モンスターハンター In My Eyes   作:あずき犬

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ロックラックを去ったイズナは、東大陸海沿いの辺境地帯渡り歩き、かつて、シズクがナバルデウスを討伐したというモガの村に行き着く。
静かな漁師の村に忍び寄る深い闇。

「第27話 孤島」
どうぞ。


第27話 孤島

 

深い森の中。大木の梢の下にテントを張り、アプトノスのこんがり肉と、野草で作ったスープでニコと二人夕食を済ませた。

 

虫の声が響く闇の中、大木の根を背にもたれして、ランプの明かりを頼りに、小さな古びた本のページをめくる。

しばらく読み進めて、本から目を離し、ランプに集まる羽虫達を眺める。【大陸年代紀】古びた表紙にうっすらと文字が浮かぶ。

旅の途中でフルフルに襲われていた旅人を助け、ついでに討伐したところ、報酬の代わりにと私に手渡してくれた。

旅人は、古びた本だが、市場には出回っておらず、相当な価値のあるものと言っていたが、まあ、ついでに討伐しただけだったので有り難く頂いた。

年代紀には、シュレイド王国の成立から各王代ごとに章立てられ、現在の共和国の成立までが歴史的な出来事を中心に記述されている。騙されたつもりで読んでみたが、これはどうやら本物のようだ。目を引いたのは、東シュレイド滅亡時の記述。一般的には復活した黒龍によるものとされているが、年代紀には西シュレイドで発展したハンターギルドが大きく係わっているとある。

 

私の膝にもたれてニコが眠っている。栞かわりに木の葉を年代紀に挟み本を閉じた。

起こさないようにニコを抱き抱え、テントの中に寝かし、毛布をかけてあげる。

木の根元に戻り、燃石炭の余熱で温まっているスープの残りをコップに入れて飲みながら、梢の間から見える星空を見上げた。

 

もう随分とテント暮らしが続いている。

ロックラックの町から砂漠を商船に紛れ込んで砂漠を越え、東大陸海の沿岸沿いの辺境地帯を渡り歩いてきた。

点在する村々の集落を通過し、狭い海峡を小船に乗せてもらって渡り、孤島と呼ばれる島に辿りついた。

 

ここは、かつてシズクさんがナバルデウスを討伐したモガの村の近く。

 

大きく伸びをしてランプの明かりを吹き消し、しばらく幹にもたれかかり、目を閉じる。

ロックラックを出てから私はずっと、これからの身の施し方について考え続けていた。

こうして必要な時に狩りをしながら世界中を渡り歩く生活も考えた。実際、辺境の地域を回ると、立ち寄る集落ごとに、直接狩りの依頼が舞い込む。簡単な採取依頼、貴重なモンスターの卵の運搬、そしてモンスターの討伐依頼。ギルドの拠点から遠く離れた辺境の地においては、今だモンスターは大自然の脅威の一つであり、それを取り除くハンターは崇高な職業であった。貧しい村々では報酬は望むことができなかったが、長年村人を苦しめ続けていたモンスターを討伐した時には村を上げてのお祭り騒ぎとなった。

しかし、ハンターとは因果な職業である。村人が背負った苦しみが大きい程、大きな称賛を受ける。

ギルドだけがハンターではない。こうした辺境の地を巡るハンターがいてもいいのでは、と思う。

 

そうした旅の中で、私はシズクさんの言葉を思い出していた。

 

「狩りは一人でするものではない」

 

そこに根付き生きる人々。討伐するべきモンスター。それらを育む自然。

私が疑問に思うのは、そのことに気づき、さらにハンターとして類い稀な能力を持っていたシズクさんが、黒のハンターに敗れ、命を落としたこと。シズクさんにすら遠く及ばない今の私は黒のハンターに勝つことが出来ないだろう。あまりにも強大な敵。恐ろしさに足がすくんでしまう。

 

でも。私にはいつか帰らなければならない場所がある。

バルバレから逃げ出し、初めて荷物を開けた時。

カエルの髪飾りを見て私は決心をしていた。

いつか私の体の秘密を説き明かし、誰にも迷惑をかけなくてもいいようになれば、また猟団に戻り、みんなと世界を回りたい。もう一度みんなと笑いあいたい。そんな私の足は、知らず知らずの内にシズクさんの歩いた道をなぞり始めていた。

 

 

目を開き、テントに入りこむ。寝息を立てて毛布を蹴り飛ばすニコに毛布をかけ直してやり、私も毛布に潜りこむ。

 

 

 

