GetBackers -奪還屋- Parallel Universe   作:世紀末ドクター

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第二話『別のセカイ』

 グラウンド・ゼロでの次元の揺らぎの中に飲み込まれた蛮、銀次、そしてマリーアの三人。

 次元の狭間を抜け出た後、彼らの視界に真っ先に飛び込んできたのは、桁外れの巨大さを誇る広葉樹であった。

 

 

「うわ~、でっかいな~! スゴイなこの樹。こんな大きいの初めて見たよ」

 

 

 大樹を見上げながら興奮気味に言う銀次。

 その樹高は目測で優に200mは超えているだろう。

 そして、その大樹を中心に、石造りの広場が広がっている。パッと見、どこかの公園のようだった。

 言うまでも無くさっきまで自分達が居た『グラウンド・ゼロ』とは全く違う場所だ。

 蛮も太陽に手をかざしながら、上を見上げた。

 

 

(少なくとも俺らの世界にはこんな樹は存在しねえ…)

 

 

 そこには桁外れの大きさを誇る広葉樹が聳え立っている。

 その大樹の存在だけで、ここが自分達の居た無限城世界とは違う別の世界だと蛮とマリーアには確信できた。

 

 

「マリーア、銀次、まずは情報収集するぞ」

 

「ええ、分かってるわ」

 

 

 異世界に飛ばされたという異常事態にも関わらず、蛮とマリーアは何をするべきかを冷静に把握していた。

 数多の修羅場を潜り抜けて来たという経験から来る自信。その自信に裏打ちされた彼らの精神はこの程度の苦境では小揺るぎもしなかった。

 しかしながら、世間に疎い銀次だけは樹高200mを超える巨大樹を見ても「異世界に飛ばされた」という事実には思い至らなかったらしく、不思議そうな顔で訊ねる。

 

 

「え、情報収集? 何で?」

 

 

 蛮はそんな世間知らずの銀次をしばきつつ、情報収集に向かったのだった。

 

 

 

 

 そうして、およそ30分ほどの情報収集を終えて、三人は元の場所に合流した。

 ほとんど結論は決まっていると思うが、蛮は一応マリーアに尋ねる。

 

 

「それでどうだったよ?」

 

「蛮が考えてる通りよ」

 

「やっぱりな…」

 

 

 予想通りな答えに蛮は大きな溜め息を吐く。

 マリーアは蛮の反応に頷くと、さらに話を続けた。

 

 

「どうやらここも日本らしいけど、言うまでも無く私達の知ってる日本じゃない。いわゆる並列世界の類でしょうね」

 

「並列世界……?」

 

 

 思わずキョトンとした顔で銀次は聞き返す。

 SF小説などでしばしば題材に選ばれるキーワードだが、教養に疎い銀次にとっては聞きなれない言葉だったようだ。

 そんな銀次のためにマリーアは極めて簡潔に自分達の置かれている現状を説明する。

 

 

「簡単に言うと、私達がさっきまで居た世界とは違う別の世界ってことよ。さすがにこの状況だと元のセカイに戻るのにはちょっと苦労するかもしれないわね」

 

「そうだな。けど、焦っても仕方ねえだろ」

 

 

 異世界に飛ばされるという状況にも関わらず、異常なほど落ち着き払っている蛮とマリーア。

 正直な話、これまでに潜り抜けてきた修羅場のことを思えば、この程度は苦境の内にも入らない。何より次元を越える為の手段に全く当てが無いという訳でもないからだ。

 実際、蛮のアスクレピオスの力を完全開放させれば次元の壁の一つや二つ破ることは可能だし、次元を越えるだけなら意外と簡単にできる。

 そうなると後は次元座標の問題だけであり、それさえ解決できれば元の世界に戻るのは十分に可能だと言えた。

 

 

「そうね。時間は掛かるでしょうけど、次元座標の解析は私の魔術で多分どうにかなるでしょう。今はそれよりも―――」

 

 

 そこで彼女は言葉を切ると、蛮と視線を合わせる。 

 

 

「気付いてるわね? 蛮」

 

「当たり前だろ」

 

 

 そう言って、蛮は何者かが隠れている物陰の方へ視線を移す。

 

 

「そこに隠れてる奴、いい加減に出て来いや」

 

 

 先程から蛮たちを監視していた何者かに向けて呼びかける。

 すると、その呼び掛けに応える形で物陰から一人の少女が現れた。

 

 

「気配は完全に消していたはずだが…、やはり只者じゃないな貴様らは…」

 

 

 年の頃は10歳程度だろう。

 まるで人形のように整った顔立ちと、膝にまで届く金色の髪。

 

