新世界の海に陽炎、抜錨します!   作:yutarou

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 パルスエットが永遠の眠りに就きました。果たして彼女の幸せだったのでしょうか?
 私は現時点ではノーだと思います。
 その人の一生が幸せだったと言えるのは、残された人達のその後の振る舞いに係っている、と
 言えるのではないのでしょうか。
 ヨーンしっかりしろ!俺はお前の事別に好きでも何でもないけど、お前が立ち上がらないと、
 彼女が悲しむんだよぉ!

前回のあらすじ
 ボスヤスフォートとの戦いで再起不能の傷を負ったサウスダコタとワシントン。
 二人の様子に涙した霧島は決意を新たにするのであった。
 彼女の下に百戦錬磨の超級ファティマ、インタシティが仲間となる。


第二十話 肝練りの宴 カレーの支度

 呉鎮守府の食堂に霧島組とそのパートナーとなったファティマが集まり、出撃前の腹ごしらえ

 をしていた。メニューはカレーである。

 食事の前に榛名は電探を最大出力にして周囲を探り、霧島は人が隠れそうな所を虱潰しに捜索

 していた。そして今日の食事当番は誰かを念入りに何度も確認する。

 

 新入り達が何をしているのか尋ねると、ある二隻の艦娘がいないかどうか探しているらしい。

 その内の一隻は彼女らの姉であるとのこと。

 どうしてそこまで執拗に探すのか、どうやら酷いトラウマがあるらしい。

 

 金剛型戦艦二番艦、比叡とその相棒の陽炎型駆逐艦、磯風は料理に余計なアレンジを加えて台

 無しにする天災もとい天才だそうだ。

 その不味さは粗食に馴れた軍人ですら逃げ出すほどである。

 その二隻はどうやらは特別任務で現在ここにいないらしい。

 

 いざ実食となっても、まずルーを少量手の甲に乗せ皮膚に異常がないか確認する。

 そしてようやく口に運んだ。

 ゆっくり咀嚼し飲み込んで百を数え、問題がないことが分かってからカレーを食べ始めた。

 

 余りにも慎重すぎるので新入り達が比叡カレーの味がどうだったのか質問する。

 するとこのような回答が返ってきた。

「一度食べてみるといい、飛ぶぜ、悪い意味で」

 

 後日、ライスの方に工夫がされており、金剛三姉妹以下多くの人間が地獄を見た。

 

 

 

 食堂の一角で大きな音が鳴った。

「ハスハが滅んだってどういうことですか!」

 見るとインタシティがスパリチューダの頭をアイアンクローで吊り下げ絶叫していた。

 

「イタタタ!滅んでません!大半の加盟国が離脱して、聖宮ラーンとその周辺の地域しか国土が

 残らなくて、もう二度と大国としての権勢を振るえなくなりましたけど、自治権を有してます

 から滅んでません!って痛いったぁーーーい‼」

 

 ※聖宮ラーンは超帝国の遺跡が残るハスハの古都である。詩女は本来ここで執務を行う。

 

 スパリチューダは釈明するがインタシティの怒りは収まらない。

「それは滅んだと同義じゃないですか!」

 インタシティは手に更なる力を込める。

「スパリチューダ!あなたがついていながら何たる体たらく!私は貴女にハスハの未来を託した

 のに!」

 

 スパリチューダはインタシティが生涯で最後に戦った相手である。

 インタシティの最後の主ワンダン・ハレーは不調になった彼女を心配し、軍を脱走してまで彼

 女を四大ファティマ製作者のモラードに診せようとした。

 

 二人を追ってきたのがスパリチューダの主、ロータス・バルンガ率いる処刑部隊スクリティ隊

 である。ちなみに隊員のゲンジャとベクターのパートナーがエイジアとポーラである。

 

 スパリチューダは星団最強の演算能力を生かして予測演算戦闘を挑むも、膨大な戦闘経験を持

 つインタシティに逆に行動を予測され、逃げられてしまう。

 しかし限界がきたインタシティはそこで気を失った。

 

 その時、戦闘を止めたのがヤーボと剣聖スバースの子孫であるミッション・ルースだった。

 ヤーボが乗ってきた旗騎カイゼリンを見たスクリティ隊は戦闘を停止した。

 

