GetBackers -奪還屋- Parallel Universe   作:世紀末ドクター

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第三話『麻帆良学園にて』

 交渉の結果、学園都市に住まわせて貰うことになった蛮達三人。

 しかし、この街で暮らしていくに当たって、もう一つ決めなければならないことがある。

 

 

「それで君達の仕事についてなんじゃが…」

 

 

 学園長の方から話を振られるが、蛮と銀次の二人の仕事は最初から決まっている。

 たとえ、ここがどんな世界だろうが彼らがやる事は変わらない。

 

 

「俺らは『奪還屋』以外の仕事をするつもりはねえよ。とりあえず住む場所だけ何とかしてくれりゃあ、俺と銀次はそれでいい」

 

「フム…、ちょっと危険な事も扱う何でも屋といった所かの?」

 

「まあ、そんな所かもな」

 

 

 学園長に肯定の答えを返す蛮。

 実際、解釈次第で比較的広い範囲の依頼を受けることも出来るので、学園長の言う様に『何でも屋』という解釈もあながち間違ってはいない。

 そうして蛮と銀次の希望を聞いた学園長は、マリーアの方にも声を掛ける。

 

 

「マリーアさんの方はどうじゃね?」

 

「う~ん、そうねえ…。私の場合は『占い屋』の露店でも開かせてもらえれば幸いですけど」

 

「フム…、君達の希望は分かった。こちらでも検討してみよう。それではタカミチ君、彼らが住む所へ案内してもらえるかね?」

 

「分かりました」

 

 

 そうして、蛮達は高畑に案内されて学園長室から退室する。

 部屋に残っているのは、学園長とエヴァンジェリンの二人。

 学園長は先程から腕を組んだ姿勢のまま壁に背を預けていたエヴァに声を掛ける。

 

 

「…エヴァよ。正直、彼らの実力はどの程度だと思っておる?」

 

「…さてな。だが、どんなに少なく見積もってもナギやラカンと同等以上の実力は確実にある。はっきり言うが、タカミチでは絶対に勝てんぞ」

 

 

 学園長の問いにエヴァは、はっきりと断言する。

 中でも、あの三人のリーダー的な立ち位置のサングラスの男――美堂蛮は別格だ。

 

 

「さっきの蛮とかいう奴の動きは私にすら全く見えなかった。

 もしも奴がその気だったなら、あの瞬間に貴様の首は飛ばされていただろうよ」

 

 

 先程、高畑と学園長、そしてエヴァ自身も決して油断はしていなかった。

 しかし、それでもあの時の蛮の動きは全く捉えられなかった。むろん何かの能力を使った可能性もあるが、仮にそうだったとしても一体どんな能力を使ったのかすら分からない。

 もしもあの男がその気だったのなら、何が起こったのか把握させないままにこちらを制圧することも出来た可能性すらある。

 そして、何より――

 

 

(……あの男からは一瞬だけだが『血を好む人間』の匂いがした)

 

 

 エヴァがあの蛮という男と最初に出会い、向き合った時に一瞬だけ感じた底の知れない凄み。血の匂いと死の気配。

 天野銀次という金髪の少年と漫才のような掛け合いをしている時はそんな気配は鳴りを潜めている。

 だが、もしも実際に戦うことになれば、あの三人の中では恐らくあの男が一番危険だ。

 

 

「フゥ…、何とも厄介なことになったのぅ。彼らがこの学園にとって敵でなければいいんじゃが…」

 

 

 そう言ってやれやれと溜め息を吐く学園長。

 しかし、エヴァの方は学園長とは少し違う見解だったようだ。

 

 

「…いや、敵か味方かで言うなら、アイツらは敵になり得んだろうさ。特にあの天野とかいうガキは底抜けのお人好しだ。あのガキが抑え役になっている限り、あの三人がこっちの敵になるなんて事はまず無いだろうよ」

 

「そうだといいんじゃがな…」

 

 

 面倒事に頭を悩ませている学園長を尻目に、エヴァは部屋から立ち去ろうと踵を返す。

 そして、エヴァは扉に手をかけた所で肩越しに振り返ると、底意地悪そうな笑みを浮かべて言った。

 

 

「それを判断するのが貴様の仕事だろう? せいぜい悩め、クソジジイ」

 

 

