モンスターハンター In My Eyes   作:あずき犬

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イアンクックとの死闘から帰還したイズナは、傷を癒しながら徐々に狩りを再開する。
ハンターとは狩るか狩られるか。無情な掟はここ狩人酒場にも。

「第6話 酒席」
どうぞ。


第6話 酒席

「でね、そいつは、怒り状態になると、体中の粘菌を活性化させるの。溶岩に照らされて、活性化した粘菌がキラキラ輝いて、もう、この世とは思えない美しさで」

 

場所は狩人酒場。エルザが私の全快のお祝い会を開いてくれていた。

 

イャンクックとの死闘からしばらくは体力の回復をはかり、採取クエストをこなしていたが、皆が驚く程の回復を見せ、本日、腕慣らしに向かったケチャワチャの狩猟に成功し、今に至る。

お祝い会も最初こそ、イャンクックの狩猟の間、みんながどれだけ心配したか、団長が普段から想像出来ないくらいオロオロしていた等、たわいもない話しをしながらも、酒をチビチビ飲んでいたエルザだったが、酒量がある一定の量を超えたところから、眼鏡を外し、モンスターについて熱く語り出してしまった。酒が苦手な私はお茶をすすりながら彼女の話しに相槌をうつ。

狩人酒場は以前に入団式をして以来であったが、1階はカウンター席と、6人掛けのテーブル席が3セットの落ち着いたたたずまいで、今はカウンターに私とエルザが座り、1番奥に男性客が3人座っている。

 

「あ〜、一目でいいから、彼に会ってみたい」

 

エルザがうっとりして呟く言葉に、私は治りかけの火傷跡をかきながら頷く。

 

「ねえ、ねえ、かれって彼氏のことかな」

 

突然の声に振り返ると、金髪をソフトモヒカンに刈った若い男性が私達の後ろに立っていた。

 

「か、彼氏!?」

 

エルザは顔を赤らめて首を振る。

 

「そんな、私なんて、全然、相手にもされないわよ」

 

最後の方は、俯き、小声になっていた。

 

「いけるっす。お姉さん方結構いい線いってるっす」

 

男性は言い、ガッツポーズをする。

 

「お姉さんは、服装から見るかぎり、クエスト受付関係のお仕事ですか」

 

男性はエルザの足先から頭までまじまじと眺める。

 

「うん。そんなとこ」

 

顔を上げてエルザが頷く。

 

「まじっすか。俺ら、ハンターなんすけど、この町に来たばっかで、この辺のモンスター情報的なものを教えてほしいっす」

 

「ふうん」

 

エルザは男性を眺め、足を組み直す。

 

「で、あんたどの位の腕してんの」

 

言いながら酒の入ったグラスを掴む。

 

「俺はまだ新人のルーキーなんだけどさ、一緒に来てる先輩方はかのドンドルマでも名が売れてる上位ハンターっす」

 

男性は言いながら、店の奥のテーブルを指差す。

 

「しかたないわねぇ」

 

エルザはグラスに残っていた酒を飲み干すと、空のグラスをカウンターの上に叩き付けるように置いて席を立つ。

 

「こちらの、無口な美人さんも、是非ごいっしょに」

 

男性が私に微笑み掛ける。私は少し迷ったが、おそらくこの若い男性は先輩からナンパしてくるよう頼まれたのだろう。エルザ一人でいかせるのも心配なので、私は席を立ち、男性の案内されるまま奥のテーブルに向かった。

 

テーブルに近づくと、男性達は立ち上がった。声をかけてきた若い男性は、派手な黄色のパーカーにジーパン、奥の銀髪の男性は、黒いTシャツの上に白いブラウスを胸までボタンを開けて着ており、細身のパンツスーツを履いている。手前に座っていた日にやけた年配の男性は、ウェーブの金髪で白いTシャツの上にアロハシャツを羽織り、ダメージジーパンを履いている。どれもバルバレでは珍しい格好であった。

 

男性陣は、顔を寄せ合って小声で話し合うと、ぎこちない動きでテーブルの手前を空け、奥にかたまって座り直した。

私達は二人並んでアロハの男性とパーカーの男性の間に腰掛けた。

パーカーの男性が店員を呼び、追加の酒と肴を注文した。

 

「というわけで、ここで出会ったのもなにかの縁ってことで、楽しく飲みましょ」

 

