輝く太陽。はじける波飛沫。そして……
「第14話 休息」
どうぞ。
簡単な検査を終えて病室に戻る。ベッドの横に座ったエルザは振り向きもせず
「おかえりなさい」
と言う。
昨日、バルバレから来たという雑誌編集者に会ってからずっとこの調子である。私は病院で借りている杖をベッド脇に置き、腰掛けた。開け放たれた窓から風が通る。包帯からはみ出した銀髪が揺れる。真っ白の半袖シャツとズボンでは少し寒く感じる。
エルザはベッドの上にスケッチブックを置き、必死に鉛筆を動かしている。スケッチブックを覗き込む。血まみれのリオレイアが、弓を構える私に噛み付こうとしている場面だろうか。相変わらず私のまつげが異常に長いが、リオレイアの描写は真に迫るものがあり一瞬あの死闘を思い出す。
「ちょっと、まだ完成じゃないんだから」
スケッチブックを隠すエルザ。私はエルザの腕の隙間から見える私の頭を指差す。絵の中の私はカエルの髪飾りを付けていた。私を見上げるエルザに頭を下げる。エルザが私を見上げ目があい、また涙が出そうになる。いきなりエルザに抱きつかれた。
「しかたないよ。ハンターさんが無事だったんだから、また一緒に買いいけるもんね」
エルザの腕のなかで頷く。
*
病院の屋上に団長、ガルティア、マリアが集まっていた。
「リーダーが勝手に地底洞窟の狩猟を受注したの」
マリアが笑いをこらえながら話す。
「で、狩猟が終わると、折角だし、ナグリにいくでござる。ここからならバルバレより近いでござるって」
我慢しきれずマリアは笑い出す。
「ありゃ、マジだな」
ガルティアが腕を組み頷く。
「いいねえ。若いってのはうらやましい」
団長も腕を組んで高笑いする。
「バルバレのギルドはもうあの娘の話でもちきりですよ」
マリアはやっと笑い終え、涙を拭いている。
「あいつがナグリに帰ってきた時はさすがに焦ったけどな」
団長が手摺りにもたれ、空を見上げて呟く。
*
担架に載せられ、病院に担ぎ込まれるイズナ。全身血まみれで、ピクリとも動かなかった。泣きじゃくり担架にすがり付くエルザとペルヴェ。二人を抑えるカガリにもいつもの冷静さは無かった。ナズナは辺りを走り回り、ハクは医者に詰め寄る。ナジムはうなだれて座り込んでいた。
後から特大の荷車に載せられ、屈強な運び屋が10人がかりで掛け声を上げながら、見たこともないような巨大なリオレイアの死骸を運び込んできた。
みな唖然と死骸を見つめた。ハンターはあの小さな体で、しかもたった一人でこんな巨大なモンスターを狩猟していたのか。錯乱状態に陥っていた団員は、イズナの回復を信じ、全霊を掛けてハンターを看護することに決めた。
イズナが帰って来てから3日後、筆頭ハンターがナグリにやってきた。看病に疲弊した団員にかわって看病を引き受けてくれた。特にマルコスは取り乱し、病室に飛び込もうとするところをマリアに取り押さえられていた。日頃の冷静なマルコスからは想像できない取り乱しぶりに、久々に皆に笑顔が戻った。
*
「狩りの方はどうだ」
感傷的になりそうな気持ちを振り払うように団長が話題を変えた。
「何体か変異体を狩猟しました」
マリアが姿勢を正して答える。
「書記官殿の言った通りだったな」
ガルティアが腕を組んだまま、フェンスにもたれ掛かる。
「あれは人間には影響はないのですか」
マリアの問い掛けに団長は俯き考え込む。
「おそらくな」
一言呟く。マリアが胸を撫で降ろす。
「感染したモンスターを見る度にそんな恐怖にとらわれてしまいます」
「逆に言えば人間以外は危ないってことか。書記官殿」
ガルティアの言葉にマリアも俯く団長を見る。
「書記官殿。医者はどのように」
