勇者は従者を追放したい   作:ちぇんそー娘

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デート、あと追放

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ追放ね」

 

「急過ぎない?」

 

 目が覚めて最初にそんな事言われたら流石に俺だって驚くよ。でもリスカは間違いなく、今までにないくらい切れている。既に抜刀しているし何か下手なことを言えばこちらの首が飛ぶ。

 でも、せめてもうちょっと回復するまでは待って欲しい。まだ体が本調子じゃないんだよ。何とか頭おかしくなる数の魔獣から逃げ切って死にかけて目が覚めたら追放はちょっとテンポがよすぎる。

 

「えっと、一応理由を聞いても……」

 

「ホシの裸を見たから」

 

 冤罪!? 

 なんで俺が意識不明の間に俺がホシの裸を見た事になってるんだよ!? 

 

「さすがに仲間の裸をエッチな目で見てる人と同じパーティは妾もちょっと……追放に賛成ですわね」

 

「あ、ギロン久しぶり。あと冤罪だ信じてくれ」

 

「お久しぶりですわね。これお土産ですわ。上手く使ってくださいまし」

 

 そうして手渡されたのは綺麗な装飾の施された短剣だった。武器は使用感だけで選んでいる俺でも、これが相当な高級品であるということはわかる。多分ギロンが実家から持ってきたものだろう。

 

「ありがとな、ちょっと使うのが勿体ないくらいだ」

 

「? いえ、この場で是非使ってください。ほら、首は妾が落としますので腹をこう、ザクっと」

 

「お土産に自害用の短剣とはやっぱギロンの国は俺達とは文化が違うな」

 

 それはパーティどころかこの世から追放されちゃうなぁ。まさか起きて数分で久しぶりにあった仲間から自害を強要されるとは夢にも思わなかった、というかもしかしてこれ夢だったりしないかな? 

 

「……起きましたか」

 

「ホシ! なんか俺、お前の裸見たとか言う冤罪かけられてるんだけど助けて!」

 

「…………」

 

 おかしい。俺はホシの裸なんて見たことあるわけがないのに、何故かホシは黙ったまま、その綺麗な藍色の瞳でじーっと俺を見つめるだけで何も言ってはくれない。なんか、そこはかとなく不機嫌な気もするし。

 

「私の裸、本当に見た事ありませんか?」

 

「いや、ないよ……さすがにそんな、勝手に女の子の裸を見るのは、ダメだろ」

 

「…………」

 

 またホシはじーっと、大きな藍色の瞳で俺を見つめながら、ぷくーっと徐々に頬を膨らませていた。

 あれ、そういえばホシの瞳って、以前もどこかで見たような気が……。

 

「えーっと……ホシ?」

 

「追放!」

 

 こうして俺の追放が決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで追放決定したの? やっぱみんな面白いね」

 

「笑い事じゃないんだよ……前は庇ってくれたホシが今回はかなり怒ってるしマジでどうしようも無いかもしれない」

 

 結局その場を流れるように追い出されてしまった俺は、比較的怒っていなかったスーイの部屋に身を寄せることになってしまった。

 

「それにしてもホシを怒らせるなんて凄いよ。あの子が怒ってるところ、私ですら数回しか見た事ないよ」

 

「そうか? ホシって結構しょっちゅうリスカ相手に怒ってる気がするが」

 

「じゃれ合いじゃなくて本気で怒ってるってことだよ。まぁ、私も君がホシの裸を見たって件については怒ってるんだけどね?」

 

 ほぼ間違いなく冤罪のはずなのに、ホシが否定をしてくれなかったので現在俺はホシの裸をガン見したドスケベ野郎として仲間から扱われるのを甘んじて受け入れるしかないというわけだ。納得いかないが、ホシが言うのだから俺が何かをやったのは間違いないのだろう。でも納得いかない。俺だって一応年頃の男の子なんだから、女の子4人から変態扱いされながら追放されるのは心がとても苦しい。

 

「ホシは3日くらい置いておけば多分機嫌を治してくれるさ。リスカもベルティオとの戦いの後遺症があるからしばらくはここに滞在するだろうし、それまで根気強く粘ることだね。もちろん、諦めたりしないだろう?」

 

「そうだな。とりあえずホシの機嫌が治るのを待つかぁ……」

 