街道を離れて、海岸添いの砂浜をニコと並んで歩く。海岸にそそぐ小さな小川の侵食によって作られた深い崖に囲まれた渓谷を歩いていると、前から歩いて来る女性を見つけた。近づくと、アシラ一式装備に片手剣を担いだハンターであることが分かった。

 

「こんなところで人に会うのは珍しいね」

 

年の頃は30歳くらい。女性はいぶかしげに私を眺める。

ニコが一歩前に歩みでる。

 

「狩りをしながら旅をしてるニャ。困った事があったらなんでも解決するニャ」

 

長い旅の中、ニコは喋る事が出来ない私に代わり、自己紹介をし、依頼を取ってきてくれる。いつもの決めぜりふのつもりだったようだが、ハンターに言うべきではないだろう。

 

「流しのハンターか。かっこいいねぇ」

 

女性ハンターは私に近寄り、私の全身を眺める。体格のいい女性ハンターに見つめられて思わず後ずさりする。

 

「ふーん。随分かわいらしいハンターだね。私はカルラ。モガで村付きのハンターしてる」

 

カルラは右手を差し出す。私は差し出された大きな手を握りかえした。

 

「イズナニャ。僕はニコニャ」

 

私に代わりニコが答える。モガの村では、長期滞在する予定だったので、ミューズに簡単に見破られた偽名は使わないとニコに伝えていた。

 

「イズナさんにニコちゃんか。私は特に困ってることないけど、折角だし、村に案内するよ」

 

カルラは私に笑顔を見せると身を翻した。

 

「ついておいで」

 

 

崖の回廊を抜けるとひらけた場所に出た。そこかしこに薬草やキノコが自生している。カルラはそれらを採取しながらもくもくと歩いていく。

豊かな場所である。ざっと歩くだけで、採取した薬草やキノコでポーチが一杯になった。

長い登り坂を登り、振り返ると、美しい入江が見えた。

 

「うちらはモガの森って呼んでる。今日は採取に来ただけだけど、たまにモンスターも出るから油断しないでね」

 

カルラも眩しそうに入江を見つめる。

 

峠を越えると、切り通しの通路の先に、丸太で作られた粗末な門が見えた。門をくぐるとカルラは鎖を幾重にも巻き付けた。眼下に深い海の色と、崖にそそり立つような村が見える。あれがモガの村だろう。鎖を確認し、カルラは村への下り坂を歩きはじめた。

 

モガの村。切り立った海岸の崖に木で作られた家が張り付く。海岸付近の狭い平地に密集するように大きめの建物が立ち並び、桟橋には小型の船が係留され、上半身をはだけた体格のいい男性達が網を直し、しかけを作っている。

 

カルラは桟橋に併設された大きな小屋に私を案内する。小屋は魚市場になっていた。

 

「おや、カルラじゃないか。今日は早かったね」

 

大きな包丁で魚をさばいていた女性が市場を歩くカルラに声をかけた。

 

「森で人にあってね。早めに切りあげたのさ」

 

カルラは私を指差す。突然指差されて驚いたが、直ぐに女性に頭を下げた。

 

「イズナちゃん。流しのハンターらしいわ」

 

魚屋の女性は手を止めてわたしの足元から頭の先をゆっくりと眺める。

 

「これまた随分可愛らしいハンターだね」

 

カルラの方を見ながら、女性は手で口を押さえて笑いをこらえていた。

 

「おばちゃん、ハンターって私みたいな体格ばっかりじゃないんだからね」

 

カルラは腰に手をやり、頬を膨らませる。

 

「ところで、村長知らない?」

 

女性は頷くと、カルラに顔を近づけるよう指示し、カルラの耳元でつぶやく。

 

「また、メゼポルタの業者と会ってるみたい」

 

聞いたカルラは腕を組み唸る。

 

「しかたないね。しばらくし私の家にいなよ」

 

カルラは私に苦笑いを見せると、女性に手を振り、市場を出た。

途中、雑貨屋に採取したキノコや薬草を渡し、板で作られた階段を登り、崖に張り付くように立てられた小屋に着いた。扉の前で立ち止まったカルラは私を振り向く。

 

「ちょっとまっててね」

 

と言いながら、少しだけ扉を開け、中を確認し、

 

「ただいま」

 

と小屋に入っていった。

私とニコはどうしたものかと、閉じられた扉の前で立ち尽くす。振り返ると、モガの入り江の向こうに真っ青な海が広がり、沸き立つような入道雲が見えた。吹き付ける海の匂いを含んだ潮風が髪をなびかせる。チコの海岸を思い出す。随分前の事に思えるが、わずか数ヶ月前の出来事。どんなに離れても海の色と匂いは変わらない。