ガルティアが団長に尋ねる。団長は何か言おうと口を開くが、直ぐに閉じ、歯を噛み締めた。
「あんまり無茶させるなってさ」
今から数時間前、団長はイズナの主治医に小部屋に呼び出された。部屋に鍵をかけて向かいあって座る。
「で、先生結果は」
土竜人にしては背の高い医者は団長の目を見つめて言った。
「私は人間を診るために医者になった。あの娘を診るのは今回限りにしてほしい。次からはドンドルマの研究し」
そこまで聞いて団長は医者の言葉を制止して立ち上がった。
*
退院した私は、団長からキャラバンでの謹慎療養を命じられていた。一日中、今回の狩猟の反省文を書かされている。
ペンを置き、伸びをする。ベッドの上にはスケッチブックに絵の具で色を塗るエルザが寝転がっていた。反省文を書く作業はしばしばエルザの質問に中断されていた。リオレイアの甲殻の微細な色使い。血の色。エルザは私の答えを聞くと、嬉しそうに頷きながらパレットの上で新しい色を作っている。
少し外の空気を吸いたくなり、キャラバンを出た。
ちょうどお昼前の時間帯のためか、キャラバン横の料理屋台にナグリの職人達が行列をつくっている。屋台のキッチンではハクが目にも止まらぬ速さで包丁を振るい野菜を切り刻んでいる。
カガリの工房を見ると、大勢のハンター達が押しかけ、工房に飾られた武器を眺めている。ハンター達の向こうでは、カガリが特大のハンマーを、ペルヴェがちょっと小さいハンマーを振り上げる。
私がリオレイアを狩猟してから、ナグリには大勢のハンターが訪れるようになっていた。ナグリ国内の辺境の町や村付きのハンターが噂を聞き付け集まって来ているらしい。猟団に属さない彼等は、クエスト受注のためにバルバレなどギルドの支店がある町をはるばる尋ねて、クエストを受注し、武器防具を加工している。
バルバレやドンドルマ、タンジア、ミナガルデなどの大都市のハンターばかりが有名になり騒がれるが、この国の平和は彼等のような村付きのハンターによって支えられているといっても過言ではない。
彼等は久々の友人達との再開を喜びながら様々な武器を手にとり、狩話に花をさかせている。
また、ナグリ国王から、火山洞窟の警備隊の武器防具の発注も受け、カガリは目が回るほど大忙しのようだ。
ナジムの店にも人だかりが出来ていた。雑貨屋では扱わない貴重な道具やモンスターの素材も売り出しはじめたらしい。
エルザの出張ギルドカウンターには掲示板にびっしりと依頼書が貼付けられ、正式なギルドがないナグリではここでしかクエストが受注できないため、多くのハンターが依頼書を眺めている。バルバレでキャラバンに入団した頃の寂しかった掲示板がなつかしい。
掲示板を眺めるハンター達の中に見慣れた顔が私に手を振っているのが見えた。
「あ、銀髪のハンターさん、元気そうっすね」
カイトが私に気付いて掲示板の前から近寄る。
「ほら、リーダーも」
カイトは隣にいたマルコスの袖を引っ張る。
「大繁盛っすね」
カイトは加工屋や料理屋台を眺める。
「もう出歩いて大丈夫でござるか」
マルコスがカイトの後ろで私から目を逸らし、いつもの早口小声で呟く。私は頷き両手を広げてみせた。
「ハンパない回復力っすね。よかったっすねリーダー」
カイトは言いながらマルコスを私の前に押し出した。私が怪我をして入院したと聞いたマルコスは狩猟の予定を変更して地底洞窟からナグリに来てくれたと聞いた。徹夜で私に呼び掛けてくれていた団員に変わって私を看病してくれた。私は姿勢を正してマルコスに頭を下げる。マルコスは慌てて頭を下げた。
「怪我した時はお互い様でござる。ナグリにき……」
しりすぼみに早口小声が酷くなり、最後の方は囁く声しか聞こえなかった。
