GetBackers -奪還屋- Parallel Universe 作:世紀末ドクター
刹那と真名の二人に連れられて学園の敷地を歩く我らが奪還屋メンバー。
適当に話しながらしばらく歩いていたが、目的地に到着するまでの間、刹那が物凄い冷たい視線で蛮のことを睨みつけていたのが印象的だった。
もっとも蛮にとって、他人からの恨みを買うなどということは半ば日常のことであり、蛮自身は特に気にしていない様子だったが。
「さて、それじゃあ早速、今夜の警備任務の説明をさせてもらうよ」
そうこうしている内に目的地点に到着し、真名は懐から地図を取り出した。
「今の地点がこの地図のここ。そして、私たちの警備範囲はこの地点を中心にしてここからここまでの範囲になる。この範囲内に現れた敵を残らず殲滅するだけの簡単なお仕事だ。以上、何か質問はあるかい?」
余りにもザックリとした真名の説明。
下手に長ったらしい説明をされるよりは余程良いが、余りにも簡潔すぎる。
当然ながら幾つかの疑問が出てくる。
「学園への侵入者とか襲撃者ってのは、そんなに頻繁に来るのか?」
「いや、本当に襲撃があるのはせいぜい週に1回といった所かな。それにしたって大抵の場合はこちらの流した囮情報に引っ掛かって襲撃を仕掛けてくる間抜けな輩が殆どだよ。だから、襲撃があるような時はこちらは最初からその情報を掴んでることが多いんだ。こちらにしてみれば、まさに『飛んで火に入る夏の虫』な訳だよ」
真名は意地の悪そうな笑みを浮かべて言った。
どうも真名の話を聞く限り、麻帆良学園に侵入しようとする輩は囮情報に引っ掛かって無謀な襲撃を仕掛けてくる連中が大部分らしい。
もっとも、学園側が流した囮情報とは無関係に侵入・襲撃を仕掛けてくるような連中も全くのゼロではないため普段からの警備役を配置しておくことは必須であるようだが。
ちなみに真名と刹那の二人が警備の担当となるのは月曜日と木曜日らしい。
「ふーん、それじゃあ今夜はどこのどいつが襲撃してくるかは分かってるのか?」
「今回の場合は『飛んで火に入る夏の虫』のパターンだよ。うちの情報部が『関西呪術協会』に所属している術師の何人かが今夜の襲撃を企てているという情報を掴んでいる」
「呪術協会ですって?」
真名の話に出てきた呪術協会という単語にマリーアが反応した。
かつての無限城世界においての彼女は呪術師と敵対する立場だっただけにその言葉に反応するのも無理はない。
そして、そんなマリーアに真名が解説を入れてくれた。
「陰陽術とかの東洋魔術系の術師や退魔師なんかが所属している組織さ。元々は日本という国を古くから霊的に守護してきた秘密機関だったらしい。
そして、私たちの所属する『関東魔法協会』は明治時代初期に西洋文化の流入の時期に西洋魔法使いによって作られた組織だ。つまり、向こうにしてみれば余所者の西洋魔法使いが幅を利かせている状況な訳だよ」
どうやら彼女の話を聞く限り、『関西呪術協会』との関係は余り良くないらしい。
確かに後からやって来た余所者がデカイ顔をしていたのでは「余所者が調子のんな(#゚Д゚)ゴルァ!」という気分にもなるだろう。
しかし、両者の仲が悪いのは、それ以外にも色々な理由がある気がする。対立する組織同士の争いとは基本的に縄張り争いであり、縄張り争いである以上は各組織の勢力圏の境界域で発生するのが普通だからだ。
単純な縄張り争いというには関西と関東では地理的に距離が離れすぎており、いきなり敵の本拠地に殴り込みを仕掛けて来るのは不自然だ。
「っていうか、わざわざこっちの本拠地に直接殴り込みを仕掛けて来るってのは、仲が悪いを通り越して、普通に戦争状態なんじゃ…?」
当然ながら銀次が突っ込みを入れる。
客観的に考えるのなら両者の組織は戦争状態にあるとしか思えない。
しかしながら、この次に刹那の口から出た言葉は、彼らにとって信じられないものだった。
「いえ、仲が悪いのは末端の構成員だけで、別にトップ同士は悪くないんですよ? 関西呪術協会の長である詠春様は学園長の婿養子ですし…」
「は…?」
刹那の言葉に思わず固まる蛮と銀次。
マリーアですら余りにも予想外な刹那の言葉に唖然としている。
刹那の話を聞いた三人は一瞬茫然としていたが、いち早く落ち着きを取り戻した蛮が訊ねた。
「つか、それって殆ど傀儡組織になってるんじゃねえの?」
「え?」
その質問に一瞬キョトンとした顔を浮かべて、間抜けな声を上げてしまう刹那。
