モンスターハンター In My Eyes   作:あずき犬

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正式に太陽の団のハンターとなったイズナ。着実に狩猟実績を重ねる彼女をギルドマスターが呼び出す。

「第5話 怪鳥」
どうぞ。


第5話 怪鳥

正式入団後、しばらくドス系モンスターの狩猟や、採取クエストを繰り返し、武器はパワーハンターボウになり、防具はハンター装備一式になっていた。

 

エルザが私の似顔絵入りのポスターを作り、出張カウンターの前に張り出した。

 

【紅蓮の女神があなたのクエストを】

 

とういう踊り文句とともに、似てるようで似ていないまつげの長い超絶美少女ハンターの似顔絵に引き寄せられ、依頼クエストは徐々に増えはじめていた。

 

そんな活躍がとうとうギルドの目に止まったのか、ギルドマスターから呼び出しがかかった。団長とギルドに向かう。

 

 

 

 

「実はな」

 

ギルドマスターはごった返すギルドの受付横で、私と団長に顔を寄せるよう指示する。

 

「樹海を調査中の書士隊から、こんな物を見せてもらってな」

 

ギルドマスターはカウンター内から、土色の巨大な丸い甲殻を一枚取り出した。

 

「イャンクックか」

 

団長が甲殻を受け取りまじまじと眺めながら呟く。

 

「うむ。その他にも、巨大な鳥類の足跡を確認したらしいな」

 

「樹海なんて、ドスランポスくらいしかいないもんと思ってたが」

 

団長は甲殻を私に渡す。

大きい。

甲殻の面積は私の顔くらいあるだろうか。だが、大きさの割には、思っていた程の重さはない。イャンクックといえば、鳥竜種。空を飛ぶために甲殻は軽くなっているのだろう。

 

「で、こいつを見せたってことは」

 

団長が腕を組みながら言う。

 

「察しの通りじゃが、別にイャンクックを狩猟して欲しいわけではない」

 

私はギルドマスターに甲殻を返す。

 

「樹海の調査を依頼したい。イャンクックが出没することが明白になれば調査隊の装備も考えなおさなきゃならん」

 

ギルドマスターは甲殻をを左右に降り、私の方に視線を送る。

 

「まあ、狩猟してくれるのが一番じゃが、なかなか手強い相手じゃからな」

 

ギルドマスターは悪戯っ子のようにニヤリと笑ってみせた。

 

 

「…… とういうわけで、ナズナ、一緒に行ってやってくれないか」

 

キャラバンに戻ると、タルの上で昼寝をしていたナズナに団長が言う。

ナズナは目を擦りながら起き上がる。

 

「イャンクックといえば鳥竜種に分類されているけど、その行動パターン、攻撃力は飛竜種相当と言われてるニャ」

 

ナズナはタルの上に立ち上がり腰に手をやる。

 

「ハンターさんにその覚悟はあるニャ?」

 

今までドス系のモンスターの狩猟を繰り返し、それなりの経験は積んできたつもりだ。調査ではなく、狩猟して自分の力を試したい。私は深く頷く。

 

「僕も新しい旦那の狩りが見てみたいニャ」

 

ナズナは言いながら、タルを飛び降り、キャラバンの奥の物置に頭を突っ込み、尻尾を振りながら、装備一式を取り出した。

 

「ボサッとしてニャいで準備にかかるニャ」

 

 

私はポーチを広げ、持ち物を再確認する。回復薬、回復薬グレード、その調合素材。スタミナ回復のための元気ドリンコ、こんがり肉。それに、イャンクックは火炎液という高音の液体を吐き出すとのことで、打ち消しの実も以前のクエストで採取していた分を全て持っていく。ポーチが満載になったため、ベースキャンプまで荷物を入れる樽も携帯肉焼機円盤型の落とし穴等でもう余地は無い。最低限必要なものに絞り、あとは現地で調達しなくてはならない。

ポーチとは別に腰のベルトにニトロダケを主成分とする強撃ビンとペイントビンを取り付けた。

立ち上がり、防具を身につけようとしたとき、カガリがキャラバンに入ってきた。

 

「防具を貸しな」

 

カガリは私のハンター装備一式を持ちキャラバンを出ていく。

アンダーウェアでベッドに腰掛けていると、今度はエルザが入ってきた。

 

「ハンターさん、イャンクックを狩りにいくんでしょ」

 

