新世界の海に陽炎、抜錨します!   作:yutarou

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 どうもお久しぶりです。

 ファイブスター物語16巻拝見しました。

 ラキシスのアクセサリーにあんな強力なしもべが隠れていたなんてビックリです。

 艦これは秋刀魚漁が始まりましたね。でもまだイベント海域に行けてません。 

 この話を投稿したら突撃します。


第八話 鉄の風、木片の海(前編)

「妙高姉さん!陽炎も!見て、凄いの見つけちゃった!」

 

 陽炎型駆逐艦の初風が何やら叫びながら走ってきた。手には何かを持っている。

 

「まあ、何を見つけたの?」

 

 妙高が微笑ましく見守る横で陽炎が口を尖らせて不満そうにしていた。

 

「初風ェ、あんたが姉さんと呼ぶのはこっちでしょ」

 

(お姉ちゃんと呼んで)と言いそうになったが某重巡の真似になってしまいそうだったので寸

 

 前で止めた。

 

「そんなことどうでもいいわ!見て!ツチノコ!ツチノコ捕まえた!」

 

 初風の手には胴がビール瓶ほどの太さの蛇が握られていた。

 

「まあ!凄いわ!」

 

 ロデニウス大陸を初めて訪れた二人は驚いていたが陽炎は冷静だった。

 

「初風、妙高さん、その蛇はロデニウス大陸ではありふれた蛇です」

 

「そうなの!?」

 

 その話を聞いていた赤城が付け加える。

 

「白身魚に似て美味しいですよ」

 

 ちなみに今日の糧食は鳳翔さん特製のり弁である。

 

 有明産のりとおかか、昆布の佃煮の乗ったご飯、おかずはきんぴらごぼうとちくわの磯部揚げ

 

 、そして白身フライである。追加で野菜スムージーが付く。

 

 

「本当に乗るのは我が艦でいいんですか?戦艦や空母の方が見応えがありますよ?」

 

 観戦武官であるブルーアイは旗艦である霞に乗りたいと言ってきた。

 

 戦艦であれば砲撃戦を、空母なら艦載機の発艦を見学できるのでそちらの方が価値があろうと

 

 思ったのだが、ブルーアイは霞に乗ることを強く希望した。

 

「かあさ、いえ失礼しました。霞殿、私は旗艦に乗ることを命令されているのです。それに個人

 

 としても貴女の指揮に興味がありますので貴殿の船に乗ることを希望します」

 

「今何を言いかけたコラ」

 

 こいつも提督どもと同類か、と霞は頭を抱えた。ふと後方を見ると陽炎ほか数名が爆笑しそう

 

 になるのを必死でこらえていた。

 

「霞ちゃんのママみは異世界でも通用するのね」

 

「陽炎!曙!皐月!ぶっ飛ばすわよ!って伊勢さんまで酷い(涙)」

 

 

 ブルーアイ=ベリーズはクワトイネ公国の上級騎士の家に生まれた。

 

 彼の母親は彼が物心つく前にはやり病で亡くなった。

 

 父親はブルーアイが母親を恋しいだろうと思い、幼年学校の授業見学会に何を血迷ったのか女

 

 装してきた。

 

 ブルーアイはぐれた。

 

 マイハーク一のワルと呼ばれ、陸鳥暴走団のヘッドになり殺し以外は全てやった。

 

 その後何やかやあって彼は更生した。

 

 父親の女装癖は彼に大きな心の傷となって残り、今でも女性との付き合いを苦手にしていた。

 

 しかし霞と出会い、彼女の提督に対する厳しくも優しさを秘めた接し方を目の当たりにして、

 

 彼は確信したのだ。

 

「彼女は私の母になってくれる女性だ」

 

 

 霞がぐぬぬと陽炎を睨みつけていると霞の船体から金色の毛並みの動物が降りてきた。

 

「あ、忘れていた。陽炎、あんたの飼い犬連れてきたわよ」

 

「楊貴(やんぎ)!なんでここに?」

 

「くぅーん(ご飯くれ)」

 

 旧世界、日本の生物をロデニウス大陸に持ち込むには厳しい審査をパスしなければならない。

 

「この子、自分で書類を書いていたわよ。まあ大分間違っていたから能代さんが直してたけど」

 

