新世界の海に陽炎、抜錨します!   作:yutarou

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長い期間が開いてしまい申し訳ございません。
設定集を作るのに思っていたより時間が掛かってしまいました。キャラクターが多い!
後いくつかの設定を勘違いしていた部分があったのでストーリーを修正していました。(ドウタ
ーチップなどです)
話が分かりにくいという指摘有難うございました。返す言葉もございません。


第十七話 超帝国の炎の女皇帝

「ふごごご!」

 呉鎮守府の工廠に豚の鳴き声によく似た鼻音が響く。

 大和型戦艦の二人が鎖で縛られ宙吊りにされており、鼻にはフックが掛けてある。

「もう許してくれ!こんなところを清霜に見られたら死んでしまう!」

 戦艦武蔵が泣いて許しを請う。

「大和にこんなことをしてただで済むと思っているのですか!」

 戦艦大和はまだ反抗的であった。

 

「はい、アップ~」

 ラキシスは鎖を引っ張る。すると大和と武蔵の鼻にかかったフックが上に引っ張られた。

「イタタタタ!」

「止めてええ」

 二人の悲鳴を聞いて全身漆黒の女が歓声を上げる。

「HAHAHAHAHA!」

 彼女こそ今生の不知火のパートナー、パルテノである。

「HipデBadダゼ!ダンケェ!」

 それからしばらく、ぺちんぺちんと二人の尻をリズミカルに叩く音が辺りに響いた。

 

 その時海防艦達が周辺海域の哨戒から帰ってきた。

「何何?」

「あ、大和さんと武蔵さん何してんの?」

「お鼻が変」

 大和と武蔵は絶望に打ちひしがれる。

「あああああ(泣)」

「終わったァァァーーー」

 

「二人とも何したの?ポーラさんみたくお酒飲み過ぎたの?」

 イタリア重巡娘のポーラはお酒が大好きだがいつも飲み過ぎて周囲に迷惑をかけている。

 その度に姉のザラが謝っているが、ザラの忍耐が限界を超えるとこのように吊り下げて尻を叩

 く光景が見られる。

「ポーラと同じ扱いなのかー(涙)」

「この屈辱、坊ノ岬以来です!」

 大和型戦艦二人は自らの威信を取り戻すため努力することを誓った。

 

 

 

 

 呉鎮守府の提督執務室

 司令官の小暮シンイチは近頃の体調がとても良い。

 転移直後は膨大な仕事が持ち込まれ、職員一同過労死を覚悟していたが今は平穏そのものだ。

 今では定時で帰宅できるようになり、健康状態は万全である。

 

 仕事の総量は減ってはいない、むしろ増えている。

 にもかかわらず健康的な勤務が出来るのは処理能力が上がったからだ、それも劇的に。

 秘書官席の横の机に座る小柄な少女がスーパーコンピューターよりも演算能力が高いなどと誰

 が想像しよう。

 

「スパルタ様、お茶をお持ちしました」

 従卒がショートカットの少女に茶を差し出す。

「あの、提督様に先に出してくれませんか?」

 スパルタが遠慮がちに言う。提督は手を振ってこれでよいと許可した。

 

 職員の中には仕事を失うのではないかと不安になる者も多くいた。

 しかしその後適度に働いて丁度定時に終わる量の仕事が各自に配されるようになり、不満は言

 われなくなった。

 そうヒトを遥かに超える存在が鎮守府を掌握したことを察したのだ。

 諦めの境地で人知を超えた強者の庇護のもと甘い蜜に浸るかの様な生活を享受することに躊躇

 う者はいなかった。

 

 提督は今までを振り返る。かつては重圧から逃げる為に飲んでいた酒も味を楽しむ余裕が出来

 た。料理との組み合わせを考えるのも楽しい。

 そうだ今度彼女を誘ってあの店に行こう。

 そしてカッコカリではない本物の婚約指輪を大淀に渡すのだ。

 、、、、

 

