GetBackers -奪還屋- Parallel Universe 作:世紀末ドクター
蛮たちが麻帆良世界に飛ばされて翌日、彼らは再び学園長室へと呼び出されていた。
学園の主だった魔法関係者への顔合わせと、学園で生活するに際しての注意事項の確認のためだ。
今、学園長室には昨日会った学園長と高畑の二人に加えて、数人の教員と生徒の魔法関係者が集められており、幾人かは蛮達に警戒の視線を送っている。
(まあ、流石に今の状況じゃ警戒されるのも無理はねえわな)
この程度の視線など大して気にする程のものでもない。
蛮たちはそうした視線を全く意に介さずに学園長からの話を聞いていた。
そして、学園長から粗方の話を聞き終えた蛮は率直な感想を漏らす。
「しかし、なんつーか色々と面倒なんだな。こっちの世界の魔法使い、魔法協会ってのは」
基本的に魔法の存在は一般には秘匿とされており、魔法使いは世のため、人のために陰ながらその力を使うのが美徳とされているらしい。
しかし、ここまで大規模な学園都市を運営していることを考えると、何というかその建て前は色々と矛盾を孕んでいるような気がする。
「確かにそうかもしれんの。じゃが残念ながら、魔法の力を私利私欲のために使おうとする人間もおる。そういう者が可能な限り現れないようにするためには魔法使いを組織として管理しておいた方が何かと都合が良いんじゃよ」
少し苦笑しながら言う学園長。
どうやら学園長自身も「魔法の秘匿」や「マギステル・マギ(立派な魔法使い)」という建て前に多少の思う所はあるらしい。
流石に組織のトップに立つだけあって、清濁併せ呑む器量はあるようだ。
「そして、ここが日本での魔法使いの総本山である以上、西洋魔法の情報が多く管理されておる。敵対する組織も皆無ではない。そうした敵対組織に雇われた魔法使いや傭兵なんかが、この学園の機密情報なんかを狙って侵入しようとしているのじゃ」
「なるほどな。それで最初、俺らに対しても神経を尖らせてたわけかい」
学園長の話に一定の理解を示す蛮。
一般人への魔法の秘匿に代表されるような魔法使いのルール。
魔法協会が勝手に決めたルールと言えば確かにそうだが、なにからなにまで自分達の都合だけで作ったわけではない。そのくらいのことは蛮たちにも分かる。
全てのことに納得できた訳ではなかったが、敢えて蛮たちは何も言わなかった。所詮、自分たちはこの世界においては異邦人だからだ。
それに何より―――
(―――真っ当な法律に照らし合わせりゃ、裏稼業の俺らだって所詮はただの無法者だからな)
裏稼業の人間も所詮は無法者。
そのことを考えれば、余所様のルールに口出しする権利は蛮たちには無かった。
もっともそれは学園側との間に下手な軋轢を生まない為であって、いざという時には学園側のルールに従ってやる義理は無いとも考えていたが。
「えーと? 結局、オレ達はどんなことに気を付ければ良いのかな?」
「なに、難しく考える必要はないわい。要するに、一般人に対しての魔法の秘匿の順守と、裏の世界の荒事に一般人を巻き込まないようにしてもらえば、とりあえずは問題ないよ」
蛮とマリーアに比べれば頭の緩い銀次のために要点を絞った説明を学園長が付け加える。
そして、彼は蛮たちのこれからの仕事について話を切り出した。
「さて、君達が『奪還屋』を開業することについて学園側でも検討してみたんじゃが、こちらの試験をクリア出来たなら認めたいと思う」
「試験だと?」
思わず訊きかえす蛮。
そして、学園長は蛮たちに二人の少女を紹介した。
同じ制服を着ているということは、この学園の生徒なのだろう。
白木拵えの太刀を携えた黒髪サイドテールのサムライ少女に、褐色肌と黒髪ストレートロングが特徴のクールビューティーの二人だった。
「桜咲刹那くんに、龍宮真名くんじゃ」
まるで射るような鋭い眼をした二人の少女。
その視線はどこか無限城世界の裏新宿を生きる裏稼業の人間達を彷彿とさせる、プロフェッショナルの瞳だった。
(へぇ…)
蛮は内心で感心するような声を漏らす。
この二人がそれなりの修羅場を潜り抜けた人間だということは、蛮達には見ただけで分かる。
別に男女差別をするつもりは蛮には無いが、女性の身でありながらよくぞという感想を抱かざるを得なかった。
もっとも銀次の場合は、標準以上の美少女二人に単純に見惚れていただけのようであったが。
そして、そんな美少女二人に見惚れている銀次に少し呆れながら蛮が口を開く。