「そうなんだ今度お礼しなきゃ」

 

「魔邪がいうにはこの子セントリーっていう犬種らしいわ」

 

「へー、ボルゾイかアフガンハウンドかと思っていたけど違うのね」

 

「なんでも世界に5体しかいないらしいわ」

 

「貴方凄いのね楊貴、よーし良し!」

 

 陽炎はチョコレート飲料を飲んだ時のような笑顔で楊貴の頭を撫でまわした。

 

「ぷいぷい(角砂糖よりキャラメルがいい)」

 

 

 その光景を見ていたパンカーレとブルーアイは困惑していた。

 

「ブルーアイよあの生き物はどう見ても犬に見えんのだが」

 

「私もそう思います」

 

「もしかして、神龍の幼生か?」

 

「誰も見たことが有りませんが、あの気品は間違いないかと」

 

 

 ブルーアイは駆逐艦霞に乗り込み、艦隊は出航した。

 

「クワトイネ派遣聯合艦隊出撃せよ、羅針盤まわせー!」

 

 ブルーアイは疑問に思った。なぜ羅針盤を回すのだろうか。

 

「マスター、陽炎様からメールです。ここでは羅針盤は回さなくていいのよ。です」

 

 霞は顔を真っ赤にし目の端に薄っすら涙を浮かべた。

 

 その後新世界あるあるの一つとして、つい羅針盤を回してしまうというのが広まった。

 

 

「何という速さだ!」

 

 クワトイネ公国海軍の一般的な軍船よりはるかに速い。

 

 ブルーアイはあることに気が付いた。艦内に霞と自分以外の人影が見えないことに。

 

 何者か、それも大勢の気配がする、視線を感じる、しかし誰も見えない。

 

 クスクスと笑い声が聞こえ始め、ブルーアイは恐怖を感じた。

 

「こらー!観戦武官殿に失礼でしょ、姿を見せなさい!」

 

 霞がそう言うと物陰から二頭身の小人が顔を出した。

 

 そして段々大きくなり普通の人間になった。

 

「これが妖精ですか?!」

 

 妖精は普通の人間には普段見えない。艦娘の観艦式形態でもそれは変わらず、傍から見るとま

 

 るで幽霊船のように見えてしまうのであった。

 

 妖精からすれば初めて乗り込んできた人間が艦娘に良からぬことをしないよう警告する目的も

 

 あったりする。

 

 

 

「いい景色だ、美しい」

 

 ロウリア王国海軍の海将シャークンは配下の船団を眺めて独り言ちた。

 

 見渡す限り船ばかりで海面が見えない、そう評しても差し支えないだろう。

 

 軍船4千4百隻、兵士14万人の大軍勢はロデニウス大陸史上最大であろう。

 

 これなら文明国、いや列強国でさえ制圧できるかもしれない。

 

(いや、パーパルディア皇国には船を破壊できる砲艦なる超兵器があるという)

 

 列強国に挑むのはまだ時期尚早である、とシャークンは先ほどの自分の夢想を打ち消した。

 

 シャークンは自分の半生を振り返る。

 

 船乗りに憧れた少年時代。苦しい訓練に耐えた新兵時代。生死を共にした親友たち。

 

 様々な情景がシャークンの瞼の裏に浮かんでは消えた。

 

 在任中一度も笑わなかった上司が退役する際、満面の笑顔を見せながら後を頼むと言った。

 

 そのときに掴まれた肩の感触は生涯決して忘れないだろう。

 

「先輩方、見ていてください」

 

 祖国によるロデニウス大陸統一、それを成し遂げた名将として歴史に名を遺す。

 

 シャークンは未来の歴史家が自分をどう評価するのか想像して笑みを浮かべた。

 

 

 後ろでは部下たちがマイハークに到着したらどうするのか話していた。

 

「やっぱエルフだろ」

 

「いや、猫獣人がいい」

 

「犬獣人に決まっている」

 

「ドワーフの幼女もなかなからしいぞ」

 

「へー」

 

 各所でゲスい話が盛り上がっている。

 

「俺は人間だな」

 

「なんでだよ」

 

「故郷の母さんに孫の顔を見せてやりたいんだ」

 