パーカーの男性は、店員が置いていった酒の蓋を空け、それぞれのグラスになみなみと注いだ。

 

「えー、では、よき出会いに、乾杯」

 

パーカーの男性の音頭で、みなグラスを掲げる、

 

「よき出会いに」

 

それぞれが言い、グラスに口をつけた。私もみなの真似をして、グラスに少し口をつける。

 

「まず、男性陣から自己紹介するっす」

 

パーカーの男性が立ち上がり、銀髪の男性を示す。

 

「こちらが、俺達のリーダーでマルコスのあにきっす。ドンドルマでは白銀の双牙って呼ばれてる双剣のプロフェッショナルっす」

 

言われてマルコスは、

 

「よろしくお願い申しあげる」

 

と恐ろしいほどの早口で言い、テーブルに頭がつく位に頭を垂れる。

見た目の貴公子ぶりからは想像できない意外な口調と態度に呆気にとられた私とエルザは口をポカンと開ける。

続いてパーカーの男性はアロハの男性を示す。

 

「こちらはガンサーのガルティアにいさんっす。銃槍の名手で、鉄壁の蒼槍って呼ばれてるっす」

 

紹介を受けたアロハの男性は、

 

「よろしくな。バルバレには何度かきているが、相変わらずこの季節は暑いな」

 

ガルティアは言いながらグラスを掲げる。

 

「そして、オイラは、操虫棍大好き、ルーキーのカイトっす」

 

カイトは言うと、エルザに「さあ、さあ」と自己紹介を催促する。

 

「私は出張ギルドカウンターのエルザ。こっちは私たちの猟団のハンターでイズナさん」

 

エルザは私の分も紹介してくれた。ぺこりと頭をさげる。

 

「でも、なんでバルバレに来たの。ドンドルマにいた方がいろんなモンスター狩れるんじゃないの」

 

エルザの問い掛けにカイトが答える。

 

「俺達、神風旅団の団員なんだ」

 

エルザが驚き唸る。

 

「へぇ〜、神風旅団っていったら、いろんな狩場で難関クエストを軒並みクリアしていってるって聞いたことある」

 

「そうそう、さすがによくご存知でって、ほら、アニキもにいさんも喋ってくださいっす」

 

カイトに促され、今まで、じっと私たちを見ていたマルコスが急に私を見つめる。

 

「ところで、銀髪のハンターさんの得物はどのようなもので」

 

相変わらずの早口小声。急に話を振られてうろたえる私にかわってエルザが答える。

 

「うちのハンターさんは、弓使いだよ。こう見えても紅蓮の女神って呼ばれてて、あのダレン・モーランをパンツいっちょ、痛ててて」

 

私は皆から見えないところでエルザのお尻をつねった。

 

「ほう」

 

マルコスが唸る。私を見る目に力が篭る。私はギクリと全身に力を入れた。モンスターに睨まれたのとは少し違う威圧感のようなものを感じた。

 

「聞いたことがあるな」

 

ガルティアが腕組み私を眺め直す。

 

「たしかソロでイャンクックを狩ったってハンターか」

 

「そうなのよ。私の自慢のハンターなの」

 

エルザは自分のことのように胸を張る。

 

「すごいっす。俺もソロでは狩ったことないっす」

 

カイトも、まじまじと私を見つめる。

 

「素晴らしい。一度チームを組み、そのお手並みを拝見させて頂きたい」

 

がぜんマルコスが身を乗り出す。

 

「イズナさんは、リーダーのタイプっすね」

 

カイトがケラケラ笑いながら言う。

 

「昔から、『無口な女性がよい』って言ってましたもんねぇ」

 

カイトがマルコスの声真似をして言い、皆がどっと笑う。

マルコスは顔を真っ赤にし、私はマルコスからの意味不明の威圧から逃れるために俯き、グラスに注がれた酒を一気に口に流し込む。

 

「おいおい、マジかよリーダー」

 

ガルティアも言いながらニタニタと笑う。

 

「そ、そういうわけではござらん。同じハンターとして、け、敬意を表しているだけであって」

 

マルコスが今まで以上に早口で呟くように言う。

 

「ムキになって否定するとこが余計あやしいっす」

 

マルコスがカイトを睨みつける。

 

「わかったっす。そんな怖い顔しないでくださいよ、ほら」

 