エルザはいつになく目を輝かせて興奮気味に話す。

 

「ハンターの登竜門、狩りの先生って呼ばれてるんですよ」

 

私の真ん前で拳を振りながら唾を飛ばしまくし立てる。私はただ頷く。

 

「イャンクックは瀕死状態になると、こう耳をパタンって閉じちゃうんです」

 

彼女は言いながら、両手で両耳を折り畳む。

 

「耳をこうパタンって閉じるとこ見てみたいです」

 

エルザは身をよじる。

 

「私はハンターじゃないから見ることできないんですけど、無事帰ってきたら、かならず、こう耳をパタンって閉じるところの様子を詳しく教えて下さいね」

 

私は頷く。

 

「絶対ですよーー。約束ですからね」

 

耳を押さえたままエルザはキャラバンを出て行く。 彼女なりの気の使い方なのだろう。耳を閉じる様子を伝えるためには、討伐して戻って来なければならない。

入れ代わりにカガリが装備を抱えて入ってきた。

 

「鎧玉で強化しておいた。炎も怖いが、突進の威力も高い。正面に立つ時は気を付けろ」

 

カガリは装備を床に置き、キャラバンを出て行く。

私は皆の気遣いに感謝しながら、装備を身に付けた。

 

今回のようなギルドの調査依頼に制限時間はない。

ナズナと話しあった結果、パワーハンターボウの威力では…… 、つまるところ私の力量では一日で狩猟することは出来ないだろうとのことであった。持ち込む道具の中には、一泊分のキャンプ用品も含まれている。

そんな長時間に渡る狩りは経験したことが無いし、まして、イャンクックは飛竜種と同等の強さと聞く。初めてのモンスターの狩猟に対する好奇心や昂揚感よりは、足が震えるほどの不安感に襲われているのが本音である。

でも、ハンターになることを選んだ私にとっては、これは超えなくてはならない壁だと思う。

初めてのモンスターだとしても、今出来る限りの準備をして立ち向かわなくてはならない。ましてや、私はもう一人ではない。ナズナもいる。なによりも、私の帰りを信じて疑わない人達がいる。

目を開く。不安は慢心しないためのすこしよく効く薬と思い込む。

パワーハンターボウを背中に担ぎ、キャラバンのカーテンをめくる。まばゆい光の中に足を踏み出す。

 

ナズナと合流し、キャラバンの横に最近開店した中華料理店で腹ごしらえをし、団員達に見送られ私はギルド船に向かった。

 

「よき狩りを」

 

手を振る団員達の声が遠く聞こえた。

 

ギルドの受付カウンターで調査クエストを受注した。

 

「太陽の団のハンターさん、頑張って下さいね」

 

下位受付娘が拳を握り言う。

 

「怪我しちゃダメだよ」

 

上位受付娘が横から声を掛けてくれた。

カウンター横のクエスト出発専用の出口に向かう。 銅鑼ねえちゃんがたかだかと銅鑼を打ち鳴らし、私に手を降っている。

 

さあクエスト開始である。

 

 

 

 

果てしない緑の迷宮、樹海。

 

聞こえるのは、小鳥の囀りと水の流れるせせらぎの音。

私は水辺で足を止めると、屈んで水をすくい上げ、口に含んだ。ナズナも水辺に顔を寄せて舌で水をすくい上げている。

ポーチから紙と鉛筆を取り出し、水辺の位置を書き足した。

 

調査開始から数時間、ここが5つ目のエリアとなる。便宜上、このエリアをエリア5と名付けた。今までの崖や大木に囲まれた狭いエリアに対して、このエリアは水辺に向かって、広い平野が広がり、太陽の光が降りそそいでいる。水辺付近にはガーグアの小さな群れがあったが私が近づくとどこかへ走りさった。

紙をポーチに入れ、もう一度水を口に含んで、吐き出す。濡れた口を腕で拭きながら立ち上がり辺りを見渡した。ここなら弓での立ち回りがしやすそうだ。なんとかこのエリアにおびき出せればいいが。

ナズナを見ると、背中の大樽爆弾を背負い直していた。樹海に入ってすぐに、以前の調査隊が置き忘れていた大樽爆弾をちゃっかり失敬していた。二人は次のエリアに向かう。

次のエリア6は広めの平原が崖に囲まれたエリアでであった。地面を盾虫と呼ばれる黄金色の甲殻を持った巨大な虫が数匹うごめいていた。盾虫は、大型モンスターの狩猟中でも平気でこちらに転がり、体当たりしてくる。ダメージは微々たるものだが、一瞬の隙ができてしまい、思わぬところで大型モンスターに大ダメージをもらうことがある。

