勇者は従者を追放したい   作:ちぇんそー娘

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追放モノです。






超高度追放頭脳戦

「アンタをこのパーティから追放する!」

 

 

 耳が痛くなるほどの甲高い叫び声が響き渡り、俺にとってのギロチンの刃が落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔王が現れた、なんて聞いたのは確か10年とちょっと前の話だったか。

 

 御伽噺の勇者に倒される悪役……ではなく、正確には魔獣の中でも特別強力な個体の通称であり、そいつがいるだけで本来はあまり群れない性質の魔獣が強さに従って集団行動を始めるヤベー奴。

 

 だが、人類とてただ滅ぼされるだけではない。古の女神様とやらのお告げに従って各地から才能のある若者を集め『祝福』を授かり、そいつらに魔王を倒してもらおうと考えた。

 そんな訳で今の世の中は色んな国からかつて御伽噺で魔王を倒した『勇者』になる為に魔王を倒すべく祝福を授かった者達が頑張っている訳だが、それはそれ。

 

 

 要は結構危ない世の中。

 昨日あった街が一夜で消えてしまうかもしれないこんな世の中で、一番安全な職業は本末転倒かもしれないが、戦うこと。戦って強くなって身を守る……つまり未来の勇者候補と共に魔王を倒す旅に出ること、という訳は無いかもしれないが、まぁそこはなんだかんだ、男の子なので英雄に憧れて志願した。

 

 ぶっちゃけ腕には自信はない。

 生まれた時から神様に祝福してもらっているやつや、後天的な祝福を貰えた勇者やら、才能のあるやつと比べれば俺は本当に弱い。

 それでも俺なりに頑張ってきた。まぁ努力が足りないと言われればそれまでだが、少なくとも自分ではそこそこ頑張ったと言えるくらいには努力したつもりなのだが……。

 

 

 

「えっと、一応なんでそんなことするか聞いてもいいか?」

 

「はぁ? アンタにそんな権利あると思ってるの?」

 

 

 

 目の前で何故かブチギレている少女はこちらの話に聞く耳も持とうとせず、剣の鞘を指で一定のリズムで叩いていた。

 少女の名前はリスカ。19歳という若さと辺境出身で学もないという欠点をものともせず、祝福を授かり破竹の勢いで次々と魔獣をなます切りにしている期待の『勇者』の一人だ。

 

 やけに詳しく説明できるのはなんてことは無い、単に俺が彼女とは幼い頃からの付き合い……所謂幼馴染という理由だけだ。指で一定のリズムで何かを叩くくせも、彼女が苛立ちを抑えようとしている時の仕草という事も当然知っている。

 

 

 そして、正直言って性格がちょっぴりキツいということも。

 

「まぁ教えてあげるわよ。私優しいから」

 

「うん。リスカが優しいのは知ってるから教えてくれ。ほら、昔も俺が怪我した時とか手当してくれたしホント優しいよなお前」

 

「……じゃあ仕方ないわね。私は優しいから教えてあげるわ! もうめちゃくちゃ教えてあげるわ!」

 

 あと1人にするのが心配なくらいチョロい。

 何はともあれ、突然俺の事を追放とか言い出した理由を話してくれるようで、安物の椅子にふんぞり返りながら鞘を叩いてた指でおもむろに綺麗な赤髪を弄り始めた。

 

「アンタ、はっきり言って役立たずじゃない。だからクビよクビ。私達は魔王を倒す為に頑張ってるのよ? アンタみたいな弱いのがいると邪魔なのよ」

 

「そんな……」

 

 確かに俺はリスカと比べれば弱い。

 祝福を授かってる事を踏まえても、何をしたってリスカに勝てた試しはない。それは幼い頃からの付き合いでよくわかっている。

 でも、それでも俺は俺なりに頑張って来たというのに……。

 

「もうちょっと、具体的にどこら辺が役に立たないか教えてくれ」

 

「は? アンタもしかしてマゾヒストなの?」

 

「断じて違う。ただ、ダメなところは直したいと思うのは当然だろ?」

 

「別にもう追放は決定してるんだから遅いわよ?」

 

「そこをなんとか、強くて優しいリスカのご教示を願いたい」

 

「……しっかたないわね! じゃあ教えてあげるわ!」

 

