モンスターハンター In My Eyes   作:あずき犬

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キャラバンで狩りの準備をしているイズナに団長が声をかける。

「大切な話があるから来てくれ」

「第10話 出発」
どうぞ。


第10話 出発

真夜中のギルド大船の甲板上。ギルドマスター、団長、マリア、ガルティア、ナズナが車座になり酒を囲んでいる。

満天の夜空には青白い満月が煌々と彼等に光をそそいでいる。

盃を手にギルドマスターが口を開く。

 

「エイギルから連絡があった」

 

談笑していた皆がマスターに視線を送る。

 

「湖森地方に派遣された書士隊が変異モンスターを確認したらしい」

 

皆が盃を置き、マスターの方に向き座り直す。

 

「ハンターは意識不明の重体。同行した書士も重傷だそうじゃ」

 

マスターは自分の盃に酒を注ぎ口を付ける。

 

「強個体ではなく?」

 

マリアが膝を進めて尋ねる。マスターは盃にもう一度口を付ける。

 

「うむ。ジンオウガの通常個体だったらしい」

 

ガルティアが盃を置く。

 

「やはり討伐後に」

 

マスターは頷く。

 

「うむ。討伐後、剥ぎ取りに近寄った時に黒い息を吐きながら蘇ったそうだ」

 

団長が腕を組む。

 

「その後強固体に変異したと」

 

マスターは盃を置く。

 

「書士隊の目でも追うのがやっとだったそうじゃ」

 

モンスターの姿を描写する専門部隊である書士隊は特殊な訓練により動体視力が強化されている。

冷たい風が甲板を走り抜けた。帆を畳んだマストが風に揺れ軋んだ音をたてる。沈黙を破りマリアが団長に膝を向ける。

 

「書記官殿」

 

団長は盃の酒を一気に口の中に流しこんだ。

 

「狂竜ウィルスだ」

 

団長の一言に皆が頷く。 皆の脳裏にある記憶が蘇る。

 

 

黒龍討伐隊。

 

今から20年ほど前、大陸北海沿岸の東シュレイド城跡において、漆黒の甲殻を持つ巨大なモンスターの目撃情報が旧シュレイド付近で活動している密猟団の間でまことしやかに語られ始めた。

真相を確認するためドンドルマから派遣された書士隊が東シュレイド城跡において、気球船上から目視で黒龍の復活を確認し、ドンドルマに伝書鳥を飛ばした。 黒龍復活の知らせを受け、ギルドは各集会場で抜きん出た能力を持った上位ハンターを選別し、秘密裏に即席の討伐旅団を立ち上げた。これが黒龍討伐隊である。

討伐隊は1番隊から7番隊まで結成され、それぞれが4人で1隊を形成していた。1番隊から5番隊がハンター部隊、6番隊は総指令隊、7番隊は予備隊となる。討伐隊に選ばれたハンターは各集会場でハンター名簿の先頭に名前が記入され、高難度のクエストを専門とするハンター達であったことから他のハンター達から筆頭ハンターと呼ばれた。現在の筆頭ハンターの語源とされている。

事情通のハンター達は、向き合うだけで黒龍病に侵され死に至るとの伝説がある黒龍に挑む彼等を羨望の眼差しで見上げ、命知らずと蔑んだ。

ドンドルマ中央にそびえ立つ真っ黒な直方体の高層建築物、通称断頭台の前の広場に一人、また一人と強個体や希少種モンスターから作られた装備を身に纏ったハンターが集まった。重い荷物を無造作に地面に置き、彼らはみな一様に、太陽の光に目を細め、断頭台を見上げる。

一般には非公開のまま、討伐隊はドンドルマのギルド本部を出発し、北面街道を北進し、各地でモンスターを討伐しながらシュレイドを目指した。旧東シュレイド領域に入ると、出会うモンスターは強個体が主となるも、連戦を戦い抜き、気を抜けない野宿を繰り返し、進撃を続けた。東シュレイドの廃墟となった町で銀色に輝く銀火竜と黄金色に光を放つ金火竜の挟撃を受け、1番隊、4番隊が戦闘不能になった。さらに東シュレイド城跡直前で遭遇したグラビモス亜種の群に3番隊、5番隊が全滅した。