狩りの邪魔になるため、盾虫を先に始末しておこうと、パワーハンターボウを構えようとした時、ナズナがそれを制した。ナズナの方を見ると、エリア奥を見つめている。

 

盾虫の向こうに、大きな鳥のような生き物がいた。体長はガーグアの数倍はあろうか。青色の羽根、赤茶色の鱗に覆われたその生物は、大きく張り出し尖った嘴で地面を突いていた。イャンクックだ。

イャンクックは地面の中から丸まった盾虫を掘り出すと、丸ごと飲み込んだ。盾虫とはいえ、体長は人の身長ほどもある。その大きさに圧倒された。

私は、しゃがんだまま、武器を取り出し、ペイントビンを装着する。音を立てないように慎重したつもりが以外と大きな装着音がした。恐る恐る見上げると、イャンクックはこちらを見て首を曲げていた。首をまげることによって小さなもの音の発生源をさぐっているのだろう。 私とナズナは頷きあい、立ち上がった。

 

独特の鳴き声を大音量でエリア中に響かせて、イャンクックは私達に向かって威嚇している。私とナズナは話しあった通りそれぞれ別方向へ飛び出した。一瞬どちらに向かうか迷ったイャンクックにペイントビンを装着した矢を放つ。ペイント独特の甘い臭いが充満する。不思議と、モンスターには嗅ぎとれない臭いらしいが、ハンターには、はるか彼方のエリアに居ても居場所がわかる強烈な臭いがエリアに充満する。

私はペイントが成功したことを確認すると、武器を納刀し背中に背負った。私に狙いを定めて翼を一杯に広げて突進してくるイャンクックの直前で前転回避する。私の背中で急停止したイャンクックが向きを変えて地面を突っついている。地面がえぐれる程のついばみに恐怖しながら距離をとる。

 

 

樹海に向かう荷馬車の中で、私はナズナと今回の狩りについて6つの約束事をかわした。

 

『初見でイャンクックを狩猟するなんてホントは前代未聞ニャ。普通は何回かクエストで対峙してから狩猟するニャ』

 

『今回は、制限時間がないから、これから言う約束を守れば、もしかしたらいけるかもしれニャいニャ』

 

『第1は、樹海の地形を完全に把握することニャ。旦那は弓使いだから、相手との距離が大事ニャ。できるだけ広い空間で戦うこと』

 

『第2はイャンクックに出会ってエリアを移動するまではよっぽどの隙がない限りは攻撃せずに、イャンクックの動きをよく見て、挙動の予備動作を頭に叩き込むニャ』

 

攻撃の事を頭から抜いて回避に専念すると、意外と平静な気持ちでイャンクックの動きを見ることができた。イャンクックの基本的な攻撃パターンは突然の突進からのついばみである。突進は直線的な動きでイャンクックの前面から逃れればかわせそうだ。ついばみはイャンクックからみて前方45度くらいの範囲内でハンターの方を向いて行う。が、向かって左側に集中して行う傾向が見えた。突進の回避は反時計回りで行うのが良さそうだ。

私は、イャンクックの突進を回転回避でかわすと、バックステップで距離をとり、矢を放った。矢は嘴に命中したが、ついばみに移行せずに、イャンクックはその場で数回羽ばたきジャンプすると、嘴から透明の液体を吐き出した。その液体は空中で発火し、灼熱の燃え盛る火の玉となり私に降りそそぐ。慌てて後方に回避する。私が居た場所に火の玉が落ち、地面の草が黒焦げになる。かわしたつもりだったが、僅かに火の粉を受けた私は前転し火の粉を払う。がむしゃらに数回、地面を転がると火の粉は払うことが出来た。ほっとしたのもつかの間、息を切らした私にイャンクックが突進してくる。しまったと思った瞬間、ナズナが突進攻撃をしかけた。突進するナズナが視界に入ったのか、イャンクックは私の寸前で突進をやめて威嚇を始めている。