「という風に、いつになったらなるんだ?提督よ」

「勝手に私を名乗ってモノローグを捏造しないでくれたまえ」

 先ほどから独白を続けていたのは重雷装巡洋艦の木曽だ。

 転移前は幌筵泊地所属の艦娘でキス島攻略作戦において第14駆逐隊と行動を共にした。

 軽巡娘の中では古参の方である。

 

 現在執務室には司令官たる小暮と秘書官の神通、神通のパートナーであるスパルタ、そして客

 として木曽、用もないのに執務室で休憩しているのが由良、ゴトランド、デ・ロイテルの三隻

 計7名がいる。

 

「大淀だってあんたの事は嫌ってないんだ。彼女は押しに弱いから強く出れば簡単に陥ちるぞ」

「仕事とプライベートは一緒にしない」

 小暮提督はかつて大淀の能力に惚れ込み、熱心に口説いて横須賀から引き抜いた。

 それが原因で横須賀の提督とは犬猿の仲である。

「プライベートではどう思っているんだよ」

 小暮はそっぽを向いた。

「他の奴に盗られていいのか?」

 

「横須賀の借りパク野郎のことか?あいつは恋愛関係ではそう言う事はしないと思うのだが」

 横須賀鎮守府の提督とは犬猿の仲であるが、それ故に解ることもある。

 横須賀の提督に大淀に対する恋愛感情はないと確信してしる。

 その話を聞いて室内の女性陣が微笑を浮かべている。

 

「いや、あの人ではなくて俺が言っているのは明石のことだぞ」

 明石と大淀は当初艦娘適正が分かっていたものの肝心の艤装のコア部分が未発見であったため

 長い間裏方として働いていた。そのため二人は非常に仲が良い。

「女同志だぞ」

 小暮の額に汗が滲む。

「有りだろ?」

 小暮は否定できなかった。

 取り敢えず危機感を持たせることが出来て木曽は満足した。

 

『実際の話、我々軽巡娘としては小暮殿と大淀には早く結論を出してほしいのだがな』

 話しやすいからという理由で小暮提督は良く軽巡を秘書官にする。彼は知らないが軽巡娘の間

 で彼は人気なのだ。最近になって海外軽巡を中心に彼の幼馴染は誰かと、裏で暗闘が繰り広げ

 られていて一部流血沙汰も起こっている。

 

『あの三馬鹿どもも大人しくなればいいのだが』

 三馬鹿とは由良、ゴトランド、デ・ロイテルの三隻のことである。特に由良は改二になって妙

 な方向に積極的になってしまった。どうしてああなったのか誰も分からない。

 木曽はため息をついた。いざとなったらまた神通に鉄拳制裁をしてもらおうと思っている。

 取り敢えず殴る、軽巡娘にとって暴力こそ最良の解決法なのである。

 

 話の途中、ゴトランドがお酒のつまみに故郷のニシンの缶詰を勧めてきたので由良が殴り、デ

 ・ロイテルがそれに巻き込まれて流血、最終的に三人とも神通に部屋から叩きだされるという

 珍事があったが、特筆すべきことはないので割愛させていただく。

 

 

 

「それよりも今日呼んだのは別の件でだ」

 小暮提督は話題を変えようと机の上に資料を置いた。

「ヤマネコ島事件についてだ。君はあの事件に参加していたらしいな」

 そう、小暮提督は今ヤマネコ島事件について調べている。

「ああ、あの事件か、確かに俺は島民の救出作戦に参加していたよ。自衛隊が島民を救出し、俺

 達はその護衛をする手筈だった。まさか陽炎があの場にいたとはな、驚いたぜ」

 

 その時執務室のドアが開いた。室内に入ってきた人物は駆逐艦不知火である。

「陽炎の話題ですね、同席してもよろしいでしょうか」

 何故か話の内容を理解している彼女は、提督が許可が出す前に部屋に入ってきてソファーに座

 った。絶対にここを動かないという鋼の意思を感じる。

 小暮はため息をついた。どうもこの所提督の権威が蔑ろにされている気がしてならない。

 