「そうだねぇ、私以外の3人はかなりご機嫌ナナメだし、ただ待つのも楽じゃないだろう」

 

 スーイはニヤニヤと、ろくなことを考えてなさそうな笑顔をこちらに向ける。彼女の笑顔はその端正な顔立ちに似合っていないというか、獰猛な野獣の威嚇のような()()が籠っているように、時折恐ろしいモノに感じてしまう。

 

 

「私とデート、しない?」

 

「…………デート?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら見て! あそこの建物、昨日の段階では魔獣にかなりぶち壊されてボロボロだったのにもう体裁だけは元に戻ってる! いやぁ、素晴らしい建築技術だと思わないかい? 魔術だけではこうも上手くいかない。この街の建物は独特な形状のものが多いし、おそらくは代々建築技術に関しても継承しているんだろう。すごいなぁ」

 

 デートと言われ、いきなり街に連れ出されたと思ったら俺は何故かスーイに延々と復興作業を見せつけられている。まぁそりゃつい先日魔王軍による攻撃を受けたのだからデートなんてできる場所は今この街にはないだろうけど、こんなに予想外の方向だとは。

 

「見てるだけってのもアレだし、手伝ったりしないのか?」

 

「ダメダメ。私が手伝っては意味が無い。この街の問題は可能な限りこの街の人達で解決しなければ、それは私達が彼等から成長の機会を奪ってしまうことになるからね」

 

「そういうものなの、か?」

 

「そういうものなんだよ」

 

 正直俺としては手伝ってあげたいところだが、まだ本調子じゃないし下手に手伝っても邪魔になってしまうかもしれないのでやめておいた方が良いと判断した。

 

 それにしても、スーイは本当に何者なのだろうか? 

 実の所仲間であるはずなのに俺は彼女のことをほとんど知らない。リスカは幼なじみで、ギロンは一人で旅をしてた時に知り合った相手で、ホシはリスカが見つけてきた優秀な神官と聞いていたが、スーイについては何も分からない。

 ある日、なんの前触れもなくリスカが今日からパーティに入れると言ってきて素性は不明、過去も経歴も語ろうとしない、基本的に単独行動ばかりであまり一緒にいることもない。だけど実力は申し分もないし、本当に謎ばかりのやつだ。

 

 

「くふふ、なるほどなるほど……。これは興味深い。よし、覚えたぞ。もう忘れない」

 

 

 本当によくわからないやつだけど、唯一分かっているのは多分常に楽しい方向に乗っかって生きているということだけだ。基本的に、スーイはいつも楽しそうにしている。彼女が不機嫌そうにしているところや、本気で怒っているところは正直想像がつかない。あと申し訳ないけどちょっと笑顔が気持ち悪い。

 

 

 そんなことを考えながら、改めて街並みの方に目を向ける。

 数日経ったとは言え、魔王軍が残した爪痕は非常に大きく街は至る所が破壊されている。しかも、この被害を与えたのは全部魔王軍が調教した魔獣であり、もしもリスカやホシにスーイが今回攻め込んできた魔王軍幹部、ベルティオの本隊を相手してくれていなければ被害はもっと大きくなっていただろう。

 

 

 ……もっと俺に力があれば、と思わずにはいられない。彼女達がそんな相手と戦っている中で、俺は魔獣から逃げるだけで精一杯だったなんて。

 

 

「もしかして、今自分が不甲斐ないとか思ってる?」

 

 

 突然スーイが心を読んだかのような言葉を投げかけてきて驚いてしまう。

 でも、そう思うのは当然のことだろう。自分がリスカと比べたらずっと弱いことは知っている。それでも、何もしないで見ているだけよりは何かをした方がいいと思ったからこうして今でも戦い続けているが……それでも自分の弱さというのは嫌になってくるものだ。

 

「全く、君は本当に強欲な人間だ」

 

「え? 強欲?」

 

「そうとも。人間という矮小な存在が成せる事なんて、せいぜいが自分の身を守ることだけだ。だと言うのに、自分の身を守る強さもないのに他者の事まで気にかけるその在り方を強欲と言わずなんと言う?」

 