まだまだ行動を見取る段階で、攻撃するタイミングではなかった。ナズナとの約束を思い出し、納刀する。

ナズナは一旦距離をとり、私が納刀するのを見届けると、攻撃の見本を見せるように威嚇しているイャンクックに再度突進を仕掛ける。攻撃が当たる直前で、イャンクックはその場で尻尾を広げて高速で回転を始めた。

 

「ニャーー」

 

ナズナはエリアの彼方に飛ばされていった。短い威嚇後の回転に注意しなければいけないことは分かった。

その後、攻撃を回避しつづけた結果、大音量の咆哮とともに、翼を広げたイャンクックは空へ羽ばたいていった。

私は一息をつくと、ナズナと合流した。

 

「酷い目にあったニャ。どうニャ。大体動きはつかめたニャ」

 

私は頷く。ナズナも満足そうに頷く。

 

「第3段階に入るニャ」

 

ナズナとの約束では

 

『第3は、少しづつ攻撃を当てるニャ。でも攻撃は1回だけニャ』

 

というものだった。

私は武器を取り出すと、強撃ビンをセットして納刀する。

 

「僕はちょっと大きいダメージをもらったんですこし回復してから合流するニャ」

 

言いながらナズナはその場に座り込んだ。

ペイントの臭いは、すぐ横のエリア5から漂ってくる。

私は意を決してエリアに走り込む。

 

 

エリアに入った私を、イャンクックの突進が襲う。紙一重でそれをかわし、後ろも見ずに水辺までひたすら走り、振り返りながら武器を取り出す。

イャンクックは私の方に向かって、威嚇しながらゆっくりと歩き向かってきている。今までとはうって変わって隙だらけである。攻撃を誘い、突進が来るパターンと読んだ私は距離をあけたまま反時計回りに歩く。

しばらく間合いの取り合いが続いたが、先にしびれを切らしたのはイャンクックだった。その場で小さくジャンプすると、火炎液を周囲に巻き始めた。火炎液は後方には飛ばない。私はイャンクックの背面に回り込むように移動し、力一杯弦を引き、矢を放った。強撃ビンの液体に濡れた矢が光の一閃となって、イャンクックの背中に命中した。クリティカルヒットの衝撃にイャンクックが悲鳴を上げた。体制を立て直したイャンクックは反転すると、こちらに向かって突進する。私はすかさず納刀して突進をかわし、再び距離をとる。

その後、何回か同じ様に突進をかわして攻撃を繰り返す。強撃ビンの残りが半分くらいなった時、イャンクックはその場で回転を始めた。私は武器を構え、距離をつめる。矢を番えようとした私にイャンクックの大咆哮が襲いかかった。後悔した時にはすでに遅かった。つんざく大咆哮に両手で耳を押さえた私に、さっきより大きな火炎液がふりそそいでいた。

灼熱の火炎に包まれて息が出来ない。私は無我夢中で地面を転がり、体から火炎液を振り払う。たまたま、水辺が近く、地面がぬかるんでいたおかげで火はすぐに消えたが、装備はいたるところが焼け焦げ、私の髪も焦げて先がちりちりになっている。息が上がってしまった私はその場にしゃがみこむ。

イャンクックをみると、嘴から火炎液を溢れさせて、こちらに威嚇している。怒り状態に移行している。息を整えながら、ナズナとの約束を思い出す。

 

『第4は、怒り状態に移行した時は、絶対に攻撃せず、エリアを移動してやり過ごすこと』

 

私は立ち上がり、エリア6の方にむかって全速力で走り出した。

背後から翼が羽ばたく音が迫る。走りながら振り返ると、イャンクックが翼を広げ、私にむかって滑空してきていた。焦った私はがむしゃらに回転回避をする。私は上空を通過したイャンクックの風圧に吹っ飛ばされた。ちょうどエリア出口方向に吹っ飛ばされたため、起き上がると、今度は後ろも見ずに一目散にエリアを脱出した。

 

「散々だニャ」

 

エリア6でナズナと合流した。ナズナは、泥まみれ、焼け焦げた装備、しゃがみ込み息を整える私の姿をを眺めている。

 

「怒り状態に移行したニャ。ここからでも咆哮が聞こえたニャ」

 

私は頷くと、ポーチから回復薬グレードを取り出し、口に含んだ。ハチミツの甘さが疲れを癒してくれる。続けて元気ドリンコを飲み干した。かなり危険な状況だったが、一息つくことができた。

 

「勝負はここからニャ。第5段階ニャ」

 

