モンスターハンター In My Eyes   作:あずき犬

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ハンター年鑑が発売されると同時に急増する依頼。なにやら陰謀のにおいが。

「第9話 契約」
どうぞ。


第9話 契約

キャラバンのテーブルの上に一冊の雑誌が置かれている。さっきまでエルザと団長が大笑いしていたのは、これを見ていたのだろう。ベッドから上半身を起こして大きく伸びをする。

 

砂漠地帯の朝は昼間からは想像出来ないくらい底冷えがする。ベッド横の明かり取り窓のカーテンを開けると、まばゆい光がキャラバン内に差し込む。窓の外ではエルザが出張ギルドカウンターの看板を準備している様子が見えた。

昨日聞いた話では、私の狩猟実績が上がってきて、クエストの依頼が随分きているらしい。エルザは依頼の内容を確認し、それぞれに難易度を設定し、郵便猫を使ってギルド本部に照会をかけ、ギルドの決裁を受けてから看板にクエストを貼付けている。依頼内容のモンスターの知識、エリアの状況の把握、報酬の算定等狩りに対する幅広い知識が必要であるため、出張ギルドカウンターは受付娘の中でも特に優秀な者しか資格を取得できない。また、依頼を受注したハンターについても、ハンターノートやギルドカードからその力量を判断しなければならないため、武器の種類や、ハンターの力量についても知識が必要となる。辺境の狩場では、ギルドの決裁を受けずにクエストを開示することもできるらしく、独立した小さなギルドにもなりえる。

エルザはもともとドンドルマの古龍観測省の書士隊にいたらしく、各地を点々としハンターから狩猟したモンスターの容姿や特徴などを聴取して、モンスターの危険度を設定し、時には、モンスターの写真を撮影するためハンターに同行することもあったらしい。また、珍しいモンスターについては聞き取りからモンスターの様子を描くこともあるらしい。残念ながら絵を描く才能がないと上司に判断されたエルザはドンドルマで事務作業を強いられ、くすぶっていたところを団長に引き抜いてもらい、ギルドの試験を受けたらしい。ちなみに彼女の描いたモンスターの絵については一つだけ正式採用されているらしいが、恥ずかしがってどのモンスターの絵なのかは教えてくれなかった。

 

昨日、そのエルザが、

 

「明日になれば、私の絵の才能が世に知れ渡るんです」

 

と言い、ニコニコしながら出張カウンター裏の自分のキャラバンに帰っていった。嫌な予感がした。

 

私は、キャラバンの外に出て、口のまわりを磨き粉でいっぱいにして歯を磨く。キャラバンの横を見ると、出張カウンターで椅子に腰掛け、ニヤニヤしながらモンスター大辞典をみているエルザが見えた。どうみてもエリートの姿には見えない。コップに入れた水でうがいをし、顔を洗いキャラバンに戻った。

 

さて、雑誌を手にとる。【最新版ハンター年鑑バルバレ編】の題字と、砂漠から飛び上がるダレン・モーランの写真が見えた。椅子に座りページをめくる。巻頭数ページはカラー印刷され、1ページ目には筆頭リーダーの写真が載っている。データ欄には、

名前「筆頭リーダー、マルコス」

称号「白銀の双牙」

所属「神風旅団」

主な使用武器「双剣」

最近の狩果「リオレイア」

ハンターランク 6

身長183

体重62

等の基礎データが表記されていた。筆頭ハンターは全員カラー印刷され、それ以下のハンター達にあっては1ページに3人づつ白黒の顔写真とデータが載っている。

私も載っているかもしれないと、ページをめくる。

載っていた。

見開き1ページ。白黒の挿絵だが、ダレンの頭部でナイフを振るっている。パンツ一丁で。まつげが異常に長いこの女性が私なのだろう。

『新人ハンター特集! 紅蓮の女神現わる』名前等の基礎データの下にはいつのまに調べたのか私のスリーサイズまで載っている。ページ下の注釈には

『画・文エルザ』

とある。

文句を言うことは出来ないが怒りを表しておく必要がある。そう判断した私は年鑑を握りしめてキャラバンを出た。

 

キャラバンから出てすぐに、違和感を感じ立ち止まる。さっきは気付かなかったが、複数の視線を感じた。見回すと建物の陰にサッと身を隠す人物が数人見えた。私は視線の先を睨み返し、エルザに詰め寄る。

私の持っていた年鑑を見つけ、エルザは飛び上がるように立ち上がり、

 

「ハンターさん見た。どう、びっくりしたでしょ」

 

臆面も無くまくし立てる。 頬っぺたをふくらませている私をみてやっと私が怒っていることに気づいたらしい。

 

