染まるセカイ   作:零奥0

8 / 9

短めです。

評価バーに色が付きました。ありがとうございます。こんな小説ですが、気まぐれに頑張りたいと思います。


生まれ持ったもの

 

 実力至上主義とはよく言ったもので、こと歌の世界ではこれが重視される。別に巷で話題のアニメとは全く関係ない。

 

 性格に癖があったり多少の不祥事を起こしても『才能』という実力だけで周囲の人間は、才能を持つ者を一目置く傾向にある。

 

 まぁだからといって好き勝手していい訳ではないんだけれど。

 

 しかし僕はこの言葉が嫌いだ。僕は確かに、音楽というジャンルに足を踏み入れているし、そこそこ名が通っていると自負している。ここを謙遜したら嫌味にしかならない。だからと言って、僕は周囲の人から一目置かれたいと言う訳ではない。ただ、僕を知ってほしい。僕の歌を誰かに聴いてほしい。それだけだった。

 

 自分でも矛盾しているのは分かっている。聴く人が増えれば話題に上がる。話題に上がれば更に聴く人が増加する。この一連の流れは自分の名が広まっているということに他ならない。しかし当の本人は有名になりたい訳ではない。

 

 この歪んだ承認欲求を僕はずっと抱えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「店長、そろそろ上がっても大丈夫ですか?」

 

 僕がそう問うと、OKの返事をもらい勤怠を切ってスタッフルームに向かう。

 バイトの制服を着替えて帰り支度をしてる時に、もう1人のバイトの子も入ってくる。

 

 「お疲れ様、小豆沢さん。」

 「あ、お疲れ様、透野くん。」

 

 僕は小豆沢さんとバイト先が同じだった。

 立ち位置としては僕が微妙に後輩。勤めていたバイト先の店長が変わってややブラックと化したため、小豆沢さんに紹介してもらった。

 時間通りに帰れるって素晴らしいね。

 

 「透野くん、あっという間に馴染んだね。」

 「そうでもないよ。小豆沢さんの人柄もあったからだよ。」

 

 小豆沢さんが紹介した子、だから悪い人ではない。という考えが大体のスタッフにあったため、前のバイト先ではちょっと暗いと言われていたこの性格も、少しクールな子、と好意的に捉えてもらえた。

 

 小豆沢さんの恩恵が凄すぎると感じた。

 

 「そ、そんなことないよ!透野くん、仕事覚えるの早いし、丁寧で優しいから、打ち解けられたんだよ!」

 

 今なら前に杏が言っていた、「こはねは天使だよ!」という言葉が理解できる。純粋だなこの子。

 

 「ありがとう小豆沢さん。とりあえず着替えてきたら?」

 「あ、うん!」

 

 やや気恥ずかしくなったので、更衣室に誘導する。

 小豆沢さんが着替え終えるまでの時間、僕はスマホで次に歌う曲の候補を探す。なんかこう、カッコいいのないかな。

 動画アプリを開き、適当にスクロール。していると

 

 「……みのり?」

 

 知り合いを見つけた。

 

 花里みのり

 僕が中学時代に知り合った女子で、アイドルを目指していると言っていた。オーディションの結果は破茶滅茶に悲惨だったけれど。それでも彼女は人の心を優しく包める人だった。自分が知りたい、そうしたいと考えたら彼女は止まらない。優しさを持ってこちらに接してくる。

 

 だから、彼女が苦手(・・・・・)になった。

 

 「透野くん?どうしたの?」

 「ん?あぁいや、なんでもないよ。帰ろうか。」

 「う、うん。」

 

 小豆沢さんと一緒に店を出て途中まで送る。流石にさっきの反応は怪しかっただろうか?少なくともこの子は僕の事情を知る人だし、変な勘ぐりはされないといいんだが。

 

 「夏休みはビビバスは何かするの?」

 

 先程の反応を問われる事を恐れた僕は別の話題を提供した。

 

 「うーん、イベントにいくつか参加することは決まってるよ。後は殆ど練習かな。」

 「いつもの公園で?」

 「え!?ま、まぁ、そ、そう…かな?」

 

 絶対違うなこれ。まぁ仲間内しか知られたくないこともあるだろうし、スルーしとこう。

 

 「そっか、応援してるよ。もし予定が合う様だったらまた練習を見学してもいいかな?」

 「うん!みんなも喜ぶよ!」

 「……東雲には睨まれそうだな」

 「そ、そうかな?」

 

 僕を意識してくれるのは嬉しいんだけど、あの鋭く射殺すような眼光、ちょっと苦手なんだよな。

 

 なんか、責め立てられてる(・・・・・・・・)ようで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「────nで?」

 

 声が聞こえる。

 

 「お前──が────るの?」

 

 声が増える。

 

 「あんたが────ければ───子は────なかったのに!!」

 

 僕を責め立てる声が。

 

 「俺達の前で──────────」

 

 

 

 

 

 

 教えて欲しい。『才能』は生まれ持った罪になるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「嫌な夢を見た」

 

 吐き気がする。

 無理矢理蓋をした(思い出せない)記憶が蘇ってくる。

 あの人達が誰なのかはわからない。

 脳が思い出すのを拒む。

 でも、きっと歌えなくなった要因なのだろう。知りたい、けれど、知るのが怖い。僕は、一体何をしてしまったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 「どうした?汗すごいぞ?」

 

 思考の沼に陥っていた僕を引っ張り上げたのは東雲だった。

 

 「いや、少し嫌な夢を見ただけだよ。大した事じゃない。」

 「……お前の問題と関係してることか?」

 「…………多分ね。」

 「………………そうか。」

 

 東雲はそれ以上の返事はしなかった。でも、僕の様子が気になるようで、委員会で留守にしている僕の前の青柳の席に腰掛けた。

 

 「……東雲」

 「ん?」

 「君は……才能ってなんだと思う?」

 「なんだその質問?」

 「ちょっとした他愛無い雑談だよ」

 

 全然そんな事ないけど。

 

 「ほーん。つっても、才能な。……ンなもん、凡人が超すべき壁だろ。」

 「……壁?」

 「おう。お前も分かってるだろうが、俺は才能なんてない。それでも伝説を超えるためには、お前みたいな特大サイズの才能を持ってる奴を超える必要がある。壁でしかないだろ?」

 「………………。」

 

 なんだその理論。

 

 「……ハハ」

 

 それでも

 

 「おい、何笑ってんだ?俺なんかは敵じゃないってか!?」

 「違う違う。ちょっとね、自分の中の考えが吹き飛ばされただけだよ。」

 「……何言ってんだ、お前?」

 

 本当に、君に知り合えてよかったよ。

 

 「ねぇ、東雲。」

 「あ?」

 「今日ってビビバスの練習だよね?」

 「まぁ、そうだな。」

 「参加してもいいかな?」

 「………参加?」

 

 もしかしたら、君達なら。

 

 「その前に、僕の事もちょっとだけ話したいかな。」

 

 君が組んだメンバーなら

 

 「歌えなくなった原因を」

 

 君たちの前なら、歌えるかもしれない。

 





一章は割と短めです。
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