 そう言い残すとエヴァは学園長室を立ち去った。

 そして、後に一人残された学園長は、本日2度目の大きな溜め息を吐いたのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 学園長が想定外の面倒事に溜め息を吐いているその頃、その面倒事の原因である蛮たち三人は高畑に街の中を案内されていた。

 異世界に飛ばされたという非常事態にも関わらず、三人は丸っきり観光気分という様子である。

 

 

「しっかし、まるでフィレンツェみてえな街並みだな」

 

 

 あたりの街並みを見て周りながら蛮が感想をもらす。

 周囲の建築物はまるでイタリアのフィレンツェを思わせるオレンジ色の屋根が特徴的で、街並みに統一感を持たせている。あらゆる物が雑多に入り乱れた裏新宿の街並みとは対照的だ。

 普通の街と比較しても、かなり贅沢な街作りがなされていることは明らかだった。

 

 

「そっちの世界にもフィレンツェはあるのかい?」

 

「ええ、私たちの世界にもフィレンツェはありましたよ。…というより、存在する国家の名前や主要都市については私たちの世界と殆ど同じようですね」

 

 

 高畑からの質問にマリーアが答える。

 その程度のことは、この世界に飛ばされて直ぐに調べていたことだった。

 そして、こっちの世界に『裏新宿』や『無限城』は無いということも、最初に調べた時点で確認している。

 

 

「へえ…、それは中々興味深いね」

 

 

 マリーアの言葉に高畑も興味深そうな顔をする。

 もっとも、一体どこまで同じでどれだけ違うのかは蛮達もまだ完全には把握していない。

 それらに関しても情報交換は続けていく必要はあるだろう。無論、それは高畑ら麻帆良学園の人間からしても同じことであろうが。

 

 

「ところで美堂君」

 

「…なんだ?」

 

「そっちじゃどうかは知らないけど、未成年者の喫煙はこっちの法律では禁止されているんだ。流石に、目の前で煙草を吸われたら教師としては止めない訳にはいかない」

 

「…チッ、仕方ねえな」

 

 

 高畑が注意されて渋々と蛮は煙草をしまう。

 蛮の性格からすれば反発しても不思議ではなかったが、意外にも蛮は大人しく引き下がった。

 穏やかな顔で、まるで諭すように言われては、流石の蛮も反発する気にはならなかったのだろう。実際、蛮達の世界でも未成年の喫煙は禁止されていることだからだ。

 

 

「クスッ、せっかくだから蛮ちゃんも禁煙したらいいんじゃない?」

 

「うるせーよ」

 

 

 少し不機嫌そうに蛮は言葉を返す。

 そんな適当な雑談を交わしながら、彼らは昼下がりの街を歩く。

 そして、街の大通りを通り抜け、少し小高い丘を上ってすぐのところにその建物はあった。

 レンガ色の壁に、腰折れ屋根が特徴的なアンティークな建物。どうやら空き家になっているらしく人の気配は全くしない。

 そうして、高畑はポケットから取り出した鍵で玄関の扉を開くと蛮たちを部屋の中に案内する。

 

 

「君達にはしばらくここに住んでもらうことになるけど、構わないかい?」

 

 

 案内された家の中には、まだ家具の類は全く置かれていない。

 しかし、家具の類を何も置いていないことを差し引いても、部屋の中は意外と広い造りをしていた。

 少なくとも蛮と銀次、そしてマリーアの三人が生活するに当たって、広さ的には十分な代物だと言えた。

 

 

「へぇ…、結構いい部屋じゃねえか」

 

「なんか『耳を○ませば』の地球屋みたいな家だね~」

 

 

 どうやら案内された家を蛮たちは気に入ったようだった。

 そして、蛮たちが部屋の中をしばらく見て回ったところで、高畑は再び声を掛ける。

 

 

「どうやら気に入ってくれたみたいだね」

 

「ええ、とても素敵な家だと思います」

 

 

 そして、マリーアは謝辞を述べながら、高畑に頭を下げる。

 実際、状況次第ではホームレス暮らしも覚悟していただけに落ち着いた拠点を手に入れることが出来たのは有り難かった。

 とりあえずこうやって住む所を確保できた以上、後は日用品などの生活に必要な物を揃えて行く事になる訳だが―――

 

 

「よっしゃ、それじゃあ色々と必要なモンを揃えねえとな。もちろん費用はそっち持ちなんだろ?」

 

 