感傷的な気分は扉の開く音で現実に戻された。

 

「待たせてごめんね。どうぞ」

 

薄暗い小屋の中、小さな釜戸にテーブル、ベッドが見えた。そしてベッドの上には小さな男の子が私を睨みつけてちょこんと座っている。

 

「ハンターが何の用でこんな村に来た」

 

低い声で話す男の子の頭をカルラが撫で付ける。

 

「だから、この人は違うって。ごめんなさいね」

 

カルラは私に手を合わせて頭を下げる。

 

「息子のレミ。ちゃんと言い聞かせたんだけどね」

 

カルラはテーブルの椅子を引いて、私に座るよう合図する。荷物を床に置き、コートを脱ぎ、壁に掛けて、引かれた椅子に座る。

左側からのレミの冷たい視線を気にしながらカルラの出してくれたコーヒーに口を付けた。

 

「いい装備じゃない」

 

自分の分のコーヒーと、ニコ用のジュースをテーブルに置きながらカルラは私の体を眺める。

ニコはテーブルの下で私からジュースをうけとり、一気に飲み干す。

 

「こんな小さな村でもいろいろあってね」

 

カルラによると、最近、モガの森に大型のモンスターが出没する回数が増えているらしい。村付きのハンターだけでは心もとなくなり、村長がメゼポルタのギルドと交渉してギルドカウンターを設置して、大勢のハンターに狩猟してもらおうと働きかけている。

ハンターが来ればモンスターも退治され、村も潤う。経済に明るい村長はゆくゆく、モガの村を付近の交易の中心として発展させようとしているようだ。実際、モガの村は、貿易港タンジアと首都メゼポルタとの海上輸送の中継地点としては絶好の位置にある。今後、益々発展するであろう海運業界を考えればいいアイデアに思える。

 

「村のハンターはママ一人で十分なのに」

 

レミがベッドに寝転がりながらつぶやく。

 

「アオアシラとか、ブルファンゴくらいなら一人で狩れるんだけどね」

 

コーヒーを飲みながらカルラが笑う。

 

日が暮れて、私とカルラは二人、村長の小屋に向かい、カルラの家を出た。

 

「もともと、私は港で海女をしてたんだけどね」

 

水平線に浮かぶ夕日を眺めながら階段を下りていると、前を歩くカルラが独り言のように話してくれた。

 

「4年前に、ハンターしてた旦那がモガの森で行方不明になっちゃってね。旦那の狩りにちょくちょくついて行ってたわたしがハンターになっちゃったの」

 

港では夕明かりの中、漁師達が酒盛りをしている。歩いてきたカルラに気づき手を振る。そして、後を歩く私を見てコップを持つ手を止めた。

 

「カルラの娘? じゃないよな」

 

若い漁師が立ち上がりカルラに近づく。

 

「こんなでかい娘がいる年にみえるか!」

 

カルラに一喝され、若い漁師は他の漁師達に手を引っ張られ、ふらふらと腰を下ろした。

カルラはそんな漁師を一瞥し、歩きはじめる。

 

「レミは旦那や私の跡をついでハンターになりたいみたいでね。はやく私を楽にさせたいって、一丁前なこと言ってくれるのよ」

 

村長の小屋は、村の最下層部分に立てられている。カルラは入口の前で立ち止まり、扉を叩く。

 

「カルラです。入りますよ」

 

カルラの大声に小屋の中から、

 

「どうぞ」

 

と返事が聞こえた。

 

 

広い小屋の中には、体格のいい中年の男性が腕を組み、胡座の上に座っていた。

 

「村長、モガの森で出会ったハンターを連れて来ました」

 

カルラは私を紹介しながら、村長の前に敷かれた胡座に座る。

私を見上げた村長の視線が固まる。

 

「あ、あんた、…… いや、しかし……」

 

腰を浮かしてうろたえた村長だったが、しばらくしてゆっくりと座り直した。

 

「すまない。昔、あんたにそっくりなハンターを見たことがあってな」

 

私は進められた胡座に座る。やはり、シズクさんのことだろう。たった一人で古竜ナバルデウスを狩猟したハンター。

 

「親父がいたころだから、随分と昔になるがな」

 

腕を組み直し、思い出すように村長は目を閉じた。

 

「おや、これまた別嬪なハンターさんね」

 

のれんを掻き分けて入ってきた女性が、お盆から湯呑みをそれぞれの前に置く。

 

「あんた、シズクさんにそっくり」

 

女性は私の顔をまじまじと眺める。

 

