二周目アルトリアと転生元マスターの逆行譚   作:アステカのキャスター

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 番外編やってほしいという事で筆が乗りました。
 バレンタインも含めたアヴァロン・ル・フェの話です。

 後半大分甘いし、若干キャラ崩壊かもしれません。
 それでもよければどうぞ。


番外編 アヴァロン・ル・フェ

 

 

 この世界はハリボテだ。

 妖精郷。それは妖精達が蔓延る世界。人間という種族、生殖行為も出来ず30近くで死ぬ人間の模造品。故に人理のカウンターも抑止力も介入出来ない世界。

 

 全てが人間が作り出した物の模造品。

 ただ面白いから真似ているというだけのハリボテの世界。

 

 そんな世界に俺は呼び出された。

 

 俺の名前はマーリン。

 まあ役を羽織る者としては丁度いい名前だ。かつての冠位の魔術師の弟子であったから、これくらいは許されるだろう。

 

 俺を呼び出したのはトネリコ。

 正確にはヴィヴィアンの性質を持つ異聞帯のモルガン。俺は約束を果たす為に彼女が本当の意味で王になるまで、その後ろを歩き続けた。

 

 6000年。

 という長い年月を経て、俺はモルガンの為にこの世界を生きた。

 

 彼女は問題が解決し、ブリテンが平和を取り戻すたびに、救ったはずの妖精たちに邪魔者として迫害され、その度に『棺』に自らを封印しては、再起の時を待ち続けた。

 

 すべては自身が理想とするブリテン建国という野望の為。汎人類史のモルガンが生前果たせなかった悲願を果たし、誰もが笑って暮らせる理想郷を作り出す為であった。

 

 しかし、そんな夢にどれだけ走っても終わりは来なかった。

 

 どれだけ厄災を鎮めようと、ブリテンの危機を救おうと、結局ブリテンの妖精たちは、自分たちが救われると楽園の妖精であるモルガンを次の敵と看做し、その功績の簒奪を目論んでは迫害を繰り返した。

 

 長い年月だ。

 今、モルガンはトネリコとして世界を救い、『棺』に眠っている。それを繰り返した。

 

 何度助けても裏切られる。

 何度助けても殺される。

 何度助けても俺はアイツを救えない。

 

 苦しいのはアイツだと分かっている。

 俺が支えなければいけないのに、ずっとアイツを泣かせ続けている。俺は『棺』には入らずに、自分で編み出した理想郷に閉じこもり、次こそ上手くやると繰り返した。

 

 最果ての槍も、剪定の槍も、理想郷も、宝具も、可能な限り揃えた。100年、200年などあっという間に過ぎたが、俺は呪いにより不老不死。変わらない身体であるから年月が過ぎても生きられる。

 

 それでも辛いと思い始めた。

 俺がどれだけ時間を費やしても、結局アイツはブリテンの為に動き、裏切られてしまう。

 

 もう、いいんじゃないか。

 楽になっても、アイツが苦しむくらいなら。

 

 

「なあトネリコ、賭けをしよう」

「何のですか?」

「俺が勝ったら、お前の全てを貰う」

「えっ……」

 

 

 その言葉にトネリコが真っ赤になる。

 妖精眼を持っている以上、嘘は通用しない。本心を告げている事に目を見開いて、口をパクパクと開け閉めしている。

 

 

「お前が勝ったら、俺はお前に全て捧げてやる」

「プ、プロポーズですか?」

「……そう捉えても構わねえよ」

 

 

 いや、そう捉えられるとマズイ気もするが、今はどうでもいい。こんな愛の告白染みた言葉を吐いといて飲み込むのは無しだ。

 

 

「賭けは簡単だ。お前が今回、ブリテンを救えるか、救えないか」

「私は救います」

「俺は反対に賭ける。でも、全力でお前を支えるのは約束する」

「それ、貴方に分が悪くないですか?」

「そうかもな」

 

 

 救えたなら、それでいい。

 俺はモルガンに全部を捧げる。救えなければ俺は……

 

 

 ★★★★★

 

 

 もう限界かもしれない。

 それは、今回で終わらせられなければ、きっともうモルガンは壊れてしまう。俺はあんな顔を見たくないと何度も走ってきたのに、何にも出来なかった。

 

 もう、終わりかもしれない。 

 それはそれで、いいのかもしれない。

 

 もう精神が擦り減って、身を削って、何度救っても何度も絶望させられる貧乏くじを引かされるくらいなら、もう誰も救ってやらなくても、モルガンは悪くない。

 