 

(どうやらコイツも見た目通りのガキじゃねえみたいだな…)

 

 

 少女の姿を一目見ただけで、蛮はそう見抜いた。

 流石に間久部博士やマリーアなど、見た目と中身が一致していない者に慣れているだけのことはあるかもしれない。

 しかもただ年齢を重ねているだけの相手ではない。この目の前の金髪の少女が、それなりの『力』を有している事も蛮は気配で感じ取っていた。

 もっとも目前の相手の力量の程を感じ取っているという意味では、金髪の少女にとっても同じだった。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 警戒しているのかお互いに無言。

 金髪の少女と蛮たちの間に張り詰めた空気が流れる。

 そうやって少しの間、無言のまま睨み合っていたが、やがて蛮はふうと溜め息を吐くと少女に話し掛けた。

 

 

「まあ、そんな警戒すんじゃねえよ。そっちから仕掛けて来ない限り、俺達からは何もしねえ」

 

 

 ともすれば自分達の方が格上だとも聞こえる蛮の発言。

 蛮の尊大そうな態度と相俟って、やはりその発言は少女の気に障ったらしい。

 少し不機嫌そうに少女は言った。

 

 

「…随分と上から目線だな、貴様」

 

「そりゃそうだろ。確かに、テメエもそれなりの力を持ってるみたいだが、俺からすりゃ大したレベルじゃねえ。テメエなら分かってるはずだけどな? 相手との力量の差を全く測れない無能ってわけじゃねえだろ?」

 

 

 蛮は試すような視線で少女に問うた。

 実際、現状での少女と蛮たちの戦力の差は歴然としている。

 少なくとも少女の力量が蛮たちの戦力に及ばないことは、彼女自身も感じ取っていることだった。

 

 

(封印の解けた私ならともかく、今の私では逆立ちしても敵わん…、か)

 

 

 内心で彼女はそう判断していた。

 もしも蛮と銀次、マリーアの三人がその気になれば、この学園ぐらいはあっという間に制圧出来る。

 この三人はそのくらいの実力は確実に持っている。

 

 

「……一体何が目的だ?」

 

「目的も何も、俺らは偶然ここに飛ばされて来ただけだぜ?」

 

「それを簡単に信じられるとでも?」

 

 

 無論、蛮たちに敵対の意思はない。

 だが、少女からすれば、蛮達が自分の力量を遥かに上回る正体不明の実力者三人という事実には変わりはない。

 いくら敵対の意思がないと言っても、警戒するなと言う方が無理な話だった。

 しかし、こうして睨み合いを続けていても、埒があかないのも事実である。

 

 

「ちょっといいかな?」

 

 

 睨み合いを続けている蛮と金髪の少女。

 その二人の間に、不意に銀次が割って入る。

 

 

「そんなことより、君の名前を教えてくれない? それと、そんな険しい顔してたら折角の可愛い顔が台無しだよ?」

 

「銀ちゃんの言うとおりね。レディの扱いがなってないわよ、蛮」

 

 

 銀次の持つ無邪気な雰囲気によって、さっきまで蛮と少女の間に張り詰めていた空気が一瞬で霧散する。

 しかもオマケで、いつの間にか蛮が悪いみたいな雰囲気にされている。

 

 

「おい、何でいつの間にか俺が悪いみたいな雰囲気になってんだ?」

 

「え~? 女の子に優しくしない蛮ちゃんが悪いんじゃん?」

 

「テメエは一体どっちの味方だ!?」

 

「ボクは常に可愛い女の子の味方です」

 

 

 まるで漫才のような緊張感のないやり取り。

 蛮達に対して、つい先程まで最大級の警戒をしていた少女からすれば、まるっきり肩透かしを喰らったような印象だろう。

 少女のことを差し置いて、未だにじゃれ合いのような喧嘩を続ける蛮と銀次。

 

 

「…何なんだコイツら」

 

 

 そんな彼らの様子を見ながら、半ば呆然としたように少女は呟いたのだった。

 

 

 ◆

 

 

 それからしばらくした後、蛮と銀次、マリーアの三人は、最初に出会った金髪の少女に連れられて、この学園都市の責任者のもとへ案内されている途中だった。

 今さらだが、蛮たちを案内している少女の名前は、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。蛮たちには知る由もないが『闇の福音』の異名を持つ真祖の吸血鬼である。

 

 

「それにしても異世界から飛ばされてきた、か…。にわかには信じがたい話だな」

 

「まあ、信じられないのも無理ねえわな」

 

「嘘は言ってないんだけどな~」

 

 

 適当に雑談しながら学園の敷地の中を歩く四人。

 しかし、流石に蛮たちの異世界から来たという話にはエヴァも半信半疑という様子だった。

 

 

「それよりこの学園の責任者って、どんな人なのかしら?」

 

「ん? ああ、ぬらりひょんみたいな糞ジジイだよ。貴様ら三人の身の振り方はそのジジイに判断してもらう」

 

 

 そうしていつの間にか、彼らは学園長室の扉の前にまで辿り着いていた。

 

 

「ジジイ、入るぞ」

 

 

 果たして、扉を開けた先に待っていたのは―――、

 

 

(ッ!? 何だ、あの頭の形は!?)

