モンスターハンター In My Eyes   作:あずき犬

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ゴアマガラが目撃されたシナトへ向かう太陽の団。
贖罪の為に転生したモンスターと、今を生きるために回帰した狩人。
決戦の時。

「第33話 天空の決戦」
どうぞ。


第33話 天空の決戦

 

古竜観測省。首都メゼポルタの行政区に本部を置き、最前線のドンドルマに執行本部を置く。

元々、撃退した黒龍の監視の為に危機管理局内に設置された部局の一つであったが、新旧大陸の豊富な資源に目を付けた経済界の訴えを受け、住民達や役人達、商人からモンスターへの脅威を払拭することを建前とし、分散していたモンスター部門の機関を統合して独立した決裁権限を持つ観測省となる。文政省内に設置されていた書士隊、古文書の保管に関わり、モンスターの生態を研究する学術院、そして、ギルドクエスト管理局が統合された。

様々なモンスターが跋扈する広大な共和国国土において、絶大な権力を有する機関であり、政治的影響力も大きい。

古竜観測省ドンドルマ現地執行部最高責任者、太陽の団の団長の正式な肩書である。しかし、本人は頑なに、元々の出身である学術院書記官を名乗っている。その理由は、学術院の院長に頭が上がらないからという理由からと言う。

 

イズナを探す旅の中、メゼポルタギルドに接近した団長は、学術院とメゼポルタギルドが、ある技術を確立させたことを知った。

 

シュレイド地方の地下に眠る遺跡の最深部。かつて、黒龍討伐隊が派遣された、古城の闘技場の更に地下。黒龍討伐の裏で首都派ギルドは太古の造竜技術を手に入れていた。

造竜技術とギルド。この二つの車輪を回すことにより、辺境と呼ばれる資源豊かな地域を平和的に略奪していく事が可能となった。

ギルド外交とは、巷でささやかれている以上に始末が悪いものであった。

メゼポルタの学術院にも立ち寄ったが、師匠と仰ぐ院長に会うことは出来なかった。造竜技術の虜となった院長にどんな言葉をかければいいのか分からなかったが、随分前から失踪しているらしい。

ドンドルマのギルドマスター会議で発表した狂竜ウィルスは、造竜技術の副産物に過ぎない。

 

 

「書記官殿」

 

流れる景色を眺めながらもの思いにふける団長に、操舵桿を握る男性が声をかけた。

 

「まもなくシナト国に入ります」

 

遥か眼下に、急峻な山脈が横たわる。

観測省の気球船は、最高高度を風に吹かれて一路、ゴアマガラが目撃されたシナト国に向かっていた。

 

 

「見て、見て、山の上を飛んでるよ」

 

気球船後部の客室キャビンの窓を覗き込むペルヴェがキャビン内を振り返りながらはしゃいでいる。

 

「これ、あんまりはしゃぐんじゃない。船が落ちたらどうするんじゃ」

 

キャビンの端で小さくなり座り込むナジムがたしなめる。

 

「シナトってお師匠の故郷なんでしょ」

 

窓を離れたペルヴェは、ソファーでくつろぐカガリの横に座る。

 

「じいちゃんに連れて来てもらった時のことしか覚えていないけどな。月一の連絡船しか来ないような辺境の地だったな」

 

連絡船もこの気球船とは比べものにならない粗末なもので、吹きっさらしの甲板の手摺りにしがみついていた記憶しかない。

 

「天空山ってすごいね」

 

窓際の座席に腰掛けるエルザがぶ厚い本をめくる。

横に座る私はその本を覗きこむ。

空中に浮かぶ船の残骸のなれの果て。かつて古代文明が空に浮かべた船がいまでも未知の力で引力に逆らい、浮かび続けているという。シナトの町からは崩れ落ちた残骸に掛けられた吊橋を渡ることで辛うじて足を運ぶ事ができる。常に乱気流が渦巻き、気球船では近づくことも出来ない。

 

バルバレのギルドマスターの話では、シナト国の子供が、大きな黒い生物が黒い霧を撒き散らしながら天空山に向かう姿を目撃したという。

 

「ギルドでも禁足地に指定していて、殆ど調査されていないみたい」

 

エルザは本のページをめくる。

天空山にあると言われる石碑が描かれている。石碑の表面には、翼の生えた竜のような紋章が彫り込まれている。

私は本のページから目を離し、窓の景色を眺める。

何重にも連なる山脈の向こうに、崖の上に張り付くように小さな家が立ち並ぶ町並みが見えていた。

 

「エルザ、あれ」

 

私はエルザの肩を叩き、窓の外を指差す。

 

「シナト国ね。竜人族の町よ」

 

眼鏡をかけ直し、窓の外を眺めるエルザがつぶやく。

 

 

崖際に取り付けられた板のタラップを恐る恐る渡る。一歩歩くごとにきしむ板の隙間からはるか雲に霞む崖下が見える。

地面に降り立ち一息つく。

 

「遠いところご苦労じゃったな」

 

背の低い竜人族の老人が手を差し出す。

見ると、村中の人達が私達を迎えてくれていた。老人と握手を交わし、人々に囲まれる。

ハンターが珍しいのか、小さな子供達が騒ぎながら、興味深そうに私の装備に手を伸ばす。

 

「これ、神聖な装備に手を触れるんじゃありません」

鍬を担いだ竜人族の青年が子供達をたしなめる。

子供達は不満げな顔をしながらも、渋々私から離れる。

 