 ブリテン島を護りたい。

 そう言って彼女は止まらない。止められない。

 

 俺では彼女を救えない。

 

 

「隣、いいかい?」

 

 

 木陰で寝ていると、金髪の美青年が声をかけられた。目を瞑ったまま好きにしろと答え、座ってきた。目を瞑っても分かる。腰に据えた聖剣は俺が創ったものだ。真の意味で聖剣なんて創れないが、最果てを知り尽くした俺なら擬似的な物なら創れる。その魔力ゆえに目を瞑っても、誰なのか分かる。

 

 

「ウーサー王」

「まだ戴冠はしてないし、ウーサーで構わないよ。……このやり取り何回目?」

「二十六回。なあ、お前が王になったらトネリコは女王として迎え入れられるんだよな?まあお前と結婚するわけだ」

「そう約束したしね」

「俺はお前なら任せてもいいって思ってる」

 

 

 トネリコはウーサーを信頼している。

 戦争が終わったら、ウーサー王とトネリコは結ばれる。

 

 トトロットも花嫁衣装に大忙し。

 まだ勝つなんて決まってないのに、大した奴だよ。

 

 

「君は?」

「俺が負けたら全て捧げてトネリコの為に動くさ」

「そうじゃない。君は彼女に恋慕を抱いているんじゃないのかい?」

「ないな」

 

 

 それはない。この感情は恋慕じゃない。

 

 

「俺のソレは恋慕じゃない。少なくともこの世界のアイツに慕うのは違うよ」

「でも、君は彼女の為に」

「ウーサー」

 

 

 きっと、そうじゃないんだ。

 俺は約束と言い訳してるに過ぎない。異聞帯のモルガンと汎人類史のモルガンは全く別。

 

 俺がアイツを追い詰めた。

 異聞帯だからと関係はない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺はそれを約束したのだ。

 

 

「俺は、お前だから任せてる。この意味、理解出来ない訳じゃないだろ?」

 

 

 これでチャラなんて思ってない。

 約束だって、本当の意味で本人ではない。

 でも、存在が違くてもモルガンはモルガンだ。

 

 俺はただ、幸せになってほしい。

 それだけが、俺がアイツの為に動く理由だ。

 

 

「君にとって、彼女はなんだい?」

「相棒、もしくは王、或いは國だ」

「?」

「この世界は……いや、ブリテンはアイツの為にあってほしいと思ってる。俺はそれを願うちっぽけな魔術師だよ」

 

 

 それが俺でいい。そう在りたいのだ。

 そう、思っていたのに……俺は何も出来なかった。今回がきっと最後だ。これでダメなら俺はもう。

 

 

「マーリン、賭けをしよう」

「俺と?何だい?」

「君が勝てたら僕に一つ何でも命令を聞こう」

「気前良くね?次期王候補が、んな事言っていいのかよ?」

「僕が勝ったら––––」

 

 

 今思えば、ウーサーの賭けに俺は負けたのだ。

 賭けの内容もはぐらかされて、勝利条件も分からない。果たして賭けと言えたのであろうか。

 

 ただ、彼は言った言葉の意味がわからなかった。

 何の勝負だったのか、それすらも思い出せないほどに色褪せた。

 

 "約束を捨てて、その上でトネリコを護ってほしい"

 そう言い残して、ウーサーは戦争を終わらせ、戴冠式に毒殺された。

 

 

 ほら、本当に救えない話だ。

 何かが壊れる音が聞こえた気がした。

 

 

 ★★★★★

 

 

 気が付けば俺は戴冠式にいた妖精を皆殺しにしていた。

 血に塗れた会場、赤く染まった魔樹、床に転がる毒入りのワイン、泣いてウーサー王の亡骸を抱きしめるトネリコ。

 

 今度こそ、そう思っていたのにその罠すら気付けなかった。どれも物理的な排除だから、飲み物に毒を入れる事の警戒を怠っていた。

 

 どれだけ言い訳しても遅い。

 死者は帰ってこない。命は一つしかないのだから。

 

 

「ねえ、マーリン」

 

 

 トネリコが泣きながら俺を呼ぶ。

 

 

「どうして、私達はいつもこうなるのかな」

 

 

 壊れたように、そう呟く。

 壊れたように、虚な瞳から涙が溢れる。

 

 

「もう、分かっただろ。分かりきっていたんだろ」

 

 