 スーイの言うことは全くその通りであるかもしれないが、だからと言ってそう簡単に割り切れるものでもないだろう。

 有り得ないとわかっていても、自分にリスカのような強さがあればと思わずにはいられない。どれだけ努力しても追いつけないとわかっていても、努力をやめる理由にはならない。やめなければ、何かを掴めるかもしれないから。

 

「……うん。強欲だな。でもそれでいいよ。人間、ちょっと欲張りくらいな方がきっと生きていて楽しい。幸福なんて、欲張るくらいがちょうどいいんだ」

 

「奇遇だね、私も人は欲深い方が好きだ。だってね……ん、なんで私の服を引っ張る?」

 

「なんだ? スーイも俺にセクハラの冤罪を押し付ける気か?」

 

「いや実際引っ張られて……いやこれ後ろからか。おっと、どうしたんだいお嬢ちゃん?」

 

 後ろを振り向くと、小さい女の子がスーイのローブを掴んで引っ張っていた。

 彼女の反応から見るに多分知らない相手だろう。女の子はスーイの顔をじっと見つめると、小さな口を僅かに動かしてこう呟いた。

 

 

「……お母さん?」

 

「まだ母性に目覚めた覚えはないんだけどね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだこれ。全然放してくれない。お嬢ちゃん、私はまだママになりたくないんだよ。子育てとかできる気がしないからさ」

 

「…………」

 

 女の子はその見た目に似合わぬパワフルさでスーイのローブを掴んで全く放そうとしなかった。さすがにここでスーイにローブを脱げと言うとなんだか飛んできたギロンに自害を強要されそうだし、そもそもこんな訳アリの女の子を放っておくことも出来ない。

 

「大方魔獣騒ぎで母親とはぐれてしまった子だろうね。家も運悪く壊されてしまったとかだろう。可哀想だが、私達にどうこうできる問題でもないし、ローブ1枚くらい捨ててしまおう」

 

「いや待てって。さすがにそれは人の心がないぞ」

 

「そんなもの私にあると思う?」

 

「人の心は分からないけど、この子を見捨てるほど酷いやつじゃないとは信じてるぞ」

 

「信じられちゃあその期待を裏切ることは出来ないなぁ」

 

 しかしどうしたものか。さすがに俺達二人で知らない女の子の親を探すのは骨が折れるというか、ほとんど無理だろう。女の子はずっと下を向いたまま何も答えてくれないし、せめて彼女の親の顔か名前が分かれば話は違うのだが……。

 

 

 

「お、相棒! もう元気になったのか!」

 

 

 

 と、そこに現れたのは魔獣騒ぎの時に俺を助けてくれた強面の大槌使いの相棒だ。なぜ俺達が互いを相棒呼びしているのかは俺自身全くよく分からないが、とにかく彼は相棒だ。

 

「相棒、そっちも元気そうでよかった。怪我は大丈夫か?」

 

「おう。もうこうして元気に歩き回れるくらいにはな。……ところで、そっちのフードの嬢ちゃんは? 相棒、あの神官の嬢ちゃんといいまさか意外とモテるのか?」

 

「生憎生まれてこの方女の子と浮ついた話はないから安心しろ」

 

「まぁ相棒程のやつなら女に困ることなんて有り得ねぇよ! ……っと、そっちの女の子は、リーンちゃんじゃねぇか。相棒、知り合いなのか?」

 

 なんという幸運だろう。どうやら相棒はこの謎の女の子改めてリーンちゃんの事を知っているようだ。この街の数少ない知り合いがこれとは、改めて俺は相当出会いというものに恵まれていると実感する。

 

「相棒、この子について詳しく知ってるのか?」

 

「いや、近所に住んでいる子って事くらいしか知らねぇが……まぁ事情は察した。その子の親を探せばいいんだろう? 仲間にも伝えとくから吉報を待っててくれ!」

 

 顔は怖いが、相棒は本当に良い奴だ。魔獣騒ぎの時も彼がいなければ俺は確実死んでいたし、後で何かお礼の品とか用意しておこう。

 

「……いや、凄いな君。さすがに動かず数秒で事態を好転させるとか、人徳溢れすぎじゃないか?」

 

「人徳と言うか、俺の周りには昔から凄いやつが1人はいるもんなんだよ何故か。とにかく俺達もこの子の親を探してみよう。名前は、リーンちゃんだよな?」

 

 女の子はスーイの後ろに隠れながら小さく頷いた。どうやら本当にリーンちゃんで良いようだ。

 

