二周目アルトリアと転生元マスターの逆行譚 作:アステカのキャスター
きのこさん、貴方はとんでもないものを盗んでいきましたね。私の心を。めちゃくちゃ感動した。めっちゃいい話だった。
と言う訳で六話です。では行こう。
「円卓収集してペリノア王を引き込んでロット王を倒したのはうん。褒めてやる」
「何で上から目線なんですか?」
「お前が戦争している間、統治を代わって財政難と戦ってたのは俺だ。アホ毛抜くぞコラ」
「これはアホ毛ではありません!」
二年が経った。
ペリノア王を引き込んでロット王との戦いに勝利したのは史実通りだ。その間めちゃくちゃ大変だったからな? 特に、ランスロットとエレイン姫が既に出来ていたからガチ大変だった。まあ、ギャラハッドが生まれるまでとりあえずはロンディニウムから離れた場所で暮らしてもらっている。
ペリノア王についてはランスロットに盛大にビンタした後、エレイン姫に盛大にビンタされた。と言うかエレイン姫結構怒ってたな。ペリノア王に呪いをかけたのをガウェインが確認し、案外スカッとしているからガヴェインからの暗殺はないだろう。
どんな呪いか? 女癖の悪さが出ると男として死ぬ呪いだ。具体的に明言するとR18になるから言わないが。こればかりは俺の腹筋が死んで、ガウェインは憐れみの目を向けていた。
「ペリノア王の騒動はエレイン姫の盛大なビンタと呪いでどうにかなったが、俺の胃が何回潰される羽目になったか。反省しなさい」
「いやそれ私関係ありませんよね?」
「馬鹿野郎。仲間ならちゃんと秘めた想いくらい理解しとけ。人の心が分からないとか言われたことあんだろ。そのせいで失敗してんのに二周目で学ばないなんて馬鹿の極みだろうが」
ぐうの音も出ないド正論にアルトリアは思わず胸を押さえて膝をついた。コイツもしかしてコミュ障なのかと思うくらい自分の腹の内を明かさないから失敗したんだろうに。冨岡かお前は。そんなんだから崩壊する原因作ったんだよ。
「ペリノア王と暗殺とエレイン姫のデキちゃった婚はどうにかした。『王の見えざる手』に入れているからとりあえずは一段落ついた」
アーサー王の下、俺管轄の部隊である『王の見えざる手』は円卓とは別の形で俺のアーサー王物語の史実に沿わなかった時に動く騎士だ。ペリノア王は一騎当千だし、エレイン姫は魔術の天才、才覚で言えばマーリンと同等だ。
ペリノアが円卓に入ると亀裂とか諍いがありそうなのでとりあえず別部隊をアルトリアに作ってもらった。抑止力? そこはマーリンが幻術で
「で?
「……ペリノアに普通に技量で勝ったので」
「盛大に折ってこい。花火のように」
「無茶言わないでください!?」
卑王に勝つにはカリバーンでは駄目だ。
とは言えエクスカリバーも通用しないんだが、カリバーンよりはマシだ。湖の乙女にどうやって説明しよう。卑王倒したいからエクスカリバーにしてくださいなんて言えるか?
いや、まあ行けそうな気はする。卑王を殺さなければ結局ブリテンに居る精霊も妖精も全滅だ。とにかく卑王戦はマーリンの代わりに俺まで出なきゃいけないし。
「……ギネヴィア王妃についての問題は?」
「ええ、私のせいで傷付けるなら遠ざけた方がいいでしょう。名前は借りますが、ギネヴィア王妃という存在は架空の存在としてでっち上げます」
「……画策した俺が言うのも何だが、このハッタリでモルガンがモードレッドを創るかどうかは賭けだ。男尊女卑が大きいこの時代、お前が女である事は明かしちゃいけないのは事実。卑王倒した後、モードレッドが生まれなかったらどうする?」
アーサー王の世継ぎの為にモルガンを騙す。
ギネヴィア王妃という
逆にそれを利用してモードレッドを生み出されたのち、アーサー王の王位継承者として育て上げる。王としての器? んなもん磨けばどうにかなるだろ。幸い、エレイン姫と俺、マーリンがいる訳だ。寿命についても幾分かなんとか出来る考えはある。
「……王位継承者を私が産むしかないでしょう。その時は王妃の立場に男を置いてあべこべにして」
「それは王としての判断としては間違ってないが、アテあんの?」
「ないです」
「……それ絶対成功させなきゃいけないじゃん。モルガンにギネヴィア王妃がいない事をバレないように画策すんの大変なんだよ。マーリンの幻術と俺の結界で保つか……ハァ」
覇気がないし、やる気もない。
正直な話、
「なあ、アルトリア」
「何ですか?」
「俺、最近モルガンと会ったよ」
「!」
「史実通りに進めた以上、やっぱりお前を憎んでいる」
アルトリアがロット王を倒した時だった。