 トネリコも薄々気付いていた。

 妖精はいつも裏切る。救っても救ってもその想いを無碍にする。何故かって?そんなの、()()()()()()()()()()()()()()()()()。それだけなのだ。

 

 

「妖精の本質は、人間と相容れない。だからこの世界には人類史の介入が出来ない。奴等には()()()()()()()()()()()()()。この世界の歴史は、その愚かさが分岐点となった」

 

 

 聖剣の造られなかった世界。

 セファールに押収された無の海となった世界を見て亜鈴の妖精『はじまりのろくにん』は自分達の罪を認めなかった。聖剣を造らなかったから悪いんじゃない。セファールを倒せなかった人類が悪いと罪を認めようとはしなかった。

 

 叱る為に遣わされたケルヌンノスも毒殺され、巫女も不死の呪いをかけられ今も生き、人間のプロトタイプとして妖精に利用された。

 

 反省する気もない。

 罪を認めない彼等は楽園に帰れなくなった無法の妖精。罪なき者しか入れない楽園には彼等は二度と帰れない。

 

 故に救っても、救っても、上辺だけだ。

 だから、こうなったのだ。ウーサー王や円卓が殺されたのも、妖精が画策したから。

 

 終わりなんてない。もう、うんざりだ。

 

 

「トネリコ」

 

 

 トネリコを後ろから優しく抱きしめる。

 目に手を当て、閉じさせる。もう何も見させたくなかった。

 

 もう何もかもが許せなかった。

 自分勝手に排除する妖精も。

 呪いが蔓延るこの世界も。

 運命を押し付けた楽園も。

 

 

 何も救えなかった自分さえも。

 

 全てが許せなかった。

 

 こんな世界を続けて何の意味がある?

 こんな事はこの世界じゃ珍しくもない周知の醜悪。俺は許したくない。妖精も、ブリテンも、運命も、トネリコをただ泣かせているだけなら、全て壊してしまいたいくらいだった。

 

 

「もう誰も救わなくていい」

「違う、私は……」

「お前が救いたい奴だけ救えばいい。みんなを助けるなんてそんな考えは捨てちまえ」

 

 

 こんな奴等の為に、お前が傷付く事なんてない。

 

 

「でも……私は」

「俺はもう、お前が苦しむ顔を見たくない」

「私が、やらないと」

「俺は妖精達より、ブリテンより、お前の方が大切だ」

 

 

 もう、ここで終わりでいいだろう。

 もう充分、お前は救った筈だ。だから、もうそんな義務に囚われないでくれ。

 

 もうお前はよく頑張った。

 ここで止まってもいい筈だ。こんな絶望だらけの世界で救う事に囚われて幸せを見出せないなら、救わなくてもいい筈だ。

 

 もう、いいよ。

 もう、苦しんでほしくない。

 

 

「俺と、一緒に生きてくれ」

 

 

 生きる希望を失ったなら、必ず俺が取り戻す。

 だからそれまで、ずっと支えてやる。俺がお前の願いが叶うまでずっと側に居るとトネリコに誓った。

 

 

 ★★★★★

 

 

 トネリコは女王になった。

 トネリコはモルガンと名前を変え、空想樹のエネルギーを使い、ブリテンの時代を終わらせ、女王として君臨し始めた。

 

 俺はモルガンの夫となった。

 俺は王位こそ持っているが、権威を振るうのはあくまで代理。妖精のいるこの國でモルガンのように妖精眼を持っていない俺に王政は無理だ。

 

 王で在りながら宮廷魔導師ラスカとして、モースを狩り、バーゲストやメリュジーヌに剣技などを教え、この世界で最高峰の魔術師として君臨している。財政も色々とモルガンと話し合ったりして、大変な所はあるけど、以前より明るくなった。

 

 バーヴァン・シーは養子となって一緒に暮らしている。俺の楽園で魔術の鍛錬をしている。悪逆に生きた後のしっぺ返しが怖いし、好きなように生きられるように、色々と連れていった。妖精騎士の称号こそ与えていないが、名前をスピネルと変えて、宮廷魔導師として、俺の下で働いている。

 

 ベリル・ガットについてはある程度、法を犯した妖精を好きにしていい権利を与え、適当に城を作って住まわせている。というのも、魔女の血筋を持つ彼の魔術は呪いなどに特化している。意外と役に立つ部分は少なくはないから監視をつけて放置した。

 

 今の日常はそこまで悪くはない。

 俺の生み出したこの世界の湖で生み出した理想郷にモルガンとスピネルと一緒に住んでいる。大樹の家で見晴らしは悪くなく、色々不自由もない。

 