 ホント俺なしでこれから先誰にも騙されずに生きていけるのか心配になるチョロさを発揮したリスカは鼻歌を歌いながら立ち上がり、荷物の中から分厚い紙の束を取り出した。確か、「いつか私の英雄譚が作られるときのために輝かしい記録を付けておきたい」とか言って買った紙の束だっただろう。

 

 

「じゃあアンタの欠点をあげてくわね。まず弱い。ホントどうしようもなく弱い。一応役割的には斥候だし、偵察は問題なく行えてるけど本当に弱い。見つかったら逃げ足も遅いから毎回人質にされたり殺されかけるし、弓矢使ってるけどクソみたいな狙いのせいでかすりもしない。そして本当に弱い。神官で戒律として刃物の類の装備が出来ないホシより弱いとかもう居てもらわない方がいい気がするのよね。ホシだって魔力に限りがあるし、勝手に怪我されるといつか本当に死ぬかもしれないし。あと、低級の魔獣にタイマンで勝てないくらい弱いのをどうにかして欲しいわね。ここから先になると魔族の数も質も上がるし、魔族に満たない魔獣程度なら確実に1人で倒せるくらいが戦闘の最低スタートラインよ。そしてこれが一番でかいんだけど、斥候ぶっちゃけ要らないのよね。私、祝福で視力強化されてるしホシが魂感知で敵の居場所知れるし、アンタ割と鈍いからギロンの直感の方が頼りになる時すらあるし。そもそも弱いアンタに斥候任せたら野良魔獣に襲われて殺される可能性あるじゃない? 危険すぎるし、何よりそれで怪我されて回復させるのもタダじゃないし、回復節約したらお荷物背負って動くことになるし、そんなんでやってけるほど甘い戦いじゃないと思うのよこの先。あとは……」

 

 

「あ、ハイ。すいませんちょっとストップ」

 

「ん、何よ。まだ1ページも読み終わってないのに。あと16ページあるわよ」

 

 マジかよ。

 この文量をあと16ページは俺のメンタルが持つ気がしない。

 はっきり言って楽観視していました。リスカが性格がキツイのも、キレやすいのも知っていたのでいつもの癇癪かと思っていたが、まさか俺への文句だけで16ページみっちりと、文を書くのが嫌いでだいたい日記も「魔物を倒しました」か「強めの魔族を倒しました」しか書かないこんなものを参考にしても英雄譚なんて生まれないだろという日記しか書かないリスカが、こんなに文字を書いちゃうなんて感動しちゃうレベルだよ。

 

 まぁ実際はメンタルダメージの方で泣きそうだけれど。

 全部事実なだけあって余計辛い。確かに俺は斥候のくせに探知能力がこのパーティで最低だし、斥候のくせに1人で動かしたら死ぬかもしれないからと基本的に単独行動させて貰えないし、後衛でサポート担当の神官のホシに傷一つ付けられないくらい体術も弱いが、事実だからって言っていいことと悪いことがあるだろう。ちなみにこれは言っていいことだ。

 

「いや、もういいよ……これ以上聞いたら追放される前に死ぬから」

 

「じゃあやめるけど……とりあえずちょっと気がついたこと言っていい?」

 

「いいけど、俺が傷つく可能性のある言葉は出来れば言わないで欲しい」

 

「じゃあ言うけど、なんで私達今までアンタを追放しなかったんだろう」

 

「アーッ! やっぱ言うな! 言っちゃダメな事実だよそれは!」

 

 

 冷静に考えたらあまりにも当然の帰結だった。

 俺の存在そのものがどう考えてもこのパーティのお荷物、足でまとい、汚点だと言うのになんで追放されないと思えていたのだろうか? 

 リスカも性格はキツイけどなんだかんだ良い奴だし、ホシも俺がミスしてもフォローしてくれるし、ギロンも俺が失敗したところは鍛錬にいつも付き合ってくれたし、スーイも魔術の使い方とか何度聞いても嫌がらず丁寧に教えてくれたから甘えていたが、冷静に考えれば今まで追放されなかったのが奇跡なくらい俺はダメなやつだった。

 

 もうダメだ。死にたい。

 こんな人材がいては本当にいつかリスカが英雄譚で語られる英雄になった時に汚点となってしまう。彼女の輝かしい英雄譚にこんなクソザコナメクジはいらないだろう。

 

 

「ごめんなリスカ……本当に今まで迷惑をかけた」

 