「この年ですと陽炎の年齢は10歳ですね」

 不知火はスケッチブックを取り出しページをめくった。

 そこには子供の落書きが掛かれていた。横から覗き込んだ木曽が聞く。

「これもしかして陽炎か?」

 辛うじて頭に橙色のツインテールがあることが分かる。

「はい、各年齢の陽炎を私が想像して書きました。それにしても陽炎が昔の写真を持っていなか

 ったのは武装勢力の所為だったんですね、許せません」

 不知火は憤慨している。それよりも木曽は気になることがあった。

『何故身体部分が肌色一色なんだ?』

 それは聞いてはいけない予感がした。

 

 不知火は自らが描いたスケッチブックを眺めたあと目を瞑る。

「いけませんよ陽炎、お風呂から上がったら体を拭かなくては風邪をひいてしまいます。ああ裸

 で部屋を駆け回ってはいけません」

 不知火は口の端から涎を垂らして想像の世界へと飛び立っていった。

「不知火お前大井姉さんに似てきたな」

「えっアレに?」

 不知火は愕然としているが一同は何故そうなると心の中でツッコミを入れた。

 

「人の姉をアレと呼ぶな」

「アレをアレと呼ぶ以外にどう呼べと?」

 木曽は内心納得してしまった。

「まるゆのパートナーになったヒュートランって奴も姉貴と同類だったし最近増えすぎだろ」

 

 話の前に提督は不知火に言っておく事があった。

「それよりも不知火、大和たちのお仕置きは程々にするようパルテノに言っておけ。あの爺さん

 に知られると厄介なことになるからな」

 艦娘である大和にはあるファンがいる。その人物は政財界に広く影響力を持つ老人で、父親が

 戦艦大和の乗組員であったことから大和に並々ならぬ思い入れがあった。

 そんな彼が大和が美しくも凛々しい艦娘となり、その46センチ砲で深海棲艦を薙ぎ払って活

 躍したと知ったらどうなるだろうか。

 扱いづらい後援者の誕生である。

 

「大和さんにいつも沢山差し入れをしている方ですね」

 駆逐艦は大和からおすそ分けを頂いているので老人に対して好意的である。

「多額の寄付をしてくれるのは有難いのだが、余り軍の方針に口を出さないでほしいな」

 小暮提督が深い溜息をつく。

 

 老人は大和の予備艤装(大型建造で出た二隻目の艤装)を改造し、重防御の護衛艦を造ろうと

 政府を通じ提案して来た。日本復興の象徴とする為だ。

 深海棲艦或いはそれに類する化け物との戦闘を想定すると確かに従来の護衛艦では防御力が脆

 弱すぎるという欠点があった。

 だからといって艦娘の艤装(実艦形態)を改造するのにどれだけ予算が掛かるのか、機関を換

 装するだけでも相当の費用が掛かる。維持費も従来よりも増加すると試算されており、いっそ

 のこと新造した方が良いのではないかという意見が多数である。

 それでも自らの夢を叶えるべく広い人脈を生かして各界に根回しをしているらしい。

 

「音楽祭では光る棒を持って踊っていましたね」

「えっ何それマジかよ」

 不知火の言葉に木曽が驚愕する。

 ある年の音楽祭で大和がアイドルソングを歌ったとき、その老人はサイリウムを両手に見事な

 オタ芸を披露していた。その体のキレは古参の那珂ちゃんファンから見ても見事というほかな

 く音楽祭の後彼らと意気投合していた。

 対照的に老人の側近連中は顔面蒼白であった。その後老人の経営する企業の株価は一時下がっ

 たが、やがて上昇し以前よりも高値を付けた。頭の固い古参を排除し新たに才能のある若手を

 迎え入れたそうだ。

 

「何だよそれすげえ見てえ」

「当時はスマホを持ち歩けなかったので動画の類は残ってません」

 戦時中は情報漏洩を恐れ艦娘がそういった端末を所持することは許されなかった、なのであの

 見事なオタ芸は各艦の思い出の中だけにある。

 木曽は悔しがった。その様子を見て小暮提督が黒い笑みを浮かべる。

「大和にまたアイドルソングを歌ってもらえばあの爺さんはやってくれると思うぞ」

「マジか!次の音楽祭はそれにしようぜ」

 木曽は次回呉鎮守府の音楽祭を心待ちにした。何なら手伝ってもいい。

 