この時のグラビモスの最後の一体が討伐後に黒い息を吐き出しながら蘇り、討伐隊の背後から灼熱の熱線を吐き出し、後方で部隊の再編成に当たっていた6番隊を全滅させた。その後、公式発表では2番隊と7番隊がミラボレアスを討伐したとされている。当時の2番隊隊長がガルティア、副長がマリア、7番隊隊長で全滅した6番隊の討伐隊総司令の代わりに部隊を指揮していたのが団長、補給や支援として同行したアイルー隊の隊長がナズナの父親であった。

直接目で見た者も、父親から夜ごと話しを聞かされたものも、蘇ったグラビモス亜種の熱線を真後ろから突然受けた恐怖はハンター人生のなかでも最大の恐怖として胸に刻まれている。突然の閃光、熱風、自分達のすぐ横を黒焦げの塊が飛び超えていく。衝撃に倒れ込み、起き上がると、そこはまさに地獄の様相を呈していた。炭化して絡まる腕や足。人の形を保つことすらできなかった者達。狂気の塊となってグラビモス亜種を討伐した。団長はこの時から黒い息について研究を始めた。

 

 

「エイギルからの指示は2つある」

 

ギルドマスターは指を一本立てた。

 

「まず筆頭ハンターにあっては今まで通りバルバレ近辺において狩猟を続け、変異体を探し出すこと」

 

筆頭ハンターの2人は頷く。ギルドマスターは団長の方に向き直し、指をもう一本立てる。

 

「団長、お前さんのキャラバンは速やかにバルバレを離れること」

 

予想していたのか、団長は腕を組み苦笑いをする。ナズナが団長の前に飛び出す。

 

「そんな急な話しはないニャ。ハンターさんはバルバレのためにあんなに一生懸命に頑張ってるニャ。あと少しで一人前ニャのに」

 

毛を逆立て叫ぶナズナを団長が制する。

 

「マスター、指令を一言一句教えてくれ」

 

ギルドマスターは団長を睨み、頷く。

 

「あのハンターを抹殺せよ。若しくは辺境へ追放せよ」

ナズナはその場にうなだれ座り込む。団長は腕を組み、ギルドマスターを睨みつける。

 

「奴を見つけたんだな」

 

団長はギルドマスターににじり寄る。筆頭ハンター達が、

 

「あっ」

 

と声をあげる。ギルドマスターは目を閉じ、しばらく考えた後、

 

「ああ」

 

絞り出すような声で答えた。

重苦しい沈黙が流れる。皆は腕を組み俯き、目を閉じる団長を見る。

甲板を冷たい風が吹き抜け帆柱の軋む音が響く。

ナズナが心配そうに団長の顔を覗きみる。

団長はため息を着くと立ち上がった。

 

「分かった」

 

つぶやいた団長は、振り返ることなく甲板の出入口に向かって歩きだした。後をナズナが追う。

 

「書記官殿」

 

去ってゆく団長の背中に立ち上がったマリアの声が虚しく響いた。

 

 

 

 

 

「まあ、そういう訳で、ナグリ国に行くことになった」

 

朝、団長はキャラバンに団員を集めた。

 

「ずいぶんと急な話しだな」

 

カガリが呟く。

 

「年鑑効果もあってクエストもいっぱい来てるのに」

 

エルザは口を尖らせる。

 

「まあ、そう言いなさんなって。ナグリのおっさんには昔から世話になってるから。なっ」

 

団長はカガリとエルザの肩を叩く。

 

「ナグリといえば火薬草を使った料理が有名ニャル」

 

ハクが呟く。団長が腕を組み頷く。

 

「そうそう。装備の加工技術も最先端。火山にゃ珍しいモンスターもいる」

 

カガリも頷く。エルザも渋々ながら納得したようだった。

 