「神聖だなんて、そんな」

 

 

青年と握手を交わしながら、私は自分の装備を見下ろす。

 

「獄狼竜は私どもの国では神様の使いと言われています」

 

神様の使いを狩猟し、その素材から作られた装備を纏っていることが申し訳なくなる。

 

「そういう意味じゃないんですよ。例え、防具に姿を変えても、宿る魂は獄狼竜そのものですからね」

 

青年は、若者らしい、困惑した笑顔をみせる。

 

「手入れの行き届いた装備を拝見し、貴方が狩猟した獄狼竜に敬意を抱いてくださっていることが伝わります」

 

失言に対する言い訳にも聞こえないことはないが、青年の屈託のない笑顔が真意であることを訴えている。

私は、歴戦の戦士として倒れた獄狼竜の勇姿を思い出し、慈しむように装備を撫でた。

 

「さあ、小さな村ですが、どうぞご案内いたします」

 

私と団長はシナト国を治める竜人族の老人の館に通された。

 

「はるか昔、ゴアマガラはここ天空山から野に放たれたと伝わっております」

 

、先程の青年が湯呑みを載せたお盆を持って現れた。湯が湧く囲炉裏を取り囲み車座に座る私達に、シナト名物のカスミ茶を振る舞い、老人の横に座る。

 

「彼のモンスターは天空山の最奥、禁足地に封印されていたのですが、封印を自ら破り、空に消えたといいます」

 

私は湯気を立てるカスミ茶に口をつける。

シナト名物のカスミ草には鎮静効果があると言い、暖かいカスミ茶が喉を通ると、昂揚した気持ちが落ち着く。

 

「ゴアマガラについてなにか伝承のようなものはありますか」

 

飲み干した空の湯呑みを置き、膝を崩して座る団長が尋ねる。腕を組んだ老人は天を睨む。

 

「ふむ。死と再生を繰り返す転生の象徴と呼ばれておるが、詳しいことはわからん」

 

 

館の前の広場には、団員達がそれぞれ簡易の店を開いている。

カガリとペルヴェはイズナの装備の最終調整に追われ、エルザとナジムは腕をまくり、ハクの料理を手伝っている。

私と団長は館を出て、石畳の道を歩いていた。

 

「ひとーつ、大地を巡りて、帰り来よ」

 

広場の手前の井戸の側で、竜人族の少女が歌いながら鞠をついていた。

心地好い鞠のリズムに私は、しばらく耳を傾ける。

 

「ふたーつ、海を巡りて、帰り来よ」

 

団長も私の横で、その手鞠歌に聴き入る。

 

「みーつ、空を巡りて、帰り来よ」

 

少女の隣で手拍子をしていた小さな男の子が、少女のうつ鞠に合わせて歌い出した。

 

「よっつ、時を巡りて、帰り来よ」

 

「いつつ、心を巡りて、帰り来よ」

 

鞠が不規則に弾み、少女の手に当たって地面を転がる。男の子が慌てて転がる鞠を追い掛ける。

 

「シナトに古くから伝わる手鞠歌ですよ」

 

いつから居たのか、私の横に竜人族の青年が立っていた。

男の子から鞠を受けとった少女はまた、鞠をつき始めた。

 

「むっつ、御魂が目を覚まし」

 

「ななつ、心が目を覚ます」

 

「やっつ、ともに回れや命と心」

 

「ここのつ、ともに歌いて帰り来よ」

 

「とう、ともに生きよ想いと魂」

 

青年が拍手をする。鞠を両手で抱えた少女は、恥ずかしそう笑うと、

 

「上手に出来たでしょ、大僧上さま」

 

と青年に笑いかけながら、男の子と二人で走り去った。青年は目を細めて笑いながら手を振る。

 

「大僧上?」

 

私は手を振る青年を見上げる。

 

「少し座って話しをしましょうか」

 

青年は私と団長の前を歩き、広場の側の高台に案内した。

青年は広場を見下ろすように作られたベンチに腰掛けた。

 

側に座るわるように手招きをする彼を挟むように私と団長もベンチに腰掛けた。

 

「代々禁足地の管理を任されてきたヤクモと申します」

 

ヤクモは広場を見下ろしながらは話す。

 

「大僧上というのは」

 

団長がヤクモを見る。青年は笑みを浮かべたヤクモは、懐から風車を取り出し、風に回し始めた。

 

「竜人族は寿命500年と言われますが、その殆どは天寿をまっとうせずに生を失います」

 

竜人族の長寿については聞いていたが、寿命が500年もあるとは知らなかった。

 

「500年も生きていると、どうしようもない虚無に襲われることがあります。気を許しあった人間達が寿命をまっとうして死んでいく姿を見るとね、私達はあと何回死と向き合わなければならないのかと気が遠くなります」

 

風が吹き抜け、ヤクモの持つ風車が勢いよく回る。

 

「500年の時は長すぎます。耐え切れず、みな自ら命を断ってゆくのです。死があまりにも隔絶されると、あまりの生の重さに耐え切れなくなるのでしょうね」

 

団長も足元から風車を取り上げ、風を受けて回る羽根を眺める。

 

「500年も生きられれば、世界中を回れるだろうにな」

 

腕を組んだ団長がつぶやく。

 

「貴方が、常に死を意識し、覚悟できているからそう思えるのですよ。」

 

「そんなもんかね」

 

団長は風車に息を吹きかける。ヤクモは笑みを浮かべて頷く。

 