「分かればいいのよ分かれば。まぁ、自分の弱さがわかったならさっさと荷物を纏めて……」

 

「わかっている。荷物を纏めて今すぐにでも故郷に帰るよ」

 

 

 いつまでも長々と皆に迷惑をかけるわけにはいかない。

 下手すれば俺が皆に与える精神的ストレスで本調子になれず、このパーティから死人を出すことになってしまう。

 

「え、いや、ちょっと待って」

 

「あ、そうだ。リスカ、なんか両親に伝えたいこととかあるか? おばさん達、お前が本当に勇者なんてやれてるのかきっと心配していると思うぞ?」

 

「待ちなさいよ! なんでそんなすぐに出ていくのよ!」

 

 突然何故か引き止めモードに入ってきたリスカは、顔を真っ赤にしながら俺の関節を的確に固めて動きを封じてきやがった。

 残念ながら武術の心得でも純粋なパワーでも勝てない俺はがっちり固められ、動くことが出来ない。

 

「なんでって、追放するとか言い出したのはお前だろ?」

 

「そうだけど……そうだけど! もうちょっと粘りなさいよ! アンタの魔王討伐への意気込みはそんなもんなの!?」

 

 そう言われると思い留まりそうになる。

 確かに、俺は故郷を魔族によって滅ぼされ、同じような被害者を出さないためにも、あともうちょっと色々理由があるがとにかく魔族による被害を食い止めるために志願した。

 しかし、俺の目的はあくまで自分で魔王を倒すことではなく魔族から他の人々を守ることだ。それが最もできるのは俺なんかではなくリスカなのだから、足を引っ張る俺は俺に出来ることをするべき。とりあえずまずはこのパーティのお荷物にならないように抜けるのが一番だろう。

 

「世話になったなリスカ。お前なら絶対魔王を倒せる。応援しているぞ」

 

「え、えへへ……まぁ私強いから当然だけど。……じゃなくて! 諦めんなよそんな簡単に! あっさり追放されていいの!?」

 

「いいよ」

 

「よくないでしょ! 追放よ!? 屈辱でしょ!? もっとお得意のねちっこさを見せなさいよ〜!」

 

 さっさと荷物を纏めたいのだが、リスカにがっちり関節を決められてしまってもはや身動きすることすら出来なくなってしまっていた。

 昔から感情の振れ幅が大きいやつだとは思っていたが、今日は一段と訳が分からない。俺を追放したいのか、追放したくないのかハッキリして欲しい。まぁリスカがなんと言おうと、彼女の足を引っ張らないためにも俺はパーティを出ていくつもりではあるが。

 

 

 

 

「お待ちなさいリスカ。神が言ってるわ。彼を追放してはダメよ」

 

 

 

 

 寝技に持ち込まれいよいよ気道を絞められそうになる直前、鍵をかけていたはずのリスカの個室の扉を何食わぬ顔で開けて乱入してきたのは、我らがパーティの補助の要にして、索敵と回復を担当する、俺の完全上位互換である神官のホシであった。

 

「もう一度言うけれど、彼を追放してはダメよ」

 

「どちらかと言うとリスカは追放を止めようとしてるんだよな。追放言い出したのもリスカだけど」

 

 もう俺は自分が追放されそうになってるのか引き止められているのかいまいち立場が分からなくなってきてる。

 

「何よ! どう考えたってコイツはパーティの足を引っ張ってるでしょ? 追放よ追放!」

 

「あ、じゃあ出て行くんで離してください」

 

「簡単に諦めんじゃないわよ!」

 

 

 錯乱してんなコイツ。

 

 

「リスカ。神が言ってるわ。パーティに必要なのは戦力だけじゃないわ。ぶっちゃけちゃうと彼が居なくなると私達のご飯の彩りが悲惨なことになるわよ」

 

「はぁ? そんなもん私が作ればいいじゃない」

 

「…………」

 

「ちょっと、なんで黙ってんのよ。私の目を見なさいよ、目を」

 

 

 リスカは大抵の事は器用にこなすが、掃除洗濯料理等の日常生活で必要な事は壊滅的、特に料理は味覚がおかしいのか知らないがおおよそ包丁というものを持ったことがないかのような潰された物体に、最悪に近い味付けを行い、味覚がまともな俺達では食べることすら難しい物質を生成しやがる。

 

「私は戒律で刃物が持てないし、ギロンもスーイも料理なんて無理よ。私の日々の癒しは彼が作る料理だけなんだから、彼が居なくなったら死ぬわね」

 

「料理くらいで何言ってんのよ。食えればみんな一緒でしょ?」

 

「うっわ。同じ女とは思えない発言ですよ。アレ勇者っていうか蛮族じゃないんですか?」

 

「あ? 叩き斬るぞ顔面アンデッドが」

 

 仲間に対するモノとは思えない罵倒が飛び出したりもしたが、ホシの包帯で覆われていて見えない目元は何故か少しだけ笑っているようにも見えた。

 なんだろう。ホシって実は罵倒で喜ぶタイプの人間なのだろうか? 

