二周目アルトリアと転生元マスターの逆行譚 作:アステカのキャスター
サクサク進んでいきます。では行こう。
卑王ヴォーティガーンを倒し、ブリテンに白亜の城キャメロットが出来上がった。そこからブリテンは変わり始めた。キャメロットは栄え、ラスカの政策のおかげで一時的とは言え他の土地も豊かになり、神秘の枯渇は未だ無い。
キャメロットも出来た。
神秘が枯れ果てる事を想定し、どうやったら作物がしっかり育つのかも研究したおかげで作物は豊作、しかも特産品の栽培に成功したことでフランスから一々高値で食料を買うどころか輸入と輸出のバランスがしっかり取れて安定している。
キャメロット以外でも景気が良くなり、孤児も減り働く場所が増えた事により都市が回る。その為に奮闘した俺とアグラヴェインとベディヴィエール、ケイを褒めてほしい。
まあ何がいいたいかと言うと、束の間の平和である。
侵攻問題、モードレッドの問題はあるが卑王を倒して、その後六徹をしてでも頑張った以上、5日ほど休暇を貰っているのだ。『王の見えざる手』も今はエレインがどうにかしてくれてるし。まあ実質三人しかいないからどうにかするまでもないし。
と言うわけで絶賛二度寝中である。
メアリージェも久しぶりに会って構ってやれなかった分、添い寝している。猫を抱いている気分で人肌の温もりにメアも熟睡中である。あと二十時間は眠れる。
「ラスカ起きなさい!」
「ふみゅ……毛布剥ぎ取らないでよ」
黒い寝巻きを着て寝ているメアが寒がってラスカに抱きついてくる。側から見たら完全に事案である。紫がかった艶のある白銀の髪に顔を埋めてスヤスヤとラスカも眠っているが、アルトリアが起しにくると毛布にしがみつきながら目を開けずに返答する。
「……ああ、なんら?おれはきゅーかちゅーだぞ」
「いくらなんでも寝過ぎです!もう丸一日経ってますよ!?」
「うるせーねかせろ。もうろくてつやだ」
語彙力が死んでいる。
アグラヴェインもケイも休暇は寝てるか酒飲んでるかの二択だ。ぶっちゃけ気力を使い果たしている中で遊ぶとかそう言った考えが浮かぶ前に眠気が勝った。なのでみんな仲良くスヤァである。
「ほら起きなさい、昼食持ってきたんですから」
「あとで……」
「ほら、休んでていいですからご飯だけは食べなさい」
「んもーうるさい」
メアがアルトリアの袖を掴んでベッドに引っ張る。
メアの筋力値はサーヴァント評価で表すならAである。アルトリアも同じ筋力値かもしれないが油断して引っ張られベッドに倒れ込む。
「んー、いいにおい」
「ちょっ、メア!?ラスカ、いい加減起き––––」
「うるせー」
「ふぎゅっ!?」
ラスカも寝ぼけたままメアを挟みながらアルトリアを抱き寄せて黙らせる。流れるようにアルトリアを抱きしめて毛布に包まり熟睡する。心なしかお日様の匂いがして心地よくスヤスヤと眠り始めたラスカとメア。アルトリアは頰を赤く染めて口をパクパクと、顔の近さにどうすればいいか分からずに抱き枕にされた。
「ちょちょ、ラスカ!メアも!」
「んー」
「ひゃっ!?メア、胸に手を突っ込まな––––」
今度はラスカがアルトリアの髪に顔を埋める。
アルトリアは暴れてでも離れたいが、疲れ切っているラスカを見て、起こそうとしていた意思が揺らいでいた。
アルトリアが最近、ラスカを少しだけ異性として意識し始めてしまった。というのも卑王ヴォーディガーンを倒した後から僅かながら、ラスカに少しだけ惹かれてしまっている。自覚はないが、何故か本人を前にすると目を合わせられなかったりするのだ。
「……本当、なんででしょうね」
目を瞑っている時は大丈夫なのに。
長く伸びたラスカの灰色の髪を触りながら、アルトリアは人肌の心地よさにいつの間にか瞳を閉じていた。
★★★★★
意識が無理矢理覚醒させられた。
気を失った瞬間に発動する
「痛っ……!」
当然ながら痛みは避けられない。
気を失った瞬間、少しでも逃げられる可能性を増やす為に刻んだのだが、逆に今は眠りたかった。身体が重く、瞼を閉じれば眠る事が出来るが、卑王の死を確認するまでは意識を落とすのは危険だった。
杖に縋りながらも立ち上がり、卑王の最後の言葉に耳を傾けた。