「あなたのその好奇心はどこからくるのでしょうか。自分に永遠に近い時間があればどう思いますか」

 

団長は俯いて考えこむ。

 

「とにかく、そんな竜人族達の助けになればと作られたのが転生信仰であり、その死と転生の象徴を守り続けるのが大僧上というわけです」

 

私はゴアマガラに吸収されたプロトアニマ達の言葉を思い出していた。

 

「ゴアマガラが死の象徴であることはなんとなくわかりますが、転生についてが分かりません」

 

私の質問に、ヤクモは頷く。

 

「それをお伝えしたくて来てもらいました」

 

ヤクモは立ち上がる。

 

「さっき子供達が歌っていた手鞠歌。あれは古くからシナトに伝わる言い伝えを歌にしたものです」

 

後ろ手で立つヤクモは、人が行き交う広場を眺める。

「シャガルマガラ数え歌。かつて、シナトをはじめとする大シキ王国を襲った厄災」

 

遥か昔、大陸を統一したシュレイド王国が東西に分断された頃、東大陸はシキ国が支配し、その強大な軍事力を持って、シュレイドの豊かな大地を侵略すべく、ここシナトに天空戦艦を建造した。

さすがの竜人族でも空に大船を浮かす技術は持っていない。彼等は、討伐したテオ・テスカトル、ナナ・テスカトリから抽出した浮遊結晶を使い、空に船を浮かべた。

モンスターを狩っていて不思議に思ったことはないだろうか?

空を駆ける巨大なモンスター達。あの巨体が何故自由に空を舞うのか。空を駆ける意志を具現化しているのは彼等の持つ浮遊結晶の力のなせる技である。

 

シュレイドに向けて出撃しようとした浮遊戦艦はその直前に内部から崩壊した。

動力となった浮遊結晶から生まれたゴアマガラは、大シキ王国だけでなく、シュレイドまでも駆け巡り、当時の最先端技術であった、モンスターの命を結晶化する施設を破壊し、ここシナトに戻った。

やがて、光り輝く竜となったシャガルマガラは、大シキ王国全土を壊滅させ、東シュレイド王国滅亡のきっかけをも作ったと言われている。

モンスターの生命を弄ぶ禁忌を犯した者へもたらされた厄災を目にした我々は、技術を捨て、彼等と共に生きる道を選んだ。

 

 

ほそぼそと残った竜人族達は、各地を蹂躙して回った後、またこの地に戻っシャガルマガラを、敬い、自らの愚行を知らしめてくれた彼のモンスターを、転生の象徴として崇めた。

各地で、モンスター達の魂を解放し、人類の愚かさを身を持って教えてくれたモンスター。そして、自然とともに、その脅威を排斥するのではなく、受け入れる生き方を選んだ竜人族達。

 

「長い旅を終えて、この地に回帰したゴアマガラは、今度は何を私たちに教えてくれるのでしょうね」

 

強風が吹き付け、広場では団員達が大騒ぎしてテントを押さえている。

私はなびく髪を押さえ、団長はハット帽を深く被りなおす。

ヤクモの持つ風車、そして、ベンチの下に斜面に突き立てられた無数の風車が、カラカラと音を立てて回り続ける。

 

 

 

 

料理屋台のテーブルを太陽の団団員が取り囲み席についていた。

テーブルの上には湯気を立てる料理がところせましと並べられている。

 

「渾身の料理二ャル」

 

ハクは満足げに、一心不乱に料理を口にする団員達を眺める。世界中で手に入れた食材、そしてレシピ。一年間で随分腕前が上がったと自負する。

 

ドンドルマのギルド工房で一年間、最新技術を目にし、回路学を身につけたカガリが巨大な肉の塊を貪る。

 

密かに団員達の連絡役を勤め、ナグリに装飾品の小さな店も構えたペルヴェは器用に箸を使い、焼売を口にほうり込み、肉汁の熱さに大騒ぎしている。

 

ハクと世界を巡り、新たな素材入手経路を確立し、実際に市場に足を運び、この年にして素材の持つ新たな可能性に気づいたナジムがいろとりどりのサラダを口に運ぶ。

 

ギルドバーでウェイトレスをしながら、厨房に立ち、ハンター向けの新メニューを次々と生み出し、そして、どれだけ絶望的な状況であっても、信じ続け、今できることを精一杯頑張っていれば、願いは叶うことを知ったエルザがフォークに巻いたスパゲティーを大きく開けた口で頬張る。

 

古竜観測省の要職につきながら、ギルドの闇を見抜けなかったという過ちを悔やみ、臆病になるのではなく、過ちを受け入れること、そしてひたすらに信じ続けることが、過去の過ちに対する唯一の正しい姿勢。この世界を信じて、苦しみを乗り越えたイズナ、シズクの言葉を聞き、明確に目指すべき目標を見つけた団長がチャーハンを一気にかけこむ。

 

顔中を油まみれにしてこんがり肉を平らげた私は、綺麗に肉が剥ぎ取られた骨を皿に置き、テーブルを見回した。

竜人族、人間、ナズナ達獣人族、彼等はみな今を生きる人々。脈動する生。太古の人間の過ちから生まれた私。かつての贖罪のように生命結晶を飲み込み続けるゴアマガラ。この人達のためにも、私のためにも、いつかは決着をつけなくてはいけない戦い。

ゴアマガラに見せてあげたい。一度、絶望し、二度と取り戻せないと思っていたものでも、絶望を受け入れ、思いを信じ続けていれば、生まれ変わることが出来る。

 

