二周目アルトリアと転生元マスターの逆行譚 作:アステカのキャスター
以前こんな感想がありました。
『最初からこの展開にするつもりだったらアルトリアの部分全部要らなかったでしょこれ。』
………やってやろうじゃねえかよこの野郎!!
一度別のシリーズで失敗したせいかこのコメントに動じる私では無い!!
嘘です。
ちょっと傷付いたので頑張って二つのルートを書きました。総数だけ言えばかなーり辛かったです。あまり批判は好きではありません。まあ、ですが今回ばかりは正論だったし、完全にアルトリアルートが無く、モルガン完勝ルートしか用意してませんでしたので、今回は特別。二つのルートを同時投稿という形になります。
アルトリアルートにはちょっぴり鬱展開あり。
モルガンルートはアヴァロン・ル・フェの最後の方を書いてみました。色々と急な展開で読み難い部分や、違和感のある部分も多いと思いますが、とりあえずは二人のヒロインとしてのルートとして書いているのでご了承ください。批判が多いとこの作品自体を削除しかねないので、感想をくれるならそれを踏まえた上でお願いします。まあ批判とかはよくある事だと思いますが、念のため書かせていただきました。
こちらはアルトリアルート。
もし、九話の時、アルトリアがラスカを引き止めていたらのルートとなります。士剣一択の人は回れ右でお願いします。
テーマ『再会』
アルトリアが小さな声を漏らした。
ブリテンから去り、現代に戻る為に聖杯探索に向かうのだが、アルトリアが俺の袖を軽く掴んでいた。その表情はまるで迷子の子供のようで、何処か寂しげな表情をしていた。
「どうした?」
「あっ……その」
袖から手が離れない。
意を決したように俯いていたアルトリアは顔を上げて口を開いた。
「その、やっぱり此処に残ってくれませんか?」
「……えっ?」
アルトリアが言った言葉に俺は足を止めた。
「私は、貴方に救われました。今のブリテンがあるのは貴方のおかげです。その、私はまだ貴方に何も返せてない。連れてくるだけ連れてきて、私の罪まで押し付けてしまった」
そんな事気にするな……とは言えないくらい確かに色々関わったけど、確かにモルガンに罪悪感が湧いているけれど。ただ、返せてない訳じゃないと思うのだが。
「だから、私が返したい。私に返せるだけの幸福を貴方に返せるまで、残って、くれませんか」
「でも、抑止力とか」
「私が絶対に何とかします。だから、お願いします」
その手は震えていた。
多分、怖いのかもしれない。時間が経ち過ぎて、俺もアルトリアと離れる事に躊躇ってしまっている。
本当なら行かなければならない。
俺だって命が大事だ。マーリンに頼りすぎるのもそれはそれなのだ。
でも、コイツから初めて我儘を聞いた気がする。
何も欲しがらないコイツが、初めて俺に残って欲しいと我儘を言っている。頭を掻きながら、背後で盗み聞きしている男に声をかけた。
「……ハァ、聞こえてんだろパーシヴァル」
「……その、盗み聞きするつもりはなかったのですが」
「遠征中止だ。罰として積み上げた荷物はお前が片付けろよ」
「御意に」
アルトリアが顔を上げた。
ため息を吐き、腕を組んでアルトリアに期限を伝える。正直付き合う必要はないが、俺も意外と心のどこかでは残りたいって思ってしまっている。何より、アルトリアが人間としての我儘を話したのだ。
「……長くてもローマとの戦いが終わるまでだぞ」
「…!分かりました!」
アルトリアが嬉しそうな顔をしていた。
まあ、俺も甘いって事か。心の贅肉だな。
★★★★★
アルトリアは激務を終え、束の間の平和の中、自分が支えてきたキャメロットを見る。いつも、暇があるなら散歩してこいとラスカに言われたからだ。
自分が支えてきたものがこれなら問題ないと見てこなかった時代、アルトリアは民達の顔を見る事をしなかった。王の責務に囚われ過ぎて、仲間の忠告さえ、聞き入れる事もしなかったのだ。
今は違う。