 明らかに学園側にたかる気満々の蛮。

 その図々しい態度はどこからどう見てもそこらのチンピラである。

 

 

「こら、蛮。いくらなんでもその態度は駄目でしょう?」

 

 

 そう言って、マリーアはコツンと蛮の頭を軽く小突く。

 もっとも両者の間に険悪な様子は全く無い。穏やかな顔で注意するマリーアの様子はまるで態度の悪い子供を叱る母親のように見えた。

 

 

(腕白な少年二人とその保護者…、という感じだな)

 

 

 高畑は蛮、銀次、マリーアの三人をそう評価した。

 少なくともこの様子を見る限り、この三人がこの学園の敵になる可能性は少ないように思える。

 しかし―――

 

 

(まだ見極める時間が必要、か…)

 

 

 正直、真っ向からの戦闘でこの三人を止められるとは高畑にも思えない。

 だが、何も真っ向から戦う必要はない。いざとなれば不意打ちや毒などの暗殺に頼る方法もある。

 もしも必要ならばそういう方法も選ぶ覚悟を決めなければならないかもしれない。もちろん、そんな方法に頼るような事態にならないことがお互いにとって一番良いのだろうが。

 とりあえず高畑は物騒な考えを頭から追い出すと、懐の内ポケットから封筒を取り出した。

 

 

「とりあえず当面の生活費としてこれを渡しておくよ」

 

 

 そう言って高畑は封筒をマリーアに手渡す。

 手渡された封筒にはかなりの厚みがあり、少なくとも数十万くらいは入っているようだ。

 そして、それを見た蛮と銀次の瞳はいつの間にか$マークになっている。お金に目が眩んだ状態とはまさにこういう状態を言うのだろうか。

 

 

「よし! それじゃあ、金の管理はこの俺が……」

 

「えい♪」

 

「あばぁ!?」

 

 

 蛮が「金の管理は任せろー!」と言い出そうとしたところで、晴々とした良い笑顔のマリーアが蛮をしばき倒した。

 それにしても、あの美堂蛮に対して、こんなことが出来るのは世界中の全てを探し巡っても彼女しかいないのではないだろうか。

 蛮を殴り飛ばした後、マリーアはやれやれと溜め息を吐く。

 

 

「全くもう…、アンタらにお金の管理させたら碌な事になりそうにないわ。お金の管理は私がする。いいわね?」

 

「おい! 横暴だぞ、クソバb…あべしッ!?」

 

 

 有無を言わせないマリーアの決定。

 その決定を不服として反発するが、再び殴り飛ばされる蛮。

 それを皮切りにして再びマリーアと蛮の間に喧嘩が勃発する。

 もっとも喧嘩と言うよりは、マリーアから蛮への一方的なお仕置きと言うようなものであったが。

 そんな少しばかり過激なじゃれ合いを続ける二人を傍目に高畑はクスリと笑いながら銀次に訊ねる。

 

 

「君たちはいつもこんな感じなのかい?」

 

「うーん、依頼が絡んでない時のオレ達は大体いつもこんな感じかな~」

 

 

 銀次は「仕方ないな~」と少し呆れながら、マリーアと蛮の仲裁に入る。しかし、銀次が止めに入った時には既に遅かったと言うしかない。

 どうにか場は収まった後、そこには顔面がボコボコに腫らした蛮が床に転がっていた。

 あの蛮が唯一人、頭が上がらない相手というのはやはり伊達ではなかったようだ。

 

 

「さて! 身の程知らずの子供の躾けも終わったし、日用品とか揃えに行きましょう!」

 

 

 そうして、一行は再び街へと繰り出す。

 その後、彼らは高畑に学園都市の案内をしてもらいつつ、必要な物を揃えていったのだった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 それから数時間後、必要な物を粗方揃え終わった彼らは部屋の整理をしているところだった。

 そして、高畑が去ってしばらくした後、部屋の整理を進めていた蛮がふと手を止めて呟いた。

 

 

「それにしても、この学園の連中は本当に信用できるのかねえ…」

 

 

 その言葉にマリーアと銀次の二人の表情が真剣なものに変わる。

 蛮はマリーアと銀次の二人にあることを確認させていたのだった。

 

 

「銀次、マリーア。今の時点で何か監視の目は感じるか?」

 

「いいえ、少なくとも私の分かる範囲での魔術的な監視は無いわよ」

 