 そしてインタシティは多くの人に見守られながら687年の生涯を閉じたのだった。

 

 

 インタシティはハスハ連合のその後を聞いたのだが、まさか自身が死んだすぐ後に、死に際に

 多くの人を引き合わせてくれた恩人であるヤーボ・ビートが殺害され、その犯人に宣戦布告さ

 れるとは想像していなかった。

 

 そして軍事力序列三位のハスハ連合が解体され小国になり果てるなど悪夢でしかなかった。

 

「一体貴女は何をしてたんですか!」

 インタシティは怒りを込めてスパリチューダを締め上げる。

「バルンガ様が参謀長に出世されて以降、ずっとデスクワークしてました!」

 

 ロータス・バルンガは汚れ仕事をしていたこととその悪人顔から長く誤解されていた。

 しかしヤーボの子マグダルとデプレが懐いたことによりその誤解は解け、高潔な騎士道精神を

 もつ人物であると知られるようになった。

 そして参謀長の地位を得、連合議会議長になった元スバース隊支隊長ギラに代わり全軍を統率

 することになる。

 

「バルンガ様はその顔に似合わず高潔な精神を持つ立派な騎士です。そのくらいの地位にあって

 当然です」

「そうですよ、あの顔で凄くいい人なんですよ」

 スパリチューダは昔の主を褒められてうれしそうだ。

 

「だとしてもGTMに乗れなくてもやれる事は在るでしょうが!」

 インタシティは再び掌に力を込めた。

「戦艦で敵陣に特攻でもしなさいな!」

 パートナーが負傷するなどして出番がないファティマは戦艦など艦艇の制御などをしている。

「ひどい!」

 

 

 その後もインタシティは魔導大戦の状況を知りたがった。

「ギーレルは?あの国は何か企んでませんでしたか?」

 ギーレル・ハスハ王国はミノグシア大陸の覇権を巡ってハスハント王国と最後まで争った国で

 ある。インタシティは剣聖ビザンチンと共にGTMカイゼリンを駆ってこの国と戦った。

 

「会戦当初ジャスタカーク公国に攻められて被害が出ましたが、難民支援の名目でクバルカン法

 国が支援を申し出ました。国境付近の土地を一部失いましたが、国は安定しています」

 ジャスタカーク公国はギーレルと土地の帰属問題を抱えていたカラミティ星の国家である。

 

「それは事前に三ヵ国間で取り決めがあったのではないですか?」

 インタシティは三ヵ国の八百長試合でなかったのかと思った。

「良く解りましたね、正解です」

 

 軍事力序列二位のクバルカン法国は普段は領土的野心を表に出さないが、この戦争では移民先

 を確保する千載一遇の機会であったため、難民支援を名目にギーレルを支援しつつこの地域を

 実質的に属国としてしまった。

 

 魔導大戦後ジャスタカークは一時期領有していた土地を再度獲得した。

 ギーレルは憎きハスハントから独立を果たしたがクバルカンへの借金で首が回らなくなり事実

 上の属国となった。

「あの風見鶏はいつもそうなんです(怒)!」

 

 

「フィルモア帝国は?同盟国として救援に掛け付けてくれたのでしょう?」

 ハスハ連合はかつて序列一位のフィルモア帝国と同盟を結び、各地で陰謀を巡らせていた。

「ナカカラに居座ってしまいました」

 ナカカラ王国はミノグシア大陸中央部にある大国である。

「中央部を取られているじゃないですか!」

 

 ナカカラは元々フィルモア帝国(正確には前身のドナウ帝国)の植民地であったが、ハスハ独

 立の際に放棄した土地である。

 初代詩女と初代皇帝が共に旅をして友情を結んだ舞台となった土地であり、フィルモア帝国に

 対して親近感を持つ国民が多い。

 フィルモア帝国はナカカラを守るという口実の下この地に居座り実効支配した。

 

 これはカラミティ星が居住不可能になった後の移民先を確保する狙いがある。

 国民の多くはその時が来たら武力で土地を奪えば良いと楽観視していたが、時の皇帝ダイ・グ

 ・フィルモアはそれでは現地民の恨みを買いってしまい、後々まで国民はテロに怯えることに

 なると考えた。

 彼は戦争という状況を利用しつつ可能な限りナカカラ国民の同意を得、時間を掛けて帝国民と

 ナカカラの民を同化しようとしたのだった。

 