アルトリアの影で暗躍する者、表で支え合う者、そして護られながらも今を生きる為に自分達で行動する者達が今のキャメロットを作っている。
街は活気に溢れ、食料問題も、ウーサー王の負債もなんの問題もなく、充実していると言えるだろう。貧民街の子ども達にもしっかり仕事が与えられ、食べることも困らない。そうやって政策してきたラスカには頭が上がらない。
「あー、王さまだ!」
「えっ、すごい騎士様!?」
「みんなー!騎士王様が遊びにきてくれたよー!」
子供が飛び付く。
細腕だが、私の筋力はブリテンでも最上位、飛びついてきた三人を抱え、ゆっくりと下ろす。
「こら、騎士王様に失礼ですよ」
「お久しぶりですマリア」
「いえいえ、来てくださるだけ光栄です」
この場所で、子供達と仲良くなった。
人と触れ合う事、それがラスカに一番初めに言われた事だ。私は人間としての感性がズレているから学べと口酸っぱく言われ、時折この場所に顔を出しにくる。
「最近はどうですか?」
「ええ、アグラヴェイン様のおかげで充実しています」
ラスカは抑止力に引っ掛かると殺される可能性がある為、功績を持たずに他人の名前を使っている。騎士にとって功績や名誉はとても誉ある者だが、ラスカはそれに執着していない。普通に高い給金と寝床が王城ってだけで充分ありがたいと言っていた。
でも、私はそれだけしか与えられていない。
長い時間、彼を縛り付けて働かせて、私自身が何も返せていない。この時代に来たのだって、私の願いに巻き込んでしまったからだ。
「あの、おうひさまはいつ子供ができるのですか?」
ピシリ、と身体が固まった。
「……多分、直ぐに出来ます」
見栄を張って嘘をついた。
いつか出来る子供は、絶対に現れない。そう政策しているから、子供は産まれない。ハハハと乾いた笑みで子供達を撫で始めた。
★★★★★
「と言う訳でラスカ、子作りをしましょう」
「ふっざけんなっ!?」
絶叫を上げて馬乗りしてきた馬鹿の頭を掴む。
いや、ギネヴィア偽造結婚の時のギネヴィア役が俺だったからあれだけど。呪術を利用して自己改造して身体を女っぽくして、黒いベールで顔を隠していたから誤魔化せたけれど。
それはあくまで偽造だからやっただけで本当に婚約してる訳じゃない。
「あのさ、王妃の件は俺も悪いけど、ローマとの戦いだってあと少しだろうが!世継ぎもクソもあるか!?」
「いえ、これも王の務めです」
アホ過ぎるぞ王の務め。
世継ぎも王の務めかもしれないが、俺別に姫じゃないし……えっ、もしかしてこの場合、俺がヒロインなのか?笑えねぇ……。
「ちょっ、んんっ!?」
下らない事を考えてる内にアルトリアに唇を塞がれた。それに驚いた俺はアルトリアの肩を掴んで突き放す。いくらなんでもそれは無いだろ。王の務めは気持ちまで無視しなきゃいけないのか?
「あのさ、トチ狂うのは勝手だが、俺はそういう事は、ちゃんと好きな人じゃないと納得できないよ」
トンッ、と額を小突いた。
倫理観くらいあるに決まってる。魔術師でもびっくりだわ。アーサー王に世継ぎの為に子作りしようなんて言われたら卒倒どころの話じゃない。
「俺は確かにお前を嫌いじゃない。多分、好きな方だ。好意が無いわけじゃないし、人の王としてちゃんと学んでその上で好きと言われたら嬉しい気持ちもある」
そりゃあコイツは美人だし、色々と駄目な所はあるけど、支えたいと思うカリスマもあるし、ちゃんと人の心を理解した上で好意を示してくれるのは嬉しい。俺だって少なからずコイツに惹かれてる部分はあるし、一緒に生きてもいいと思えるなら隣に居たいと思うよ。
「でも、仮に俺と本当に結婚するなら、言うべき事は他にあるだろ?」
俺は伝えられてない。
コイツが本気で俺と結婚しようとするなら言うべき事は他にある。そうじゃなきゃ、それがなければ納得も出来ない。
「少し、頭を冷やせ」
アルトリアに強めに言葉を放つと、俺は自分の部屋から出て行った。
★★★★★