「勝手にこんなことしてごめんなさい」

 

エルザは丁寧に頭を下げる。

 

「でも、ほら」

 

エルザは言って、机の上の積み上げられた紙束を指差す。クエストの依頼書の束であった。

 

「朝だけでこんだけ」

 

20枚くらいはあるだろうか。一番上のクエスト依頼書を手に取ってみる。

 

【依頼内容】紅蓮の女神さま。私は、しがない武器屋をやっております。一目お会いしたく筆を執りました。ダレンの頭上でナイフを振るうあなたはまさに女神様だとおもいました。さて、今回、私の武器屋のポスターを作成することになりましたので、是非紅蓮の女神さまに出演してあただきたく存じます。出演料ははずませていただくのでどうかよろしくお願いします。ダレンの模型を用意してますので、私の店の武器をその上で握ってくださるだけで結構です。

【依頼主】円月武具堂店主【出演料】要交渉(専属契約)

 

エルザが慌てて依頼書を取り上げた。

 

「まあ、こんなのもあるけど、いいクエスト依頼も来てるから、ね、怒らないでね」

 

エルザは私の頭を撫でる。

怒りは収まらなかったが、クエストを集めるためにエルザが苦労しているのは知っていたので今は抑えることにした。

背部から視線を感じたので睨み付けながら振り返ると、ニヤニヤした団長が歩いて来ていた。

 

「すごい人気じゃないか」

 

団長は私の肩をポンポンと叩く。やっと睨み付けている私に気付く。

 

「まあ、そうカリカリしなさんなって、ほら」

 

団長は後ろをついて来ていた背の低い竜人族の老人を紹介する。

 

「竜人商人のナジムさんだ」

 

紹介された老人前に歩み出て頭を下げる。

 

「バルバレで竜人間取り引きを専門にしとりますナジムと申します」

 

私はナジムが差し出した手を握りかえした。

ナジムは顔を上げる。

 

「実は地底洞窟でネルスキュラが出たらしく、私共の商隊が立ち往生しているのです。どうかこれの狩猟をお願いしたい」

 

老人はまた頭を下げた。

正式にギルドに依頼した方がよさそうなクエストに思えた。エルザもそう思ったのか、

 

「ギルドへは?」

 

と問う。老人が何か言おうとするのを団長が制す。

 

「依頼達成後には我等の団に物資を融通してくれるそうだ」

 

腕を組み頷く団長の姿に、また何かたくらんでいるだろうとは思ったが、ネルスキュラには興味があった。団長が胸のポケットから小さく折り畳まれたクエスト依頼書を取り出しエルザに渡した。依頼書を受け取ったエルザはすばやく文面を確認する。

 

「分かりました。明日には正式にクエストとして掲示できると思います」

 

エルザは依頼書を読み、大猪の牙で作られた印を押す。私はその様子を見届けると、明日のネルスキュラ戦に向けての準備のためにキャラバンに戻った。

 

私がキャラバンに入っていく姿を見届けると、団長が老人に耳打ちする。

 

「では約束通り、依頼達成ならば、太陽の団への入団をお願いしますよ」

 

団長の話しを頷きながら聞いていたナジムはニヤリと笑う。

 

「依頼失敗の時は、私共竜人商会の専属モデルですからな、よろしくお願いしますよ」

 

二人は不穏な笑顔を交わして別れた。

 

専属モデルって……

 

キャラバンの出口内側で聞き耳を立てていた私はため息をつく。

 

 

 

 

ナズナと二人、地底洞窟への大穴のロープを降りていく。洞窟内は確かにいつもと雰囲気が違った。小動物の数が少ない。空洞内にも不穏な空気が充満しているように思う。ゲリョス装備の強走回路の効果でスタミナ消費が抑えられているおかげで洞窟内を無尽に走り回り様子を探ることができた。

ネルスキュラは数年前に発見されたばかりのモンスターでナズナも狩猟したことはないらしい。どんな生態をしているのか詳しくは分からないが、ゲリョスなどの大型モンスターを糸で捕らえて主食にしているらしい。あのすばしっこいゲリョスを捕らえるくらいならきっと機動性の高さは相当のものだろう。

エリアを移動しハンターの手引を広げる。手書きのマップで私が蜘蛛の巣と名付けたエリアに入っていた。斜面に沿うように蜘蛛の巣が張り巡らされ、洞窟の天井から大きな白い物体がぶら下がっている。よくみると、白い物体のところどころから灰色の翼の一部や、ピンク色をした尻尾の一部がみえる。ゲリョスの死骸だ。ここはネルスキュラの食料庫なのだろう。どちらにせよ、危険なエリアには間違いない。ナズナに早くエリアを出ようと伝えようと振り返ったが、つい今まで後ろにいたはずが姿が見えない。