「リオレイアをソロで狩猟するなんて、まじリスペクトっす。自分はまだまだ修業が必要っす」
カイトが言い終わると同時に、クルぺッコ帽子をかぶった猫郵便の配達アイルーが私の足元にやってきた。
「心ときめく郵便ニャ」
私に封筒を手渡す。差出人を見ると、バルバレハンターギルドマスターとある。私が頭をさげると配達猫は飛び跳ねて次の配達先に向かって行った。
「ギルドマスターからっすね」
封筒を開ける私の手元をカイトが覗き込む。
「し、失礼でござるよ」
言いながらカイトを押しのけるマルコスも興味津々に横目で私の手元を覗き見る。封筒の中には、便箋と何かのチケットが入っていた。
【元気にしとるか。バルバレでもあんたさんの活躍は聞いとるよ。あんたさんのお陰で、ギルドも随分稼がせてもらったわい。お礼といってはなんじゃが、ギルドへの貢献への感謝として、一泊二日の旅行券を送る次第じゃ。代金はギルドもちじゃからみんな連れて羽をのばしておくれ】
便箋の下半分には、受付娘達や銅鑼ねえちゃん達が、それぞれ、狩りに対する称賛の言葉と私の体への心配が書かれていた。便箋を折りたたみ封筒に直し、一緒に入っていたチケットを見る。
【輝く太陽、弾ける波飛沫、常夏のチコ海岸特別優待券】
カイトの目が怪しく輝く。
「用事を思い出したっす。じゃあ」
「お、おい」
困惑するマルコスを引きずり、カイトは手を振って去っていった。
*
3日後、ナグリの休日に合わせてキャラバンの皆はそれぞれの店を閉め、アプトノスがひく大型荷馬車に乗っていた。
団員達、筆頭ハンター全員がそれぞれ普段着で南国の風を吸い込む。
ナグリを出発して、港町から船に揺られること数時間。到着した小島には椰子の木が繁り、火山灰で覆われていたナグリの町とは別物に見える輝く太陽の光が溢れていた。
海岸から少し離れた高台に建ち並ぶバンガローの前で荷馬車が止まった。
女性陣と男性陣に分かれバンガローに向かう。途中、カイトが女性陣に駆け寄る。移動中、ずっと居眠りをしていたカイトは、大きな包みをエルザに手渡した。
照り付ける太陽。白い砂浜。打ち寄せるさざ波に、どこまでも広がる真っ青な海。男性陣は着替えもソコソコに浜辺に下り、バンガローで借りた椅子を並べ、パラソルを立てる。
「準備万端すね」
短パン型の水着を履いたカイトがサングラス越にビーチを眺める。素肌にアロハ、短パンのガルティアが椅子に座り、背を倒す。横ではブーメラン型の水着を着たマルコスが白い肌に日焼け止めを塗り込む。パラソルの横には団長が上半身裸で腕を組んで海を眺めている。カガリとナズナとハクはバーベキューの用意をし、ナジムはパラソルの下で扇子を仰ぐ。
「遅くなってごめーん」
エルザの声に男性陣が一斉に振り向く。
緑かかった黒のビキニ。真っ白の肌。結い上げた黒髪。手を振るエルザ。
「死んでもいいっす」
カイトがサングラスをとり呟く。
「ったく、何こそこそしてるかと思ってたら、こんなもん作ってたのか」
ブツブツつぶやきながら現れたのは真っ黒のビキニ、黒のポニーテール。竜人族と人間のハーフという奇跡がもたらしたスラリとした手足。頬を膨らませるマリア。
「美しい」
カガリがつぶやき皆が彼を振り向く。
「ほら、早く来なさい」
ペルヴェの声に皆が顔を上げる。
「ったく、何で私だけビキニじゃないのさ」
黄色いワンピース。黄色い浮輪。お団子頭のふて腐れるペルヴェに手をひかれて、銀髪を短く結い上げ、シルバー色のビキニ姿の私が現れる。太陽の光をキラキラ跳ね返す美しい銀髪。砂浜より白い肌。
「なあ、カイト」
見とれたままのマルコスが話しかける。
「こんな幸せなこと、あってもいいんだろうか」