蛮としては当然のことを指摘しただけのつもりだったのだが、どうやら彼女にとっては余り深く考えたことのない疑問であったらしい。
だが、今のこの状況を客観的に見た場合、正直、傀儡と思われても無理はない。
「だって、『関西呪術協会』の会長は、あの爺さんの婿養子なんだろ? 普通に考えたら義父には頭が上がらねえ気がするんだが…」
実際に『関東魔法協会』が『関西呪術協会』をどのように扱っているかは蛮達は知らない。
だが、もしも下部組織あるいは傀儡組織として扱っていたとするなら、『関西呪術協会』の連中が不満を持つのも無理はない気がする。
下手をすれば協会長の暗殺やクーデター程度のことを企んでる奴が居たとしても不思議ではない。…というか、実際にこちらの本拠地に殴り込みを仕掛けてくる奴が居る時点で、すでに決定的である。
そもそもトップ同士の仲が良いのに組織の下っ端が殴り込みに来ているということは、向こうの組織は下っ端が暴走するのをトップが全く抑えられていないということに他ならない。
ひょっとすると、向こうの『関西呪術協会』の組織内部は保守派と過激派で内部分裂に近い状態なのかもしれない。
蛮がそのことを指摘すると、真名は少し考えるように間をあけた後、刹那に話を振った。
「ふむ…、その辺りの政治的な事情はどうなんだ、刹那? 少し前まで関西呪術協会に所属していたお前なら、その辺の事情にも詳しいんじゃないのか?」
「え? す、すまん、龍宮。私はそういう政治的な話には疎くて……」
刹那も『関西呪術協会』の術師が、『関東魔法協会』との関係を巡って融和派や反対派などのいくつかの派閥に分かれていることは何となく知ってはいた。
だが、協会の中でのそうした派閥がどのような勢力関係にあるのか、刹那には全く把握出来ていなかった。京都で暮らしていた時ですらそうだったのだから、京都から離れた今となっては各派閥の現状の勢力関係など猶更把握できるわけがない。
そうした刹那の反応をみた蛮は、小さく溜め息を吐くと少し呆れたように言った。
「なんつーか、向こうの組織はこっち以上にキナ臭いにおいがするな…。向こうの組織の会長はいつ暗殺されても不思議じゃねえんじゃねえか?」
「状況からの推察だけだと、その可能性は高いわね。どちらにせよ末端の暴走を抑えられていない時点で、近衛詠春という人は組織のリーダーとしては失格でしょうけどね」
蛮の意見にマリーアが付け加える。
組織のリーダーとしては失格などという散々な評価を下される近衛詠春。
だが、仮にも組織のリーダーという立場にいる以上、組織内部の不満に対して対処するのは義務である。
もしかしたら詠春自身もそれなりに努力はしているのかもしれないが、結果を出せない以上は無能という評価を下されても仕方ない。
刹那としては自分のことを拾ってくれた恩人でもある近衛詠春のことを余り悪く言われるのは少し抵抗があったようだが、彼らの分析は極めて的確であり刹那に反論できる余地はまるで無かった。
詠春自身、かつての大戦時の英雄であり、そこらの刺客に遅れを取ることはそうそう無いと思われるが、はっきり「いつ暗殺されても不思議じゃない」と明確に言葉にされると刹那といえど多少は不安に思わずにいられなかった。
(今度、手紙でも送ってみよう…)
心の中でそう決める刹那。
そして、そうした刹那の不安を読み取ったのか、不意に銀次が話し掛ける。
「何か気になる事でもあるの? 刹那ちゃん」
「え?」
「だって少し不安そうな顔してたからさ」
「い、いえ…」
刹那は表情を取り繕ろうとするが、どう見ても取り繕えていない。
銀次も蛮も、敢えて深く突っ込むような真似はしなかったが、このまま無視するのも具合が悪い。
だから、蛮はまるで挑発するように刹那に言った。
「おい、貧乳サムライ娘。何が心配なのか知らねえが、テメェの仕事はきっちりしろよ?」
「あ、貴方に言われるまでもありませんよ!」
貧乳などと挑発するように言われ、思わず激昂して怒鳴る刹那。
そうして、彼女はまたしてもプンスカとそっぽを向いてしまった。
(蛮ちゃんなりの発破の掛け方なんだろうけど、もう少しどうにかなんないのかな、これ…)
(らしいんだけど、ちょっと不器用すぎるわね、やっぱり…)
おそらく蛮なりの発破の掛け方なのだろうが、もう少し他の言いようは無いのだろうか。殆どいつもの事とはいえ、マリーアと銀次は「やれやれ」と苦笑い気味に肩を竦めた。
しかしながら、蛮の挑発のような発破はそれなりに効果はあったようである。
(こ、こんなセクハラ男に無様な姿を晒して堪るか!)