 

 

「インタシティ様ってそんな性格でしたっけ?」

 先ほどからファティマらしくなく荒ぶる彼女を見て周囲のファティマ達はいぶかしむ。

「マスターに合わせることもファティマの嗜み(たしなみ)です!」

「そうなんですかぁ?!」

 

 そうなのだ。主の趣味に付き合いゴスロリ服を着るのも、要所要所でちょっと勘違いしたモデ

 ルポーズを決めるのも、下着姿でヒッチハイク(星団法違反)をするのも、ファティマの嗜み(たしなみ)

 である。

 

 あまつさえ全身の匂いを嗅いだ後、その匂いが染みついた服しか着ないと言われたなら、自分

 が主の服を一度着てから渡すのがファティマの嗜み(たしなみ)

 

 マスターに合わせどんな望みも叶える、それがファティマにとっての全てなのである。

 

「最初のファティマである私が言うんです。間違いありません!」

「エエエエエ!」

 ファティマの所属もまた軍隊である、だから超体育会系の論理がまかり通っていた。

 

 

「この短時間で霧島の姉御の性格を把握するとは、すげえなインタシティ様」

 摩耶と天龍が賞賛する。すでに彼女を様づけで呼んでいる。

「流石軍歴687年」

 霧島組の艦娘たちは頷いて同意する。

 

「あなた達、それどういう意味ですか?」

 霧島が摩耶と天龍の背後に立つ。

「何でも有りませんって、ぎゃー!」

 霧島は二人の頭を掴み握りしめる。

「あがががが!」

「そういうところっすよぉー!」

 

 

 ようやく解放されたスパリチューダが頭をさすりながら言う。

「とにかく、ミノグシア同盟はその後も続きますから安心してください」

「ミノグシア同盟てなんですか?」

 聞いたことのない国名なので詳細を尋ねる。

「ハスハ連合から離脱した国を除いた連合体の名称です」

「やっぱり滅んでるじゃないですか!」

 インタシティは再びスパリチューダの頭をアイアンクローで締め上げる。

「いやあぁぁぁぁ!」

 インタシティの叫びとスパリチューダの悲鳴が食堂にこだまする。

 

 

「そんな、そんな事ってないですわー!」

 インタシティは悲しみの余りその場にうずくまって泣き出してしまった。

 

 

 その時彼女の視界が暗くなり目の前に三人の男が現れた。

 

「ハルぺル、いやインタシティ、泣いていては駄目だ」

 一人は赤毛のおかっぱ頭の若い男、AP騎士ワンダン・ハレー。

 

「その通り、永遠に続く国家はなくハスハの歴史もまたしかり、しかしお前はまだ使える主がお

 り、守るべき国と民がいる」

 もう一人はヒゲが立派な和装の老人、二代剣聖デューク・ビザンチン。

 

「、、、、、」

 無言を貫く神経質そうな男は初代剣聖ナッカンドラ・スバース。

 彼が送った過酷な人生を象徴するかのように、前髪前線の後退した額が目立つ。

 

「爺ちゃんなんか言えよ」

 ビザンチンが祖父であるスバースに一言を促す。

 

「この額はハイブレンコントロールの術式の跡で、決して若くして禿げたのではない」

 スバースが誰かに向かって言い訳する。

「爺ちゃん、そういうことじゃなくってよう」

 ビザンチンが口下手な祖父の扱いに苦慮する。

 

「おい後輩、なんとかしろ」

「ひい!私なんかが剣聖様に恐れ多い!」

 大隊長どまりだったハレーは歴史に名を残す剣聖二人に委縮する。

 

「カレー美味そうだな」

 唐突にスバースが前後に関係のないことを呟く。

 

「、、、そうだな飯食って元気出せインタシティ」

「そうですね!カレーを食べましょう!」

 ビザンチンとハレーは何かを諦めたようにそれに乗る。

 

「爺ちゃんのせいでグダグダじゃないか!」

「いきなりトリを任せるなよ。咄嗟にいいセリフなんて思いつかん」

 実は泣いている女性に対して何を言っていいのか分からなかったのだ。

「すみません、フォロー出来なくて」

 ハレーは先輩二人に謝った。

「気にすんな仕方ない」

 