 

「起きろー」

「うー、まだ早いー。あと60分」

「一時間じゃねえか」

 

 

 布団を剥ぐと、みぎゃあああああ鬼畜!?と騒がれる。誰が鬼畜だ。スピネルも大分人間らしくなった気がする。妖精は睡眠を取らなくても問題はないし。

 

 

「ほら顔を洗ってこい。モルガン起こしたら飯食えるまでに着替えとけ」

「うん。分かったわよぉ」

「コーンスープかオニオンスープか、どっちがいい」

「コーンスープ」

 

 

 はい了解と、次はスピネルの隣のモルガンの部屋に入る。

 

 

「起きろモルガン。朝だぞ」

「……んぅ」

「布団剥ぐぞ」

「……おはようのキスは?」

「してほしいのかよ」

「額ではなく、ここに」

「スピネルが見てるぞ」

 

 

 バッ、と起きて威厳を保とうとする。

 だが、起きた先にはスピネルは見ていなかった。

 

 スピネルの前では凛々しくなっているモルガン。女王の時とは別にオンオフ分ければいいと言っているが、妻の威厳らしい。

 

 

「冗談だよ。おはよう」

「騙しましたね」

「妖精眼使わなかったお前が悪い。起きてたら余裕で嘘見抜けただろ」

「許しません」

「……ったく」

 

 

 拗ねてまた寝たら朝飯が冷める。

 仕方ないなと思い、俺は優しくモルガンの唇にキスを落とす。今は俺らは夫婦なのだ。だからこれくらい……なんともない、はずだ。

 

 

「ほら、起きた起きた」

「……もう一回」

「勘弁してくれ」

 

 

 今の俺、頬が多分真っ赤だぞ。

 これくらい何ともないわけないだろ。まだ童貞で、夫婦といっても形だけのようなもので、俺は経験などない。アルトリア?抱擁くらいしかないよ。6000年経っても慣れないわ。

 

 

 ★★★★★

 

 

「では先に行ってくる」

「おう、俺も後で向かうよ。その前にスピネルの魔術を教えたらガウェインとランスロットに剣を教えなくちゃいけないし」

「お母様、気をつけてね」

「ああ、頑張るのだぞ」

 

 

 スピネルの頭を撫でると水鏡で直ぐに王城へ。

 水鏡を持たされているのは俺とスピネルだけだ。俺はその気になれば空間置換で移動できるが、水鏡のほうが楽ではある。

 

 

「んじゃ、今日は暗示の勉強だな」

「うえぇ、苦手な分野」

「まあ妖精にも通用するし、覚えておいて損はねえよ」

 

 

 スピネルの得意分野は水の操作。

 操作性だけならかなりのものだ。水の刃、水を含む氷の槍、体外の血液を圧縮し、爆発させる。意外と実践的なのに驚いたが、それ以外だと精神系の魔術はすこぶる苦手だ。まあスピネルの優しさ、本質みたいなものがあるのだろう。

 

 

「いいか、暗示は–––––」

 

 

 優しいだけじゃ救えない。

 だから厳しさはちゃんと教えていく事は決めている。伊達に6000年も生きていないのだ。妖精に効く暗示など、対妖精の魔術は全て習得している。スピネルがどれだけ非情になれるか、そんな意味も込めて強さを教えていった。

 

 

 ★★★★★

 

 

「はあっ!」

「甘い」

 

 

 剣を滑らせて体重をかけた一撃を逸らし、体勢を崩させて頭に一撃を当てる。うぐっ、と木刀で殴られた頭を押さえて妖精騎士ガウェインはラスカを見上げる。

 

 

「だから言っているだろ。貴様の剣は重さを入れすぎているから崩しやすいと」

「ボクの事を忘れないでほしいな!」

 

 

 ランスロットが飛行から一直線にラスカを貫くスピードで迫り、そのまま木刀で貫いた。しかし、貫いた瞬間に実体が消え、代わりに網のようなものが巻きつき、捕縛される。

 

 

「なっ、幻術!?」

「魔力網だよ。お前は普通に罠を見抜け」

「ぎゃん!?」

 

 

 どちらも剣技が強いわけではない。

 バーゲストにアルビオン、黒き犬の妖精と竜の妖精であるせいか、獣の本能を引き出して剣技に持ち込む分だけ付け入る隙がある。6000年で経験を蓄積した俺だが、剣技の才能は精々アルトリアに迫るのが限界だ。それで勝てるのだから、コイツら搦め手にめっぽう弱い。