あの時、ロンディニウムにモルガンが居たのだ。少しだけモルガンと会話して、アイツの内情を知った。
憎悪がある以上、もう和解など出来るはずがない。王位継承から既に道を違え、ロット王の敗北と共にアルトリアは騎士王として名を上げた。ブリテンの支配者と言っても過言ではない故にモルガンはアルトリアを憎んでいる。
「俺さ、アイツの顔見て自分のやってる事に嫌気が差してる。お前を王にする為にモルガンを犠牲にしてるみたいな、
モルガンとアルトリアを和解させるなんて事は無理だ。
モルガンを王にすれば卑王戦で恐らくブリテンは滅びるだろう。だからといって、悲劇が約束された結末を変えようと奔走しているのに、俺はモルガンだけは悲劇の中に閉じ込めている。
モルガンは魔女だ。
だからといって、一方的にモルガンが望んだ人生を潰す。それはハッキリ言って
「……このままアイツを掌の上で転がすのが、少しだけ苦しい」
ずっと、胸の内に抱えている。
罪悪感が胸を締め付ける。俺はマーリンのようにはなれない。当事者となれば尚更だ。知っているからこそ辛い事もある。知っているからこそ、未来を潰す事に辛いと思ってしまっている。
それでも俺はアルトリアを選んだ。アルトリアの二周目を果たす為にブリテンを支えている。それを放棄したくない。
辛い顔して俯いていると、アルトリアが軽く俺の頭を胸元に抱き寄せた。
「……アルトリア?」
「すみません。私の贖罪を貴方に背負わせて」
アルトリアはそれ以上何も言わなかった。
涙は出ない。けど、心は痛くて堪らない。ただその痛みだけが罪となるなら、もっと痛くてもいい。
優しくはなれない、非情になりきれない自分が今は嫌いだった。
★★★★★
ブリテンを脅かす厄災。
卑王ヴォーティガーンはハッキリ言って次元が違う。一度目を経験しているアルトリアはその力を知り、多くの損害を出さないように騎士達に告げた。
「聞け! 我が騎士達よ! 此度我等が戦うはブリテンを脅かす厄災の化身! 名を卑王ヴォーティガーン!! 奴には生半可な力では対抗出来ないとマーリンは推測した!! 故に、卑王ヴォーティガーンと戦うのは円卓の騎士、そしてそれに認められた者を厳選した60名で討伐を行う!!」
騎士達の数が少ない。
それは、騎士達の損失を考えた故の結果。一度目に経験した卑王ヴォーティガーンとの戦いにおいて、円卓を除いた騎士達は蟻のように踏み潰された。保有する神秘量を考えても、通常の騎士の持つ神秘では傷付ける事すら出来ない。
「選ばれなかった騎士達は円卓の騎士達を筆頭に後方支援に回れ。これは生きる為の戦いであり、選ばれなかったとてそれは恥じる事では無い!! 共にブリテンを守るのだ!!」
騎士の雄叫びが上がる。
カリスマによって指揮を高めたが、60人となれば騎士の二十分の一程度。犠牲とはいかないが、ヴォーティガーンの力を考えて対抗出来る人間を選出したらそれくらいしかいないのだ。
ちゃんとエクスカリバーも手に入れ、円卓もランスロット、ガレス、ギャラハッド、アグラヴェイン、モードレッドを除いた全員が揃っている。
因みに『王の見えざる手』からもちゃんとペリノア王を選出。経産婦であるエレノア姫も一応後方支援に回ってくれている。ただ、ペリノア王がトドメを刺す事が出来ない。
「……メア。聞こえる?」
『はいはーい! コッチでも魔力はめちゃくちゃ溜めといたから私を通して供給可能だよ!』
「ありがとう」
メアリージェが居る癒しの泉より魔力を溜め込んでいるから心置きなく魔術が使える。メアリージェ自身は此処に来れないのも抑止力だ。俺はマーリンと立場を入れ替えて騙っている故に介入可能。ペリノアはトドメさえ刺さなければ選出された騎士に紛れるという形のみの介入。エレノア姫については元々居ないから後方支援に行かせたし。
恐らく此処で負けたらこの歴史は終わりだ。
敗走は出来ない上に二度目は無い。マーリンが行っている抑止力の欺きはある程度歴史に沿わなければ成立しない。敗北は抑止力が確実に修正を入れ込める。まあ負けたら負けたで特異点化か剪定事象でこの世界は終わる可能性はあるけど。
「――いよいよか」
準備は万全に仕上げた。
卑王ヴォーティガーンとの戦いが始まる。
次回、卑王戦。デュエルスタンバイ!
良かったら感想評価お願いします。
もし番外編がもう一つ書くとするなら?
-
妖精郷の女王モルガンと賢者ラスカの一日
-
神聖キャメロットでの槍王とラスカ
-
カルデアでのラスカの奪い合い
-
モルガンかアルトリアの純愛物語
-
IF もし逆行した原因がモルガンだったら