二周目アルトリアと転生元マスターの逆行譚   作:アステカのキャスター

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五話

 

 

 アルトリアが聖剣を抜き、四年が経った。

 ペリノア王との戦いまであと一年とちょっと。アルトリアがウーサー王との謁見の為にロンディニウムに訪れた。

 

 ウーサー王の死期が近い。

 聖剣を抜いたアルトリアが後継者として戴冠する事になった。俺が知っている史実とは少しのズレが生じているようではあるが、またアルトリアが騎士王になる分には問題がない。

 

 そしてアルトリアは戴冠し、王位継承。

 瞬く間にアルトリアはブリテンを統治する騎士王として君臨する事になった。

 

 

 ★★★★★

 

 

「よし、医療体制の整備の資料まとめといた。死亡率や復帰率を書いて次回報告しろ。ほら次の資料寄越せ」

「は、はい」

 

 

 そんな中で俺はウーサー王が抱えていた負債を着実に埋めていって、社畜である。なんならアルトリアが戴冠した時すら仕事してたぞ。この世界のパラドックスと言えばいいのか、ブリテンの神秘の枯渇の原因を調べてある仮説を立てた。

 

 それは……

 

 

「ラスカ! 此処にいましたか!!」

「おっ、アルトリア。おひさ〜」

「軽すぎます!? 何故王位継承の時居なかったんですか! かなり探しましたよ!!」

「仕事じゃボケェ!! ウーサー王の溜まりに溜まった負債を片っ端から片付けてんの!! 俺これでも六徹なんだよ!!」

 

 

 あまりの辛そうな顔に秘書が涙を流す。

 今テンションが最高にハイってやつだ。瞬きすれば一瞬で眠れる自信がある。アルトリアがドン引きしているが、これも大体お前が原因だボケ。とりあえず秘書さん下がらせた。

 

 ※魔術で脳のアドレナリンを弄ってます。常人が六徹したら確実に死にかけるので良い子は真似しないように。

 

 

「負債が多いのは知ってますが、寝てください」

「あー、この書類書いたら寝るよ。お前はこれ読んでろ」

「これは…神秘の調査資料?」

 

 

 ブリテンの魔術はクソである。

 混血の存在(モルガンやマーリン)や王族ならまだしも、魔術について明るくないのだ。魔術を使える騎士は存在するが精々一工程の魔術程度。魔力を炎や氷に変換させる事くらいしか出来ない。神秘の時代だ、現代に比べたらもっている魔力は破格と言えるが、使い方がなっちゃいない。

 

 単純な知識不足なのだ。

 ブリテンの魔術式を見た感じ、複雑な魔術よりも単純で素早い魔術で圧倒する方に傾いている。この時代の認識が魔術使いなのだ。騎士の脳筋さがここに来るとは思わなかった。知識ベースだけなら現代の方が上だし、手段もかなり上だ。

 

 

「これは推測だが、ブリテンの神秘の枯渇の原因は神秘の管理不足が原因だ。例えるなら作物」

「作物?」

「作物の育て方が結構杜撰、つーか普通じゃあんな管理じゃ育たん。土壌も悪いし。()()()()()()()()()()()()()()()?」

「それは……」

「俺の見解だと、神秘が働いてんだろ。土壌に神秘が宿っているおかげで作物は育ってる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……!?」

 

 

 恐らくだが、聖剣やいずれ手に入れるべき聖杯も、ブリテンの神秘の集約によって生み出されるものなのだろう。聖剣は湖の乙女により、折れたカリバーンをエクスカリバーに変える莫大な神秘が詰まっている。世界の表裏を司る聖槍も然り、神秘とは万能であり、そしてそれを用いた神造兵器は当然ながら破格の性能を持っている。

 

 

「だからそれらの認識を改め、出来る限り神秘の枯渇を止められるように画策してる訳だ。作物然り、騎士達の認識も然りだ。医療体制に食糧の改善、ピクト人とサクソン人の侵攻もやる事山積みな上に金欠だ。ホントブリテンに滅びの概念でも付与されてんじゃねぇのか?」

 

 

 ため息をついた後、書類を書き切る。

 もう羽ペンがうぜえし、限界だ。腕も疲れてるを通り越して痺れてるし。

 

 

「うっし、終わりだ。俺は…寝………」

「ラスカ!?」

 

 

 とりあえず前世より社畜なのは断じて許さん。

 大体全部アルトリアが悪い、と思いながら俺の意識は此処で途絶えた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 私は王となった。

 滅びが待つこのブリテンで再び私は騎士王として。戴冠式の時、私が不覚にも巻き込んでしまったマスターであるラスカが居なかった。

 

 王として戴冠する前、ロンディニウムの街を見ていた。私が統治していた時より活気があって誰もが笑っていた。

 