立ち上がった私に食事を終えた皆が注目する。

 

「みんな、今までありがとう。私……」

 

私は口の回りの油を袖で拭き取る。

 

「ひと狩り行ってくるね」

 

団員達は顔を合わせて笑いあい、それぞれがコップを手に立ち上がる。

 

「よき狩りを!」

 

みなの声が静かなシナトの山に響いた。

 

 

 

 

天空山のベースキャンプから辺りを見回す。

足元は吸い込まれそうな断崖絶壁。霞みのはるか下にはうっすらと緑の大地がかいま見える。

太い蔦のようなものが縦横無尽に張り巡らされている。上を見あげると、空に浮かぶ船の残骸から蔦が垂れ下がり、その蔦に天空山自体が支えられていることがわかる。

絶え間無く吹き付ける激しい風に蔦がきしみ、天空山自体が軋んでいるような音が響く。

ベースキャンプから蔦の道をたどり走る。アプトノスやイーオスなどの小型モンスターを討伐しながら、螺旋状に天空山を登っていく。

蔦を上りきった先は、強風が吹き付ける広場であった。わずかに残された樹木が強風で変形し、異様な形で、洞窟の入口を隠している。入口の前には崩れた岩塊が転がる。近寄ってみると、岩塊に、エルザの本で見た竜の紋章が見えた。

ここに違いない。禁足地への入口である。四角い入口の内部からは黒い霧が吹き出ている。狂竜ウイルスだろう。

武器、防具、ポーチの中身を点検し、覆いかぶさる樹木を払い除け、入口に足を踏み入れた。

 

 

 

 

暗闇の洞窟を手探りで抜けると、緑の絨毯のように草がおおい茂る光り溢れる空間に出た。空間には苔に覆われた大きな柱が乱立し、見上げると、ところどころ天井が崩れ落ち、光が帯の様に降り注いでいる。

もともとはなにかの建物だったのだろうか。よくみると壁面には階層が崩れた跡が見える。5階層の巨大な建物だったのだろう。

広場の中央、光の帯の先に黒い塊が見える。足元を流れる黒い霧はそこから流れてきていた。

ゴアマガラ。小さく折りたたんだ体を、翼で覆いつくしている。

武器を取り出し、ゆっくりと近づくが、こちらに気付く気配はない。

適性距離まで接近し、矢を取り出した時、突然のまばゆい光に足を止めて眉をひそめる。

ゴアマガラに降り注ぐ光の帯が直視できない位強く反射している。

かざした指の隙間から、ゴアマガラの黒い甲殻が音を立てて割れ、内側から白銀に輝く甲殻が光を反射している状況が見えた。

漆黒の甲殻が剥がれ落ち、内側から白銀の甲殻に覆われた竜が次第に姿をあらわにする。

狂竜ウイルスを介して、私の意識の中に、痛みや苦しみの感情が流れ込む。

断頭台での苦しみを覚えていたのが、無意識に自分の体を抱きしめていた。

ヤクモが教えてくれたゴアマガラの転生とはこのことだったのだろう。そして、この白銀に輝く竜こそ、天廻龍シャガルマガラに間違いない。

白銀の竜の頭部が持ち上がる。黒い2本の角の下に、赤く輝く瞳が私を見つめていた。

その威圧感に体が固まる。古竜独特の眼力。焦点の定まらないそのうつろな目は私の心をゆるやかに掴みとる。

動くことのできない私を尻目に、輝く翼を広げる。

たった一回の羽ばたきで、空間の天井を抜けて空に消えていった。

風圧に身を屈めていた私は、ゆっくりと身を起こした。

狂竜ウイルスを媒体としてシャガルマガラが私に送ってきた感情。それは、すべてに対する絶望と破壊そして再生への希求であった。

世界中を回り巡り、ありとあらゆる生命から回収した生命結晶に宿る様々な思いがゴアマガラがもともと内包していた擬似黒色結晶に統合され、シズクの生命結晶が未来への希望で満たされたのだろう。シャガルマガラはこの先、統合された意識の赴くまま、絶望の世界を再生するために破壊の限りをつくすだろう。このモンスターを生み出したのは私自身。だから、それを止めることができるのは私しかない。

 

すぐ近くのエリアからシャガルマガラの咆哮が聞こえた。

 

エリアの入口に向かいながらリュウガンに強撃ビンをセットし、足を止める。

目を閉じて、カエルの髪飾りに手をかざす。ポーチの側でジエン・モーランのぬいぐるみが風で揺れている。

思いの強い者が狩り、迷いがあれば狩られる。弱肉強食のこの世界に普遍に存在する真理。

息を吸い込み、静かに吐き出しながら目を見開く。

紅蓮の炎をたぎらせたどこまでも深い瞳は自らの未来を見据えるように、ただ真っすぐ前だけを向いていた。

 

 

 

 

黒い霧に覆われたエリア。霧のために、ここが屋外かどうかすら分からない。

エリアの中央。シャガルマガラが悠然とこちらに歩いていた。

リュウガンを構える。

うごめく白銀の甲殻に覆われた頭部に矢を放つ。その場で放たれる大咆哮をバックステップで回避し、更に矢を放つ。

狂竜ウイルスを口に溜め込むと、3連続のブレスを吐き出す。ゴアマガラのそれとは違い、軌道変化がなく、直線に吐き出された塊が移動するため回避は楽になる。シャガルマガラは一瞬、動きをとめ、力をためると、上空に舞い上がる。