 

 

「そろそろ本題に入ったらどうデスか?」

 いつの間にかラキシスと楊貴が入ってきてそう言った。小暮は赤面する。

「と、とにかくヤマネコ島事件の概要を説明する」

 

 ヤマネコ島事件概要

 西暦2013年9月

 深海棲艦の存在が公に認められ同時に艦娘の存在もまた公開される。

 艦娘を保有していない国が艦娘の譲渡あるいは共有を持ちかけるも日本国はこれを拒否。

 

 西暦2015年5月

 所属不明の武装勢力がヤマネコ島に上陸、島民を人質に艦娘の身柄を要求。

 この時点で島民に多数の死傷者が出ている。

 同勢力と思われる武装船団が帰投中の艦隊に攻撃を加える。

 

 武装船団が人質を盾に艦娘に無抵抗で投降するよう要求。

 海上自衛隊と友軍艦隊到着。島民の救出作戦開始。

「俺が参加したのはここだな」

 木曽が当時を振り返る。混沌として解決の糸口が見えない状況であったが、ある事が起こり一

 気に解決へと動いた。

 

 ヤマネコ島に魔法使いナイン出現。島内の武装勢力を火の魔法で一掃。

 武装船に乗り込み人質を救出。空を飛んでいたという証言在り。

 

 武装勢力の協力国が核ミサイルを発射

 深海棲艦の空母ヲ級が爆発のエネルギーを吸収、

 協力国首都の上空で突如核爆発が発生し首都壊滅、爆発現象を転移させたものと推測

 

 ナインが巨大ロボットを召喚、深海棲艦を瀕死に追い込みとどめは艦娘に投げる。

 未確認の新型深海棲艦と戦闘中、強い光に包まれて両者行方不明。

 

「何なんだこれは!訳が分からん!」

 小暮は頭を抱える。内容を知っていてもこの報告書を読むと毎回このセリフが出る。

 魔法使いに巨大ロボット、謎の深海棲艦と出来の悪い二次創作小説でも読んでいる気分だ。

 混乱する提督の横で陽炎のペットの楊貴がもみじ饅頭を食べていた。

 

 木曽は犠牲者の数を読み上げる。

「島民の犠牲者は人口の約半数、武装勢力はまるで狩りでもするかのように殺害していた様だ」

 武装勢力は既に壊滅しているが改めて彼らに怒りが湧く。

 

「ん?避難途中の船内で一名亡くなっているな、小さい女の子じゃないか」

 小暮が帰還船内で亡くなった犠牲者がいたことに気づく。

「ああ、その子は憶えているよ、ここまで歩いてこれたのが信じられないくらいの重傷でな、救

 命処置の甲斐なく亡くなったよ。妹が取り縋って泣いていたのが居たたまれなかった」

「そうか、えーとその子の名は○○○○ちゃんか、、」

 

 その時不知火がその目を目いっぱい見開いた。そして叫ぶ。

「そんな事は在り得ません‼!」

「何だ!何事だ!」

「その名前は陽炎の本名です‼」

「な‼」

 

「つまりあれか?我々は陽炎と妹さんを取り違えていたという事か?」

 戦時中の混乱で戸籍が間違っている、ということが最も高い可能性として考えられる。

「それも在り得ないんです」

「何故だ説明したまえ」

 

「陽炎の実の妹はこの事件後深海棲艦の攻撃によって亡くなっているんです」

「何故断言できるのだ」

「黒炎駆逐棲姫です。妹も艦娘適正をもっていて彼女は死後鬼姫級のコアにされたんです」

 

 深海棲艦のコア部分には人間の魂が使われている。さらに深海棲艦の幹部たる鬼姫級の建造に

 は特別なコアを必要とする。即ち轟沈した艦娘か艦娘適正をもった女性の魂である。

 しばしば深海棲艦が地上を攻撃するがこの目的はその特別な人間の魂を採取するためという説

 がある。陽炎の妹はこの攻撃で命を落としたらしい。

 