 そして三人の男の幻影は消えていった。

 

「ふふ、あの人たちは何しに来たんでしょうか」

 インタシティは少しだけ元気が出た気がした。

 

 

「ニッポンを〇ンドに、しーてしまうっぽい!」

 夕立がカレー発祥の国を賛美する歌を歌いながらカレーをおかわりした。

「もう夕立ちゃんたら、不謹慎ですよ」

 

「いいじゃねえか、でも昔の人が聞いたらどう思うのかな」

「あの陸軍参謀とか大騒ぎするんじゃね」

「笑い事じゃねえって、あとあの野郎の事は思い出させんな」

 艦娘達は受け継いだ過去の記憶を思い出しながら談笑していた。

 

 

「我、豁然大悟(かつぜんたいご)せり」

 床に突っ伏していたインタシティが起き上がる。そして何かを決心した。

「日本を、ハスハに、しーてしまえー」

 後にこの日本国転覆の企みはラキシスとナインの計画と合流し、巨大な一つの陰謀と成るので

 あった。

 

「それはそれとしてボスヤスフォートは許さない」

 また一人復讐の鬼が誕生したのだった。

 

 

 

「そう言えばベラ国はどうなったのですか?あの国は小国で駐留していた戦力も少なかったはず

 です」

 ベラ国はハスハ連合加盟国の一つでミノグシア大陸の北に位置する小国である。

 駐留していたツラック支隊はAP騎士団で最少の24機。(最大のスバース隊は270騎を超える)

 これにベラ国所属のベラ騎士団が加わるが、大軍に攻められたらひとたまりもないだろう。

 そしてこの国はワンダン・ハレーの故郷でもある。

 

「ベラ国についてはご安心ください。我が主の活躍により枢軸国の侵攻を跳ね除けることに成功

 しました」

 そう言ったのは今世では綾波のパートナーになったビューリーである。

 ビューリーのかつての主はツラック支隊の支隊長ナルミ・アイデルマという。

 

 魔導大戦の会戦当初ベラ国は補給が途絶え孤立。

 ツラック隊は稼働する機体が6機まで減少し、その6機もいつ故障するか分からないという状態

 だった。

 軍隊では全滅判定を大きく超える惨状であっても、ここで自分達が撤退したらベラ国は枢軸の

 手に落ちる。

 そうなれば人々の心は連合からますます離れることが分かっていた。

 だからこそ彼女は動くGTMがある限り戦い続けると覚悟を完了したのだった。

 

 絶望的な状況の中でも彼女は冗談を飛ばしながら懸命に戦い続けた。

 諦めない彼女の姿勢が多くの人の共感を呼び覚まし、多くの協力者が現れた。

 その中には謎の天才GTM整備士ソープ(天照帝)、その妻ファナ(ラキシス)などがおり、彼

 らの働きと助言が部隊を立て直した。

 

 インタシティが死んだあと意気消沈して騎士を引退していたハレーもナルミの咤激励を受けて

 騎士に復帰する。新たにパートナーとなったのはビルドであった。

 

 そして四か国の連合軍(GTM279機)が来襲した時も、ツラック隊とベラ騎士団は69騎と圧倒

 的少数ながら臆することなく迎え撃った。

 彼らの姿に心を動かされ各地から続々と援軍が到着し、かつての敵国コーラス王朝さえ味方と

 なる。最終的にミラージュ騎士が参戦しベラ国は勝利したのだった。

 

 そしてコーラスの支援を受けてベラ国は安定を取り戻した。

 

「ハレー様、本当に良かったです」

 インタシティは涙を流して喜んだ。

 

「ミース様も立派です、小学生でありながら一人前のファティマ製作者になるなんて」

 ミース・シルバー・バランシェは天才クローム・バランシェの跡を継いだ女性である。

 

 実はバランシェ家とは何の血のつながりもなく、カイエンに拾われて養子となった。

 後に製作者(ガーランド)の才能があることが分かり、博士の出した数式を解いたことで正式に家督

 を継ぐことになった。

 当時は修行の為モラードの所に弟子入りしておりインタシティの臨終に立ち会った。

 

