新世界の海に陽炎、抜錨します!   作:yutarou

8 / 25
 どうもお待たせしました。

 仕事で目を酷使したせいで眼精疲労で目が痛くなりました。

 作中の登場人物の呪いでしょか。 

 後、一回目のワクチン接種を受けてきました。



第六話 シャマシュさまが見てる

 ロウリア軍はこちらの警告を無視して攻撃を仕掛けてきた。

 

 ロウリア軍のワイバーンは第一次攻撃隊だけで70騎、

 

 対するクワトイネ軍のワイバーンは24騎。

 

 導力火炎弾の制圧射撃により半数が撃墜、残りは各個撃破され全滅した。

 

 ロウリア軍はその圧倒的物量にもの言わせギム守備隊を正面から圧殺しようとした。

 

 

「くそ!数が多い!」

 

 ギムの町を守護する西部騎士団団長モイジは毒づいた。

 

 ギムの町に押し寄せたロウリア王国軍の数は約3万、対するクワトイネ軍は3千5百のみ、

 

 圧倒的多数の敵に対し既に死ぬ覚悟の出来ているモイジ達は一人でも多くの敵を道連れにして

 

 やろうと奮戦していた。

 

 住民が安全な場所にまで退避する時間を何としても稼がなくてはならなかった。

 

 

 ロウリアの歩兵部隊のど真ん中に金属の筒が投げ込まれた。その物体から白い煙が噴き出す。

 

「げほ!げほ!げほ!げほほほほ!」

 

「ぎゃあ!目に沁みる!」

 

 その筒は日本の警察で使われている手榴弾型催涙ガス発生装置である。

 

 ロウリア兵が悶絶しているところに弓矢が降り注ぎ、部隊は総崩れとなった。

 

「なんだ!煙ぐらいで情けない、我慢して進め!」

 

 ロウリア軍の副将アデムは怒鳴りつけた。しかし部下たちは反論する。

 

「無理です、尋常じゃない目の痛みと咳で戦闘の継続どころではありません」

 

 アデムは部下を殴りつけた。

 

「五月蠅い、口答えするな!」

 

 すると大将のパンドールが諫めた。

 

「まあまあ、アデム君そうカッカせずに落ち着け。ここはワイバーンに支援させよう」

 

 空からワイバーンの火炎弾を打ち下ろし、焼き殺せばすぐに決着がつくだろう。

 

 

「モイジ隊長、敵のワイバーンです!」

 

 守備隊本陣の上空にワイバーンが12騎見えた。

 

「よし!防火布用意、火炎弾に備えよ!そしてスタングレネード発射準備」

 

 

 ロウリア軍のワイバーン12騎を率いる空戦指導教官メイオは任務成功を確信していた。

 

 ワイバーンはこの世界でほぼ唯一であり最強の航空戦力である。

 

 但し彼の母国パーパルディア皇国には改良種がおり、原種に比べ全ての性能で優っている。

 

 とは言っても、原種のワイバーンでも落とすことはそう簡単には出来ない。

 

 ワイバーンの硬い皮膚は普通の弓矢では通らない。大型の弩ならなんとかなるがそんなものは

 

 滅多に当たらない。

 

 先ほどの白い煙は厄介だが、ワイバーンは風の魔法が使えるので、万一使われても吹き飛ばせ

 

 るだろう。

 

「全騎、導力火炎弾発射準備!3,2,1,」

 

 火炎弾の発射カウントダウンをしていると部下から報告がはいった。

 

「隊長、敵陣から何か飛んできます」

 

 見ると白い煙の出る金属の筒と同じような物が勢いよく飛んできた。

 

「私が風魔法を使う、全騎そのまま、導力火炎弾発射!」

 

 11騎のワイバーンが導力火炎弾を発射し、自分は相棒に風を発生させるよう指示した。

 

 しかしその筒は煙ではなく強烈な閃光を発した。

 