「何してるの?リーダー」
「エレインか……」
王城から外れた広い草原で寝ていると、偶々通りかかったエレインが声をかけてきた。
「王城から追い出されたのかしら?」
「いや、カッコつけて俺の部屋なのに俺が出て行った」
「はっ?」
場所を移す為にとりあえず近くの酒場に寄った。エレインも疲れているようだし、金は充分あるから奢って話を聞いてもらった。話しを聞いていくうちにエレインの身体が震え、笑みを堪えずに叫び出した。
「あはははははははははっ!?我が王が!?」
「シー!声がデカい」
「いやまさかねぇ。素面で?」
「ああ、狂ってね?」
手をバンバンと叩きながら笑うエレインに酒を飲みながら愚痴を溢す。ヤっちゃえばいいのにと言ってくる辺り、ブリテンの強い女には碌なのがいないと再確認した。ガレスくらいか?まだマシなの。
「意外と真面目なのね」
「当たり前だ。俺は外道の魔術師じゃねえわ。多少なり倫理観はあるつもりだ」
「へえ、まあ恋に生きるのも悪くないわよ?」
「ランスロット逆レしたお前が言えるセリフかそれ?」
ギャラハッドなんてそのせいかランスロットと距離感あるし、ランスロットがやり逃げしたんじゃなくて、逆レで生まれたなんて真相を知ったらギャラハッド舌噛んで死にそうだ。
「じゃあリーダーは王の事、どう思うの?」
「……妹みたいな奴」
「女の子としてよ。だって金髪蒼眼で騎士道真っ直ぐで、貴方の前では照れる女の子でしょ?」
「……思う所がない訳じゃないよ。けど、いきなり子作り突入するか?付き合ってもいないし、なんなら恋人ですらないのに」
「いやまあ私は間違った方だからアレなんだけど、誰でもいいって訳じゃないと思うわよ?」
いや、俺も同じ立場なら誰でもって訳ないと思うけど。
でも、早すぎない?いきなり子作りって、まだ告白もされてないんだぜ?ギネヴィアの偽造結婚である以上、子供がいなければ不審に思われる。それは考慮しても、騎士王が女だと知られたらマズいのは分かりきった話だ。ギネヴィアは途中で乏しめられて退場する役割だし。
それでも、子作りする意味をわかってんのかあの馬鹿は?
「貴方との絆を本物にしたかった」
「!」
「まあアナタは結構顔立ちもいいし、性格も悪くない。私がもし、貴方ともっと早く出会っていたなら考えてたかもね」
「不吉な事言うの止めてくれない!?それお前に逆レされてたかもって話じゃねえか!?」
「失礼ね!純愛よ!」
「なお悪いわ!」
純愛は決して逆レはしねえよ。
絆を本物に……か。確かに少しだけ納得は出来る。少しだけつっかえていたものが取れた気がした。
★★★★★★★★★
★★★★★★
★★★
戻った時には、アルトリアは居なかった。
それから暫くして、時間が経った。アルトリアに話しかけようとしても、避けられる。気持ちの整理が出来ていないようだ。
そして、暫くの時間が経ち、アルトリア率いる円卓はローマへと向かう時期になってしまった。その時間にモルガンに唆され、モードレッドの叛逆と、ブリテンの崩壊のカムランの丘。そしてアルトリアの聖剣返還により理想郷に旅立つきっかけ。
モルガンは相変わらず姿を見せない。
万が一を考え、ローマ進行にモードレッドも連れて行く事にし、ガウェインと俺をキャメロットに残す事にした。エレイン達も残るから問題ないだろ。ペリノア王は頑張れ。
アルトリアは最後に声をかけてきた。
「ラスカ」
「んっ?」
会話こそ、久しぶりかもしれない。
あの時から、会議以外に話をしなかった。まあ俺も避けられるならほとぼり冷めるまで放っておこうと思っていたから仕方のない事なんだけど。
「帰ったら、話をしましょう。色々と、伝えたい事があります」
「……頭は冷えたのか?」
「ええ、でも今ではありません。だから、私が帰ってきたら必ず––––」
そう言ってアルトリアはローマへと向かった。
この時、誰も気づかなかった。それが、生涯最後の会話だと知らずに……
★★★★★