 いい話っぽいがよく聞くと最低な会話である。

 

 もし艦娘たちが聞いていたら即攻撃されているだろう。

 

 

 パーパルディア皇国から援助を受け、6年間の長い時をかけ完成したこの大艦隊。

 

 これだけの大艦隊を防ぐ手立てはロデニウス大陸にはないと断言できる。

 

 この作戦が失敗することはない。なんの不安要素はないはずだ。

 

「ちっ、また切れた」

 

 先ほどから軍靴の紐が結んだ端から切れていく。

 

 この戦いが終わったら装備調達担当者を締め上げてやろうと思っている。

 

 差し当たりもやい紐で軍靴の上からぐるぐる巻きにして絞めていたがその紐まで切れ始めた。

 

 もやい紐という航海に大切な道具に不良品が混じっているのは問題だ。

 

 シャークンは全艦隊に装備品の確認を命じた。

 

 その結果特に不良品は見つからなかった。ただし一部の士官が自分と同じように靴紐が切れや

 

 すくなっている、という報告を上げてきた。

 

 

「不吉じゃ!不吉じゃあー!」

 

 先ほどから取り乱しているのはこの艦隊の航海士兼相談役である初老の漢。

 

 名をムルデカという。

 

 かつてはフィルアデス大陸沿岸を荒らしまわった海賊の棟梁である。

 

 滅亡した文明国の海軍士官だったという噂もあるが彼は何も語らない。

 

 文明国リーム王国の海賊狩りから仲間を全て逃がしきったことがあるという。

 

 その戦いぶりから鉄壁の異名を貰った漢である。

 

 ロウリア王国は彼を指導員として迎え、シャークンも彼から厳しい指導を受けた。

 

 普段の姿はまさに海の漢を体現したかのような人物であり尊敬していた。

 

 

 その彼が航海の安全を祈願するお守りを作っては吊るし、壊れる様子を見ては叫ぶ、というこ

 

 とを何度も繰り返している。

 

 正直作り方を間違えているのではないかと思うのだが、軍の重鎮である彼が狼狽していると部

 

 下たちが動揺するのでやめてほしい。

 

「ムルデカ殿、皆が見ているので落ち着いてください」

 

「シャークン海将、精霊が騒いでおる、このようなことは初めてじゃ!」

 

 精霊とは魔素の集合体が何らかの意思を持って動いている存在であるが、滅多なことでは人前

 

 に現れない。魔術の素養の低い人物ではそもそも見ることもできず、さらに会話をするだけで

 

 も高い魔力と適正を必要とする。

 

 ムルデカは数少ない精霊魔導師である。精霊を使役するまではいかないがそれでも第三文明圏

 

 では希少な魔導師である。

 

 精霊を使役することが出来る精霊魔導師は第一文明圏の文明国、そして第一位列強国神聖ミリ

 

 シアル帝国であっても数えるほどしかいない。

 

 

「ムルデカ殿、そこまで心配なら海の精霊に戦勝祈願の捧げものをしましょう」

 

 その儀式は籠に酒と食べ物を乗せて海に流し、精霊に祈るというものである。

 

 第三文明圏とその周辺に広く伝わる伝統的儀式である。

 

 シャークンも心の底では不安を感じていたので、艦隊で一番良い食事、すなわち自分用の酒と

 

 夕食分の食材を捧げることにした。

 

 正直あまり食欲がない。

 

「海の精霊よ、我らに勝利をもたらし給え」

 

 シャークンが供物の籠を海に流し、伝統に沿った祈りを捧げた。

 

 すると海面がほのかに光り、海水が女性の様な形を成して現れた。

 

 その手には供物の籠が握られている。

 

「おお!精霊様が顕現なさった」

 

「この戦、勝ったも同然だ!」

 

 乗組員が歓喜に沸き立つ中、精霊は持っていた籠をシャークンに返した。

 

(ゴメン、ムリ)

 

 そう言っている様な気がした。

 

 乗組員は皆沈黙した。

 

 

「不吉だ!」

 

 今度は艦隊内からも多くの声が上がってきた。

 

 さすがに先ほどの光景を見た多くの者が不安を感じていた。

 

