「第3話 狩人」
どうぞ。
クエスト開始から2時間が経過していた。ギルドで貰った懐中時計をポケットに入れる。
赤と白を基調としたブレイブ装備は装甲が薄く、確かに防御は低そうだが、間接部分の稼動域が広く作られており、動きやすい装備であった。
今まで近接武器全種とヘビィボウガン、ライトボウガンを使ってみたが、どの武器でも、動きを妨げることはなかった。
狩りの場所はバルバレからアプトノスが引く荷馬車で1時間ほどの距離にある遺跡平原と呼ばれる狩場である。黄草が覆い茂る広大な平原に古代の遺跡が散乱しており、平原を見下ろすように、岩山が控えている。
私は支給ボックスから武器を取り出す度にハンターの手引書を開き、それぞれの武器の扱い方を頭に入れてからベースキャンプを出て、平原を歩くアプトノスを狩っていた。
支給ボックスから最後の武器として弓を取り出す。
身長ほどの長さのハンターボウを傍らに置き、手引書をひらく。どうやら弓の弦を引き溜めることによって威力が上昇するようだ。また、複数の矢を同時に放つことにより、弱点を定点で狙える連射、広範囲を攻撃出来る拡散、一撃で体を貫通し連続してダメージを与える貫通を選ぶことができる。何気なく弓を構えてみる。
誰に教わるでもないのに、自然と構えることができた。背筋を伸ばし、ハンドルを握り、弦を引いてみる。何故かは分からないが、この武器を触るのが初めての気がしなかった。
一度、力を抜き、再度弦を引き絞り、矢を3本まとめて番えてみる。
鼓動が早くなる。視界の中に、予測された矢の軌道が浮かび上がる。最大まで引き溜めて矢を放つ。矢はその軌道にそって飛び、軌道の弧の頂点より少し先で3本にバラけて崖に着弾した。
私は弓を背負うと平原に走り出た。
野生のアプトノスが2匹歩いている。弓を構えると、矢を番え、つるを引き溜めながらアプトノスに接近し、放物線を描く軌道の頂点の少し向こう、矢がバラけるあたりでアプトノスに着弾するように矢を送り出した。矢は軌道通りの弧を描き、アプトノスの頭部に着弾した。
アプトノスは一撃目で前足を突き上げていななき、続けて放たれた二撃目の矢を受けてその場に倒れて絶命した。もう1匹は逃げだそうとしていたが、追撃はしなかった。体が震えて次の矢が番えなかった。 私は弓を背中に背負うと、ゆっくりと絶命したアプトノスに近づき、腰に差したハンターナイフで生肉を剥ぎ取る。
どこの誰だかわからないが、私はかつて、この武器を使って今とおなじように狩りをしていたのだろう。そうとしか考えられない既視感。
私が命を預ける武器種が決まった。
そして、同時に、今の私は、記憶を思い出すことが出来ないのではなく、過去の記憶を全て失ってしまっていることに今頃になって気が付いた。
クエストから戻ると、キャラバンの前で話し込んでいた団長とカガリ、エルザが私に気付いて走り寄ってくる。
「で、武器は何にした?」
団長が身を乗り出し、私に顔を近づける。
「やっぱり双剣だよな。ダレンの時の感じからあんたが使う武器は双剣しかねえと思ってたんだ」
顔を近づけてまくし立てる団長を押しのけ、カガリは
「ガンランスはどうだ」
と言うが、団長にすぐに押し戻される。
「てめえが作りたいだけだろうが。やっぱり双剣に間違いない」
腕を組んで頷く団長に私は弓を射つ真似を見せる。 エルザが声をあげる。
「弓でしょ」
私がうなずくとエルザは飛び上がって喜び、
「やった〜。私イズナの立ち振る舞い見てたら絶対弓を選ぶって思ってたの」
そう言い私に抱き着く。
「ちっ。仕方ねえ」
団長とカガリは私に背を向けると、財布から紙幣を取り出しエルザに押し付けた。
「無事でなによりだったな。今日は休んで、明日は採集クエストだ」
言いながら団長は寂しそうにキャラバンに向かって歩いていった。
「ハンターボウを用意しておく。こいつの強化には鉱石が必要だ。必要な鉱石を書いておくから揃ったら顔をだせ」
