『えー、マイクチェック、アン・ドゥ・トロワ……よーしども解説の明石大地です』
『……同じく解説の春海オルガ、です』
『今日は原作第2話、神社で巨大なわんちゃんが暴れるお話ということで特番を組んでいます』
『……大きなわんちゃん、楽しみ』
『本来登場しないはずの王道オリ主相良君に飛び入り参加の予期せぬダークホースもやし君、そして我らが踏み台マックスの3名がここでどう動くか、今回は非常に見ものですねえ』
「………」
『………』
『……?』
『ほらっ、一言喋ってよマックス!ノリが悪いなあ』
「五月蠅い!お前たちだけ安全圏に逃げ込みやがって畜生!」
頭に葉っぱや木くずをつけたマックスは怒鳴る様に念話で吠える。
「(ったく、なんで俺がこんな目に……)」
魔砲少女爆誕の翌日、マックスは1人で次のジュエルシードが出る神社の茂みに身を潜めていた。
いつも一緒に行動しているはずの2人の姿はマックスの周囲には見当たらない。
それもそのはず、大地とオルガは勝手知ったる第二の我が家となりつつあるマックスの部屋から念話を飛ばしていた。
なお神社の映像はマックスのデバイスから中継されてテレビに映っている。
茂みに身を潜めて早1時間、春先とはいえ虫が出てきているこの季節に茂みにいることはマックスには非常に苦痛でしかない。
しかし、家に戻ろうにも戻れない理由が彼の足をその場に留めていたのだった。
そんなマックスの心内を読んだかのように大地がのんびりと念話を送ってくる。
『公平なじゃんけんの結果なんだからしょうがないじゃん、往生際の悪い男はモテないぞー』
今回は珍しくマックス本人から大地とオルガに勝負を持ちかけていた。
昨日の砲撃が脳裏にこびり付いてからの行動であり、死なばもろともの精神で『一人ぼっちは、寂しいもんな……』と暗い顔をしたマックスに二人は拒み切れず勝負に乗った。
結果は既に分かっているようにマックスの惨敗、大地は己のレアスキルである3秒先を見渡す能力で、オルガは純粋に運で勝った。
すっかり大地のレアスキルの事を忘れていたマックスは惨敗後にこのことに気づき、結果に異議を申し立てたが、『自分の言ったことに責任持てない男なんてry』と大地に挑発されたマックスは見事にのってしまい今に至る。
自業自得としか言いようが無かった。
「既にもう散々やらかしたORENYOMEコールでモテないこと確定してるんだよバカヤロウ!!嫌味か、嫌味なのか!?モテる奴の余裕なのか、ええ!?」
苛立ち紛れにここ最近の女子からの対応を事細かに言い出すマックス。
最初は聞き流していた2人だったが、その具体的かつ心を抉る内容に徐々に申し訳なくなっていく。
『…………なんかごめん、悪かったよ』
『……ドンマイ、ガンバ』
「自分で言っておいてなんだが急にしおらしく謝んなよ、余計に辛くなるわ!」
いつもの態度と一転して憐れみと同情を含んだ念話を送ってくる2人に別の意味で瞼が熱くなるマックスだった。
きっと目から零れた塩水は茂みの暑さで出た汗に違いない。
深刻なネガティブモードに陥ったマックスがようやく復帰したのは十数分後だった。
先程とは別の緊張した念話を二人に送る。
「真面目な話、正直あのもやしと戦う事になったら100%負ける自信があるんだがどうする?」
『あー、そうだねえ。ここで介入してくる可能性は高いから、マックスがその場にいたら十中八九標的にされて凹されそうだね』
『……骨は拾う』
神条悠人がもしここで介入してきた場合、魔力ランクBのマックスでは到底Sランクの彼には敵わない。
いくら転生して特典を貰っているとはいえこちらは元一般人、碌な戦闘訓練といったものを積んできていないのだ。
ゆえに相手も同じ条件だった場合に勝敗を分かつのはどちらの魔力が上か、に尽きる。
戦闘向けではないレアスキルに魔力量が負けているマックスでは万が一にも勝つ可能性は皆無と言っても過言じゃない。
『Fateの士郎さんみたいにサーヴァントを召喚してみれば?できるか知らないけど』
我、妙案を得たりといった風に念話を送ってきた大地。
それにマックスはどこか煤けた表情で返答を返した。
「もうとっくにやったことあるさ。……結果は聞かないでも分かるだろう?」
彼のその言葉に大体の事を悟った二人はまた優しい声に戻る。
『まあ士郎さんの投影を模倣したレアスキルを貰っただけで本人と同じようにできるかと言ったら、無理だからねえ。まあ、ドンマイ』
『……頑張れ男の子』
二人の言葉に耳を赤くしたマックスが震え、吠えた。
「だからその気遣いが辛いんだよ!?」
◇ ◇ ◇
場所は変わらずマックスが潜む茂みがある神社内、三人がまた騒いでる最中にそれは既に始まっていた。
ジュエルシードを取り込んだ子犬が犬獣へと変化し、暴れはじめたのだ。
念話で騒いでいたため警戒が疎かになり漸く事が始まっていたことに気づいた三人が慌てはじめていた頃、高町なのはとユーノ、それに相良竜馬は神社の前に辿り着いていた。
「なのは!この先にジュエルシードの反応があるよ!」
サーチの魔法を使いこの先にジュエルシードがあることを確信したユーノは二人に告げる。