「馬鹿者!この6年間何のために我々は厳しい訓練をしてきたと思っている!」

 

 シャークンが一喝すると多くの者が黙った。

 

 彼は魔信を通じて艦隊全体に呼びかける。

 

「ロデニウス大陸統一は我が国の悲願である。今更何の成果も上げずに戻ることなど出来ん我が

 

 国をただ数が多いだけの国と馬鹿にした奴らを見返してやれ」

 

「情報によればマイハークの艦隊はたった50隻。我らは4千4百隻ぞ、万が一にも負けることなど

 

 あり得ない。クワトイネ公国を落とし、我らはロデニウス大陸の歴史にその名を刻むのだ」

 

「最近クワトイネと国交を結んだ日本国という国が参戦するかもしれんが、所詮蛮族の国、同じ

 

 く叩き潰してやれ!」

 

 シャークンの熱のこもった説得で艦隊の士気は持ち直した。

 

「マイハークを占領すれば金も女も思いのままだ、好きなだけ奪い去っても良い!」

 

 シャークンは本来は略奪も強姦も好きではなかったが、兵たちの士気を保つには仕方が無いと

 

 思っている。

 

「ヒャッハー!さすが海将、話が分かるぜー!」

 

 世紀末な叫び声を上げながら男どもは心を一つにしたのだった。

 

 

 

 突如東の方角から奇妙な物体が大きな音を立てて飛んで来た。

 

「こちらは日本国海軍です。あなた達に警告します。この先はクワトイネ公国の領海です。直ち

 

 に回頭し引き返しなさい」

 

 それは聞いたことのない大音量でそう警告してきた。

 

「何だこれは生物なのか?人が乗っているのか、ということは新種の飛竜なのか?しかも女の声

 

 だと、訳が分からん」

 

 横腹に白地に赤い丸の国旗らしきものが描かれているのが見えた。

 

 それに弓を引いた者がいたが全く届かなかった。

 

 

 ロウリア王国に警告したのは航空戦艦日向所属のS-51J改であった。

 

 艦隊上空を旋回し何度も同じ警告を繰り返し、帰っていった。

 

 そして次に現れたのは重巡洋艦妙高であった。

 

 

 ロデニウス大陸では見たこともない巨大な船の出現にロウリア海軍は仰天した。

 

「直ちに回頭して引き返しなさい!さもなくば貴船団に対し発砲いたします」

 

 巨大船は先ほどとは別人の声で警告してきた。

 

 ただ兵どもは女が乗っていることに興奮していた。

 

「うひょー女だぜ」

 

「艶っぽくて好みだ」

 

「そうか?BBAぽくね?」

 

 一部どうしようもない病気持ちがいる様だ。

 

「はァ⤴」

 

 巨大船から発せられる声が明らかな怒気を含むようになった。

 

「女はな、12歳を超えたらババアなんだよ!」

 

 シャークンはそれは違うと思ったが何も言わなかった。

 

 

「犯罪者ですね。撃沈しましょう」

 

「妙高さん駄目です、先制攻撃は禁じられてます」

 

「汚物を消毒するだけですから別にいいのでは?ねえウリクル」

 

「駄目ですよ」

 

 ウリクル

 

 南太陽系ジュノー星で最大の大国コーラス王朝の国王コーラス3世のファティマ。

 

 製作者はモラード・カーバイト

 

 いたずら好きで、道案内するはずのコーラス3世を忍者のように後をつけてからかった。

 

 モラード邸滞在中着る服がなかったので女物の服(自分の)を着ていたコーラス3世に萌える

 

 コーラス=ハグーダ戦で負傷したコーラス3世をかばって戦死。

 

 ただし彼女の生涯で最も激しい戦闘は対エルメラ王妃戦であったことは間違いない。

 

 

 はっぽうとは何なのかシャークンには分からなかったがおそらく攻撃手段だと考えた、なので

 

 右舷艦隊に攻撃するよう命じた。

 

 命じられた船の船長は大きさに恐れを感じながらも一番槍を任されたことに奮い立った。

 

 先陣の船から多数の火矢が放たれた。

 

 しかし火矢は命中してもカンカンという音を立てて弾かれた。

 

 巨大船は向きを変え艦隊から距離を取った。

 