どうやら蛮の言動は刹那のプライドを微妙に変な方向に刺激したらしい。
その後、事前の打ち合わせを済ませ、その場は一時解散となるのだが、夜の警備任務が始まるまでの数時間、刹那は自らの愛刀『夕凪』の手入れをやけに念入りに行っていたのだった。
◆
そして、時間は移り、深夜の麻帆良学園。
事前の打ち合わせ通り、真名と刹那の二人と指定の場所に合流する奪還屋メンバー。
「さて、今夜はよろしく頼むよ?」
「ああ、俺ら無敵の奪還屋『GetBackers』に任せときな」
そう言って蛮は不敵に笑ってみせる。
どんな相手だろうが負けはしない。どんな修羅場だろうと切り抜けられる。そんな絶対の自信が感じられる笑みだった。
そして、彼らが合流して間もなく、何かの気配に気付いた銀次が声を掛けた。
「そろそろ来たみたいだよ、蛮ちゃん。何かいきなり気配が増えた」
「どの辺りか分かるか?」
「えーと、あっちの森の方かな。何か変なざわざわした気配を感じる」
そう言って、銀次はおよそ500m先にある森を指差した。
その言葉に刹那、真名は訝しげな反応を見せる。真名や刹那にはそんな気配など欠片も感じ取れない。
しかし、この次に真名の通信機に入ってきた情報に彼女たちは揃って驚くことになる。学園都市の結界の感知機能に何者かが引っ掛かったという情報と、その場所情報が通信機から伝えられたが、その場所はまさに銀次が言った場所と見事に一致していたからだ。
(まさか、この遠距離で…!?)
真名と刹那は驚いた目で銀次を見る。
流石にこの距離から気配を殺しているような相手の存在を探るのは真名と刹那には無理だ。…というより、蛮とマリーアにすら無理である。
生体の発する微弱な電磁場を感知することが出来る銀次だからこそ可能な感知であり、その感知能力はもはや生体レーダーの域に到達していた。
「よし、それじゃ行くか、銀次」
「うん!」
蛮と銀次の二人はお互いに視線を交わし頷き合う。
そして、蛮は肩越しに振り返ると、後ろに居る他のメンバーに声を掛けた。
「そんじゃ俺と銀次は先に行くぜ?」
「ええ、先に行ってなさい。術者の方は私と真名ちゃんで担当するわ」
そう言い終わると同時、蛮と銀次の二人は全く同時に地を蹴った。
数瞬ほど遅れて刹那が走り出すが、全く追いつけていない。その距離はあっという間に広がっていく。
(速いっ…!)
瞬動を使わない単純な足の速さの比較では、二人とも明らかに刹那を上回っていた。
つまり、単純な身体能力では二人とも完全に刹那以上ということだ。100mを5秒以下の速度で走り抜け、あっという間に目的地の森へと到着する。
そして、そこには明らかに人間とは違う異形の怪物たちが蠢いていた。呪符による召喚された妖怪の群れ。ざっと見渡しただけでも数十から百体の妖怪がひしめき合っており、その様はまさに『百鬼夜行』という言葉が相応しい。
「へえ…、これがこっちの世界の『鬼』って奴か」
「ってことは、『鬼退治』だね! 猿犬雉は居ないけど!」
蛮と銀次の二人はそんな妖怪達がひしめく敵地のど真ん中に飛び込んだ。あまつさえ鬼退治などと余裕の軽口を叩きながらである。
突然に現れた二人の男に周囲の妖怪達ですらが、唖然とした顔をしている。
「あ~ん!? 何だテメェら!?」
当然ながらすぐに周りを取り囲まれる蛮と銀次。
だが、そんな普通に考えたら絶対絶命のピンチの状況であろうと二人は余裕な態度を崩さない。
そんな自分達を雑魚と侮るかのような態度に妖怪達はプライドを刺激されたのか、一人の妖怪が近い方に居た銀次に襲い掛かる。
「死にさらせや、糞ガキが!!」
しかし、その攻撃はかすりもしなかった。
はっきり言って、この程度の斬撃など赤屍に比べたら本当に止まって見えた。
銀次は大上段から打ち下ろされる大太刀を左足を引いて半身になるだけで避けると、そのまま相手の鳩尾部分に右手で軽く触れる。
たったそれだけに見えたのに相手の身体は動かなくなり、そのまま地面に崩れ落ちた。
「あ、良かった。俺の能力(チカラ)もちゃんと効くみたいだよ、蛮ちゃん!」
