二周目アルトリアと転生元マスターの逆行譚   作:アステカのキャスター

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 ルーキーランキング一位になりましたありがとうございます。


二話

 

 

 とりあえず現状確認だ。

 円卓会議(仮)に座るのは俺、ラスカ・トゥエルフと未来の知識をインストールしてきたアルトリアと兄貴分のケイだ。

 

 実を言うとケイには速攻でバレたらしい。何なら偽物疑惑すらあったので、もう全部ぶっちゃけたら百面相して頭を抱えていた。因みに俺を連れてきた経緯を話したせいか、正座しているアルトリアの頭に大きなタンコブができている。それも二つ。

 

 

「第一回、心が折れる事から始まる円卓会議(仮)を始めまーす」

「辞退したい」

「アキラメロン」

 

 

 ケイの呟きに死んだ顔で適当に返答する。

 とりあえず言えることは、今はアーサー王伝説のスタート地点にいる訳だ。まだカリバーンは抜いていない。此処まできたらギャラハッドの聖杯探索まで付き合うしかない。

 

 

「えっと、俺はめちゃくちゃ詳しい訳じゃないが、カリバーン抜いた後、マーリンのせいで次期王候補になったんだろ?モルガンの諍いもこっから始まった訳だし」

「まあそうですね」

「そっから卑王ヴォーティガーンと戦うのは何年後だ?」

「大体六年くらいですかね。三年間はマーリンの師事と王の責務の勉強、その後はサクソン人とピクト人との争いだったり、円卓の招集だったりしますし」

「うへぇ。やる事が多過ぎる」

 

 

 もう此処は敢えて修行パートと呼ぼう。

 卑王ヴォーティガーンを倒す事でアルトリアは王として戴冠する。だがアルトリアが修行パートにある内は、ウーサー王がブリテンを統治している。継いだ所で負債だらけ、綻びを細糸で縫い合わせて持ち堪える程度だ。

 

 医療体制に問題があるから騎士の復帰率は上がらず、作物の不足により兵糧も不足し、士気低下どころか民草も飢えがあり、頼りにしていた騎士達の内輪揉めのせいで信じられる者も居なくなる。割と頭を抱える案件ばかりだ。

 

 

「あー、その前にいいか?」

「どうぞケイ、次からは手を挙げるように」

「コイツが王にならない選択肢は無いのか?」

「ぶっちゃけるとキツい」

「何でだ?」

「コイツの姉が問題なんだ。三重人格の支配こそ幸福とかやべえ奴で、継がなきゃ王位継承権はアッチにある。しかも妖精の混血。国滅んでもケロッとしてるだろうな。妖精の力があるし」

 

 

 つか出来レースってのもあるし。

 そもそも、アルトリアの中にあるブリテンの赤き竜の因子はウーサー王とマーリンの画策だ。幻想という看板を背負ったモルガンを取らなかったのは間違ってはいないのだが、逆にモルガンが敵になってもキツいのだ。仮にもグランドクラス候補のマーリンを箱庭に永久に閉じ込めた魔女。その実力と執念は想像を絶するだろう。

 

 

「クソだな」

「ああ、クソくらえだ」

 

 

 人生ハードモードに嘆いても仕方ないのだが、アーサー王伝説は大体クソだ。その言葉を聞いて意気消沈しているアルトリアを横目にため息をつきながら、今後の方針を相談する。

 

 

「となると、やらなきゃいけない事が二つだな」

「何ですか?」

「先ず、知識の導入。もう抑止に引っかかる可能性見えてきてんだが、基礎を固めた後にギャラハッドの聖杯探索で願いを叶えられたら俺はトンズラだ」

「ホントこの阿呆が悪かった」

「そこを悔やんでも仕方ない。阿呆は死んでも治らなかったのを悔め」

「そうだな」

「さっきから二人して毒舌過ぎませんか!?」

「「やらかした結果がコレだろうが。反省しろ」」

 

 

 ホント色々やらかされた。

 命の危険があるのは特に俺だ。この時代に引き寄せた時点で抑止力の介入はあると思ったのだが、そこはマーリンに出会ったら要相談だろう。此処が分岐した並行世界なら100年後の未来存続として認められる可能性もあるし。ただ、史実を下敷きにした二周目なら絶対に抑止力に殺される。

 

 

「もう一つは、マーリンに師事を仰いだ後にウーサー王に推薦してもらう事。知識の導入は結果次第だし、それこそ突如現れた俺の意見なんて戯言に過ぎないだろうしな」

「まあ、そうするしかねぇけど、この馬鹿の推薦じゃ駄目なのか?一応王位継承権はコイツも持ってんだろ?」

 

 

 まあそれはそうなんだが……

 

 

「アーサー王の戴冠まであと六年と半年くらいだろ? 俺は三年くらいしたら先にブリテン行くし。まだ実績がないコイツよりマーリンの方がいいだろう。鍛えてもらって推薦できる程度にはしてもらう。魔術師は貴重だしな。マーリンは屑だがウーサー王の絶大な信頼がある」

 

「……お前本当に十歳か? ぶっちゃけキメェ」

 

「失敬な」

 

 

 まあ中身は違うしな。

 とは言え、不慮の事故とはいえ俺を呼び寄せたのは誤算ながら運がいいのかもしれない。そういえばセイバーの幸運値は高かったな。俺にとっては不幸でしかないが。

 

 

「家系から植物科だったし、それに魔眼もある。この世界じゃ絶大な効果を発揮するだろうしな」

「魔眼? 何かあんのか?」

「ヒ・ミ・ツ♡」

「やっぱキメェ」

「表に出ろ。折角年相応の反応してやったのに」

 

 