カイトも見とれたまま頷く。
「徹夜したかいがありましたね」
カイトがため息をつきながら答える。
*
ゲリョスのゴム質の皮で作られたビキニは胸をはじめ、ピッタリのサイズだった。
カイトが渡した包みの中にはそれぞれ名前が張られた小さな包みが入っていた。開けて皆がため息をついた。
肌を露出することには防具で慣れているが、サイズがピッタリだったのが気に入らない。内通者はだいたい察しがついている。鼻歌を歌いながらビキニを取り出し、緑のシャツを脱いでいるあの人に間違いない。バンガローに備え付けの水着があると聞いて手ぶらで来てしまったのが失敗だった。
*
サンオイルを塗り、ベッドチェアに横たわるマリア。波が打ち寄せる砂浜で海水を掛け合い、走りまわる私とエルザとペルヴェ。パラソルの下には男性陣が並んで座り、至福の光景を眺めている。
「おいら、ハンターやっててよかったっす」
カイトが寝不足の目を擦る。
今回の旅行がきまるやいなや、カイトはゲリョスの素材を抱えてナグリの縫製職人を尋ねた。忙しそうだったので、手ほどきを受けて機械の使い方を教えてもらった。が、肝心のサイズが分からない。考えこんでいても仕方ないので、思い切ってエルザに声を掛けた。喜んで教えてくれた。メモを握りしめて、縫製工房にもどると、もくもくと、皮を加工するマルコスがいた。そこから徹夜作業を続け、すべての水着が完成したとき、カイトとマルコは思わず抱き合っていた。途中、手伝ってくれた縫製職人たちも拍手をしてくれた。
*
私はハクが焼き上げた串刺しの肉を頬張る。海水に濡れて冷えてしまった体に熱がもどる。カガリが特大のクーラーボックスからタンジアビールの缶を取り出す。
「かー、たまらんな」
ガルティアがビールを飲み思わず唸る。ビールを飲めない私とペルヴェはジュースを飲む。そんな私の足をナズナがこづく。
「あれ」
ナズナは椰子の木の方を指差す。見ると、真っ白の毛並みのアイルーが椰子の木の陰からこちらを見ている。
「連れてきてめし食わしてやれ」
団長が肉をかみちぎりながら言う。ナズナは頷くと、こんがり焼けた肉串しを手にとり砂浜を白いアイルーに向かって走る。
白いアイルーはナズナから肉を受け取ると貪り食べている。よほど腹が減っていたのだろう。しばらく何やら話しこんでいたナズナが白いアイルーを残して息を切らして走り戻ってきた。
「あの子、ニコっていう名前らしいニャ」
ナズナは言って、ニコの方を見る。
「モンスターが怖くて逃げてきたらしいニャ」
よく見ると左腕あたりに血が滲んだあとが見える。
「ほっとけないよね」
エルザが団長を見る。
「ああ」
頷く団長を確認し、ナズナはまたニコの方に向かって走る。しばらく話して、また戻って来る。
「恥ずかしいから、ここから見てる。らしいニャ」
「あーもう、じれったい」
浮輪を胴に巻いたまま、ペルヴェがずかずかとニコに向かって歩く。怯えて震えるニコの手を引き、戻ってくると、
「ほら」
と肉を渡す。震えながらニコは肉にむしゃぶりつく。腹をパンパンに膨らませたニコは一人でいた理由を話した。
バルバレで新猫アイルーとして雇われていきなりババコンガの狩猟に連れていかれたらしい。お供アイルーを雇う方にも一応暗黙のルールがあり、装備もまともにない新猫アイルーは最初は採取クエストなどの危険度の低いクエストに連れて行き、狩りに慣らさなくてはならない。いきなりババコンガに連れて行かれれば逃げ出してもしかたない。
「僕のお父さんは立派なお供アイルーだったニャ。でも僕には勇気がニャいからお供は無理ニャ」
横で聞いていたペルヴェがじたんだをふむ。