立ち並ぶ無数の剣、乾いた大地。
上空には、空を埋め尽くさんばかりの巨大な歯車。
黄昏のように、暁色に染まった世界。
荒廃したような、何処か寂寥を滲ませる空間に二人の男が立っていた。一人は杖で倒れないように体を支えるブリテンの魔術師。そして、もう一人は赤い外装を纏い、二色の双剣を手に携える鷹の目をした男。
「ハァ、ハァ……マジでこうなるかもしれないってのは予測してたけど、よりにもよってお前が来るか、正義の味方!」
「その名は捨てたさ。まさか、彼女の居る時代にこんな癌が混ざっていると、私も思わなかったがな」
どの手を出しても壊される。
アルトリアがローマに侵攻して行った時に限って抑止力が動き出した。マーリンでは限界だったのか、もしくはもうモルガンに幽閉されてしまったのか。
肩に剣が突き刺さる。
爆発させないように刺さった剣に蔓を巻き付ける。神秘を奪い、相手の意図で壊させない。
癒しの力があったとしても、限度がある。
特に宝具を無尽蔵に射出するあの無数の剣の前には俺も打てる手が殆どない。
「しぶといな」
抑止力を相手にしたら絶対に勝てない。
絶対に負けない存在を送り込むからだ。倒しても無駄だ、一時凌ぎにしかならない。だから死ぬ事は定められているのかもしれない。
けど、それでも諦めたくないと体を奮い立たせる。
「俺さ、いま絶賛喧嘩別れ中なのよ。だから、俺はまだ死なない」
死にたくないのは相変わらずだ。
けど、今は理由が違う。無慈悲で不条理な死を怖れて、死を嫌ってる訳じゃない。今は違う。
「俺も、伝えなきゃいけない事、まだあるから」
約束があるから。
だから俺はまだ死ねない。固有結界で隔離された世界に大樹が芽吹く。数がダメなら此方は質、無限の剣に無限の神秘が宿っているなら、俺は無限に強くなれる。
さあ我慢比べだ。どちらが先に殺されるか。
神秘を全て吸い取り、固有結界が維持出来ずに大樹に飲まれるのが先か。それとも大樹が折れて俺を貫くのが先か。
「そんなものは届かない。早々に散れ」
「嫉妬か?それとも、お前の元々の恋慕か?女々しい男だなお前」
「抜かせ!」
空中に浮かぶ剣の雨が一斉に降り掛かった。
それに相対するように、神秘を無尽蔵に吸い取る簒奪の大樹が枯れた世界に伸び始めた。
★★★★★
「……えっ?」
帰ってきたアルトリアはメアリージェの一言に呆然とした。ラスカが、抑止力に襲われて重傷になっていると。彼は今、自分の理想郷で外界と隔離していると。
「私の妖精の魔術で身体の形のみを保たせる事は出来たけど、それでも外界に出ればラスカは殺されかねない」
「そんな……彼の意識は?」
「今も全然、死にかけだった後にかけたから、もしかしたら目が覚めないかもしれない」
何せ、傷口が塞がらない。
不治の呪い。妖精にも通用し、妖精が授ける悪辣な呪いとしても存在するスタンダードに危険な呪い。至る所が、呪いに蝕まれて、上手く治癒出来ていない。精々死なせない呪いをかけるくらいにしかメアリージェにも出来る事はなかった。
「なんとか、ならないんですか?」
「聖剣の鞘があれば、なんとかなるかもしれない。けど、モルガンに盗まれたでしょ?素直に渡さないと思うし、なんなら君が絶望する所を見たいが為に鞘をこの世界の外界に送りかねない。そうなったらラスカは一生あのまま……」
そうなれば最早治す手段はない。
抑止力の傷はそう簡単に癒せず、撤退までしても爪痕を残していく。モルガンも交渉に応じないだろう。アルトリアを憎み、復讐しようとするなら聖剣の鞘は間違いなくこれ以上ない復讐の切り札。
「どう、すればいいんですか」
「アルトリア」
「私が、ラスカを連れてきたのに……彼に、何も返せてないのに」
凛々しい王が珍しく動揺している。
まるで迷子になった子供のように目が揺れる。メアリージェはそれでも無慈悲に現実を告げる。
「キャメロットは護られてる。モードレッドも離反してない。今、君が出来る事は今は何もないよ。精々モルガンの捜索くらいだけど、それ以外は何も出来ない」