 この後めちゃくちゃ河川敷で殴り合った。

 普通に手が届かなくて負けた。年齢差はあるとはいえ身長が高過ぎるんだよ。ちくせう。

 

 

 ★★★★★

 

 

 それから半年が経ち、明日アルトリアは選定の剣であるカリバーンを抜く。幸い、この神秘の世界は俺と相性がいい。結界や箱庭で区切り、植物を育てる魔術のおかげで、家を造れた。アルトリアは女だし流石に同居し続けるわけにはいかない。

 

 俺が使える魔術は結界系の魔術と植物を癒し、成長を促進させる魔術が強みだ。実を言うなら、トゥエルフ家は理想郷(アヴァロン)の研究をする一族だ。一族は理想郷にこそ根源が存在すると信じ、結界で領域を隔て、一部の世界に理想郷を再現するというのが議題だった。

 

 まあ俺からしたら、異世界ファンタジーという事で魔術の技量と知識をスポンジのように吸収し、次期ロードの座も考えられていたのだが、主にあの馬鹿に拉致されたせいで台無しである。

 

 

「ん?どうしたアルトリア」

 

 

 俺の家の大樹の枝に座って空を眺めているアルトリアがいた。

 

 

「いえ、少し星を見ていました」

「明日カリバーン抜くんだろ。さっさと寝ろよ」

「あと少しだけ」

「……ハァ」

 

 

 木を彫って作ったグラスに魔術で作った氷を入れて、酒を注ぐ。何となく不安そうな顔をしていたのが気になり、木々の枝に飛び乗って隣に座る。

 

 

「ほらよ」

「コレは……果実酒ですか?」

「まあな、半年の間に試作した蒸留酒を果実汁(ジュース)で割ったもんだ。寝付きは良くなるぞ、効果はケイで実証済み」

 

 

 ケイに渡したら何回か二日酔いしてるのを見たし。

 ブリテンにはエールやワインはあるが、アルコールが高いものが少ない。蒸留酒や少ないが麦で作ったウイスキーなど、案外アルコールの需要は高い。風邪薬にもなるし、医療では殺菌の効果もあるし。魔術様々である。

 

 この時代に来てから出来る限りの事は試した。

 蒸留酒や木炭だったりはかなり需要が高くなるだろうし、半年も神秘が濃い世界に存在しているのだ。多少、素の身体能力も上がっている気がする。

 

 

Every man and every woman is a star.(すべての男女は星である)

「何ですかその言葉は?」

「イギリスの魔術師の名言。此処まで満天の星空だ。呟きたくもなる」

 

 

 現代とは違い、この時代の星空は絶景だ。

 吟遊詩人というわけでもないが、ただその光景に相応しい言葉をいつの間にか呟いていた。

 

 

「すべての男女は星である……ですか」

「この時代で例えるなら騎士向きだな。本来の輝く魂の周りを黒い闇でおおってしまっている。闇を払えば星のように輝く存在である……それを例えて全ての人間が星と同じ在り方をしてるんだろうな」

 

 

 ある意味、間違ってはいないのだ。

 聖剣は星が用意した最後の幻想(ラスト・ファンタズム)でありながら、その力は人の願いを束ねて放つ想いの結晶。人と星は規模こそ違うが、同じ在り方が存在する。

 

 この世界では、そう言った存在を英雄と呼ぶのだ。

 

 

「あの……辛くありませんか?」

「辛いわ馬鹿。お前のせいだ」

「うっ……すみません」

「……もう割り切ったよ。明日から忙しくなんだ。お前も、俺も、ケイだってな」

 

 

 明日から歴史が始まるのだ。

 此処からブリテンをどう変えていくか、それは最終的にはアルトリア次第だ。俺はあくまで知識を導入し、決めるのは円卓や騎士王のコイツだ。裏方に徹する事がとりあえず重要だ。

 

 果実酒を飲みながら、横目を見やる。

 

 

「なあ、怖いか?」

「は? 何を……」

「王になる事だよ。同じ悲劇を繰り返すかもしれなくて、不安か?」

「!」

 

 

 何となく不安そうに見えたのを隠しているが、半年も一緒に居れば分かるものもある。と言うより、転生者としての記憶の中でもアルトリアは王になっていた事を嘆いていた。カムランの丘で、ただずっと死体の山の上で。

 

 

「少しだけ、不安はあります」

「ああ、そうだな」

「今でも思います。私がまた、王になっていいのか」

「うん」

「……でも、受け入れたくないんです。あんな結末で、多くの民が死んだのに私だけ理想郷へ向かうその愚かさを」

「……だったら、頑張るしかないな」

「はい」

 

 

 コイツに感化されたわけじゃない。 

 寧ろ俺は被害者だ。けど、元マスターとして少しだけコイツの幸福を願っているのもまた事実。まあブリテンに呼んだ事は絶対に許さんがな。

 

 

「まっ、心配すんなよ。此処まで来たら一連托生だ。俺も、ケイもいる訳だし」

「心強いです」

「俺はあくまでギャラハッドの聖杯探索までだ。まあ、その時まで楽しくやろう」

「ええ、頼りにしてます。マスター」

 

 

 抑止力が介入するかもしれない中で、

 案外、亜種聖杯戦争に触媒無しで呼べた事から相性は良かったのかもな。

 

 明日から始まるアーサー王伝説。

 どう乗り越えていくかを考えながら、天を仰ぎながら静かにグラスを揺らしていた。

 

 





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もし番外編がもう一つ書くとするなら?

  • 妖精郷の女王モルガンと賢者ラスカの一日
  • 神聖キャメロットでの槍王とラスカ
  • カルデアでのラスカの奪い合い
  • モルガンかアルトリアの純愛物語
  • IF もし逆行した原因がモルガンだったら

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