「あんたに勇気が無いんじゃなくて、あんたを雇ったハンターがバカなだけじゃん」
大声で畳みかけられてニコは俯く。
「団長さん、ハンターさん、お願いがあるニャ。ニコを一人前にしてあげたいニャ」
思いつめたようにナズナが言う。
「お前の思う通りにすればいい」
私をはじめ、団員達も皆、団長の言葉に頷く。
エルザがニコの腕の傷を確認し、クーラーボックスの水でタオルを濡らしニコの体を拭いてあげた。泥や、恐らくババコンガの何かの汚れが落ち、真っ白な美しい毛並みが現れた。ニコはポロポロと涙を流した。
*
「書記官殿は、あのハンター、今後どうするつもりだ」
パラソルの下で団長とガルティアはチェス盤を間に向き合って座る。
「さあな、あいつはどう思ってんだろうな」
団長は波打際を見る。カガリに両手で持ち上げられるニコ。おもいっきり海にむかって放り投げられる。水飛沫を上げてニコが顔を出す。続いてナズナが持ち上げられている。その様子をエルザとイズナが笑いながら見ている。ナズナが飛んで行った後、ナジムがカガリに自分もやってくれと言いよる。慌て首を振るカガリにまた笑いが起きる。ナズナとニコがペルヴェの浮輪に掴まって浮いている。
「ギルドマスターが書記官殿達をここに来させたのも、少しでもハンターをバルバレから離したかったからか。はい、チェックメイト」
ガルティアも海を眺める。団長は腕を枕に寝そべる。
「かもしれん。急かされてるんだろうな」
団長はビールを口に運び目を閉じる。
「最初に見た頃とは別人だな」
撃龍船上で無表情でハット帽を噛み締めていたイズナを思い出す。
「どこまでも逃げて行くってのも一つの手だとは思うが、なんかなあ」
団長のつぶやきに、ベンチに俯せに寝そべるマリアが聞く。
「なにか他に手があると」
団長はビールをまた一口飲む。
「なんていうか、まだよくわからん」
筆頭ハンター達はため息をつく。
「お待たせっす」
カイトとマルコスが両手にソフトクリームを持ち、帰ってきた。
「さっきから食ってばかりだな」
ガルティアがソフトクリームを舐めながら呟く。
「よし、ちょっと泳ぐか」
一気に食べ終わり、イズナ達の方へ走ろうとしていたカイトを捕まえる。すり抜けようするマルコスをもう一方の手で捕まえると、ガルティアは波打際に向けて歩き出した。
*
今にも降り出しそうな星空の下、ニコとナズナが花火を持ち、火花を散らして走り回る。日焼けにほてる肌を気にしながら、私はエルザと線香花火に見入っていた。
「じゃあ、いくっす」
カイトが大声を上げて駆け出す。
打ち上げられた火の玉が夜空に上る。
見上げる私たちの上空で色鮮やかな火の華が開く。
*
皆から少し離れたバルコニーで団長とマリアがグラスを片手に皆の様子を眺める。
「みんなにはまだ伝えていないんだがな」
団長の言葉に、花火を見上げていたマリアが団長に向きなおす。
「俺はな、あいつの成長に賭けてみようと思うんだ」
団長はカイトの振り撒く火花から逃げ回るイズナを眺める。
「では、ギルドと」
マリアは団長の横顔を見つめる。
「ああ。だから」
団長はグラスのカクテルを飲み干す。
「何かあった時にはイズナを頼む」
団長はハット帽を押さえながらマリアに頭を下げた。
「書記官殿。シズクさんの……」
マリアは口に手を当てる。
「分かっている。同じ轍は決して踏まない」
団長は頷く。
「決して……」
椰子の木が揺れ、南国の海風が吹き抜ける。
戦いの日々に疲れ果てた彼等の心を優しく、暖かく包み込むように。
休息は終わり、また狩りの生活へ。謹慎が解けたイズナに徐々に迫る危機。目に見えぬそれは知らぬ間に心を覆いつくしていく。
次回
「第15話 予兆」
お楽しみに。
では、よき狩りを。