 

「助けてニャー」

 

振り向いた背後からナズナの叫び声が聞こえた。慌てて振り返るとさっきまでなにもなかった場所に、白い塊が転がっている。よく見ると、ナズナが体を白い物につつまれ首から上だけを出していた。

 

「ニャー、後ろ、後ろ」

 

ナズナに言われて振り返るがなにも見当たらない。 ナズナの方に向き直った時、大質量の物体が私のすぐ右横を掠めるように通過した。銀髪が風で舞いあがる。咄嗟に回転回避し起き上がると、ナズナの頭上に、巨大な蜘蛛が足を広げてそびえ立っていた。ネルスキュラだ。

私は乱れた息を抑えるため大きく息を吸う。

大きい。背中の角までみると2階建ての建物を見上げる感じだ。頭と思われる部分には赤い目玉が多数並び不気味な光を放っている。胴体から伸びた8本の足はどれもが刃のように尖り、岩石の地面に突き刺さっている。胴体の後ろには丸い下腹部がつながり、不気味に脈打っている。

とりあえずナズナを救出し、ペイントをしなくてはならない。予めペイントビンをセットしたパワーハンターボウを構える。狙いを定めて矢を放つ瞬間、ネルスキュラは横移動を開始した。今まで狩猟したモンスターでは見たことがない動き。狙いを調整しようとするが、横の動きには慣れてないため、照準に時間がかかってしまった。矢を放つと同時にネルスキュラの前足が鎌のように私に振り下ろされていた。至近距離でペイント液が付いた矢が命中し、鎌は私の左腕を薙ぎ払っていた。私は反対側に体重を移動させダメージを軽減するも、吹っ飛ばされ地面を転がる。ゲリョスの革で作られた腕鎧には傷一つついていなかったが、衝撃の強さにしばらく動けない。よろよろと起き上がると目の前にネルスキュラの目が見えたため、がむしゃらに回転回避を繰り返して距離をとる。一息をついたのもつかの間、ネルスキュラは胴体を折り曲げ、下腹部の先をこちらに向けている。嫌な予感がし、咄嗟に回避しようとするが、それより先に私の体を白い糸が取り囲んでいた。瞬間、その糸が縮み、私を締め上げた。身動きが取れない。

ああ、さっきのナズナはこうしてあんなことになっていたのか、はっと気づき振り返ると、私を締め上げた糸を手繰るように器用に前足を使って糸を巻き上げているネルスキュラが見えた。取り合えずやたらめったらに動いてみるが糸は伸び縮みするだけで切れそうにない。大ダメージを覚悟して目をつぶった時、不意に体の自由が戻った。

 

 

「ニャ! ひとまず退散ニャ」

 

ナズナが糸を切断してくれていた。私は体に纏わり付いた糸を振りはらうと、一目散に走り、ナズナと一緒に崖を飛び降りた。

 

冷たい岩壁を背もたれにして座り込む。ダメージが大きい。弓を構える手に力が入らない。取り合えず回復薬グレードを飲む。左腕の装備を外してみると、腕が、真っ赤に腫れ上がっていた。ナズナが薬草を石ですり潰し塗り込んでくれた。ひんやりとした薬草の成分で少し痛みは引いていく。手に力を入れ、指を曲げて見る。どうやら骨には異常はないようだ。たった一撃でこの威力。凄まじい攻撃力である。

 

「どうニャ。まだいけるかニャ」

 

ナズナが私の顔を覗きこむ。私は腕装備を装着して親指を突き立てて見せた。リタイアすれば専属モデルである。

 

「わかったニャ」

 

ナズナは頷くと、対ネルスキュラの攻略方法について話し始めた。

 

まず横移動を防ぐために、弓では不利な狭いエリアに誘導する。移動後は足を中心に攻め、機動力を奪う。狭いエリアでの応戦になることから最適距離は気にしないでとにかく攻撃を当てることに集中する。足を破壊した段階で持ち込んだ痺れ罠を使い、弱点と思われる目を集中的に攻撃する。大きなダメージを受けた時はとにかく逃げて回復を図る。

 