「そうみてえだな。そんで倒されるとこうやって黒い煙になって消える訳か…」
黒い煙となって消えて行く妖怪。
その様子を見た鬼達の間に戦慄と動揺が走る。
無論、言うまでもなく銀次の能力である電撃のダメージによる物だが、必要最低限の動きと威力で撃たれたそれは傍目にはただ触れただけで倒したようにしか見えなかったからだ。
「な、なんだ小僧!? 今、何をした!?」
「さてな? テメェで考えな」
そう言って挑発するような笑みを浮かべる蛮。
そんな蛮に向かって太刀が振るわれるが、蛮はそれを真っ向から受け止めた。
もはや真剣白刃取りといったレベルではない。蛮は振り下ろされた刃を横合いから片手で掴み取って止めていた。
掴まれた刀はまるで万力で固定されているかのようにビクリとも動かない。
「悪いが、人間じゃねえ化け物が相手だってんなら、俺も久しぶりに遠慮しねえぜ」
バキンと音を立てて、まるで割り箸か何かのようにへし折られる刀。
妖怪は驚愕に目を見開くが、次の瞬間には全てが終わっていた。
「なッ!?」
次の瞬間、蛮は既に相手の懐に飛び込んでいた。
そして、蛮は指を立てた掌底―――虎爪と呼ばれる拳の形で相手の胸に一撃を叩き込むと、そのまま指を握力でめり込ませて相手の心臓を抉り取っていた。
―――ドチャリ
心臓の部分を丸ごと抉り取られたそれは、醜い音を音を立てて地面に崩れ落ちた。
一目見ただけで明らかに即死と分かるダメージ。しかし、心臓をぶち抜かれた鬼は自分の身に何が起こったかすら正確には把握できずに絶命したことだろう。今の蛮の動きはそれほどまでに速かった。
蛮は黒い煙になって消えていく心臓を無造作に投げ捨てると、挑発するように言った。
「どうしたよ? 鬼ってのはそんなもんか?」
まるで何でも無いことのように心臓を抉り抜いてのけた蛮に怯んだ様子を見せる妖怪達。
この時の蛮は、もしかしたら鬼や悪魔以上の残酷な笑みを浮かべていたかもしれない。
「それとも―――」
蛮はいったん言葉を切った。
そして、一呼吸置くと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて嘲る様に言った。
「―――怖いのか?」
ある意味、これ以上に無いほど挑発的な言葉だっただろう。
人間に恐怖を与える存在であるはずの妖怪が、人間に恐怖するなどあってはならない。
そんな彼らの矜持を逆撫でする言葉であり、彼らの怒りの感情は一瞬で沸騰する。
「こ、このクソ砂利どもがぁ!!」
「野郎、ぶっ殺してやらぁ!!」
「生かして帰すなぁぁぁ!」
蛮と銀次の二人に一斉に襲い掛かる妖怪達。
しかし、そんな百鬼夜行の群れも蛮と銀次の前にはただの有象無象でしかなかった。実際、このくらいの相手なら無限城ベルトラインでの怪物たちの方が遥かに強い。
圧倒的なスピードとパワーを活かした荒々しい動きで、オーバーキルとも言えるような肉体破壊を伴うダメージで倒していく蛮。そして、相手の攻撃を最小限の動きで見切り、肉体破壊を伴わない最小限の電撃のダメージで倒していく銀次。
見た目に対照的な戦い方の両者だがその強さはどちらも圧倒的であり、襲い掛かる妖怪達を片っ端からなぎ倒して行く。
そうして既に40体近くの妖怪が倒されたところで、ようやく刹那が遅れて現場に到着した。
「神鳴流奥義『斬岩剣』ッッ!!」
到着するなり繰り出される神鳴流の奥義。
その斬撃で数体の妖怪がまとめて真っ二つに両断され、さらに踏み込んで、もう1体が返した刃で切り払われた。
そして、蛮と銀次の二人は到着した刹那を背中合わせに、お互いの背中をかばい合う体勢を取った。
「無理はしなくて良いからね、刹那ちゃん!」
「もう少しゆっくり来ても良かったんだぜ?」
「フン…、余所者だけに任せる訳には行きませんよ」
お互いに視線すら合わせず、背中越しに不敵に言い合う。
油断なく構える刹那に蛮は言った。
「ヘッ、良い心掛けだ。それなら俺と銀次がフォローに回ってやるから、テメェは背中を気にせずに好きに戦いな」
「言われなくとも!」
そう言って、手近な敵に向かって踏み込む刹那。