私は約束の5つ目を思い出す。

 

『怒り状態が終われば、イャンクックは疲労状態に移行するニャ。ここは一気火勢に攻撃するニャ』

 

いつまでも逃げ回っている訳にはいかない。私は頷く。

 

「まだ心は折れてニャいか」

 

エリアの出口に向かいながらナズナが私を見上げている。

私は頷くと、武器を取り出し握りしめた。ナズナはそんな私の様子を見て満足そうに頷くと、自分もヘルムを被り直した。

エリア5に戻ると、イャンクックはすでに別エリアに移動していた。ペイントの臭いはもう一つ向こうのエリア4から漂ってくる。私とナズナはそれぞれ武器を納刀し臭いの方向に走る。

 

大木に囲まれた細長いエリア4でイャンクックはその中央付近をよだれを垂らしてゆっくりと歩いていた。

ナズナが私に合図を送る。私は頷くと、イャンクックに気付かれないようにエリアの中程に出て、携帯用の落とし穴をセットする。円盤型のそれは、地面に設置してピンを抜くと、小さなドリルが地中に掘り込まれ、地中で小さな爆発を起こす。そして上空に網が迫り上がり、伸びきった頂点で8方向にわかれ地面に倒れた。ここに大型モンスターが乗ると、網がモンスターを絡め取り、重みを感じて追加の爆薬が地中で炸裂し、落とし穴を作る。

セットが完了した合図である指笛を吹くと、ナズナはイャンクックに突進を仕掛ける。

気づいたイャンクックはよろめきながら、私の方にむかって一目散に走るナズナね後ろから翼をひろげ、巨体を揺らしながら走って来ていた。イャンクックがナズナに追いつく寸前、爆音が響きイャンクックは落とし穴に嵌まった。

暴れるイャンクックの嘴のそばにナズナが背負っていた大タル爆弾を設置する。ナズナが離れるのを確認すると、私は矢を番え、慎重に大タル爆弾を打ち抜く。耳をつんざく大爆発が起きた。見るとイャンクックの自慢の嘴が粉々に砕け散っている。

しばらく落とし穴の中でもがいているイャンクックの壊れた嘴に向かって連続して矢を放つ。落とし穴から飛び出したイャンクックは嘴から火炎液を漏らしていた。怒り状態に移行していた。ナズナとの約束通り、エリアを移動しやり過ごす。

 

 

 

 

ナズナとの約束の6つ目は

 

『どれだけ優勢であっても、狩猟開始から5時間が経過すれば、その日の狩猟は終わりニャ』

 

私とナズナはベースキャンプに戻っていた。辺りはすっかり夜のとばりに包まれていた。 時間を置くとイャンクックも回復するだろうが、私たちの疲労による集中力の欠如の方が怖い。何より、人の何十倍も鋭い聴覚をもつというイャンクックと暗闇で戦うのは自殺行為である。

 

持ち込んだ鍋やコップ、採取したアオキノコを使って、きのこスープを作り、こんがり肉を煮込んで晩飯とした。

ナズナは持参した猫印の肉まんを平らげると体を丸めて寝息を立てている。

私は、ところどころ焼け焦げた装備を脱ぎ、樹海を見下ろすことができる岩に腰かけると、明日使う予定である矢の準備をしていた。

 

体の疲労は大きいが、充実した狩りだった。エルザがイャンクックの事を『狩りの先生』と言っていた理由が分かった気がする。咆哮、火炎、回転攻撃、怒り状態の把握、風圧、これから狩るであろう飛竜などの大型モンスターでは必ず対策をしなくてはならない。

矢とナイフを置き、火にかけていた鍋でホットミルクを作りコップに入れた。

ホットミルクを飲みながら耳を澄ませる。たき火の炭が弾ける音と、時折聞こえる鳥の鳴き声だけが響く。

高台にあるベースキャンプからは月明かりに照らされた樹海を見渡すことができた。この樹海のどこかであのイャンクックも傷を癒しているのだろう。昼間、命のやり取りをしたモンスターだが、丸まって眠るイャンクックを想像すると、かわいらしく思えてきた。

 

「眠れないのかニャ」

 

寝転がったままのナズナが私の方を見ていた。

 

「今までいろんなハンターさんのオトモをしてきたけど、みんなそうだったニャ」

 

