはさっさと帰れ」

 

 

 そう言い残すと、エヴァを追うべく彼女は地面を蹴る。

 とても普段の千雨からは考えられないような速度で駆け出していった。

 

 

「うわ、はや!?」

 

「ち、ちょっと待ちなさいよ!! 」

 

 

 少し遅れて明日菜が走り出す。

 明日菜の運動能力も中学生としては相当なレベルではあるが、それでも前を行く二人の速さには及ばない。

 

 

(何よ、あの速さ…!?)

 

 

 あっという間に小さくなっていく前の二人。

 しかし、それでも追い縋るように明日菜は走り続けた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 一方、先頭を行くエヴァンジェリンであったが、先ほどの人物があっという間に距離を詰めてくるのを感じていた。

 

 

(速い…!)

 

 

 自分と同じように飛行の魔法を使って飛んでいる訳ではない。

 だが、建物の屋根から屋根、壁から壁をジャンプで飛び回りながら移動する様子は、もはや空を翔けているに等しかった。

 

 

(本当に何者だ、アイツは…!)

 

 

 まるで『スパイダーマン』か何かのアクションヒーローを思わせるような縦横無尽の三次元機動。

 このまま行けば遠からず追い付かれると判断したエヴァは、自らの従者と共に逆に待ち構えることにした。

 エヴァはある8階建ての建物の屋根の上に着地し、後ろから追ってきた少女へと向き直る。

 

 

「鬼ごっこは終わりか?」

 

「ああ、貴様が何者かは知らんが、ここまで追って来たのなら少しだけ遊んでやろう」

 

 

 桜の舞う夜空を背景に対峙する二人。

 そして、更にそこにエヴァの傍に侍るように現れた者がいた。

 

 

「紹介しよう。私のパートナー、"魔法使いの従者"(ミニステル・マギ)絡繰茶々丸だ」

 

 

 現れたのはネギのクラスに所属していたロボットだ。

 状況的には2対1だが、エヴァたちと対峙している少女は「それで?」とでも言いたげな無表情を保ったままだ。

 その見下すような冷徹な瞳にロボットである茶々丸ですらも、ただならぬ気配を感じ取っていた。

 

 

「マスター、私のセンサーは間違いなく彼女を長谷川さんだと認識しています。けれど、彼女は本当に長谷川さんなのですか?」

 

「さあな。私にも分からん。だが、こうして追ってきた以上、どうやらヤツは私たちと戦うつもりのようだ」

 

 

 決して剥き出しという訳ではない。

 だが、彼女の佇まいからは内に秘められた静かな殺気が確かに感じられた。

 

 

「しかし、解せんな。何故、貴様はあの坊やを気絶させた? 私と戦うということだけなら、別にヤツを気絶させる必要は無かったはずだろう」

 

 

 エヴァの問いはもっともだ。

 だが、その問いに対する千雨の姿をした少女の答えはこうだった。

 

 

「別に大したことじゃない。単に邪魔だっただけだよ。俺がそれなりに本気を出して戦えば、近くにいる奴はそれだけで血液が沸騰して死ぬからな」

 

 

 知らない者が聞けば、彼女が一体何のことを言っているのか分からないだろう。

 当然、エヴァ自身にも彼女が何を言っているのか分からない。怪訝な様子のエヴァを無視して少女はさらに言葉を続ける。

 

 

「本当はこんなところで『力』を使うつもりは無かったんだがな。だが、どうせいつか知られることになるのなら、先延ばしにしたところで結果は変わらん。だったら、この世界の最強クラスの魔法使いというヤツの実力の程を知っておくのも悪くはない」

 

 

 一歩、前に出る。

 

 

「光栄に思え、エヴァンジェリン。この世界では、アンタに初めて見せてやる。―――本物の、『雷帝』の力をな」

 

 

 彼女がそう言ったその瞬間だった。

 ドクンッ、という心臓の鼓動が彼女の身体を飛び越えてエヴァにも聞こえたような気がした。

 

 

「何……?」

 

 

 その瞬間、麻帆良学園の全域が突然、停電に見舞われたのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 突然の麻帆良学園の停電。

 そして、その停電と共に強大に膨れ上がった気配が二人分。

 片方は真祖の吸血鬼であるエヴァンジェリン。そして、もう一つは―――

 

 

「蛮ちゃん、これって…」

 

「ああ…、ついに来たな…」

 

 

 これだけ離れていても感じるこの気配。

 やはり、間違いない。蛮と銀次の二人は揃って同じ結論を確信する。

 

 

「マリーア、俺と銀次は先に行くぞ」

 

「ええ、事前の打ち合わせ通りに進めましょう」

 

 

 正直、これが予想通りの相手ならどこまで想定通りに進むかは分からない。だが、それでも動かない訳にはいかない。

 銀次と蛮の二人は家から飛び出して駆け出したのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 学園の電力がすべて落ちた為に、エヴァの魔力を封じる結界の効力も失われ、期せずして全盛期の魔力が戻る。

 そして、エヴァの魔力が戻ると同時にそれは起こった。

 

 

 ――カッ!!!

 

 

 突然、千雨の姿をした少女へと雷が落ちる。

 普通なら生身の人間が落雷にうたれて生きているはずはない。

 しかし―――

 

 

(何だコイツはッ!? 全身に雷を纏って…!?『闇の魔法(マギア・エレベア)』か!? いや、違う!!)

 

 

 目の前の光景に戦慄するエヴァンジェリン。

 全身に雷を纏う少女の姿は、彼女が昔に開発した『闇の魔法(マギア・エレベア)』を発動させた状態に似ている。

 だが、その本質がまるで違うことをエヴァンジェリンは見抜いていた。

 

 

「マスター、あれは…」

 

「…分かっている。あれは桁外れだ」

 

 

 エヴァたちの眼前に佇む少女の予想もしない変貌。

 停電させた地域から奪い取った電力を喰らい尽くし、強大すぎるエネルギーが彼女の中に渦巻いていた。

 彼女の全身が帯電し、バチバチと音を鳴らす青白い稲妻が、まるで火花が散るように走っている。

 

 

「わざわざこの学園の結界を落としてアンタが本気を出せるようにしてやったんだ。簡単に倒れてくれるなよ?」

 

 

 かつての無限城世界における最強の雷使い。

 本当の全力を出せば、『本物の神』すら捻じ伏せることができる真の怪物―――『雷帝』の降臨だった。

 

 

 


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