 小暮提督と木曽が凍り付く。

 黒炎駆逐棲姫、その名を聞いて恐怖しない提督も艦娘もいない。それほどの化け物であった。

 艦霊とのシンクロ率を限界突破し艦娘完全体となった陽炎を足止めする、その為だけに建造さ

 れた。それは最大のパワーを発揮するため一切の制御を放棄した暴走兵器であった。

 

 陽炎に異常に執着する性格を持っていたがそれはコアにされた実の妹の本能でった。

 陽炎以外の艦娘に遭遇する無視するか戦闘になるかは分からない。

 しかし戦闘を始めるとその圧倒的パワーをもって戦艦娘だろうがなんだろうが粉砕し大破撤退

 させた。あの大和型戦艦でさえ何度も何度も大破させられて、鎮守府は修理の為膨大な資源を

 浪費させられた。

 

 そしてその牙は味方である深海棲艦にも向けられた。一切の命令を聞かず、不用意に命令しよ

 うものなら相手が海域ボスであろうと破壊した。

 その後黒炎駆逐棲姫の存在が確認されると陽炎はそいつの押さえに専念することとなった。

 

 最終決戦の一つ前の戦いでは黒炎駆逐棲姫の東京湾内侵入を許し、お台場の目前で陽炎がよう

 やく撃沈した。

 

「だから陽炎もその妹もヤマネコ島事件では死んでいるはずがないんです」

 室内は沈黙に包まれる。

「ではこれは一体何だというのだ」

 小暮は絞り出すように唸る。

 

 

 

「すまぬのう、あの時はまだ体が馴染んでなくて一時的に仮死状態になってもうたのじゃ」

 室内に聞いたことのない女性の声が響く。声の出どころを探すとそれは楊貴であった。

「喋った!?」

 

 楊貴の体が発光する、そして爆発し執務室は炎に包まれた。

 しかし提督や艦娘達には火傷一つない。それどころか書類なども燃えていない。

 幻影だったのかと思ったら部屋の隅で黒い害虫が燃えて死んでいた。害虫についた火は別の物

 に燃え移ることもない。対象識別型の範囲攻撃である。

 

 そして楊貴は小柄な美少女に変身した。

「そこのお前、魔法使いナインの容姿を読み上げろ」

 威厳あふれる美少女が提督に命令する。

 

「ああ、身長は140半ば、上等なシルクの、袖が半透明のチャイナ服を着て足にはナイロンの

 ストッキング、切れ長の目、一回転した根元を束ねないツインテールをしている」

 目の前にいるのはまさにその通りの少女だった。

「貴方はまさか」

「その通りわらわこそ噂のナ・イ・ンじゃ。超帝国ユニオが総帝である。炎の女皇帝と呼べ」

 

「ひとつ訂正するとわらわは魔法使いではない、魔法使いを創った者じゃ」

 そう彼女こそエンハンスドヒューマンである騎士(ウォーキャスター)と魔導士(バイター)

 を創造した者である。執務室にいた全員は驚愕に言葉もなかった。

 

 というわけではなかった。

 、、、、、

 

 

「あまり驚いてないな」

 ナインは少しだけ不満そうに言った。

「まあね楊貴は頭良かったしいつか喋るんじゃないかなあと思ってた」

 呉鎮守府の皆はいつか楊貴が喋るのではないかと何となく予想していた。

「むう」

 隣でラキシスがにやにやしていた。

 

 ナインは少し引っ張りすぎたか、と後悔しながらも話を続けた。

「あの時陽炎は武装勢力に撃たれ瀕死の重傷を負っていた」

 その言葉を聞いて不知火が殺気を迸らせるがナインは平然と気にしている。

 

 ラキシスが以前から疑問に思っていたことを訊いた。

「では命の水を使って彼女を甦生したのですか?」

「違う。陽炎は自分以外、施設の皆の甦生を望んだ」

 陽炎は同じく殺された保護施設の友達や先生を助ける事を望んだのだった。

 自分よりも他者を優先する彼女の性格はこのころからすでにあった。

 

「でも命の水はあと一人分しかなかったのでしょう?」

「ああ施設の全員分などあるはずがない」

「ではどうしたのですか?」

 