蛮と銀次の二人もそんな刹那をフォローする形で同時に踏み込む。
妖怪達がひしめく敵陣のど真ん中だというのに笑みすら浮かべて戦い続ける蛮と銀次。
しかし、既に50体以上は倒しているはずなのに、全体の敵の数はどういう訳か減っていなかった。
「てか、周りの敵の数が全然減ってないんだけど…」
「やっぱコイツらを召喚してる術者を倒さねえとキリがねえみたいだな。まあ、そっちは事前の打ち合わせ通り、マリーア達に任せようぜ。あの二人なら心配いらねえよ」
刹那が討ち漏らした敵の一匹の頭を『蛇咬(スネークバイト)』で捻じ切る片手間に蛮が言う。
そして、まさにちょうどそのタイミングで、マリーアと真名の二人は召喚者である術者たちを始末するべく動き出そうとしているところだった。
◆
蛮達が前衛として派手に戦っているちょうどその頃、
マリーアと真名の二人は少し離れた場所で、その戦いの様子を窺っていた。
(スゴイな…)
遠目で見ていた真名は蛮と銀次の二人をそう評した。
単独での戦闘力は間違いなく一流以上。しかも、あんな敵陣のど真ん中で混戦を繰り広げているのに、お互いの動きを阻害することは全く無い。
それどころか絶妙な位置取りと誘導で、妖怪達の同士討ちを誘発するという離れ業すらやってのけている。さらに二人とも常に刹那をフォローできるような位置取りを気を付けてくれていることが遠目に見ている真名には分かった。
そうして、少しの間、彼らの戦いに見入っていた真名だったが、マリーアに話し掛けられて我に返る。
「どうかしら? あの二人は」
「間違いなく一流の動きのそれですよ。彼らが前衛で戦ってくれるのなら私としては頼もしい限りです」
「それじゃ狙撃の準備は大丈夫?」
「ええ、いつでも行けます」
「フフッ、ならこっちも隠れてる術者を片っ端から潰して行きましょうか」
手持ちのスナイパーライフルを構え、狙撃の準備に入る真名。
普段なら狙撃手と観測手の二つの役割を自分一人で担っているところだが、今はマリーアが観測手の役割を分担してくれていた。
すでにマリーアによって術者の居場所は割り出された後であり、後は一人ずつ確実に始末していくだけだ。
しかし、僅か2分で隠れている術者全員の正確な居場所を割り出すとは一体どんな手品を使ったのか。
真名がそのことを尋ねるとマリーアは意外にもあっさりと教えてくれた。
「あら、別に大した事はしてないわ。ただの『ダウジング』よ」
そう言って、彼女は胸元のペンダントを取り出した。
どうやら彼女はペンダントを振り子に使ってダウジングで居場所を割り出したらしい。確かに、それ自体は別に珍しい技法ではない。
だが、彼女の場合、割り出しまでに掛かった時間が余りにも短い。時間制限さえ無ければ麻帆良学園の魔法使いにも出来る者は居るだろうが、わずか2分という時間制限付きとなると難易度は桁外れに跳ね上がる。
そんな離れ業を易々とやってのけるマリーアのレベルも一流以上の水準にあることは明らかだった。
「命中(ヒット)」
撃った弾丸が命中したことを確認する。
しかし、どうやら今のでこちらの場所が敵側にばれたようだ。
「それじゃポイントを変えるわよ」
そうして、転移術式を発動させるマリーア。
前衛に出ている三人組が敵の注意を引き付け、絶えず最適な狙撃ポイントに移動しながら、召喚者である術者に一方的な狙撃を加える。
まさに事前の打ち合わせ通りの流れであり、この調子で行けば他の魔法教師や魔法生徒の増援なども必要無いだろう。
(まさか、こうも楽な仕事になるとはね…)
淡々と狙撃をこなしながらも真名は、少し信じられない気持ちでいた。
今回の襲撃は、普段であれば、確実に増援を要請しなければならないレベルの規模だった筈だ。
しかし、実際には増援が必要ないどころか、わずか10分で全員の敵が制圧・捕縛されることになる。
そして、真名と刹那の報告を受けた学園長は、奪還屋メンバー三人の働きを認めざるを得ず、蛮と銀次の二人に『奪還屋』を開業することを認めることになったのだった。
次回、第六話『カードは拾った by 長谷川千雨』
※タイトル・内容は予告なく変更の可能性があります。