カイトはマルコスのグラスに酒を注ぐ。

 

「ねえ、旅団で狩ったモンスターの話し聞かせてよ」

 

エルザが待ちきれないように言いながら身を乗り出す。

 

「そうっすねぇ、ジンオウガを狩った時の話しなんすけど」

 

カイトの言葉にエルザの顔が急に明るくなる。

 

「ジンオウガ! 蒼雷の狩人! 聞かせて、聞かせて」

 

「あれは、ユクモ…… 」

 

 

 

 

ちょうどそのころ、ギルド船の甲板には、丸ゴザの上にあぐらをかいて座るギルドマスターが、褐色の肌をした黒髪の女性がつぐ酒を盃で受けていた。女性は丸ゴザに正座し直し、両手で自分の盃を傾ける。

バルバレの町はまだ昼間の熱気を残していたが、甲板の上には心地良い風が通り抜け、眼下には宝石を散りばめたような夜景が広がっている。

 

「おう、久しぶりだなマリア」

 

甲板に上がってきた団長が手を挙げた。マリアと呼ばれた女性は立ち上がり、深々とお辞儀をする。

 

「書記官殿、ご無沙汰しております」

 

頭を上げたマリアはうやうやしく言う。

 

「相変わらず仰々しいな」

 

団長は言いながら空いていた丸ゴザに座り、正座して座ったマリアから盃を受け取ると、目の前にあった酒を自らなみなみとついだ。

 

「マリアねえさん、久しぶりニャ」

 

団長に続いてナズナが甲板に上がってくる。

 

「あら、ナズナちゃんもこっちに来ての」

 

マリアは、側に駆け寄ったナズナの首元を撫でる。ナズナはゴロゴロと喉を鳴らした。

 

「あんたがバルバレに派遣されたってことは、エイギルの指示があったってことか」

酒を飲み干した団長がマリアを見る。

 

マリアはナズナを撫でていた手を止めて首を振る。ポニーテールの黒髪が揺れる。

 

「出所は観測省筋のようですね」

 

パイプに火を入れながらギルドマスターが尋ねる。

 

「観測省はなんと言っておる」

 

マリアはギルドマスターに向き直す。

 

「公表はしていませんが、奴に間違いないかと」

 

マリアの答えにギルドマスターと団長は腕を組み唸る。

星空の下、3人は無言で盃に口を付けた。

 

「とりあえず、私達は怪しいクエストを当たってみます」

 

マリアは盃を置く。

 

「神風旅団はどうじゃ」

 

ギルドマスターが酒を継ぎ足しながら尋ねる。マリアは少し考えると、

 

「筆頭ハンターなんて呼ばれてますが、烏合の衆ですね」

 

と言い、口に手を当てて思い出し笑いをする。

 

「ギルド学校の引率者の気分です」

 

ギルドマスターと団長も釣られて笑う。

 

「そうそう、隊長も一緒に来ていますよ」

 

ナズナが飛び上がる。

 

「ガルティアさんが! 会いたいニャ」

 

ギルドマスターは盃を置き、パイプの煙を吸う。

 

「あの時を思い出す。不思議な縁じゃな」

 

ギルドマスターの吐き出した煙が月明かりに照らされて夜空に広がる。丸ゴザに座るみなは感慨深げに静かに頷く。

夜風が帆柱を通り抜ける音だけが響く。

 

「そういえば、書記官殿、なかなかいいハンターを見つけられたとマスターからお聞きしました」

 

「おうよ。あいつは文字通り掘り出し物だぜ」

 

団長の横でナズナが頷いている。

 

「いいハンターに育ててあげてくださいね」

 

マリアは上品に微笑む。

 

 

 

 

その頃、掘り出し物の私はテーブルに突っ伏して熟睡し、酒場にはエルザが止まることを知らないように語るモンスター談話の中、頷くことしか出来ない男性陣が残されていた、らしい。

 




「いったい何があったのか」
カガリは一人腕を組み立ち尽くす。酒の臭いが充満したキャラバンのそこかしこに転がり、眠り続ける団員達。
修繕の終わったハンター防具一式をベッドに置き、彼は逃げるようにキャラバンを後にした。

次回
「第7話 連戦」
地底洞窟での過酷な連続狩猟。
さあ、存分に狩れ。
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