さすがに矢の適性距離から離れてしまい、次の攻撃に備えて弓を背中に担ぐ。

舞い上がったシャガルマガラは上空で静止し、ゆっくりと翼を広げていく。白銀の甲殻が太陽のように輝き、翼がキラキラと揺らめく様に光を反射している。

折り畳まれていた翼手が展開されていく。

大咆哮とともに、高濃度に凝縮され青紫色に輝く狂竜ウイルスが噴出される。その風圧に私は身をかがめて耐えることしかできない。エリア全体に広がるウイルスが活性化し、地上のそこかしこで飽和し、爆発している。

硬直して動けない私の足元が青紫色に輝く。回避は間に合わない。目を閉じた瞬間に、爆発に巻き込まれ、風圧に飛ばされ、地面を転がる。

高濃度の狂竜ウイルスは、今までのような漠然とした意識ではなく、はっきりとした意識を映像として私に送って来る。

 

それは、遥か昔、竜大戦のころ、人間達が次々にモンスター達の餌食にになり死んでいく姿であり、残された人々が貴重な物資を奪い合い殺しあう姿であった。また、人類が滅亡した後、廃墟に跋扈するモンスターを孤独に狩り続けるプロトアニマ達の姿であり、ぼろぼろの体で、巨大モンスターに挑み倒れていく彼らの姿であった。

ゴアマガラが吸収したプロトアニマ達の意識を共有しているのだろうか。

胸に手を当てて、その絶望に塗り尽くされた意識達を受け入れる。シャガルマガラに内包される意識が高濃度の狂竜ウイルスにより私に伝わってきているのならば…… 。

 

地面に着地したシャガルマガラはふらふらと立ち上がる私に向かって突進する。巨大な躯体そのものが凶器となり、私に迫っていた。展開された翼手と、腕の間の僅かな隙間を縫い、回転回避でシャガルマガラの後方に出る。

素早く弓を構えて、振り向く頭部に矢を命中させる。足元が光り出したため、攻撃を中断し、爆発から逃れる。この地上での爆発はなかなか厄介である。発生場所がランダムなので対処のしようがない。

しかし、このランダム性こそ、不確定を生み出す生命結晶の本質を明白に現した攻撃手段といえるかもしれない。

気を取り直してシャガルマガラを見上げる。翼手による叩き付け。慌てて、攻撃範囲から逃げ出す。左右の翼手による叩き付けの後、全身を反らし、両翼手を地面に叩きつける。

地面がえぐり取られ、送り込まれた狂竜ウイルスが地中で爆発し、激しい振動が私を襲った。

地面に四つん這いになり振動に耐える私をシャガルマガラが見下ろしている。

 

灼熱の太陽の下、冷たく輝く月の下、凍てつく氷の中、溶岩の中、ありとあらゆる場所で孤独に戦い続けたプロトアニマ達の意識が私に流れ込む。生まれたことへの疑問と、戦い続けることの孤独に苛まれた彼ら、彼女達の絶望がいかほどのものであったのか。

永遠の孤独の末に訪れたゴアマガラは死の使者であり、絶望からの解放者でもあった。

プロトアニマ達はゴアマガラの狂竜ウイルスにより、ただ破壊の限りをつくすモンスターになるか、ゴアマガラに生命結晶を差し出すかの選択を迫られた。

ほとんどのプロトアニマ達は嬉々として生命結晶を差し出した。最後の最後まで人類を守るために。

 

涙が止まらなかった。

 

御手洗教授の生み出した複式多層精神構造の根幹は思い出の積み重ねによる心の表出であったが、プロトアニマ達は、戦いと絶望の思い出に塗り潰され、心を失っていってしまったのだろう。

そうした絶望を忘れ、団長達に人間として扱われて生きてきた私はまさに奇跡の産物であったのだろう。

エイギルによって蘇った過去の記憶も、その思い出を崩すことはできなかった。ゴアマガラにすがりついたプロトアニマ達にもそうして生きていく道があったはずなのに。

 

回転回避でシャガルマガラの軸線から離れ、リュウガンを構え、矢を放つ。

放たれる矢一つ一つは巨大モンスターにとってはいくら適性距離から放たれたとしても、微々たるダメージしか与えることはできない。しかし、思いを載せた矢は確実にダメージを蓄積していく。シャガルマガラの黒い角が折れて破片が散らばる。

苦しみにもがくシャガルマガラに容赦なく矢を送りだし続ける。

起き上がったシャガルマガラは咆哮を放ちながら、バックステップで距離をとる。

悠然と歩くシャガルマガラは、彼がもたらすはずであった運命に抗い続けて戦い続けるわたしを嘲笑うように、その赤く輝く瞳で私を見下ろす。

ノーモーションから翼手を繰り出す。回避が間に合わなかった私は翼手の白銀の爪に掴まれて持ち上げられる。もがけばもがくほど締め付けは強くなる。

気がつけばシャガルマガラの赤い瞳が目の前に迫っていた。

 

憐れみ。

 

シャガルマガラは握りしめた私をじっと見つめている。思いが私を浸蝕する。

 