 

「とにかく、リスカがなんと言おうと彼は追放なんてさせませんよ。彼が追放されたら、私が死にます。そして神が言ってるわ。私が死んだらもうこのパーティは私に依存しているのでおしまいです」

 

「あ? なんなら私がここで殺してやろうか? アンタがいなくても私達はやってけるって教えてやるよ」

 

 まずい。非常にまずい。リスカのやつ遂に剣を抜きやがった。

 リスカは神より祝福を授かった『勇者』であり、彼女が持つ『祝福』はとにかくやばい。具体的に言うと、剣を振るっただけでこの宿を使い物にならなくしてしまえるくらいにやばい。

 

「ふーん、やれるもんならやってみてくださいよ。剣なんて野蛮な武器は神への祈り(メイスによる殴打)に通じないことを教えてあげますから」

 

 そしてホシもメイスを構えて臨戦態勢に入る。

 やばいやばい。この2人が本気で殴り合えば、確実にこの宿は消し飛ぶ。勇者パーティどころかどっちかって言うと魔族みてぇなことをやっちまうことになる。

 

 そんなことを考えていると、ホシがこちらに目線を向け、ウィンクをする。それと同時に脳に直接文字が書き込まれるかのような不快感が走り、ホシの声が頭の内側から響いてくる。

 

 

『この人頭悪いので怒るとチョロくなります。なのでいい感じに誘導してね☆』

 

 

 コイツ本当に神に仕えてる身分の人間なのかなぁ、と思ってしまう口の悪さと悪辣さを持つ我らが神官様は、神から祝福を授かった超人を俺程度で誘導してみせろという無茶振りをお渡しになりやがった。

 

 まぁやらないと下手すれば巻き込まれて死ぬのでやるけれど。

 

 

「えっと、リスカさーん……?」

 

「何? ちょっと黙ってて。あの脳ミソアンデッド女を殺すから」

 

 

 ちょっと睨まれただけで喉が引き攣る。

 本当に、剣を抜いたリスカは同い年の女の子とは思えないくらい恐ろしくて、俺なんかでもその強さがわかる。

 でもここで説得しないと世界の前に罪の無い宿屋が滅ぼされることになる。これくらい出来なければ、世界を救うなんて夢のまた夢だ。

 

「リスカ」

 

「だから何? アンタもそこ突っ立ってんならぶった斬るわよ」

 

「リスカは凄いよなぁ」

 

「……は? 急に何? 気持ち悪いんだけど」

 

「だってまだ19歳なのに剣技でも認められ、最も魔王の首に近い勇者だなんて言われてるし、それでも毎日鍛錬を怠らないし、本当にすごいなって」

 

「突然何! 気持ち悪いんだけど!?」

 

「小さい時からお前を見てるけど、どんな時だってずっと努力し続けてきたお前を見てると、俺も負けてられないなって、なにかしなくちゃなって思うんだよ」

 

「……そ、そう? 私ってそんなにすごい?」

 

「ああ。お前が努力してる姿を見ると、どうしてもお前を手伝いたくなっちまう。そういう魅力みたいなのがお前にはあると思うんだ。パーティの他のみんなもそういうところに惹かれたんだと思う。そうだよな、ホシ?」

 

「その通りだと神も言っています」

 

「──────そ、そんなこと言われちゃっても別にな〜? 別に? なんとも思ってないけど? でもちょうど剣抜いちゃったし、外で鍛錬してこようかな〜! あ、アンタは私が帰ってきた時のために美味しい料理でも作ってなさい! それじゃ!」

 

 

 鼻歌を歌いながら、リスカは部屋を出てどこかへと去っていった。

 

 …………うん。

 その、なんだ。

 

 