 帆を張っていないにも拘らずその船速は恐ろしく速い。

 

「ヒャッハー、逃げやがった」

 

 水夫たちは馬鹿にしているが、船長は冷や汗をかいている。

 

「火矢が刺さらなかった。まさか鉄で出来ているのか」

 

 

「海将殿、引くのだ」

 

 ムルデカが撤退を進言する。

 

「なにを馬鹿なことを、たった一隻に負けるとでもいうのですか」

 

 ムルデカは極めて真剣な表情でこう言った

 

「あれはこの世のものではない。あれは死者の船だ」

 

「どういうことですか」

 

「文字どおりの意味だあの船からは生者の気配が感じられぬ」

 

「幽霊船ということですか」

 

「そんな生易しいものではない!」

 

 

「攻撃を受けました。正当防衛により攻撃します」

 

 深海棲艦との戦いの前と後で日本国は憲法を改正していない。

 

 だからこそこんな面倒くさいことをしなくてはならないのだが、力を振るうことに躊躇しなく

 

 なれば行きつく先は目の前のロウリア王国と同じになってしまう。

 

 妙高は目を閉じ深呼吸をして命じた。

 

「主砲、撃ちかた始め!」

 

 日本海軍にとって異世界初の戦闘が開始された。

 

 

 巨大船から突き出ていた金属の筒から突如轟音と煙が吐き出された。

 

 すると先陣を務めていた船が木っ端みじんに砕け散った。

 

「敵の魔導兵器か?」

 

「あれはパーパルディア皇国の魔導砲なのか?いや違う射程が長すぎる。威力も高い」

 

 皇国の装備を知っているムルデカでさえ驚く。

 

 パーパルディア皇国で使われている最新の魔導砲でさえ射程は2キロである。

 

 巨大船は少なくとも5キロは離れて攻撃してきた。

 

 相手は列強以上の力を持っていることになる。

 

 

「これで恐れて撤退してくれれば良いのですが」

 

 妙高は淡い期待を口にした。

 

「その可能性は低いと思われます」

 

 ウリクルは冷静に否定した。

 

 

「どうやらあれだけの大規模魔導は連射できないようだな」

 

 巨大船からの二度目の攻撃がないのでシャークンはこの様に判断してしまった。

 

「竜騎士の支援を要請しろ!空との同時攻撃で一気にカタをつけるぞ」

 

 

 ロウリア王国 王都防衛騎士団 総司令部

 

「東方征伐海軍より魔信が入りました。現在、敵主力と交戦中。敵船は巨大で大出力の魔導兵器

 

 を搭載している。これにより我が方の軍船が一隻撃沈された。反撃のため航空支援を要請する

 

 、とのことです」

 

 王都防衛騎士団団長パタジンは獰猛な笑みを浮かべ、通信士に指示を出した。

 

「ほう、敵主力とな。戦力の逐次投入はすべきでない。ワイバーン250騎全て差し向けよ」

 

「王都を防衛するワイバーンが残り100騎のみとなりますが」

 

「充分だ、どうせ王都を襲撃する勢力など存在せん」

 

 出番を待ちわびていた竜騎士団は歓声を上げて出撃していった。

 

 

 

「マスター、時速約230キロの飛行物体が250以上こちらに向かってきます」

 

「こちら伊勢、対空レーダーに感、飛行物体が多数こちらに向かってくるよ」

 

 魔邪がレーダーより早く感知し報告する。

 

 ファティマは自身の戦闘服に搭載されているレーダーのみならず視覚、聴覚から得られた情報

 

 を瞬時に比較しそのずれを補正することにより現代艦艇を上回る索敵能力を持つ。

 

⦅凄いわねファティマって。これは公になったら騒ぎになる可能性が高いわ⦆

 

 霞はファティマの力に恐れを抱きつつも指示を出す。

 

「敵は諦めていないようね。艦隊前進、先行している妙高と合流します。陣形は輪形陣を採れ。

 

 空母並びに航空戦艦は艦載機を発艦させて迎撃せよ」

 

「一航戦赤城、了解しました。迎撃機を発艦させます」

 

 赤城は停泊したまま艦載機を発艦させた。18機の烈風改二、12機の烈風11型が飛び立つ。

 