生命結晶は人類が手を出してはいけない禁断の果実であった。もともと、この地上にあってはいけないものだった。

無機物から生命を生み出した人類は神をも超えてしまった錯覚に陥った。

人類も生命結晶によって生を得ていることを忘れて。何故人類に神は生命結晶を与えたのか。

私はずっと考え続けていた。悲観するだけでなく、かつて、今の人類を信じてみたこともあった。

そして長い年月を経て一つの結論に至った。

生命結晶は人類への最後の試験だったのではないか。過ぎたる力を得た人類がどのようにその力を使うのか。人類の導き出した造竜技術は試験の回答てしては落第点だったのだろう。

新たに生まれた、この世界にはびこる絶望、そして、造竜技術を垣間見た彼らの反応とその後の行動を見ていると、やはり人類には生命結晶を有効に使うことは出来ない。

 

「だから、あなたはこの世界を破壊するつもりなの?」

 

握りしめられる腕に悶えながら私はシャガルマガラを睨みつけた。

 

残された人類はあの大戦の中、逃げ惑った臆病者達の末裔。獣人や竜人族は実験段階で生まれた失敗作だ。総てを無に帰してもう一度進化の過程を繰り返さなくてはならない。

それが、

彼らを生み出してしまった私達の宿命である。

 

 

悲しい瞳。深い後悔に苛まれた瞳。シャガルマガラからが送り込まれる負の意識に最初は反論しかなかったが、今は慈しみの心が占める。

 

荒々しくも、輝かしいこの世界、そこに生きる人々は、厳しい自然やモンスターの脅威に晒されながらも、みなその前提を受け入れて人生を謳歌している。

世界のほぼ7割はもともと人の住むことの出来ない砂漠地帯であり、自然豊かな辺境の地には天災をもたらす古竜達がいた。

数少ない安全で温暖な地域を奪い合い、戦争を続ける人類だが、砂漠に生きる人々や、辺境で古竜の脅威に晒されながらも、その自然に敬意と畏怖をこめて暮らす人々。そしてハンター達。

いろいろなハンターに出会ったが、彼らはみな自然を受け入れ、狩猟対象であるモンスターに対して敬意を忘れていなかった。

今、人類は試行錯誤しながらも、この世界を受け入れ、順応しようとしている。それを理解できないシャガルマガラはきっと孤独の中に生きつづけていくしかなかったのだろう。

 

涙が頬を伝う。シャガルマガラは握りしめた私を放り投げた。

私は、地面に叩き付けられて呻く。

片膝をつき起き上がりリュウガンを構え直す。

 

 

七色の光を反射しながら空中に浮かび上がるシャガルマガラ。神々しいその姿に死に神と例えられたゴアマガラの面影はない。

 

滑空するシャガルマガラの翼手の爪を回避する。

着地したシャガルマガラはその場で回転し、惰性の力を打ち消し、私に向かって突進する。弓を能刀し、軸線上から逃げる。私のすぐ後方を白銀の塊が通過していく。足を止めた私はポーチから元気ドリンコを取り出し、一気に飲み干した。

シャガルマガラが狂竜ウイルスの塊を吐き出す。

私のすぐ横に着弾した塊は勢いよく回転を始め、みるみる周囲の狂竜ウイルスを吸収していく。危険を察知した私はとっさに塊から距離をとる。背中で大爆発が起き、倒れこんだ私に塊から飛び出した狂竜ウイルスが襲う。

濃縮された狂竜ウイルスが炎になり私を焼いていく。

 

 

 

製造コード【グアシノーシス】、識別番号0002541、大戦中期に製造された第一世代プロトアニマ。避難所の世話係として赴任した彼女は、泣き叫び、混乱状態の避難民達を優しく介抱し、子供達に歌を歌ってあげた。

避難所が襲撃された時、指令に従い、アーティア装備でモンスターの大群に立ち向かう。モンスターが去った後、彼女が見たのは、今までの励まし続けていた避難民達の変わり果てた姿。

人類滅亡後も密林において一人戦い続けた彼女はほとんどの感知機能に支障をきたし、さまよう様にただ歩き続けていた。気付かないうちにモンスター化していた彼女は、現れたハンター達に討伐された。ただ歌を聞かせようと近寄っただけだったのに。

体の主要な臓器を剥ぎ取られ、放置された樹海の中、薄れ行く意識の中で、ゴアマガラが降り立つ。

 

 

 

 

製造コード【ジャガーノート】、識別番号0025433、大戦後期に製造された第二世代プロトアニムス。

常に最前線において、数多くのモンスターを屠り続けた彼は、ほとんど人に触れ合う事が無かった。

人類滅亡後も彼は瓦礫の戦場において、現れるモンスターをただだひたすらに狩り続けていた。

いつの間にか、黒い甲殻の竜になった彼は、倒したモンスターや、彼を狩りに来たハンター達を倒し続け、その証として、灼熱の甲殻にそれらを溶かしこんでいた。

たった一人のハンターに倒された彼は、命からがら大地の割れ目に逃げ落ち、地の底で、ゴアマガラと出会った。

 

 

 

 

製造コード【マキナ】、識別番号6325882、大戦末期に製造された第三世代プロトコアニマ。

密林の中に作られたプロトアニマの生産ラインの守護部隊として赴任。

双剣に特化した攻撃型プロトアニマである彼女は、執拗に迫るモンスターをその美しいまでの乱舞により撃退し続けていた。メンテナンス中に襲撃を受け、ラインは崩壊し、彼女は一人取り残された。長い孤独な戦いの末、砂漠の町に現れた彼女は、失われて久しい双剣の武器、技術を人々に伝えた後、別の大陸において、巨大モンスターを討伐した際に、あまりもの飛び抜けた身体能力を、異端とされ捕らえられた。町の中心の広場、柱に括り付けられ、火が点され、処刑されるその時に、回りの処刑人や、観衆を皆殺しにし、自らモンスター化を望んだその目でゴアマガラを見ていた。