いつも以上にぶっきらぼうに言いカガリも自分の店に戻って行く。
「男どもは往生際が悪いよね」
エルザは紙幣をカエルの顔をモチーフにしたポーチに突っ込む。
「もう今日は休みでしょ。あいつらから巻き上げたお金で買い物にいかない?」
とぼとぼ歩いていく男性陣をぼんやりと眺めながら、私は頷く。
*
クエスト用の荷物をキャラバンに置き、シャワーを浴びたのち、再度ブレイブ一式を着込みキャラバンを出た。
「イズナの武器で賭け事してごめんなさい。団長があんまりしつこく双剣にこだわるからついね」
並んで歩きながらエルザが言う。
ギルドの集会場入口付近には太陽の団のような猟団が無数に集まり、大きな集落を形成している。
その集落を抜けて、ギルド船の船首方向を回り、船の反対側に行くと、ハンター達目当てに武器屋、防具屋が立ち並び、その向こうには、商人のキャラバンが密集しバザールになっている。
昼前の今、バザールには商人や買い物客に混ざって、午前中の狩りを終えたハンター達でごったがえしている。
雑踏をすり抜けた私とエルザは【クックバーガー】という看板が上がっているファーストフード店に入った。
「クックバーガー2つと、オレンジジュース2つ」
手慣れた様子でエルザがカウンターで注文する。ほとんど待つことなく、トレイに乗ったハンバーガーとガラスのコップに入ったジュースが2セットを受け取り、清算をすますと、2人は店内の2人用のテーブルに腰掛けた。
お昼時でカウンターは混雑していたが、商人の町らしく店へのお持ち帰りが多いせいか、すぐにテーブル席につくことができた。
クックバーガーの包み紙を開けると、鳥の顔の絵柄が焼き付けられたパンズに鶏肉のボイルが挟まれたハンバーガーが現れた。
「勝手に注文しちゃったけど、ここに来たらそれ食べなきゃね」
言いながらエルザはバーガーに食らいつく。私も真似をしてバーガーを口に運ぶ。口の中に鶏肉の肉汁が広がり、挟み込まれたソースとが絶妙な融合を見せ、なかなかのおいしさだった。
「おいしいね」
エルザが表情を崩して言う。私も口の回りのソースを舐め取りながら頷く。
「あ、看板娘さんじゃないですか?」
振り返ると、大きくふくらんだお持ち帰り袋を両手に下げた若い男性がいた。
「今回はお世話になりました」
男性はぺこりと頭を下げる。
「ううん。お礼を言うのはこちらの方よ」
口のまわりをソースだらけにしたエルザが立ち上がり頭を下げて答える。
「どう、親父さんは納得してくれたの?」
男性は頷きながら、
「相変わらず何にも言ってくれませんが、一段と厳しく教えてくれるようになったので、成功だと思います」
と言い、一度頭を下げ、
「あいかわらず昼飯係ですけど」
と言って苦笑いし、両手の持ち帰り袋を持ち上げる。店の出口に向かおうとした男性は足を止めて振り返った。
「あ、それから、あの武器を使ったハンターさんの事、親父がえらい褒めてましたよ。全ての武器で理想的な使われ方をしている。補修の必要がねえ。こんなハンターにお前の武器を使って貰えるなんて贅沢だって」
男性はまた頭を下げると駆け足で店を飛び出ていった。
クックバーガーを出て私とエルザは服屋を目指して歩き始めた。さっきの店で私の日常服を買いに行くことに決まっていた。
エルザが防具屋のショウウィンドーの前で立ち止まり、私を呼ぶ。
「見てよ」
ウィンドーの中には、派手な一式装備が展示されている。艶のある黒を基調にした一式装備で青や黄、赤色などの様々な色が散りばめられ、所々でアクセントになっている。しかし、一番目を引くのは背中の蝶の羽を模した大きな羽飾りである。
「ファメル装備、かわいい」
エルザはうっとりとガラスに顔を押し付ける。
そんな寄り道を数回繰り返して、服屋に入り、試着室で試着を繰り返すこと数十回、結局、バルバレ地方の民族衣装を現代風にアレンジした、ノースリーブにセミロングの布巻きスカートを着て、ブレイブ一式を袋に詰めて貰って店を出た。