 

 

「まだまだだな。今日はここまでにする。貴様らちゃんと何が悪いか理解しとけよ」

「くう、搦め手なんて狡い!鬼畜!鬼!外道!!」

「よしわかった。再戦したいとはいい度胸だ。俺は嬉しいぞ」

 

 

 そのあと、プライドの高い竜の妖精の悲鳴と泣き叫ぶ声が聞こえたとか聞こえなかったとか。真実はガウェインのみぞ知る。

 

 

 ★★★★★

 

 

 ランスロットを泣かせ、鍛錬が長引いた。

 モルガンの政策と、モースの討伐でクタクタだ。この後、夕飯を作ったら寝るだけか。今日は何を作ろうかな。

 

 

「ただいまー」

「お帰りなさいお父様!」

「スピネル、どうしたそんなソワソワして」

 

 

 俺の持っている紙袋に視線が泳ぐ。

 

 

「お父様、バレンタイン結構貰ったの?」

「ムリアンとノクナレア、一応ガウェインとランスロットからも貰ったな」

 

 

 ムリアンは昔助けた事があったから今も感謝されている。ノクナレアに関しては意外だったけど。毒物は入っていないし、魔術でスキャンしても問題は無し。

 

 アイツ、メイヴじゃん。

 マジで似ているけどメイヴそっくりじゃん。もしかしたら、チーズで死んだりして。

 

 

「はい、私のバレンタイン!」

「マジか……お前が作ったのか」

「そうなの、一から作ってみたの」

 

 

 晩飯前だが、食ってしまうか。

 ラッピングを開けるとそこには星形のチョコが六つ。今日に作られてるな。どう?と心配そうな顔をして俺の顔を覗いてくる。

 

 口に入れた瞬間、果実の風味がした。

 チョコレート自体は甘過ぎず、だけど上品な香りがする。

 

 

「桃の香りがするチョコレートか。よく作れたな」

「美味しい?」

「ああ、美味しい。ありがとうスピネル」

 

 

 頭を撫でると顔が赤くなった。

 美味しいと言ってくれた事に喜んでいるのか、頬が緩んでいる。

 

 

「今日は何がいい?ホワイトデーには早いが、好きなものを作るよ」

「オムライス!」

「腕によりをかけよう」

 

 

 フワフワの半熟のオムライスを帰ってきたモルガンと三人で食べた。モルガンにもバレンタインのチョコが渡されて、モルガンにスピネルが強く抱きしめられていた。因みにモルガンのチョコは最高品質のコーヒーチョコだった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 風呂も上がり、寝ようとした時にモルガンが俺の袖を掴んで彼女の部屋まで連れてこられた。モルガンの部屋は質素というわけではないが、物が意外と少なかった。それこそ必要なものや娘からの宝物を飾ってあるが、魔術に関するものは工房に全部入れて、モルガンの部屋自体には大きなものは少なかったりする。

 

 

「どうした?」

「ハッピーバレンタイン、というやつです」

 

 

 ハートのラッピングに包まれたチョコレートを渡される。

 

 

「お前もか。いつの間に……」

「かつての友と一緒に作ったのです」

「あー、アイツか。元気だったか?」

「はい。ついでに渡してくれと、伝言も預かっています」

 

 

 アイツ花嫁を探すために色々回っているんだよな。トネリコとして接しているわけではないが、一年に二度くらいモルガンは彼女の元へと訪れる。今回は一緒にバレンタインチョコを作っていたようだ。

 

 

「アイツ凝ってるな……いやレベルが違くね?」

「それは私も同意です」

 

 

 凄いなコレ。

 ドレスを着せたモルガンのクッキーか。俺も礼服に身を包んで踊っているようなクッキーアート。ドレスや服の部分だけチョコレートで色付けされてて凄すぎて逆に引くレベルだ。

 

 

「まあ、夜だし明日食べよう。それで、モルガンのは」

 

 

 ビターチョコか。

 星やハートの形をしたチョコが五つほどラッピングされている。まあ前回の場合は本当に城のようなチョコを作って渡されて、食べ過ぎてスピネルもしばらく甘いものを食べなくなったくらいに量が多かったし。今回は良心的な量で渡してくれた。

 

 

「ありがとな。モルガン」

 

 

 普通に嬉しい。

 転生前なんてお母さんしかチョコ貰えなかったのを考えてみれば、七つも貰えたなんて奇跡だ。

 