「あの、母様は大戦時には成人してましたよ」

「え?ミース様が成人?、、え、え?」

 ミースの特性の一つとして初対面時の年齢で印象が固定される事が挙げられる。

 小学生時にあった人物は彼女がいつまで経っても小学生だと思ってしまうのだ。

 

「あとお子様もいます」

 ミースはカイエンを想うが余り研究所に保存してあった彼の精子を使って無断で子供を作って

 しまった。その子が第11代剣聖にして歴代最強と謳われたマキシマム・カイエンである。

 

 ちなみに前述したファティマの匂いが染みついた服しか着ない騎士とは彼の事である。

 一応補足するが、異常行動をしたのは子供時代だけで、大人になってからは清廉潔白な騎士と

 たらしい。

 

「ちょっとなんて言っているのか良く解りません」

 

「インタシティ様~」

 ビューリーは母の呪いとも言える特性を嘆いた。

 

「どうしたのビルド?」

 ビルドは今の主である鳥海の影に隠れた。

「実は、、、」

 ビルドがハレーをマスターと見染めたのはインタシティの死の直後である。

 もっともビルドはインタシティの事を気にして中々そのことを明かせなかった。

(ファティマは既にパートナーがいる騎士は新たな主と認識しないようになっている)

 

「ああ、それは『あの人との褥は温かかったか?』と聞かれる状況ね」

 もし人間であればそう言われるかもしれない。 

 本来ファティマはその様なことは考えないのだが、新たに妖精に転生した彼女らは前世より感

 情を露わにする傾向があるため油断できない。

「なんだか怖いです」

 

 ビルドがインタシティと普通に話せるようになるには少し時間が掛かるかとおもわれたが、ビ

 ルド自身が少々脳筋の素養(筆者私見ですが、彼女は最後は力業で解決する傾向があるように

 思えます。)があったため、思ったより短期間で普通に話せるようになった。

 

 

 

 カレーも食べ終わったころ実験軽巡、夕張とそのファティマ、バスクチュアルがやって来た。

「霧島さん!艤装の改装が完了しました」

 夕張は霧島から対ボスヤスフォート戦用の装備の開発と艤装の改造を依頼されていた。

「ばっちりご注文通りに仕上げてきました!」

 何故たった一日で装備が開発出来たのかというと、実は前々から隠れて造っていた装備を流用

 したからだ。

 

 対ボ戦用特殊兵装一式

 ウエポンバインダー              2

 ワイヤークロー                2

 Sマイン                    4

 電磁バリア発生装置              1

 ウィングスラスター              1

 試作型艦娘行動範囲拡張機構(大型艦用)    1

 

「これであの男に勝てるのね」

「はい、ですが申し訳ございません。時間がなくて特殊兵装は霧島さんの分しか用意できません

 でした」

 つまりボスヤスフォートと戦えるのは霧島だけという事だ。

 

 またデコースとペールと戦う際は新たな兵器はないということでもある。

「分かってるよ、霧島さんのタイマンを邪魔する気はねえさ」

 

「今度こそあのへらへら笑ってる面を渋面に変えてやるよ」

「分裂女も一人残らず退治して見せるぜ」

 霧島組の組員は雪辱戦に向けて闘志を燃やしていた。

 

 

 外に出て艤装のチェックをしているとマサチューセッツがやって来た。

 何故か松葉杖を突き片足を引きずっている。その他にも怪我をしている様だ。

「どこでそんな怪我をしたんですか?」

 榛名が尋ねるとあんたがそれを聞くんじゃないわよと怒られた。

 

「二人からこれを渡してくれって頼まれたわ」

 そう言うとマサチューセッツは何かを投げた。

 手に取るとそれは二つのメリケンサックだった。

 

「これで私たちの代わりにアイツをぶっとばしてくれってさ」

 それは三人が揃いで作った姉妹の証のメリケンサックであった。

 霧島はそれを両手にはめる。二人の力が流れ込んでいく様な感じがした。

「ありがとう」

 

「でも婚約指輪代わりに作るにしては色気がなさすぎよ」

「ちょ、これはそんな物じゃないわよ!」

 マサチューセッツは笑いながら帰って行った。

 

 

 

 

 