「陽炎は自分より皆を生き返らせてくれと言って聞かんかった。そうこうするうちに出血で意識

 が朦朧として来てな、会話も難しくなってきた。何としても彼女を死なせたくなかったから何

 でもいいから願いを言えと言ったのじゃ」

 

 陽炎は命の水による復活を拒否した。そして命の水は自ら生きようとする意志の無い者を生き

 返らせる事は無い。ならば陽炎は一体どのようにして甦生したのか。

 

「周りの大人は常々今の世が悪いと言っておった。だから陽炎はそれを変えたいといった」

 

「彼女は救世を、そしてそれを実行する力を望んだ」

 

「彼女の血と命の水を生贄に血の召喚(マジェスティック・スタンド)を起こしわらわはこの宇

 宙にやってきたのだ」

 

「陽炎の命を生贄にしたですって!!」

 不知火がこれまでの人生で最大の怒りを表した。

 今にもナインに飛掛ろうという不知火の肩を神通が押さえる。

「やめなさい不知火さん、貴女ではこの方には一触れも出来ません」

「でも!」

 

「この場でナインさんに勝てるとしたらラキシスさんだけです」

 一同が顔を向けるとラキシスは平然と茶を飲んでいた。

「瀬戸内一帯が焦土と化してもいいなら手伝いマスヨ」

 さらっととんでもないことを言うが、もしナインとラキシスが戦えばそうなるだろう。

「とにかく話を最後まで聞きなさい」

 神通の説得に不知火は大人しくなった。

 

「その時までわらわはセントリーパルサーの意識の片隅に居たに過ぎん。本体は超帝国旗艦シン

 グの中におった。それがあの時地球にやって来たのじゃ」

 魔導大戦ではパルサーの命の水を依り代に復活した関係でナインとパルサーは縁が深い。

 事件前まではパルサーを通して陽炎と接していたが、血の召喚により彼女の本体はこの宇宙に

 転移した。

 

「これが我が真の姿じゃ」

 そう言うとナインの体が強く光り、紅色のクリスタルが現れた。

 ナインは人間の遺伝情報、記憶その他の全ての情報をケイ素結晶体に保存している。もしも肉

 体が滅びても保存した情報から新たな肉体を再構築することが出来る。彼女は完全なる不老不

 死を実現したのである。

「最も今目の前にあるのは立体映像で本物ではない。本物は陽炎と共にある」

 

「先ほどわらわは魔導士を創ったといったな、その他にも騎士やバスター砲も創ったのはわらわ

 よ。だがそれらはもう創れぬ」

「それはどういうことですか」

 

「わらわはそれらの記憶を消去し空いた領域に死にかけた陽炎の生体情報を保存した。それでも

 足らず我が情報の一部に陽炎の情報を上書きするしかなかった」

 本来の目的とは異なる使い方をしたせいで今後もし陽炎が死亡したとしても、復活することは

 出来ない可能性が高い。

 

「今や我は陽炎と一心同体、彼女と共に生き彼女と共に死するさだめよ」

 かつて全人類の支配者であった女皇帝がたった一人の少女を助けるため、一度手にした永遠の

 命を放棄したのだ。

 ナインは恰も英雄譚を高らかに謳い上げる吟遊詩人の様だった。

 その詩は彼女が気高き精神を持つ英雄と信じる陽炎のサーガである。

 

 不知火は立ち上がり頭を下げた。

「先ほどは失礼しました。そして陽炎を助けてくださってありがとう御座います」

 何事にもきっちりして置かなければ気が済まないのが彼女の性格だ。

「気にするな。わらわもそうしたいと思ってしたことだからの」

 

「でも!」

 不知火は拳を握り怒りに震えた。ラキシスとナインは身構える。

「陽炎と一心同体だなんて羨ましい‼」

 不知火は新品のソファーの牛革をむしり取って悔しがった。提督が心で泣いた。

「そっちの方デスカ」

 ラキシスとナインは呆れた。

 

 なぜ陽炎をそこまでして助けたのかと思ったのかと聞くと、ナインはこう答えた。

「目が離せないのじゃよ。彼女は止めなければ何処までも頑張り続けるからの。それにな」

 