「っ……」
「君は君のやるべき事をして。じゃないとラスカが護った意味が無くなる」
メアリージェも、神秘が途絶えれば星の内海に帰ってしまう。理想郷ごと、星の内海に送り、ラスカも形を残したまま楽園へ送り出すだろう。そうなればラスカは永遠に目が醒めずに、楽園で眠る事になる。
アルトリアはその後、モードレッドに戴冠させ、ラスカを救う為に旅に出た。
★★★★★
アルトリアは願いを叶えた。
キャメロットを護り、ブリテンを救った偉大な王として名を挙げた。
けれど、アルトリアの表情は晴れない。
モルガンに殺されてもいい。それで彼が救えるなら、それでも構わなかった。騎士王としての役割は継がれ、そうして私はラスカを救う旅へと向かった。
不治の呪い。
それを唯一癒せるのは聖剣の鞘のみだ。
私はそれを必死に探した。メアリージェが彼を生かしてくれる。だからそれまで耐えて、私が伝えたかった事を彼に伝えるまで、私は死ななかった。聖剣だけを頼りに、私はひたすらに歩き続けた。
だが……見つからなかった。
モルガンは既に死に絶えていると聞いたのに、彼女の遺品からは聖剣の鞘は見つからなかった。
それからずっと探した。
探して、探して、探し続けて……
一年、五年、十年、三十年、五十年、そして百年の月日が流れた。本来なら寿命で死んでいる私には聖剣により不老の加護が宿っている。
心が摩耗していた。
魂以前に心が擦り減って、彼の顔も、声も思い出せなくなり始めた。
一度でいいから会いたい。
ブリテンを救ったのに、気持ちが晴れない。
彼の事を忘れたくない。
自分が追い込んだくせに、何を言っているのか。
「……寂しい」
ポツリ、と呟いた言葉に今度は涙が溢れた。
もう、誰も私の知る人間は死んでいる。ラスカだけが、不変の祝福を受けて今もなお生きている。
でも、寂しい。
胸がぽっかり空いたようだ。
繋ぎ止めていた想いが決壊する。
「……もう一度、逢いたい」
全てを投げ出したかった。
こんな事して、彼にどんな顔で会えばいいのか分からない。
最早見つからない。見つけられない。
聖剣の鞘はもう何処を探しても見つかる事は無い。
ふらりと、彼女は最後に彼の眠る静寂の泉の前に立ち寄った。
彼の顔はもう見えない。
メアリージェも、恐らくは神秘の枯渇により理想郷へと向かったのだろう。神秘が微かに残るこの泉は入り口ではあるが、もう開く事は出来ないだろう。
「これで、終わりにしましょう」
アルトリアは聖剣を静寂の泉に投げ捨てた。
神秘はある。ブリテン由来の神秘ならば、間接的に湖の乙女と繋がれる筈だ。聖剣を返した王は理想郷へと旅立つ。
でも、アルトリアはそれを拒むように、持っていたナイフを首に添えた。彼が渡してくれた魔術の触媒。それを首に突きつけた。
理想郷に旅立てば二度と会えない。
私がアラヤに持ちかけた契約は英雄になる前に完了している。こうして、本当の意味で死ねば理想郷へ向かわずに英霊の資格を手に入れると同時に、アラヤに契約を持ちかけられる。
怖い。
自分に刃を突きつけるなんて初めてで、覚悟が決まらない。それでも、これがきっと最善なのだ。
「今度こそ、貴方に返します」
ザシュ、と肉を貫く音と血が垂れる音が静寂の泉に響いた。
★★★★★★★★★
★★★★★
★★★
「嘘やん俺」
マジか、マジか!?
亜種聖杯戦争に巻き込まれるってどんな確率だよ!?俺触媒とかそんなもん全然持ってないんですけど!?
使い魔で見た感じ、カイニスやイシュタルなど、神霊が存在している。あ、これ終わったんじゃね?転生して、優秀になって、型月の死亡フラグに首突っ込まないと決めていたのに。
「俺の願いは平穏な日常だチクショウ!?令呪なんて与えんな!」
クソッ、こうなったら呼ぶしかない。
降霊術の召喚陣はうろ覚えなんだよな。俺、植物科だし。どの道これ狙われるし、挑むしかない。俺と相性のいいサーヴァントって何だ?
