…仮面ライダー、誰しもが一度は憧れた存在、誰しもが変身したいと思った存在…
私もそうだった、小さな頃から仮面ライダーが好きだった、ベルトを付けて変身している画面の向こうの英雄たちに憧れた。
いつしかそのことを忘れ、仕事に追われるようになった。
そして、数十年経ち、自らの命があと少しだと悟った私は、
また仮面ライダーのようになりたい…と強く思うようになった。
そこは、何もない空間だった、呆気もなく時間は過ぎ去り、
私は命を落とした。
そこへ、声が聞こえた、男とも女とも取れない、どこか機械的な声。
くだらないことを思い出した、中高生の頃に流行っていた転生物、
とやらにそっくりだ、と思った。
声は言う、「お前はその一生を終えた、次は何をしたい?」と
私は答える、「人を救えるような、ヒーローになれるような人生が
送りたい」と、
そしてこう加えて言った
「仮面ライダーのような、みんなを助けられる、強い存在になりたい」
と、
声は問う、「…英雄へとなるには、力だけでなく、命を懸けて護りたい…と思えるような存在や、そのための覚悟がいる…
お前にはそれがあるか?」
私は力強く答える
「あるに決まっている!護りたいものも!そのための覚悟も!」
「理解した、お前には世界を救う責任があること、周りの命を必ず
救けること、これを忘れるなよ」
目が覚める、見覚えのない天井、硬いソファ、
そして一つだけの矛盾、ここが何処だか解ってしまうこと、
そしてもう一つの違和感、ここを出なければ…という思考が常に頭を
巡る。
その部屋は、例えるとするなら校長室や社長室、と言った印象を
受ける部屋だった、出入り口と思われるドアの横には、帽子やコートをかけるためのラックが存在していた。
そこには、とても興味が惹かれるものがあった。
ベルトだ…と瞬時に理解した、その使い方も、何もかもを
ベルトと一緒にかかっていた帽子を取り、私は外に駆け出した。
ドアを開けると、そこには鳥のような頭をしている、
上背は2mほどだろうか、私よりも頭一つ分は大きな怪物がいた。
服を掴まれ、持ち上げられている女性がいた。
助けなければ、と思い立ち大声を出す。怪物はこちらを向いた。
足元に落ちていたパイプを投げつける、当たりはしたがダメージには
ならない、だが、怒らせるには充分だったのだろう。
怪物は咆哮をあげ、四つ足になり体をバネのようにたわませる。
その刹那、鳥頭の怪物は、まだ開いていた距離を、詰めるため、
勢いよく地面を蹴った。
その怪物を見て私は、何よりも先に恐怖を感じた。
当然であろう、喧嘩もしたことはないし、格闘もあくまで試合だ。
殺しにくる…そう考えると足がすくみ、動かなくなった。
怪物の腕が目の前に迫る、せっかく仮面ライダーになれそうなのに…
と考えていると、腕がぶつかるその瞬間に肘の辺りから綺麗に切れた
のだ、何事かと思うと、一枚のディスクが手に収まっていた。
それを見た瞬間に使い方と名前が出てきた。
ベルトの側面にはディスクが収まりそうな溝が空いている。
ディスクを入れた途端、派手な音楽が鳴り出す。
どこか機械の駆動音が混じった音楽と同時に、私を囲うように輪が出てくる、地面から段々と何かが装着される感覚が上る。
そして視界が開けると…全身に歯車の意匠が施され、手足にはバネが
巻きついていた。
音楽が止まる瞬間に聞き取った、この仮面ライダーの名は…
『仮面ライダーフロップ』
そして口をついて出る言葉、
「俺の英雄道を見ろ!」
自分ながらに恥ずかしいことを口走るものだ。
そこからは、こちらが有利に進んでいった、先程のディスクは風への
憧れをデータ化したものらしく、腕を振ると風が勢い強く吹き出す。
バネの部分から突風も出せるようで、空を飛び、逃げようとした怪物を
撃ち落とすことに成功した。
最後にディスクを回すと、力が溜まっていく感覚がする。
足に力を入れ。腕から風を出し浮き上がる、そこからジェットのように空気を強く吹き出し、加速、怪物を蹴り飛ばした。
私が思い描くライダーの代名詞、ライダーキックだった。
怪物が爆散し、戦闘が終わった。
ディスクを抜き取り、変身を解除する、
私はとてつもない感動に包まれた。
子供の頃の夢が、叶ったのだと。