 導力火炎弾発射のため急降下の姿勢であった部下たちは、皆バランスを崩し愛騎とともに真

 

 っ逆さまに落ちていった。

 

 

「目が!ああ目がああ!」

 

 水平飛行していたメイオは墜落しなかった。

 

 愛騎を暴れさせず、目が見えなくともバランスをとり、ゆっくりと降下していった。

 

 彼が優れた操竜技術を持っていることが分かる光景だった。

 

 だからこそ生かして帰すわけにはいかない。モイジは部下に指示した。

 

 パン!という音がして、メイオとその愛騎は頭を打ち抜かれて墜落していった。

 

⦅ああ、ごめんよジュリア、君が素敵だと言っていたあの家をプレゼント出来そうにない⦆

 

 メイオは今際の際、皇国に残してきた婚約者のことを思い出していた。

 

 彼女は皇都北区のはずれにある小さいが可愛らしい一戸建てを気に入って、いつかこんな家に

 

 住みたいと言っていた。

 

 しかしエリートである竜騎士でも皇都の一戸建ては中々手が出ない。

 

 だからこそ仕事は一切公にはならないが給金の良い、国家戦略局に出向したのだった。

 

 メイオはこの任務でお金を貯めてあの家を買い、ジュリアにプロポーズするつもりであった。

 

⦅ごめんよジュリア、この任務の報酬に加えてロデニウス人の奴隷を10人ばかり売り払えばあの

 

 家が買えただろうに、、⦆

 

 パーパルディア軍人たちには給金の他にロデニウス人(クワトイネとクイラだけではない)の

 

 奴隷が現物支給されることが国家戦略局から約束されていた。

 

 

 

「何たることだ!何をやっているんだ馬鹿者どもめ!」

 

 アデムは怒り心頭で剣を抜き、周囲の物を壊し始めた。

 

 ワイバーンが放った動力火炎弾はクワトイネの兵を焼き払うことは出来なかった。

 

 敵兵は銀色の不思議な布を引き出し、その下に隠れた。その銀色の布は火炎弾が直撃しても

 

 燃えることがなかった。

 

 ワイバーンをもってしても敵兵を殺せなかったためアデムの血管は切れる寸前の状態だった。

 

 

 モイジ達は日本の消防士が着ている服のことを知ると、その布を取り寄せた。最初はこれで

 

 マントを作ったが、ワイバーンの動力火炎弾は防ぎきれなかった。

 

 実験でマントを着せ、防御姿勢をとった木製人形は味方ワイバーンの動力火炎弾で燃えた。

 

 そこで敵ワイバーンが動力火炎弾を撃ってきたら退避用の穴に潜り、その上を防火布で覆うこ

 

 とで生存を図ることにした。

 

 周囲に燃え残こった火は消火器を使って消した。

 

 ワイバーンの吐く火は粘性があり消えにくいため専用の消火魔法があるのだが、習得難度が高

 

 く、消費魔力も多いという欠点がある。

 

 消火器は魔導師の魔力を温存できるので全軍に配備した方がよい、と上層部に提案してみた。

 

 

 ギム守備兵は敵ワイバーンの攻撃をやり過ごすだけでなく、12騎ものワイバーンを叩き落とす

 

 ことに成功した。

 

「この調子ならいけるか?」

 

 モイジ達の心にに希望の灯がともった。

 

 

 一方ロウリア王国軍副将アデムは冷静さを失っていた。

 

「おのれ、おのれ!こうなったら総攻撃だ!」

 

 ロウリア軍の指揮官の質は総じて低い。数に任せて力押し、これしか知らないのだ。

 

 パーパルディアから指導されているが優秀な指揮官は一朝一夕に育たない。

 

 ロウリア兵が真正面から無謀な突撃をする。

 

 有刺鉄線に絡んだところをコンパウンドボウで射殺される。

 

 塹壕に落ちたところをさらに落ちてきた味方に踏みつぶされる。

 

 クイラ王国産、火のついた燃える石を投げつけられる。

 