 

 

 

 

製造コード、

 

 

プロトアニマ達が陥った絶望が波のように私の意識に流れ込む。

信じたものに裏切られ、信じるものすら知らなかったプロトアニマ達の絶望の歴史の上に、今の時代は成り立っている。

誰も知らないところで命を擦り減らしながら戦い続けたプロトアニマ達の悲しみを受け入れてくれるのは死の使者であるゴアマガラだけだったのも分かる。

でも、信じた者に救われたプロトアニマも確実にいたはずである。絶望に覆いつくされたプロトアニマ達の精神回路の一番奥。第二世代までは複式回路を持っていなかったため、上書きされてしまった記憶の下にそれは存在するはず。狂竜ウイルスにより、シャガルマガラの意識が私に流れ込んでいるのなら……

 

突進するシャガルマガラをやり過ごし、回復薬Gを飲み干す。上がった息を整える。

 

ゴアマガラの時のように……

 

私の意識もシャガルマガラに伝わっているはず

 

3方向へのブレス。ブレスは常にシャガルマガラから見て左、右、中央に吐き出される。軌道を読み、左右に回避しながら、シャガルマガラの頭部に矢を命中させる。

 

間隙なく、矢を放ちながらも意識は深く、思いの中にある。

団長に出会い、強引にハンターにされ、ナズナと狩りに出かけたバルバレでの日々。筆頭ハンター達との出会い、エルザやイリア達とのおしゃべり。チコ海岸で見た花火。ユクモ村でのマリアとの生活。マリアがかけてくれた宝物のような言葉達。

ガラフ達が教えてくれた、心の在り方。タンジアでの日々。砂漠に浮かぶ町、ロックラック。ゲルヒム号、ガラガ工房人々の清々しさ。

モガ村。

断頭台。

死よりもつらい苦しみからの解放と再会。楽しい思い出ばかりではないけれども、星空のように散りばめられた輝く思い出。

ばらばらに散らばる思い出達が、折り重なり、紡がれて、今の私を支えてくれている。

新しい思い出を得る度に、新しい朝を迎える度に、少しずつ生まれ変わり続けていくことができる。

だから、あなた達も、絶望の中に捕われるのではなく、もう一度、信じてほしい。絶望は受け入れる事ができるから。自らの意志で生まれ変われることを信じてほしい。

あなた達は、必要とされて生まれ、数え切れない人々を救った。そのおかげで、見てよ、この世界はこんなにも命が溢れているのだから。

 

放たれた矢が的確にシャガルマガラの頭部を捕らえ続けている。

 

 

 

 

シャガルマガラと出会い、どのくらい戦い続けているのだろうか。

エリア中央の岩影に隠れて元気ドリンコを飲み干す。腰につけた懐中時計を見ると4時間を過ぎた付近を針が示している。

汗を拭い、弓を構える。

立ち上がろうとしたところで背後の岩が砕け散り、振り返った私はシャガルマガラの突進に巻き込まれていた。体を丸めて地面を転がる。

立ち上がろうとして膝が崩れる。ダメージの蓄積がひどい。

両手をついて喘ぎながら頭をあげて見上げる。霞む視線の先で足を引きずりながら私に向かって歩くシャガルマガラが見えた。ボロボロの頭部に赤い瞳が輝く。満身創痍はお互い様のようだ。

シャガルマガラから狂竜ウイルスとともに送りこまれてくるプロトアニマ達の絶望のイメージが私に重くのしかかる。

一つ一つのイメージに私は答え続けていた。

 

弓を杖のかわりにしてしがみついて立ち上がる。

震える手で矢を番え、歯を食いしばりながら弦を引き、矢を送り出す。

放物線を描く矢がシャガルマガラの翼に当たる。龍属性の炎が白銀の甲殻を焼いていく。

私に向かい、まっすぐに、体を揺らせながら歩くシャガルマガラに矢を放ち続ける。

赤黒い龍属性の炎の中から白銀の頭部が現れる。

 

なぜお前は、そこまでして、戦い続けるのか。

 

私は膝を地面に付き、矢を放ち続ける。

シャガルマガラの頭部、翼、腕、足、安定しない軌道の矢がシャガルマガラに送りこまれて続けている。

 

絶望の淵を歩みながら、なぜお前の生命結晶はかくのごとき輝きを失わないのか。

 

放たれた矢が、シャガルマガラの手前に力無く落ちて地面に散らばる。

矢を握っていた手はもう痺れて動かなかった。

リュウガンを地面にそっと置き、腰のハンターナイフを引き抜く。シャガルマガラの質問に答えなくてはいけない。

 

「それはね」

 

ハンターナイフを腰に構えて、ゆっくりと立ち上がる。ナイフのきらめく刀身が撒き散らされた狂竜ウイルスの中、なまめかしく輝く。

 

 

今までの出会ったみんなの顔が浮かぶ。

笑いあった場面、泣きあった場面、笑顔で泣きあい抱き合った場面、いつだってみんな私が帰ってくることを信じて疑わなかった。

 

 

『命をかけてモンスターを狩猟して、皆を脅威から守る、ただのバカ野郎ども』

ハット帽の下で笑う団長。

『命をかけて、モンスターを狩る者に対する当然の賛美』

 