 ここは神界の手前、宗教によっては天使或いは天女と呼ばれる神の御使いの領域。

 この場の御使いには羽がないので天女と呼ぶのが正解であろう。

 ブラックスリーとの戦いで傷ついた陽炎は太陽神によってここに連れ去られた。

 彼女は今、丘の上で磔にされている。

 この世界の太陽神と緑の神は陽炎を処刑する道具を借りるため、創造神の元に行っている。

 

 領域の一角にテーブルが用意され、天女の長の前で茶を飲んでいる若い男が居た。

 絶世の美女揃いの天女たちでさえ気遅れしそうな美形でありながら、伸びきったタンクトップ

 と油で汚れたニッカボッカという粗末な服を着ている。

 

 天女の長が若者に礼を言う。

「この度は面倒をお掛けしまして申し訳ございません」

 彼女らの上司が持ち込んだ危険物、陽炎は暴走寸前の状態であった。

 それをこの若者は応急で修理してくれたのだ。

 

「構いません、古い友人を訪ねる途中で懐かしい物を見つけたので見物しに来ただけの事。修理

 はそのついでです。お礼は要りません、面白い物も見れましたしね」

 

 長は遠慮しながら尋ねる

「我々はどうしたらいいのでしょうか」

「逃げたほうがいいと思います」

 若者はきっぱりと言い放った。天女達は恐怖に慄く。

 

「僕でも彼女に殺されると痛いし、復活に時間が掛かると思うから逃げるよ」

 戦ってはくれないのかと尋ねるとこれ以上干渉できないと言われた。

「という訳で君も戻った方がいいよ」

 若者は振り返って陽炎の足元に屈んでいる人物に声を掛けた。

 

 

 

「すうぅぅぅぅーーーーーー」

 その人物は陽炎のスカートの中に頭を突っ込み息を吸い続けている。

 先ほどからずっと息を吐いた様子がない。

 まごう事なき変態である。

 変態は若者に声を掛けられてようやく股の間から頭を抜いた。

「ぷはー、爽やかな高原の息吹を感じるよ♡」

 

 爽やかどころか地獄の底の瘴気を思わせる悍ましい行動をしていた変態は、見た目は十代の女

 の子の姿をしていた。

 黒と白の髪をツインテールにしていて毛先から負の生命エネルギーが狐火の様に灯っている。

 腰からはあらゆる障害を粉砕するであろう第二の腕が生えていた。

 そして右目の端から黒く輝く炎が噴き出している。

 その名を黒炎駆逐棲姫。陽炎の実の妹が深海棲艦化した化け物である。そして変態である。

 

 おそらく弱体化しており万全の状態の百分の一以下の力しかもっていないだろう。

 しかしここにいる天女、戦闘要員を含めた誰もかなわない。

 勝てるとしたら客人である若者であろう。

 しかしこの方は異宇宙の創造神にして光の神、天照大御神である。

 そのような遥か高位の存在の考えを変える事など不可能だ。

 

 

「私が何をしていたのか知りたいのですか?」

 黒炎駆逐棲鬼は最高位の神に対して物怖じせずに話しかける。

「いえ、全く知りたくないです」

「いいでしょう、そこまでいうのならお教えしましょう」

「言ってねえよ、神の話聞けよ」

 怖いもの知らずここに極まれり

「私はお姉ちゃんのかいた汗の匂いで敵の強さを計ることが出来るのです!」

 変態だ!

「言うなつっとろうが。」

 

「それに君は髪留めのリボンの中に居たろう。だったら戦闘が見えていたはず」

 陽炎のリボンの片方は妹の形見である。黒炎駆逐棲鬼はちゃっかりその中に潜んでいた。

 つまり汗の匂いを嗅ぐ必要性などなかったという事だ。

 彼女の行為は純粋なる変態行為であることが明らかとなった。

「お姉ちゃんが意識が無くなって動けないなんてめったにないから」

 もう一度言う、こいつはド変態だ。

 

 天女達は先ほどまでスケスケの衣を着ていたが、戦闘用の甲冑に変化させ臨戦態勢をとった。

「天女達よ、恐れるな、たとえ敵わずともこの変態から神域を守るのだ!」

 天女達は戦う覚悟を決める。

 

 

 天女長が叫ぶ。

「お前の目的は何なんだ!」

 