 などなど、ロウリア兵たちには様々な死が与えられた。

 

 それでも彼らは前進するしかなかった。後方には後退した兵を殺すための督戦隊が配置されて

 

 いたからだ。さらに副将であるアデムは逃亡兵の家族までも無残に殺すと噂されている。

 

 哀れな兵士たちは何も考えずただ前に進んでいた。

 

 

 ギムの防御陣をなんとか突破したロウリア兵たちは最後と見られる敵陣目掛け、丘を登ってい

 

 た。そして信じられない光景を目にした。

 

 丘の上から大量の水が流れてきたのだった。

 

「なぜだ!ここは丘の上だぞ!なぜこんなに大量の水があるのだ?」

 

 モイジ達は水道用のポンプを無理を言って丘の上に配置して貰いそこから大量の水を流した。

 

「くらえ、テイザーガン!」

 

「ぐあぁぁ!」

 

「電撃の魔道具だと?」

 

 水に濡れたロウリア兵の多くが感電、気絶し戦いは一時的に膠着した。

 

 

 ロウリア王国軍先遣隊に参加している傭兵デコース=ワイズメルは困惑していた。

 

 侵略相手のクワトイネ公国はロウリア王国と同じ文明レベルであると聞いていた。

 

 しかし彼らが使用していた武器は明らかに数百年先のものであった。

 

 何らかの国が支援していることは明白であった。

 

⦅なぜ非殺傷兵器ばかり使う?支援国とクワトイネはどういう関係なんだ?⦆

 

 デコースは考えても分からなかった。

 

⦅どう思う?大将、そして会長⦆

 

 デコースの仲間のペールはその魔導力”スコーパー”でジンハークのボスヤスフォートとギム

 

 のデコースの会話を中継していた。

 

⦅分からん、情報が足りない⦆

 

 

 戦況を見かねたデコースは意見具申のため本陣を訪れたのだが、そこには顔を真っ赤にして今

 

 にもぶち切れそうな副将アデムがいた。

 

 これは良くない、撤退を進言したら即座に斬りかかっくるだろうと確信したデコースは、自分

 

 たちの傭兵団にも出番をくれと頼むことにした。

 

 そして話の分かる幕僚に自分たちが戦っている間に味方の撤退を支援するよう頼んだ。

 

「バッハトマ魔法傭兵団は真正面から突撃せよ。迂回することは許さん」

 

 アデムはデコース達の行動をこの様に制限した。

 

 デコース達が無残に殺される様を見て、戦況が上手くいってない鬱憤を晴らそうという意図

 

 である。

 

 

「デコース隊長、無茶ですって」

 

「そうです、やめてください」

 

 部下達が口々に引き留める。しかし彼は今自分が何とかしないといけない事がわかっていた。

 

「心配するなバギィ、ちょっと行って来るだけだ」

 

「隊長、、」

 

「それよりもベイジ戦を思い出さないか?」

 

「隊長、何度も言いますが私はそんな戦知りません。転生?前世の記憶?私は生粋のナハナート

 

 人のバギー・フーブです。前世の貴方の補佐役じゃありません」

 

「そっくりなんだけどな、見た目も声も性格も」

 

⦅もしかしてからかわれているんじゃないだろうな⦆

 

 デコースの目の前にいる四角い顔の男はベテランの傭兵であり傭兵団の隊長補佐である。

 

 文句を言いつつも仕事はきっちりやるタイプで、デコースは彼を信頼していた。

 

 前世の補佐役とあまりにもそっくりなので彼もまた転生者なのかと思ったら違うという。

 

 ちなみに前世で彼が信頼した他の三人の部下のそっくりさんも傭兵団にいる。

 

「まあいいや、俺が道を開く、後からついてこい」

 

 

 モイジは最終手段を使うかどうか悩んでいた。

 

 最終手段というのは燃える水を精製したもの、日本人がガソリンと呼んでいた油を撒いて火

 

 をつけるというものである。

 