 

 

 本当に妖怪のような老人だった。

 思わず唖然とする蛮と銀次。あのマリーアですら余りに人間離れした頭の形状に絶句している。

 

 

「フォッフォッフォ、よく来たの。侵入者諸君」

 

 

 いかにも老人くさい口調で蛮たちに話し掛ける老人。

 数秒ほど固まっていた蛮たちだが、すぐに平静を取り戻すと老人に応対する。

 

 

「アンタがこの学園の責任者か?」

 

「そうじゃよ。近衛近右衛門じゃ。この麻帆良学園の理事長を務めておる」

 

「そっちのメガネ中年は?」

 

 

 そう言って、蛮は学園長の隣りに控えていた中年の男性にチラリと視線を向ける。

 恐らく蛮たちが実力行使に出られた時の保険、あるいは対抗戦力として用意されたであろう男。

 別にこの学園長を襲おうという気があるわけではないが、今から始まる話し合いの展開によってはどうなるか分からない。

 

 

「タカミチ君はこの学園の教員じゃよ。今からの話には彼も同席してもらいのじゃが構わんかね?」

 

「別に構わねえぜ。銀次もマリーアも別にいいだろ?」

 

 

 蛮の問いに銀次とマリーアもそれぞれ頷く。

 二人が頷いたのを見て取った近衛学園長は、話を切り出した。

 

 

「それじゃあ、まずは自己紹介をしてくれんかの」

 

「ああ、いいぜ。まず俺の名前は美堂蛮。そこの銀次って奴と一緒に『GetBackers』っていう奪還屋をやってる」

 

「天野銀次でっす!」

 

 

 元気はつらつという様子で蛮の後に続いて自己紹介する銀次。

 だが、二人の自己紹介の中に出てきた奪還屋という聞きなれない言葉に学園長が反応する。

 

 

「奪還屋?」

 

「まあ、いわゆる裏稼業の一つだな。その名前の通り、奪られたものを奪り還すのが仕事だ」

 

「依頼成功率ほぼ100%なんですよ! ほぼ100%!」

 

「ほぼほぼ、言ってんじゃねえよ!?」

 

「あべしッ!?」

 

 

 しきりに「ほぼ」という言葉を強調する銀次に蛮が軽い拳骨を落とす。

 そんな平常運転の二人を華麗にスルーし、今度はマリーアが口を開いた。

 

 

「私はマリーア・ノーチェス。カード占い屋『カルタス』の店主です」

 

「ついでに言うと、見た目を誤魔化してる100歳のクソババアだ」

 

「ほお? とてもそんな歳には見えんが…」

 

 

 言いながら学園長は少しだけ驚いた顔を見せる。

 しかし、大して驚いていない彼の様子に蛮は少し意外に思いながら訊ねた。

 

 

「…意外だぜ。もう少し驚くかと思ったんだがな。そこの金髪ロリといい、ひょっとしてこっちの世界じゃ見た目と実年齢が一致してねえ奴はそれほど珍しくねえのか?」

 

 

 蛮がそう疑問に思うのも無理はない。

 しかし、こちらの世界には年齢詐称薬という見た目を変化させる薬も存在しているので、外見と実年齢が違っていることは魔法関係者なら実はそれほど珍しくはない。

 魔法関係者の場合、潜入任務などで変装などの必要があるようなときには、年齢詐称薬のような薬で姿を変えていることなどザラだからだ。

 さらに言えば、魔法界なら亜人や魔族など普通の人間の数倍は長命な種族も存在している。

 

 

「フォッフォッフォ、実は魔法関係者ならそういうのはそれほど珍しくはないんじゃ。特に魔法界なら、亜人や魔族なんてのも居るからのう」

 

「へぇー、やっぱり世界が違うと事情も違うんだねー」

 

 

 世界が違う、という銀次の言葉。

 その言葉を切っ掛けに学園長は話題を切り替える。

 

 

「ふむ…、エヴァから報告は受けておるが、本当に君達は異世界から来たのかね?」

 