「私の目的はお姉ちゃんの幸せですよ」

 

「何だと?」

 

「お姉ちゃんが人畜無害な男性と結婚し幸せな家庭を作って穏やかに暮らしていくことが私のた

 った一つの願いです」

 意外にもこの変態は姉が男と結婚するのを容認しているらしい。

 

 

「でもお姉ちゃんは深海棲艦の女王を倒してしまった。もしお姉ちゃんが恨みを残して死ぬこと

 があれば新たな深海の女王として黄泉返るでしょう」

 陽炎はかつて深海棲艦の首領個体を討伐した。そして同時に重い宿命を背負っていた。

 

「負の感情にとらわれ暴走しても同じことが起きます。だからこそいつもは私ともう一人でお姉

 ちゃんを抑え込んでいたのですけれど」

 もう一人とはナインのことである。黒炎駆逐棲鬼は溜息をついた。

 

「あの時は私一人でしたから、暴走を防ぐのが精いっぱいだったのですよ」

 あの時ナインは大和型姉妹の喧嘩の仲裁のため呉にいた。

 だから彼女は姉のピンチに手が出せなかった。

 まったくあの世界三大無用の長物どもはろくなことをしない。

 

 

 

 天照大御神は少し考えこんで言った。

「もし陽炎さんが深海棲艦化したら、東方第一幻像駆逐シン姫とでも名づけましょうか」

「長くないですか?」

 天照はかつて親友のクロ-ム博士に、お前に任せるとやたら長くて言いにくい名前ばかり名付

 ける、と言われた事がある。

「むう」

 

 

「お姉ちゃんが男と結婚するのはいいんだ」

「私はストーカーとかテカ尻とは違うんです。一緒にしないでください」

 ストーカーとテカ尻とは不知火と曙の事を指すのだが正直違いが分からない。

 

「お姉ちゃんが結婚して子供を産んで、私はお姉ちゃんの息子に生まれ変わるのが夢です」

 艦娘とは輪廻転生の代行システム(拙作の設定です)なので狙って転生することは可能なのだ。

 そのために黒炎駆逐棲鬼は陽炎に張り付いていた。

 

 

 天女の一人が気づく。

「男の子限定なんだ」

「ええ」

「、、、、、」

「、、何をする気だ」

 

 ニタァー

 

 黒炎駆逐棲鬼は口を耳まで裂いて笑った。

 悍ましい笑顔であった。

「ひぃぃぃ!」

 天女達は恐怖で悲鳴を上げる。

 

「あ、三時からピアノのレッスンがあるんだった。もう行かなくっちゃ」

 天女長は突然そんなことを言い出して出口の方へ駆けて行った。

 余りの恐怖に逃げることを選択した様だ。

 

「あ、私もエレクトーンのレッスンがあったんだ」

「じゃあ私は、ブブセラで」

「それレッスンいる?」

 その他の天女も色々な理由をつけて逃げて行った。

 神の領域には天照大御神と黒炎駆逐棲鬼、そして陽炎の三人?だけが残った。

 

 

「そろそろこの世界の太陽神が帰ってくるぞ」

 天照が神の力を使い服を豪奢な振袖に変化させる。

「勿体無いから小さい子らに持って帰ってやろう」

 そしてテーブルに残っていた茶菓子を紙に包んで持ち帰る。

 

 黒炎駆逐棲鬼も渋々戻ることにした。その前に天照大御神の前に進み出る。

「お姉ちゃんの傷を治してくれて有難う御座います!」

 ぺこり、と頭を下げて元の住処に帰って行った。

 

「お姉ちゃんが絡まなければいい子なのかもしれないな」

 珠に傷が大きすぎて致命傷になっているだけで、根はいい子だったのだろう。

 珠が粉々に砕け散っているのは一旦置いておく。

 

「そこ違う、ええいパンツに指を掛けるな」

 違った、未練がましく股間のにおいを嗅いでからリボンの中に帰って行った。

「は、脇の素晴らしさも堪能しておくんだった!一生の不覚!」

「はよ戻らんかい」

 

 

 




 投稿が遅くなってしまって申し訳御座いません。
 今年の暑さが異常すぎて参っています。
 次の話は決戦前夜のロウリアのお話です、次の次の話でジンハーク決戦をやります。
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