「まさか、このサムライ娘と褐色娘と戦って勝つことが条件だって言うんじゃねえだろな?」
「いや、この二人は任務の協力者じゃよ。この二人と協力して今夜の警備任務・侵入者の撃退任務に当たって貰いたい。その任務での働きいかんで君らに『奪還屋』を開業することを認めたいと思う」
「わざわざ『協力任務』な理由は何だ?」
蛮は学園長に訊ねた。
相手の強さを試すだけなら、わざわざそんな協力任務などという面倒な形をとらなくても良いはずだ。
そのことを学園長に訊ねると彼は「もっともな疑問じゃな」と頷いて言葉を返す。
「うむ。まず前提条件として、ワシ等は君らの依頼人について制限せざるを得ん。つまり、学園と敵対する勢力からの依頼を受けるのは禁止じゃ。わざわざ言うまでもないことだとは思うがの」
依頼人について一応の釘を刺しておく学園長。
普通ならわざわざ言うまでもないことではあるのだが、一癖も二癖もある裏稼業の人間を手元に置いておくなら、ある意味これは必須の条件であると言える。
最悪の場合、いつの間にか裏切られていた、ということも十分に有り得るからだ。実際、最強最悪の『運び屋』と言われた男は、内容に矛盾が起きなければ依頼の掛け持ちをしたり、敵対する勢力同士から同時に依頼を受けたりすることもあったくらいである。
もっとも蛮と銀次の二人の性格を考えるならば、そういった心配はほぼ無いと思われるが。
「そして、君らが『奪還屋』を開業するのであれば、その依頼主はおそらくワシら魔法協会が得意先になるじゃろう。ワシらの手に負えないような厄介事の解決を頼むこともあるかもしれんし、学園の人間と連携しての仕事などを頼むこともあるかもしれん。じゃから今から提示する試験は君らの強さを測るのが目的ではなく、学園側の人間と連携して動くことが出来るかどうかを見るのが目的じゃな」
学園長の言葉に、蛮は頷いて考える。
確かに学園長の言うことは一理ある。特に赤屍に代表される戦闘狂な人間の場合、本来の目的を無視し戦闘を優先したり、戦闘能力は優秀だか作戦行動には組み込みにくいなどといったこともあるからだ。
しかし、学園長が提示した試験の内容は『奪還屋』の仕事と言うより、『始末屋』や『護り屋』がやるような仕事であることに蛮は少し引っ掛かった。
そうした蛮の反応にこれまで沈黙を保っていたマリーアが話し掛ける。
「何か気になる事でもあるのかしら、蛮?」
「気になる事っつーか…」
蛮は頭をガシガシと掻き毟りながら、学園長へと視線を向けた。
「おい、爺さん。俺らはあくまで『奪還屋』だぜ? 警備だとか、侵入者の撃退ってのは『護り屋』や『始末屋』にやらせる仕事だろうが?」
「フォッフォッフォ、確かにそうかもしれんの。じゃが、この学園都市には裏の世界の荒事とは無関係の一般人も多く暮らしておる。そして、そうした一般人を巻き込むことを何とも思わない外道も居る。そうした連中に奪われようとしている平穏を奪り戻して欲しい…という解釈ならどうじゃね?」
学園長はしたり顔でそう言った。
実際、裏稼業の人間は、解釈次第で結構広い範囲の依頼を受けることも多い。
特に、先述の最強最悪の『運び屋』なんぞは、「対象の人間をあの世へ『運ぶ』」という名目で暗殺を請け負うこともあったくらいである。
蛮は学園長の瞳を少しの間、探る様に見つめていたが、やがて「仕方ねえな」という感じに言葉を返した。
「そういう屁理屈めいた依頼は、出来りゃあ止めてもらいたいんだがな。まあ、良いぜ。受けてやっても」
「フォッフォッフォ、頼むぞい」
そう言って、学園長は蛮に右手を差し出した。
そして、蛮はその手を取り、お互いに握手が交わされる。
「さて、この後の任務については今紹介した刹那君と龍宮君の二人に聞いてくれたまえ。君らの働きに期待しとるよ」
「ああ、俺ら無敵の奪還屋『GetBackers』に任せときな」
不敵な笑みを浮かべて学園長の言葉に答える蛮。
「それでは刹那君に龍宮君、彼らのことを案内してもらえるかね?」
「分かりました」
そうして、蛮達は二人の少女に案内されて学園長室から退室する。
蛮達が学園長室から出て行ったところで、集められていた魔法先生の内の一人が学園長に訊ねた。
眼鏡をかけた黒人の男性教師で、最初から蛮達に向けて警戒の視線を向けていた人物の一人であった。
「良かったのですか、学園長?」
「何がじゃね、ガンドルフィーニ君?」