その言葉になのははインテリジェントデバイスのレイジングハートを握りしめ上へと続く石段を見上げた。
「分かったよユーノ君。竜馬君はここで待ってて!」
「いや、俺も行くよ。女の子を一人危険な場所に行かせたなんてじいちゃんに知られたら後で滅茶苦茶怒られるから」
「竜馬、昨日話した通りジュエルシードはそれ一つでも危険な物。デバイスの補助があるなのははともかく、何の防御手段も無い竜馬は危ないんだ!」
「でも、だ。もしかしたら俺にも出来ることがあるかもしれない!」
幼馴染の少女と異邦人の少年の言葉に竜馬は食って掛かるかのように反論する。
「竜馬、君は―――」
「ユーノ君も竜馬君もそこまで、早くジュエルシードを封印しなきゃ!」
ユーノはそんな竜馬に対し何かを言おうとするがなのはの言葉に遮られた。
「……そうだね、でも竜馬、君はここで待っているべきだ。それでも来るのかい?」
ユーノの言葉に一切の迷いもなく頷く竜馬。
その様子を見たユーノは根負けする。
「行くさ、やっぱり格好悪いとこは見せたくない!」
「分かった、でもなるべく距離は取って隠れられそうな場所を見つけたらそこにいてね」
「おう!」
「これは原生生物を取り込んでいるのか、気を付けて二人とも!」
「う、うん!」
「で、でけえ……!」
石段を駆け昇った二人と一匹の前に現れたのは犬の形を模した化け物、犬獣だった。
近くには女性が倒れている。
幸いにも犬獣は倒れた女性には見向きもせずに境内の茂みの顔を突っ込んではその逞しい腕を茂みの奥へと叩きこみ何かを引きずり出そうとしているように見えた。
「なのは!そこの女の人は俺が安全そうなところに移動させるからジュエルシードは頼んだ!」
「うん、竜馬君も気を付けてね!」
『グルルルルゥゥゥ…!』
なのは達に気づいた犬獣は唸り声を上げ、新しい獲物に牙をむく。
なのははレイジングハートを起動させようとするが、いざ敵意をむき出しにした犬獣を前に焦ってしまってうまく起動することができない。
もたもたしているうちに犬獣はなのはが何もしてこないのを好機として飛びかかる。
「なのは!?」
女性を鳥居の影へと避難させた竜馬は悲痛な叫びをあげる。
そして犬獣の牙がなのはを捉えんとしたとき、ピンク色の光が境内に満ちた。
◇ ◇ ◇
一方その頃、茂みの中でステンバイしていたマックスはというと―――
『ちょ、なにやってんのマックス!もう終わりに近くなってるよ!?』
「静かにしてろっ、こっちはこっちで大惨事なんだ察しろ!」
『たかが虫が背中に入っただけでパニクッて挙句の果てにセットアップする間もなく犬獣に齧られそうになったのがなにさ!もう時間が無いんだから早く行ってきなよ!』
『……いけマックス、体当たり』
「もう俺帰っていいかなあ!?」
不幸なアクシデントにより茂みの奥でボロボロになっていた。
どうしてこうなってしまったかというと、神社の木からひもなしバンジージャンプを敢行した虫が運悪くマックスの服の中に侵入、虫が落ちていったところを目撃した大地がマックスにそれを指摘、意外にこういったハプニングには弱いマックスがパニックになった所で子犬と飼い主の女性が神社の境内に到着しそのままジュエルシード発動。
二人はジュエルシードの発動に気づきマックスに注意をしたが、彼はそれどころの状態ではなくやっと虫を服からだして安堵をしつつ上を向けば犬獣と目が合って襲われたという経緯にある。
既になのは達が神社についてしまったらしくもう犬獣からの追撃は無いが、先ほどの出来事で服が千切れて人が見れば犯罪臭漂う状態だった。
「服がヤバいんだよ、さっきの犬っころのせいで見せられない感じにされてるんだ!」
『……服が無ければ、バリアジャケットを着ればいいじゃない』
「…………あっ」
『おー確かに、ナイスアイデアオルガ!』
騒ぐ二人の念話を他所にマックスは懐からカード型のデバイスを取り出し魔力を込め、発動キーを唱える。
「B9S-M、セットアップ!」
マックスを彼の魔力光である銀色の光が散りながら包み込んでいく。
彼の服は瞬時に弾けてデバイスに収納されていき代わりに魔力で編まれた戦闘服が着せられていく。
時間にしては僅か数秒の出来事、そこには蒼い戦闘服にガントレットとブーツを身にまとい、手に機械杖を持ったマックスが立っていた。
その様子をデバイスを通し間近で見ていた大地がぼそりと零す。
『いつ見てもマックスの変身シーンは嬉しくないねえ、もっと早く瞬間着脱できないの?』
「やっかましい!俺だって気にしてるわ!!」
一瞬の出来事とは屋外で全裸を披露し着替えるというのは中々応えたマックスは顔を真っ赤にして文句を言う大地に吠え掛かった。
そこにオルガは冷静な声で水を差す。
『……兎に角、これで介入できるレッツゴーマックス』
オルガの声に頷くマックス。
彼はオルガの言葉で頭を切り替えた、その眼には先程の迷いはもう無い。
あるのはただ今目先にあるチャンスのみ。
「……ああ、そうだったな。よし、マックス・シュトランツ出る!」
踏み台になるべく、その後の幸せな未来のためにマックスは果敢に茂みから犬獣のいるであろう場所へ飛び出していった!