 非常に危険なので本当にどうしようもなくなった時になるまで使わないよう言われている。

 

 突然モイジの後頭部の毛がざわつく。嫌な予感がする。

 

 すると真正面から物凄い速さで近づく影が見えた。

 

 まるで南方大陸に棲むデス・キャットの様な上位の豹型魔物を思わせるな動きだ。

 

「いかん!みんな奴を止めろ!」

 

 弓兵隊が一斉に矢を射かけるも全く当たらない。

 

 ならばと猟銃を構えるが、なんとその影が分身した。

 

「なんだと!奴は魔法剣士なのか1」

 

 もしもこの陣の中に入り込まれたらたった一人でも全滅させられるかもしれない、それほど

 

 危険な相手だ。

 

 残り少なくなってきた催涙弾とスタングレネードをありったけ使うことにした。

 

「行け!」

 

 しかしその影が剣を振るうと先から風の刃が飛び出し、スタングレネードをばらばらにした。

 

 催涙弾は煙が噴出する前に、空中でキャッチして遠くに投げ捨てた。

 

 どちらも人間技とは思えない。ヒト種より身体能力に優れた獣人でさえあんな動きは出来な

 

 い。

 

「全員、抜刀!」

 

 陣地内で銃を使ったら同士討ちになる、最後はやはり剣で勝負をつけるしかない。

 

 モイジは覚悟を決めた。

 

 日本から友好の証としてクワトイネ公国に贈られた日本刀を抜き放ち構えた。

 

「やあ、クワトイネ公国軍の諸君。初めまして僕ちんはバッハトマ魔法傭兵団、剣士頭デコース

 

 =ワイズメル、狂乱の貴公子デコースとは僕のことさ」

 

 黒い鎧を着た金髪おかっぱ頭の男が自己紹介した。

 

 敵陣に切り込んできたにも関わらず呑気に自己紹介をする余裕を見せたこの男に、激怒した部

 

 下が斬りかかる。

 

 その男はゆっくりとした動きで部下の剣を躱した。二人がすれ違うと部下の方が脇腹を切り裂

 

 かれ、地面に倒れこんだ。

 

 辛うじて部下は生きてはいるが戦闘は不可能だろう。

 

「うおお!」

 

 次々と部下たちが斬りかかるが、デコースは流れる様な動きでこれを躱し部下たちを昏倒させ

 

 ていく。いずれも急所は避けて戦闘できなくなるような箇所を斬られている。

 

 手加減されている。そのことが嫌でも理解させられた。

 

「化け物め!」

 

 

「ありゃりゃ、剣が壊れた」

 

 見るとデコースも持っている剣が根元から折れていた。

 

 デコースの剣の振りが余りにも凄すぎて剣が耐えられなかったのだ。

 

「ロウリア製の剣は質が悪すぎるぜ、こりゃあ。その点お前らはいい剣を持っているな」

 

「これは日本国から贈られた剣だ!貴様などにやらん!」

 

「ほう、貴公らを支援しているのは日本国というのか。」

 

 これが最初で最後のチャンスとばかりモイジは斬りかかった。

 

 デコースはゆっくりとした動きでこちらに近づく。

 

⦅こいつ、さっきまであんなに強かったのに、俺より遅い?なぜ?⦆

 

 デコースが折れた剣を振るうとモイジの脇腹が切り裂かれた。

 

⦅なぜだ?よけた筈なのに、、⦆

 

 よく見るとデコースは握った手の小指を立てていた。

 

⦅まさか小指で風の刃を?⦆

 

 モイジは薄れゆく意識で己の剣の師匠の言葉を思い出していた。

 

⦅モイジよ、もしお主が自分より動きが遅く見える敵に出会ったときは注意しろ⦆

 

⦅そいつはお主が絶対に勝てないほど強い敵である可能性がある。努々忘れるな⦆

 

「申し訳ありません師匠」

 

 モイジは最後に声を振り絞って謝罪した。

 