「同じく加賀、了解しました」

 

 一方加賀は教本どおり風上に向かって加速し、20機の零戦53型を発艦させた。

 

「伊勢改二が異世界に来たわよー、なんちゃって」

 

 伊勢が軽口をたたきながら22機の瑞雲12型を発艦させた。

 

「瑞雲の素晴らしさを異世界の人々に見せてやろう。ここで戦果を挙げ、いずれ全ての国家に瑞

 

 雲を採用してもらうのだ!」

 

 日向師匠がとんでもない野望を口走らせながら24機の瑞雲改二を発艦させる。

 

 合計96機の戦闘機、戦闘爆撃機が空を舞う。

 

「誰も突っ込んでくれない」

 

 約一名悲しそうにしていた。

 

 

 ロウリア王国竜騎士団団長アグラメウスは大戦果を確信していた。

 

 シャークン海将は海軍だけでもクワトイネを撃滅できるのだろうが、ロウリア竜騎士団の力を

 

 合わせて見せることで周辺国にロウリア王国の軍事力を誇示する意図があるのだろう。

 

 ロデニウス大陸の歴史でこれ程のワイバーンを動員したことはない。

 

 この部隊ならば伝説の魔帝軍すら打ち破れるだろう。

 

 まして亜人の国クワトイネに我らを止めることなど出来るはずはない。

 

「隊長、前方になにかいます」

 

 視力の良い部下が何かを見つけた。その空を飛ぶ物体は翼を一切羽ばたかせずにあっという間

 

 に自軍に接近してきた。明らかにワイバーンより速い。

 

「まさか飛竜の一種なのか?そんな馬鹿な!」

 

 情報によれば近辺にクワトイネの飛行場はないはず。

 

「敵艦隊に竜母がいるのか?」

 

 

 敵の飛竜の様な物は鼻先に高速で回転する何かを付けている。ブーンという変わった咆哮を上

 

 げながら襲い掛かって来た。

 

「ロウリア竜騎士隊を舐めるな!」

 

「隊長!上です!」

 

 部下が悲鳴のような叫びをあげる。

 

 太陽の中から数騎の敵飛竜が現れ上空から下方に突き抜けていった。

 

 擦れ違う際ダダダという破裂音がして、味方のワイバーンと竜騎士が血しぶきを上げて落ちて

 

 いった。

 

「おのれ!」

 

 数騎が仲間の仇を討とうと敵の後を追いかける。しかし全く追いつけない。

 

 それどころか反転宙返りした敵騎に返り討ちにされてしまう。

 

「そんな馬鹿な!」

 

 速度、運動性、攻撃力全てにおいて我が方のワイバーンに優っている。

 

 こちらが優っているのは旋回性能ぐらいな物であろう。

 

「全隊、密集隊形をとれ、竜母を沈めるまで耐えろ」

 

 敵騎がいくら高性能とはいえ竜母を沈められればこちらの勝利となる。

 

 ロウリア竜騎士隊は密集隊形で突き進む。その数は100騎まで減っていた。

 

 

 水平線の彼方に小島が四つ見えた。それも島全体を砦に改造した軍事要塞であった。

 

 違う、波を立てて移動するそれは間違いなく船であった。

 

 200メートルをはるかに超えるその船は威容を称えていた。一体どこの国がこのような巨大

 

 船を建造したのか、アルデバランは恐怖を覚えた。

 

「皆の者、何としてもあの竜母を沈めるんだ!」

 

 その時編隊に纏わりついていた敵機が離れていった。

 

 なにを考えているのかと訝しむ間もなく敵竜母の内二隻とその護衛の中型船が火を噴いた。

 

 甲板上にある鉄の筒が轟音と大量の煙を噴出させた。

 

 その数秒後、竜騎士隊の生き残りは炎に包まれた。

 

 まるで火山の噴火のように焼けた石礫を広範囲にぶつけられ、竜騎士たちはのたうちまわり或

 

 いは即死して、焼け焦げ墜ちていった。

 

 

 

 敵ワイバーンは戦闘機隊の活躍で100機まで削られた。

 

 艦隊まで20キロに近づかれた段階で戦闘機は引き上げ対空砲にて殲滅することにした。

 