 

「でもなんでビターチョコ?前は甘さ多めのミルクチョコ城だったけど」

「これから甘くなるんですから、苦い方がいいでしょう?」

「へっ?」

 

 

 呆気に取られると、モルガンは唇を重ね、自分のベッドにラスカを押し倒す。ほろ苦いチョコレートが溶ける口の中に舌が蹂躙していく。その事実に顔を赤く染め上げ、肩を掴んで引き剥がす。

 

 

「ちょ、ちょ、ちょっと!?」

「何を驚いているのです?私達は夫婦です。これくらいあってもおかしくありません」

「スピネルがいるだろうが!」

「結界を張っているので問題はありません」

 

 

 いつの間にか防音と衝撃耐性、人払いの結界を張っていた。コイツ魔術の無駄遣い過ぎる。しかも強度が俺の作る結界より強いのが腹立つ。

 

 

「……あのさ、お前は俺でいいのか?」

「貴方だから、私は欲しているのです」

「俺ら、昔敵同士なの知ってるよな?」

「ええ。そして貴方は私のものです。そして私も貴方のもの。違いますか?」

 

 

 違わないけど、お前にはウーサーが居たのに。

 俺でいいのか?俺はお前を泣かせてばかりで、お前を幸せにしてやれなかった。俺がトネリコを壊してしまい、お前はモルガンとなった。

 

 俺はお前を変えてしまった。

 お前には本当はウーサーが居たはずなのに。

 

 

「ウーサーも好きでした。でも、彼はもう居ない」

「代わりに俺を愛そうとするならやめてくれ。俺は代替品じゃない」

「それは、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 レイシフト擬きでの時間逆行による歴史改変。

 そのせいか、トネリコは汎人類史のモルガンの記憶を引き継ぎ、失ってしまった後にトネリコはモルガンとして君臨し始めた。

 

 トネリコでもありモルガンでもある。

 俺にとってはモルガンで、ウーサーにとってはトネリコである。でも、彼女はモルガンとして今を生きている。だから未練こそあれどトネリコはもう居ないと口にする。

 

 

「……モルガン。ちょっと耳貸して」

「……?構いませんけど」

 

 

 俺はずっとウーサーに申し訳ないと思っていた。

 俺が無能なせいで死なせて、トネリコに傷付けて、これ以上生きるのが怖くなった。

 

 約束を捨ててその上で護ってほしい。

 約束という言葉に言い訳して、モルガンを支えてきた。でも、コレはもう言い訳なんて出来ない。この世界は地獄だというのに、俺も彼女も幸せを感じている。こんなに愛されていて、何も返せないのは俺としては情けない話だ。

 

 耳元で勇気を振り絞って囁いた。

 ずっと口にしていなかった愛の言葉を。

 

 

「好き、お前を愛してる」

 

 

 愛されているなら愛を返す。

 面倒な女だが、俺を愛してくれる重い女で、俺が愛する女王でもある。めちゃくちゃ恥ずかしいし、恋愛経験なんてなかったからこんな事を口にするだけで死にたくなる。

 

 ずっと、約束と言って側に居た。

 けど、コレはもう限界だった。いつの間にか彼女から目を離せなくなっていた。ずっと誤魔化していたのに、ずっと遠ざけていた心がモルガンを前にして決壊した。

 

 俺の負けだ。

 だからもう、気持ちに偽るのは止めた。

 

 

「俺の全部、お前にあげる」

 

 

 俺はお前のもので、お前は俺のものだから。

 手首を掴まれて蠱惑的な笑みを浮かべてモルガンが俺に馬乗りしてきた。あっ、コレあれだ。逃げられない奴だ。

 

 これ、スイッチ入っちゃってる。

 逃げる気はないが、朝まで逃してくれなさそうだ。

 

 

「あの……せめて優しくしてください」

「……誘うのが上手ですね。そそります」

 

 

 どうやら俺がヒロインのようだ。

 勇気を振り絞り過ぎて、途端に弱気になったヘタレ丸出しの俺のお願いを無視し、モルガンは再び唇を蹂躙し始めた。

 

 我が王、ごめんなさい。

 俺はどうやら貴女の姉に食われるようです。

 

 ビターチョコレートの苦さを打ち消すほどの甘い甘い夜が始まった。

 

 

 

 





 一日過ぎたハッピーバレンタインです。
 気が付けば一万字近く書いていたよ。
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