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我等が血縁、トゥエルフ家の初代。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
トゥエルフ家の初代様はブリテンを支えた大魔術師と呼ばれていたらしい。この世界は色々とおかしい。アーサー王伝説が
俺は五代目で優秀ではあるが、そんな時間逆行なんて魔法の類いを使えるわけがないし。最近その名前がわかって
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
召喚陣から溢れ出す魔力の本流から、一人の王の風格を纏った偉大な剣士の姿がそこにあった。
「サーヴァント、アルターエゴ。真名をアルトリア・ペンドラゴン」
「……はっ?」
「漸く会う事が出来ましたね、ラスカ」
何で、俺の名前を……
アルトリア・ペンドラゴン。別名エミヤの嫁。おいおい待て待て、何故騎士王が俺の名前を呼んだ?まだ名乗ってすらいないのに。漸くって事は俺を知っている?
「……俺を、知ってるのか?」
「大丈夫、貴方が私を知らないのは無理もありません」
俺の名前を知り、ブリテンに存在していた魔術師。頭の中であり得ないパズルのピースが揃っていく。嫌でも意識せざるを得ないアルトリアの表情。かつての旧友に会ったような、再会に喜んでいるような、そんな顔をしていた。
「まさか本当に……」
俺が逆行したのか?そんな馬鹿な。
頭の中で混乱が渦を巻いていると、神経が切られたような鈍痛が一瞬響いていた。使い魔が殺された、全力でこっちに向かってきている。
「いや、そんな事は後だ!来やがった」
「下がっていてくださいラスカ。必ず私が勝ってみせます」
「ならよろしく!頼むぜアルターエゴ」
何はともあれ、心強い。
最初の脱落者となるアーチャーのイシュタルとの戦闘で俺たちの聖杯戦争は開幕した。
★★★★★
最後のカイニスを倒すと、聖杯が出現される。
いやー、カイニス強敵でしたね。どうして聖杯戦争で神霊が出るのか疑問もあったが、アルトリアの聖剣で終わらせていた。魂の純度が高すぎて満タンになってる。
これ、普通の聖杯戦争と遜色ないくらいの純度だ。実物を見た事はないけど、万能の願望機と言っても過言ではない。
「お前、願いは?」
「私の願いは……ラスカを救う事です」
「俺?」
俺、ああ違うか。
アルトリアが知っている『俺』はブリテンから今にかけて理想郷で生きているらしい。『俺』はどんな生涯を送ったの。いや、生きてるのかもしれないけど。抑止力によって殺されかけ、外界に出る事は二度とないらしい。
そもそも、メアリージェの呪いは継続されているのかすら分からないから俺がどうなってるかわからない。もしかしたら死んでいる可能性だってある。
「私の知るラスカは不治の呪いに侵されて、最早今となっては生死不明です。その呪いが解ければ、もう思い残す事はありません」
「嘘だな」
だったら、そんな顔はしない筈だ。
夢を見た。俺と似た、いや正確には同一人物だろう『俺』の姿を見た。アルトリアは聖杯の力を使い、『俺』ごと逆行し、ブリテンを救っていた。
けど、最後は孤独による自殺。
理想郷に向かう前のアルトリアではなく、英霊として完全な条件を満たしたアルトリア。アルターエゴなのは、恐らくリリィの時代から知識と人格のみが送られ、アルトリアは別側面として成立しているからだろう。普通はあり得ないが、結末が変わればあり得なくはない可能性の一つだ。
「あるんだろ?思い残す事が」
「それは……」
「悔いを残したくないなら、会うべきだろ」
「………」
本当ならそうしたいのだろう。
夢を見て、正直な話をすると何やってんの『俺』と呟きが漏れるくらいの大偉業を成し遂げてるし、なんか見た感じ『俺』もアルトリアを信頼して、楽しんでいたようにも見える。
どんな顔して会えばいいのか分からないようだ。意外と面倒な奴だなコイツ。
「アルトリア、確認させろ。それは間違いなく『俺』なんだな?」
「ええ、間違いありません。私が彼を私の時代に送って、不幸にしてしまった」
「……時代のパラドックスが起きないなら、『俺』は多分死んでいる」
「えっ?」
時代のパラドックス。