ネルスキュラと再開し、作戦通り苦手とするこやし玉を投げまくり、エリアを移動すること数回。ついにベースキャンプに程近い細長いエリアに誘導することができた。

最適距離を無視して攻撃を繰り返した結果、足の部位破壊に成功し、すかさずナズナが背負っていた痺れ罠を地面にセットし飛びのく。ネルスキュラの大重量により痺れ罠が起動され、ゲネポスの牙から抽出した痺れ液がネルスキュラの体に行き渡る。激しく体を痙攣させながら動かなくなる。私はすかさず強撃ビンをセットして、最適距離から目に向けて矢を放ち続けた。痺れ罠の効果が切れ、ヨロヨロと立ち上がるネルスキュラ。少しは機動力が落ちるであろうと期待し、弓を構えた瞬間、ネルスキュラは私の後方の壁に糸の塊を飛ばした。その行く先を見て振り返ると目の前にネルスキュラの巨体が迫っていた。慌てて回転回避で横に避ける。足を部位破壊され機動力を削られたネルスキュラは移動したい場所に糸を吐き出し、糸を手繰ることで、足で移動するより早く移動している。混乱の中、ネルスキュラは洞窟の天井の穴からエリアを出ていった。私はぐったりと壁にもたれかかる。

 

「次から次と、すごいモンスターニャ」

 

ナズナも舌を巻く。しかし、糸を使った移動はスピードこそ早いが、イャンクックやゲリョスの突進と対処方法は変わらない。むしろ、移動方向が事前に分かるため、危険度は低い。私は回復薬グレードを飲み込み、懐中時計を見る。針は3時間を示していた。

奴の巣に飛び込んで決着を付ける。ナズナも同じ考えだったのだろう、武器をしまいながら私の方を見て頷く。

 

最初にネルスキュラに出会ったエリアに来ると、空間の天井から糸を垂らして空中にまるまっているネルスキュラを見つけた。眠ることで体力を回復しているのだろう。

揺れる標的に狙いを定めて最大に力を溜めた矢を放つ。咆哮を上げてネルスキュラは地面に落下し、ひっくり返り長い足を虚しく空中でばたつかせている。私はその場からさらに矢を放ち続ける。ナズナも突進攻撃を繰り返している。起き上がったネルスキュラは足の甲殻が破壊され、目もそのほとんどが光を失っていた。

私とナズナは左右に展開し、それぞれありったけの力で攻撃を加える。ネルスキュラは糸を飛ばす移動方法で突進を繰り返すが、私は弓を引き絞りながら紙一重で突進の軸線上から逃げ、振り向いたネルスキュラの顔面に矢を放ち続けた。 ナズナも四足歩行でネルスキュラの突進をかい潜り隙を見て攻撃を続ける。ネルスキュラは堪らずエリアからの脱出を図ろうと天井に糸を飛ばすが、空中に上がったところで、私の矢が命中し、地面に落下し、またひっくり返り足をばたつかせた。筆頭ガンナーの狩りを見ていたおかげである。

 

どの位の間そのような攻撃を続けただろうか、やっと私とナズナはこのモンスターの一番の武器はとてつもない体力にあることに気づいた。

時間が無駄に経過していく。懐中時計を見るような余裕はないが、おそらく時間はぎりぎりのところだろう。焦った私は不用意に、動きを鈍らせたネルスキュラに接近してしまった。ネルスキュラは口元の2本の長い触手を出し、鋏のように私の腹部を挟み込む。不意の攻撃と激痛に意識が飛びそうになるが、倒れる寸前で立ち止まった。腰装備にはくっきりと歯型が着いている。しかも歯型から紫色の液体が垂れている。ゲリョス装備の防御力がなければ私の胴体は真っ二つにされ、あわよく生き残っても毒で留めを差されていただろう。毒に耐性のあるゲリョスの皮に救われた。気を取り直し、残り時間を気にせず攻撃を当てることに集中する。

 

放たれた矢がネルスキュラの背中の角にクリティカルヒットし、角が砕け散ると同時にネルスキュラは地面に倒れ込み動かなくなった。私は剥ぎ取りをする前に信号弾を洞窟の隙間から空に打ち上げた。懐中時計を見ると残り1分と少しの所を針が指していた。

剥ぎ取りを終え、ネルスキュラの死骸の傍らに座り込んだ。天井を見上げると、ネルスキュラに補食されたゲリョス達が糸にくるまれてぶら下がっている。ゲリョス装備を纏い彼等の天敵のネルスキュラを狩る。装備のために散ったゲリョスも仲間の敵を打つことができたわけだ。いや、天敵だからこそ、いかに生き残るかという弱肉強食の生存競争の中で進化したゲリョスの能力に助けられたのか。どちらにせよ、これで専属モデルはせずに済みそうだ。




ハンターとしての私を大切に育ててくれた町、バルバレ。見上げるギルド船。クックバーガー、タンジア珈琲、そしてキャラバン。沢山の思い出。その一つ一つが今の私を作り上げてくれた。
狩りは一人で出来るものではない。みんなの助けがあったからこそ私はハンターたりえる。
さあ、新たなる狩場へ。

次回
「第10話 出発」
お楽しみに。
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