「彼女が死の淵に立たされている瞬間、わらわのスコーパー(遠隔視、念話などの能力)が彼女

 の未来を捉えたのじゃ」

 スコーパーを極めた者は未来さえ予言することが可能である。

 

「陽炎がいなければ人類は深海棲艦に滅ぼされていたぞ」

 この場にいた地球人はその言葉を疑っていなかった。

 陽炎はその戦果のみならず、彼女に励まされ新たな一歩を踏み出した人々が数多く居る。

 陽炎がいなかったらそれらの人々はいつまでも停滞したままだったかもしれない。

 彼女こそ人類にとっての勝利の女神だった。

 

「それだけではないぞ、これはラキシスにも関係するのじゃが」

 

「フォーチュンが滅ぼされる、かもしれん」

 

「フォーチュンとは?」

 小暮が元地球人を代表して質問する。

「私たちファティマが帰る場所、希望の星です」

 良く解らないがとにかく大事な場所だという事は分かった。

 

「やはりそうでしたか」

 ラキシスもまたその可能性を危惧していた。今はまだ確定した未来ではないが、フォーチュン

 に魔の手が迫ってきている予感があった。

「最悪の未来を回避する鍵が陽炎なのですね」

 ナインは頷いた。

「さすが陽炎」

 不知火は得意げに胸を張った。そのとき

 

「!?」

 不知火とナインが一斉に窓の外、南の方角を向く。

「陽炎が危ない!」×2

 二人は同時に叫ぶ。

「わらわは陽炎と一心同体じゃから判るがなんでお主が分かるのじゃ?」

 ナインはいぶかしむ。

「愛ゆえに」

 不知火は確信を込めてそう言う。周囲はドン引きだ。

 

「マグナパレス!応答しなさい、何が起こっているの?」

 ラキシスは陽炎の艤装の中に潜んでいるGTMマグナパレスに通信を入れる。

 そして陽炎が現在戦っている相手の情報が送られてきた。

「うそ、何でこの男がいるの?」

 ラキシスでさえ全く予想もしていなかった男がそこに居た。

「ボスヤスフォート、、、デコース・ワイズメルにビューティー・ペールまで、、、」

 

 この上なく危険な相手だった。

「ナイン!現場にテレポートできますか?」

「無理じゃ、現場はこの世界の神の強い加護を持つ土地にある。スコーパーの力が乱されるぞ」

 テレポートで直接戦場に乗り付けるのは今回は無理であった。

 不知火が手を挙げる。

「私も行きます、デトネイターなら一つ飛びでしょう」

 それが一番早く着くかもしれない。

「では行きましょう!」

 

 席を立つ三人にスパルタが声を掛けた。

「あの、くれぐれもお気を付けください。あとパルテノさんをよろしくお願いします」

 実はスパルタもパルテノも最初の主をボスヤスフォートに殺されているのだ。

 特にパルテノの悲しみは大きかった。仇を前に暴走するかもしれない。

「ええ、気を付けて行ってくるわ」

 三人は執務室を飛び出す。

 鎮守府の敷地に緑色の巨大な異形のロボットが出現し、轟音と猛烈な風を立てて天高く飛翔

 ていった。

 

 本作における艦娘の予備艤装の設定について説明します。

 

 建造をすると既に存在する艦娘の艤装が複数出来る事があります。

 艦霊は一つです。同じ名前の艦娘が複数同時に存在することはありません。

 千歳と千代田は水上機母艦のままの艤装と空母に改造した艤装の二つを所持しており、任務

 によって使い分けます。その際艦霊を移し替えます。レベルは艤装依存です。

 

 艦娘の艤装を護衛艦に改造する方法

 艦娘が予備の艤装をつけた状態でドック(通常の艦船建造用)に行きます。

 輸送モードに移行し艦艇を顕現します。

 艦霊と艤装のリンクを切り、艦艇から離れます。艦娘はこの後燃料と鋼材を補給します。

 残った艦艇を改造します。艤装は元には戻りません。

 

 妄想にお付き合いいただき有難うございます。

 

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