「いやぁ、見事な嘘ですねぇ。さすが我がパーティの弁論担当」

 

「魔術も殆ど扱えない学のない俺が弁論担当ならとっくの昔にこのパーティは全滅してるだろ」

 

 別に嘘でも無いし、俺がこうして魔王討伐の旅に立候補したのだって、アイツに負けてられないという面が大きいのだが、それはそれとしてだ。

 

 

 

「…………アイツちょろ過ぎない?」

 

「今更ですか? リスカは貴方がいないと盗賊に煽てられて持ち物全てを差し出しかねない超ド級*1のクソバカクソアホクソちょろ女ですよ? 分かります? 貴方がいないと私達は主戦力があのザマになって終わりなんです」

 

 

 

 リスカがチョロいのは知ってたけどここまでだったかぁ……。傍から見てても別に大丈夫そうだったけど、ここまでだと確かに心配だ。ちゃんと俺が傍で見ていないと。

 ……まぁ、この先の戦いでいつか命を落とすだろうけど、せめてそれまであの幼なじみは俺が見てないとダメだ。そう思わせるには十分過ぎるちょろさだった。

 

「ありがとなホシ。あと少しで俺は、()()()()()目的も忘れてアイツの口車に乗せられてこのパーティから抜けるところだったよ」

 

「礼には及びませんよ。私は純粋に自分の胃しか心配してないので。……ところで、もう一つの目的って?」

 

「ああ、それは……」

 

 

 本当に小さい時、もうリスカは覚えてないだろうが約束したんだ。

 もしもリスカが大変な時があったら、絶対に俺が守るって。

 

 当時からリスカの方が強かったし、今では天と地の差が開いてしまったが、それでもあのチョロさのリスカを詐欺師から守ることくらいなら俺でも出来るだろう。

 

 

 

 

「まぁ、秘密だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が乗せられたことに気がついたのは、ちょっと街の外を走り回って軽く剣を振り回して汗だくになったので体を軽く洗ってからアイツの作った美味しいご飯を食べて、夜になって寝る前にこうして日記に向き合ってからだ。

 

「…………ばーか」

 

 誰に向ける訳でもない、自虐の言葉を一つまみ。

 私は昔からそうなのだ。誰かに認められるのが大好きな承認欲求のバケモノ。

 

 

 特に()()()()()()()()()()思考も忘れてしまう。

 アイツに褒められると、()()()()()()()で頭がおかしくなってしまいそうになるんだ。

 

 

 アイツ、アイツだ。

 弱いくせにいつも私に挑んで、私のことを褒め称えて、私の後ろを付いてくる。

 なんであんなに弱いのに、なんであんなに脆いのに、なんであんなに儚いのに。

 

 

 

「なんで、なんで、なんで……?」

 

 

 

 口に出しても意味は決して分からない。

『訓練をしました』だけ綴られた()()()()()を放り投げて、私は本物の日記を開く。

 そこに綴るのは今日のアイツの表情、行動、言葉。どれもが愛おしく、憎らしいその全てを学の無い頭と貧相な語彙で必死に綴る。

 

 アイツは弱い。きっとすぐに死んでしまう。だからその姿を忘れないように、こうして文字に綴るのだ。

 

 

「……嫌だ」

 

 

 死んで欲しくない。じゃあアイツを追放しよう。

 離れたくない。じゃあアイツにそばにいてもらおう。

 

 死んで欲しくない。どこかに行って。

 離れたくない。ずっと傍にいて。

 死んで欲しくない。今すぐ失せろ。

 離れたくない。どこにも行かないで。

 

 

 矛盾ばかりのうるさい思考。

 こんなに醜い私が、世界を救う為に神から祝福を頂いた勇者だなんて笑ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 だって私は世界を救おうだなんてこれっぽっちも思っていないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

*1
語源は超ドラゴン級。存在規模がとてつもなく大きいドラゴンのように物量や状態が大きいことを指す。分類学が進んでいなかった昔は巨大な種のみがドラゴンと呼ばれ、小型の種はオオトカゲと呼ばれていた名残りでもある。




今回の登場人物


・リスカ
勇者。赤髪。会話が出来ない。

・ホシ
神官。金髪と大きな藍色の瞳が特徴。会話が出来ない。

・従者
リスカの幼なじみ。会話が出来る。

好き

  • リスカ
  • ホシ
  • スーイ
  • ギロン
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