 

「隊長ォ!こうなったら最後の手段だ!あれに火を付けろ!道ずれにしてやる!」

 

 守備隊の副隊長がガソリンの缶を開けて火を付けようとした。

 

 副隊長は一瞬視界が黒くなったことを感じるた。そして気が付くとガソリン缶はボロボロに朽

 

 ちていた。

 

「助かったぜ大将」

 

 デコースがさっきまでいなかった男女二人に話しかける。その二人も黒い装いであった。

 

「間に合ったようだな」

 

 ボスヤスフォートはギムまでテレポートし、ガソリンを絶対零度で凍らせ崩壊させたのだった。

 

「勝ちましたね」

 

 西部騎士団は奮戦むなしく敗北し、バッハトマ傭兵団によって拘束、捕虜となった。

 

 

 デコースは困惑していた。彼はまず敵の本陣にあった通信機を探し出してきて調べた。

 

 ボスヤスフォートとペールはここにいるとまずいのでジンハークに戻った。

 

 前世のジョーカー星団で使われていた物ほどではないにしても、明らかにこの世界の標準より

 

 進んだ技術で造られた代物であった。

 

 もしかしたら衛星通信が可能かもしれない。

 

 つまりクワトイネ公国の支援国は人工衛星を打ち上げられるだけの科学力を持つ可能性が高

 

 い、ということになる。

 

 これは不味い、いくら我々三人がいても剣や弓、騎馬が主力のロウリア王国ではこのレベルの

 

 近代国家にはどう足掻いても勝てはしない。

 

 

「おい!何してる!」

 

 甲高い声で怒鳴りながら副将のアデムがやってきた。

 

「敵の通信機、あー魔信機の様なものです。それを調べてました」

 

「ふん、そんなもの調べて何になる」

 

 敵の通信手段は最優先で調べるべきものであるが、アデムにはそんなこと理解出来なかった。

 

「使えるのか?」

 

「一応できると思います」

 

 不思議なことに通信機で使われている文字はデルタベルン様式の文字に酷似していた。

 

 これならば使用できるだろう。

 

「ヒッヒッヒッ、そうか、ならばいいことを思いついたぞ」

 

 

 

 捕虜になったギム守備隊が目にしたのはロウリア軍に拘束された自分たちの家族だった。

 

 民間人が逃げる時間は稼げたと思っていた彼らにとってそれは信じがたい光景だった。

 

「どうして家族が逃げられていないか不思議か?教えてやろう。実は数日前から魔獣を使って

 

 ギム後方までトンネルを掘り、騎兵を100騎ほど送りこんだのだよ」

 

 騎兵に遮断されギムの民間人は退避出来なかったのだ。

 

「そ、そんな」

 

 モイジ達は絶望した。

 

 一方でデコースは怒っていた。

 

「おい!そんなことが出来たのなら、味方の死者を減らせただろう!」

 

 アデムはきょとんとした顔をしている。彼は本当に分からないという様子で答えた。

 

「はぁ?死者を減らす?なんだそれは、そんなことをして何になる」

 

 デコースが絶句する。

 

「戦争が起これば兵士が死ぬのは当たり前だろう」

 

 デコースはこのままロウリア王国に協力してもいいのか、疑問に思い出していた。

 

「お前、生意気だぞ。これから始まるお楽しみにはお前らは参加するな」

 

「最初からお断りだ、こっちには女子もいるのでな」

 

 四人のそっくりさんのひとりグィーラ=ハイドンは女性だった。

 

 

 ー日本海軍マイハーク出張所ー

 

 秘書艦の陽炎が困惑した顔で提督に報告してきた。

 

「提督、ギムの西部騎士団からお電話が入っているのですが、その」

 

「ギムと言えばロウリアとの国境で緊張が高まっている所だなどうした?何か変なことでも」

 

「いえ、ロウリアのアデムという方からお電話が入っています」

 

「何!」

 

 提督は急いで電話を取った。

 