 露店に行けば猪の串焼きや果物、作物が売られていた。市場には魚まで売っていたし、服も綺麗だ。川で洗濯しただけでは落ちない汚れとかがついてるのをよく目にしたのに。買った林檎を齧ると水々しく、とても上質なものだった。

 

 孤児院や修道院などには当然孤児がいた。

 ブリテンでは珍しくない光景だ。しかし、孤児だからといって貧しい訳でもなく、寧ろ孤児同士で友達を作り、笑い合っていた。

 

 孤児院の子供が畑仕事を手伝っているのだ。

 働いた事によりお給金が出て、キチンと食事も取れる。働き手がない人間に働く場所をいくつも生み出している。

 

 

「……凄い」

 

 

 ラスカが先に行った事は知っていたが、ここまで改善されているとは思わなかった。経済がしっかり回っている。ウーサー王の引き継ぎではこれすら大変だったのに。しかもきっちりラスカの名前を出さずに別のスケープゴートを作っている辺り抜かりない。

 

 しかし、当の本人の所に尋ねてみると六徹という状況である。目に見えて無理していた。連れてきた私が彼をここまで無茶させていたのだ。

 

 倒れた彼をベッドに寝かせて軽く額を撫でる。

 整った顔立ちに灰色の髪、こうして見るとやはり子供にしか見えない。中身はアレだが、身体は十五歳だ。マーリンの推薦のおかげで今の地位があるが……

 

 

「すみませんラスカ。貴方のおかげで今のブリテンが保たれている事に感謝してもしきれません」

 

 

 それでも、アルトリアと同じ子供だ。

 いや、二周目まで考えたらアルトリアの方が歳上ではあるが、まだ子供。そんな子供に押し付けた自分の愚かさもあるが、それでもマスターは応えてくれた。私の願いを叶えてくれている事に尊敬と感謝を胸に彼が寝ている所を静かに眺めていた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「やあ」

■■■■(ピー)――」

 

 

 夢の中で濁さなければならない程に汚い言葉を吐きながら、マーリンに貰った杖を振りかぶった。マーリンから聖剣のデッドコピーと、魔術用の杖を貰えたことは感謝しているが、竜の妖精の件に関しては話は別だ。アイツその事察して帰ったときには逃げてやがったし。

 

 

「……六徹の俺に何の用だマーリン」

「少し僕の方から調べたいことがあってね」

「俺に?」

「はい、動かない」

 

 

 背中に手を回されて抱き締められた。

 おい、俺に同性愛の趣味はないぞ。あっ、でもいい匂いがする。めっちゃ花のフローラルな匂いがちょっとムカつく。

 

 魔術回路に触れられ、ゾワゾワする。

 つか無駄に顔がいいから男なのに照れてしまうだろうが。

 

 

「……やはりそうか」

「あっ?」

「私はね。君がロンディニウムの街を変えた時点で抑止力が僅かながら働くと睨んでいたんだけど、それが全く起きてない」

「……どういう事だ? いや、あくまで引き継ぎ程度なら起きないと思ったんだが」

「未来の知識を持ってきているなら必ず起きる現象さ。それが起きていないという事は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 意味が分からなかった。

 そんな事はあり得ない。俺はあくまでこの歴史を把握したのち、崩壊に繋がる部分をアルトリアに未然に防いだ後、ギャラハッドの聖杯探索であばよとっつぁんの予定だが。

 

 

「……いやいや、持ってきた知識を上手くやりくりして、大幅改変はしなかったから介入は薄い…というなら分かるけど排除対象として見てない?」

「私も疑問に思ったんだけど、君の肉体と魂がズレている。君のその知識は魔眼だけじゃないんだろう? ()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 そりゃあ原作で……いや待て。

 この世界を作ったとされる人間が居た世界からやってきた。

 

 ()()()()()()()()()()()

 地球、さらに言えばその一円に類する内的宇宙に連なる真理から外れた、異邦から呼び寄せられた存在は言わば『世界観を乱す者』とも形容される。

 

 

「(――――それって降臨者(フォーリナー)じゃね?)」

 

 

 FGO世界でいう所の特殊クラス。

 邪神の狂気を封入し、狂気を呑み込みながら純粋さを保ち続ける。邪神は英霊の座からしか介入出来ない筈。だが、召喚されてしまえば地球と違う存在であるため()()()()()()()()人理修復機関(カルデア)はなんかどうにかしてたけど。

 

 俺は英霊ではないし、仮にアーサー王伝説で英霊の座を獲得出来たとしてもそれはまだ先の話だ。

 

 

「(いや、でも割と共通点あるぞ……?)」

 

 