「あんな素性が知れない者達を学園に引き入れるなんて危険ではありませんか?」
正直、もっともな質問である。
しかしながら、下手に敵対した方が遥かに危険なのだからどうしようもない。
真っ向からの戦いではこの学園の誰もあの三人には勝てないからだ。下手に敵に回してしまえば、学園が物理的に滅ぼされることになりかねない。
敵に回すことが出来ない以上、味方に引き入れることを考えた方が何かと得だ。
そして、何より―――
「これはエヴァが言っておったことじゃが、『あの三人はこの学園にとって、敵にはなり得ない』そうじゃよ」
まさかの『闇の福音』の名前が出たことにガンドルフィーニは少し驚いた反応をする。
元600万ドルの賞金首、魔法使いたちの間ではナマハゲ扱いすらされている悪の魔法使いで真祖の吸血鬼。
経験の豊富さという面では彼女の上を行く人物など、この学園にはいない。そもそも勘というものは蓄積された経験から無意識的に導き出されるものである。
そういう意味では、彼女の勘は他の誰よりも信頼できると言える。
「正直、明確な根拠は無いよ。じゃが、彼女の勘は頼りになるからの。ワシも彼女の勘を信じてみることにした」
勘以外の根拠は無いと明言する学園長。
しかし、頭の固い魔法先生の代表であるガンドルフィーニは当然ながら反発する。
「か、勘ですか!? そんな不確かなもので!?」
正直、勘などという不確かなものに全てを委ねるのは責任者として疑問な行動である。
ガンドルフィーニの反応も当然かもしれないが、学園長は事も無げに言い放った。
「何を言っておる? 魔法なんてオカルトの世界に生きる者が、自分の直感を信じなくてどうするんじゃ?」
有無を言わせぬ迫力を秘めた学園長の視線。
その迫力に呑まれたのか、ガンドルフィーニはそれきり何も言わなくなる。
ガンドルフィーニ以外の教員も今回の決定に各々思う所はあるようだったが、トップが決めた以上、末端としてはそれに従うほかない。
結局、その後は誰も何も言うことなく、散会となったのだった。
◆
一方、その頃。
蛮、銀次、そしてマリーアの三人は、学園の敷地を二人の少女に連れられて歩いていた。
それぞれ桜咲刹那と龍宮真名という名前らしいが、標準的な感性からすれば間違いなく二人とも美少女の範疇に入るだろう。
しかし、二人からよくよく話を聞いた結果、蛮と銀次は揃って驚愕することになる。
「えっ、嘘!? 最低でも高校生だと思ってたのに!?」
「その胸で…中学生、だと…?」
刹那の方はともかく、真名のナニを見て「なん…だと…?」と驚愕の顔を見せる蛮と銀次。
彼らが知る同じくらいの年齢の女子と言えば、『HonkyTonk』のアルバイトである仙洞レナと水城夏実が居るが、はっきり言って彼女達では勝負にならない。
仙洞レナも中学生にしては相当な体つきをしているはずなのだが、真名のそれは彼女すらも明らかに上回っているから驚きである。
ちなみに蛮の脳内スカウターによれば、バストサイズという戦闘力は龍宮真名(88.9cm)>仙洞レナ(81cm)>>水城夏実(72cm)>桜咲刹那(71cm)の順である。
え?マリーア? 見た目を誤魔化してる100歳のババアなんてノーカンですよ。
「レナちゃんも相当スタイル良いはずなのに…」
「まさに胸囲の格差社会だな…」
そう言って、蛮は刹那の方をチラリと見た。
どこか憐みの混じったような蛮の視線。
その視線に刹那のこめかみがビキビキ来ている。
「…何か私に言いたいことでも?」
「いや別に? 71cmでも中学生なら普通のレベルじゃね?」
「な、何で、71cmだって分かって!?」
数値を言い当てられた動揺からか、自分で墓穴を掘る刹那。
どうやら蛮の目測での予想は完全に当たっていたらしい。さすが『自称・乳を極めた男』の二つ名は伊達ではない。
蛮は刹那の反応にケラケラと笑いながら言った。
「ククッ、その反応だと本当に当たってたみてえだな? ただの目測からの予想だったんだが」
自分で墓穴を掘ったことに気付いた刹那は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「こ、このっ、無礼者っ!!」
そうして、刹那はプンスカとそっぽを向いてしまった。
蛮と刹那以外のメンバーは、そんな二人を「やれやれ」といった顔をして見ている。
「あ~あ…、また蛮ちゃん、女の子、怒らせちゃったよ…」
「全く…、女の子の扱いが全然なってないわよ、蛮」