ナズナは目を擦りながら立ち上がり全身を震わせ、火のそばに座りこむ。大きな目が炎を反射してキラキラと輝く。

 

「団長に拾って貰う前、僕はハンターさんからはぐれて一人ぼっちだったニャ」

 

私はホットミルクの入ったコップを岩の上に置く。

 

「そのハンターさんは天才的な太刀使いだったニャ。次々にモンスターを倒して、勢いでリオレウスの狩猟にいった時に僕を残して行方不明になってしまったニャ」

 

ハンターがクエスト中に行方不明になることは死を意味する。また、死亡したハンターのオトモは縁起が悪いと言われ、なかなかオトモにするハンターはいない。

 

「旦那はなかなかいい筋をしてるニャ。でも、今日イアンクックと戦ってみて、またまだってことも分かったはずニャ」

 

私は焼け焦げた防具を見ながら頷く。

 

「もう一人ぼっちで町に帰るのはいやニャ。明日も頑張ってほしいから早く寝るニャ」

 

言って大きなあくびをすると、ナズナはもとの位置に戻り、丸まって眠った。

 

私はホットミルクを飲み干すと、辺りを片付けて寝袋に入った。

梢の隙間から見える星空を眺める。

ナズナの言葉に昂揚した気持ちがおさまっていく。狩りの疲れをしっかり癒すこともハンターには必要な事なのだろう。7つ目の教えである。

 

目を閉じる。

 

心が落ち着いた証拠なのだろう。私は思う。

 

アオキノコはスープにするべきではない。

 

 

 

 

早朝、まだ朝もやが辺りに残る中、エリア4でイャンクックに再会した。

イャンクックは多少体力が回復していたようだったが、割れた嘴はそのままで、私を見るなり怒り状態に移行していた。

再会早々、回転攻撃で別エリアに飛ばされていったナズナとの約束通り、怒り状態の時は攻撃をやめ回避に専念していたが、怒り時の行動パターンを把握したかったためエリア移動はしなかった。回避に専念する中、少しずつ動きにも目がなれてきようだ。激しい攻撃の中の僅かな隙が見える。

あくまで回避メインで立ち回りながら、一射づつ矢を放つ。

 

エリア6に移動した時にはイャンクックはその特徴的なたてがみも、翼も見るも無残に部位破壊されていた。

速い振り向きが見えたため、火炎液を撒き散らしながらの突進がくると察知し、回避行動をとろうとしたとき、足元に何かがぶつかった。丸まった盾虫だ。よろめいた私が見上げると、目の前にイャンクックの顔面が迫っていた。

突進に巻き込まれ地面を転がる私に火炎液が降り懸かる。全身の激痛も吹っ飛ぶ熱さである。装備の一部は燃え上がっていた。地面を転がり火を消したが、左腕が火傷の為、赤く腫れ上がる。劇痛のため弓を持つ手に力が入らない。

イャンクックを見ると、遥か彼方で体を回転させて奇声を上げている。喜んでいるように見えた。一瞬の油断が命とりになる。後悔より先に今の状況をどう打開するか考える。

 

あれしかないか。

 

ため息をつきながらポーチをまさぐる。手にあの嫌な感覚が伝わる。立ち上がると、鼻をつまみ、ポーチから取り出したそれをイャンクックに向かって投げつけた。つまんだ鼻から強烈な臭いが入ってくる。それを触っていた右手を防具に何度も擦りつけた。

昨日、樹海でたまたま採取したモンスターのふんから作った肥やし玉である。強烈な臭いに目眩がした。イャンクックは特大の咆哮を上げて空に飛び上がっていった。

 

 

「だ、だいじょうぶニャ」

 

戻ってきたナズナが四つん這いで、嗚咽しついる私に駆け寄ってきた。私の火傷を心配そうに見ているが、それよりもこの臭い。ナズナは、鼻をつまんで涙を流す私をみて、肥やし玉を作ったときの状況を思いだしたようだ。安心したナズナは私のポーチから打ち消しの実を取り出すと、小さな手にで器用に割り、ゼリー状の中身を火傷に塗ってくれた。火傷の痛みが引いていく。

 

「もう少しニャ」

 

私は鼻をつまんだまま涙目で頷く。

イャンクックは水辺のエリア5を飛ばして崖のある細長いエリア4に移動していた。

ナズナが突進攻撃を仕掛けた。イャンクックはその場で回転し、ナズナは崖の方へ吹っ飛んでいった。

いつものことだから大丈夫だろうと攻撃体制に入るが、視線の端で、飛ばされたナズナは崖に体をぶつけて地面に倒れたまま動かなくなっていた。イャンクックは倒れたナズナの方に突進している。