『愚か者どもめ。暴君を討つために更なる滅びを引き寄せるとは。我が弟、ウーサーの仔よ。お前ではこの国は救えない』
『何故なら——もう神秘の時代は終わったのだ』
『この先は文明の時代、人間の時代だ』
『お前の根底にある力は人間とは相入れない』
『——お前がいる限りブリテンに未来はない』
そう告げた老人が高笑いしている。
身体は徐々に塵と化し、滅びていく。
「お前、案外優しいんだな」
『––––何?』
「お前がブリテンの意思だったのなら、アーサー王が全盛期の前に摘み取れた筈だ。それをしなかったのは、人を完全に滅ぼすわけには行かなかったからだろ?」
これは皮肉だ。
ただ敗者を貶める最低の言葉。騎士道に反した敗者を見下し侮辱する行為に他ならない。だが相手は卑王、慈悲の欠片も無く見下す。
「人類を滅ぼすって事は世界を滅ぼすと同義だ。お前がブリテン島の神秘を人類に踏み躙らせたくなかった気持ちもあったんだろうが、それでも全ての人間を摘み取らなかった。ウーサー王がお前に挑んだならその脅威を全て根絶やしにしちまえばブリテン島はお前の思う通りになったのに」
弱者の遠吠えを鼻で笑うように皮肉を告げる。
恐れていたのが馬鹿らしいくらいに清々しく、笑ってやった。
「案外人間に甘いんだな、卑王」
『––––貴様』
「お前と同じ皮肉を語ったまでだ。それに––––」
隣に立ち、乱雑に頭を撫でる。
髪がぐしゃぐしゃになった元凶に王は憤慨しながらも、それを無視して卑王に最後の宣言を告げる。
これは勝利宣言だ。
此処より先は卑王の想像した未来は訪れない。
「この馬鹿は神秘の時代の王にしねえよ。騎士達の王で人の王だ。お前の思い通りになんかなってやらねえよ。精々島の意思となって見届けてろ」
卑王が言っていた結末をアルトリアは一度経験している。
そんな事は起きないし、起こさせない。何故なら此処には俺がいるからだ。俺が居たところでブリテンが変わる訳じゃない。世界がねじ曲がるなんて容易いものではない。
ただ、在り方は変えられる。
俺はアルトリアがどう在りたいのか。どう在れば民の…人々の王として立ち上がれるのかだけは知っている。
アルトリアに王なんて似合わない。
王の素質なんてありはしない。あるのは力だけだ。全てに完璧な王なんて存在しても何処かで瓦解する。
だから王は孤高じゃなくていい。
頼れる誰かが居ればいい。それが俺でもいい、円卓でもいい。支え合う事こそ王として在り続けられるものだと信じてる。
『––––ほざいたな小僧。ならばやってみるがいい』
老人は最後の皮肉を告げる。
卑王は朽ち果て、ブリテンの意思を束ねた怪物は塵に還る。
『このブリテンの逃れようの無い終焉が訪れる事に絶望しながら、死にゆく民の山を積み、無様に生き続けるがいい』
最後は卑王が不気味に嗤いながら塵となった。
「ああ、無様に生きてやるよ。––––あばよ卑王」
卑王の消滅が確認されると騎士達の怒号じみた叫びが戦場の跡地に轟いた。この日、騎士達は多くの被害を出さず、卑王ヴォーティガーンを打ち破ったのだ。
その凱旋は高らかで、少し眩しい。
俺は当然その参列には入らなかった。マーリンという役を演じてる存在は世界に認識されたら消されかねない。
今回の一件でもギリギリなのだ。
抑止力が介入する可能性が一番高いし、マーリンの幻術だって幾ら精巧でも誤魔化しきれない。
「………っ」
とりあえずはまあ、お疲れ様って事で。
疲労と魔力不足と痛みの誤魔化しはもう効かず、気張っていた気力を使い果たし意識を失った。
★★★★★
そうしてラスカは眼を覚ます。
メアが胸に張り付いているせいか少し寝苦しかったが、いつもの倍は眠る事が出来て寝ぼけた視界が鮮明になっていく。
「……ん?」
金髪のアホ毛が揺れていた。
いや、というより俺のベッドにアルトリアが寝てやがる。冷めた昼食を見て大体察したが、アルトリア無防備かよ。お前俺も男だと自覚しろよ。据え膳かと思っちまうだろ。
と、脳内で色々な思いが走馬灯のように駆け巡り、混乱し、頭を抱えている。ちょっぴり赤面である。そりゃそうだろ。コイツ外見は美人なんだし、そんな女の子が添い寝って恥ずかしくない?