「よし、では出発準備が出来次第バルバレを発つ。昔からバルバレの町は荷物を降ろす所で根を降ろすところにあらずって言われてるしな」

 

ナグリの主要産業である工業の動力源となっている地熱変換施設にモンスターが出て困っているらしい、というのが団長が言った移動の理由だった。専属のハンターは留守らしいが、通常のクエストで済みそうな話しではある。団長が言うには、ナグリの依頼主は団長の馴染みであり、どうせなら顔を見たい、らしい。

せっかく慣れてきたバルバレを離れるのは残念だが、新しい土地も見てみたいし、キャラバンでの移動も経験したかった。それに、団長が強引に物事を進める時は、なにか考えがあることも分かってきていた。

私としても、ゲリョスやネルスキュラを数匹討伐してきたことから腕にも自信が着いてきている。新しいモンスターで力を試したい思いもある。

 

その日、私は午前中はエルザやカガリ、ハクがそれぞれのキャラバンを畳み移動できるように車輪や連結部分の設置を手伝い、午後からはエルザとナズナの三人で商業地区内のバザールに買い出しに出た。

 

ナズナが引く荷車にいっぱいの食料と薪や燃料を買い付ける。

屋台の串焼き肉をほお張りながら、人の波を縫っていく。見上げると夕日にギルドの大船がオレンジ色に輝いていた。

最初にあの船を見上げた時のことを思い出す。なにもわからず心細く団長の後をついて歩いた。言われるままハンターになりモンスターを狩るようになり、私の回りにはたくさんの人がいてくれるようになった。ただ、ひたすらにモンスターを狩っていただけなのに。

皆は私の入団式を開いてくれ、買い物に誘ってくれた。ギルドの女子会にもいつも呼んでくれる。狩りでは、ナズナがいつも一緒にいてくれる。私はなにもしてあげれないのに。感謝しないといけない。皆にも、皆と私を繋いでくれたモンスター達にも、そしてこんな私を受け入れてくれたこの町にも。見上げたギルドの大船が少しぼやけた。

 

キャラバンに近づくと、団長達が私達を待っていた。

 

「おう、遅かったな」

 

手を振る団長の横に立つナジムが何やら四角い箱を抱えている。

 

「日が暮れる前にやらなきゃと思ってな」

 

四角い箱はカメラだった。カメラは書士隊が持っている他はよほどの金持ちしか持っていない。

 

「知り合いに借りてきたんじゃ」

 

竜人商人は言いながら、三脚を立て、カメラをセットする。団員はギルド船を背景に並ぶ。団長が私を真ん中に押し出す。

 

「猟団の中心はやっぱりハンターじゃねえとな」

 

皆が頷く。

 

 

「じゃ、とるぞ。音がするまで動かないでくれ」

 

ナジムが言いながらカメラのスイッチを押し、皆の列に加わる。渇いた音が響きシャッターがおりた。カメラの下部から白い印画紙が出てくる。皆で駆け寄る。徐々に映像が浮かび上がる。

腕を組み笑っている団長。ハンター年鑑のあのページを開いて笑うエルザ。ハンマーを肩に腕を突き上げるカガリ。エルザに尻尾を踏まれて飛び上がるナズナ。お玉を振り回すハク。間に合わず後ろ姿で振り向くナジム。

そして、皆に囲まれて、泣き笑いをする私。

 

 

日が暮れたころ、団長が調達したポポが曳くキャラバン隊はバルバレの町を出発した。

 




第1章猟団編最終話、いかがでしたか。
採取や小型モンスターなど、実際のゲームでも煩わしいものですが、こうして文章で細かく描写すると、冗長になってしまいなかなか難しいものです。
さて、次章からは拠点を変えて大型モンスターの狩猟シーンを書いていきます。物語もやっと少しだけ核心に触れていきます。
もし、ここまで読んで下さった方がいれば、この第1章がいかに新人ハンターのイズナにとって大切な事だったのか分かる時が来ると思います。お付き合い下さり本当にありがとうございました。

では、
次回

第2章 予兆編
「第11話 鎧竜」
お楽しみに。
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