 伊勢、日向、妙高の主砲で三式弾改を撃ち、60騎を撃墜した。

 

 そして最後に駆逐艦と巡洋艦による対空射撃により殲滅することにした。

 

「新参者には負けられないのよ!」

 

 初風が猛然と主砲を打ち放った。妙高との間にライバルが出現し闘志を剥き出している。

 

「なんかちょっと私に似てるところが余計にムカつくのよ!」

 

 魔邪とウリクルはワイバーンの飛行進路を予測し照準を補正している。

 

 両ファティマにより補助された対空射撃は正確無比であり、ほとんど無駄玉を使わずにワイバ

 

 ーンを打ち落としていった。

 

 

 

「せめて奴らに一矢報いらねば」

 

 アルデバランは三式弾の破片が胸部に命中し重症を負っていた。即死こそ免れたものの遠から

 

 ず息絶えるであろう。相棒のワイバーンも体のあちこちに破片が食い込んでいる。もはや陸地

 

 にまで戻ることは出来ない。

 

 このまま何の戦果も挙げられずに死んだら後世の歴史家に無能と呼ばれてしまうだろう。

 

 何より死んだ部下たちに申し訳が立たない。

 

「せめて奴らの船一隻でも沈めなければ死んでも死に切れぬ」

 

 アルデバランの目の前に比較的小型の敵船、霞がいた。

 

「ロウリア竜騎士隊の意地を見せてやる」

 

 アルデバランは真っ逆さまに霞に落ちていった。体当たりするつもりである。

 

 

「敵ワイバーン真っ直ぐこちらに向かってきます」

 

 どうやら瀕死の重傷を負った竜騎士が破れかぶれで突っ込んできたと見える。

 

 敵には同情するが情けは無用である。長10㎝砲の砲弾が竜騎士とワイバーンを撃ち貫き、哀れ

 

 な一名と一匹を冥府へ送り届けた。

 

 ロウリア王国竜騎士隊250騎は部隊消失した。

 

「霞ちゃん大丈夫?」

 

 伊勢ほか僚艦が心配して通信してきた。

 

「一切被弾なしです。別方面でも心配有りません。覚悟完了済みですから」

 

「ばれていたか」

 

 巡洋艦以上のいわゆる大人艦たちは駆逐艦か対人戦をすることを可能な限り避けようとしてい

 

 た。今回の駆逐艦が少ない編成もそのためだ。

 

「それに私たちが艦娘になって何年たったと思っているんですか、中身はもうとっくに成人して

 

 ます」

 

「頭では分かっているんだけど感情が理解を拒んでて、駆逐艦はいつまでも子供らしくしててほ

 

 しいの」

 

「なに提督みたいなこと言ってるんですか」

 

「ゴメン」

 

 駆逐艦がもう成人しているって聞くと逆に興奮する提督も多いので気を付けてほしい。筆者

 

 もそうである。

 

 

 

 ロウリア王国艦隊は沈黙に包まれていた。

 

 ワイバーンはロデニウス大陸では最強の戦力である。

 

 その味方ワイバーンが敵の飛竜に手も足も出ない。まるで肉食魚に襲われる小魚の群れのよう

 

 に数を減らしていき、巨大船の爆裂魔法で叩き落されて全滅した。

 

 通常軍船がワイバーンを落とすとなれば多大な犠牲を払わなければならない。敵はそれをいと

 

 も簡単にやってのけた。

 

「我々は魔帝を相手に戦っているのか」

 

 シャークンは恐怖に打ち震えた。

 

「敵の攻撃が来るぞ!」

 

 ロウリア王国艦隊の絶望の宴は始まったばかりである。




 ちょっと長くなってしまったのでここで切ります。

 後編は早急に投稿します。

「ねえ魔邪、貴女の前のマスターのサリオン・エミーテ=斑鳩王子ってどんな人?」

 暗殺大好きな両親、人の心が分からない上司、部下の大半が元犯罪者。

 主君の嫁が超怖い。後ろに悪魔の神がいる。

 脇腹までスリットの入ったセクシードレスを着ていかないと法案を通さない国会議員

「苦労人でしたね」

「大体分かった」

「お嫁さんがまともな人で本当に良かったです」

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