二周目アルトリアと転生元マスターの逆行譚 作:アステカのキャスター
「それを手にしたが最後、君は人間ではなくなるよ?」
「いいえ、多くの人が笑っていました。それにこんな私を信じてくれた人達がいた。だから私が例え人間ではなくなっても、決して間違いではないのです」
アルトリア・ペンドラゴンの偉大なる伝説の始まり。
選定の剣カリバーンを抜いたのをこの眼で見た。それはとても神々しくて、何処か儚さを感じさせる。
そしてここから、ブリテンの滅びを覆す逆行英雄譚が始まろうとしていた。
★★★★★
「ぐあっ!?」
「甘いですよラスカ、もっと腰を入れなさい」
現在、マーリンの所で修行パート中である。
午前はアルトリアとの剣の指導。二周目のせいか、剣の特訓は記憶から生じる経験と直感。お前修行必要ないじゃねぇか。
「くそっ、二周目とかズルい! チートじゃんチーター! やり直しを要求する!」
「もうやり直してますが」
身体は小さく、まだ成長段階に過ぎないが間違いなく英霊アルトリア・ペンドラゴンの技量は完成され、なんなら更に洗練されている。強化の魔術を使っているのに軽く受け流され、俺の頭には四つほどタンコブの山がついていた。
「……これ三年でどうにかなるか?」
「私も三年したらヴォーティガーンに挑むつもりですが」
「まだ卑王暴れてなくね?」
時期的にのさばったのは五年後以降だろう。
元人間だったか?竜の血を飲んでブリテンの意思と同化した魔竜、別名『白き竜の化身』だ。とは言え、一周目より楽だろう。もう既に風の魔術の
そういや、聖槍を手にした経緯がよく分からない。
アレは確か世界の表裏を繋ぎ止める鋲とも言える。聖剣と同等の力を持つそれを手に入れた経緯が分からない。
「なあ、アルトリア。『
「……正直な話、マーリンに決戦前に渡されたんです。ですが、渡された時はヴォーティガーンを倒せる程の神秘を感じなかったんです」
「神秘が発現した時は?」
「私が窮地に追いやられ、騎士達が壊滅寸前の時に聖槍が呼んでいた気がしたんです。そして、手にした時にその真名と莫大な神秘を解放することが出来たんです」
それはつまり、卑王ヴォーティガーンが勝利されたら人理の崩壊があった故に世界の表裏の一部が槍に集約した。卑王ヴォーティガーンを倒す結果になったのは聖剣ではなく聖槍だ。いや寧ろ、卑王がブリテンの意思を持っていたからこそ、
聖槍が世界の表裏を繋ぎ止める鋲なら、
「隙あり!」
「甘い」
「へぶっ」
普通にいなされた。
やっぱ二周目アルトリアには隙がねぇ……!
知ってはいた。
知ってはいたけどドヤ顔かますな、ウザってぇ。
★★★★★
午後はマーリンの所で魔術の特訓である。
マーリンの推薦を得るには納得させるだけの強さが必要なので、マーリンの魔術を習っている。運がいいのか、俺の魔術はマーリンの魔術と似ている部分があるので、こちらの成長速度は早い。
「おお……! すげぇ!?」
「やはりね。君はこの時代に来てから
成る程、この時代基準になっているのか。
まあ、現代では魔術の神秘は薄いからな。だがこの世界は神秘に満ちている。妖精、精霊、竜がいる時代であるが故にその世界に生きている自分も世界に適応していく。
「つまり順応って事? まあ、その自覚はあるけど」
「君の植物系統の魔術と結界の区切り。うん、丁度いい。これから君に二つの課題を出そう」
「課題?」
何故だろう。
魔術師としては超一流なのは理解できるのだが、グランドクラスのロクデナシから出される課題とか嫌な予感しかしない。
「一つ。私の魔術である『
「待てコラ。何とんでもない事言ってんの?」
マーリンの魔術の中で最も難易度が高いのは『
言ってしまえば理想郷の基盤とも言えるが、そんな簡単に出来る魔術ではない。これが後にモルガンに理想郷に封じられる魔術で、宝具と昇華した元になるのだが。
「まあ、君にも行使するだけの才能がある。そしてもう一つ、ここより南方にある癒しの泉より妖精の加護を授かってくる事。その二つをクリア出来たらウーサー王に私直々に推薦を出そう」
「妖精の加護……ってマジ?」
「マジ」
「そこまでしたら抑止力引っかからないか?」
「大丈夫。抑止力が乗り込まないように私が細工しといた。寧ろ、抑止力を跳ね除ける為に必要な事でもあるし」
「?」
マーリンは特に抑止力に詳しい。
と言うか、千里眼を通じて此方の事情を知って尚、俺を弟子にした。未来について知っているのはアルトリアと俺以外ならケイとマーリンだ。そのマーリンが細工したとなれば、心強い部分ではあるが、俺の成長が抑止力を跳ね除ける力になる理由が分からない。
……いや待て、よくよく考えたら心当たりがあるじゃん。
「おい、まさかと思うがこの世界の歴史の中に存在したって結果を作って座に登録するとかじゃねぇよな?」
「それが一番効果的なんだけどなぁ」
「……つまりアレか? 抑止力を抑える為に
「そうそう。だから君には是非とも強くなってほしいのさ」
それ遠回しに死ねって言ってるじゃん。
やはりロクデナシだ。キャスパリーグに殴られてしまえ。
「俺に聖杯探索で死ねと?」
「いやいや、聖杯探索で元の世界に帰れば、
「てことは、俺を円卓にでも入れるつもりか?」
「いいや、アーサー王の従者かな。さしずめ、王の影と言った所か」
「安直か」
アーサー王に従者が居た記録はない。
それはつまり
「あと二年と八ヶ月か……」
俺が推薦され、先にブリテンの現状を改善するのには時間がかかる。マーリンの推薦があっても意見をポンと通してくれる筈がない。だが、アルトリアの戴冠の前にある程度の改善をしなくてはならない。ブリテンの神秘が枯渇を始め、土地が痩せ細っていくのをそのままにすれば国はあっという間に滅ぶだろう。
そしてもう一つ。
ペリノア王の戦いが大体四年後、そこから王の権利を得たアルトリアは円卓を招集。卑王ヴォーティガーンとの戦い、そしてウーサー王が死ぬ前にアルトリアが王位を戴冠。
うっっわ、人生ハードモード。
だいたい全部アルトリアが悪い。
★★★★★
そして二年と半年が過ぎた。
剣術の腕も上がり、アルトリアに1289戦1280敗9勝。二年しか経っていないとはいえ、搦め手使っても勝てた回数が一桁って何? 直感が強すぎる。アルトリアはそこらの騎士なら上回ると言っていた。剣術に特化した円卓はどんだけ強いんだよ。
魔術に関しては『
と言う訳で、マーリンの課題である南方にある癒しの泉にいる妖精から加護を得ようとしたのだが……
「……おいおい、これの何処が癒しの泉だって?」
その泉は
汚染と言っても生温い瘴気を放ち、思わず鼻を押さえたくなるくらいの悪臭が漂っていた。近くに来た時にそこらの草木が枯れていたのはそういう事か。
最近、マーリンがウーサー王への報告に忙しいって言っていたが、まさかこれヴォーティガーンが現れる凶兆とか言わないよな?
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もし番外編がもう一つ書くとするなら?
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妖精郷の女王モルガンと賢者ラスカの一日
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神聖キャメロットでの槍王とラスカ
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カルデアでのラスカの奪い合い
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モルガンかアルトリアの純愛物語
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IF もし逆行した原因がモルガンだったら