「これ、客人に失礼だろう」

 

たしなめる村長におかまいなく、女性は私の頬をなぞる。

 

「シズクさんはね、そりゃもう、ドッヒャーなハンターでね。どんなモンスターでもギッタンギッタンに」

 

「アイシャ!」

 

村長は手を叩きながら大声を出す。

 

「はい、はい、でもほんとそっくり」

 

女性は手を振り、笑いながら、部屋から出ていった。

 

「妻が見苦しいところを。すまなかった」

 

頭を下げる村長。

 

「流しのハンターのイズナさんです」

 

カルラが紹介してくれ、湯呑みのお茶を飲んでいた私は慌てて頭を下げる。村長は、改めて、胡座に姿勢を正して座る私を眺める。

 

「流しのハンターとはまた珍しい。今のところ、カルラがいるから頼めることもないが、まあ、ゆっくりしていって下さい」

 

笑顔の村長は嬉しそうに目を細めている。

 

「シズクさん……」

 

 

カルラはつぶやくと、目を閉じ、遥か昔の、彼女自身の原初といってもいいその記憶を思い出す。

 

 

 

 

カルラがまだ幼かったころに、村の危機をたった一人で救ったハンターについては、両親からもお伽話のように枕もとで何度も聞いていたし、カルラ自身、そのハンターに頭を撫でて貰ったことがあるらしい。

覚えているのは、頻繁に起こっていた大きな地震、ギルド関係者と言い争う前の村長、村長の息子そしてアイシャ達。

騒然とした雰囲気の中、ハンターが帰ってきて大騒ぎしながら家を飛び出ていった大人達。手を連れられ、ハンターの足元に来た幼いカルラは恐る恐る見上げる。

そこには、松明の明かりに照らされた、光り輝く美しい肌を持つ女性。そして、心をつかみ取られるような慈悲に満ちた漆黒の瞳。

 

ハンターという言葉を聞いて連想するのはいつもその女性の姿だった。

タンジアから村に来ていた旦那に迫られて結婚し、レミが生まれ、旦那がいなくなり、そんな忙しい日常に、大切な記憶も埋もれてしまっていた。改めて目を開き、イズナの横顔を眺める。

幼い顔立ち、真っすぐ前を向いた黒い瞳。くっきりとした眉。曇り一つなく、窓からの夕日を照り返す銀髪、そしてなぜかカエルの髪飾り。とても一人で古竜を狩るような凄腕ハンターには見えないが。

カルラの視線を感じとったのか、前を向いていたイズナが首を傾げながらカルラの方を見る。

カルラは膝で握る手に力を入れ、思わず視線を外して俯いた。体を悪寒が走る。不思議な瞳だった。汚れの無い、ただ深い漆黒。強い意思と、無垢なるものへの恐怖から思わず目をそらせた。触ってはいけないもの。離れて見ることしか許されないもの。それは、人知の及ばぬ古竜の瞳。

 

 

 

 

「…… でいいか、カルラ」

 

村長の声で我に帰る。

 

「は、はい」

 

慌てて返事をするカルラ。村長は心配そうに俯くカルラを見る。

 

「大丈夫か」

 

「すみません。少し考え事をしていました」

 

カルラは頭を下げる。村長安心したように頷く。

 

「うむ。イズナさんには、カルラの家でしばらく長旅の疲れを癒してあげて欲しいと思うが、いいか?」

 

村長はもう一度繰り返す。

「はい。ちょっと狭い家だけど」

 

村長の家を出ると、壁にもたれかかるレミとその足元で私を見上げるニコがいた。

 

「留守番しててっていったでしょ」

 

カルラは腕を組み、ため息をつく。

 

「だって、こいつが行きたいって」

 

レミはふて腐れてニコを指差す。

 

「ニャ! レミが」

 

慌てて体を振るニコの頭をレミが押さえつける。

 

「お前、俺の弟子になるって言っただろ」

 

言われてニコは力強く頷く。

 

「弟子ってのは師匠の言うことには絶対に」

 

カルラのげんこつがレミの頭に炸裂した。

 

「ニコちゃんはイズナのオトモ。あんたの弟子じゃない」

 

カルラは頭を抑えるレミの腕を引っ張り歩き出す。

 

「ごめんね。年の近い子あんまりいないから浮かれちゃって」

 

カルラは私に謝りながら暴れるレミを引きずり歩き出した。

 

ニコが私の服を引っ張る。

「弟子ってどういう意味ニャ? ペルヴェみたいなのと違うニャ?」

 