「銀次の方は?」

 

「うん。隠しカメラとか盗聴器とかの電気的な監視装置も無いと思うよ」

 

 

 この二人がそう言う以上は監視の目は本当に無いのだろう。

 そもそも魔術師としての能力、電気使いとしての能力において、この二人は無限城世界においてすらトップクラスの能力者である。

 そんな二人の警戒を潜り抜けて監視の目を置くのは、ほぼ不可能だからだ。

 

 

「マジかよ…。絶対に監視の目があると思ってたのに…」

 

 

 しかし、銀次とマリーアの返答は蛮にとって予想外な結果だったらしく、内心で蛮は拍子抜けしていた。

 蛮達のことを甘く見ているのか、それとも単純にお人好しなだけなのか。それは分からないが、監視の目が無いのは好都合だ。

 彼らはこれからの自分達の方針について話し合うことにした。

 

 

「まずこれは最低限なことなんだけど、少なくとも『神の記述』の残りのカードを回収するまでは、この世界に滞在する必要があるでしょうね」

 

 

 そう言って、マリーアが話を切り出す。

 この世界に飛ばされる切っ掛けになったカード。

 そのうちの一枚『世界の最果て』のカードは現在、封印処置を施した上で現在マリーアが所持している。

 しかし、あのケースに納められていたカードは合計で四枚だった。つまり、残り三枚のカードが存在するはずなのだが、今それらは手元にない。

 つまり、残りの三枚のカードも蛮達と共にこの世界のどこかに飛ばされてしまったということだ。少なくともそれらのカードを回収あるいは処分するまでは、この世界に滞在する必要がある。

 

 

「…やれやれ。思ったより面倒なことになったな」

 

 

 そう言いながら、蛮は大きな溜め息を一つ吐く。

 実際、残りの三枚のカードをこのまま放置しておけば、この世界にどんな影響が出るか分からない。

 もしも三枚のカードを放置したまま元の世界に帰還した結果、この世界が消滅でもしたら目覚めが悪いにも程がある。

 

 

「うーん、だったらいっそこの学園の人にも協力を頼んだ方が良くない?」

 

 

 銀次が思ったことを口にする。

 しかし、マリーアと蛮は銀次の提案に否定的だった。

 

 

「それはまだ止めておいた方が良いわね。銀ちゃんも知ってるだろうけど、『神の記述』はただのカードじゃない。あのカードは相応の準備をした上でなら、既存のセカイを上書きして、別のセカイを創り出す事も可能な代物よ」

 

 

 かつての『神の記述』を巡っての依頼の時、それをやろうとした者がルシファーと呼ばれた男だった。

 あの時は、それを実現するための準備段階で彼の企みを叩き潰したが、もしも彼の企みが実現していれば一体どうなっていたかは予想がつかない。

 ましてや今回、彼らと一緒にこの世界に飛ばされたと思われる三枚のカードは、マリーアが所持するオリジナルを遥かに上回る力を秘めているというのだ。

 

 

「マリーアの言う通りだな。カードの力を知った学園の連中が何か面倒なことを企まないとも限らねえ。この学園の連中が完全に信用出来ない間は、カードのことを下手に教える訳にはいかねえよ」

 

 

 マリーアの言葉に蛮が付け加える。

 この学園の人間が信頼に足る人間だと判断できれば協力を頼むのもやぶさかではないが、現状では難しいだろう。

 

 

「うーん…、結構、信用出来そうな人達だったんだけどなぁ…」

 

 

 そう言って銀次はぼやくが、多数決的には二対一であるため彼は大人しく引き下がった。

 実際、蛮とマリーアの言っていることも決して間違いではないからだ。

 

 

「それじゃあ今後の基本方針を確認するぜ。まずはこの世界での生活基盤を確保。同時に情報収集の継続。さらに行方不明の『神の記述』のカードの捜索だな。俺らが元の世界に戻るのはカードを全て回収するか処分してからだ。とりあえずこの方針で問題ないな?」

 

 

 蛮の言葉に黙って頷く銀次とマリーア。

 かくして麻帆良学園で暮らすことになった三人。

 そして、この世界に飛ばされた三枚のカードを巡って、かつての無限城での『オウガ・バトル』に匹敵するほどの事態が引き起こされることになるのだが、この時の彼らには知る由もなかったのであった。

 

 

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