私の鼓動が速くなる。

ダレン・モーランの時のように、強い鼓動が私の体をうつ。心臓が何かに捕まれたような感じ。目の前がまばゆく輝き、視界が赤く染まっていく。体が無意識に動いている。

ナズナに駆け寄った私はナズナを通り過ぎて崖に飛び乗り、反動を使ってすぐ側まで突進していたイャンクックの背中に飛び乗った。

 

腰からハンターナイフを抜き出し、イャンクックの背中に突き刺す。吹き出した鮮血が私に降り懸かる。何度も、何度もナイフを振り上げ突き刺す。イャンクックも私を振り落とそうと暴れるが、食い込んだナイフを両手で握った私を振り落とすことは出来なかった。諦めたのか動きを止めたイャンクックの背中を再度突き刺す。背中の甲殻が割れて、鮮血が吹き出し、私は地面に滑り落ちた。イャンクックは横倒しになり足をばたつかせている。立ち上がれないようだ。

私はこの隙にナズナに駆け寄る。ナズナは軽い脳震盪で倒れていただけですでに立ち上がっていた。わたしの鬼気迫る様相に後ずさりしながらも、

 

「こ、こっちは大丈夫ニャ。それより追撃ニャ」

 

と叫ぶ。イャンクックの方を振り返ると、まだ横倒しになったまま、足や翼をばたつかせていた。私は弓を構えると、頭部にむかって、最適距離から矢を放ち続けた。イャンクックは起き上がると、大きな耳を折り畳み、足を引きずりながら、水辺のエリアに向かって歩いていった。

 

 

水辺のエリア。全身血まみれになり、足を引きずるイャンクックの頭部に集中的に矢を命中させる。

天を仰ぎ、最後の咆哮の残響をエリア内に残して、イャンクックはその場に崩れ落ちた。

 

火傷した腕に打ち消しの実を擦りつけながら、私はゆっくりとイャンクックの亡きがらに近づいた。

全身血まみれになり、部位破壊されたイャンクックの側に両膝をつき、傷だらけになった甲殻を撫でる。

そして、血液で濡れたイャンクック甲殻に顔押し付けた。

 

(上手に狩ってあげれなくてごめんなさい)

 

ナズナはその様子を少し離れて見ていることしかできなかった。

 

ギルドに戻ると、いつもにも増して受付カウンターが混雑し、行列ができていた。行列に並ぶハンター達を掻き分けてギルドの出口に向かおうとすると、ギルドマスターに呼び止められた。

 

「ご苦労さんじゃったな。無事でなにより」

 

ギルドマスターは不思議そうに行列を眺める私に言う。

 

「イャンクックが狩猟出来ると聞いて問い合わせが殺到しとるわい。ハンターの間でも人気があるモンスターなんじゃな」

 

私の足元を歩いていたナズナが頷く。

 

「イャンクックを狩猟できれは一人前のハンターとして認められるからニャ」

 

ギルドマスターはうなずくと、パイプのけむりを吸い込む。

 

「ま、今回はたまたま出没しただけじゃがな」

 

そう言ってギルドマスターは体中から煙を吐き出し高笑いした。

 

 

 

 

「ギルドマスターに上手く乗せられたようだな」

 

エルザに火傷の手当てをしてもらう私に団長が言う。私は団長を見上げる。

 

「わざわざ調査隊を組まなくても、ハンターが勝手に調査してくれるってわけだ」

 

団長は言いながらハット帽を被り直した。

 

「なんにせよ、あんたは立派にイャンクックを狩猟した。誇っていい」

 

手当てを終えたエルザが割って入る。

 

「ねえ、ねえイャンクックの耳、耳どうだった。パタンってなってた?」

 

肩を揺さぶられながら私は何度も頷いた。




「おい」
「なんすかリーダー」
「あれ」
「あ、いいっすね。声掛けちゃいましょうよ」
「むさ苦しい男だけで飲んでてもつまらんしな」
「じゃあ、行ってくるっす」「うむ」
「もし成功したらちゃんとトークして下さいよ」

次回
「第6話 酒席」
お楽しみに。
では、よき出会いを。
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