「なんとなく、これならすぐに見つかりそうな気がするな」

 

「確かに。この調子でいけば10分後には町中の人間が君に協力しててもおかしくないね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く見つからなかったな……」

 

「そうだねぇ……」

 

 既に時刻は夕暮れになってしまっているが、まともな情報は一つもなかった。相棒の方も芳しい情報は得られなかったようで、最初の良い流れはなんだったのかと言いたくなるほどに何も得られなかった。

 

「あれ、そういやリーンちゃんは?」

 

「さすがに歩き疲れたと思ってね。ローブごと私の部屋に置いてきた」

 

 今日は一日ずっとスーイと一緒に歩いていた気がするが、一体いつ部屋に戻ってなんていたのだろうか。しかもローブは予備なのか知らないがちゃんと着ているし。

 

「……さすがに気がついているだろう?」

 

「何にだ?」

 

「今回の魔獣騒ぎ、死者の他に大量の行方不明者が出ている。……魔王軍の者の異能、『人を魔獣に変える』モノがあったそうだよ」

 

 既にそのことはホシから聞いていた。俺が魔獣を何体か殺している事を知ってか、ホシはぼかして伝えてくれたがさすがにそこまで察しが悪い訳ではない。結界も門も破られた形跡はないのに魔獣が街中に現れるとしたら、内側から何らかの要因で発生したと考えるのが普通だろう。

 

「……正直言うと、最初から気が付いてたよ。多分、あの子の親は死んだか魔獣になったかでもういない」

 

「じゃあなんで今日一日無駄な時間を? 君だってまだ目覚めたばかりで疲れているだろうに」

 

 そりゃ無駄だってことはわかっていたけれど、それとこれとは話が別だ。

 

 目の前で悲しそうにしている人がいて、俺に出来ることがあるならやってみる。たとえそれが俺の力だけでは難しいかもしれなくても、とにかくぶつかってみる。

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

「諦めるのは、それからでも遅くないだろう?」

 

「……いいや、それでは遅いだろう。でも悪くない答えだ。何事にもぶつかってみる、か。うん頑張れよ」

 

「あぁ。もうちょっと俺は探してみるけど、スーイは?」

 

「先に帰らせてもらうよ。せいぜい頑張りたまえ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気分が良い

 あぁ、ああ! 気分が良い! 今日は一日の殆どを彼の隣で過ごすことが出来た。改めて見れば、昨日与えた『試練』のおかげか彼はまた成長していたし、彼の努力の結果は目に見える形でこの街に根付いていた。

 

「ぶつかってみる、ぶつかってみる! そう、そうとも! もっとぶつかれ! 肉体が砕ける限界までぶつかり、砕けてもぶつかり、その先にこそ進化はある!」

 

 上機嫌に声を上げながら、スーイは自らの部屋の扉を蹴破った。

 上質なベッドの上で寝ていた女の子、リーンはその突然の轟音に肩を震わせながら飛び起きた。

 

「ああごめん、驚かせたかな? でも目を覚ましてくれたならちょうど良かった。聞きたいことがあったからね」

 

「聞きたいこ……ッ!?」

 

 リーンが言葉を発し終えるよりも早く、その肉体が壁に叩きつけられる。悲鳴をあげようにも首を強く押し付けられ声を出す事どころか呼吸すらままならない。

 

 

「うん。聞きたいこと。なんで私達に()()()()()()()。教えてくれる?」

 

 

 魔術師は三日月のような笑みで、瞳の奥に笑顔とは正反対のモノを讃えながら、女の子の首を掴む手にさらに力を加えた。

 

 

 

 








・リスカ
激おこ。身長はだいたい170cm。引き締まった体。背の成長は13歳くらいで止まった。

・ホシ
激おこぷくーっと丸。身長はだいたい150cm(可変)。厚手の神官服を脱ぐと大人の女性な雰囲気(可変)。

・スーイ・コメーテスト
ちょっと怒。身長はだいたい165cm。非常にスレンダー。ホシより出っ張りが薄い。

・ギロン
激おこぷんぷん丸。身長は193cm。デカい。やばい。

・従者くん
何が起きたかよくわかっていない。身長はだいたい180ちょっと。一人で旅に出てから急に身長が伸びた。



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