同一の肉体に同一の魂が存在する事は基本あり得ない。蒼崎橙子は例外、死んだら次の人形にスイッチが入るようにしているけれど、所詮は人形。人形と人形なら可能かもしれないが、人間と人間で全く同一の性能、身体、知識は持てても、魂まで持つ事は基本的に不可能だ。それは最早分裂の類だ。
「英霊と現代人。それら同一の存在が交わる事は宝くじレベルで存在する。死者と生者で分けられてるからな。ただ、同一の存在はあり得ない。人形で増やす事は出来ても、同じ人間で同じ魂の存在は世界に二人も生まれない」
「つまり……?」
「俺が生まれている以上、『俺』は死んでいるか、理想郷のせいで外界に切り離された故にバグが起こってるかの二択だな」
まあ前者が正しいのだろう。
理想郷であろうと、一つの世界に同じ存在は二つも存在しない。例えるなら美遊。並行世界からやってきて、衛宮はそれぞれの世界にはいたが、美遊は同一の存在として二人もいなかった。
まあそういう世界線だからという可能性はあるが、アラヤが動き、抑止力が動いているなら俺はとっくに殺されている。俺を殺せば少なからずは過去であれこれ引っ掻き回されずに済むから。外界にいる以上、手は出さないなら同一の存在が生まれる逆行する前の俺は殺せばいいのだし。
「不死の呪い。そんなの聖杯が無ければ簡単な事じゃないし、魂の物質化ではないにしろ、肉体の不老は第三魔法の域に近い。それを単独で維持できるとは思えない」
「じゃあ」
「英霊になっているかは分からん。功績そのものを偽っていたなら『俺』が出る事は難しい。英霊は信仰にも関わってるからな」
聖杯なら死者蘇生が出来るかもしれないが、やめた方がいいな。抑止力でさえ逃げ切れた『俺』を召喚したらそれこそ抑止力が再び動き出す。そうなったら戦ったとしても聖杯で消費量を軽減されたアルトリアの魔力を俺一人で賄い続ける事になる。維持なら問題はないが、戦うとなると絶対に魔力が足りない。
どうすっか。要するに『俺』に伝えたい事があるなら。
「……じゃあこうしよう。『俺』を召喚するんじゃなくて、俺に『俺』の全てを憑依経験させ、インプットする。それなら『俺』が何を考えていたのか分かるだろ?」
「それでは……貴方が」
「いいよ。俺だって未来の『俺』に興味があるし、知識や技量を憑依したところで本質は同じだ」
記憶、経験、技量だけなら憑依させても問題ない。その人に成り代わるなら呪いまで引き継がれてしまうなら、肉体を変え、引き継ぎするようにすれば行けるはずだ。
さて、どうなるのかな。
俺が二重人格となるか、溶け合って一つの存在になるのか。
「我、聖杯に願う。アルターエゴ、アルトリア・ペンドラゴンの知るブリテンの魔術師、ラスカ・トゥエルフの呪いを除いた経験、技量、記憶を全て我が身に刻め」
聖杯が光り出す。
綺麗な黄金色の輝きと共に聖杯は消失していった。それと同時に、肩に紋様が浮かび上がる。そして次に溢れてきたのは膨大な知識、そして体を軋ませるような神秘の暴力が身体に侵入していく。
「ぐっ……ああああああああああっ!!?」
「ラスカ!?」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
経験から痛みが、技量から魔術回路が、記憶から頭が悲鳴を上げている。ブリテンの神秘を吸収し、円卓にさえ引けを取らない技量と、五指に入るほどの魔術の知識、そして抑止力とさえ渡り合えた戦闘能力が頭の中に直接ぶち込まれていく。
「痛覚遮断……クソッ、ダメだ痛え…!?」
「ラスカ!落ち着きなさい!!」
首を掻き毟りそうになる手をアルトリアが必死に抑え込む。魔術回路が浮き出て、瞳から血が流れるくらいの激痛を気合いで抑え込む。痛む魔術回路を酷使すれば更に激痛が走る為、根性で耐えるしかない。
そうして抑え込む事、十分。
力尽きたようにアルトリアの方へと倒れていく。
「……ハァ、ハァ、ハァ」
「落ち着きましたか、ラスカ」
汗が垂れ流され、痛む身体でまだ動けない。
全身の細胞が痛むし、頭痛が酷くてまだ眩暈がする。
「……硬えな」
「殺しますよ」
「鎧が食い込んでんだ。痛い」
「あっ、そっちですか」
胸の話じゃねえよ。
段々と痛覚遮断が出来始める。まだ魔術回路が痛いし、馴染んでいないが、動くくらいは出来るだろう。