というか、まあ何というか。
今更アルトリアをそう見たらなんか負けた気がする。いやまあ美人だよ?だけど好きとかそんな感情を持ったら負けた気しかしないから却下で。この子基本的に脳筋だし。何なら俺、
「……おら、メア起きろ。流石に四十時間寝たらスッキリだろ」
「……んー」
まだ寝るのかよ。
白亜の城が出来て、王宮暮らしとなったのはありがたいが、此処は広すぎる。アルトリアに毛布を掛けて、冷めたスープを胃に流し込み干し肉を齧りながら肩掛けを羽織り、修練場に向かう。
キャメロットが出来て変わった事は二つ。
一つは神秘の枯渇が大幅に遅れている事だ。それは俺の政策でもある。土壌改善も環境整備も俺の魔術の範囲内だ。神秘に頼りすぎない生き方を模索し始めた以上、約束された滅びもそう短い内には来ないだろう。
そしてもう一つは……
「おー、師匠じゃねぇか!」
「一週間ぶりですね、先生」
新しい騎士が入った事だ。
叛逆の騎士モードレッドと高潔な騎士ギャラハッドだ。というよりエレイン姫と職場同じだからギャラハッドについては顔見知りで、勉学も暇があったら教えてたし。
まあ他にもガレスとかも、偶に一緒に厨房で賄い食べたりする。俺が作った方が美味いし。
「おー、久しぶりだな。なんだ?こんな時間まで特訓か?」
「まーな。この盾野郎とオレのどっちが早く円卓になれるか競争してんだ」
「負けず嫌いはアイツ譲りか。まっ、お前らなら直ぐに円卓に入れるだろ」
「本当か!?」
「おう、まあ…まず俺に一太刀入れる事からだがな」
俺はモードレッドの剣の師匠として教える事をアルトリアから頼まれている。仕事増やした事は許さんが、モードレッドは最重要危険人物であり、後継者の最有力候補でもある。とは言え精神はまだ幼いし、覚えなきゃいけない事が多いから俺が先生の立場のようになっている。幸い、俺の剣技はアルトリアの剣技に一番近いし円卓にも通用する。教える分は問題ない。まあランスロットとガウェインには勝てないけど。
「しっかし、ギャラハッドもデカくなったな」
「ちょっ、汗臭くなりますよ?」
頭撫でながら身長を軽く測る。
俺は175センチはある。ギャラハッドは十三歳という中で盾を持ち、その強さと清廉さで呪いの盾を浄化し、騎士として最年少で入っている。もう170センチ超えてやがる。なんならすぐに俺を超えるぞ。まあ俺も大きい方だと思うが、ランスロットとかガウェインとかもかなり高身長だしな。
「つーか、師匠!一回戦おうぜ!今日こそ一太刀入れてやるからさ!」
「悪いな。明日にしてくれ。その代わり明日は全力で戦ってやるから」
「約束だぞ!」
手をヒラヒラと振りながらその場を後にする。
あと三年。その間にモードレッドが先に円卓に入り、そしてギャラハッドが十三の席に着き、聖杯探索へと向かう。
蛮族の進行も俺が居れば少数精鋭で殲滅出来る。
抑止力が現れない事だけは恐らくマーリンだけじゃないんだろうけど、油断は出来ない。
「あと三年かぁ……」
意外と感慨深いものだ。
あと三年でブリテンを離れて俺は普通の人生に戻る。此処までやってきたのはその時の為と言っても過言ではない。だから、このブリテンを出来る限り変えた。医療も農業も神秘が終わっても存続できるように。
『ええ、頼りにしてます。マスター』
俺はあの時、頼られた。
頼られたから此処まで走ってきた。そこにどんな感情があったのかはわからない。疲れもしたし、匙を投げ出したくもなった。けど不思議と絶望はなかった。アルトリアと鍛えて、マーリンに魔術を教わって、メアと出会って、卑王も倒して、キャメロットも出来た。
モードレッドもいる。
アルトリアは人の心というのを理解し始め、円卓の騎士達と仲を深めている。
これでいい。これなら俺が居なくなっても……
「………っ」
これでいい筈なのに。
俺が居なくなるのは当たり前なのに。
どうしようもなく胸が痛くなった。
それは一体何故なのか、自分でも理解出来ない。ただ、今まで走って来た道のりを振り返って思い返せば。
『––––––––––––』
あの馬鹿の顔が頭の中でチラついて離れなかった。
良かったら感想評価お願いします。
もし番外編がもう一つ書くとするなら?
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