笑いながら私の背中を叩くジャン。

 

そして、

 

『狩りで死ぬ奴はただのバカ野郎だよ』

 

足を引きずり、無理矢理作った笑顔で話し掛けるマリア。

 

『必ず、帰ってくる者達』

 

バルバレの乾いた風が私の心を吹き抜けていく。

 

ハンターナイフを握る手に力を入れる。翼手を広げ威嚇するシャガルマガラ。

見上げた私は思いっきり叫ぶ。

 

「私が、ハンターだから」

 

 

降り懸かる翼手をハンターナイフの背で受け流す。火花の散る中、その反動を利用し、回転しながらシャガルマガラの腹部に深くナイフの切っ先をめりこませる。

私の全身が吹き出たシャガルマガラの血液に染まる。それでも私は回転を止めず、シャガルマガラの腹部、足、尻尾を切り付けながら翼の下を潜り、背後に踊り出る。

ボロボロの刀身のハンターナイフを振り、シャガルマガラの血液を払い落とす。

 

絶望を抱き続けて生きつづろ。

 

膝を地面に落とす私の背後で、シャガルマガラは地面に体をうずめていく。

 

明確に送り込まれた最後のイメージ。

それは、恐るべき造竜技術の真相。

心を壊されたプロトアニマ達が、空に広がる巨大な口に吸い込まれていく。

 

 

地面を揺るがす振動と豪音に我に返り振り向く。

地面に突っ伏すシャガルマガラの瞳が私をまっすぐ見ていた。

 

絶望に耐え切れなくなればまた、私を呼ぶがいい

 

瞳が閉じていく。

 

 

風が吹き抜け、狂竜ウイルスの霧が晴れていく。

突き抜けるような青空に太陽。

シャガルマガラの動かなくなった甲殻がキラキラと光を反射している。

 

私はその死骸に近寄り、翼の前に腰をかがめて、甲殻を一つ剥ぎ取った。

白銀に輝く甲殻を太陽にかざし、胸に抱く。

 

「もう、私が絶望に押し潰されることはない」

 

シャガルマガラの閉じた瞳を見つめる。

 

「絶望はあなたがすべて持っていってくれたよ」

 

銀髪が風で乱れる。

どこまでも真っ青な空。

光輝く山の嶺。

世界はどこまでも美しい。

立ち上がり、涙を拭った。地面に落ちていたリュウガンを拾い上げ、足を引きずりながらみんなの待つシナト村に向かって歩き出す。

シャガルマガラの紅蓮の血に染まりながら。




長らく妄想にお付き合い下さり、本当にありがとうございました。
技法的に、一人称視点でありながら言葉を発することが出来ない主人公。反応が首を縦か横にふるかしかない状態。名前が腕に彫り込まれていて助かりました(白目)。まあ製品ですからね。車みたいなものと思ってもらえればいいかなと。見た目の造形はすぐにできるかもしれませんが、声って再現難しいんじゃないかと設定してみましたが二度としたくありません。

だいたいのプロットを作り、始まりの一文を書きはじめた時は、もっと、狩猟日記みたいな感じの物語を構想していたのですが、終わってみると、狩りそっちのけの妄想でしたね。
試みとして、ユクモやココット、タンジア、ロックラックに関してはあえて詳しいプロットを作らずに書いてみました。その方が、行き先の分からない旅の感じが出るかなと。あまりおすすめできない書き方ですね。タラップを降りて、さて何を書けばいいのか。まさに書き手が自分の行き先がわからないという。

ゲーム本編と同じく村クエクリア段階で一旦物語を終わりますが、モンハンはやはりここからがスタートですよね。
最終話としてもう一話書きます。もしよろしければお付き合い下さい。

モンハンしながらこんなこと考えてたのがバレると恥ずかしい限りですが、リオレイアや怒り喰らうイビルジョーのくだりを書き終えた時は、初めて彼らを狩った時のように嬉しかったです。

次回
「最終話 モンスターハンター」
お楽しみに。
では、よき狩りを。






ここからは作者の個人的な意見です。本職である読専として転生物について語っています。批判を消化できる覚悟がある方、生温かい目で見ることの出来る方のみお進み下さい。





この物語には安易な転生物語へのアンチテーゼを込めています。人が死に、生まれ変わるって、本人だけでなく、残された人にとっても、堪えきれない位の身を削る苦しみや後悔、悲しみを背負わせる事だと思います。死という根源的で人によって解釈が違い過ぎる要素を使わなくても、自らの確固たる意志で転生する事ができると思います。
何が言いたいかというと、ずっと読専をしてきた私にとっては、

「もっといろんなパターンの話が読みたい」

に尽きます。
二次創作においては、転生を使えば、6割くらいの問題を気にしなくてよくなります。例えば、『機関銃のように話す』これ、機関銃がない世界では使えないんですよね。他にも春夏秋冬、季節が無い世界では使えません。
でも、やっぱり一次創作に合わせて言葉を選んで行きたいものです。
趣味だからそこまで、とも思いますが、趣味だからこそこだわって苦しんで欲しいです。
偉そうなこと言ってますが、人気があるならそれを選ぶっていうのも分かりますけどね。
人気作作ってから言えって話ですが、最終話が終わればまた読専に戻ります。
最後の戯れ事とお許し下さい。
こんなところまで読んでくださった方がいれば、本当に感謝しかありません。
長い愚痴を失礼しました。

では、次回最終話、精一杯頑張って書いていきます。
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