私はペルヴェに怒られながら洗濯物を畳む、酔っ払った加工屋と団長の姿を思い出し、少し笑った。

 

 

 

それから数日間、私はカルラと共にモガの森に通い、採取を手伝い、時にはドスジャギーやブルファンゴを狩猟した。森に行かない日は漁師の雑用を手伝い、レミに折り紙を教えてあげた。ナズナから教わったモンスターの折り紙。始めは馬鹿にしていたレミも私が折り上げたリオレウスの折り紙を見て、一緒に小さな紙を折り始めた。

 

 

 

モガの森に異変を感じたのは、そんな日々の中、夜にだけ採れる雷光虫を採取しに出かけた時だった。

 

モガの森に棲むモンスターは夜行性のものが多く、夜の狩りには気をつけていたつもりだったが、その日は一匹もモンスターが現れなかった。いつもはジャギーが群れている洞窟内も静まりかえり、虫の声だけがこだましていた。カルラもこんな事は初めてらしく、村に帰ると、夜中にもかかわらず村長の小屋を尋ねていった。

 

慌てて起きてきた村長はカルラと私を小屋に招き入れた。

消えていた明かりに火を点し、胡座の上に座ると、私たちにも村長の近くに置かれた胡座に座るように促した。

 

「メゼポルタと観測省から通知が来ている」

 

腕を組み、宙を睨みつける村長。

 

「イビルジョーというモンスターを知ってるか」

 

昔、ハンターの手引で見た覚えがあるが、実際に狩猟したことはない。カルラは首を振っている。

 

「非常に獰猛なモンスターだ」

 

別名恐爆竜。その巨体を維持するために、周りすべての生物を食べ尽くし、次々と狩場を移動していく。

 

「どうやって海を渡ったのかはわからんが、ギルドも目をつけて、近々、クエストとして登録される予定だ」

 

村長はため息混じりにカルラを見遣る。

 

「私じゃ、力不足か」

 

カルラが笑いながら折り曲げていた足を伸ばす。

 

ハンターの手引でも危険度は最高ランク。正直今のカルラでは手に余るだろう。では、私ならどうだろうか。狩猟してみたい気もするが、ここはカルラの狩場であり、森を管理する村長がギルドに頼むつもりなら無理に行くことはできない。

ただ、気になるのは孤島にどうしてそんなモンスターがやってきたのかということ。海を泳いできたのだろうか。しかし、それならばギルドと交渉している余裕はなさそうだが。

一つ、思い出した事がある。ロックラックで聞いた、ニアヒムの言葉と年代紀。観測省とギルド。出てくるモンスターは古竜ではないが、これは、ギルド外交の手口によく似ている気がする。

 

「ギルドはメゼポルタの筆頭ハンターを派遣してくれるらしいから、まあ、なんとかなるだろう」

 

村長の言葉にカルラも力無く頷く。

 

「村のみんなには?」

 

カルラの問いかけに村長は目を閉じて考えこむ。

 

「実際に姿を確認できれば知らせようと思っている」

 

カルラは膝を叩き、立ち上がる。

 

「出来るだけ早く教えてあげて下さい」

 

私は小屋を出るカルラの後を追い立ち上がる。

 

「イズナさん」

 

村長が私を呼び止める。

 

「本当はカルラには最後まで言うつもりはありませんでした」

 

村長は立ち上がり私の横に歩みより、小屋のドアを開けて外を眺める。

 

「カルラをよく見といてやって下さい」

 

小屋から離れ、階段を登ろうとしているカルラが見えた。

 

「カルラの旦那、セロと、親父が帰って来なくなった時と状況がよく似ている」

 

私は月明かりにうっすらと浮かぶカルラの後ろ姿を眺めながら頷く。

 

 

 

 

次の日のお昼過ぎ、床に敷いた布団の中の私はカルラに揺すり起こされた。目を擦る私にカルラは一枚の紙切れを見せた。

 

【にことかりにでる。しんぱいしないでまつてて】

 

パニックに陥り、泣きじゃくるカルラを抱きしめた。見渡すとやはりニコの姿も見えない。ならば少しは安心できる。取り敢えず村に知らせなくてはならない。紙切れから、ハラリと折り紙が舞落ちる。レミが折った一番上手に出来たリオレウス。折り紙を握り締めて立ち上がる。




レミとニコの捜索隊はモガの森に向かう。
そこにいたモンスターはイビルジョー…… だが。
村人を守る為にイズナは決断する。
それは、あまりにも大きい代償を伴うもの。

次回、第3章 流転編 最終話
「第28話 喪失」
お楽しみに。
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