「落ち着いたわ。悪かった」
「いえ、このくらい問題は––––にゃにしゅるんへふか」
「いや、改めてお前だと再確認してるだけだ」
頬を引っ張る。やっぱり変わらない。
強いて言えば、今の俺は若いから身長が同じに見える。それだけだ。みょんみょんと頬を引っ張って離す。
「……なあ、アルトリア。辛かったか?」
「えっ?」
「俺はさ。お前の帰りを待たずにあんな事になったから、お前は俺の為に何年も生きて、それで……最後は自殺して、痛かったろ?」
アルトリアの首を撫でる。
痛かった筈だ。辛かったのだろう。
孤独に耐えられなくて、自傷するなど相当な勇気が無ければ出来ない。怖くて怖くて、それで死んで、願いが叶えられたというのに悔いの残る最期だった筈だ。
ポロポロと、涙が零れ落ちはじめていた。
アルトリアはそれを隠すように胸に飛び込んだ。
「辛かった…です」
「ああ」
「寂しかったです…」
「そうだな」
「会いたかった、だけなのに」
凛々しかった彼女の感情が決壊し始めた。
幾らアルトリアが騎士王だとしても、百年の孤独は辛かったはずだ。人の王は支えられて生きてきた。それが最後には誰にも頼れず、たった一人で解決策を見つけようとした。
一人は辛くて寂しい。
それはアルトリアには重たくて、苦しい旅路だっただろう。
「ごめんなさい…ごめん…なさい」
「謝んな、お前が悪いわけじゃない」
「私の、せいで、貴方は……」
「驕りすぎだ。全部お前のせいだと言われるほど俺は弱くねえよ」
あの時決断したのは俺だ。
抑止力が来るのがわかってて残った以上、アルトリアは悪くない。けど、それでも罪悪感に押し潰されそうになっていた。
「お前は責任感強いからな。悪かった、独りにして」
「……もう、独りにしないで…くれますか?」
「ああ、約束する」
泣いて、迷子になっていた少女の頭に手を当て、軽く撫でながら胸に押しつける。もう悲しくなる事なんてない。本当の意味で二週目となったアルトリアの旅路は終わったのだから。
「おかえり、アルトリア」
涙を流してアルトリアはラスカに縋り付く。
それをラスカは優しく抱きしめた。百年という長い年月を経て、漸く旅路を終えた彼等は再会を果たしたのだった。
「ところで、帰ってきたら何を話すつもりだったんだ?」
「えっ、そ、れは……あの」
涙を流し終えて落ち着いた後、興味本位で聞いたらアルトリアがあたふたして顔を赤く染める。色々と話す事がある。ちゃんと話し合うって、仲直りする言葉は未だ伝えられてなかった訳だし。
「ふぅ……案外、その、緊張するものですね」
アルトリアが優しく俺の両手を握る。
ふわりと笑って、覚悟を決めたような顔をして両眼を見つめる。
「ラスカ、聞いてくれませんか?」
「え、あっ、おう」
あれ、俺結構照れてる?
妹みたいな存在だった奴に心を掻き乱されているような感覚にむず痒くなって、どんな顔すればいいか分からない。
クスリと笑って、アルトリアは告げる。
それは騎士王としてではなく、恋する乙女のように……
「私は――貴方を愛しています」
その後の話はまた今度。
今は、この冷めない頬の熱と、意識させられた恋心に上手く言葉が出せない。ああ、なんか悔しい。コイツに振り回されて、今度は心まで奪われそうになるのが悔しいな。
続きはまたいつか、旅路が終わった二人に祝福の鐘が鳴る時に。
……To be completed
……クラス『
仮にアルトリアルートをまた書くとしたらどんなのがいい?
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激甘でアルトリア絆レベルカンスト
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高校生の青春のような甘酸っぱさ
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微ヤンデレ、依存系アルトリア
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この物語の延長線の家族のような日常
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ラスカから甘えるルート