 

 蛮はどう話すべきか少しだけ思案したが、別に嘘を吐くような必要も無い。

 だから、蛮は素直にありのままを話すことにした。

 

 

「ああ。ここは間違いなく俺らが居た世界じゃねえよ」

 

 

 そうして、蛮は自分達の状況と事情を話した。

 次元の揺らぎに巻き込まれて、気が付いたらこの学園に居たこと。

 そして、蛮達の世界にあんな世界遺産級の樹は世界中のどこを探し巡っても存在しないこと。

 そもそも蛮達の世界には麻帆良という学園都市自体が存在しないこと。それらの状況を考えると最早、異世界に飛ばされたと考えるしかない。

 

 

「…ってな訳だ。これが夢でなくて現実だって言うなら、異世界だって考えるしかねえだろ?」

 

「うーむ…、なるほどのぉ」

 

 

 長く伸ばした顎鬚を触りながら何かを考え込んでいる様子の学園長。恐らく蛮の話が信用できるかどうかを考えているのだろう。

 蛮はそんな彼の様子を見て「まあ、普通の反応だわな」と内心で思いつつ、学園長の方に訊き返した。

 

 

「まあ、信じる信じねえはそっちの勝手だ。それで結局、アンタは俺達をどうしたいと考えてんだ? おっと、その前に…」

 

 

 そこで蛮は言葉を切ると、右手を学園長に差し出す。

 そして、その右手にはいつの間にか、何かの金属製のリングを手にしている。

 

 

「ほらよ。アンタの耳飾りだ。床に落ちてたぜ?」

 

 

 しれっとそう言いながら、蛮はさっきまで学園長の耳に着けてあった筈の耳飾りを差し出す。

 驚いて学園長が自分の耳を確認すると、確かにさっきまで着けていたはずの耳飾りが無くなっている。

 

 

(一体いつの間に!?)

 

 

 その場に居たエヴァ、高畑、学園長の三人全員が戦慄する。

 もしもそっちが力尽くな手段に出れば、こっちも黙っていない。それは明らかにそういう意味を込めた蛮のメッセージだった。

 

 

「おお、これは親切にどうも」

 

 

 内心での動揺を隠しながら、学園長は自分の耳飾りを受け取る。

 ある程度の実力者なら、相手の気配を感じただけで相手の力量を推し量ることが出来る。

 蛮の佇まいから感じる強さの気配。学園最強の魔法使いである学園長を以ってしても、まるで底が分からない。

 

 

(確かにエヴァの言う通り相当な実力者じゃな。まるで底が見えん。下手に敵対するのは、流石にマズイか…)

 

 

 蛮達と向き合いながら、学園長はそう判断を下していた。

 少し考えた後、学園長は蛮たちに提案した。

 

 

「ふむ…、美堂君。元の世界に帰る目処がつくまで、この学園で働く気はないかね?」

 

「要するに、監視ってことだろ?」

 

「有り体に言ってしまえばそうじゃな。じゃが君達が本当に別の世界から来たというなら、決して悪い話ではないと思うよ。住む場所や戸籍も提供しよう」

 

 

 実際、別の世界から飛ばされて来たばかりの蛮たちにとって、悪い話ではない。

 むしろ、無限城世界での車での寝泊り生活よりも生活水準的には良好かもしれない。

 少なくとも、敵かも味方かも分からない正体不明の不審人物に対しての待遇としては破格なくらいだろう。

 

 

「テメエらはどう思うよ?」

 

 

 そう言って、蛮は銀次とマリーアに意見を求める。

 

 

「いいんじゃないかしら? 私は別に構わないわよ」

 

「オレもだよ~。ってか、オレと蛮ちゃんだけならともかく、流石にマリーアさんにまでダンボール生活させる訳にはいかないし」

 

 

 マリーアと銀次も学園長からの提案を受けることに賛成のようだ。

 ここまで来たら特に学園長の提案を断る理由はない。

 

 

「それじゃあ、よろしく頼むぜ。爺さん」

 

「フォッフォッフォ、交渉成立じゃな」

 

 

 そうして、お互いに握手が交わされる。

 裏新宿における最高の奪還屋『GetBackers』の美堂蛮と天野銀次。そして、マリーア・ノーチェス。

 本来ならこの世界に存在するはずの無い三人。そして、彼ら三人と共にこの世界に持ち込まれた三枚のカードを切っ掛けに、本来とは違う別の運命の歯車が回り出す事になる。

 しかし、それによってこの世界がどんな未来に繋がるのか、今はまだ誰にも分からなかった。

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