その後、靴屋でサンダルを買い、アクセサリー屋でお揃いのカエルの髪飾りを買って、キャラバンに帰ることになった。
途中、武器屋の工房が軒を連ねる界隈を歩いていると、鉄を打つ音に混じり、怒号が聞こえた。工房を覗くと、髭面の大男に怒鳴られながら汗まみれになり、必死にハンマーを振るあの男性が見えた。
エルザが私に笑いかけた。
ハンター稼業も悪くないものである。
*
入団試験2つ目は、
【採集クエスト 特産キノコの納品】
【依頼主】 髭面の修理工【依頼内容】 相方の様子がおかしいんだ。急にやせたり太ったり。聞いたら変なキノコを食べたせいらしい。キノコ大好きの相方にまともなキノコを食べさせてやりたいので、遺跡平原で、特産キノコをがっつり採ってきてほしい。
団長によると、この依頼の達成とこんがり肉を持って帰ること、回復薬Gを調合することを入団試験第2弾とするとの事らしい。試験を考えるのがだんだんめんどくさくなってきてるのが見え見えの団長をおいて、携帯焼肉機と調合書を買うために雑貨屋に向かう。 キャラバンの側にある雑貨屋を覗き、携帯肉焼機と、調合書をカゴに入れる。
「おや、ずいぶんかわいらしいハンターさんだね」
女性の声に振り返ると、恰幅のいい中年女性が笑顔で立っていた。雑貨屋のおかみである。
「太陽の団の新人さんだね」
おかみは、頷く私の買い物カゴの中身を眺める。
「調合袋は持ってるかい」
私は団長からもらった茶色い小さな革袋をおかみに見せた。コンガというモンスターの胃袋からできているらしいそれは、どれだけ時間がたっても、内部に溶解液を出しつづけており、その溶解液すなわち胃液が調合を可能にしているらしい。原理を聞くと吐き気がするので、私は忘れた事にしている。
「団長さんからもらったんだね。大事にしなよ。はい、これおまけ」
おかみは私の買い物カゴに薄いノートを入れてくれた。
「モンスター図鑑だよ」
私はノートをパラパラとめくってみる。小型モンスターの生態がイラスト入りでのっている。
「ハンターも雑貨屋も情報が命さね。がんばりな」
大きな手の平で背中を叩かれ、思わず前によろける。振り返るとおかみが笑顔で立っている。
いきなり背中を叩かれてびっくりしたが、笑顔を見る限り怒っているわけではなさそうだ。なによりも、クエストを前に強張っていた体がほぐれた気がする。
私は、頭をさげ、携帯肉焼機と調合書の代金を支払い、雑貨屋を出た。
*
「いい子だろ」
イズナを送り出したおかみに団長が歩み寄る。
「シズクさんによく似てる」
おかみの呟きに団長は腕を組んで頷く。
「娘がいたらあんな感じだっただろうな」
おかみは懐かしげな顔で団長の方を見る。
「あたしはまだちっちゃかったからね。モガの母ちゃんに見せてあげたかったよ」
おかみは悲しそうな顔をして店の中に戻っていく。
*
クエスト開始後、ベースキャンプを出てすぐにアプトノスがいたので、ハンターボウで一掃し生肉を2個剥ぎ取りそのまままベースキャンプに戻る。
携帯肉焼機に刺して炙り、頃合いを見て取り上げ、一口食べてみる。すぐに吐き出した。生焼け肉だったようだ。なかなか難しいものだ。
もう一つの生肉をセットしながら私はあることを思い出した。声は出すことができなかったので心の中で、団長が肉焼の時に歌っていた鼻歌をうたった。
(……、上手に焼けましたっと)
携帯肉焼機から取り外し、かじりつくとまさしくこんがり肉であった。かじりかけのこんがり肉をみつめつ、どうかと思ったがそのまま納品ボックスにほうり込んだ。
続いて、回復薬Gのために調合書をひらく。まず回復薬を調合しなくてはいけない。必要な物を確認し、ベースキャンプを出た。