「遅い!蛮族の分際でこの私を待たせるとは何事だ!人質を殺す!」

 

 電話口から甲高い男の怒声が響いたかと思うと、人間の断末魔の悲鳴が聞こえた。

 

 電話の先でただならぬことが起きていることが分かった。

 

 

「お前は誰だ、何故ここの番号を知っている?」

 

 提督は緊張して電話の相手に話しかけた。が、

 

「お前とは何だ!蛮族が!おい!もう一人殺せ!」

 

 もう一度人が殺される悲鳴が聞こえた。

 

 提督は唾を飲み込み慎重に言葉を選んで話しかけることにした。

 

「失礼しました。貴方様はどなたですか」

 

「さっき女に名乗ったろう、蛮族は頭が悪いな。ロウリア王国先遣隊副将のアデム様だ」

 

「アデム様、いったい何のご用件でしょうか」

 

「なに、先ほどギムを落としたのでな。貴様らの魔信機を見つけたので警告してやろうと思った

 

 のだよ」

 

 ギムが既に陥落していることに驚き、提督はモイジ達の安否を心配していた。

 

「警告ですか」

 

「そうだ、私は心が広いからな。日本国よ、クワトイネと断交しろ、そしてロウリアに服従する

 

 のだ」

 

 ギムを落としたアデムは調子に乗って本来権限のない外交交渉を勝手に行ったのだ。

 

「いう通りにすれば捕虜やギムの民間人を開放してくれるのですか?」

 

 提督が確認すると返ってきたのは嘲笑だった。

 

「馬鹿か貴様、捕虜も民間人もこれから皆殺しだ」

 

 提督は絶句した。想定した最悪中の最悪の事態である。

 

「アデム様、何とかお慈悲をいただけないでしょうか。捕虜に人道的な扱いをお願いします」

 

 提督は感情を押し殺し低姿勢で通話先の狂人と交渉する。

 

「ならば先ほどの女を殺せ、なら考えることだけはしてやる」

 

「そんなことは出来ません」

 

「ならこちらの人質を殺す」

 

 三人目の捕虜が殺される悲鳴が聞こえた。

 

 この相手はただ面白がって、我々を怖がらせるためにこの電話を掛けたのだと解った。

 

 最初から交渉もクソもなかったのだ。

 

 

「日本国よいいか、服従の条件はまず奴隷を毎年」

 

「もういい」

 

 アデムが日本に突きつける条件を述べている途中で提督が割り込む。

 

「あぁ?」

 

「もういいと言っている。そもそも武官である貴様に外交交渉をする権限などない。こん

 

 な所で会話する意味はない」

 

「なんだと!」

 

「そもそも貴様何がしたかったのだ?ただ我々を脅しつけたかっただけか?貴様それでも軍人か

 

 ?それともロウリア軍は貴様程度が標準なのか?」

 

 先ほどまで従順だった相手の豹変ぶりにアデムは顔を真っ赤にした。

 

「生意気な、おい!人質をもっと殺せ!」

 

 提督はもう動揺しなかった。覚悟を決めたのだ。

 

「どうせ殺すのだろう。馬鹿の一つ覚えのように同じことを繰り返しやがってど阿呆が」

 

「こ、この蛮族が」

 

 

「アデムとやら一つ我が国の諺を教えてやる」

 

「な、なんだ」

 

 相手の迫力が増したことを察知してアデムが鼻白む。

 

「我が国にはな、お天道様が見ている、と言う諺がある」

 

「それがどうした」

 

「貴様らの悪行はお天道様、こちらで言う太陽神様が見ていらっしゃる、ということだ!」

 

「今日、貴様らが行った悪行には必ず天罰が下る!」

 

「太陽神様がお出になるまでもない、貴様らは我々が報いを受けさせる!覚えておけ!」

 

 提督の叫びを聞いたモイジ達西部騎士団の目に、光が戻ったことに気づくロウリア兵はい

 