 俺の状況と降臨者(フォーリナー)の特徴が似ている。

 俺の魂はこの世界で言うところの世界の創造主、型月を生み出した綴り手が居た世界より来ている。言わば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「(そもそも邪神さえ設定作ったのだってあっちの世界の人だし、死んでこの世界に転生しようとするなら秩序ある神じゃなくて邪神の方が納得出来る。邪神を生み出した世界にいた故に降臨者と同じ条件で転生した?)」

 

 

 そう考えると魔眼も納得出来る。

 これが何処から送られる知識なのか。根源ならば全知全能なのに、そうじゃないという事は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 いや、だとしたらキメェな。

 邪神が魔眼を通してストーカー紛いの行為をしながらSiriしてるってキメェ。鳥肌立つわ。

 

 

「いや考えすぎじゃね? あり得んの? 俺の肉体はこの世界で生まれている。なら抑止力に引っ掛かるんじゃねぇの?」

「そう、完全じゃない。恐らく、この世界とは違う存在の魂であるからアラヤが干渉しにくいだけで、アーサー王の物語を改変させ過ぎるとバレる。私の幻術もあってバレてないだけだし、スケープゴートはしっかりしているんだろ?」

「まあな」

 

 

 一応、発案者を別の人間にしてスケープゴートとしている。

 ウーサー王も未来の知識ならまだしも、それは知っている。変に騙って処刑されたら困るし。

 

 抑止力には引っ掛かる対象ではあるが、観測外の魂ゆえに測りかねているという事なのか? まあそれはとりあえず置いておこう。どうせ深読みしても妄想でしかねぇし。

 

 

「それで……そこは理解した。で? ()()()?」

 

 

 マーリンの事だ。それだけの為にわざわざ夢の中に干渉しないだろう。つーか、絶対対面したら俺が殴るって知って日和ったな。絶対今度髪剃ってやる。

 

 

「卑王が目覚めた」

「えっ……マジ?」

 

 

 おいそれは予想外すぎる。

 ペリノア王との邂逅を果たし、ロット王の撃破された後くらいにガウェインにペリノア王が暗殺され。その後くらいだろ卑王ヴォーティガーンの討伐。

 

 その話が本当なら竜の成熟まで三〜五年くらいか? ロット王の戦いの後を考えると更に一年は必要だ。兵糧とか準備が手間取るし。だが、アルトリアが聞いた話とズレてる。順当に行けばアルトリアとの邂逅の時はまだ幼体だ。

 

 

「まだ幼体さ。放っておいても影響はまだそんなにない。まあ、まだアルトリアでも勝てないのは事実だが」

「幼体クラスでそんなヤベェの?」

「知識があったところでカリバーンで勝てる相手じゃないね」

 

 

 白き魔竜は霊墓アルビオンの名前があるくらい有名な奴だ。実際、軍を率いたアルトリアは円卓以外の騎士は全滅してるし。アルトリアが騎士王になった事で円卓の収集も始まっているし、今は藪を突くと大変な目に遭う。

 

 

「……ペリノア王は? どんな感じなの? 『唸る獣』を探す旅だったか?」

「今は馬に乗って探してるね」

「あっ、そう」

 

 

 ペリノア王に関しては問題ないか。

 卑王が目覚めた以上、俺が知っている史実と少しズレているが、この後の展開としてはこんな感じか?

 

 現在  アルトリア戴冠、円卓招集。

        ↓

 一年後 ペリノア王との邂逅、カリバーン折る。

        ↓

 二年後 ロット王撃破、ペリノア王暗殺。

        ↓

 三年後 卑王ヴォーティガーンの討伐。

 

 

 詳しい年号が分からないのは以下の事件。

 つーか、もっと勉強しとけばよかった。多分順番的にはこんな感じか。

 

 ■年前? ランスロットとエレイン姫

 ■年後  トリスタン円卓を去る

 ■年後  ギャラハッド聖杯探索

 ■年後  ランスロットとギネヴィア王妃

 ■年後  アグラヴェイン、ガレス殺害

 ■年後  ランスロットの離反

 ■年後  モードレッドの叛逆

 ■年後  カムランの丘、ブリテン崩壊、サクソン人の侵略

 ■年後  エクスカリバー返還、理想郷へGO

 

 

 うっっわ絶望ですねありがとうございます。

 これブリテンの神秘の枯渇による崩壊と円卓の仲違いが板挟みになってやがる。難易度ルナティック超えてやがるよ。絶望しかねぇよ。

 

 とりあえず頭を痛めながらも俺は今後どうやって生き延びるか考えていた。

 

 

 




 
 次回 卑王 対 円卓+1

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もし番外編がもう一つ書くとするなら?

  • 妖精郷の女王モルガンと賢者ラスカの一日
  • 神聖キャメロットでの槍王とラスカ
  • カルデアでのラスカの奪い合い
  • モルガンかアルトリアの純愛物語
  • IF もし逆行した原因がモルガンだったら

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