遺跡平原を歩きまわると、薬草はすぐに見つかった。薬草を採取し、アオキノコを採取するため遺跡平原から少し山際に移動した。燥した平原よりジメジメした山陰の方が見つけやすいだろうとの考えだったが、思った通り、崖下でキノコが生えているのを見つけた。アオキノコ3つと特産キノコ2つを採集した。
回りを見渡すと、邪魔になりそうなモンスターもいなかったことから、その場で調合を始めた。
薬草とアオキノコをすり鉢ですり潰し、調合用の革袋に入れしっかりと蓋をして革袋をなんども揉んだ。コンガの胃液により袋の中で化学変化を起こし、二つの物質が混ざり合い、融合する。薬草とアオキノコが調合され緑色のペーストができあがったので、袋から取りだし、団子を作る。 3つの団子が出来たので1つ口に入れると、すこし苦いが体に力が沸き上がる感じがした。回復薬が完成した。
残りの団子を薬草で包みポーチに入れた。この回復薬から回復薬Gを調合しなくてはならない。次に必要なものはハチミツである。 回りを見渡すと崖下にまだキノコが少し見えたので採集する。アオキノコ4つ、特産キノコ2つを採取した。
立ち上がり平原のエリアに戻る。だだっひろい平原の向こうに、ピンク色の大きな鳥が群れで飛び立つのが見えた。晴れ渡った青い空にピンクの集団が雲の様に消えて行った。
ハチミツの採取の為には蜂の巣を探さなくてはならない。
平原を移動し、岩場に来ると、突然なにかの雄叫びが聞こえた。声の方を見てみると、人の身長ほどのピンク色の肌のモンスターが牙を剥き出しにしてこちらを威嚇している。モンスター図鑑にに描かれていたジャギーの群れであった。
ハンターボウを構え、先頭を切って向かってきた1匹を狙い撃つ。素早い突進のため、適性距離を外した矢が命中し、一瞬ジャギーが怯むが再度の突進をまともにくらって私は岩場を転がる。ダメージは少ないが、態勢を崩されるには十分な威力だった。
私は距離をとるため、一旦納刀して岩場を登り崖上の広場に出た。見下ろすと、更に3匹のジャギーが集まってきていた。これだけの数とあの素早い動きでは1匹づつ打ち抜くのは至難のわざである。何か手はないかと考えていたが、いまの状況にうってつけの攻撃方法が手引書に載っていたのを思い出した。
私は崖から少し離れると納刀したまま崖に向かって走り、崖下にジャンプすると同時に矢を取り出し崖下のジャギーに向かって振り払った。矢切攻撃を喰らったジャギーは吹っ飛び、着地したその場でさらに振り回した矢に当たったジャギーが続けて吹っ飛ぶ。威力が極小さな矢切りだがジャンプの威力を加えることで大きなダメージを与える事が出来る。怯んだジャギー達は遠目に距離をとり、固まってこちらを威嚇している。
私は弓を構えると、矢入れから羽根の後ろに袋が取り付けられた矢を取り出し、ジャギー達の上空に向けて狙いをさだめると、身を屈めて最大の力を込めて矢を放つ。放たれた矢はジャギー達の上空で音を立てて破裂し、中に入っていた鉄球の球をジャギー達に降り注がせた。曲射と呼ばれる特殊な攻撃方法である。
私は倒れたジャギー達から、革と牙を剥ぎ取り油紙で包みポーチに入れた。膝に付いた泥を払い立ち上がり、岩場に沿って山際を回り込むと水場に出た。
すぐに蜂の巣を見つけハチミツを採取する。纏わり付く蜂と私に向かって地面を這ってくる巨大な虫オルタロスを矢切で蹴散らし、特産キノコを採取しながらキャンプへ戻る。
回復薬とハチミツを革袋に入れ回復薬Gを調合し、納品ボックス入れる。途中、ところどころで採取した特産キノコを合計10個を納品ボックスに入れ、キャンプに設置されていた信号弾を打ち上げる。
遥か上空で乾いた炸裂音がし、白い煙が青空の中、風で流れて行った。クエストクリアの合図である。
狩人にとって最も大切なことは、生きて町に帰ってくること。採取、現地調達、調合。そこには脈々と受け継がれるハンターの生きる術がある。
次回「第4話 入団」
お楽しみに。
では、よき狩りを。