 なかった。

 

 

「モイジ殿生きているか?!聞こえるか?!」

 

 提督は自分たちの会話が周囲に聞こえているとみて、モイジが生きていることを願い、彼に呼

 

 びかけた。

 

「一ノ瀬提督!聞こえるぞ!」

 

 モイジは縛られてロウリア本陣に転がされていた。

 

「モイジ殿済まない。法で規制されているため、あなた達に限られた武器しか渡せなかった。

 

 もし正規の武器があればロウリアを撃退できたかもしれない」

 

 提督は周りのロウリア兵にも聞こえるように話す。

 

「気にするな、今回は時間がなかった。貴官のせいでも日本国のせいでもない」

 

「それに貴官が渡してくれた非殺傷兵器でも多くのロウリア兵を道連れに出来た!これは今まで

 

 の我々には出来なかったことだ感謝する」

 

 モイジは晴れ晴れとした顔で提督に礼を言った。

 

「非殺傷兵器とは暴徒を殺さず無力化するための物なのだがな」

 

 提督は苦笑しながら訂正する。

 

「はっはっは、日本国にすればロウリア軍などただの暴徒と同じだろう」

 

 自国の軍隊を嘲笑する二人に怒り、ロウリア兵がモイジを殴る。がしかしモイジは全く気にせ

 

 ず話続ける。

 

「一ノ瀬提督、ありがとう」

 

 提督もまるで普段の挨拶のように話しかける。

 

「モイジ殿も健勝で、また会いましょう」

 

「ああ、今度は酒でも飲みましょう」

 

「お元気で」

 

「提督もお元気で」

 

 

 

「ええい!私を無視して何を話している!殺せ!まずこいつの妻子を目の前で散々嬲ってから

 

 殺せえええ!」

 

 モイジの妻と娘は彼らが話している最中に舌を噛んで死んでいた。

 

 また、他の西部騎士団の家族の全員が何らかの方法で自ら命を絶っていた。

 

 アデムの企みは見事に外されてしまった。

 

 その後モイジ達西部騎士団の生き残りは壮絶な拷問を受ける。

 

 しかし彼らはうめき声一つ上げず、笑いながら死んでいった。

 

 その様子を見て、拷問をしていたはずのロウリア兵が逆に恐怖し、発狂する者さえいた。

 

 

 

「何が太陽神が見ているだ!それが何だ!太陽神の使者でも出てくるとでもいうのか!」

 

「我らは最強のロウリア軍だ!太陽神の使者など返り討ちにしてくれるわ!」  

 

 

 

 日本海軍マイハーク出張所の提督執務室では一ノ瀬提督が佇んでいた。

 

 彼の手は強く握り過ぎたため、血が滴り落ちていた。

 

「モイジ殿、貴方の仇は私が必ず討つ」

 

 一ノ瀬提督はその望みを叶えるため、解決すべき問題をどうやって解くのか、知恵を巡らせて

 

 いた。

 

 




 もしギム守備隊に異世界技術流出防止法に抵触しない限りの武器、その他民生品を与えたら、

 ギムの悲劇は回避出来るのか?と妄想したことが私が二次創作を書こうと思ったきっかけの

 一つです。

 今回はデコース=ワイズメルという異物によってひっかき回されてしまったかもしれません。

 ただ彼がいなくても非殺傷兵器などでは3万もの大軍は押し止めらかったのではないかと思いま

 す。戦争の歴史に詳しい人ならもっと違う展開をして、私などより面白い話を書けたのだろうと

 思います。

 ただ私には今回のこれが精一杯です。

 もしモイジ殿が生き残る展開を考えても私にはその後の彼の話を考えることが出来ません。

 ですのでモイジ殿には原作通りに亡くなって頂きました。

 亡くなる前に少しだけロウリア軍の肝を冷やすことが出来た。

 それは何の慰めにならないのかもしれません。

 ですがこれが私が猛将モイジに贈れる精一杯の贈り物なのです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。