蛮のセクハラ発言に溜め息を漏らすマリーアと銀次。
もっともこのくらいのセクハラ発言なら、実のところまだマシな方だと言える。本気のセクハラであるならば、この男、絶対に揉んでいるはずだからだ。
もしかしたら、相手が中学生ということもあって多少は遠慮しているのかもしれない。
「おいおい、そんな怒んなよ。揉んだりしないだけマシだろ?」
「し、知りません!」
そっぽを向いたまま一人でずんずんと進んでいく刹那。
そして、そんな刹那の様子を見ていた真名が「やれやれ」といった感じの顔をして口を出した。
「美堂さん。あまり刹那をいじめないでくれないかい? 彼女は堅物というか、真面目過ぎて、余り冗談が通じない性質でね」
「あ~、確かにそんな感じだな」
「うん、何となくだけど、刹那ちゃんからは十兵衛と同じにおいを感じるよ」
真名の言葉に蛮と銀次は納得したという感じの反応を返す。
何というかこの少女は、蛮と銀次の知り合いである筧十兵衛と性格的に非常に似ている気がする。
「へえ? 十兵衛って人も刹那みたいな堅物なのかい?」
「ああ、ありゃあ堅物中の堅物だぜ。サムライみたいな性格っつーか、生まれる時代を間違ったとしか思えねえ奴だからな」
「でも、最近は結構はっちゃけて、寒いギャグを飛ばしまくるキャラになっちゃってるんだけどね~」
話しながら蛮と銀次はかつての十兵衛のことを思い出していた。
蛮と銀次が知る十兵衛は、非常に生真面目な性格で、自分の信念に殉ずる事が出来る侍であった。
そして、MAKUBEXに「冗談が通じない」と言われた事を切っ掛けに、現在はギャグの修行中である。しかしながら、そのギャグセンスは悲しいほどに欠けており、かつての『無限城鬼ごっこ』の際にダジャレを披露した時など、あまりの寒さに蛮、花月、雨流をも凍らせたくらいである。
蛮と銀次の語る十兵衛の話を聞いた真名はクスリと小さく笑う。
「クスッ、随分と愉快な友人を持ってるみたいじゃないか?」
「あの寒いギャグに付き合わされるこっちにしてみりゃ堪ったもんじゃねえけどな」
「あら、そう? 私は結構好きよ。不器用で可愛いじゃない」
そうした感じで、歩きながら仲良さげに雑談を続ける刹那以外のメンバー。
そんな雰囲気に少しバツが悪くなったのか刹那が怒鳴った。
「龍宮! そんな不審者と馴れ合うのは控えろ!」
「落ち着けよ、刹那。どちらにせよ今夜の警備はこの人達と一緒だ。だったら、お互いのことを知っておくのも悪くはない」
「くっ! だが!」
「もちろん警戒は必要だろうさ。だが、余り根を詰め過ぎても問題だ。そんな状態で普段の力を出し切れるのか、刹那?」
そう言って真名は刹那の方を見た。
真面目な性格なのは結構だが、真面目にやり過ぎて潰れてしまっては意味が無い。
自分の感情をコントロールし、常に100%の力を発揮できる者が本当のプロフェッショナルだ。
「それに私達はプロだ。それが任務の内であるのなら、組む相手は選ばない。そして、与えられた任務は完璧に遂行する」
違うか? と、真名は視線で訊ねた。
真名に言われて刹那も少しは頭が冷えたらしく、少し苦々しげに呟く。
「……わかっている」
またそっぽを向かれてしまった。
そんな刹那の様子に真名は「やれやれ」といった感じに肩を竦めて見せる。
「つか、テメェ、本当に中学生か? プロ意識の高さといい、乳のデカさといい、明らかに中学生のレベルじゃねえよ」
「そうだねー。下手したらオレらよりずっと大人に見えるよ」
蛮と銀次は率直な感想を漏らす。
「フフッ、褒め言葉と受け取っておくよ。胸のデカさ云々のセクハラ発言は余計だけどね」
「いや、乳のデカさは重要だぜ? ちなみにテメェのは88.9cm。どうよ。当たってるか?」
「フッ、黙秘権を行使させてもらうよ」
蛮のセクハラ発言にも余裕の対応。
一体どんな生き方をすれば、こんな大人びた中学生が出来上がるのやら。
ちなみに蛮の88.9㎝という目測はドンピシャで当たっており、0.1㎝単位で大きさを見切られた真名の内心は外面とは裏腹にかなり動揺していたらしい。
(何て奴だ…。ここまで完璧に見抜くなんて…)
内心で動揺しまくる真名。
学園長はこの三人は学園の敵にはならないと判断したらしいが、少なくともこの男は女の敵である気がする。
かくして刹那と真名の脳内には、蛮=セクハラ男という図式が完璧に出来上がってしまったのだった。
今の時系列はネギが麻帆良に来る前です。